現実の隊長が聖十郎にインストールされたんだが!   作:ルイレツ

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敦賀政宗VS笹貫

 

 

 

今日の聖十郎はめいじ館の喫茶店で業務を行っている。

 

何人もの美しく、華やかな巫剣に囲まれて仕事を出来るのだ。

幸せいっぱい感無量である。

 

 

 

素敵な巫剣の中でも、ひときわ輝く人物がいる。

華麗な蝶のように舞い、テーブルの間を春風のように進む姿。

 

彼女による劇が行われていると錯覚さえしそうだ。

 

彼女の名は敦賀政宗。

 

越前敦賀城主、大谷吉継の刀である。

 

大谷吉継は知謀調略に長けた男で、戦の前準備に置いて豊臣秀吉に信頼される程の人物であった。

彼はハンセン病を患っていたとされ、膿んで崩れた顔に包帯を巻いていた。

 

しかし、アッー!な噂が立つほど石田三成とは親しく、関ヶ原の合戦で光成が負けると知っても味方をした。

義に厚い男であったとされる。

 

 

 

大谷吉継とかかわりのある敦賀政宗も聡明で、仲間想いの巫剣なのだが・・・

聖十郎が彼女をじっと眺めているとその視線に気づいたのか、クルリクルリとテーブルの間を踊るように歩んできた。

 

「主様~!私になにかご用事でしょうか~?」

「・・・君の給仕する姿が美しくてな・・・まるで舞踏会で踊るようだった・・・つい、見とれてしまった」

 

聖十郎の言葉に目にハートを浮かべてキャーッと喜ぶ彼女。

 

「主様の視線を釘付けに出来るなんて・・・これは運命っ!主様っ!私をここから連れ去ってください~」

 

―――連れ去られた私は主様と一緒に白く大きなお城に住むんです~

 

なにやら妄想の世界に旅立ってしまった敦賀政宗。

 

彼女は童話や物語が好きなのだが、やや思い込みが強い。

聖十郎を「運命の人」「白馬の王子様」と一途に慕っている。

 

そんな彼女を好ましく思う聖十郎。

しかし、彼女が展開するメルヘンチックな世界はたまについていけない。

 

敦賀を現実世界に戻すために聖十郎は呼びかけた。

 

「敦賀、そろそろ戻ってきて欲しいのだが・・・」

「~♪それで~お庭で主様と白馬に乗って、一緒にお散歩に出かけるんです~」

 

重症である。

このままでは給仕に戻ってくれそうもない。

 

普段なら声が聞こえなくなるほど妄想にのめり込むことはないのだが。

今回は聖十郎の賛辞でとても喜んでくれたのだろうか。

 

どうすれば給仕に戻ってくれるだろう。

普通の会話では聞いてくれそうもない。

 

 

ピキィィン・・・!

聖十郎の頭に圧倒的閃きが走る!

別に妄想から戻らなくても給仕をしてくれればいいじゃないの。

 

閃きの光が目に灯った聖十郎。

自らの作戦を実行するために動き出した・・・

 

敦賀に歩み、その小さく整った顔に向かい合うように己の顔を寄せる。

 

「ああ、王子様~私を何処に連れて行って下さるのですか~?」

 

呼び方が王子様になってしまったが、妄想の最中でも聖十郎の顔は分かるようだ。

いまならまだ間に合うだろう。

聖十郎は彼女の顎に手を当て、クイッと目を合わさせた!

 

「今日は城の客人をもてなす大切な日。姫、そろそろ時間です。私と一緒に客人を迎えに行きましょう!!」

「その言葉を待っておりました~!姫はどこまででもついてまいります~!」

 

敦賀の手を引き来店した客を案内しに行く・・・

 

「いらっしゃいませ~!さあ姫、お客様を案内してくれ!!」

「はい~こちらへどうぞ~!」

 

テンションの高い二人に困惑し、引き気味の客だが、勧められるがままテーブルに座った。

 

別の客が注文を頼みたいようだ。

店員を呼ぶ声がする。

 

「ああ!お客様がお困りのようだ!聞いてきてくれるかい?」

「勿論です~!私の王子様っ!今、姫が聞いてまいります~!」

 

