狂った螺旋曲を奏で
狂い笑い、狂い歌う……
狂った世界が今――開かれる
場所は、瓦礫と化した倉庫の地下。
そこに、ヒビだらけの待機モードのデバイスが一つ、ポツンと置いてある。
それを囲むように、二人の男女がいる。
男は、両手両膝を地面に付き、大きな声で泣いている。
女は、声を上げるのをこらえているが、涙はこらえることはできず、頬を伝う。
デバイスの名は『フィン・ガンドライバー』。
レニアスと呼ばれているロストロギアから生まれた、複製人間のデバイス。
複製人間の名は、レルナス。
かつて、ラギュナスの初の女性長となった人物。
しかし、所詮は複製。
本物にはなれず、別人にもなれない中途ハンパな存在。
だが、桐島時覇との出会いで、レニアスレルナスの人生は大きく変わった。
出会う前は、冷静かつ感情の薄い性格だった。
出会ってからは、初めのうちは時覇と二人きり、もしくは前でしか表情を表さなかった。そして、次第に感情を表すようになる。
時覇は手間の掛かる弟、シグナムは可愛い妹として、接するようになった。
時に明るく。
時にやさしく。
時に厳しく。
時に笑う。
時に泣く。
三人で分かち合い、三人でぶつかり合う――たった二ヶ月ほどの日々。
まさに『科学の魔法』ではなく、『奇跡の魔法』が掛かったように。
まさに、夢の様な日々。
こんな日々が何時までも続くと思っていた。
だが、永遠などこの世には存在しない。
夢は、何時か覚める幻想。
それは、如何なる形で終わるかという事だけ。
突発的に終わるのか、緩やかに終わるのか。
ただ、それだけの問題である。
今回は突然終わった。
義姉の様な存在であり、仲間でもあり、友でもある女性――レニアスレルナス。
時覇が今日まで歩んだ人生の中で、共に笑える人で最高であった。
ガラッ、と、後ろの瓦礫から小石が落ちる。
だが、それと同時に人の気配を感じ、デバイスを構えながら振り向くシグナム。
そこには、ダークブルーをベースにしたバリアジャケットを着た者たちが、そこに立っていた。
上着は、長袖と半袖以外には違いはないが、羽織るものはベスト、マントなどばらばら。
下もまたスカート、ズボンなど、こちらもまたバラバラだった。
ただ、装備からして、どこかの特殊部隊があると判った。
「……貴様らか」
シグナムが問いただす。
「さぁな。俺たちが手をくだした訳じゃないぞ」
デバイスを肩に担ぐ男が言った。
服装から見て――男が8人、女が3人。
計11人。
それに対して、たった2人……いや、シグナム1人。
時覇は――確認するまでもなかった。
喪失により、戦闘不可。
無理に戦わせても足手まとい。
下手すれば、2人とも即死。
結論――勝てない。
状況は最悪。
これで勝つことができたのなら、ラギュナスの『長』に相応しい存在といえる。
「シグナム……管理局の者が、我らに楯突く気か?」
しかし、無言のまま武器を構え――向ける。
それは――時空管理局に対する裏切り行為である。
そして同時に――主はやてを、裏切ることになる。
記憶喪失だから刃を向けるのではない。
非道ゆえ、邪道ゆえに、その行いをした者たちに対してのみに刃を向ける。
虫の良い考えだと判っている。
だが、この者たちは許しては置けない。
ただそれだけである。
「夜天の王も――タダではすまさん。シグナムは、我らが宿敵であるラギュナスの捕虜となる。挙句の果てに奴らは慰め者にした後、用済みとして処分された。と、報告するか」
リーダー格らしき――黒い剣、ラインらしきモノは淡く輝く緑色があるデバイスを持つ男が言う。
その言葉に、他の者たちもデバイスを展開し、構えていく。
だが、それを知っているのか、感じ取っているのか、時覇は四つん這いから動くことはない。
空気が重くなる。
そんなことはお構いなしに、何かが聞こえてきた。
「……………………」
発生源は、桐島時覇。
それに最初に気がついたのは、チャラチャラした服装の男だった。
「ん? おい、小僧。なにブツクサ言っているのだ?」
ニヤニヤしながら、その場にしゃがみながら問いかける。
リーダー格やシグナム、他の者たちは口を挟まなかった。
互いに判る――動けばやられる、と。
だが、チャラチャラした服装の男は、そんなことはお構いなしに言葉を続ける。
「何だ? さっき消えた魔力の塊のことで泣いているのか? はん! こりゃあ傑作! おい! 聞いているのか、小僧!? あんな塊のために涙を流せるとは、滑稽や呆れを通り越して、感心してしまうよ!」
「…………」
何かを呟く時覇。
しかし、距離や声の大きさの問題で、近くにいるシグナムですらハッキリ聞き取れなかった。
「はぁ!? 何言っているのだから聞こえませ~ん! もう一度、おねがいちまちゅ~」
完全に舐め腐った口調で聞き返す。
「……さい」
「はぁいぃ~? 聞こえないのですけど!? あ~、言葉がわかんないのでちゅぅね? かわいそうでちゅう~」
唇をタコのようにしながら言う。
リーダー格の男はともかく、近くにいる仲間は、完全に呆れ返っていた。
この男の悪い癖である。
赤ちゃんをあやすような口調で、相手の精神を逆撫でさせることに関しては、非常に長けている。
仲間内でさえ、度々問題を起こすほど。
魔力ランクB+。
平均より少し上を行った部類に入る。
しかし、保有ランクAAA-。
戦闘能力が高いことを示している。
時覇は無言で立ち上がる。
来るか。と、チャラチャラした男も、ゆっくり立ち上がる。
だが――それが命取りだった。
ラギュナスサイド編
第十話:死合
やっと立ち上がったか。魔力検索の結果――げっ、E-ランククラスしかねぇのかよ。
って、ことは――横槍入れなかったのは、これが原因かよ!?
