別れは何時来るのか、明日? 1年後? それとも10年後?
それは、その時にならなければ判らない。
色んな偶然が重なって、出逢いや再会もあれば、普段の別れから悲惨な別れもある。
今回は、色んな偶然と必然が混ざった再会である。
(やったね、ティア!)
念話でスバルの歓声が響く。
「うっさい」
と、念話を飛ばしつつ、実際に呟きながら、その場に座り込んだ。
最後の難関――ラギュナスから鹵獲・解析し、時空管理局が作り上げた起動兵器シリーズ・パイロンと呼ばれる兵器。
ティアナの幻術魔法のかく乱により、視覚センサーと範囲レーダーを騙す。
その隙に、範囲レーダーのエリア外らしきギリギリの部分からの高速接近による、一撃必殺による撃破を完遂する。
パイロンは右腕が完全に破壊され、全身がボロボロに成りつつ、廃棄ビルの最上階部分から落下した。
ちなみに、一撃必殺は高町なのはの十八番の1つである『ディバインバスター』である。
スバルはまだまだ余裕があるのか、それとも疲れより喜びが勝るのか、喜びに浸っている。
ティアナは、幻術魔法の使用後の消耗率が高かった為に、肩で呼吸をしながら座り込んでいる。
あとは、ゴール前に置いているターゲットを確認し、仕留めるか仕留めないか決め手、ゴールする――だけだった。
落ちた衝撃で瓦礫の下敷きになったパイロンだったが、低音の稼動音が鳴り響く。
完全なイレギュラーであった。
スバルが合流しようとした時、ティアナの下からビームが出てくる。
ティアナは反射的に避けるも、右肩に当たってしまう。
「――――――――!?」
悲鳴にならない悲鳴を上げるティアナ。
爆発――砂煙の中から、右腕を失ったパイロンが姿を現す。
「なぁ!?」
窓から見下ろしていたスバルは驚愕する。
仕留めたと思った矢先の出来事。
リインフォースⅡも驚くも、すぐに空間モニターを展開する。
「こちら、リインフォースⅡ空曹長!! 至急試験の――」
≪その要請を却下します≫
リインフォースⅡの言葉を聞かずに、問答無用で切り捨てる。
「何故ですか!?」
≪何故って……≫
モニター越しから、ため息が聞こえる。
≪この程度のトラブルを解決できなければ、この試験を脱落させるべきだよ。いや――≫
そこで、一呼吸。
その間にも、瓦礫を力任せに押し上げながら、ティアナと同じハイウェイに立つ。
≪管理局を辞めたほうが言い……命がいくつあっても、足りないから≫
その言葉に経験上、納得せざる負えないリインフォースⅡ。
敵に情けを掛けたことで、重症になりかけた経験がある故に。そして、上司にこう言われた――甘さは死を呼ぶ。
主であるはやてからも、そう言われた。
頭では判っていても、本能が理解していない証拠であると、唇を噛みながら考えるリインフォースⅡ。
「くっ――」
ティアナは、パイロンの足元に魔力弾を打ち込み、砂埃でカメラの視界を奪う。
気休めだと判っていても、ほんの数瞬の隙が出来れば、少しでも動ける。
その数瞬が、命取りにもなり、何かの切っ掛けにもなる。
足を引きずりながら、瓦礫の後ろに回りこむティアナ。
その瓦礫に隠れつつ、少しでも離れるために動く。
「ティア、今行く――ウイングロード!!」
スバルは、右腕を地面に叩きつけると、そこから青白い光の道が生まれる。
そして、風の道――ウイングロードを駆け抜ける。
パイロンは、攻撃目標をスバルに定め、口から低出力のバースト・ビームを乱射する。
スバルはそれを掻い潜り、素早く接近するも――上空へ逃げるパイロン。
しかも、ハイウェイから飛び出したので、このまま追撃しても叩き落とされるか、回避されれば地面に落ちる。
だが、スバルは臆する事無く、ウイングロードを出して駆け抜ける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
無謀と思えるほどの勢いで突撃するスバル。
しかし、彼女のデバイスのリボルバーナックルの手が、青白く光り輝く。
ウイングロードから飛び出し、パイロンへと進む。
だが、パイロンの口のエネルギーが臨界点まで達している、いつでも撃てる事を意味する。
スバルもその事は確認しているも、避ける事もせずに突き進む。
それを驚く様に、ティアナ、リインフォースⅡが見入る。
そして、互いに放つ強大な力。
パイロンは、今の状態で放つことが出来る、最大出力のバースト・ビーム。
スバルは、右手をパイロンの顔に目掛けて――スバルを助けた恩師の技を放った。
第二話:高みの試練
新暦71年4月――ミッドチルダ北部臨海第8空港。
