ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた 作:
今日は休みのターン。
だがしかし、こころは美咲ちゃんとお出掛けです。
いいなぁ私も女子高生とデートしたい。
いや、正直ひまりちゃんとか誘ったら割と出来そうな気がするけど。
ただ反応が良い子だから私もついからかっちゃいがちなんだけど、そろそろ自重しないとガチでひまりちゃんの性癖と言うか色々なものを歪めてしまいそうな気がする。
それはあまりに忍びない。
だから私は今日も羽沢珈琲へと足を運ぶ。
あそこに行くと高確率で女の子がいるからね。つぐみちゃんやイヴちゃんがシフトしてることも考えると8割方いる。
かつ適度にランダム性があるからね。分かるよ。普通においしいし居心地良いもん。
メニューも季節に合わせて変わったりするしで通っちゃうよね。
という訳で入店。
あれ、結構混んでますね。人はともかくテーブルの片付けが追い付いてないっぽい。
人が減ってきた時間見計らって来たつもりだけどピークの時間がズレたのかな?
私は全然待ってても構わないんだけど申し訳ないし今日は帰ろうかなぁ。
とか思ってたら相席どうですかと声を掛けられた。
おや、花音ちゃんじゃないですか。
私はウェルカムだけど、一緒に来てる子は大丈夫なのか。まぁ大丈夫だから声掛けてくれてるんだよね。
一緒にいる子は誰なのかと視線を向けるとクリーム色の髪の女の子。って流石にこの子は知ってるぞ。
白鷺千聖じゃん。パスパレ、というか俳優してる芸能人だよね。
花音ちゃんと千聖ちゃんって仲良しだったのかー。
私もこっちに戻ってきてから結構経つしハロハピの子たちとは偶にだけど話すこともあるんだよね。
バンド練習とか会議も弦巻邸でよくやってるし。
ぶっ飛んだ子もいたけど基本的に皆いい子だったなー。
千聖ちゃんは改まって挨拶してくれたけど、なーんか見覚えあるな。
テレビじゃなくて直接どっかで。この感じ前にもあったな、蘭ちゃんの時と似てるぞ。
んー、テレビ……雑誌……インタビュー……
あとはなんだろう。
あ、思い出した。
はぐれ剣客人情伝。
あれ、顔固まったけど大丈夫千聖ちゃん?
見たのかって? いや見てないよ。
見たっていうか、私それに出演したからね。1話だけだけど。
私が剣道してたってのはもう知ってると思うけどさ、皆この設定も覚えてるかな。
剣術家の先生に師事してたっていうの。
その先生殺陣師も兼業してたというか歴史モノの作品だと結構演技指導とか手広くやってたのね。
で、私も付いていくじゃん?
中学で大会連覇とかもしてたしそれなりに私その界隈では有名だった訳よ。
しかも私美人じゃん?
現場監督も面白そうとか言って1話だけ何シーンか出ちゃったんだよね私。
当然共演者さんに挨拶はするよね。とは言えその頃の私は冷めてたというか淡泊だったというか。
魅せる剣を披露するというのは私もアリかなとは思ったけど、人にはあまり興味なかった。
まぁつまり、忘れてたよね。
そういや話題の子役でかわいい女の子いたわ。
ついでに言うと怯えられた気がする。ごめんね当時はツンツンしてて。
というかイヴちゃんにも前に聞かれてた。
はぐれ剣客人情伝に虚さん出てましたよねって。
イヴちゃん私のこと事あるごとにめっちゃヨイショしてくれるから……ちょっと流しながら返事したかもしれない。
かわいい女の子との会話を覚えきれてないなんて私としたことが……!
私の脳のリソースの大半はこころのために使われてるから仕方ないことなんだ。
けれど忘れていたのはどうやらお互い様だったようだ。
というよりも昔と今とでイメージが違ってて結び付かなかったという方が正しいみたい。
千聖ちゃんも小さい頃を知られてて気恥ずかしいみたいだけど私もちょっと昔のことを言われると恥ずかしい。
そんな訳だからこの話題はやめよう。花音ちゃんも興味持たないようにね?
ところで、さっき噂はかねがねって言ってたけどそれはどういうことかな?
ほうほう、イヴちゃん日菜ちゃんは想像してたけど花音ちゃん君もか。
こころが私の話する時とっても楽しそうだからつい他の人にもって? えー、照れるなぁ。
私もうちょっとした有名人じゃーん。
まぁこころ自体有名人みたいなところあるしそんなもんか。
それに私美人だし? やっぱ人の記憶に残っちゃうとこあるよね。女子高生がきゃいきゃいしちゃうのもしょうがない的な?
実際どんな風に噂されてるかは知らないけどね!