はぁ~、ハズレかよ。
そう思っている間に、雑魚がこちらを睨みつけてきた。
チャラチャラした男はデバイスを構える。
「それじゃあ、はじめまちゅぅ――がはっ!?」
視界が揺さぶられ、胸の辺りに衝撃が走る。
そして、口から血が出る。
混乱する。
何が起きた!? なぜ痛い!? 体が言うことを聞かない!? 動かせない!? 動けない!? なぜ――しゃべれない!?
地面がどんどん近づいていく。
だが、そこはただの地面ではなかった。
暴走機体の残骸の破片がばら撒かれていた。
しかも、全て尖っている。
どんどん迫る。
たっ、助け――。
暗転。
激痛が襲い、1秒後――全ての感覚はなくなった。
シグナムは驚いた――正確には、唖然としていた。
敵も同じである。
たった一瞬で、チャラチャラした男の肺に風穴を開け、絶命させたのだから。
しかも、内部からの破裂。
魔法でも、こんな高度な技を使うには、それ相当な能力が問われる。
人体の計算。
座標の計算。
空間の計算。
それらの誤差の計算。
その他の要因も絡んでくる。
それを――指を鳴らしただけで、やり遂げた。
前から計算を行っていれば可能であるが、そんな素振りを一度も見せていない。
魔力反応すらなかった。
異常である。
ロストロギアの力によって、人生を狂われた人たちは多くいる。
だが、目の前にいるのは、たかがEランククラスの魔力を持たない男。
ロストロギアの力を借りても、何らかのワンモーションがある。
判りやすい例えを上げれば――魔法名である。
魔法名は、拳銃に例えるならば、いわばトリガーの役目である。
思って魔法が発動してしまうのなら、簡単に問題が起きてしまう。
攻撃魔法ならなおの事。
ある意味、全ての魔導師に共通するものである。
「あらかじめ設定し、発動条件を用意しておけば、簡単に行うことができる」
時覇は、呟くように言った。
その言葉に、一同は納得した。
プログラム化された魔法――科学として確立されている故、行うことができるモノである。
だが、データにするにも、容量が違いすぎる。
さらに言えば、今の時覇の魔力では発動は困難なはずであった。
「シグナム」
「なっ、なんですか?」
いきなりのことで動揺する。
だが、敵から目を反らさない。
「お前は離脱しても構わない」
その言葉に、シグナムは反論しようとするが、言葉で封じ込める。
「一つ目の理由は、こいつらを殺すからだ」
殺す。
よもや、時覇の口から出るとは思っても見なかった。
この二ヶ月間、『殺し』についての講義は一切受けなかった。
痛いのは嫌だ。
ケガはしたくない、見たくもない。
血も見たくない。
そんな事ばかり言って、逃げ続けた。
が、最終的には講義は受ける羽目になっている。
それでも、一度も使わなかった魔法を使った。
人を殺した。
「二つ目は、こいつらは腐っても管理局所属部隊――意味は判るな?」
その言葉で、察しがついた。
シグナムは、八神はやての騎士であり、家族でもり、時空管理局所属でもある。
すなわち、八神はやては自然に、何らかのペナルティを受けることになる。
しかも、敵対となれば、軽い処罰でないことは確かだ。
だが、シグナムは時覇の横に立つ。
「……確かにそうですが、今は……アナタと共に」
レヴァンティンを構えながら、淡々と答える。
「……判った。それと、アレを使うぞ」
『アレ』の部分を強調する。
その言葉に、シグナムの顔色が変わった。
それを察し、身構える特殊部隊一同。
それが合図となり、時覇は左手を掲げる。
同時にコアが光りだした。
空気中に拡散していた魔力が、どんどん集約されていく。
しかも、この部屋の壁には、あちらこちらにヒビが見える。
ここは地下――下手に強力な衝撃を与えれば、生き埋めは必然。
慌ててその場から離れる特殊部隊一同。
だが、リーダー格は、何か違和感を感じ取り、警戒しながらその場を離れる。
そして、左手を拳にし――地面を殴りつける。
眩い紫色の閃光と、鼓膜が張り裂けんばかりの炸裂音。
空気が震え、大気が乱れる。
地面が震え、壁が軋む。
壁が軋めば、亀裂が走る。
亀裂が走れば、強度が落ちる。