そこは、大きな火災現場と化していた。
すぐに地上部隊が展開するも、規模が大きく、近隣のみで行える限界を超えていた。
しかし、偶然にもオーバーSランク魔導師の高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてがいた。
それと同時に、空港にはまだ30数名ほど取り残されていた。
そして――エンストラホールでは、青い髪の少女が、泣きながら歩いている。
「――うぇ、ぐっすん……お姉ちゃん、お父さん」
泣きながら父と姉を呼ぶも、誰の返事も無く、炎の燃え盛る音しか返ってこない。
それから5、6歩ほど進んだ瞬間――真横が爆発。
「きゃあぁぁ!?」
その爆風に巻き込まれ、大きな女神像のある部屋の中心まで吹き飛ばされる。
飛ばされた際、2、3回ほど地面をバウンドしている。
少女は痛がりながらも、四つん這いの体勢まで起き上がる。
だが、それから先――立ち上がろうとはせず、その場で涙を流し始める。
「……痛いよう」
確かに、地面に2、3叩きつけられ、その上、足や腕に擦り傷がある。
これは、大人でもきついモノを、11歳の子どもが受けているのだ。
耐えられる度合いが、違いすぎるのは当たり前である。
「誰か……」
痛みを堪えつつ、涙を流しながら、何とか声を出す。
「誰か――助けて!」
弱弱しい声で助けを呼ぶも、運命は時に残酷な事を与える。
後ろにあった大きな女神像を置く台座が壊れ、少女に向かって倒れ始める。
砕けた音と自分を覆う影に気がつき、振り向く。
人々を見守る女神像も、今はただの障害物にして、ただの危険物。
始めはゆっくりだったが、すぐに加速を始め、倒れこんでくる。
少女は体を丸め、目を瞑った。
そんな事をしても、何も変わらない。
動かないでいれば、ペシャンコになるだけ。
立ち上がっても、前に進めば同じ末路。
左右のどちらかに移動すればすむ事だが、この状況で手負いの子どもが回避する事など不可能である。
特殊訓練を積んでいれば、確かに話は変わるが、一般的な暮らしを送っている子どもは、100パーセント死亡する。
大きな女神像は、少女に襲い掛かる――が、炎の中から、影が飛び出す。
「展開――フィンガー発動!!」
<――――――――>
その言葉は、少女の耳にしっかり届く。
影――その者の右手が、鮮やかな紫の色に包まれる。
そして、右手を思いっきり、女神像の横っ腹に叩きつける。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」
手が女神像に当たり、衝撃音が鳴り響く。
「――フィンガァァァァァァァァァァァァァァ――ブレイクゥ!!」
女神像は横へ少し動き、そのまま真っ二つに粉砕される。
同時に砲撃みたいなモノが、手から放たれていたのを、体を丸めていたはずの少女は見ていた。
衝撃音の際、釣られて顔を上げたのである。
その者――とても動きやすいバリアジャケットを纏う男が、少女の前に降り立つ。
そして、しゃがみ込み、手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
それが、少女と男の出逢いであり、今後の人生を大きく左右する出来事でもあった。
そして――新暦75年4月、ミッドチルダのとある首都の廃棄区画。
風がなびき、雲は回りに点在し、2つの月が見えるほど空は清んでいる。
その下に、2人の少女と、少し離れた上空にヘリが1台飛んでいる。
あれから4年目経ち、少女――スバル・ナカジマは立っていた。
右腕には、愛器のリボルバーナックルと、両足には自作でありながら、3年間使い続けていたローラーブレード型のストレージデバイス。
少し離れた所には、デバイスと同じく3年間もコンビを組んでいるオレンジ髪のツインテールの少女――ティアナ・ランスターが、自作デバイスのアンカーガンにカードリッジを詰め込んでいる。
スバルは軽くウォーミングアップに、両腕を素早く突き出し、その場で軽くステップを踏みつつ、横に中段蹴りを放つ。
「スバル。あんまりはしゃぐと、そのオンボロローラー逝っちゃうわよ?」
と、後ろから声が掛かる。
「もぅ、酷いよティア」
スバルは顔だけ向けながら、返答を返す。
「ちゃんと油は挿してきた。ティアだって、アンカーガンの調子は?」
その言葉と同時に、アンカーガンを閉める。
「まだ大丈夫よ。だけど……」
ティアナは、アンカーガンをひっくり返したりして、簡単に見る。
「そろそろヤバイ事は、確かね」
