悲劇は連鎖
怒りは暴走
なら、喜びとは?
シグナムが連れてかれてから――5ヵ月が経った。
当初は、全力で捜査に当たっていたが、他の事件やロストロギア関係の問題が発生。
全てを捜索に回すことは不可能になり、調査は停滞していった。
それから2ヵ月後――シグナムが死亡したという報告。
なのはたち――とくにはやてには伏せるように頼んだのだが、自体は急変したのだった。
「ふぅ~」
椅子に背を深く沈めるクロノ。
「クロノくん、お疲れ様」
エイミィが、デスクにコーヒーを置く。
豆は、ミディアスターという世界の品物。
コーヒーの豆の質は、次元世界最高級品としてしられ、地元では500グラム――630円で買える。
なを、世界によって物価と通貨が違うので、全て円単位で表示していきます。
だが、ミッドチルダにくる時には、500グラム――5万円以上という金額となる。
地元優先なので、輸出される量が少ない結果である。
よって、遠いが直接買いに行き、一度にまとめて買ったほうが安上がりなのである。
「ああ。ありがとう、エイミィ」
そう言いつつ、カップを口につけ、コーヒーを一口。
そして、満足そうに頷く。
その間に、エイミィはデスクに置かれた資料を見る。
資料の内容は、一時期停滞していたラギュナスの活動の再開について。と、書かれた内容だった。
現在ラギュナスは、管理局に対して好戦的な行動は取っていない。
むしろ、こちら側から攻撃をさせてから、戦闘を始める。
攻撃しなければ、交渉次第で、ある程度の情報交換をすることも可能。
事件があっても、管理局より素早く動き、犯人を拘束し、引き渡してくる。
そこまで読むと、書類は持ち上げられる。
「あぁ」
名残惜しそうに書類を見ながら、声を漏らすエイミィ。
書類は、デスクの引き出しではなく、シュレッダーに掛けられた。
ちなみに、紙はアンチ・マギリングが掛かっているため、1枚1万円しても可笑しくないシロモノ。
一番安いモノでも、たしか8000円はしたはず。
重要書類系なので、それなりに高いのを用意するはず。
それが束になって――計15枚。
確か、会議に参加して人間の数は――30人以上。
450万円以上、掛かる会議。
早々無いが、それほど重要な件か、ただの汚職なのどちらか。
だが、三提督と陸士のトップであるレジアス中将も参加したので、後者でないことは明白である。
しかし、資料は読み途中だったので、恨めしそうに睨む。
が、クロノは軽くないがして、コーヒーを啜って一息。
「ねぇ、今日の会議はなんだった訳?」
「ラギュナスについてだ。そう、資料に書いてあっただろ?」
「ええ、それだけね」
「……すまないな、まだ極秘扱いなのだ」
それを聞いて、あっさり引き下がる。
そして、クロノは無意識にカップを再び口へ運ぶが、中身が殻だったことに気がつく。
「クロノくん、貸して。入れてきてあげる」
「頼む」
微笑みながら問いかけるエイミィに、微笑み返しながら返答するクロノ。
来年辺りに結婚する予定だったが、完全に延期になるかもしれない。
そう、エイミィにカップを渡しながら思うクロノ。
ふと、引き出しを開け、アルバムを開く。
そこには、闇の書事件が終わった次の年の春に、全員で撮った集合写真があった。
今は、このメンバーが揃うことは滅多に無く、時たましかなくなってきた。
多分、同じ任務で同じ部隊になることは、まず無いといっても過言ではない。
各部隊には、保有ランクが設けられており、その合計値を超えることは許されない。
それが、同じ部隊になることは無い理由である。
だが、限定封印をして、魔力を意図的に下げることで問題は解決するが。
能力自体に制限を掛けるため、あまりオススメできないのが現状である。
今はまだ彼女たちには、経験を積むことが最優先である。
そして、シグナムの安否。
皆には知らせてはいないが、最近査察部から情報を聞いたときには、目眩がした。
シグナムの裏切り。
最初は、ラギュナスのメンバーに強姦され、不要となって処分されたと聞いた。
が、それから1ヵ月後に訂正が来たのが――裏切り。
あの忠誠心が高く、誇り高き騎士である彼女が、裏切りなど何かの間違いだと考えた。
だが、この1ヵ月間で、武装局員を迎撃している話をちらほら聞く。
完璧な証拠の映像は無いが、断片的な映像と通信内容だけだが。
一応、立派な証拠品である。
「はい、おかわりのコーヒーだよ」
デスクの上に再び置く。
最高級品だけに、匂いはきつくなく、むしろ清々しい。
母親――リンディの影響で、甘いものはあまりだが、このコーヒーにはクリームを入れる。
