ハイスペックボディで2度目の人生満喫しようとしたら、黒服になってた 作:
お父様から妹付きの黒服になるよう言い渡された翌日、私は久々に弦巻家本邸へと帰ってきたのであった。実に一月振りである。
世界の弦巻、とまで評されるように国内外を問わず飛び回る私やお父様は10日に一度本邸に帰れればいい方であり、期間の長い時は今回のように一月も空いてしまうこともある。その前回であっても仕事の都合上近くに来たので、無理矢理スケジュールを調整してなんとか顔を出した程度。
ゆっくり会話を交わしたとなるとこころが例のバンドを結成するよりも前だったはずだ。
中学を卒業して弦巻の養子になった私だが、有能さが災いしてか高校には行かずにそのまま秘書見習いとなり、今ほどではないが家を空けることが多かった。
そのため義妹であるこころともあまりともに過ごした記憶はない。
見た目という点に於いてもハイスペックの私をしてもなお、こころはかわいい。
サラサラな金色の髪、爛々と輝く瞳、太陽のような笑顔。そして突然家族の一員となった私をお姉さま! と慕ってくれる無邪気な天使のごとくかわいい義妹。
こころが幼い頃からお父様は多忙で、私としてもこころにもっと義理とはいえ姉として接したかったのだが、遠縁とはいえ所詮は養子。それもお父様が半ば強引に決定した判断だったらしく私は有能で養子にした価値があると周囲に認めさせねばお父様に迷惑を掛けてしまう。
そう心懸けて頑張った甲斐があり、私は周囲に認められたのだが自分のことに精一杯だった。私とてもっとこころと遊びたかったのになぁ。
私は秘書見習いということでお父様と過ごす時間はこころと比べてそれなりにあったのだが、同時にそれがこころへの罪悪感にも繋がっていた。
実子であるこころよりも養子である私の方が父親と一緒に過ごす時間が長いなど普通に考えれば文句の1つや2つ、ワガママの3つや4つ出そうなものだが、幼いながらにこころは物分りが良すぎた。お父様の邪魔をしてはいけないと我慢していたのかもしれない。
いや、していたのだろう。その証拠にこころは私が少しでも忙しそうにしてる時は近付いて来なかったし、遠慮気味な態度がよく見て取れた。
今回の異動も黒服たちのサポートなんか建前で本当はこころの様子を見てきて欲しいんじゃないかと思っている。
お父様はいつもこころの写真を収めたロケットを持ち歩いていたし、結構子煩悩なことを私は知っている。
ここは私がお父様の代わりに精一杯かわいがってあげるべきだろう。こころを支えるのが私の役目なのだ。
と思っていたのだが、ナニコレ。
こころが結成したバンドの活動に目を通していたのだが、ミッシェルとかいう着ぐるみの権利やライブ活動に関する費用や手続きは良いとして、豪華客船・・・?
とんでもないことしてんね、こころちゃん。
そりゃあ黒服も大変だろうに。記録を見る限り即日即出発っぽいし。
金銭面では大した問題ではないがお金さえあればポンと船を出せるというものではない。いつでも港に停泊してるとは言えそれなりに手続きは必要である。
実はこころ付きの黒服は言わば野球で言う2軍のようなものなのだ。
こころの思いつきに対応出来ないようであれば、スケジュールが秒単位で刻まれているお父様の付き人など務まるはずもないということである。
けれども最近はスケールのでかい要望が増えたので対応が追いつかなくなってきて困っていたようだ。
そうだよね、今まではこころ1人だったのにお友達合わせて一気に5人分の用意ってなるとそれも仕方ない。
私としては中学の時とは違って高校では仲のいい友達ができた証明だと思うので嬉しいよ。
よし、というわけで現状の把握も出来たし本格的な仕事は明日からかな。
部下になる黒服たちも、長旅で疲れてるだろうから今日はお休みくださいと言ってくれてたしね。
今日は平日でこころはまだ学校みたいだし何しようかな。
そうだ、思えば長いこと触ってなかったがアレはどうなっているだろう。大丈夫だとは思うけど見に行こう。
思い立ったが吉日、私は即座に自室から出てアレがある部屋へと向かう。
そう、アレとはピアノのことである。
前世の私の唯一とも言える趣味であり心置きなく楽しめるモノだった。
外国というものを経験したから特に実感できたが、日本のサラリーマンは自由な時間が少なく休みの日でもないと外出などとてもじゃないが難しい。
自然と家で何ができるかと模索した結果たどり着いたのがピアノだ。