それだけ言って、腰のフォルダーに収める。
それから、左腕にある空間モニター型の時計を展開、時間を確認する。
只今の時間、10時54分12秒。
「開始まで、あと5分48秒……か」
空間モニターを消し、空を見上げる。
青く輝く空を。
目指すものは、空の如く高く、背伸びして届くような安いものではない。
だけど、そこを目指す――目標のために。
スバルも準備体操を終え、空を見上げる。
あの時の事を思い出す――空港火災の時の無力さを。
目指すものは、計り知れないほど高く、同時に難しく。
だけども、憧れのままで終わらせるつもりも無い。
目指す――必ず、あの人に追いつくために。
肩を並べあい、超えるために。
物語は、動き出す――狂った歯車と共に。
そして、11時ジャスト。どこからとも無くブザー鳴り、同時に空中に、空間モニターが映し出される。
そのモニター内には、髪の長い小さな女の子がいた。
≪これより試験を開始します。私、この試験の担当者であるリインフォースⅡ空曹長であります――宜しくお願いします≫
リインフォースⅡは、敬礼をしながら挨拶をした。
『お願いします!!』
2人は背筋を伸ばし、同時に挨拶を行う。
それに、リインフォースⅡは軽く肯く。
≪はい、まずは受験者2名、揃っていますか?≫
視界に入っているも、念の為の確認を行うリインフォースⅡ。
『はい!』
スバルとティアナ共に、同時に返事をする。
≪確認しますね。スバル・ナカジマ二等陸士――≫
「はい!」
と、自分の名前を呼ばれて、返事を返すスバル。
≪と……ティアナ・ランスター二等陸士≫
「はい!」
ティアナもまた、返事を返す。
≪確認しました。今回、お2人が受ける試験は……保有ランク・Bランク昇格試験で宜しいですか?≫
「はい!」
「間違えありません!」
ティアナの返事に続き、スバルが問題無いと答える。
≪はい。それでは、これより試験を行う際の注意事項の説明に入ります≫
全ての確認事項が終わり、リインフォースⅡの口から、試験の注意事項を聞く2人。
廃墟のビルの屋上に、スバルとティアナが立っている。
そして、2人の前に空間モニターが展開され、そこにリインフォースⅡが映し出されている。
その上空に、1台の大型ヘリが静止飛行を行っていて、開閉ドアを開けて嬉しそうな顔で眺める女性が1人。
「うんうん、いい感じや」
「はやて、おっこっちゃうよ。下の様子は、モニターでも確認できるのだから」
と、髪の毛を押さえながらフェイトは、はやてに言った。
「はいはい、判っていますよぉ~だ」
19歳にもなりながら、子ども口調で返事を返し、開閉ドアの横にあるボタンを押して、ドアを閉める。
そして、自分の席に戻り、空間モニターを展開していく。
「さぁ~て、宝石の原石たちの実力、見せて貰おうかな」
「うん……でも、まだ開始してないよ」
と、苦笑し合いながら、空間モニターを眺めていた。
そこで、フェイトが思い出したように言い出す。
「そういえばはやて、スバルって子……確か」
「そや。4年前の空港火災で、なのはちゃんが助けた子や」
はやては、フェイトの方を向きながら、顔の横で人差し指を作り、天井に向けながら言う。
「ちなみに、その時フェイトちゃんが助けた女の子は、その子のお姉ちゃんや」
「え、そうなの?」
はやての言葉に、フェイトは驚く。
しかし、スバルをまじまじ見ると、どこと無く面影が見えた。
「うん、きちんと見たけど、確かにそうだね」
髪の色といい、顔の形といい、それと無く助けた少女に似ていた。
ヘリよりさらに上空かつ、大分離れた場所。
そこには、青いライダースーツみたいな服と白いマント、眼鏡をかけた女性。その横に、フードを深く被り、マントで体を覆った人物の2名がいた。
「クアットロ、モニタリングは?」
声は、ボイスチェンジャーによって変えられているため、性別の判明が不明である。
「ええ、大丈夫よ。ちゃんと監視ヘリとリンクさせてあるから」
クアットロと呼ばれる女性は、鍵盤と複数のモニターを展開している。
鍵盤は、キーボードの代わりらしいが、音楽を弾いているようにしか見えない。
「……スバル、か」
「 ? タイプ・ゼロ・セカンドに、何か?」
と、首を傾げながら尋ねるクアットロ。
「いや、昔、空港火災で」
脳裏に、火災の中で怯えていた姿を思い出す。
「ああ、あの空港火災ですか……結局、あれは何だったんでしょうねぇ~」
指を顎に当てながら、少し上を向いてぼやく。
あの時、クアットロはバックスでのサポートを行っていただけなので、詳しい事は聞いていなかったのである。
