世界は理不尽の塊
世界は血に染まる
世界は混沌を望まん……
二人が立つ場所は、ラギュナスの本部全体が見える高台。
レニアスレルナスに帰還命令を受け、戻ってきたばかりである。
いつもなら、理不尽な粛清を避けるために、一刻も早く本部へ戻るのが恒例であった。
だが、今日は違った。
高台の上に固まるように立っていた。
「なんだよ……これ」
時覇は唖然としながら言う。
「…………」
横にいるシグナムは、動揺からか言葉が出てこない。
今、二人の目の前に広がるは、戦場の後。
鉄の焦げた臭いが散漫し、あちらこちらから煙が上がっている。
場所によっては、火が上がっている。
いる場所が場所だけに、詳しいことは判らない。
動きたくても動けない。
それほど二人には衝撃的な光景であるほど。
しかし、その均衡を崩す。
“時覇、生命反応だ!”
「! どこだ!?」
右の甲――ドゥシン・ケドを顔の前に持っていく。
“格納庫の密集地からだ。詳しくは、ついてから言う”
「シグナム!」
左を向く時覇。
「ええ!」
その言葉に頷くと同時に、時覇を抱え空へ舞う。
途中、風に混じって肉の焦げた臭いがする。
臭いが濃い方へ顔を向けると――黒焦げ、腕、上半身、下半身だけになったラギュナスのメンバーの遺体が転がっていた。
「――――」
吐き気が襲い、素早く口元を押さえた。
胃の中のモノが喉辺りまで出てきたが、同胞の亡骸が転がっている場所で吐くわけにはいかない。
この場は何とか堪える。
「大丈夫ですか?」
シグナムの問いに、頷き返すことしかできなかった。
ただシグナムの方は、記憶喪失とはいえ感覚的に慣れているのか、顔色一つ変えることは無かった。
しかし、どこかやるせなく、悲しい顔つきだったのは印象的であった。
そして、ドゥシン・ケドが指定した場所――格納庫の密集地へついた。
だがそこが、一番被害が多き場所であった。
数多くあった格納庫――地下も含め――のほとんどは原型を留めてはいなかった。
唯一、原型を保っていたのが5つほど。
五つの内二つは、半場崩壊気味。
残りの三つの倉庫は、ギリギリのバランスを保った状態で残っている。
建築にうといド素人でも危機感があれば、日が経てば自然に倒壊は必然だと見てわかる。
そんな中、数ある完全に倒壊した倉庫の一つの前に立つ。
「瓦礫、しか見当たらないが……ここなのか?」
“ああ、間違いなくこの地下から反応がある”
しかし、それらしき入り口は無い――以前に、建物自体が瓦礫と化している。
そして、探索魔法で検索を掛けようとするが、シグナムに止められる。
「手探りで探すしかないですね。確か、この倉庫は試作として壁などの材質にAMFを取り入れていたとか」
よって、手探りで探すことに。
「……手早くやるか」
「ええ、二手に」
「了解」
時覇は右へ、シグナムは左へと別れた。
だが、見渡す限り瓦礫、瓦礫、瓦礫……瓦礫の山もどきしかなく、手早くと言った割には中々進まない。
瓦礫を退かす――何も無い。
また退かす――何も無い。
さらに退かす――何も無い。
の、エンドレス。
おかげで、この作業だけで三十分は無駄にした。
ただ、その三十分の全てが無駄になった訳ではない。
地下に繋がる道は見つからなかったが、いくつかデータや資料を見つけることができた。
その場で確認しようとしたが、今は地下にある生命反応を最優先とし、懐やポシェットに詰め込んでいった。
シグナムも、両腰にあるポシェットに見つけた物を詰めていく。
それを繰り返して、十分後――瓦礫を退けると、不自然な壁と出会う。
「ん? これは……」
目先にあるのは、黒焦げになった壁。
しかし、その焦げ目から真新しい銀色のモノが僅かに輝いている。
気になって黒焦げの部分を掃うと、銀色のダイアルとその上にランプらしきものがあった。
一瞬悩み、
「シグナム! ちょっといいか!?」
呼ぶことにした。
さすがに、一人で決めるのは危険と判断する。
トラップだった場合、ケガをしてはシグナムに心配を掛けるからである。
シグナムは、すぐ飛んできてくれた。
時覇は、ここと指差す。
「これは……ダイアルか?」
「見るからにダイアルっぽいけど、な……」
そこで、シグナムはダイアルを回した。
「って、おい!?」
驚愕する時覇。
さすがはヴォルケンリッターの将であり、器量のでかい肝を持った戦士――騎士である。
ダイアルを回すと、上に設置されていたランプが点灯し――ガコンという音が聞こえた。
『え?』
無論、真下から。
地面が抜ける――重力の法則が発動。
重力の法則とは、多少違うが簡単に言えば、上のものが下へ落下する事。
結論――落下。
二人とも、瓦礫と共に。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……!!』
辛くも……問答無用で落ちていった二人。
落ちた穴の底は深く、奈落の落ちる錯覚を起こす暗さ。
光は、まだ見えない。
これから起こる出来事を、示しているかの如く。
その先は破滅。
しかし、まだまだ先のお話。
ふふふふふぅ、あぁはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ、はぁはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!