◆ ◆ ◆
個人の俳優業は勿論、最近はパスパレも人気が出てきてスケジュールが随分タイトなものだったのだけれど今日は久々のオフ。
そんなオフの日をどう過ごそうかと思っていた時に花音から誘われた2人だけのお茶会。
近頃は1駅2駅電車に乗って遠出をすることも増えてきたのだけれど、今回は通い慣れた羽沢珈琲店でゆっくりお話することになったわ。
最近芸能活動が忙しいと言ったのを覚えてくれてたのか、花音ったら私に気を遣ってくれたのかしらね?
「つぐみちゃん、忙しそうだね」
「そうね。それでも入客も落ち着いてきたようだし、お言葉に甘えちゃいましょう」
同じガールズバンドを組んでいる仲でもあり、この羽沢珈琲の常連の私たちなんだけれど、いつも長居させてもらっているのだしなるべく人が少なくなってきた時間を狙ってきている。
のだけれども、今日に限っては随分盛況だったようでいつもなら落ち着いている時間なのにまだまだつぐみちゃんが慌ただしく店内を駆け回っていた。
開いていた最後のテーブル席に案内してもらった際に、後はもう片付けが終われば一段落という具合のようで先輩たちはゆっくりしていってくださいとのことだった。
そういう訳で、先に飲み物を注文して花音とお互い近況報告のように最近起きた出来事を話し合おうとした時。
チリンチリンと新たな入客を告げる鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは、つぐみちゃん」
新しく入ってきたお客さんはつぐみちゃんと顔見知りと思われる綺麗な女性だった。
席の向き的に私は入り口を向いていたので、自然と視界に入ってきた。その程度だったのだが、思わず少しの間目を奪われてしまう程だった。
仕事柄容姿の優れた人と頻繁に顔を合わす私は、誰かに目を奪われることなど錚う錚うあることではないと自覚しているだけにそうした反応をした自分にさえ、少しばかり驚いてしまう。
「今は少し、混み合ってる様ね」
その女性は店内を見渡して心なし残念そうに呟いた。
「あれ、虚さん?」
「あら、知り合いなの花音?」
私が入り口に視線を向けているのを悟り、振り向いて入り口にいる女性を見ると首を小さく傾げてその女性と思われる名前を呟く。
「うん。こころちゃんのお姉さんで、お家にお邪魔した時とかにお世話になってるんだ」
「あぁ、彼女がこころちゃんの」
最近になってよく聞くこころちゃんのお姉さん。
私は今まで機会がなくお会いしたことはなかったのだけれど、日菜ちゃんやイヴちゃんは会った事があると話題にあがったことがあるわ。
そんなことを思っていたら、席が埋まっていて彼女の困っている雰囲気を察したのか花音が相席に誘っていいかと尋ねてきたわ。
そうね、気にならないと言えば嘘になるし私は構わないと答える。
「本当にお邪魔していいのかしら?」
「そんな、私たちも色々お世話になってますし……千聖ちゃんもOKしてくれたので」
「えぇ、私もお姉さんの噂はかねがね伺ってますので機会があれば一度はお話したいと思っていたんです」
「そうなのね、有難う。では改めまして、私はこころの姉の弦巻虚というの。よろしくね」
「ご丁寧にありがとうございます。白鷺千聖です」
ひとまず簡単にこころちゃんのお姉さんとお互いに自己紹介を済ませる。
のだがお姉さん、虚さんは何が気になるのか私の顔をじっと見つめてきている。
弦巻家の人間ならば芸能人が珍しいということもないのだろうし、何かしらね。
「……はぐれ剣客人情伝」
「えっ」
ポツリ、と呟かれた予想外の単語に思わず反射的に声を漏らしてしまう。
子役として様々な作品に出させてもらったのだけれど、その中でも一際記憶に残っている。
かつ、今となっては黒歴史と言う程でもないけれどあまり見られたいと思わない作品。
何故ここでその名前が出たのかは分からないけれど、もしかして……?
