ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた 作:
再会というものはいつだって思い掛けないものである。
蘭ちゃんや千聖ちゃん、2人とも10年程前に出会っていたけれどもただ顔を合わせていただけ、知り合いというにも程遠い。
私にとっての再会は、こころたちハロー、ハッピーワールドに付き添って初めて訪れたCiRCLEにあった。
意外かもしれないけど、私はCiRCLEに来たのは日本に帰ってきてから数か月も経った今日は初めてである。
厳密に言えば、営業時間に付き添いとして来たのが初めてなだけだが。
そもそも、弦巻家にはスタジオがあるし楽器も一通りあるので練習に来る回数が少ないし、ライブだって病院や保育園などの施設や野外ライブが多い。
私がここに来たのは、黒服がうろついたり色々迷惑を掛けるかもしれないからとオーナーと顔合わせした時以来だ。
ミッシェル像を建てたり、足湯を作ったり関りは結構あるんだけどね。
学校だと黒服用の詰所があるので腰を落ち着けて他の作業が出来るからいいのだけど、CiRCLEにはそんな場所はない。
だからスタジオ練習の付き添いは警備員みたいに何か起きない限り待機しているだけで、私が行くのは効率的じゃない。スタジオ練習してる所を見たくもあるのだが邪魔する訳にはいかないしね。
今日はホントに偶々、気が向いたので営業中のCiRCLEがどんな感じか1回くらい見てみるかと思っただけだ。
だからこそ、そんな気紛れが呼び込んだ唐突の再会に驚いてしまった。
まりなちゃん!?
え!? 嘘めちゃくちゃビックリなんだけど!
あ! ごめんごめんカツラとグラサンかけてたら分からないよね。黒服にいきなり話しかけられたらそりゃ身構えるわ。
改めましてと、久し振り! 中学以来ですね!
卒業と同時に音信不通になっちゃってごめんね。あの時代だと中学生はあんまり携帯電話持ってなかったし引き取り先が弦巻だったこともあって連絡先を教えることも出来なかったの。
いやーそれにしても懐かしいなー。
親友? と言えるまでの仲だったかは分からないけど、私にとってまりなちゃんは数少ない友達だった。
中学の頃はホントに厨二病真っ盛りな時期だったし、変に優秀だったから周りから嫌煙されてたんだよね。
教師ですら最低限の接触しかしなかった位よ。
でもそんな中でもまりなちゃんは私に話し掛けてくれてたんだよね。出来た子だよ。
自分でも灰色の青春だったとは思うけど、それでも人並みの生活を送れてたのは事あるごとに話し掛けてくれてたまりなちゃんのお陰かもしれない。
当時は有難みを分かってなかったけど今なら理解る。
初めての会話はそれはもう酷かった。放課後たまたま教室でまりなちゃんがギターを弾いてて、あまりに音もリズムもズレてたからつい口を出してしまったんだよね。
なまじ音感が鋭いだけにズレた音にも敏感になってしまってたんだ。その時は2,3アドバイスして終わりだったんだけど、ここから私たちの交流は始まった。
音楽だけでなく勉強も教えるようになったり、剣道部での練習姿を見に来たりするようにもなった。
という訳で、まりなちゃんと再会は私にとっては結構運命的だったのだ。
まさかライブハウスで働いてるとはねー。でも納得かな、まりなちゃってほんとに音楽が大好きだったもんね。
10数年振りだというのに、いやだからこそか。
お互い一応職務中だというのに昔話で盛り上がってしまった。
なんと私たちの母校、剣道部が全国常連になっているらしい。
嘘でしょ。私の在学中部員私だけだったんだよ?
正確には私が入部してから皆辞めていったというだけなんだけど。
何やら事情を聴いてみると私に憧れていたという後輩たちが私の卒業後にこぞって剣道部にはいって活躍していたという。
なんで私が卒業してからなの、いる時に入ってよ。え、近付きにくかったって? くそぅ。
で、当時の顧問の先生が私の素振りしてる姿や試合やらを撮影していたビデオが今なお受け継がれていってるらしい。
それを目標にして日々練習してるとか。それで全国常連までなるのかすごいね君らの情熱。
しかし、これで一つ謎が解けた。
イヴちゃんが言ってたビデオの出処はここだな? 先生布教と言わんばかりに周りの人に見せてるらしいじゃん。
私的には黒歴史でもあるんだけどなー?
お、気付けばそろそろこころたちも練習が終わる頃合いだ。
少しとは言え話せてよかったよ。まりなちゃんはあの頃から変わらないでいい子だね。
え、私は変わったけど変わってない? 変わったというなら分かるけど、どういう意味?
優しい笑い方は昔と同じって?
私、あの頃も笑えてたんだ。
ふーん、そっか!
