現実の隊長が聖十郎にインストールされたんだが!   作:ルイレツ

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今日は合間にオカシイ文章を挟まない
聖十郎は好青年





VS夢切り国宗

 

 

時刻は朝に差し掛かったところだろうか。

一人の男がゆっくりと目を覚ました。

 

眠気を覚ました男は、寝具から起き上がり部屋の窓を開ける。

 

季節の変わり目に差し掛かり、春のせせらぎが聞こえてくる・・・

小鳥のさえずる声、暖かい風の音。

 

今日もその男―――聖十郎の新しい一日が始まる。

不思議と、充足感と心の軽さを覚えた。

 

「おはようございます」

 

部屋の外から凛とした声が投げかけられる。

この厳しさとしっかりとした芯を感じさせる声。

しかし、何処となくやさしい柔らかさがある。

 

男はその声色に心当たりがあった。

 

「ああ――夢切りか。起きている。入ってくれ」

 

失礼します―――

一言、扉の向こうの少女が伝えると、聖十郎の部屋に、ゆっくりと歩みを進めた。

 

その少女・・・夢切り国宗は、聖十郎と顔を合わせると、柔らかい笑みを浮かべる。

 

彼女は白藤色の長い髪をその表情のように、柔らかく広げており、同じ色の眉を優しく下げている。

目は意思の強さを表すように細目であり、緩やかな形の吊り目である。

その目は、髪の色を濃くした透明感のある紫色で、彼女の知性を表すように深く、鮮やかな色合いをしていた。

 

聖十郎は彼女に見惚れるように目を向ける。

暫くして、己が呆けている様をはっとしたように気付いた。

己の意思を切り替えるように彼女に話しかけた。

 

「おはよう・・・夢切り。今日もいい日になりそうだな」

 

まだ少し寝ぼけている様子の聖十郎に、夢切りは彼の体調を気遣う。

 

「夜更かしでもしていたんですか?あなたは皆の長、しっかりしてもらわないと困ります。」

 

朝起きてすぐに叱咤の声。

彼女の手厳しい言葉に聖十郎は降参するように手を広げ、苦笑した。

 

「起き掛けに厳しい言葉だが、肝に命じるとするよ。」

 

聖十郎の返事に彼女はまたやってしまったとバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「すみません。少し口が悪い事は自覚しているので・・・気になるようなら指摘して下さい」

 

彼女は純粋に反省している様子。

しかし、聖十郎は責める意図は無いとあわてて伝えた。

 

「いや、忠言に感謝しても責める気は全くない。君にはそのままでいて欲しい。」

 

その慌てた様子に夢切りはクスリと笑いをもらし、ならばこのままにしますと言った。

 

 

 

暫く和やかに談笑を続けていた頃。

ふと、聖十郎は気になった事を尋ねる。

 

「なあ、夢切り。さっきまで夢の中で君と一緒だったような気がするんだが・・・昨日は俺の夢の中に来ていたのか?」

 

夢切り国宗には特殊な力がある。

他者の夢の中に訪れて邪を祓うといったものだ。

 

 

 

 

その力の由来を語るには彼女の来歴を知る必要がある。

 

 

夢切り国宗の元々の名は備前三郎国宗である。

上杉謙信の護刀であり、当時は戦場に付き添っていた。

 

謙信の晩年、関東の名家である佐竹家の当主、義重へと譲られる。

(ちなみに佐竹義重の愛刀は八文字長義である。)

愛刀家の義重はたいそう喜んだらしい。

 

ある日、義重は城の櫓で眠っていると、大蛇に襲われる。

それを国宗で切り払ったところで彼は起きる。

 

目が覚めた義重は国宗を見てみると、いつの間にやら鞘から抜き放たれ、戸に立てかけられた格好になっていた。

 

夢切りはその時切り払った大蛇の力を借り、夢に干渉出来るようになったのだ。

 

 

 

 

つまり、その大蛇の力で、昨晩は自身の夢に訪れていたのではないか。

しかし、所詮は夢である。起きてしまうと記憶は曖昧になる。

確証が得られない聖十郎は夢切りに直接尋ねたのだった。

 

「覚えていないのでしょう?悪い夢だったのかもしれません。」

 

暗に夢に訪れてはいないと夢切りは言う。

納得できない聖十郎は首を傾げる。

 

