現実の隊長が聖十郎にインストールされたんだが! 作:ルイレツ
前話でモブ扱いされたお姉ちゃんの逆襲
ここは帝都の外れにあるとある神社。
そこには先ほどまで聖十郎、童子切と同行していた巫剣の姿があった。
彼女の名は
神社生活が長かったために、趣味は神社のお参りである。
生まれが中々古いため、皆のお姉ちゃんを自称しており、時々おっちょこちょいなところもあるが、それも愛嬌。
お姉ちゃんとして、色々な巫剣に慕われている。
しかし、今日は童子切と自身のお姉ちゃんパワーの差を痛感。
神様に祈願し、童子切を超えると意思を強固にしようとしていた。
「神様神様!めいじ館の皆が幸せになれるように見守ってください!商売繁盛!家内安全!交通安全!開運招来!あとお姉ちゃんぱわーが増えますように~!」
最後の意味はよく分からないが、彼女は仲間の巫剣を案じる心を持つ優しいお姉ちゃんなのだ。
しかし、その祈願は徐々に雲行きが怪しくなっていき・・・
「神様神様!隊長殿ったら童子切さんばっかり頼っちゃって!私だってお姉ちゃんなのに・・・」
神様にお祈りと言うよりは愚痴をはいているように見える・・・
周りの皆に頼れるお姉さんとして振舞う童子切。
彼女に今日はお姉ちゃんとして敗北したが、次は負けないと対抗心と少しの嫉妬の炎を燃やす・・・
助真もお姉ちゃんとして頼られたいのだ。
「神様~!決めました!もっと頼れるお姉ちゃんとして精進します!どうかお見守りください!!」
童子切を超えるお姉ちゃんになる!
新たな宣言に燃える助真は賽銭箱の上にある銅製の鈴をガランガランと鳴らし、決意表明を鳴り響かせた。
「さて、こうしちゃいられないわね!早速隊長殿のところに戻って頼れるお姉ちゃんっぷりを見せてあげないと!!」
神頼みでスッキリした助真。
心は晴れたのだろうが、お姉ちゃんとしてどう振舞うのか全く考えていない様子。
それでいいのかお姉ちゃん。
思い立ったが吉日、聖十郎にすごいお姉ちゃんとして認められるために、めいじ館に急いで帰るのであった。
めいじ館に戻った日光助真は、神社パワーで頭がすっきりしたおかげでお姉ちゃんぢからを存分に見せつける方法を思いついていた。
「これからいっぱいお世話してあげるんだから・・・!待っててね~隊長殿!」
そう、聖十郎の身の回りをお世話することで、なんて素敵なお姉ちゃんなのだろうと見直してもらうのだ!
早速聖十郎の部屋に向かう助真。
――隊長殿はわたしのお世話で喜んでくれるかな・・・?
逸る気持ちを抑えながら、部屋の扉を開けた。
「隊長殿~!たっだいま~!お姉ちゃんが神社のぱわーを届けにきたよー・・・って・・・」
何とそこには体をくっ付けてゴロゴロと回って遊んでいる聖十郎と童子切の姿があった!
何という事だ。お姉ちゃんとして聖十郎にお世話しようと計画していたのに、既に童子切に先を越されていたとは!!
転がっている二人の様子から、如何わしい事をしていた感じはない。
純粋に遊んでいるように見えた助真。
お姉ちゃんとして先を越された悔しさ、聖十郎と楽しそうに遊んでいる様子に、お姉ちゃんの嫉妬ゲージはマックスを超えてしまう!
「ずるーい!!!お姉ちゃんもまぜてー!!」
転がっている二人に抱き着くように飛び込んだ助真。
そのまま三人で部屋をゴロゴロと転がる!
「おっ!助真ちゃんも来たの?じゃあ~どっちが主のことを参ったって言わせるか競争だよ!」
「ムムム・・・負けないんだから!」
皆のお姉ちゃんを自称している助真だが、さすがに童子切より年上ではない。
西暦1000年よりまだ前の生まれの童子切と1180年生まれの助真では年季が違った。
童子切の提案により、聖十郎争奪戦がここに勃発した!!!
皆のお姉ちゃんとして絶対に負けないと、助真は聖十郎の顔に体を押し付けて参ったと言わせようと攻め続ける!!
「隊長殿のお姉ちゃんは譲らないんだからーー!!」
「ちょっ!息できな―――」
聖十郎は助真の大きな胸に顔を押しつぶされて何が起きているのか把握できていない!
「助真ちゃん大胆ー!よーし!あたしも負けないよー!」
童子切は聖十郎を思いっ切り抱きしめて主導権を握ろうとした。
助真の胸からすっぽ抜けた聖十郎は童子切と勢いのまま壁に激突した!