狂った声が、闇に響き渡る。
ただ残るは、狂いきった笑いと笑みのみ。
運命の歯車は、ついに狂い始める。
滅びという名の結果は、けして覆すことはできない道を、歩まなければならない。
この結果を覆す事は、すでに無くなっているのは確かである。
ラギュナスサイド編
第九話:死別
「うわぁあああああああああああああっ!?」
「おわぁあああああああああああああっ!?」
それぞれの雄叫びを上げながら落下していく、シグナムと時覇。
シグナムは時覇を抱き寄せると、飛行魔法を展開するが――ガラスが砕けた様な音を上げながら、無効化されてしまった。
「な!? レヴァンティン!」
“原因判明。この空間と壁にATFと同質のモノを感知しました”
その言葉に、シグナムは歯を食いしばる。
だが、時覇はあきらめなかった。
今度は、時覇がシグナムを右手で抱き寄せ、落下方向にある頭を起こして、アンカーを射出する。
しかし、アンカーは壁に突き刺さることなく、弾かれる。
「くそが! ――魔のカギ爪!」
空いている左手の甲から、物理と魔力で構成されたカギ爪が飛び出る。
しかし、魔力の光は頼りなく輝くが、気にしている暇もない。
よって、そのまま力強く無造作に突き立てる。
またしても弾かれる。
だが、諦める事なく壁に擦り付ける。
これで、多少は落下速度を、気休めだが軽減できる。
「時覇、大丈夫ですか!?」
「問題ない! っと、断言したいところだが、魔力が余り持たんかもしれん」
額に汗を浮かべながら答える。
時覇の魔力の質は、集約と放出に向いており、固形化のみあまり向いていない。
ただ単に不得意なだけで、固形化を維持する魔力の消費量は、普通の魔導士より若干高いだけである。
尚且つ、AMFの効果があるため、消費率は倍以上掛かっている。
「ちぃ! どこまで続いているのだ、この穴は!?」
毒を吐く時覇。
落下しながら、鳴り響く壁が擦れる音。
だが、正論でもある。
この穴に落ちてから、彼此三分以上は落下しているのである。
したがって、1秒辺り2メートル落ちた場合で計算すると――すでに、360メートル以上落下している。
もっとも、落下速度や重力の法則、落下物の重さなどの計算などもしなければならないが、簡単に表すと上の文になる。
“……そろそろ終点みたいですね”
ドゥシン・ドゥジェトが、呟くように言う。
『 !? 』
ハッとなる二人。
“しかも、ありがたいことにAMFの影響がないぞ”
今度は、ドゥシン・ケドの朗報。
「だったら――」
その言葉に同調するように、カギ爪の輝きと魔力が増し、壁を抉る力も増す。
抉る音も鈍くなり、減速率も僅かずつだが確実に上がっていく。
そして、落下先に僅かな光が見える。
どうやらそこが、この穴の出口だとわかった。
「シグナム、飛行よろしく!」
「はいっ!」
時覇は腰から肩に腕を回し、シグナムは腰へ腕を回した。
壁を抉りながら落下――穴から出て、壁からカギ爪が強制的に外れる。
正確には、抉りきった。と、言った方が適切だろう。
そこで、シグナムの飛行魔法、発動――するはずだった。
『なっ!?』
“いい!?”