◆ ◆ ◆
私と虚ちゃんが友達と呼べる仲になったのは、中学の2年で同じクラスになってからしばらく経った時期だった。
それまでは同学年に才色兼備の天才少女がいるらしいって私が一方的に知っているだけの間柄だった。
同じクラスになった時どんな子なんだろーって遠目に見ることはあったけど、それはそれは日々つまらなさそうにしている子だった。
中学生になると制服というものを着るようになって、外に遊びに出かける範囲も広がって、先輩後輩っていう小学生の頃にはあまりなかった序列も増えて、私は自分の世界が広がっていく感覚がいっぱいで毎日が楽しかった。
だから、頭の良い子はよく分かんないなって思ってた。
けれどそれはある日を境に一変する。
とあるライブに行って音楽の魅力に惹かれた私は自分でもあんな風に演奏したいと思った。
なけなしのお小遣いでギターを買って、ウチじゃ防音なんてないから迷惑かもと思って学校の放課後の空き教室で試行錯誤四苦八苦という感じで練習していた。
「酷い音」
発している言葉とは裏腹に透き通るように綺麗な声が私の耳に届いた。
「音も、リズムも、弾き方もとてもじゃないけど見てられない」
「じゃあ、教えてよ。私だって中々上達しなくて悩んでるんだから!」
つい反射的に売り言葉に買い言葉で言ってしまったが、その相手の顔を見てしまったと思うも遅かった。
私の言葉を聞いた噂の才女――弓弦虚は私の持っていたギターを流れるような手つきで奪い去り弾き始めた。
口ではなんとでも言える。実際に弾いてみることがどれだけ難しいか分かるだろう。
きっとすぐに弦を抑える指が痛いとでも言うに違いない。そう思っていた。
が、聞こえてくるは最近流行りの曲のサビ部分。完璧だった。
思わず弾き終えた頃に拍手してしまったくらい。
この日から、私と虚ちゃんの中学校生活が始まった。
虚ちゃんの天才っぷりは噂以上だった。
テストは1位、部活の剣道でも全国大会優勝、文武両道を地で行っていた。
他にも色んなことを知ってるし、音楽に関しては先生と生徒みたいな関係だった。
何でも出来てすごい人だった。
何でも出来すぎて、他人から除け者にされてるって分かったのは友達になってからだった。
勿論、虚ちゃんがあんまり他人に興味を示さないのもあるだろうけど、根本的な原因は違ってた。
完璧過ぎて、一緒にいるのが辛くなっちゃうみたいだった。特に学校の先生や先輩たちがそうだった。
自分より年が下の女の子に何もかも負けてしまうのがダメだったようだ。
中学生なんて子供も子供、そんな子供に劣等感を感じる教師が腫れ物扱いするのもある意味当然だったのかもしれない。
そして、先生がそんな風に扱う虚ちゃんを同級生たちが遠ざけてしまうのも、当然だった。
だけど新入生、1年生の子たちからすれば虚ちゃんはとってもカッコいい先輩だった。
剣道の大会なんて応援に来る子たちでいっぱいだった。虚ちゃんは全然気にしてなかったけどね。
ああ見えて鈍い所は結構鈍いんだよ? 知ってた?
とは言え虚ちゃんの普段の姿は近寄りがたいというのも事実である。
きりっとした顔立ちで眼付きが鋭い。端的に言って、少し怖い。
そこがまた後輩からカッコいいと言われる所以ではあるんだろうけど。
ただ、そんな虚ちゃんも私が勉強教えてだの部活を見に行きたいだの言うと決まってこう言うんだ。
「仕方ないわね」
って、少し困った顔をして笑いながら。
そんなこんなで仲良くしていたんだけど、中学3年生に上がって少しした頃に虚ちゃんのお父さんが亡くなった。
お母さんも虚ちゃんがちっちゃい頃に亡くなってるらしくて親がいない。
そのせいか色々難しい問題があったようで学校も休みがちになっていった。
引き取り先が決まっても落ち着くことはなく、私もなんて声を掛けていいのか分からずにお別れも碌に言えないまま虚ちゃんはいなくなってしまった。
虚ちゃんの天才っぷりを知ってる私からすればいずれ有名になって名前を聞くこともあるだろうと思い10数年。
虚ちゃんは名前も変わって黒服で、こころちゃんのお姉さんになっていた。
今だから言えるけど、虚ちゃんは私にとって親友でもあって面倒見の良いお姉ちゃんでもあったんだ。
だからこころちゃんが少し羨ましくもあるけれど、今の虚ちゃんを見てると小さなことだと思えてくる。
短い間だったけど昔の話をしている虚ちゃんの色んな表情が見れて嬉しくなった。
それと懐かしさも相まって1つ虚ちゃんにお願いをしてみた。
「そうそう、今度また虚ちゃんのギター聞かせてよ」
虚ちゃんは少しだけ考えるそぶりを見せて返事をくれた。
「仕方ないわね」
困ったように笑う虚ちゃんを見て変わらないところもあるんだなって思っちゃった。
実は虚ちゃんのこの顔が大好きで色々わがまま言ってたのは内緒の話。
最後に、そうやって笑う所は変わらないねって言うと虚ちゃんは何故か驚いた顔をした。
どうしたんだろう、そんなにおかしなこと言ったかな?
なんて思っていると、私に今日一番の衝撃が走ることになった。
「そっか」
私も釣られて笑顔になっちゃうくらい、虚ちゃんのいたずらっぽい笑顔は素敵だった。