ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた   作:

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書き初めに想像してたのよりすっごい長くなった。


9話 いえゔぁんぽるか

最近は色々と充実してる気がする。

毎朝こころを見ることから始められるし、黒服たちの仕事ぶりも随分良くなってきたから私の自由な時間も少しずつ増えていっている。

喫茶店に通ったりも出来てるし、かわいい女の子の知り合いも増えた。

 

食生活にもゆとりがあっていい、流石に毎日とはいかないがこころと一緒に晩御飯を摂れてるなんて最高の一言に尽きる。

今が一番青春って感じがする。

 

中学生の頃の私はそういう意味では枯れていた。幼い頃は転生に浮かれていたものの、中学生にもなれば落ち着きを取り戻した。

だけれども、実はまだ私が知らないだけでこの世界には隠されたファンタジーや漫画のような何かがあると思ってたんだ。

何せ鍛えれば鍛える程強くなる身体、学べば学ぶほど蓄えられる知識。前世で好きなアニメの技を思い浮かべ試してみれば、驚く程に冴えわたる剣技。

まさに漫画の登場人物みたいなスペック、だからちょっと期待してたけど結局そんなファンタジーやSF要素はこの世界にはなかった。

ここまでくると戦国時代とか江戸時代とかにでも生まれてれば良かったのにね。実際色んな人に言われるし。今の時代で腕っぷし強くてもあまり意味がない。

 

だから親を亡くして私の引き取り先で揉めてた時は、いっそ某格闘漫画の人みたいに紛争地域練り歩いたり、世界を旅してやろうかと思ったほどだ。

まぁ、弦巻家に来てからはそれまでの考えは吹き飛んだんですけどね!

私は天使から、真の愛を知った(真顔)

 

 

と、ここまでが前置きなんですが。

何が言いたいかって言うと、なんとイヴちゃんに剣を教えてほしいとお願いされました!

厨二心からとは言え、剣の道を志していて良かった! お陰様でアイドルの子と仲良くなれました!

 

剣を教えてと、大袈裟に言ったけどまぁ実際は素振り見てほしいって感じだけどね。学校の部活動以外でも本とか動画を見てるらしいけどやっぱりキチンと学ぶとなると難しいみたい。

流石に参考書と言ってバトル漫画を渡してこの剣を参考にしろとかは言えない。

外国人特有のミーハーなやつかと思ってたけどイヴちゃんの熱意は結構ガチだった。

ついでに武士の心構えも教えてほしいそうだけど、私武士じゃないからね。

 

 

って訳で、学校から程よい近さにある公園で個人レッスンをすることになったんだ。

丁度こころは他校の友達と部活動するって言ってたしね。

こころは天文部だった筈だけどお昼から何するんだろう。残月でも観測するの?

まぁボランティアやらをバンド活動って言うくらいだから部活動と言いつつ普通に遊ぶだけかもしれないけど。

 

 

約束の時間に公園に行くとイヴちゃんは既に到着して私を待っていたようだ。道着と袴を着て正座してる状態で。

え、想像以上にガチじゃん。私普通に私服なんだけど。

素振り見て欲しいって話だったから、私の中ではキャッチボール感覚で来ちゃったけど、イヴちゃんの中ではピッチングフォームの調整からの投げ込みをするってくらいの熱意を感じる。

 

 

ま、まぁそのくらい楽しみにしてくれてたと思っとこうかな。

実際今日という日を楽しみにしてました! って目をキラキラさせてるしね。

 

という訳で早速見せてもらおう。

 

 

ブシドー! と気合を入れながら竹刀を振るイヴちゃん。

掛け声は気にならないでもないけど、様になってるし普通に綺麗に振れてるじゃん。

聞いた話だとライブハウスのラウンジとかでも暇があれば素振りしてるらしいね。

割と肌身離さず竹刀持ってるっぽいし私より侍してるよ。

 

とはいえ指摘出来るとこが無い訳ではないので色々とアドバイスしていく。

一応お手本がてら私も素振りしてね。一応今でも素振りはするんだけど、竹刀じゃなくて専ら木刀ばっかだから微妙な違和感があるけどこの程度は誤差の範囲内だ。

弘法は筆を選ばないのだよ。

 

剣道っていうのは当たれば勝ちで、当てた際のダメージは全く関係ない。勿論防具は付けてるとは言え当たり所によれば相当痛いが。

だから競技としての剣道は自然と速さが追求されてきた。

 

