ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた 作:
学校が終わりこころたちハロー、ハッピーワールドはサークルでバンド練習の日。
スタジオ練習だからその間は何人かの黒服を置いて、私の黒服業務は終了しあとは屋敷に帰って書類仕事だけだ。
とは言え私にも休憩というものは必要で、やってきました羽沢珈琲店。
今日みたいにちょっと時間が空いた時にはちょくちょく来ている。すっかり常連になっちゃった。
何せここにくればかわいい女の子がいるんだよ? おっさんみたいなこと言うけど店員も、お客さんも皆かわいくて本当癒される。
勿論、ケーキもコーヒーもおいしいしね。
私が来る時間はちょうどお客さんの少ない時間帯なのか、店員さんとお喋りできちゃうんですよ。
つぐみちゃんとかイヴちゃんとかね。
新作スイーツの試作出してくれて感想求められたりもするんだ。学生も多いけど私くらいの年代の女性の感想も聞きたいって。
味もあるけどついでとばかりに値段設定とか新作による話題性と対費用効果とか色々口出しちゃったけど有り難がられているなら嬉しい限り。
今日はイヴちゃんがシフトの日だったみたいだ。
イヴちゃんとは話が合うんだよね。この前迷惑じゃなければって言われて連絡先交換しちゃった。えへ。
つぐみちゃんもいるけど今日はバンドのメンバーと打ち合わせがあるからシフトはしてないようだ。
でもまだメンバーは揃ってないようで、つぐみちゃんと桃色の髪の子しかいない。
あの子見るとすごいゆるキャラを連想しちゃうんだよね。それに時折あの子から熱っぽい視線感じるんだよね。
ただ目が合うとすぐ逸らされちゃうんだけどね。
分かるよ、この顔めっちゃ綺麗でしょ。前世の価値観から見ても美人と自信を持って言える。
つぐみちゃんとは話したことあるけどあの子とは話したことないんだよね。
なんか悪戯心が湧き出てきた。向こうもまだ時間あるだろうし話掛けてみよう。
こんにちはー。
少しお話しませんか。
OK? じゃあお隣失礼しますね。
断られなくて一安心だよ。
それで、名前を聞かせてもらっていいかな?
へぇ、ひまりちゃんって言うんだ。いい名前だね。
寄り添うようにして手を取ってあげれば顔を真っ赤にしてかわいい。
比べる訳ではないけどこころはこういう反応しないからちょっと新鮮。
しかし失礼な話だけどこの子少しチョロくない……?
将来ホストとか悪い男に引っかからないようにね?
なんだか楽しくなってきたけどあまりからかうのも可哀想だからこの辺にしとこうか。
そう思って覗き込むように近付けてた顔を離す。
あっ、って名残惜しそうな声が聞こえてくる。テンパってたけどやっぱ満更じゃなかったんだね。
とか思ってたら今度はどこか冷たい視線を感じる。
振り返ると赤メッシュの入った黒髪の女の子が。
その後ろには巴ちゃんともう一人女の子がいる。
もしかして今の見てた? ならその視線も納得です。
でも私怪しい奴じゃないの。ちょっとしたお茶目なんです。
なんて弁解しようとする前につぐみちゃんがフォローしてくれた。
常連さんでひまりちゃんが毎回意味ありげな視線で見てるから話しかけてくれたって。
すると赤メッシュの子は今度はひまりちゃんへジト目を向ける。
ひまりちゃんが慌てて言い訳するけど見られてたなら説得力ないよね。
しかしこの子の顔どこかで見覚えあるような……?
随分昔に見た気がする。今のひまりちゃんとのやり取りにあったけど名前は蘭っていうのか。
蘭、蘭……うーん、あっもしかして美竹さんちの蘭ちゃんか!
苗字を言い当てると赤メッシュもとい蘭ちゃんが不思議そうに首を捻る。
ほら、小学生くらいの頃君のお父さんに華道教えてもらいに行ってた虚お姉さんだよー。
そうそう弦巻さんちの虚だよ! 合ってる合ってる!
え? 弦巻ってことはこころのお姉ちゃんかって?
うん私はこころのお姉さんだよ?