「あははは!主はあたしのものだよー!」
「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」
「ダメダメッ!隊長殿はわたさないわーーー!!」
更に聖十郎達に向かっていく助真。
童子切から奪おうと必死で聖十郎に掴みかかる!
ドタバタと激しい音を鳴らして聖十郎を取り合う二人。
夜も更けているのに周りのことなどお構いなしの大騒ぎだ。
二人を止めたい聖十郎。
でもちょっと二人のいろんなところを触れて役得だしどうしよっかなー
聖十郎がしょうもない理由で悩んでいるところにそれは起こった。
「うるせぇぇぇぇ!!!!今何時だと思ってんだ主!!!」
タヌキのぬいぐるみを三匹連れた少女―――
普段はタヌキならぬ猫を被っている彼女だが、非常識にも夜間に騒いでいる聖十郎たちに安眠を妨害されて、怒り心頭なご様子だ。
しかし、三人が床にもみくちゃになっている姿をみて、呆れた表情を見せた。
「あるじ―・・・それにけざねぇも・・・本当になにやってるの?童子切もいるんだったら二人の暴走止めてよね?」
「あっはっは・・・ごめんね?」
「むー・・・決着はまた今度ね・・・」
バツが悪そうに返事する童子切。
助実は決着を付けたかったのか不満げである。
児手柏の中では聖十郎と助実はすでに問題児なので、童子切にストッパーとしての役目を求めて声を投げたのである。
「はい!それじゃあ今日はお終い!あるじ・・・じゃなくって巫剣使いくんもお休み!」
今更呼び名を改めた童子切。
そそくさと自室に帰ってしまう。
聖十郎は助実の胸に顔を押し付けられてから呼吸が出来なかったのか、意識が朦朧としている。
「あれ?おーい隊長殿?どうしたの?お姉ちゃんのこと分からないの?・・・どうしようコノちゃん。お姉ちゃんどうしたらいいかな・・・」
「酸欠かよ・・・けざねぇ、あるじを布団に運ぶよ。このままにしてちゃまずいし。」
気絶寸前の聖十郎。
口ではウンザリだと言っている児手柏も、聖十郎を心配しているようで、助実と一緒に布団まで彼を運んだ。
「じゃあ私は帰るね~!けざねぇも早く寝るんだよ~?おやすみ~」
布団で寝かせておけばもう大丈夫だろう。
児手柏は助真も早く眠ってねと言い、帰っていった。
聖十郎を心配して残った助真。
彼の頭を優しく撫でる。
「ごめんね。お姉ちゃんがもっとしっかりしてればこんなことにならなかったのに・・・」
流石に聖十郎の体調を無視してはしゃぎ過ぎたと反省する助真。
しかし、朦朧としている意識でも、男聖十郎。気合を入れて声を出す。
悲しむけざねぇを放っておけねぇ・・・!
「けざねぇは悪くないよ・・・」
「隊長殿・・・!大丈夫なの?」
しかし、最後の気力を使い果たしたのか、聖十郎はそのまま眠ってしまう。
「隊長殿・・・」
気絶寸前でも助真を気遣う聖十郎。
その献身的な姿に、お姉ちゃんとしての不甲斐なさを痛感した助真。
このままじゃいけない。
―――お姉ちゃんとして童子切さんなんか目じゃないくらいブッチギリのすげぇお姉ちゃんにならないと・・・!
新たな決意をした助真お姉ちゃん。
「最強のお姉ちゃんは一人だけでいいわ・・・!」
しかし、お姉ちゃんの方向性が間違っていることを指摘してくれる人がいないのであった・・・
翌日の朝・・・
聖十郎は目が覚めると、昨晩の出来事が酸欠でほぼ記憶から消えていることに気がつく。
なにか楽しかったような・・・苦しい目に合ったような・・・釈然としない状態だった。
「昨日は何をしていたんだ・・・?」
首をかしげて考える聖十郎。
だが、後ろから声を掛けるモノがいた。
「おはよう!隊長殿!今日もいい天気よ!」
「助真・・・?いつからここに・・・?」
その聖十郎の言葉に、助真お姉ちゃんはズイッと顔を近づけて言った。
「けざねぇ。」
「は?」
「今日からけざねぇって言って!今日からお姉ちゃんは生まれ変わったの!」
どうやらけざねぇのポンコツっぷりがまた始まったのだと聖十郎は察した。だがそれが良い!
