現実の隊長が聖十郎にインストールされたんだが! 作:ルイレツ
めいじ館の喫茶店で皆の熱い視線を浴びた桑名江と聖十郎。
一人トンデモない形相で眺める巫剣がいたが、二人の目には留まらなかった。
そして、二人は甘い雰囲気を纏いながら今日の仕事が終わるまで身を寄せ合っていた。
喫茶店ではイチャつく二人に口が甘くなる客が続出、ブラックコーヒーが飛ぶように売れたのだった。
「桑名江、もう閉店だ。そろそろ終わりにしよう。」
「主様・・・わたくしは離れたくありません・・・」
今日の喫茶店での仕事は終わった。
最愛の主である聖十郎と別れのハグを心行くまで続ける。
もはや周囲の巫剣の目をまったく気にしていない。
公衆の面前で聖十郎の屈強な上半身を晒しながら告白めいた誓いを立てられた桑名江。
もう、聖十郎以外目に入らない有様だ。
彼女は自分の下着を奪還することなどすっかり忘れている。
聖十郎は慈しむように彼女の頬に手を添えた。
「ほんの少しの別れだ。また明日会えるんだ、寂しくないさ。」
「・・・最後に、最後にギューッ!ってして下さい。」
桑名江のお願いに応え、力強く抱きしめる聖十郎。
甘い桑名江たちの雰囲気。
二人の姿が視界に入るだけで全身が砂糖に変わってしまいそうだ。
周りの巫剣はあまりの甘ったるさに二人を見ようともしない。
完全にいないものとして扱っている。
一人だけ妨害しようと策を練っている巫剣がいるようだが・・・
満足の行くまで抱き合っていた二人。
二人は名残を惜しんで別れるのだった。
一日の疲れを落とそうと、桑名江はめいじ館の大浴場へと向かった。
めいじ館の大浴場は大勢の巫剣が使うため、かなりの大きさである。
しかも、露天風呂になっており空を眺めて風呂に浸かることも出来る。開放感たっぷりだ。
「ああ!明日が待ち遠しい・・・」
桑名江は、先ほど聖十郎とはなれたばかりなのに早く会いたいと、心ここに非ずな様相だ。
先ほどの聖十郎とイチャつきを思い出しながらニコニコと顔を緩ませて風呂の暖簾をくぐる。
彼女は露天風呂の入り口にかかっている看板をろくに見ていない。
その看板には貸し切り使用中の文字が書いてあったが、見向きもせず中に入ってしまう。
「ふふ・・・。今日は主様とずっと一緒で幸せでした。この後凄い不幸が起きそうで恐ろしいです・・・」
露天風呂の脱衣所には人の影が見当たらない。
本来仕事終わりである現在の時間なら、何人か巫剣が利用していてもおかしくないのだが。
頭の中身が主一色の桑名江は気が付いていないようだ。
聖十郎に慰められるまで不幸を嘆いていたことなどスッカリ頭から消えている。
頬を手で抱えてイヤイヤと首を振る。彼女は未だに惚気から帰っていないのだ。
服を脱ぎ終わり脱衣所を出るのだが・・・
彼女は主との甘い情事を想像して挙動不審でくねくねと身を捩らせて歩く。
全く前をみて歩いておれず、直ぐにドジを踏んでしまいそうだ。
ガラガラと露天風呂への扉を開ける。
風呂場に人影は見えない。
桑名江が一番乗りで来れたらしい。
浴槽からは湯気が立ち昇り、暖かい熱が体を包み込み心地が良い。
「誰もいらっしゃらない?こんなに広々とお風呂を使っていいのでしょうか・・・?」
今朝から不幸続きだった反動で、幸運が更に舞い込んできたのだろうか?