ストレートで飲むのも良いが、クリームを入れると味が引き締まる。
「うん」
置かれたのを確認してから、アルバムを閉じて引き出しに戻した。
またコーヒーを取って、飲む。
それから、モニターを表示し、カレンダーを開く。
12月17日。
「クリスマスまで、あと一週間、か……」
闇の書事件が終結した日でもあり、約束した日でもある。
全員でのクリスマスパーティーを行うという。
すでに今年の3月辺りから計画されていた事。
全員が揃わなければ、意味が無い。
だが、クロノは天井を見上げながら、一つの疑念があった。
自分の中に渦巻く、この胸騒ぎをどう取るか。
ただの思い過ごしであって欲しい。
そう考えるクロノであった。
だが、この物語にはハッピーエンドは無い。
最悪な事態に進展していく、この物語。
ただ判らないのは、この物語の終わり方のみ。
どっちへ転ぶか、転ばぬか。
世界は何を望むのか。
人の絶望、欲望、悲しみ、怒り――不の感情は、混沌を作り出すスパイス。
故に、料理への効きすぎたスパイスは厳禁だが、混沌には何も問題は無い。
効きすぎれば、効きすぎるほど、最高の混沌が生まれる。
世界は、次元は――混沌となる。
ラギュナスサイド編
第十一話:迷走深層
時空管理外世界の一つ――クエイク・グランド。
大地の大半は岩と崖しかなく、緑は点々とある程度。
生命が住める程度の酸素は補える。
微生物、虫は基本的にいるが、人間はいない。
変わりに、竜や龍やドラゴンがいる――全部一緒だが。
簡単に言えば、中国の龍、外国のドラゴン、日本の竜など、多次元の世界のドラゴンが住む世界。
ドラゴンが征する世界として、有名な世界。
だが、何故管理外世界なのか?
理由はとてもシンプルである。
管理世界として指定したが、調査部隊が全員ドラゴンにやられてしまい、誰一人帰ってこなかった。
第二、第三と、次々に送り込んだが、ろくに調査もできないまま全滅。
出来たとしても、持ち帰ることができず――人的被害が多きいこともあり、仕方なく管理外世界として指定しなおされた。
これは上層部が決めたことではなく、世間の非難から決まった事である。
実際は、被害をしつつも、少しずつ少しずつデータは溜まっていていた。
ので、強行軍してでも、少しでも多くデータを手に入れようとしたかったそうだ。
だが、その計画もラギュナスのメンバーにより暴露され、目論んだ人間は全て退職した。
色んな思惑があった世界の一つ――それが、クエイク・グランド。
しかし今は、その世界のある場所が――戦場と化していた。
「こちら、マーズ01。状況は?」
ツインテールの白いバリアジャケットを纏った女性が、通信回線を開く。
≪こちら、マーズ・マム。04から09まで、ラギュナスの機動兵器と交戦中。02は単独判断で交渉を開始。03、04はメンバーと交戦中ですが、両名共に押されています≫
そこで、遠くの方で何度か爆発が起きる。
時折、大岩が宙を舞い――地面に落下。
ラギュナスの機動兵器の攻撃か、一つのかく乱か。
ここからでは、判断の区別は付けづらい。
「了解しました。これより、03と04の援護に入ります」
そう言いながら、デバイスを構える。
≪02の方は?≫
そこで女性はため息。
ここ最近は、ラギュナスと交渉して、情報を得ようと必死になっている友を思い浮かべた。
危ない橋ではあるにも関らずに。
「仕方のないことです。彼女が危なくなったら教えてください」
≪了解しました――ポイントのデータを転送します≫
「うん、ありがとう――レイジングハート」
<はい、マイマスター>
相棒暦6年となるデバイスに、データが送られてきた。
飛行魔法――フィン・フライヤーが展開される。
そして――勝利の鍵は空を舞い上がる。
桜色の羽を振りまきながら。
今度こそ、仲間を、友を失わないために、守るために、空を駆け抜ける。
「マーズ01、高町なのは――行きます!」
射出型兵器・カタパルトセイバー。
しかし、種類は様々あり、起動兵器発射カタパルトタイプ。
質量兵器射出用――言うまでも無く、質量兵器を打ち出す。
質量発射型専用――違いは、兵器ではなく、その辺に転がっている岩や柱を打ち出す。
現在、この3種類がある。
ラギュナスの後方支援と、前線からの増援を目的として生まれた起動兵器。
そして、今武装局員たちが戦っているのは、簡易生産された質量発射型専用・カタパルトセイバーである。
スドラが周りの岩を削り、運搬目的に開発された起動兵器・トラッグに運ばせ、カタパルトに乗せる。
最後に打ち出す。