手を繋いだ二人はコマのようにまわって歩く。

勢いをつけて回転しその手を離る。

客席に向かってクルクルとまわりながら進んだ敦賀。

要件を聞いているようだが、何処かチグハグな会話をしている。

 

妄想が入っているため会話が少し噛み合ってない気がするが、注文は聞けたようだ。

 

聖十郎は一安心。

これなら給仕は大丈夫だろう。

 

二人はしばらく小芝居を続けて給仕をしたのだった。

 

 

 

 

 

仕事に一区切りがつき、休憩の時間。

 

敦賀を連れて聖十郎は出かけることにした。

ついでに食材が一部無くなったために買い出しも行うことにする。

 

「敦賀。外出するついでに食材を買おうと思うんだが、ついてきてくれるか?」

「はい~王子様~。私をお花畑に連れていってください~」

 

敦賀は夢の世界からまだ帰ってきていない。

彼女を元に戻すにはどうすればいいんだ・・・

聖十郎は頭を抱えたが・・・

 

―――でも、王子様と言われるのも悪くは無いな

 

自身を純粋に慕ってくれる敦賀。

もう少しこのままでもいい気がしてきた。

 

「姫、ともに参りましょう。」

「ふふっ。ずっと一緒です~」

 

仲良く手を繋いで町に出かける二人。

 

しかし、その去り行く後ろ姿を羨ましく眺める人影があった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ・・・このままではわたくしの姫としての立場が・・・」

 

彼女の名は笹貫。

月の姫を自称する巫剣である。

 

薩摩の波平行安(なみのひらゆきやす)が作った太刀であり、平安時代の古い太刀でもある。

波平行安は天下五剣の三日月宗近を打った、三条宗近に師事していたとも伝えられている。

 

行安が稀代の名刀をこしらえようと刀を打ったが、最後に集中が途切れる。

失敗したと感じた行安はその刀を竹藪に投げ捨ててしまう。

 

後日、竹藪を調べると、茎(刀の根元)が地中に埋まり、刃だけ上に向いた状態だった。

竹から舞い落ちた笹の葉が、何枚も貫かれていたため、笹貫と呼ばれるようになった。

 

 

古くからの伝説が伝えられる笹貫。

だが、何故か月から来た姫であると自称している。

 

彼女は、聖十郎の姫を名乗る敦賀政宗に強い危機感を覚えた。

このままでは聖十郎の姫としての居場所が奪われてしまうのでは・・・

 

「主さんのお姫様はわたくしです・・・!」

 

月の姫として威厳を示すため、二人が帰ってきてからビシッという事にする。

目をメラメラと燃やして心に決めるのであった・・・

 

「おーい店員さーん!注文していいかい!」

「は~い!只今お伺いしま~す!」

 

それとは別に、めいじ館の店番をしなくては。

笹貫は注文を取りに行った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきましたね・・・!主さんたち!」

 

給仕を続けて何刻か経った頃。

聖十郎と敦賀政宗はめいじ館に帰ってきた。

 

二人は腕を組んで歩いており、幸せそうな表情だ。

 

笹貫がヒーコラ給仕をしている間、二人揃ってイチャイチャしていたのだ!

最早一刻の猶予もない!

 

「主さんはわたくしの旦那様なのに・・・許せません!」

 

一言もの申そうとツカツカと二人に歩み寄る笹貫。

 

 

 

 

一方、聖十郎と敦賀はまだお姫様ごっこを続けていた。

周囲の目があるにもかかわらず、大げさに振舞って喋る二人は筋金入りのバカップルと言える。

 

敦賀は突如体をふらつかせて、聖十郎に寄りかかる。

 

「姫、どうなされました?」

 

ノリノリで王子様の演技を続ける聖十郎。

敦賀の妄想の世界に染まってしまったのだろうか。

 

「ああ・・・王子様~。姫はもう駄目です~」

 

町で買い出しをしただけで死にそうな声を出す敦賀。

何事かと聖十郎は彼女を腕に抱きかかえてその様子を伺う。

 

「このままだと魔法が解けてしまいます~。私は泡となり消える運命にあるのです・・・。」

「そんな!姫が消えてしまえば私はどうすればいいのです!!!」

 

