現実の隊長が聖十郎にインストールされたんだが! 作:ルイレツ
めいじ館の喫茶店が開く時間だ。
聖十郎は珈琲やモーニングセットの準備で忙しく働いている。
彼の姿を眺めながら桑名江は自身の下着を取り戻し、胸元に忍ばせた聖十郎の下着を返す算段を考えていた。
熱心に彼を見つめる桑名江。
聖十郎は下着を返してほしそうな彼女の視線に気が付かないのだろうか。
振り向きもせず精力的に働いている。
桑名江は声を掛け下着を返そうと考えた。
しかし、周囲には親しい巫剣たちが開店の準備をしており、慌ただしく動いている。
そんな中で聖十郎と下着の交換を行うなど、色々イケナイ噂が立ちそうで
どうしましょう!どうしましょう!
下着を返せず混乱する桑名江。
ウロウロと喫茶店を動き、仕事に手が付かない。
桑名江の落ち着きのない様子を見かねた巫剣が彼女に声をかけた。
「ちょっと、桑名江!そわそわしてるけどどうしたのよ。もう開店するわよ?」
「主くんに熱い視線を送って・・・もしかして愛の告白でもするのかな?」
「違います!渡したい物があって・・・その・・・」
わたくしが持っている主様の下着と、主様が持っているわたくしの下着を交換したいのです!
・・・などと目の前の巫剣に答えれば、ふしだらな行為に及んでいると邪推されてしまう。
桑名江は返答に困り、モジモジと言い淀む。
黄色の小柄な巫剣の少女は、分かっている分かっていると何度も頷き、一つの薬瓶を差し出した。
そのビンは透明で、中身はピンク色の得体の知れない薬液で満たされている。
いきなり取り出された薬瓶に桑名江は返事に困った。
取り合えずこれが何なのか聞く。
「これは・・・?」
「今、君が最も必要としている薬だよ。さ、主くんに飲ませるんだ。」
「牛王・・・あなたまた変な薬を作ったの?」
「変な薬とは失礼な。向学の為の薬さ。」
少女は桑名江に怪しい色の薬を手渡す。
効能が分からない薬だが、ついつい受け取ってしまった。
しかし、どのような効き目が出るのか分からない薬を聖十郎に使う訳にはいかない。
彼女に効能を聞くため桑名江は話しかけたのだが―――
「あの、牛王さん、この薬の効き目は――」
「そこの三人。さっきからお兄様ばっかり働かせて、いーいご身分ですね・・・」
雑談をしていた三人を見かねて褐色で背の低い少女が黒い気配を立ち昇らせて近寄って来る。
桃色の少女は、話しかけてきた褐色の少女の気迫に押されてたじろいだ。
「う、北谷・・・」
話しかけてきた少女の名は
沖縄出身の巫剣で、聖十郎の恋人の座は自分のものだと公言して
普段は物腰も柔らかく、気配りも良く接してくれるのだが、聖十郎が関わると途端に攻撃的になり、彼に近寄る巫剣を挑発等をして牽制するのだ。
どうやら聖十郎を働かせて遊んでいるように見えたのだろう。
怒りの鉄槌を下さんと怖い笑みを浮かべている。
彼女は桑名江を目の敵にしており、真っ先に
「特に子豚さんはさっきからお兄様に色目ばかり使って何を考えているんでしょうか?」
「・・・すみません。」
子豚扱いされてムッとした桑名江。
しかし、上の空だったのは事実なので素直に謝った。
何時もは売り言葉に買い言葉で口論になる二人だが、桑名江が謝ったので北谷は引き下がった。
「今日はやけに素直ですね・・・。ならいいです。皆さん、もう開店しますから持ち場に着いて下さいね?」
「おーい、北谷!少し手伝ってくれないか!」
「は~い❤今参ります、お兄様❤」
聖十郎に呼ばれた北谷は態度を180°急変させ、猫なで声で彼の元に走った。
去っていった北谷。
残された三人の巫剣も仕事を始める。
「やっぱりアイツ怖いわね・・・」
「おや?城和泉は北谷が怖くて堪らないのかな?この薬を飲むといい。怖いものなんて無くなるよ?」
「要らないわよ!どうせまた変な副作用があるんでしょ!」
「そんなことは無いさ。ほんの少しだけ興奮作用が有るだけだよ?」
「怪しすぎるわよそれ・・・ほら、もう仕事に行きましょう。お客様が来たわ。」
カランコロンとお店の扉が開く音がする。
めいじ館の営業開始の時刻だ。
二人の巫剣は接客に向う。
一人残された桑名江。
手元に残された用途不明の怪しい薬と、胸元に挟んだ聖十郎の下着。
厄介事がまた一つ増えてしまい、今日は厄日になるのかもと気が重くなった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか―――」
店が開き、徐々に客席が埋まる。
桑名江は喫茶店の接客を行っていた。
飲みものの注文を受け、客席に運ぶのだが・・・
胸元の聖十郎の下着に意識が向いており、時々上の空となっていた。
案の定気が抜けた様子を北谷から指摘される。
「桑名江さん?接客に集中できてないみたいですけど、またドジしてお兄様に迷惑をかけるんですか?」
「そんなこと・・・きゃあっ!」
北谷の指摘は遅かった。
急に声を掛けられた桑名江は足をもつれさせ転倒してしまう。
「ちょ・・・!」
後ろに立っていた北谷は、桑名江の運んでいた飲み物が掛かってしまう。
それどころか、彼女に巻き込まれる形で押し倒される!