「御覧になられた事が、あるんでしょうか?」
「あぁいや、突然ごめんなさいね? そういう訳ではないの」
あまりにも脈絡がない発言を気にしたのか謝罪の言葉を放つ虚さんだけれど、私としてはそれよりもあの頃の作品を見られずに済んだという安堵の気持ちが勝った。
ならばどうして、という疑問が浮かぶ前に虚さんは、「ただ」と前置きをして衝撃的な言葉を繋いだ。
「どうやら私と千聖ちゃんは初めましてじゃなかったって思い出してしまってね」
「ふぇっ?」
今度は私よりも先に花音が声に出して驚いていた。
とはいえ私も顔に出ていたようで虚さんは穏やかに微笑みながら答えてくれた。
「千聖ちゃんは変わらず可愛いままだけれど、私は昔と比べると変わってしまったから無理もないわね」
名前も変わっているしと加えて言った虚さんは前髪以外の髪を後ろ手に一纏めになるように掴み上げる。
「私も、監督の遊び心でゲストとしてちょっと出演させてもらってたの」
どう? と先程の微笑みと打って変わった鋭い眼付きに触発されてか私の記憶も掘り返される。
『弓弦虚です。よろしくお願いします』
随分と昔で私も小さかったから全て思い出した訳ではないが、いくらか断片的に当時の記憶が感情と共に浮かんでくる。
――怖い人だと思った。
時代劇ということで殺陣の演技指導で撮影に度々顔を出していた先生。何やらその時はお弟子さんも同伴していて、監督も面白そうだということで突然出演が決まったらしい。
見学ならばともかく、たとえ1シーン1カットであろうと出演するならば共演者への挨拶周りは必要だ。
他の共演者さんは礼儀正しく、急遽決まった出演だというのに物怖じしない毅然とした振る舞いに概ね好感を抱いていたようだが、私は違った。
それは幼いからこそ人の態度に敏感だったから気付いたのか、そもそも私の気のせいかもしれない。
この人は、私に興味がない。いや、興味という言葉で済ませていいのかさえ分からないが、路傍の石ころ。彼女の人生という舞台において私はエキストラですらないと感じさせられた。
それを理解した瞬間、役者としての本能か何故か、怖かった。
そして今、何故私は子役として出演した数ある作品の中でこのはぐれ剣客人情伝に触れられると一際苦い気持ちなるのかも納得がいった。
「……千聖ちゃん?」
ある意味走馬灯のように頭の中で掘り起こされ流れた記憶のせいで呆けていた私を呼び起こしたのは、花音の心配する声だった。
「っ大丈夫よ花音。ちょっと思い出した昔の印象と違って驚いてしまってただけだから」
「そうなの? よかったぁ。すごく難しそうな顔をしていたからどうしたのかと思っちゃった」
誤魔化すように大丈夫と言ったものの、花音がそう言うということは当然虚さんにもそう見えた訳でもある。
いくら苦手意識があろうと失礼だったと口を開こうとしたのだが、先制する形で虚さんがパンと手を叩く。
「まぁ昔のことは置いておきましょう。それより、私はもっと千聖ちゃんたちの話が聞きたいわ」
ね? と悪戯げにウィンクしてくる虚さん。
先程の空気を払拭してくれた気遣いを察せない程鈍くもない私は有難くその流れに乗せてもらうことにする。
あれやこれやと気付けば時間は過ぎ、虚さんと花音とさよならをして帰宅。
そして現在、自室のベッドへと。
目を瞑りながら今日の会話を振り返る。
最初こそ思わぬ再会にどぎまぎしてしまったものの、終わってみればあの苦手意識はどこへ行ってしまったのかと思う程会話に花が咲いていた。
虚さんは聞き上手で私たちもつい話し過ぎてしまう程だった。しかし一転して虚さんが話し手に回れば興味深いことばかりで大変貴重な話を伺えた。
よくよく思えば虚さんは弦巻財閥の運営を担っている大物で、少し名前が売れた一介の女優程度の私がおいそれと同席出来る人物じゃない。
仕事の心構えやプロフェッショナルの考えは非常に為になり、お金では変えられない価値があった時間であったと今更ながらに思う。
それにしても――
「人は、ああまで変わるものなのね」
薫然り、私も人のことを言えた訳ではないけれど、そう思わずにはいられなかった。
第一印象は花音やイヴちゃんから聞いていた通り、優しそうで綺麗なお姉さん。
それが過去にある種軽いトラウマを与えられたと言っても良い人と同一人物だったなんて誰が信じれるだろうか。
今日とてこころちゃんの事を嬉しそうに話す虚さんの顔を思い出すと当事者である私でさえ到底信じられない。
人を人とも思えない価値観を持っていた人間が、あんなにも誰かのことを大切に思えるようになるなんて。
一体どんなことが起きればそんな変化が起きるのだろうか。
それとも、私が昔感じたモノは幼い子供が勝手な思い込んだ勘違いだったのではないか。
自らの感情を嘘だったと思えないが、その方がよっほど腑に落ちるというものだ。
まぁそんな小難しいことは置いといて。
――あんなにも愛されてるだなんて、こころちゃんが少し羨ましくなっちゃうわね。
色んなことがあったが目を瞑れば一番に思い浮かぶものは虚さんの笑顔。
女優としてこれだけは断言出来る、紛れもなく嘘のない暖かい笑顔だった。
ぼかしの入ってる部分は虚さんの昔の苗字です。
今までどうしようと思ってましたが丁度いいので今話書いてる途中に考えました。
案外いい思い付きだったと思います。
頑張ったらそのままでも読めるかもしれませんが、多分コピペすれば一発な気がします。