でもイヴちゃんは試合に勝ちたいんじゃなくて剣の理法を学び、その先にある武士の精神を学びたいんだろう。

だから私はゆーっくり素振りしてみるのも良いよと伝えてみた。

案外人っていうのは意識して素早い動作をするより意識して緩慢な動作をする時の方が集中できる。

私もやってたけど、精神統一法の一環って感じでさ。

 

って持論を語ってるとイヴちゃんから尊敬の眼差しを向けられていた。

素晴らしいですってヨイショしてくれるけど、かわいい女の子にそういうこと言われるとお姉さん調子乗っちゃうよ。

でもやはり現代のサムライと呼ばれるだけはありますって、それは恥ずかしいからやめてほしい。

 

 

 

しばらくは雑談やイヴちゃんからの質問を交えつつ稽古(イヴちゃん曰く)は終了した。

そして私たちは事前に約束していた通り、サウナ施設のあるスパへ向かうことに。

 

最近の日本は四季が仕事してないせいで四半年どころか半年近く暑い。日中に外で素振りなんかしてたらそりゃあ汗かくよね。

だから剣道のアドバイスが終われば汗を流そうって話になって、折角だからサウナのある所に行こうと提案したのだ。

 

フィンランドと言えばサウナみたいなとこあるしね。サウナってフィンランド語なんだよ。

私が日本文化教えるからイヴちゃんはフィンランド文化教えてよ! ってノリで言ったら快諾してくれた。

 

しかもしかも、スパへはこころと合流して皆で行くんですよ!

今しがた連絡もあって、こころのお友達も一緒だとか!

イヴちゃんも裸の付き合いです! って喜んでるし最高ですね。

 

 

 

こころのお友達が着替えとか用意しに一旦帰って準備をするから公園でちょっと待っててとのことなので、ベンチでイヴちゃんとの会話を楽しんだ。

イヴちゃんも着替えたらどうかとは思うけど。

フィンランド人はサウナ好きって聞いてたけど、イヴちゃんの家にもサウナ室あったんだって。日本じゃなくて向こうのね。

どうでもいいけど、サウナンヤルケイネンって面白い単語だよね。

 

楽しくお喋りしてるとどうやらこころたちがもうすぐ到着するようだ。

あっ、入り口付近でこころが手を振ってる! かわいい、私も振り返さないと!

お友達も一緒に手を振ってる、と思ったら何やら見たことがあるぞ?

 

 

ヒナちゃん! 君はヒナちゃんじゃないか!

こころのお友達はヒナちゃんだったのか!

 

ヒナちゃんの方もこころの姉というのが私だと分かってビックリしている。

そうだよね、私たち結構チャットで話しているようで自分の好きなことしか言ってないからお互いのこと自体はそんなに詳しくないんだよね。

という訳でヒナちゃんをたかいたかいしてあげる。

 

こころも久々にして欲しそうだったからたかいたかいしてあげる。

言ってくれればいつでもやってあげるのに。

 

2人がキャッキャ喜んでるのを見て興味ありげなイヴちゃんもたかいたかいしてあげる。

大丈夫大丈夫私パワーあるからイヴちゃんでもイケるイケる。

 

 

今知ったけどヒナちゃんもアイドルなんだって、しかもイヴちゃんと同じグループだとか。

世間って狭いね。皆知り合いじゃん。

 

よし、では行くとしましょうか!

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

最近、こころちゃんにはお姉ちゃんがいるってことを知った。

ここ数年は仕事の関係で家にいなくて、週に1度会えればいい方だったみたいだけど今は帰ってきていて一緒に暮らしてるんだって。

だから昨日はどんなことを話したとか、どこに行ったとかを聞くようになって、こころちゃんにお姉ちゃんがいることが判明したんだ。

 

この前なんてペアルックみたいにお揃いの髪形にして出掛けたんだってー、いいなーあたしもお姉ちゃんとお揃いの髪形にして一緒にお出かけしたいなー。

まぁ無理だろうなぁ。髪の長さが違うとかの前にお姉ちゃんそういうの好きじゃなさそうだもん。

 

 

「こころちゃんのとこは仲が良さそうでいいなー」

「あら、日菜にも紗夜がいるじゃない。仲良くすればいいのよ!」

「でもなぁ、最近は話し掛けてもちゃんと返事してくれるようになったけど、一緒に出掛けるとかないんだよね。練習に忙しいみたいだし」

 

