ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた   作:

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そして今回ちょっぴりシリアス風味


昔話 私と、私の天使が生まれた日

これは私が弦巻家に引き取られて間もない頃のお話。

そう、私の2度目の生に意味を得た10年ほど前のある日の出来事までのちょっとした昔話。

自分語りなんていいからこころの癒されるエピソードを聞かせろって?

まぁそう言わずに、たまには私のことも知っていってよ。

 

 

中学3年生になった頃には既に両親を亡くし、親権やらで揉めること約1年。周りも中学生という多感な年頃では親を亡くしたクラスメイトへの接し方も分からずに、私が学校で腫れ物扱いになっていたのも仕方ないだろう。

保護者も一番血筋の近い叔母がひとまず暫定的になっているだけで、卒業後も引き取り先によっては引っ越すことも有り得るという状態なので高校の受験もせずにいた。

まぁ私の成績からすればどこの高校でも中途編入出来ると見做されてのことだったが。

 

そして中学卒業直前、母方の血筋で遠縁の弦巻家に引き取られることが決まった。

前世との違いを探すためにそれなりに世情に詳しかった私は勿論、弦巻という大財閥の名前は知っていた。

血縁関係にあるとまでは思わなかったけれど。

 

これから父親となる男性に連れられ屋敷に行き、名前が変わり私は弦巻虚となった。

不謹慎だったかもしれないが、この時私は少しだけ期待してたんだ。

文武両道を地で行く美少女が両親を亡くし引き取られた先は大財閥。いかにも漫画でありそうな展開じゃない?

だから私はこれから何かの事件に巻き込まれたりして世界の裏側とか真実を知ってしまう! みたいなね。

中学生にありがちな妄想だろうけど、何せ転生なんて摩訶不思議な経験をしていればそんな妄想をしてても仕方なくない?

 

けれどけれども現実はそんなことはなく、高校にも行かずに帝王学を学び弦巻の将来を担う一員となるべく英才教育を施されただけだった。

勿論財閥の養子になり英才教育を受けるなんて前世では考えられもしないことだが、結局は座学の勉強だし定年まで働いていた私にとっては仕事の手伝いすら目新しくはあっても想像を大きく上回るものではなかった。

 

 

私を引き取った男性、つまりはお父様なんだけれども、そのお父様から私を引き取った理由を実は初めに聞かされていた。

1つは優秀そうだから、女であるということを差し引いても釣りが出るくらいの能力があると判断して養女にしたと。

そして理由の2つ目がお父様の娘で、私の義妹になるこころという少女にあった。

 

 

世間一般で言えば幼稚園や保育園に通うあたりの年齢の女の子。

流石は上流階級と言うべきか屋敷で家庭教師を雇って勉強を教えているらしい。そのこともあり生活はほぼ弦巻の敷地内で完結している。なんでもあるしなんでも用意できるからね。

弦巻家が主催する社交会に連れて行ったこともあるが、運悪くというべきか同世代の子供はおらず友達もいない。

周りは大人だけ、姉妹もいない、親も仕事ばかりであまり接することが出来ないという今の環境。

 

うん、どう考えても問題しかない。

だからこそ自分の代わりという訳ではないのだろうが、まだ年の近い私を多少無理を通してでも弦巻の姓を与え家族として迎えたそうだ。

私とて親を亡くしてそう時間が経っている訳でもないのだし、環境が変わり大変なのはお父様も分かっている。

それでも、こころを新しい家族として、それが難しくともせめて遊び相手でもいいから気に掛けてくれないかとお願いされた。

 

 

後日、義妹のこころに会った時に抱いた私の印象は、お人形さんみたいなかわいい女の子だな、だった。

もう10年もして私と同じ年頃になれば深窓の令嬢という言葉が似合うお嬢さんになるんだろうと思った。

 

 

それからは時間が空けば義妹のもとへ足を運ぶようにしていた。

私もそれなりにハードスケジュールだったのだが、幸いこのハイスペックボディは疲れも溜まりにくく体力もあった。なので常人ならば休息に充てるべき時間をも活用出来た。

 