桑名江のスイカのような胸に顔を挟まれて呼吸も出来ない。
手足をバタバタ動かして脱出を試みるが、体格が違い過ぎて身動きが取れない!
「ああん!北谷さん!動かないでください!」
胸元で激しくもがく北谷の顔に桑名江は体が反応して動けなくなる。
北谷がもがくほど胸の谷間に顔が沈み込んでいく。
まるで底なし沼に沈むようだ。
北谷が酸欠状態になり、動きが弱まった。
抵抗が弱まり、やっとの思いで体を起こした桑名江。
暴れまわった北谷のお陰で胸元がはだけている。
客前で粗相をするわけにはいかない。
慌てて胸元の着崩れを直した。
桑名江の谷間で窒息しかけた北谷は、立ち上がり、息を荒くして詰め寄ってくる。
「今日のドジは何なんですかぁもうっ!この無駄に大きい胸はきっとわたしをあの世に送るために付いているんでしょうね!この雌牛さん!」
「い、痛いです、北谷さんっ!」
積年の恨みとばかりに桑名江の胸を鷲掴みにして詰め寄る北谷。
結構力が入っているらしく、桑名江は悶絶している。
痛がる彼女を見て溜飲が下がった北谷。
自分の服が、桑名江に掛けられた飲み物で濡れた感触に気付いた。
「はあ、もういいです。何か拭くものはありませんか?服が濡れましたので。」
「うう・・・胸を掴むなんてヒドイです・・・」
「何か言いましたか?」
「ごめんなさい!ええと、拭くものは・・・」
ドジに巻き込んでしまった北谷には頭が上がらない。
今日は反論することも出来ない。
桑名江は拭くものを所持していないか探した。
「これを使って下さい!・・・あ。」
彼女は何時も胸元の汗を拭く癖があり、胸元にハンカチを忍ばせている。
その癖で胸元に所持していた聖十郎の下着を、ハンカチと間違えて北谷に差し出してしまう。
ドジの上塗りであった・・・
「こ、これは!」
しかし、北谷は目の色を変え下着を受け取る。
桑名江の胸を握りしめていた手はすぐに離され、聖十郎の下着の感触を確かめるように両手で握りしめた。
血走った目で目の前の下着を分析する!
「この下着は、昨晩お兄様が12時間42分身に着けていた
興奮してズラズラと語る北谷。
桑名江は彼女が念仏のように唱える内容を一つも理解できず、呆然と立っていた。
暫くして、少しだけ冷静さを取り戻した北谷。
鋭い目つきで桑名江に詰め寄った。
「いくらですかッ!」
「え?」
「いくらかと聞いているんですっ!私を買収しようとはとんだ女狐ですね!!!」
何故北谷を買収する話になったのか全然分からない桑名江。
お金を貰う経緯も分からない。
取り合えず北谷を落ち着かせるために話しかけた。
「北谷さん。お金なんていりませんから、早く服を拭いたほうが――」
「タダでわたしに譲ってくれるんですか?一体何が目的なんです?」
どうも聖十郎の下着から話を逸らせない。
困り果てた桑名江だが、早く北谷の服を拭かなければ、彼女は風邪をひいてしまうだろう。
北谷の体調を思いやり、説得を続けた。
「私たちは仲間なのですから、疑う必要はないはずです!それよりも風邪を引いてしまいますから――」
「仲間ですか・・・!もしかすると、わたしはあなたのことを泥棒猫だと誤解していたのかもしれません・・・」
「ええと・・・」
桑名江のことを誤解していたと、晴れやかな微笑みを浮かべる北谷。
そして、親愛の表情と共にギュッと抱きしめてくる。
一体何の誤解が解けたのかサッパリ分からず疑問符を浮かべる桑名江。
北谷に抱きしめられる理由も分からずされるがままだ。
「仲間ならば、あなたの贈り物を受け取らない訳にはいけませんね。ありがとうございます。今度、代わりにわたしのお兄様コレクションを見せてあげますね!」
最後に強く桑名江を抱きしめると、北谷は満面の笑みで仕事に戻って行った。
お兄様コレクションとは一体何なのだろうか。
でも、北谷と仲良くなれたことに嬉しく思う桑名江。
心が弾むのを感じながら仕事を続ける。
しかし、聖十郎が自分の下着を持っているのを思い出し、アワアワと挙動不審に戻るのだった・・・