この作業の繰り返しだが、狙いが正確なモノから、乱雑に打ち込んでいるのもある。
慌てて回避するが、正確な一撃が飛んでくるので、死に物狂いである。
魔法ではない。
質量の攻撃。
魔法と質量兵器の違いとは――細かい事を含めれば、色々出てくる。
だが、一つだけ示せと言われた場合、これが上がると思う。
非殺傷モードがあるか、無いか。
それだけのこと。
だが、それだけで生死は分けられる。
非殺傷なら、当たっても死ぬことは無い。
度が過ぎれば後遺症がでるかもしれないが、けして死ぬことはない。
このミッドチルダでは、拳銃というモノがどんなモノか知らない世界。
地球とは大違いである。
かつ、クリーンでかつ安全な魔法というほどだが、安全など詭弁でしかない。
使い方一つで、人を殺せる魔法。
どこが安全なのか。
結果的に、魔力を持たない人間は、魔力を持つ人間には勝てないことは確かだ。
だが、兵器はどうなるのか。
「くっ! 反応が――早い!」
体を捻りながら、飛んでくる岩を回避する男性武装局員、マーズ04。
他の武装局員たちも、同じ光景である。
反撃を試みたが、AMF――アンチ・マギリング・フィールドを発動したために、攻撃が一切通らなくなった。
「くそがぁ――」
そこで、後ろからの声が途切れた。
「07!? どうした、07!? ――マーズ・マム!」
振り向けば自分が死ぬのは必然なので、通信回線を開き中継を求めた。
≪こちらマーズ・マム、マーズ07のバイタル反応――なし! 死亡と断定≫
「ちぃ」
通信の内容に舌打ちする04.
07とは、この任務が終わった後、酒場に行こうと誘われていた。
しかも、3日後には娘の誕生日だとか。
それを思い出しただけで、地面から岩を射出する機動兵器に怒りを覚える。
相棒――デバイスを握る力が強くなる。
片手杖――管理局の支給品をインテイジェントデバイスに改造したモノ。
申請許可は出しておらず、無断改造した。
結果、言うまでも無く規則違反で独房へ。
しかし、そのデバイスを使った実績は多く、降格処分程度で済んだ。
2年程度のパートナー暦だが、互いを理解し合っている。
「いくぞ、ガーゴイル」
<ああ、判っている>
デバイスをバトミントンの様に回しながら、機動兵器に突貫を掛けた。
「いくぞ――」
視界は飛んでくる岩で埋め尽くされた。
しかも、避ける隙間もない。
急停止し、左手を前に突き出し、片手杖を回すのをやめる。
「プロテクション!」
<了解!>
防御魔法展開。
だが――防御魔法を突き抜けてきた物体があった。
それは目で確認することは出来ず、左頬を掠っていった。
それを追うように目を左へ持っていく。
だが、次の瞬間――強烈な衝撃が全身を遅い、視界は黒く染まった。
「…………いいのか? また仲間が死んだが」
背の高い女性は、生命の息吹が無くなった方向を向く。
「……言い訳やないやぁないか。それと、シグナムは――シグナムはどこにおる!?」
十字剣の杖をなぎ払うように振り、睨みながら怒鳴るはやて。
怒り――いや、悲しみが強いのか、殺気とは言えない覇気を纏っている。
背の高い女性は肩を竦める。
怒るのか、悲しむのかどちらかにして欲しいと。
こういう状況は、背の高い女性が一番嫌いなのである。
『曖昧』――それは、背の高い彼女にとって、思い出したくない思い出を思い出させる。
だから、容赦無く根源を絶つ。
だが、今回はそうはいかない。
家族を悲しむ気持ちと焦りと、我々に対する怒り。
それらが混じる事で、今の彼女がある。
「彼女……シグナムは、うちの隊長――長と一緒にいる」
「長……?」
「簡単に言えば、ラギュナスのトップだ。これ以上は言えない。時期が来れば判る」
そこまで言うと、懐から少し厚いカードを1枚取り出す。
「まっ――」
はやては、すぐ飛び出す。
だが、距離は長すぎる。
フェイトなら、距離を詰めることは可能だったが、はやてでは無理である。
「祝福の鐘が鳴り響く時――烈火の騎士、再び夜天の王の前に現れる」
それだけ言って、カードを地面に突き刺す。
次の瞬間――戦闘空域全体が、黄色の閃光に染まった。
アースラの会議室。
そこには、主力メンバーのなのは、フェイト、はやて。
はやての保有戦力のリインフォースⅡ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。
アースラの艦長のクロノに、来年その妻になる予定のエイミィ。
通信モニター越しに、リンディがいた。
今は、今回の戦闘に関しての事を洗っていた。