強度が落ちれば、壁は崩れる。
壁が崩れれば、天井が崩れる。
で――ここは地下な訳で。
「各自で退避しろ!」
それだけ言って、自分はさっさと撤退するリーダー格。
この部隊にとっては、いつもの事である。
弱き者に、生きる資格無し。
と、公言する連中の集まりの部隊。
天井はどんどん崩れ、瓦礫と粉が雨の様に降り注ぐ。
特殊部隊の面々は、上下左右を縦横無尽に動きながら、別の出入り口から地上を目指していく。
――爆発。
それにより、瓦礫が宙を舞う。
それと同時にリーダー格が、姿を現す。
続いて、特殊部隊の部下たちも姿を現していく。
その真下では、地面が揺れ、所々に亀裂が入っている。
このままだと地下は潰れ、クレーターができる。
だが、二人ほど出てこない。
何を戸惑っているのかと、苛立ちを覚え始めるが、そこで念話が入る。
(こちら7! 8が瓦礫に挟まって動けない――至急救援を!)
そこの言葉に苛立ちは冷め、どうでもよくなった。
コードナンバー7、8には、僅かに期待があった。
が、この部隊では馴れ合いは不要。
(こちら0。救援の必要なし、とっととこい)
最終通達。
せめて、7だけは一瞬だけ期待した。
これは一時的な気の迷いだと。
(救え――)
そこで念話を切る。
「非殺傷モード解除――真下へ一斉砲撃、用意」
その言葉に、次々とデバイスを向ける。
時覇とシグナムだけならともかく、部下がまだ残っているにも関わらずに。
失望の感情は一瞬だけ表れ、一瞬で消えた。
この時点で、7と8の存在はほとんど消えていた。
すでに新たな人材リストを、頭の中で思い浮かべる。
完全な切捨てである。
「隊長、コードナンバー7と8は――」
「ああ、空隊辺りから引っこ抜くつもりでいる」
「……了解。いいの、期待していますよ」
武器を構え直す部下。
これも、いつもの事である。
「撃て」
砲撃が開始された。
「隊長!? 救援を――くそっ!」
念話が途絶え、救援を見込めなかったと悟り――デバイスを瓦礫の下に差し込む。
テコの原理である。
だが、デバイス――片手杖タイプで、しかも機動力重視のために軽量化を図っている。
結果、強度はそれほど無いので、真ん中辺りでボキッ! と、音を立てて折れた。
「くそがぁ!」
デバイスの強度に怒りを覚える。
再び助け出すために、リカバリーをかける。
「アキュード、もういい」
その言葉に、顔を向ける。
「……行け」
コードナンバー8が言う。
「だが!」
しかし、無言で首を横に振る。
コードナンバー7――アキュードの口から、血が流れ出る。
己が無力をかみ締めたためだ。
そして、無言で敬礼し、振返って飛び出した瞬間――肺辺りが焼けるように熱くなった。
次の瞬間、一気に冷め、激痛が走る。
「――っか!?」
口から、盛大に血を吐きながら倒れこむ。
何が起きたか判らない。
コードナンバー8も、唖然となった。
それもそのはずである。
天井から、砲撃魔法が貫通してきたのであるのだから。
しかも、その砲撃の色は、我が部隊の隊長のモノだったから。
衝撃で天井は崩れ、アキュードは瓦礫の下敷きになり、絶命した。
「あ――アキュード!? ――きゃあぁぁぁ――」
彼女もまた、瓦礫の下敷きになった。
アキュードと彼女は両想いであったが、互いに想いを伝えられないまま、この世を去った。
親愛なる隊長の、非情な命令によって。
この二人の不運は、時空管理局に入った時からである。
リーダー格が、2人の秘めた能力に目を付けた。
ある程度経験を積んだら、この特殊部隊に来るように配慮。
2人の性格は悪くするために、裏工作をいくつも行った。
アキュードは、人間不信気味に。
彼女――ナーナもまた、人間不信気味に。
今いる部隊は安心できない。
そこへ、転属命令。
来たときに、人間不信を解消させて終わり。
同時に、非情さも教えたが、想いの前に無意味であった。
だから切り捨てた。
非情に成れぬ者には、この部隊にいる意味がない。
しかも、極秘部隊に近い存在ゆえ、外部に漏れる訳にはいかない。
よって、処分も含めた結果だった。
黒い煙は空へ上がる。
地面は大きく窪み、ガラガラと音を立てる。