「お前らの生みの親が捜していたロストロギアが、何らかの理由で爆発した結果らしい」
「レリックですか? あれは、アナタのおかげで集める必要が無くなりましたので――」
「判っている。別にお前らを疑っている訳ではない……ただ」
そこで、顔を上げる。
「円卓の守護者か、最高評議会が絡んでいるという話らしい」
その言葉に、クアットロは顔を顰める。
円卓の守護者とは、時空管理局の13名の上官で構成された特別かつ、極秘に近い集団。
最高評議会とは、地上本部を主に時空管理局全体を見守っている存在。
ただし、これらの2つの組織は『正義の為なら我々のやる事は正しい』と、考えている節がある。
故に、ラギュナスからは、もっとも潰すべき存在である。
正義の為ならば、全てがまかり通る事など、あり得ない。
ラギュナスの行いも、全てが正しい事ではないのは、十分承知しているからである。
「ともかく……今回は、我々の敵と成りうる存在の調査だ――頼むぞ」
クワットロの方を向きながら言う。
「ええ、お任せあれ……ディエチちゃん、聞こえる?」
≪呼んだ?≫
と、空間モニターが展開され、返事を返すディエチ。
彼女もまた、クワットロと同じ服を着ているも、マントを纏っている。
そして、その手には全部布に巻かれた、持ち主より大きな棒らしきモノが収まっている。
「準備はいいかしら?」
≪問題無い。あるとしたら……最近、体重が増えたクアッ――≫
「はい終了!!」
問答無用で通信を切る。
しかし、フードを深く被り、マントで体を覆った人物は、肩を震わせながら聞かなかったフリをする。
あの時の少女が、どこまで成長しているのか、何と無く予想するのだった。
≪――以上で、注意事項は終わります。ここまでの質問はありますか?≫
「はい!」
リインフォースⅡの言葉に、ティアナが手を挙げて返事をする。
≪はい、ティアナ・ランスター二等陸士≫
「はい、先ほどの説明で……ケガをしても、管理局は一切の責任を問わないとは、どう言う事ですか?」
その言葉は最もと言える。
こういった試験は、ケガも考慮した上で考えられた、安全なプランのはず。
しかし、ケガは自分の責任かもしれないにしろ、一切の責任を負わない事など、可笑しすぎる。
≪ええ、その部分ですね。お二方は、ラギュナスをご存知ですか?≫
その言葉に、スバルとティアナの顔つきが代わる。
ラギュナスと言えば、管理局に登録され世界の住人になら、知らない方が可笑しいと言われる有名な組織。
「知っています。5歳児でも知っている言葉でもあります」
≪その通りです。犯罪組織ラギュナスは、管理局所属世界の人なら、必ず1度は聞く言葉です≫
指を立てながら言う、リインフォースⅡ。
≪我々、時空管理局は、どんな出来事にも対応力が求められます。たとえそれが――≫
その次の言葉に、スバルとティアナは固まり、頭の中が真っ白になった。
≪可能性よりも、確実――つまり、2人助けられそう。では無く、1人なら確実に助かる。を、選ばなくてはなり――≫
「待ってください!!」
リインフォースⅡの言葉を遮るスバル。
何と無くだが、不機嫌に見える。
≪何でしょうか、スバル・ナカジマ二等陸士≫
「たとえば――岩を退かせば2人が助かるのと、今すぐ抱えて助かる人がいたら……その2人は見捨てて、今すぐ抱えて助かる人だけを選ぶ。と言う事ですか!?」
悲痛にも似た言葉を述べるスバル。
しかし、現実とは皮肉なものである。
≪その通りです!!≫
笑顔で喜びながら答えるリインフォースⅡ。
その言葉と表情に、怒りが湧き上がってくる。
≪可能性より、確実を選ぶことが、今の管理局員に求められているモノなのです≫
スバルは1歩前に出ようとしたが、左手が握られていることに気がつく。
左を見ると、横に立っていたティアナが、こちらを見ていた。
落ち着け――パートナーである、ティアナからの無言の伝言。
それを受けて、感情を押し殺すも、奥歯をかみ締めるスバル。
何時から、こんな世界になったのだろう。
あの、赤い血に染まった日――クリスマス・イブと呼ばれた日からだった。
時空管理局と地上本部を襲撃し、多大なる被害と死傷者を出していった日。
あの日が、世界の意識を、成り立ちを、あり方――全てを変えた。
≪ですから、この試験で――例え、死傷傷を受けても治療は行いますが、責任は一切取りませんので、再度改めておいて下さい。あと、他の質問はありますか?≫
「ありません」
「……ありません」