幾分年をとってから始めたせいか覚えが悪かったが、誰に強制されてやってた訳でもないし、アニメの曲や某シューティングゲームのBGMや好きなものしか弾いてなかったので楽しかった。人に聞かそうと思うと変に技術とか気にしたり緊張しちゃうじゃん? 誰のためでもなく自分のために自由に弾くのがとても心地よかったんだ。
友達とかにねこふんじゃっただけは弾けるっていう人いなかった? それの上位互換だと思ってくれれば分かりやすいと思う。ぶっちゃけ数十年経っても楽譜読むの覚束なかったしね。
という訳で昔取った杵柄と言うべきか、今生においても嗜む程度には続けていた。
ピアノが弾きたいと言えば高級感溢れるグランドピアノが用意されたのには驚いたがそこは慣れ、機会が少なかったがこころにも聴かせてあげたこともある。最初は誰かに聞かせる気はなかったんだけど、お父様からのお願いもあったし、キラキラした目でもっと聴きたいと言われたら断れる訳ないじゃん。こころに何かをお願いされるなんてこと滅多にないんだから。
どれ、調律や整備もしっかりされてたことだし時間もあるから折角だしちょっと弾いてこ。
最近忙しくて久々だったせいか弾いてるうちに楽しくなって夢中になってた。
気付けばもう夕方だ。そろそろやめようと手を止めたらパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
音のしたほうへ顔を向けるとそこには私の天使、こころがいた。
え、いつの間にいたんだいこころちゃん。
疑問を口にしてみると、どうやら1時間くらい前から聴いてたらしい。夢中でお姉ちゃん気付かなかったよごめんね。
でもありがとう、眩い笑顔で素敵な演奏だったなんて褒めてくれて超嬉しい。
あの曲が良かったこの曲の時は明るい気持ちになれたとか色々感想も言ってくれてまだまだ話したそうだったから私としても聞いていたいけど、こころは学校帰り。制服姿めっちゃかわいい。
ゆっくりこころの話も聞きたいし今日は夕食一緒に食べられるからその時ね、っていうと元気な返事とともにこころは部屋を去っていった。
ご飯を一緒に食べながら高校生活はどう? と尋ねるとバンド仲間のハローハッピーワールドのメンバーたちや、仲の良いクラスメイトと遊んだことなど楽しそうに話してくれた。この前なんて天体観測に行ったそうだ。楽しそう、私もこころと星空みたい。
しかし、黒服からの定期報告通り充実した高校生活を送れているようで何よりだ。
でもねこころ、ミッシェルはクマではなくその美咲という子なんじゃないのかい?
私の方も今日からはここで働くから基本的にこの家で生活すると伝えるとこころは、ならこれからは毎日一緒にご飯が食べられるのねと喜んでくれた。
流石に黒服としてずっとこころのことを見ていると窮屈だろうと思ったので少しぼかして伝えちゃったけど。
よし、かわいいこころに元気をもらえたし、これから頑張るとしようかな。
◆ ◆ ◆
「こころ様、本日より虚様が御自宅に帰られているそうです」
学校の帰り道、黒服の人からそう教えて貰ってあたしはとっても嬉しくなったわ。
この前に会ったのはいつだったかしら、もう1ヶ月くらい前だった気がするわ。
虚お姉様、お父様が今日からこころのお姉さんだよと連れてきたのは小学生の頃だったかしら。当時は養子とか難しいことはよくわからなかったけれど新しく家族が増えるのはとても良いことだと喜んだわね。
今もだけれどその頃からお父様は忙しくてあまり構ってもらえなかったけれど、時折弾いてくれるお姉様のピアノが何よりの楽しみだったわ。
近頃は機会もなかったけれどまたお姉様のピアノが聴きたいわね。でもお姉様はお父様のお仕事を手伝って忙しいのだからあまりワガママは言えないわ。
今日はどれくらいいられるのかしら、お話したいこともたくさんあるし一緒にディナーまでできるとハッピーねっ!
ハロハピのみんなや香澄たちと楽しいことをすることが増えたけど、お父様やお姉様といられないのはさみしいわ。
短い間でもなんとか時間を作って帰ってきてくれているのだし、本当はもっと会いたいのだけれどもお仕事で忙しいのに困らす訳にはいかないもの。
会えないことをかなしむよりも一緒に過ごせる時間をどう楽しむか考えるほうが良いに決まってるじゃない!
楽しみがあると時間が早く過ぎるとはよく言ったものね!
今日はいつもよりの帰り道が短く感じたわ!
使用人さんたちのお出迎えしてもらってあたしの部屋へ向かう途中、ふと懐かしい音色が聴こえてきたの。もしやと思い胸を弾ませてその音の元へとたどっていくと着いたのはピアノがあるお部屋。
扉は空いており中を覗けばそこにはお姉様の姿があった。
まさかさっき望んだばかりなのに、こんなにも早くお姉様のピアノが聴けるなんてとってもラッキーね!