マーズ隊、総数35名。(リインフォースⅡは、デバイスなので含まれていない)
うち死者、12名。
重軽傷者、10名。
戦力通告者、5名。
負傷退職、2名。
今回の被害である。
「結局、手掛かりは……この言葉だけ、か」
その言葉に、エイミィがモニターパネルをタッチする。
すると、背の高い女性が出てくる。
そして、その横に文字が展開される。
『彼女……シグナムは、うちの隊長――長と一緒にいる』
『祝福の鐘が鳴り響く時――烈火の騎士、再び夜天の王の前に現れる』
それを見て、一同は頭を悩ませる。
「祝福の鐘って、私のことですか?」
リインフォースⅡが、自分を指差す。
だが、クロノは首を横に振った。
「多分――別の事か、モノを指しているのだろ」
確かに、リインフォースⅡを指しているのならば、何時現れても可笑しくは無い。
いや、表れなければいけないはずである。
だが、何も起きない。
各地で起きている、ラギュナスとの戦闘。
大体は、機動兵器で構成された部隊。
しかし、稀にラギュナスのメンバーが指揮を取る時がある。
もっと珍しいのは、部下を連れている時である。
が、重要な事を起こすわけでも、かく乱するわけでもなく、いつも通りの戦闘。
ただ変わるのは、強くなるのかならないか。
それだけである。
≪でも、この言葉の意味が判れば……ラギュナスの動向が掴めるかもしれないわね≫
リンディの言葉に、はやてとクロノが頷く。
どうやら、2人は薄々気づいているのかも知れない。
祝福の風が鳴り響く、意味を。
風が吹く。
丘から、瑠璃色の空を眺めている女性がいた。
ピンク色のポニーテールが、風に吹かれてなびく。
服は、黒い長袖の上着で、前は絞めていない。
ロングスカートだが、動きやすいように切れ目が入っている。
全体の色のベースは、黒。
袖などのラインは、紅。
すでに主から承った防護服の形は、ほとんど無い。
「シグナム様」
シグナムと同じ色の、忍び装束を着た男が、背後から膝をついて声を掛ける。
「すまない……少し、遅れると伝えておいてくれないか」
空を眺め、風を感じながら答える。
「いえ、長から今日は好きにして良いと、伝言を承っております」
少し慌てた様に答える。
的違いの返答に、少し戸惑ってしまったようだと、苦笑する。
「ですので、何か伝言があれば、こちらでお伝えしますが?」
「ふむ……その前に、お前に確認したいことがあるのだが」
「はい? 何でしょうか?」
「約束の日は、12月24日で良かったか?」
「はっ、その通りであります」
「そうか……伝言は、『愛している』と」
その言葉に、背後から吹いた音が聞こえたが、気づいてないフリをした。
私も、人前で平然と言えるようになったなと、内心で関心する。
「では、失礼します」
そこで、背後から気配が消えた。
地球での忍者は、このような感じだと言われているが、それは架空の物語である。
どうやら、『忍者』は科学者らしい。
詳しいことは、未だに判っていないが、文献から推測した結果らしい。
話題休題。
太陽が顔を出し始める。
そして、相棒を指でゆっくり撫でる。
レヴァンティン・滅を。
目を伏せ、顔を下げるが、目を開けると同時に顔を上げる。
レヴァンティン・滅を展開し、自分の前に掲げる。
さらに前には、はやての幻想が浮かび上がった。
「はやて……裏切り者に、迷わず制裁を」
シグナムは、目の前の幻想を切るように――レヴァンティン・滅を振り下ろした。
ラギュナスサイド編
第十一話:迷走深層・END
次回予告
クリスマス。
サンタクロースを乗せたソリを引く、赤い鼻のトナカイたち。
首に付けた祝福の鐘を鳴り響かせる。
それは――戦場の合図である。
ラギュナスサイド編
第十二話:混沌開門(前編)
に、ドライブ・イグニッション!
あとがき
テスト勉そっちのけで書き上げてしまった。(汗
やばっ。
で、また予告変更。
物語も少し変更し、シグナムをラギュナスサイドから移動しない形にしました。
俗に言う、裏切りです――あ、石投げないで、って焼け石は駄目だろ!?
あっ、熱! 熱いから!
…………と、とにかく、もうすぐで第一部が完結します。
試作長編モノ完結。
五話目で二つの話を出したのですが、当初の終わり偏り、既にかけ離れています。
詳しいことは、ラギュナス13話を公開した後の、あとがきそうまとめバージョンで公開。
制作開始:2007/7/12~2007/7/17
打ち込み日:2007/7/19
公開日:2007/7/19
修正日:2007/10/4+2008/7/3
変更日:2008/10/24