最初は大人しいと思っていたこころも、会う回数を重ねる度に笑顔を見せてくれることが増えて、今では私の顔を見るやウツホ! と嬉しそうに抱き着いてくる程だ。

生来は活発な子なのだろう。やはり子供というのは遊んでなんぼということだ。

こころは絵本が好きなようで、何度も私に読み聞かせて欲しいとねだってくる。その度、前世でも子供や孫が小さい頃は絵本を読んであげていたことを思い出す。

 

 

私が家族として触れ合えていたかは分からないが、こころが段々明るくなり笑顔が増えていったことをお父様は嬉しく思っていたそうだ。

 

しかし偶に私も自分が分からなくなる時がある。

私がこうしてこころのもとへ足繁く通うのは、家族の愛を知らない子を不憫に思っての老婆心からなのか。それともこころを通し未だに忘れられない前世の懐古に浸るためなのだろうか、と。

 

 

こころにとっても私のことは姉と思えないのだろう。よく遊んでくれる人、友達感覚でしかないように私もまたこころのことを妹としてみれていないのかもしれない。

確かにかわいいとも。初めて会った時にお人形のようだと思ったように、髪はきらきらで輝いてまだまだ成長途中の小さい体は保護欲をかき立てるが、それだけだった。

 

弦巻家に引き取られて1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月になろうとも私たちの関係は姉妹と呼べるものではなかったと思う。

勿論こころのことは好きだ。かわいいし、私に懐いてくれている女の子、好きになって当然だろう。

けれど愛しているかと言われればそうではないと言うしかない。何かが足りない気がするんだ。

 

 

足りないと言えば、2度目の生を受けてからずっと何かが欠けている気がしてたんだ。

何でも出来る可能性を持つ体を持っていても中身がない。胸にぽっかり穴が開いた気分になる。

私を虚と名付けた親の慧眼を褒めるほかないだろう。私は、空っぽだった。

 

 

最初は刺激を求めていたのだと思った。

2度目を得たのだから1度目に出来なかったこと、想像もしてなかったようなことを求めていたのだと思ってた。

バンドやスポーツも考えていたけれど、思い切って格闘漫画のごとく物理的な強さを磨いてみた。

日本人らしく剣を振ってみた。始めのうちは楽しかった。みるみる上達する腕前に、空想の中でしかなかった技を再現出来る快感に酔っていた。

そして、実戦的な剣術家の先生に見初められて学び終わる頃には楽しさなどは疾うに消え去っていた。

鬱憤を晴らすかのように大会では相手をねじ伏せるような試合をしていた。

そのせいで挫折して剣道を辞めた子もいたらしい。

現代日本において剣の腕前や強さなどに大した意味はない。競う相手もいないのでは、もはや剣を振るのも座禅と変わらないものになっていた。

 

次に、弦巻家に引き取られ英才教育を受けた。

前世と比べるまでもないような特別だ。生活も様変わりして刺激という意味ならば十分だろう。

でも、私の心にはずっぽりと穴が開いたままだった。何を見ても色褪せていた。

 

 

決定的だったのは、生前ではあれ程楽しく弾けていたピアノを改めて弾いた時、楽しさを感じなくなった時だった。

当時好きだったアニメの主題歌、好きなアーティストの曲、不意に頭に浮かんだフレーズを、思うままに時間も忘れて弾いていた。

我流で学び基本や基礎はめちゃくちゃで、お世辞にも上手ではなかっただろう。

けれど、そんなことは気にならなかった。音を外しても、ミスをしても楽しかったんだ。

 

それが今はどうだろう。

音が外れた。気になってしまう。そして次に弾く時には修正して弾けている。

今生のこの体は耳の出来も良いようで、ミスを聞き分ければその時にはもう頭の中で音のズレが調整されている。

ただただ機械的に上達していくだけになってしまっていた。

好きな曲を通して弾けた時に感じた感動はもうなくなって久しい。

 

何でもすぐに上達し、何でもこなせるこの体は私から情熱というエンジンを奪っていたのだと思う。

私に足りないのは、情熱なのだろうか……?