悲壮な表情で嘆きの声を上げる聖十郎。役に入りすぎである。

敦賀は聖十郎の胸にそっと手を当てた。

 

「魔法が解けなくするには真実の愛が必要なんです~」

「ああ!姫の為ならばいくらでも捧げましょう!」

 

どうやら物語はクライマックスを迎えているらしい。

ぐったりと胸に倒れた敦賀を抱きしめ、悲しむ聖十郎。

真実の愛をどうしたら与えられるのか。

必死に訴える。

 

「真実の愛・・・それは王子様である、あなたのキスです~・・・」

「・・・ああ、分った!私の姫よ!今ここに真実の愛を捧げよう!!!」

 

そして、二人の顔は徐々に近づいていく・・・

目をつぶって聖十郎の真実の愛を待つ敦賀。

 

二人の影が重なるその瞬間!!

 

「ダメ~~~!!!!主さんの唇は!月の姫たるこの笹貫ちゃんのものです!!!!!」

 

聖十郎に全身で体当たりをブチかました笹貫!!

彼は盛大に吹っ飛ばされてめいじ館の壁に突っ込み穴を空けた・・・

 

「バカやろーっ!誰が直すとおもってんだ!!説教すっかんな!!!!」

 

他の巫剣の声が響く中、笹貫と敦賀は体当たりの衝撃でもみくちゃになって地面を転がった。

二人の影が重なる・・・

 

「んちゅ・・・ちゅぷ・・・ハァ・・・王子様ぁ・・・大胆です~・・・んちゅ・・・」

「ん―――っ!!!ン―――ッッ!!!!!!!!」

 

なんということでしょう・・・

敦賀は力一杯笹貫を抱きしめ熱烈ディープなキッスをしているではありませんか!!

笹貫は精一杯抵抗しているようだが、如何せん笹貫(標準)では敦賀(強撃)の力に勝てなかった。

 

「んん・・・はぁ・・・これで姫の魔法は解けません・・・んん?」

「ん―――!プハッ!!!はっ離れてください!!!」

「あら?王子様が笹貫様にみえます~魔法が変にかかったのでしょうか・・・ではもう一度~」

 

笹貫に接近する敦賀の顔!!

笹貫はなすすべもなく敦賀のキッスの餌食になるのか!

 

しかし、笹貫もやられっぱなしでは無い!

聖十郎の唇を狙う不埒な姫に反撃の狼煙を上げた!!

 

「こ、このぉ・・・月の姫を甘く見ないでくださいね!!」

 

笹貫は敦賀の唇に自分の唇を歯と歯が激突する勢いでぶつけた!!!

 

「あん!王子様、がっつき過ぎです~!」

「んんん!!ジュジュジュジュジュジュジュ!!!!」

 

何故か対抗心を燃やした笹貫。

とんでもなく喧しい音を立てて敦賀の唇に吸い付いた!

めいじ館の客はドン引きである。

 

「ちゅ―――!んはぁ・・・主様、最高でした~・・・」

「ン―――ブチュッ!わたくしの勝ちです・・・!」

 

笹貫は何に勝ったのだろうか。

 

勝ち誇る笹貫とウットリと目をつぶったままの敦賀。

二人はぐったりと抱き合いながら地面に突っ伏した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!」

 

説教から帰ってきた聖十郎の目にした先には、地面に倒れこんで唇を激しく貪り合う二人の巫剣の姿があった!

 

本来ならば自分が敦賀とイチャイチャしているはずだったのに、一瞬で笹貫に彼女を奪われてしまう・・・

余りの絶望に、聖十郎は地面に膝をつき、落涙するのであった・・・

 

「おしまいだ・・・おしまいだー!」

「いや・・・あるじ、さっさと止めてこいよ!」

 

さっきまで説教をしていた巫剣が地面に倒れた聖十郎を蹴り飛ばす。

しかし、混乱の極みにある聖十郎は、蹴りを物ともせずゴキブリのように地を這ってその巫剣にしがみついた。

 