すんなりと答えるティアナと、まだ納得できない表情のスバルだった。
≪判りました。では次に、コース説明を行いたます。まず、この場からスタートしてもらい――≫
そこで、リインフォースⅡの表示部分が縮小され、空間モニターの左下へ移動。中央には、新たに別のモノ――この一帯の立体地図が映し出される。
そして、スバルとティアナが進むべき、大雑把な道筋が描かれる。
≪この赤い線が、アナタ方2人が移動する大体のルートです。ですが、途中――≫
立体地図も縮小し、今度は右上に移動。そして、また中央に新たなモノが表示される。
今度は、球体の機会と長細く赤い丸のマークが付いているモノ。
≪オートスフィアとターゲットを、全て破壊してください。ちなみに、丸いのがオートスフィアで、長細いのがターゲットです≫
と、オートスフィアの映像だけが消え、ターゲットの映像が2つになる。
しかし、マークの色と形が違った。
右側に、先ほどからあった赤い丸のマーク、左側は、四角と三角が合わり、デッパリは下を向いて青色をしている。
≪ただし、左側のターゲットはダミーで、間違って破壊した場合は、ペナルティが加算されますので注意してください≫
説明が言い終わると、3秒ほどで左下の映像以外全て消え、中央に戻りながら最初の大きさに戻る。
≪以上で全ての説明を終わりにします。全てを通して、もう一度確認しておきたい事、質問があったら、聞いてください≫
再びティアナが手を挙げる。
「ペナルティについて、聞きたいのですが」
≪はい、ペナルティについては、残念ながらお答えすることは出来ません。ですが、参考で一例でしたらお教えできます≫
「聞かせてください」
リインフォースが言い終わると、素早く言うティアナ。
それに少々面を喰らったような表情を見せるも、すぐに元に戻る。
≪そうですね……ペナルティは、コースを設定した教導隊の方によって異なります。軽いのでペイント弾、重い時は魔力弾による過剰攻撃ですね≫
「魔力弾による過剰攻撃、って……」
そうボヤくスバルは、顔を引き攣らせ、ティアナは唖然となる。
≪具体的には、非殺傷設定で地面が抉れるほどの威力です≫
その言葉に、完全に止まる2人。
つまり、喰らえば気絶確定で、試験脱落ほぼ確実。
≪とにかく、スタートは今から3分後ですから、気をつけてください。それから、頑張ってゴールしてください、ですよ♪≫
リインフォースⅡが言いながら、指を立てつつ、ウインクの姿をしたまま、空間モニターが消える。
それから少しして、動き出す2人。
正直、困惑と驚きを通り越してしまった。
だが、これから3分後には試験が始まる為、今更引き返せない。
どんな出来事が待っていようと、突き進むしかない。
2人は、それぞれ自分の言葉で思いながら、覚悟を決める。
不意に、空間モニターが開かれ、青い丸が3つ表示される。
それを見た瞬間――無言で体制を整え、いつでも走り出せるようにしておく。
左から黒色に変わり、真ん中が黒へ。
その時、2人は少しだけ前屈みになる。
次の瞬間、右に残る最後の青い色は、黒くなった2つの色と同時に赤に変わり、開始合図のブザーがなる。
『ゴォー!!』
2人で同時に叫び、同じ方向に走り出す。
それは、明日への希望を目指すのではなく、絶望への片道切符である事を、2人はまだ知らなかった。
知ったとしても、それに気がつくことは無い――真っ当な考えでなければ。
この世界は、正常が異常で、異常が正常――すなわち、『犯人を上手く捕まえる』のではなく、『犯人を上手く殺す』と言う事である。
新暦70年12月25日以降、犯罪が増加し、新暦71年1月1日を気に激増する。
それでも、時空管理局は、『旧時空管理局法』に則り、日々犯罪の対処に出向いた。
だが、それも限界があり――新暦71年6月、極秘であるもついに犯罪者は抹殺しても良いと、上層部から出る。
さらに、新暦72年2月に旧時空管理局法は、色々と改正・緩和・規制・解除・禁止などがなされる。
同年4月、ついに現在の『新時空管理局法』が認められ、質量兵器の保持・使用が設けられた。
その代わり、ロストロギアの使用規制を明確とした法案が、同時に提示されたことが決め手となった。
予断だが、新時空管理局法が出来てから、地上本部との仲は、多少なり改善された。
同年5月には、時空管理局製第一号・質量兵器『マギリング・R・ライフル』。
Rは、レールの略であり、レールガンのライフルバージョンと考えていただければ幸いである。
しかも、使用者か外部装置からの魔力の供給を受けることにより、さらに威力が増す使用になっている。