なにやら面白くなってきた。
聖十郎は助真の話ぶりに乗っかることにした。
「・・・では、けざねぇ。どうしてここにいるんだ?」
「今日からお姉ちゃんは最強のお姉ちゃんになったの!だから隊長殿の事を一番に起こしに来ました!」
分かったような分からないような。
昨日の童子切との会話を経てなにか思うところがあったに違いない。
聖十郎は取り合えず納得した。
取り合えず、起こしに来てくれるのはありがたい。
少し背伸びをして体を起こし、着替える準備を始める。
「着替えはどこにやったか・・・」
「ここよ!」
助真が事前に用意してくれていたのだろう。
いつものポンコツけざねぇらしからぬ手際の良さである。
違和感を覚えながらも礼を言う聖十郎。
「あ、ありがとう・・・」
「いいのいいの!だってお姉ちゃんは最強のお姉ちゃんなんですもの!」
最強のお姉ちゃんに強いこだわりをみせている。
昨晩何があったのだろうか。
聖十郎が昨日のことを思い出そうとしていると、誰かほかの人が自室に来たようだ。
「おっはよーう!あるじー!起きて―――あれ?助真ちゃん?」
「来たわね・・・お姉ちゃんのライバル・・・」
昨日と同じく童子切が起こしに来てくれたのだ。
童子切はお盆に朝食のおにぎりを乗せて部屋に入ってきた。
「昨日はごめんね!巫剣使いくん!助真ちゃん!これ、お詫びのしるしだよ!」
どうやら昨日騒いでいたことのお詫びらしい。
お盆いっぱいのおにぎりを渡してくれた。
聖十郎は昨晩の夜食に引き続き、おにぎりを用意してくれたことを童子切には感謝感激雨あられである。
「ありがとう、丁度お腹が空いていたんだ。」
「ぐぬぬ・・・頂きます。」
朝に起こし、着替えも用意して助真お姉ちゃんが一歩リードしたと思っていたが、童子切お姉さんはおにぎりを渡すことで即間を埋めにきたのである!
―――さすがお姉ちゃんが認めたライバル・・・出来るわね・・・!
一進一退の攻防に助真は相手を称賛し、鋭い視線を向ける。
童子切は別に張り合っているつもりはないらしく、助真の熱い視線を向けられて嬉しそうである。
「助真ちゃん、美味しい?」
「むむ!・・・美味しい。」
童子切のおにぎりを食べ、今回は負けを認めた助真。
勝利を掴むべく、次の作戦を練るのであった・・・
「さて、隊長殿!朝食を食べたことだし任務まで時間があるよね?お姉ちゃんが耳かきしてあげる!」
朝も早くから耳かき?
早朝に耳かきをするのは普通なのだろうか。
しかし、ポンポンと膝を叩いて催促してくる助真。これは膝に飛び込まざるを得ねぇ!!
自らの疑念は封殺し、さっそく助真の膝に頭を乗せる聖十郎。この膝の柔らかさ、うーん極楽。
「痒いところはないですか~?」
そのセリフは頭を洗うときに使う言葉では?
相変わらずツッコミどころ満載のお姉ちゃんである。
しかしながら、流石のお姉ちゃん。
普段のポンコツぷりが嘘のように慣れた手つきで耳かきをしてくれる。
腰を曲げて丁寧に耳かきをしてくれる姿はお姉ちゃんと言うよりおばあちゃんだ。
本人は年齢を気にしているため言うと怒るだろうが。
「次は反対よ。頭をごろーんってしてね。」
聖十郎があれこれ考えている間に片方終わってしまった。
この調子なら反対の耳もすぐ終わるだろう。
「ふっふっふ・・・お姉ちゃんの耳かき、どうだった?」
「最高だったよ・・・けざねぇ・・・」
至高の時間はあっという間に過ぎ去り、聖十郎は全身の力が抜け、リラックスしているようだ。
―――この勝負、お姉ちゃんの勝ちね!
童子切に対して勝ち誇る助真。
だが、その童子切が何処にもいないことに気付く。
部屋の外に目を向ける。
いつの間にか外に出ていた童子切が帰ってきたようだ。
姿を消していた童子切に聖十郎が問いかける。
「童子切?何処に行っていたんだ?」
「巫剣使いくんが気持ちよさそうにしてたから、その間に出来ることを終わらせてきたよ!」
時間は有効に使わないとね!