 

 

 

私に足りないものが何だったのかが分かるのは、それからまたしばらく経った頃だった。

 

 

 

ある昼下がり。過去を引きずるだけだからと、もう弾くのは止めようと思っているピアノの前に私はいる。

タバコを止めれない人はこういう気持ちなのだろうと思いつつ、いつものように指を弾ませる。

前世では何年も何年も弾き続けても大して上達しなかったのが嘘のように、めっきり上手くなってしまった。

誰に習った訳でもないのに、コンクールに出ても恥をかくことはないだろうと思える程には弾けてるだろう。

 

私はこんなに上手くなかった。でも今の私はこんなに上手い。

私が何度弾こうとしてもついぞ弾けなかった曲。それが苦も無く弾けてしまう。

転生したと言っても今の私と前世の私は別人だということを、嫌でも突き付けられる。

 

あまりに優秀なこの体は、私の精神と見合うものではなかったんだろう。

出来ることはたくさんある。けれどやりたいことが見当たらない。モチベーションを保てない。

人は、まともな人間の精神は2度も人生を繰り返すことに耐えられないことを理解した。

ある説では、体感的な人生の折り返し地点は20歳だと言われている。80年以上もあるとされる人生において、20歳までに体験する出来事は残りの60年で起こりうる出来事に匹敵するということだ。

年を取るごとに1年の体感時間が短くなる現象と同じだ。初めて体感した時と、2度目に体感した時の感動に差があるのは当たり前だ。

 

転生したと分かった時は幸運だと思った。自分の体がハイスペックボディと自覚した時は天運だと思った。

けれど幼い頃に母親が死に、中学の間に父親も逝った時ですら特に何も感じなかった時に、気付いてしまった。

普通の人間が2度目の生を得たところで、意味などないと。こんなのに耐えうるのは狂人的なナニかだけだろう。

 

どうしても彩り豊かな前世を脳裏に浮かべ比べてしまう。

このまま私は無感動なまま惰性で生きていくのだろうか。

 

 

よく分からないまま、私は日々こころのもとへ通い続けていた。

もしかしたら、私が来ると笑顔を見せてくれるこころに依存していたのかもしれない。

ただの遊び相手であろうと必要とされていると思いたかったのかもしれない。

そんな思い込みが功を奏していたのか、こころと遊んでいる時だけは、どういう訳か世界に少し色が戻っていた。

 

これでは、相手をしてもらっていたのは私の方だ。

 

 

「ウツホは、いいコでいようとしているの?」

 

 

だからだろうか、こころにこんなことを言われてしまったのは。

幼いながらに何かを感じ取ったのか、こころは拙いながらも思ったことを伝えようとしてくれた。

 

 

「ウツホがおうちにくるまで、わたしもきっとそんなお顔をしていたとおもうの」

 

「おとうさまをこまらせないように、いいコでいようとしていたわ」

 

「すきなえほんをよんでも、あんまりわくわくしなくなったわ」

 

「でも、ウツホとあそんで、ウツホとよむえほんはとってもわくわくするの」

 

「おとうさまも、いいコのわたしより、いまのわたしのほうがいいっていってたわ」

 

「だからね、ウツホも、もっとわらえばいいとおもうの!」

 

 

的を射ているような、そうでもないような。

的外れのようでいて、核心を突いているような。

 

不思議とこころの言葉に聞き入っていた。

思えば、最後に笑ったのはいつだろう。

こころが微笑ましいと頬を緩ませたことはある。だけれども、自分でも笑ったと思えた時がいつだか思い出せない。

弦巻家に来てから笑ったことはあっただろうか。いや、そもそも私はそれ以前からちゃんと笑えていたのだろうか、それすらもう分からない。

 

 

「わたし、ウツホのぴあのがすきなの」

 

「いっかいだけウツホがひいてくれたとき、とってもわくわくしたわ」

 

「ウツホがわらって、たのしそうにぴあのをひいていたから、きっとわたしもわくわくできたの」

 

「だからぴあのをひいたら、ウツホはもっとわらえるようになるとおもうの!」

 

 

いつだったか、お父様に弦巻での生活に不足はないかと聞かれた時に、私はピアノが欲しいと言った。

前世の趣味は今生に至ってもそのままで、ここ数年は触れていなかったが弾きたいとは思っていた。仕事が忙しい時や陰鬱な気分になった時でも、自室でピアノを奏でていれば自然と気分が晴れていた。

だからこそ環境も変わり多忙な現在も、ピアノを弾けば一種の精神安定剤となるのではないかと思ったんだ。

 