全員――デバイスも含む――予想外の出来事に、驚きを表した。
ドゥシン・ケドの答えは、確かに当たっていた。
現に、『魔のカギ爪』の魔力は、先ほどとはうって変わって、しっかりと輝いている。
ならば、どうして発動できないのか?
答えは簡単である。
「げっ、壁の粉」
そう、先ほどまで抉っていた壁の粉が、周りに浮遊しているのである。
どうやら、『抉った』事が拙かった。
それに気がつき、シグナムは時覇を涙目で見、レヴァンティンは怒りのオーラをあらわにする。
最後に、ドゥシン'sは――我が子の失態を恥じるかのように、押し黙る。
既に、レヴァンティンには謝罪済みである。
で、足と頭がひっくり返る。
そして、シグナムは時覇を抱えるように、頭を胸に押し付ける。
「レヴァンティン、甲冑を!」
“パンツァーガイスト”
全身魔力に覆われるシグナム。
次の瞬間――衝突音と砂埃が舞い響く。
少し時間を遡り――倉庫の地下。
正式名は、第一級及び特級兵器処理・待機用極秘地下倉庫。
そこに、レニアスレルナスが仰向けになって倒れていた。
先の戦闘で、右足は消し炭となり、左足は引き裂かれ、左腕は瓦礫に潰された。
辛うじて残ったのは、血まみれの右腕のみ。
体は血まみれ、肺には棘が刺さっている。
未だに生きていることが不思議な状態である。
「ぐっ、がぁ……はぁ、はぁ――」
肺をやられ、呼吸が難しい。
出血も酷い。
助からない。
たとえ、助けが来たとしても。
すでに、致命傷にも関わらず、意識がハッキリしている。
これが、死への拒絶の本能なのかと悟る。
まぶたが次第に重くなってきた。
ゆっくりと目が閉じられようとした時、天井から削れる音が響いてくる。
次第に音は大きくなり、粉や欠片がポロポロ落ちてくる。
一分。
二分。
一秒一秒が、一分と錯覚するほど長い感覚が襲う。
何が来る?
何が落ちてくる?
敵?
味方――その考えは捨てる。
ここの場所は、あの二人には教えてないのだから。
ならば――死を受け入れることにした。
これ以上、苦しみたくない。
これ以上、情報は与えない。
これ以上、惨めな姿を晒したくはない。
音は次第に大きくなり、仕舞いには抉れる音が聞こえてくる。
でも、姿を確認してからでも遅くは無い。
最後に面を拝まなくては、未練が残るというもの。
だから、いつでも舌を噛み切る準備をする。
さあ――来い!
次の瞬間――衝突音と砂埃が舞い響く。
砂埃は次第に晴れ、人影が浮かび上がる。
…………え?
「時覇? シグナム?」
呼吸も難しいはずにも関わらず、間抜けな声を上げるレニアスレルナス。
「げほっ、げほっ……レルナか?」
せき込みながら、砂埃を振り掃いつつ現れる時覇。
続いてシグナムも、レヴァンティンで振り払いながら現れる。
「レルナ、だいじょ…………」
「そうしたのだ、とき、は…………」
どうやら、私の姿を見て驚いているらしい。
当たり前か。
「あら……遅い、お帰りじゃ、ないの? ご両人」
右腕を上げながら、にこやかに答えた。
「レルナ!」
「レルナスさん!」
瓦礫の山を飛び越えながら、私の近くに駆け寄ってきた。
ホント、元気のいい二人ね。
「今回復を! シグナムもた――」
私は時覇の手を握り、首を横に振った。
助からない。
アイコンタクト紛いな事をする。
時覇の顔をぐちゃぐちゃになり、声を上げて泣く。
シグナムも、目元を赤く晴らして泣いている。
私が男だったら、駄目男ね。女で良かった。
「れるな、いっ、だい……」
「泣か、ない……ちょっと、廃棄する物が、暴走して、ね。止め様としたら……この様よ」
残っている力を使って、時覇の頬を撫でる。
あ、血が付いちゃった。ごめんね。
私の手をそっとやさしく握ってくれる。
私は微笑み返し、シグナムの方を向いた。
「しぐなむ……散々振り回して、ごめ、んね?」
そんなに激しく顔を横に振らなくても。
「帰る場所、アナタにはあるのよ? ……いい、かげん、帰りなさい」
「……時空、管理局」
その言葉に、私は頷いた。
「――――――――! ――――――――!」
講義の声を上げる訳ね、シグナム。
しかし、何言っているの?