童子切は張り切って仕事をこなしてきたと語る。
とは言え耳かきをしていた数十分で出来ることは少ないだろう。
「ふふん!どんな仕事をしてきたの?」
ドヤ顔で助真は内容を聞く。既にお姉ちゃんとしての勝ちは揺るがないのだ。
童子切は微笑ましく見つめて、助真に言った。
「えーっと・・・めいじ館の掃除に荷物配達のお使い。後は着替えの洗濯に喫茶店の準備のお手伝い。それから工房の―――」
「ちょっちょっちょっと待って!短い時間でそんなに仕事ができるの!」
「え?気合と根性でなんとか」
気合と根性でできるのか。
童子切は天下に名を轟かせる名剣。その名に偽り無しという事だろう。
聖十郎は一人納得した。
「まだよ・・・まだ今日は始まったばかり。お姉ちゃん頑張るっ!」
助真はその仕事量の差に敗北を感じる。
最強のお姉さんの壁は高い。
ならばその壁を超える気合と根性で最強のお姉ちゃんにならんと奮起するのであった。
今日一日の仕事が終わった。
すっかり日が落ち周りが暗くなったころ、助真は聖十郎の部屋でぐったりとしていた。
「ううう・・・お姉ちゃん、童子切お姉さんに勝てないよぉ・・・」
助真お姉ちゃんによると、今日の勝負は連戦連敗。
さらに今日は張り切り過ぎて体力が無くなりダウンしてしまう。
「今日はお疲れ様。ほら、マッサージしてあげるから横になって?」
「はぁい・・・」
布団に横になってマッサージを受ける助真。
よっぽど疲れているのか、あれだけ対抗心を燃やしていた童子切からのマッサージを何の抵抗もなく受けている。
「大丈夫か?けざねぇ。今日は随分無理をしたんじゃないか?」
聖十郎も心配の声を投げかける。
無理をして倒れられてしまうと涙が三日三晩止まらなくなる!!
かなり大げさな聖十郎の内心。
助真は聖十郎の言葉に反応して顔を布団に埋めた。
「今日いっぱい頑張ったのに、童子切お姉さんに全然勝てなかった・・・お姉ちゃん、ダメなお姉ちゃんだから、けざねぇって呼んでもらう資格ないよぉ・・・」
うなだれる助真。
聖十郎はどうにかして励まそうと言葉を選んだ。
だが、マッサージの手を止めた童子切が助真に話しかけた。
「ううん、助真ちゃんも立派なお姉さんだよ。巫剣使いくんも一緒にいて楽しそうだったし、あたしも助真ちゃんと一緒にお仕事できて楽しかった。」
「お姉ちゃんも楽しかった・・・けど・・・」
納得はしてなさそうな助真。
童子切はそんな助真の背中をギュッと抱きしめると話を続けた。
「あたしはほら、ちょっとせっかちだから、自分で仕事を終わらせちゃってたけど、助真ちゃんは巫剣使いくんや児手柏ちゃんと力を合わせてお仕事してたよね?それって皆にお姉さんとして好かれていないと出来ないことだよ。」
「本当かな・・・?お姉ちゃん、ポンコツじゃないかな・・・?」
自信なさげな助真に、童子切は背中から離れて、活を入れるように叩いた。
「ほら、元気出して!お姉ちゃん!」
語り終えるとマッサージを再開する童子切。
力がこもっているらしく、助真は時々あいたたたと声を上げた。
「あたしもお姉さんだけど、助真ちゃんもお姉ちゃん!それでいいんだよ!」
童子切は二人ともお姉ちゃんだと言う。
助真はか細い声を出した。
「お姉ちゃん、ちゃんとお姉ちゃんしてる・・・?」
「ああ・・・今日のお姉ちゃんは最強のお姉ちゃんだったよ・・・!」
聖十郎が声を返す。
「お姉ちゃん、負けました・・・完全敗北よ・・・でも、お姉ちゃんはひとりじゃない。お姉ちゃんはみんなと一緒なら最強のお姉ちゃんになれるのね・・・!」
助真は満足げに微笑み、童子切のマッサージに身をゆだねた。
夜も更けて、今日ももう寝るだけとなった頃。
三人はまだ聖十郎の自室にいた。
というのも、せっかく仲が深まったのだから、三人で一緒に寝ようと童子切が提案したからだった。
「布団一つだと三人は窮屈だったかも・・・隊長殿、もっと詰めて~」
「いや、俺が真ん中だとどうしようもないんだが・・・」
「そっか?じゃあこうしよっか?」
童子切は聖十郎に跨ると、体をぴったりとくっ付けてた。
男聖十郎、感無量である。
「ああ~!ズルい!お姉ちゃんもしたい!」
「じゃあ半分こね!」
童子切と助実は聖十郎の足に自らの足を絡めて体が布団からはみ出ないようにした。
男聖十郎!至福の一時である!
「これなら暖かいか。」
「うん。もっとくっついちゃうね!」
「お姉ちゃんも・・・」
男聖十郎!!我が生涯に一片の悔いなし!!!
この調子で密着されると聖十郎は興奮して眠れそうにない。
この布団の中のようにこれからも三人仲良く支え合っていくのだろう。
おしまい。
めいじ館には何人お姉ちゃんがいるんだろうか・・・