「何をどう止めればいいんだ・・・!俺にはもう何も信じられないんだ!!!」

「離れろあるじ!うっとおしいかんな!」

 

縋るものが無い聖十郎。

意地でも離れぬと小柄な彼女にしがみつく。

観念したのか、彼女は聖十郎を抱えてしっかりと立たせると、ギュッと抱きしめた。

 

「あーもう・・・何があってもかんなは待っててやるから。ほら、行ってこいあるじ。」

「うん・・・」

 

敦賀達の惨劇に、すっかり幼児退行した聖十郎。

自分の腰くらいの高さしかない巫剣に縋っている・・・

 

隣では未だに笹貫と敦賀がすごい音を立ててキッスしている。

 

めいじ館は混沌とした空気に包まれた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敦賀・・・笹貫・・・何をしているんだ?」

 

ようやく立ち直った聖十郎は、地面でぐったりとしている二人に話しかけた。

幸せな表情をしている敦賀とは対照的に、笹貫はゲッソリしている。

 

「主様~・・・?どうして遠くのほうからお声が聞こえるんでしょう~・・・」

「主さん・・・どこに行ってたんですか・・・?」

 

何時までも地面に倒れて好奇の目に晒しておくわけにもいかない。

聖十郎は二人に手を差し出す。

 

「二人ともそろそろ起きてくれ。周りの目が痛い・・・」

 

そこで敦賀が目を開けた。

目の前の抱きしめている笹貫と、隣で手を差し出している聖十郎を前に、目をパチクリとさせている。

 

「私は主様と愛を確かめ合っていたはずなのに・・・どうして笹貫様が~・・・?」

 

今更自分が抱き着いていた相手が笹貫であったことに気付く。

正気に戻った敦賀。

先ほどまで唇を合わせていた相手は笹貫だったのでは・・・

サーと血の気が引いていく。

 

様子が変わった彼女に再戦の意志ありと見た笹貫。

 

「いいでしょう・・・わたくしも覚悟を決めました。主さん、そこで見ていてください!誰があなたの姫に相応しいかを!」

 

そのまま唇を窄めて敦賀にムチューッと顔を寄せ始める。

何故キスすることで相応しい相手を見定めることが出来るのだろうか。

笹貫の思考についていけない聖十郎。

 

「え?えー!さっ笹貫様、私のことが・・・!もしやこれも運命・・・!」

 

まさかの百合属性ですかァァァッ!!!

 

顔を赤らめて目を閉じた敦賀。

予期せぬ展開に聖十郎も固まった。

だが、これ以上めいじ館を混沌の渦に叩きこんでほしくはない。

 

タコのような顔で敦賀に迫る笹貫を引き剥がした。

 

「もういい!戦いは終わったんだ・・・休んでくれ、笹貫・・・」

「主さん・・・」

 

聖十郎の腕の中で力なく項垂れる笹貫。

そう、戦いは終わったのだ。

もう誰も傷付け合う必要はない。

 

「まだです・・・!まだ終わってません!」

「え」

 

まだキスし足りないのだろうか。

さすがの聖十郎も気が遠くなってきた。

 

笹貫はヨロヨロと立ち上がり、敦賀に宣言する。

 

「わたくしはあなたに負けません!誰が主さんの姫に相応しいか、勝負です!」

 

そう、二人がキスしたおかげで脱線したが、笹貫の本来の目的は敦賀を打倒しすること。

聖十郎に相応しい姫が誰かハッキリさせるのだ。

 

「ふふふ~そうなのですか~。ヒロインにライバルは付き物。その勝負、受けて立ちます~!」

 

ここに聖十郎の正当なる姫を決める戦いが起こる!