聞こえないよ、そんな声じゃ。
え、違うって?
ああ、そうか。
私の耳が壊れちゃったのね。
もっとキチンと、声を聞きたかったな。
あはは、そんな顔をしないで。
私に、二人の笑顔を見せてよ、ね?
最後のお願いくらい、素直に聞いてよ。
……そう、その笑顔。
シグナムも、もっと笑ってよ。綺麗なのだから。
ふふ、二人とも……自分の道は、自分で決めなさい。
体勢も、大儀も関係無い。
自分で進むことが大切なのだから。
もう……最後みたいね。
迎えが来たから。私の可愛い部下たちの迎えが。
最後に、私が使っていたデバイス……時覇、アナタに上げる。
アナタの手助けになるかもしれないから。
そして、シグナム。
記憶喪失でも、アナタには本当に帰るべき場所がある。
そこへ、帰りなさい。
……二人とも、反論は許さないからね。
これは、上官としての最後の命令。
嫌だ? 困らせないで。
お願い、未練は残したくないの。
……ごめんなさい。本当に。
そして――さようなら、ご両人。
行くわよ! 天国でも、地獄でも、私たちは自分の意思で進むのだから!
レニアスレルナスの体は、光となって消えた。
二人の――最後の部下であり、親友に見守られながら。
笑顔で送り、光となり消えた途端――大きな泣き声が地下倉庫を通り越し、外の倉庫あとまで響いた。
ミッドチルダ暦70年9月中旬。
レニアスレルナスという女性は、この世から姿を消した。
死亡原因――大量出血及び、肺に刺さった棘。
犯人――不明。
原因――廃棄処分機の謎の暴走。
しかし、後に暴走の原因が判る。
時空管理局特殊部隊の工作局員が潜入し、操作したのだと。
それを時覇が知るのは、同年12月初頭の事である。
ラギュナスサイド編
第九話:死別・END
次回予告
死んだ
友も、仲間も、居場所さえも……奪ったのはお前たちか?
ならば――奪い返すのみ!
帰ってこない事だと判っていても、貴様らだけは許さん!
ラギュナスサイド編
第十話:死合
に、ドライブ・イグニッション!
あとがき
まず、また前回の予告書き換えました。(汗
使用上の都合ではなく、何故かこの話へ。(号汗
で……書いといて何ですが、少し重い。
書いていて、胸辺りに違和感を覚えました。
今もそうですが。
多分、これを読むたびに違和感が再発するかも。
本当に酷い有様です。
いくらなんでも、ここまで酷い扱いは、家くらいでは無いでしょうか?
管理局……暗躍しすぎ。
他のサイトでは、ハッピーエンドだったのですが、こちらはバットエンド直球コース。
これは確定事項です。
で、次回は、特殊部隊との戦闘です。
バリバリ人が死にます。
グロくなるように、頑張って書いてみます。
あまりグロくなくても相愛で。
苦手なのです、グロテスク系統。
じゃあ、書くなって? 書かないと、続けられないんです。この物語。
ではでは。
制作開始:2007/4/12~2007/4/27
打ち込み日:2007/4/27
公開日:2007/4/27
修正日:2007/5/10+2007/9/27
変更日:2008/10/24