誰もいない大浴場は開放感を伴っており、彼女の心を弾ませた。
浴槽は最後に入ろうと鏡台の前に腰掛け、自身の体に洗剤を付ける。
ふと、主に抱きしめられていた時を思い出してしまう。
脳裏に浮かぶ光景に、思わず口から悶えた声が出る。
「うう・・・主様・・・今頃何をしていらっしゃるのでしょう・・・」
「俺か?もうしばらく掃除に時間がかかりそうだな」
「あら?そうなのですか?では、わたくしもお手伝いを―――」
隣から聞こえた主の声。
掃除に取り掛かっているのか少し気だるげな声だ。
桑名江は主を気遣い手伝う気で声を返すのだが・・・
「ええ!主様!?どうしてここに!?!?」
何故か男である聖十郎がいる。
めいじ館は巫剣が多くいるために、露天風呂はほぼ女性に貸し切りのはずだが。
「さっきまで他の巫剣と清掃していたんだ。俺は大浴場を使えないから、今日は掃除の後に使わせて貰えるように頼んでいたんだが・・・貸し切りの看板がなかったか?」
彼は侵入防止で立てていた看板が目に付かなかったのかと、顎に手を当て不思議そうに首を傾げている。
「まあ、不運だったな。」
「ううう・・・見ないで下さいぃぃ・・・」
主に裸を見せまいと桑名江は体を縮ませる。
しかし、彼は桑名江の裸を前にしても動揺した様子が無い。
もしかすると桑名江の不運に屈しないという誓いを守るために鉄の自制心を纏っているのかもしれない。
「他の巫剣も早く風呂に入りたいかもしれない。俺も風呂に入ってしまうか。」
「あ!あの!わたくしはすぐに出て行きますのでっ!!!!」
「気にするな。」
彼の姿は清掃用具を片手で抱えているが、既に衣服を纏っていない。
鉄の自制心を纏った彼は、隣の桑名江にお構いなしで洗剤に手を伸ばした。
片手に抱えていたものを脇に置いて体を洗い始める。
体を隠していた桑名江は顔を真っ赤になる。
恥ずかしさのあまり、手で顔を覆い隠すのだが、どうしても隣の主が気になってしまう。
チラチラと手の平の間から隣を覗いてしまう。
平然と隣で体を洗っている主。
桑名江は体に洗剤の泡を纏ったまま挙動不審で視線を戸惑わせている。
聖十郎はそれに気が付いた。
「どうしたんだ?こちらを気にして。」
「あうぅ・・・主様は気になさらないのですか?」
「先ほど誓ったからな。この程度では動じない。」
不運に屈しないという誓いを守ってくれるところに嬉しい反面、桑名江が裸体を晒しているのに欠片も動じていない様子に、女の魅力が掛けているのかとガックリした。
主は再び体を洗い始めるが、桑名江は彼が気になって視線を向けたまま固まっている。
流石に桑名江に凝視されると体が洗いにくいのか、声を投げかける。
「なんだ?もしかして洗ってくれるのか?」
「はひ!!?」
聖十郎は苦笑し、彼女の緊張をほぐすために冗談めかして言った。
その冗談を真に受け混乱する桑名江。
―――もしかして主様は
自分の不幸とドジで主が入っている風呂に侵入したにも関わらず、これ以上彼に迷惑を掛けていいのか?
しかし、この好機を逃せば主と仲良くなる機会がいつ来るか分からない。
覚悟を決めた桑名江。
すっくと立ちあがり、彼に近寄っていく・・・
これからする行いに頭が茹で上がる。
その顔は上気して、目がトロンとしており酔ったような艶っぽい顔だ。
「主様・・・わたくしが、洗って差し上げますね・・・?」
「はは、冗談だよ。」
体を洗い終わった彼は洗剤を水でキレイに洗い流してサッサと浴槽に浸かってしまう。
取り残された桑名江。
覚悟を決めて近寄ったのに、冗談として一蹴され裸のまま呆然と突っ立っている。
「桑名江?湯冷めしてしまうぞ?」
「・・・・・」
女心を主に弄ばれ茫然自失になる桑名江。
主に冗談で片付けられた事実に立ち直れず、のろのろと体を洗うのであった・・・