 

今日はこころちゃんと楽しいこと探しをしていたんだけど、いっぱい楽しいことを見つけて満喫したのであたしたちはファミレスでお互いのお姉ちゃんについて話していた。

どうやったらこころちゃんのとこみたいに仲良くなれるんだろう。羨ましいなー。

そんなことを言ったら、意外な返事が返ってきた。

 

「あたしとお姉様も昔は今ほど仲良くはなかったわ。だから日菜も大丈夫よ!」

「えー、ほんとにー?」

 

あたしとお姉ちゃんが仲良くなれるってのもそうだけど、こころちゃんたちも昔はそれ程でもなかったというのは信じられない。

こころちゃんは見ても分かるようにお姉ちゃんの話をする時は笑顔で楽しそうだし、聞いてる分にはお姉ちゃんの方もこころちゃんを大切に思ってるみたいじゃん。

疑わしくて2重の意味であたしは聞き返していた。

 

 

「えぇ、だってあたしはお姉様のこと昔はよく遊んでくれる人、くらいにしか思っていなかったもの」

「こころちゃんがー? うっそだー」

 

 

こころちゃんがお姉ちゃんのことを話す姿は丸っきり自分がお姉ちゃんのことを話してる時に似てる。

それなのに昔はあまり興味なかったみたいなこと言われても信じられるわけないよ。てっきりあたしみたいにこころちゃんが相手にされてないパターンを想像していた。

まぁもしそれが本当なら気になるし参考にもなるし詳しく聞いてみることにした。

 

 

どうやら、そのお姉ちゃんは養子で血が繋がってる訳じゃないらしい。遠い親戚ではあるみたいだけど。

当時はこころちゃんも友達もいなくて親も構ってくれなかったんだって。

そんな折、今日から知らない人が姉になると言われるもどうしたらいいかよく分からない。

それでも時間があれば色々遊んでくれてはいたから、姉とか家族としてはよく分からなかったけど、遊んでくれる分お屋敷のメイドや使用人たちよりは好印象って程度だったと。

 

「じゃあなんでそれが今みたいになったの?」

 

聞いている限りだと、姉妹というよりは年の離れた友達っていう程度の認識だと思う。

何があってその認識が変わったんだろう。それが分かればあたしがお姉ちゃんと仲良くなるヒントになるかもしれない。

 

「それはね、とーっても簡単なことだったのよ」

 

こころちゃん家がお金持ちだから色々なことがあったらしいけど、あくまでそれは気付くキッカケだっただけであたしの知りたいことはもっと単純なことらしい。

 

 

「あたしがどう思っていようとお姉様はあたしの姉で、ずぅーっとあたしのことを愛してくれていたの。それに気付いた時、あたしの中でお姉様は本当のお姉様になったわ。

だから日菜はそのままでいいの、紗夜はまだ少しだけしか気付けてないのよ。でもいつかきっと日菜の愛は届くわ! だから大丈夫! 日菜が諦めなければその『いつか』は必ずやってくるのよ!」

 

 

そう言ったこころちゃんはとびっきりの笑顔で、自信満々な顔をしていた。

あたしたちは必ず仲良しになれる日が来るって信じて疑ってない。

 

「もー、それじゃあ時間が解決してくれるって言ってるのと一緒じゃん」

 

時間が解決してくれるなんて、何も出来ない人たちがする言い訳の定型句だと思ってた。

でも何の根拠もないのに、今のこころちゃんの話はるんっ♪ってきて、気付けば釣られるように笑っていた。

 

 

「いいえ、それは違うわ日菜」

「うん?」

「時間じゃないわ。日菜のその笑顔が、解決してくれるのよ! 笑顔になるのは楽しいからだわ。だからその笑顔が伝えてくれるの、あなたといるだけで楽しくてうれしくて仕方ないことなのって」

 

 

こころちゃんもあたしも、他人からはあまり理解されない突飛なことをよく言い出すし、あたしもそこは自覚している。

あたしたちは似てるんだろうなって思う。だからなのかな? こころちゃんの言葉は驚く程すんなり胸に落ちてくる。これ以上ない程に背中を押してくれている気がする。

 

 

「それは、とってもるんっ♪って感じだね」

「えぇ。あっそうだわ!」

「うわ、どうしたの?」

「今日はこの後お姉様とお風呂に行くの! 日菜もくればいいのよ!」

 

 