それから、より隠し持てる武器から、戦艦用の装備または戦艦その物を作り出している。
これらは、管理局の監視下の元、民間企業らにも製造している。
だが、それらの装備品を横流し、紛失、盗難などがあれば、企業は潰される。
実際に現在――新暦75年3月――まで、大中の企業だけでも20社以上を超え、小規模の企業を含めると、100社はくだらない。
これが見せしめとなり、兵器開発・製造を行っている企業の警備システムは、強固なものとなっている。
しかし、それでも盗む犯罪者が後を絶たない為、特別処置として、企業にもいくつかの特別処置が施された。
1つ目が――侵入者の特別排除。つまり、その場で抹殺可能を意味する。
2つ目が――企業同士の技術提供の際の、企業同士の極秘交渉。違法な取引でも、時空管理局は知らないフリ。
3つ目が――管理外世界での武器の調査・調達の許可。管理外世界に、管理世界の製品を持つ込むことは許されないが、持ち帰ることは良い。
これらの特別処置のお陰で、技術はさらに発展し、横流し、紛失、盗難などが皆無になってきている。
今の時空管理局の武装は、次元世界ナンバー1と豪語しても良い。
ただ、ロストロギアの使用が、時々見え隠れするが、きちんと監視組織の許可を貰っている。
それは、聖王教会と対ラギュナス連合組織――Association of anti-Ragyunas organization――通称AARO、時空平和議事会の3組織である。
AAROは、文字通りラギュナスに対抗するために設立された組織。
時空平和議事会は、各次元世界の平和と安全及び、時空管理局とAAROのストッパー役として――AAROと共に、新暦73年4月に設立された。
ただし、時空平和議事会は、72年4月に仮として設立された、時空管理局の監視を行う組織――時空管理局監視委員会である。
自ら禁止していた質量兵器を使うのだから、当然の処置と言えよう。
あの血に染まったクリスマスの日を境に、生まれた産物。
狂いきった世界は、戻るにも時間が掛かる。
100年、10年、1年、半年、1ヵ月、半月、1日、半日、1時間、30分、1分、1秒――いや、一瞬あれば狂う。
場所、時間、人物――歴史を見れば判る。
1度狂ったモノは、2度と戻らない。
例え、同じ通りに戻しても、その時の様になる事は無い。
簡単に言えば、平らな鉄板が曲がり、それを平らに戻しても、その曲がった部分は元には戻らない。
道具を使えば、見た目は戻るが……正確に戻ったとは言えない。
その今の世界を生き、駆け抜かねばならない若き者たち。
そして今、2人の少女が高みへ行く為に、走り出す。
試験という、壁を超える為に。
「スバル、私は上をやるから中を!」
「了解!」
と、ティアナは走りながら、スバルに指示を出しつつ、アンカーガンのダイアルを少しだけ回す。
そして、建物の端まで行くや否や、アンカーガンを構え、狙いを定めて打ち込む。
すると、銃口の下に添えられていた黒い突起物が放たれる。その端末に細いワイヤーが付いている。
それを確認すると、スバルはティアナの側により、ティアナがスバルを抱えて――屋上から、飛び降りる。
その際、距離が3分の1辺りに差し掛かった時にワイヤーが巻き戻り始める。
「行くわよ、スバル!!」
「OKだよ、ティア!!」
そう言い合い、ティアナはスバルを放す。
スバルは、重力と物理法則に従い、斜め下を降下して行き――まだ残っていた窓ガラスを突き破って、中に入る。
その瞬間、中で待機していたスフィアが、一斉にスバルに集中砲撃を開始する。
スバルは、涙目で声を上げる暇も無く、全力で回避を行う――変な踊りをしながら。
ともかく、その集中砲火の弾幕を掻い潜りながら、拳と足と魔法で1つ1つ確実に撃破していく。
その技は洗礼されており、無駄も無く、行き着く暇も無い連続攻撃により、スフィアが鉄くずと化していく。
その頃、ティアナは――屋上に辿り着き、そこから隣のビルにあるターゲットに狙いを定める。 ターゲットも、試験ということでティアナに見えるように、窓際に移動してくる。
破壊する、してはいけないターゲットを瞬時に見分け、魔力弾を叩き込んでいく。
さらに奥からターゲットが出てくる――射撃で打ち抜く。
だが、斜め上からの砲撃。
「え!?」
ティアナは、慌ててバックステップを踏み、後退する。
しかし、バックステップを行う瞬間、魔力弾を放ち、最後のターゲットを破壊した。
(スバル、聞こえる!?)