「そうだろうか・・・君が夢の中にいたような、既視感があるんだが・・・」

 

再度問いかける聖十郎に、彼女はやれやれと幼子を諭すような表情みせる。

 

「・・・しつこい人は嫌われますよ。それとも―――口説いているのですか?」

 

その表情から一転し、誘惑するような笑みを唇に作る。

艶のある笑みを浮かべながら夢切りはそっと聖十郎に体を寄せた。

 

「お・・・おい」

 

その仕草に聖十郎の心臓は高鳴り動揺する。

 

彼がたじろいだのも束の間、夢切りはフッと優しく微笑む。

そっと聖十郎の髪を撫でる。

 

「寝癖がひどいですよ。」

 

手櫛で軽く髪型を整えてくれる。

聖十郎は彼女にからかわれたのだ。

 

「君にこんな一面があるとは思わなかったよ・・・」

「いいえ、あなたほどではないと思いますよ」

 

意味ありげに夢切りがいうと、髪を整えていた手を頬まで動かし、子どもをあやすように撫でる。

慈しむかの様子を見せる夢切りに聖十郎が硬直していると、頬の感触を十分に堪能したのか、夢切りはさっと身を起こした。

 

「さて、長話をしすぎましたね。朝食を用意しています。主は身支度を済ませてから来てください。」

 

そういうと夢切りは部屋から出て行ってしまう。

余りの切り替えの早さに、聖十郎は反応することが出来なかった。

 

 

 

任務や自分に厳しい夢切り。

そして、他者には厳しい口調でもやさしさのある振舞いをする。

 

そんな彼女だが、今日は何時もより距離が近く感じた。

表情がいつもより柔らかいし、

なにより今までスキンシップを取ることなど無かった。

 

何が彼女を変化させたのだろう?

疑問が生じた聖十郎だが、先ずは夢切りの用意してくれた朝食を食べようと着替えを急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

食器の音が響く室内。

聖十郎と夢切りの二人は食事の合間に今日の予定を確認した。

 

「今日は何をするんだったか・・・」

「今日の予定ですか・・・この後から喫茶店のモーニングの準備、午前中一杯めいじ館の喫茶店の営業を行います。昼食前に業務を他の巫剣に引き継いで、午後から禍憑の討伐に赴く手筈となっています。」

「成程・・・ありがとう。」

 

夢切りは予定を大まかに説明してくれる。

詳しい内容を聞けば答えてくれるだろう。

つらつらと淀みなく話すとの姿は聖十郎の秘書のようだ。

 

口では叱ってみせることの多い彼女だが、何か問題が起きても柔軟に対応する賢さを備えている。

その注意を促す口調は細かいところにも気を付けている証拠だろう。

 

今日一日、夢切りが十全に聖十郎を支えてくれる。

もちろんそれに甘えてばかりではいけない。

午前の業務へと聖十郎は意識を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の業務も終わり、時刻は夕方を過ぎている。

 

今日一日の仕事を夢切りに助けられた聖十郎は、礼の言葉を伝えに彼女の部屋に赴いた。

扉をコンコンと叩く。

 

「夢切り、居るか?」

 

程なくして声が返って来る。

 

「主ですか?今開けますね。」

 

扉の鍵がカチャリと音を立てる。

扉から顔を覗かせた夢切りは何があったのかと用向きをたずねた。

 

「なにか御用ですか?」

「いや、今日は世話になったからな。礼を言いにきたんだ。」

 

律儀な人ですねと夢切りは呆れたように呟く。

 

「わたしの部屋に来ても面白いことは無いと思いますが・・・どうぞお入りください」

 

聖十郎が部屋の中に入る。

中は夢切りらしい、整頓された綺麗な部屋だ。

 

聖十郎は自らが礼の品として持ってきたお茶請けを渡す。

受け取った夢切りは感謝をのべると机の上にお茶菓子をひろげ、急須から湯飲みにお茶を注いだ。

 

「わたしのところに来るなんて、主は物好きですね・・・悪いとは言いませんが・・・」

 

聖十郎が椅子に座る頃を見計らって温かい湯飲みを渡す。

ありがとうと彼が言うと何でもない風に軽く手を振り反対の椅子に座った。

 

「お礼の品はありがたく頂きます。・・・それと、ここにいたいなら、好きにして下さい」

 

礼を貰い、聖十郎と二人きりの空間に気恥ずかしくなったのか、視線を逸らして話す。

 