風はただ吹き、傍観するのみ。
ただあるのは、瓦礫と化した基地後と大きなクレーターしかない。
それを眺めるのは、時空管理局の異端児の集いし部隊。
使えるものは最大限に使うだけ。
「生命反応ゼロ……海の連中に探索させますか?」
ウォーハンマーを軽く一回しし、肩に担ぎながら男が言う。
一回しする際、ブン! という音ではなく、ゴワァ! という音だった。
相当の質量を持つハンマー型デバイスである。
「ああ。だが、その前に円卓に報告しておかないと。現場判断でかまわないと思うが、連中に通さないとマズイからな」
「あ、だったら、ウチが入れますわ。えっちん婆ちゃんと会話したいさかいに」
大阪弁紛いの口調の女。
デバイスは、血のように赤い靴。
ただ、デバイスのコアは両腿についている。
「頼む」
「アイサイサー」
手を一回転捻り、敬礼をしながら返事を返す。
リーダー格は、振り向きながら呟く様に言った。
「ただ……」
「 ? 」
「反逆者シグナムと生き残りの男は、逃がしたと伝えておけ」
どこかを見据えた様な目をしながら、空を眺めていた。
黒く染まりかけた空……夜の空を。
草を踏みしめる音と足音が二人分。
辺りは暗く、虫が鳴く。
月は――3つ。
ここは、ラギュナス緊急避難世界の一つ。
草が生い茂る森の中、2つの影がある。
1つは赤き騎士。
1つはデバイスの鎧を纏いし者。
纏いし者は、赤き騎士に支えられながら歩く。
泣き声を殺しながら進む。
目の前で死んでいった、義理の姉を悲しみながら。
赤き騎士は、纏いし者を支えながら進む。
纏いし者を心配しつつ、今後のことを考えながら。
あの時、崩れ行く地下室で、敵が撤退したことを見計らいつつ、別室へ移動した。
時覇は、レルナスのデバイスを拾いつつ、シグナムを横道に先導。
その先に緊急転送装置が置いてあり、しかも起動中であった。
緊急用とはいえ、起動には最低でも1分は掛かってしまう。
だが、元からなのか、それとも偶然なのか。
いつでも転送が可能状態だったので、すぐに脱出できた。
そのあと、どことも判らない世界に飛ばされた。
ただ、森の中だったのが痛かった。
しかも、夜。
完全に方角が判らない。
下手に魔法を使うわけにもいかず、徒歩で移動することに。
だが、安心したのか、それもと緊張が途切れたのか――時覇はその場でうずくまり、その場で泣き出してしまう。
シグナムは、この場に留まるのは危険と判断し、時覇をゆっくり起こし、支えながら進み出すことに。
とにかく、身をある程度隠せる場所を探している。
シグナムはふと止まる。
前方にいい具合に生い茂った草と、大きな木があった。
さらに、木の根元には窪みができている。
隠れるのには最適な場所である。
時覇を励ましつつ、木の根元まで移動。
中を覗くと、それなりの大きさ――大の大人が三人は優に入れる大きさ。
中に入り、時覇をゆっくりしゃがませる。
少し見守り、外へ顔を出し、空を見上げる。
星は輝き、月は赤々と光る……血のように赤く。
これから起こる出来事を、映し出すように。
ラギュナスサイド編
第十話:死合・END
次回予告
シグナムが連れてかれてから5ヵ月。
一時期活動が停滞したラギュナスであったが、最近活動を再開。
管理局に協力的であり、好戦的でもあった。
世界は静かに、そして――
ラギュナスサイド編
第十一話:迷走深層
に、ドライブ・イグニッション!
あとがき
はい、死者続出。
次もさらに出る予定。
敵味方、正義と悪、光と闇――全てを合わせると、混沌。
どっちが悪だか微妙になっていきます。
相変わらず不人気のサイドですが、一部の方々には好評なので、うれしいです。
が、こういう話は、自分自身が余り好きではないです。
書いている最中に、胸の辺りが疼きます。
……時折痛くなります、何故?(汗
急展開になって行きますが、次回は『迷走深層』。
お楽しみに。
制作開始:2007/4/30~2007/7/6
打ち込み日:2007/7/6
公開日:2007/7/6
修正日:2007/7/19+2007/10/4
変更日:2008/10/24