 

聖十郎は既にこれ以上の騒動は勘弁して欲しいので、ガックリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

気落ちしても事態が好転することは無い。

気を取り直した聖十郎は勝負の内容を聞いてみる。

 

「それでは、何の勝負をするつもりなんだ?」

「休憩に行く前の主さん達は、お芝居をしていましたよね?」

 

お芝居というと、敦賀が妄想の世界に旅立ったので行ったお姫様ごっこのことだろうか。

 

「それがどうしたんだ?」

「わたくしもやります!」

 

マジか。

お姫様ごっこは敦賀の地頭が何だかんだ優れていたから破綻しなかったのだ。

突飛な行動を取ったり、不思議ちゃんタイプの巫剣である笹貫。

彼女には難しいのではないか。

聖十郎は笹貫を気遣い、違う勝負を勧める。

 

「いや、今日は疲れたしな・・・別の勝負してはどうだろうか。」

 

一日中テンション高めで接客するのは勘弁して欲しい。

笹貫を見つめる聖十郎。

しかし、彼女は口をへの字に曲げて不満げだ。

 

「嫌です・・・勝負したいのです・・・」

「そんなこと言わないでくれ。な?」

 

中々強情な笹貫に聖十郎は頼み込む。だが・・・

 

「いやですいやです―!!!わたくしも主さんに姫って呼ばれたいんですっ!!!!敦賀さんみたいに華麗に踊りたいんですーー!!!!」

 

彼女は敦賀が羨ましかったらしく、自分も同じことをやりたいのだ。

聖十郎が構ってくれないと寂しいので、癇癪を起してしまう。

泣きわめく笹貫に聖十郎はこれは堪らないと折れた。

 

「分かった、分かったから落ち着いてくれ。笹貫は月の姫だろう?おしとやかにしないとな。」

 

月の姫はおしとやか。

その言葉は効果てき面で、笹貫は急におとなしくなる。

 

「そ、そうですよね!月の姫たるこのわたくしは常におしとやかです!」

 

今更取り繕っても遅いが、笹貫が騒がしくなり一安心。

腹を括った聖十郎は、王子様ごっこを開始する。

 

「よし、では始めるとするか。敦賀、俺たち二人はいないものだと思っておいてくれ・・・」

「いえいえ~主様~こちらはお任せください~。」

 

妄想をしなければ極めて優秀な敦賀に任せておけば、二人分空いてもなんとかなるだろう。

 

―――笹貫相手にどう王子として振舞おうか・・・

 

やると決めたからには本気で行く。

男聖十郎、全霊の王子様ごっこが始まろうとしていた・・・!

 

 

 

 

 

 

「ああ、姫よ・・・雲海に揺蕩う月の如し美貌の姫君よ!そなたの手を取ることを許して頂きたい!」

 

王子様というか殿様ムーブ全開の聖十郎。

熱の入った演技である。

 

「・・・ふ、ふん!月の姫であるわたくしの手を簡単に握れるとは思わないでくださいね!」

 

あれ?

笹貫の手を引いて給仕に回ろうとしたのに、出鼻を挫かれてしまう。

どうも笹貫が言う月の姫は高貴な存在なので、簡単に御手を許したりはしないらしい。

しかし、彼女の顔はニマニマと喜びを隠しきれない表情だ。

 

「姫よ・・・一日千秋の想いでそなたを待ち続けたのだ・・・!天上の琴を奏でるような美しき御手に触れなければ、私の心は張り裂けてしまうだろう!」

「ふふ、ふふふふふ!どうしてもと言うのであれば、わたくしのお願いを聞いてもらえますか?」

 

聖十郎の全力の姫扱いに嬉しくて嬉しくて仕方がない笹貫。

目尻が垂れ下がり、口は緩みっぱなしである。

 

聖十郎はさっさと笹貫を連れて、給仕に向かいたい。

笹貫は姫にこだわりがあるのか、手を引くには望みを叶えなくてはいけないらしい。

 

「そなたの望みを叶えることに、何の戸惑いがあろう!さあ笹貫姫よ!望みを聞かせたまえ!」

 

聖十郎のハイテンションな演技に、笹貫の興奮も絶頂に達した!

興奮のままに己の望みを伝える!