ティアナは、後退して物陰に隠れてから念話をスバルに送る。
(うわぁぁぁぁん!! てぃあぁ~!! たす――)
相棒からは、鳴き声で返される。
その瞬間、ティアナから念話を切断、当分繋げさせないでおく。
ともかく、この状況を1人で打破しなければならなくなった。
「ああ、もぉ~……」
手に持たれているアンカーガンのグリップに、僅かだが軋む音が聞こえる。
どうやら、それなりの強さで握りしているのだろう。
そして、アンカーガンの先端を、額に当てる。
「レベルが高――」
ティアナは、アンカーガンを右手から左手に持ち替え、物陰から狙撃を行う。
「――過ぎるのよ!!」
しかも、同時に3発の魔力弾を放ち、1つは直撃コースだったスフィアの攻撃と相殺。残り2つは、スフィアに直撃。
それを確認する間も無く、素早く体を翻し、物陰に戻す。
一瞬だけだったが、5体のスフィアが見えた。
先の攻撃で2の爆発音が聞こえたので、2体撃破したと考える。
さすがに、スフィアがダミーの爆発を行うとは考えにくい。
ましてや不意打ちに近い攻撃だったので、未来予知か、人間並みの瞬発的な思考能力が無い限り、不可能に近い。
空いている右手を腰に回し、ベルトに取り付けられた長細いポケットから、その長さにあった黒いモノを取り出す。
それの先端部分を押して凹ませてから、スフィアが浮遊している方へ投げ、耳を押さ、目を瞑る。
その黒いモノは、スフィアのセンサーに反応するも、攻撃対象にはならず、そのまま放置される。
だが、地面にバウンドして、2回目で宙に跳ねた瞬間――爆発が起こる。
凄まじい轟音と閃光、爆風がスフィアに襲い掛かる。
爆心地より近くにいた2体のスフィアは、爆発に巻き込まれて撃破。
それから少し離れたスフィアは、センサーを狂わされて、その場に静止する。
最後のスフィアも、爆風の影響は僅かなら柄も、センサーを狂わされて360度ランダムに攻撃を始める。
ティアナは、心の中で10秒数えてから目を開け、物陰の端から放つ光が収まってから、顔を出す。
それにより、スフィアの位置を確認してから、手早く全て打ち落とす。
ちなみに、先ほどティアナが使用した黒いモノは、『魔力型手榴閃光弾』と呼ばれるモノ。
簡単に言えば、火薬による爆発ではなく、魔力による爆発である。
一般にも、自衛のための武装は認められてはいるも、質量兵器は公認の組織しか保有を認めてはいない。
裏を返せば、一般でも手に入る武装と言える。
が、公式の組織からの紹介状が無いと、変えない武装ではあるが。
だが、これにより、ティアナが担当していた部分の掃除は終わった。
「魔力型手榴閃光弾……1つで、今の給料の5分の1も掛かるのが、難点ね」
この魔力型手榴閃光弾は、強力な上にコストが少々掛かるため、販売価格が高いのである。
なを、今ティアナの貰っている給料が、日本円にして25万円とすれば、5、6万はくだらない。
さらに、それの強化版や別バージョンになれば、軽く9万円を超える。
一応、簡易版はあるものの、100円ショップの品質みたいな代物で、信用性に掛ける。
故に、自然と普通の魔力型手榴閃光弾に手がいってしまうのが、心情である。
「スバル、今どこ!?」
カードリッジを取替え、手持ちの残弾を確認しながら、今まで封鎖していた念話を開通させる。
(ティアの馬鹿!! おかげで魔力型手榴閃光弾2つに、拡散魔力型1つ使ったよ!!)