お父様は1つの条件を出しつつも、快諾してくれた。

それは簡単なことで、こころにもピアノを聞かせてやってくれとのことだった。

 

私は自分の弾きたいように弾き、他人に聞かせるものではないと前世では家族の前ですら碌に弾いたことはなかったのだが、ピアノとなるとそれなりの値が張るものだ。

いくら家がお金持ちであっても、決して安くないものを要求している自覚はある。それに音楽は教養に良いというし、子供のこころに聞かせる程度は別に構わなかった。

 

 

希望したその翌日にはピアノが用意されており、お父様は私が人に聞かせるのにあまり好意的ではないと察してくれたのか、黒服や使用人はいなかった。

確認がてら調律していたところに偶々こころが通りがかり、部屋には私とこころの2人きりだった。

こころに聞かせるという約束もあったことだし、初披露でもあるのである意味丁度良かったのかもしれない。

 

高級感溢れるグランドピアノを前に少し尻込みしないでもなかったが、これを自由に使っても良い事実に久々に少し胸が高鳴った。

いつもであれば私は思うままに好きな曲を弾いていたのであろうが、ここにはこころがいる。

私のレパートリーにはこの世界に存在するものもあれば存在しない曲もある。どちらにしろ、こころは知る由もない曲だろう。

 

私もブランクがあることだし、ここはこころも知っていそうな曲で、当時初心者の私が初めて弾いた曲にしようと思う。

タイトルは『きらきら星』

 

その後もこころが分かりそうな童謡などを中心に、初心者だった頃を懐かしみながら弾いていた。

こころも体を揺らして知ってる曲は一緒に口ずさみながら聞いていた。

その純粋な様子がまた私の懐古を深まらせるようで、前世では経験しなかったが偶には人に聞かせるのも悪くないかもしれないと思った記憶がある。

 

 

だが、結局はその時だけだった。

私はピアノを弾いていた今ではなく、昔を懐かしんでいただけだった。

だからこそ、今はこんなにも無感動なのだろう。

こころに聞かせてあげるという約束すら、その一度切りで既に果たせていない。

 

 

「でも、私はもうピアノを弾いても楽しくないわ」

 

「だから、笑えるとは思えない」

 

 

とてもじゃないが、私の為を思ってくれた子供に対して返す言葉ではなかった。

それでも、言わずにはいれなかった。ピアノを弾いて楽しくなかったということは、それだけで私が大人げなくなるには十分なことだった。

 

 

「わたしも、おんなじだったわ」

 

「すきなえほんをよんでもわくわくしないの」

 

「すきなのに、すきだったはずなのに、かなしくなるの」

 

「わくわくしなくて、かなしくなっちゃうのにまたよんじゃうの」

 

「でもウツホといっしょによむえほんはわくわくしたの」

 

「そのときになんでひとりでえほんをよんでたのかわかったの」

 

「わくわくしなくても、かなしくなちゃっても、わたしはずっとえほんのことがだいすきだったの」

 

 

こころの眼がジッと私を見つめていた。

こんな小さな女の子のことが、眩しく見えた。

私はまだ、眩しさを感じることが出来るのだと、どうでもいいことが頭をよぎった。

 

 

「ウツホもおんなじだとおもうの」

 

「いまはたのしくないかもしれないわ」

 

「でもすきだから、たのしくなくてもひいてしまうの」

 

「だいすきだから、またてをのばしちゃうの」

 

 

そう言ってこころは私の手を取った。

そのまま私の手を引いて、部屋を出ようとする。

こころの意図が何かが分かると、次の習い事もあり今はピアノを弾く時間などないと告げる。

 

 

「ウツホも、たまにはいいコじゃなくてもだいじょうぶよ!」

 

「だから、いきましょ?」

 

 

私はもう、その言葉に頷くしかなかった。

 

 

こころに連れられ、ピアノの前。

ここまで来れば私も腹をくくることにした。

それに、いい機会かもしれないとも思った。

今までずるずる習慣と惰性で弾いていたピアノも、これで辞める良い区切りになるかもしれないと。

 

折角だからこころにどんな曲が良いか尋ねるも、好きな曲を弾けばいいと返される。

ならばと私は前世でも良く弾いていた曲を弾き始める。

 