 

「主さんに望むものは!仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘―――」

「・・・ちょっ、ちょっと待ってくれ!!」

 

竹取物語の出自不明の品を求められても探しようがない。

聖十郎は待ったをかけた。

しかし、調子にのった笹貫は無茶振りを続ける。

 

「えー?主さんは月の姫たるこの笹貫の旦那様になる殿方なんですよ?これくらい持ってきてくれないとダメです!えーっと次の品は・・・」

 

いつの間にか笹貫の未来の夫にされている聖十郎。

お姫様ごっこが夫婦のおままごとに変わっている。

 

調子のビックウェーブに乗った笹貫の要求はエスカレートしていく。

 

「一日三枚恋文を送ってください!あとは、朝から夜までずっと一緒で、毎朝必ずおはようって起こしてください!それとそれと・・・」

 

当初の姫扱いも忘れたように自身の願望を恥ずかし気もなく言う。

聖十郎も置いてけぼりでマシンガントークを続けている。

 

ブチッ!

 

長い間笹貫と敦賀に振り回されて、聖十郎の精神がとうとう限界を迎えてしまった!

プッツンした聖十郎は、笹貫に歩み寄り、むんずと口を鷲掴みにした。

 

「わひゃ!主しゃん!」

「いいだろう・・・お前の願いを叶えてやる・・・!今日から旦那様だ・・・」

「ほんひょてしゅか!主しゃん!」

 

口に手を突っ込まれた状態で、気色満面な笹貫。

聖十郎は彼女を抱きしめて、正面から向かい合った・・・

 

「ああ・・・夫の頼み、笹貫なら聞いてくれるな?」

 

笑顔でコクコクと頷く笹貫。

聖十郎もそれを見て微笑んだが、一転して怒りの形相を見せる!

 

「無理難題、滅茶苦茶言ってないでもう仕事に戻れーーっ!!!!」

 

笹貫の尻を蹴り飛ばして客室に追い出す!

 

「うぅ!主さんは関白亭主だったんですかぁ!敦賀さんよりらぶらぶしたかっただけなのにーーっ!!」

 

調子に乗った笹貫に制裁を加えた聖十郎。

 

笹貫に姫扱いは早すぎたのだ。

 

敦賀との勝負、その決着は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の勝負、敦賀対笹貫。勝者は敦賀で決定!」

「そんなー!再審を要求します!」

 

そんなものはないと一蹴する聖十郎。

グズって半泣きになる笹貫。

 

敦賀はニコニコと微笑んでいた。

 

「うう~。勝者の余裕のつもりですか!次こそは月の姫の名に懸けて勝利を掴みとってみせます!」

「いえいえ~。そうではありません~。」

「うん?どういうことだ?」

 

敦賀は勝ち誇るわけでもない。

聖十郎の疑問に淡々と答えた。

 

「笹貫様は、勝利にこだわっていますが、本当は主様と一緒に居たいだけなのですよ~」

 

図星を突かれたのか、顔を赤らめて俯く笹貫。

ならば話は簡単だと、敦賀は提案した。

 

「この後主様とデートに行くと良いのではないでしょうか~」

「・・・いいんですか?」

「いいも何も、今日は主様とたっぷりらぶらぶ致しましたから、構いません~」

 

聞こえようには勝利者宣言にも捉えられるその発言に、笹貫はぐぬぬと顔をしかめた。

しかし、真面目な顔をした敦賀は前置きをして言う。

 

「でも―――笹貫様が好きだから主様を任せるんです~。だって、笹貫様も運命の人、ですから~」

 

その純粋な笑顔に同性でありながら、笹貫は見惚れた。

その事実が気恥ずかしく、打ち消すように振舞う。

 

「それでは遠慮なく主さんと出掛けますね!」

「行ってくる。敦賀も今度どこかへ行こう。」

 

二人は早速出かける準備をするために、自室へと向かう。

その後ろ姿に、敦賀は声をかけた。

 

「笹貫様~!主様一番の姫は譲れませんからね~!」

「わたくしだって!負けません!」

「それと~主様とのファーストキスを奪った罪は重いですよ~!」

 

―――今度責任取ってもらいますからね~

 

敦賀は不穏な発言をして、帰っていった。

 

一体笹貫は敦賀にどんな責任を取らされるのだろうか。

百合疑惑が浮上した彼女に取って食われるのだろうか。

 

しかし、満面の笑みでデートを楽しみにしている笹貫の前で考えるのは止そう。

 

聖十郎は、自身もデートを満喫するために、歩みを進めるのであった。

 

 

 

 






ホモの大名は多い・・・


まさか・・・
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