普段は利発な印象を与える彼女が恥ずかしそうにしている。

その様子がくすぐったく感じて聖十郎は微笑んだ。

 

「君と二人でいると落ち着くからな・・・そうさせてもらう。」

 

聖十郎の言葉は親愛を感じさせる、落ち着きを与えるものだった。

彼の温かい視線に夢切りは羞恥心から頬を赤らめる。

 

「主と二人きり・・・わたしでいいのですか・・・?」

 

当然であると彼は目に強い光を宿して答える。

 

「・・・当然だ。君との会話は気が安らぐ。隊長をやっていると気を張っていることが多いし、君との時間は貴重なんだ・・・それに、君の部屋に来れば美味しいお茶請けが食べられる。」

 

柄にもなく彼を意識していた夢切りは、茶目っ気を出して言う聖十郎に気を削がれ、言葉を返した。

 

「・・・遠慮を知りませんね。もう・・・子どもですか、あなたは。」

 

咎める口調ではあるが、目に優し気な光を携えており、頬は緩んでいる。

 

「そうかな?」

「そうです。」

 

二人はゆっくりと流れる時間の中で、他愛ない話を心行くまで続けた。

 

 

 

 

 

そろそろ眠る時間であると、寝具に腰掛け窓の外に見える星空を眺める夢切り。

彼女の目と同じ、深く透明感のある紫色の夜空だ。

夜空を眺めるその姿は、儚く幻想的な雰囲気を抱えていた。

 

ともすれば夜空に消え入りそうなその姿に、聖十郎は不安を覚え、その傍らに寄り添った。

 

「・・・急に触るのは良くないと思います。」

 

突然のことに戸惑いを隠せない夢切り。

 

「すまない。君が消えてしましそうで不安になったんだ・・・」

「・・・?どうしたんですか?」

 

視線を夜空から聖十郎に向ける。

不安そうに眺める彼に、困ったような笑みを浮かべた。

 

夢切りは力を弱め、聖十郎に体を預ける。

不安を携えている表情の聖十郎。

しかし、夢切りの肩に腕を回し、しっかりと抱きとめる。

徐々に抱きしめる力を強める彼に、夢切りは胸に抱き抱えられる態勢になった。

 

「・・・いけない人。からかうのはほどほどにして下さいね?」

 

無言で抱きしめる聖十郎。

その必死な様子に愛しく思う夢切り。

彼女は首にゆっくりと手をまわし、聖十郎を優しく抱きしめた。

 

「甘えたがり、なんですか・・・?」

「・・・そうかも、しれない。」

 

そのまま寝具に体を倒した二人。

心が安らぐまでずっと、抱き合っているのであった。

 

 

 

「・・・落ち着きましたか?」

「・・・ああ。迷惑をかけた。」

 

突然抱き着いた聖十郎を、嫌がる様子もなく受け入れてくれた彼女。

普段ならこのようなことをしなかったはずの聖十郎。

それを自然と受け止めてくれた夢切り。

以前の彼女なら簡単にあしらわれて終わるはずだったのだが・・・

 

このような関係に進展した記憶など全くなかった聖十郎はわずかに疑問を覚えた。

 

「迷惑だなんて思いませんよ・・・あなたが望むなら、好きなだけこうしていましょう?」

 

魅力的な提案をしてくれる。

しかし、何時までも彼女に甘えているわけにはいくまい。

聖十郎はゆっくりと体を離す。

夢切りは、名残惜しそうに首にまわしていた腕を解いた。

 

「すっかり長居してしまったな・・・今日はここまでにしておこう。」

「そうですね・・・余り夜更かしをすると、悪い夢を見てしまうかもしれませんし・・・」

 

部屋を片付けたふたり。

 

また明日。

 

それだけ言い、聖十郎は手を振り自室へと帰っていく。

 

一人残された夢切り。

しばらくは寂しく佇んでいたが、この後の事(・・・・・)を思い出し、妖艶な笑みを浮かべた・・・

 

「ここまで尽くしたんですから・・・主にも責任を取ってもらいますよ・・・?」

 

部屋の扉を閉め、布団へと潜る。

今日はどんな夢を見れるのだろうか。

期待に胸を躍らせた夢切り。

しばらくしてゆっくりと夢の中に入っていく(・・・・・・・・・)のであった。

 

 

 

 








続きます

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