うおぅビックリしたー。皆揃って大きな声で驚きすぎじゃないですかね。
なんか後ろからも聞こえたと思ったらイヴちゃんも一緒になって驚いてる。
あぁそう言えばイヴちゃんは弦巻になる前の名前知ってたもんね。そりゃ驚くか。敢えて言わなかったけど名前変わってるんです。ごめんね。
じゃあ折角だし改めて自己紹介でもさせてもらおうかな。
こころの姉の弦巻虚です。よろしくね。
◆ ◆ ◆
今日はつぐの店で次のライブイベントでのセトリや練習の日程についての打ち合わせをする日だ。
モカがパン屋に寄りたいって言ったから巴とあたしはそれに付いて行って、つぐとひまりは店でお茶して待っている。
いる、はずだったんだけど。この光景は一体なんなんだろうか。
「君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」
「ひ、ひまりって言います」
「ひまりちゃんか、いい名前ね」
「は、はうぅ」
年上の美人にひまりが口説かれている。
肩が触れ合う程ぴったり寄り添ってひまりの右手を美人なお姉さんが両手で包み込むように握っている。
モカはひーちゃん真っ赤ーとか言ってるけど、確かにひまりは頬どころか顔全体が真っ赤で湯気が出そうなくらいだ。
戸惑いつつも嬉しいって感じだね。
薫先輩とはまた違ったタイプだけど、あたしから見ても美人だしひまりが好きそうな顔だ。
とは言え、つぐは苦笑いしつつも止める様子はないしどうしたらいいんだろう。
自然、冷めた目つきで眺めていることになった。
「あっ……」
と思っているとお姉さんは寄り添うような姿勢を止めてひまりから離れた。
ひまり、何名残惜しそうにしてんの……。
するとあたしたちの存在に気が付いたのかお姉さんとあたしと目が合う。
そして微妙に気まずい雰囲気が流れる。
あたしたちもなんて言ったらいいか分からないし、おそらくは向こうも同じだろう。
「え、えーとね? 蘭ちゃん」
困惑を破ってくれたのはつぐだった。
この女の人は少し前から通ってくれている常連さんで、普段はつぐとかイヴと話してるだけだったんだけどひまりが事あるごとに視線を送るから気になって話しかけてくれたそうだ。
それがどうしたらあんなホストクラブみたいなノリになるのかは分からないけど。
でも大体は分かった。ひまりのことだ、綺麗な人だから目の保養とか言ってジロジロ見ていたんだろう。
そりゃあ気になっても仕方ない。
「えー、えーっとね! 違うの! これは違うんだよ!」
ジト目でひまりを見てたら慌てて両手を振って言い訳してくる。
一体何が違うと言うのか。
「モカちゃんの目にはだらしなく頬を緩ませてたひーちゃんしか見えなかったんだけどなー」
「そうだぜーひまり、満更でもなさそうな顔してたぞ」
「うっ」
モカと巴もあたしと同じ意見のようだ。
将来ホストとかにはハマらないでよね。まったく。
「少しからかい過ぎたみたいだね。ごめんねひまりちゃん」
「い、いえそんな! むしろまたやって欲しいくらいです!」
お姉さんの方も悪ノリしてた自覚があったみたいだ。
それに比べて、自分に素直だねひまりは……
「あの、何か?」
お姉さんの視線はひまりからあたしに移ったようで、こちらをジッと見ている。
年上だから敬語を使わなくちゃいけないんだけど色々あってあたしも混乱してるのか、失礼と思われかねない返事をしてしまった。
「美竹、蘭ちゃん?」
「は?」
あぁダメだつい素で返してしまった。
「どこかでお会いしたことありましたっけ……?」
ひまりじゃないけどこんな綺麗な人と会ったことがあれば流石に忘れないと思うんだけど、白い髪の人なんてそんなにいないし。
だけど、なんか頭の片隅に引っかかる感じがする。
「もう随分経ってるから忘れちゃったかな。昔君のお父さんに華道を習いに行った時に何回か顔を合わせた程度だったものね」
あ、そういえば小学生の頃に家に華道を習いに来てた人がいた。その人もとても綺麗な人だった気がする。
父さんが失礼のないようにって言ってた。
「うつほ、さん?」
朧げな記憶から引っ張り出してきた名前を言うとお姉さん、虚さんは小さく笑って頷いてくれた。
でもあれ?
段々思い出してきたけど、父さんが家に招いて直接教えるなんてことはそうそうない。
どこかの家のご令嬢だから失礼のないようにって父さんは言ってた。
そう、確か……
「弦巻……?」
「名前まで覚えてくれてたのね。そう、弦巻虚」
「弦巻ってじゃあ、こころちゃんのお姉さん!?」
つぐはしっかりあたしたちの会話を聞いてたようだ。
常連さんで話してたのに名前知らなかったの?
いや、それよりその通りだ。
弦巻と言えば、あたしたちの知り合いにも同じ名前の子がいる。
「こころのお友達? そうね、こころは私の妹」
本人の口からそう告げられて、1秒2秒と経過して。
「「「えええぇぇぇ!?」」」
あたしたちは叫んでいた。
少し離れたところではイヴも同じように驚いていた。
今あたしたち以外にお客さんはいなくて本当に良かった……
「そう言えば苗字を名乗ったことはなかったわね。隠していた訳ではないけれど、それでは改めまして」
あたしたちの知るこころとは似ても似つかない落ち着いた様子で虚さんは佇まいを整えて透き通るような声で言った。
「こころがお世話になってます。こころの姉の弦巻虚、よろしくね?」
最後にしてくれたウィンク、それだけは確かにこころの姉と思わせるくらい堂に入ったものだった。
ポリスこころがほしい