鳴き声のように聞こえる、スバルの声。
その言葉に、さすがのティアナも汗を垂らす。
拡散魔力型手榴閃光弾は、文字通り魔力を拡散させて放つ爆弾であり、日本円にして1つ15万円する。
つまり、魔力型手榴閃光弾も合わせると、約25万円消費したことになる。
一ヶ月近くの給料を、1日で使い切ったようなものである。
それは、いくらなんでも泣きたくはなる。
消耗品とはいえ、デバイスの定期メンテナンスに生活費、色んな維持費に使っているので、娯楽に使える金は少ない。
しかも、貯蓄や武器などの高価なモノを、買い置きしておかなければならない。
「ごめん。今度アイス奢るから」
(アーチェのデラックス!! 15段重ねの奴で)
「ぶっ!! ちょぉ、待ってよスバル!?」
ミッドチルダに店舗を構える、『喫茶店アーチェ』。
ミッドチルダ全域に展開し、多くのバリュエーションを用意している。
若者向け、女性向け、高齢者向け、年配向け、静かな雰囲気、明るい雰囲気、軽い雰囲気など、様々な店が存在する。
その喫茶店アーチェは必ずどこの店舗にもある、特別メニューが何点か存在する。
その内の1つが、『アイス・デラックス』と呼ばれるアイスで、最低5段から最大15段までで販売されている。
前は30段まであったが、アイスが溶け終わる前に食べ切れないので、15段に変更したという逸話がある。
ちなみに、15段はアイスの種類によるが、6500円を基準に+6500円、-1500円掛かると考えて良い。
(拒否は無しだよ、ティア。奢るって言った以上、奢ってもらうからね)
嬉しそうに言うスバルに対して、額を右腕で押さえるティアナ。
1度言い出したら、こちらの意見を聞かないわがまま。
できれば、わがままは身内だけに発動して欲しいと思うティアナだった。
「…………とにかく、ビルから降りて合流して、次に行くわよ」
そう言いながら、走り出すティアナ。
(了解!)
スバルも、元気良くかつ機嫌良く答える。
自分の大好物であるアイスが、たらふく食えるのだから、これで機嫌が良くない訳がない。
自分の財布が軽くなるのが目に見えているティアナにとっては、不機嫌になるしかない。
感傷に浸りつつ、屋上からジャンプ――アンカーを発射。
渡り通路の壁に当たると同時に、ワイヤーが巻き取られ、地面から1メートルほどの高さに収める。
そのまま重力と遠心力の法則にしたがっていき、途中でアンカーを外す。
それから、足を3分の1ほど曲げる程度で衝撃を緩和し、ワイヤーを収納して、アンカーが音を立てて止まる。
それを聞くと、ティアナは走り出す。
そして、その先はT字となっており、右からスバルが現れる。
スバルも、左を見てティアナを確認すると、スピードを落としていく。
スバルとティアナは、並んで走る。
「次は、未処理の建物内の戦闘! 少しの油断が、命取りになるわよ!」
「OK――ところで、時間は?」
その言葉に、ティアナは時計を表示する。
「うん、まだ20分ある! って、言っても、先の戦闘は10分も掛かったから、急がないと」
「うん、じゃあ私が先行して、けん制する?」
「それは駄目、アタシがアンタに合わせるのが大変だから――っと、見えてきたわよ」
2人の前に、廃墟の建物もそうだが、その建物の前には大量のスフィアが浮遊、攻撃態勢に入っていた。
だが、2人は臆する事無く、前進する。
それが、己が正しき判断だと信じて――絶望への道という名の泥沼に、足を突っ込んでいく……。
何かに出逢う者たちの物語・外伝
第二部
魔法少女リリカルなのはTIWB
~二つの意志と狂いきった世界~
第二話
高みの試練
END
次回予告
スバルとティアナは、順序良く障害を排除していく。
そこで、見知らぬ機動兵器が乱入し、戦闘を余儀なくされる。
だが、試験は中止されることも無く、継続されていく。
その最中――スバルは、ティアナは……。
次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝
魔法少女リリカルなのはTIWB
~二つの意志と狂いきった世界~
第三話:争いの試練
変動する状況の中で、活路を見出し、活かしていくしか……道は無い。
あとがき
ラギュナス第二話公開!
一話で終わりにするつもりが、次に突入してしまった。(汗
下手すれば、全三話通すことになるかも。
でも、話が伸びれば、複線とか盛り込める可能性が増える増える。
無計画の真髄ともいえる、この展開&進行の遅さ。
だが、それだからこそ変な感じに膨らみ、縮小させるのに一苦労させるも、新たな展開が生まれる。
上手くいけば、とんでもない伏線に化けるかもしれない。
……詭弁に取られても仕方がないな。(汗
とにかく、作者でもどう転ぶか判らない展開に、こうご期待!?
制作開始:2008/3/15~2008/3/30+2008/4/3+2008/4/17
打ち込み日:2008/4/17
公開日:2008/4/17
修正日:2008/4/18
変更日:2008/10/29