黒服の人に座るものを用意してもらって特等席で聴かせてもらいましょっ?
お姉様はあたしが部屋に入ってきたのに気付いてないくらい夢中なのね。
昔からピアノを弾くお姉様の横顔を見るのがあたしはと~ってもだいすきだったわ。
真っ白で雪のように綺麗な髪に、宝石のような真っ赤な目。
透き通るような白いお肌。
お姉様は昔から落ち着きがあってあんまり笑顔をみることはなかったのだけれど、ピアノを弾いてる時だけはいつも楽しそうな顔をしているの。
奏でる音楽もそう、今にも音が形になってピアノから飛び出て踊りだしそうなくらいに楽しい音なの。聴いてるだけであたしの胸の中がふわふわして笑顔になっちゃうくらい!
昔にもっと多くの人に聴いてもらったらどうかしらとすすめてみたこともあるのだけれど
「私はね、誰かに聴いて欲しいから弾いてるのではなくて、自分が楽しいから弾いてるの。私の音は自分が楽しむためだけのもの、誰かのために弾いたらそれはもう私の音じゃないわ」
と言われてしまった。
その時はもったいないと残念がっていたけれど、その言葉の意味も今では分かる気もするの。
だってあたしは『お姉様の音楽』が好きなのではなくて、『楽しそうに音楽を奏でるお姉様』が大好きなんだものっ。
「と~っても素敵な音だったわお姉様!」
それにちょっぴりずるいかもしれないけれど、お姉様の音はひとり占めしたいって思ってしまうくらいあたしにとってトクベツなの!
「あら、いつからそこにいたのかしら? こころ」
「うーんと、1時間くらい前からかしらね?」
「そう」
お姉様はあたしがいたことに少し驚いた顔をするけども質問に答えるといつもの表情に戻ってしまった。お姉様にはもっと笑っていて欲しいわ。だから今のあたしの楽しい気持ちが分けられたらいいなって、弾いていた曲のわくわくしたところを伝えたわ。
「それとね! 最後に弾いたあの曲も」
「こころ」
伝えたいことがいっぱいあってお口が止まらなかったのだけれども、お姉様に名前を呼ばれて遮られてしまったわ。
「学校から帰ってそのままでしょう。いつまでもこんなところにいないで着替えてきなさい」
「はい・・・・・・」
そうよね、お姉様は忙しいんだもの。これからお仕事があるかもわからないのに、ピアノを弾き終わったところを引き止めて話し込んでしまっては迷惑よね。
思いがけず久々にお姉様のピアノが聴けて舞い上がってしまったわ・・・・・・
ほんの少し前までは晴れてたあたしの心も突然曇がかかってしまったようにしょんぼりしてしまって俯いて返事をすると、間も置かずお姉様の手が頭に添えられていた。
「今日は時間がたっぷりあるの。だから、その話の続きはディナーの時にゆっくり聴かせて頂戴?」
「・・・・・・ええ!」
頭を撫でられながら告げられた一言であたしの曇空は吹き飛んでしまった。
嬉しくてまたあとでと手を振りながら小走りでお部屋に向かってしまったわ。
やっぱりご飯は皆で食べるのがさいこうね!
いつもと同じものを食べているはずなのに今日は一段とおいしく感じるもの!
「学校はどう? うまくやれてる?」
「学校は楽しいわ! お友達もたくさんいて、楽しいことがい~っぱいなの!」
美咲やはぐみや香澄たち学校のお友達とお花見したことや、薫や花音、ミッシェルのハロハピの仲間たちと豪華客船に乗ったこと。
日菜や蘭につぐみ、学校の違うお友達と天体観測に行ったこと、ライブで感じたことや楽しかったことや色んなことをお話したわ。
お姉様はあたしが身振り手振りで話していると、時には頷いたり相槌をうって先を促してくれたりして聞いてくれてとても話しやすかったわ。
「今度はお姉様のお話も聞きたいわ!」
「そうね。私はこれからの話になるのだけれど、暫くはこの地域を中心に活動することになるわ」
「まぁ! つまりそれって・・・!」
「生活基盤はこの家に置こうと思っているから、お父様にも頼まれているし今までよりはもっとこころの面倒をみれると思うわ」
「じゃあ明日も! 明後日も一緒にご飯を食べられるのね!?」
「えぇ、明日明後日と言わずにこれからは出来るだけ毎日一緒に過ごせるように努めるつもりよ」
その知らせにあたしは思わず席を立って踊りだしそうになったわ。
今日一緒にディナーできただけでも幸せだったのにこれからはお姉様もこの家で一緒に生活するなんて!
いつ振りかしら!
これからは今までよりも~っと素敵なハッピーな毎日になりそうね!