弾き始めてみるも、悪い意味でいつも通りだった。

こころを横目に見てみると、全く知らない曲だろうに、それでもリズムに乗って体を左右に揺らしていた。

楽しそうに、聞いていた。

 

私はこんなにもつまらなくて、心がざらついて苦い思いをしているのに。

だから私は意地悪をするようにテンポが独特な曲を選んで弾いた。

悲壮感の強い暗い曲、転調が多くリズムに乗りにくい曲。

皮肉なことに、ただ無意味に上達した私の腕前は、前世の私では到底弾けないこれらの曲も弾きこなせるようになっていた。

 

 

案の定こころは狙い通り、リズムの取り方も分からずに首を傾げながら体をふらふらさせていた。

だけれども、それでもこころは楽しそうだった。

 

曲を弾き終えるとこころと眼が合った。

 

 

「いまのウツホ、とってもたのしそうにぴあのをひいてるわ!」

 

「やっぱりおともだちとすきなことをするとわくわくするの!」

 

「たのしいは、ひとりじゃなくてみんなでうまれるのよ!」

 

 

その言葉を聞いて、思考が止まり、息をするのを忘れていた。

こころだけが楽しそうにしているのが気に入らなくて、意地悪な選曲をした。

この曲ならどうだと2曲3曲、気付けば時間が過ぎていた。

 

楽しかったかどうかと言われれば分からない。

それすら分からないほどに、真剣だった。

夢中になっていた、のだと思う。

 

少なくとも、ただ作業の如く機械的に弾いていたなどとは程遠い。

今私が感じているものが何なのか確かめたかった。

 

 

「最後に、聞きたい曲はある?」

 

 

好きな曲を弾けばいいと言われていたのに関わらず、私はこころに尋ねた。

こころは少しだけ悩んでから、私の意図を察して笑顔で答えてくれた。

それは、私が初めてこころに聞かせてあげた曲だった。

 

 

「きらきらぼし!」

 

 

最後のこの曲は自分の為ではなくて、こころの為に弾こうと思った。

さっきとは違い明確に意識して、こころの為に弾きたいと思った。

そして、こころと一緒に歌いながら弾いて曲が終わる。

 

 

 

「わたしはとってもたのしかったわ! ウツホは、たのしかった?」

 

パタパタと私の傍まで寄ってきたこころは満面の笑みで、分かり切っている質問を投げかけてきた。

 

「えぇ、私もとっても、楽し、かったわ」

 

 

色褪せていた。何をしていても昔を思い出しては比べていた。

何をしてもこんなものだったかと、落胆を覚える度に、世界から色が抜け落ちて行った。

 

だけど、この時。

私の視界は滲んでいたが、確かに世界に色が戻っていた。

 

 

 

私は前世と今では別人だと気付いてはいたが、理解していなかった。

自分の為にピアノを弾いて、それだけで良かったのは前世の自分。

今の私は誰かの為に、楽しませることで私も楽しめる。

 

それが今、ようやく分かった。

今までの私は何をするにしても全て、自分の為にしか行動していなかった。

 

 

傍にいるこころにおいで、と言って抱きしめる。

暖かかった。

じんわりと伝わってくる熱が、心に空いていた穴を埋めてくれる。

心の穴を埋めてなお溢れ伝わる熱が、涙となって頬を伝う。

 

今までの私は空っぽの伽藍洞、中身のない前世の亡霊だった。

 

中身が満たされ、間違いなく私は今日生まれ変わったんだ。

私は今、弦巻虚として生まれることが出来たんだ。

 

 

腕の中のこころを一層ぎゅっと抱きしめる。

少しだけ苦しそうな声を出したが、こころも私の背に腕を回してくれた。

 

 

こころが、私の胸に空いた穴を埋めてくれた。

こころのお陰で私は生まれ変わったんだ。

 

私は体で、心で、魂で理解した。

私の2度目の生に意味をつけるのであれば、それはきっと――私はこころの為に生まれてきたんだと。

 

これからはこころを守り、支え、傍にいて。こころの為に生きようと私は誓った。

 

 

 

 

 

 




FILM LIVEとRASライブDAY2行ってきました。
映画のこころは最高だし、ライブのみっくも最高でした。

神戸牛たべたい。
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