あー、だからこころちゃん今日は手ぶらじゃなくて鞄持ってたんだね。

でもそれだとあたし着替えとか持ってないから一回家に帰らないとだなー。

あれやこれやの間にこころちゃんはお姉ちゃんに連絡を取ったみたいで、一緒にあたしもお風呂に行くことになった。

 

 

 

そうと決まれば行きましょう! とこころちゃんとあたしは移動を開始した。

2人でキャッキャ言いながら家を経由して待ち合わせ場所の公園に着いた。

こころちゃんはお姉様ーって大きな声を出して手を振っている。

あたしもついでに振ってみる。

 

先に聞いていた通りイヴちゃんもいて、その隣で手を振り返してくれてる人がこころちゃんのお姉ちゃんなのだろう。

遠目だとこころちゃんのお姉ちゃんっていうよりイヴちゃんのお姉ちゃんに見えるけどそれは黙っておこう。

 

段々近づいてきて、よく見るとどこか見覚えのある人な気がする。

いや、見覚えどころか毎日のようにチャットで話してる人だった。

 

 

「ああぁー!! うつほちんじゃん!! うそー! こころちゃんのお姉ちゃんってうつほちんだったの!?」

 

 

流石のあたしもこれにはビックリだよ!

でもそう言えばちょっと前に妹とお揃いの髪形にして遊びに行ったって言ってた!

 

驚いてたのはあたしだけじゃなくてうつほちんもだったみたい。

 

 

「こころのお友達っていうのは、ヒナちゃんだったのね」

「ヒナさんもウツホさんとお知り合いだったのですね!」

「とってもステキな偶然ね!」

「あははー、どうやらそうみたい!」

 

 

つまるところ、あたしたちは皆知り合いだったようだ。

そうと分かるとうつほちんも最初より柔らかい雰囲気になって近づいてきて、いつしかのようにたかいたかいしてくれた。

 

これをたかいたかいと言っていいのか分からないくらいだけど、あたしは結構お気に入りだ。

普段だと有り得ない視界の高さ、空を飛んでいるみたい。

 

「わーい! もう一回お願い!」

 

おかわりを要求すると返事代わりに再び空へと投げられる。

今更だけど少なくとも40~50kgはある人を苦も無く持ち上げる、どころかお手玉のようにキャッチ&リリースしてるってすごいよね。

 

 

私の番が終わると次はこころちゃんをたかいたかいしていた。

こころちゃんのキラキラおめめが一層キラキラしててお星さまがこぼれ出そうなくらい喜んでる。

すっごぉい楽しいもんね。

 

「折角だしイヴちゃんもやってもらいなよ!」

 

あたしたちを見てケガしないか不安なのか、それでも興味はあるのかちょっぴりそわそわしてるイヴちゃんにおススメしてみる。

こころちゃんもとっても楽しいわよ! と援護射撃してくれて、イヴちゃんもたかいたかいしてもらっていた。

 

なんだかんだ言いつつイヴちゃんも楽しそうにしてる。

やっぱイヴちゃんって度胸があるというか肝が据わってるよね。勧めといてなんだけど普通人があんなに浮いてるとこみたらやって欲しいってならないよ。

 

 

と、全員が知り合いという嬉しい想定外のお陰で話が逸れてしまったけど、あたしたちが行くのはお風呂じゃなくてスパなんだって。

なるほどねー、フィンランドってサウナ有名だもんね。厳密にはフィンランドが発祥ってわけじゃないんだけど、=で連想するくらいには根付いてる文化だし。

 

 

 

それにしてもうつほちんとこころちゃんが姉妹だったとはねー。

落ち着いた見た目もあるけど、うつほちんとのチャットの中でのやり取りに、お姉ちゃんを投影してなかったと言えばウソになる。

あたしの話をちゃんと聞いてくれて、適度に自分の意見も言ってくれて、お姉ちゃんと比べれば少し茶目っ気があるけど、もしお姉ちゃんならこんな感じに返事してくれるのかなーとか思ってた。

 

どこかあたしたち姉妹と似ているうつほちんとこころちゃん姉妹。

けれどあたしたちと違って円満な関係の姉妹。

 

この姉妹を観察してるとすっごいるんっ♪ってする予感がする。

 

 

今から行くサウナもそうだけど、これから先も楽しそうだね!

 

 

 

 




まさか書き切れずに前後編になるとは。

次回、『110度の蒸気をブンブンブン』

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