何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ   作:ダークバスター

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世界は人を染め、人は世界を染める。
人が動けば世界が動き、世界が動けば人も動く。
人という種は、この世界の頂点だと思い込んでいる節があるも、事実上君臨している。
人が襲われれば、人に害を成す存在として、消そうと動く。
それが、何故か当たり前になっていた。


第三話:争いの試練

 

 

 廃墟区画で爆発音と黒煙。

 銃声音と兆弾が響き渡る。

 コンクリートは抉れ、大気は揺れる。

 風が吹き荒れ、熱気で温度が上がる。

 

「――いくら試験項目とは言え!?」

 

 ティアナは、物陰に飛び込んで攻撃を回避。

 しかも、数瞬前までティアナがいた場所に、ビームが通り過ぎる。

 どう見ても、当たれば即死クラスの攻撃である。

 

(どうする、ティア!?)

(どうするって言っても――)

 

 敵の攻撃が来ないと直感で感じ取り、物影から飛び出しつつ、アンカーガンから魔力弾が放たれる。

 

「――こいつをどうやって潰せばいいのよ!?」

 

 魔力弾は、敵の装甲板に当たるも、あっけ無く消滅する。

 それもそのはず、敵の装甲板はリオファルコンで出来ているため、生半の魔力での攻撃は無力化される。

 

「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 遠吠え。

 敵は、鹵獲し解析して開発された、ラギュナス製の管理局版起動兵器――パイロン。

 廃墟の建物の入り口付近で、大量のスフィアを撃破し、中に入った瞬間に出てきた。

 5秒ほど遠吠えを行った後に、挨拶代わりにバーストレーザーを叩き込んでくる。

 2人は慌てて回避し、自然に2手に別れた。が、パイロンはティアナに狙いを定め、追撃を開始。

 スバルは完全に無視して、ティアナのみに攻撃を集中させてきた。

 結局、途中で合流し合い、パイロンの迎撃に当たっている最中である。

 だが、相手はパイロン。

 ラギュナスの保有する起動兵器シリーズの中で、現在も上位クラスに君臨する存在。魔導師ランク・Sランクでも、1人でどうにかできる相手ではない。

 

「うぉぉおおおお――リボルバァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 パイロンの背後から、一気に接近して右腕のリボルバーナックルを構える。同時に、スピナーの回転が疾風を巻き起こすほどになる。

 だが、パイロンは背後に振り向かず、背中に付いている6枚のプレートを動かすだけ。

 それを見つつも、当たると確信してしまったスバルには、深く考えさせる出来事ではない。

 

「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォ!!」

 

 拳銃から弾丸が放たれた如く、反動で腕が上がる。

 同時に飛んでいく、スバルの魔力弾はパイロンの背後に迫るも、予備動作も無く上に跳んだパイロンに当たる事無く通過。

 そのまま、ティアナのいる場所に飛んでいく。

 ティアナも、予備動作も無く上に跳んだパイロンに呆気に取られていたが、正面から来る何かを感じ取り――正面を見る事無く、後ろに反らして回避を行う。

 そして、地面に手を付き、ブリッジの体制で固まりつつ、スバルの魔力弾の着弾を目視する。

 その瞬間、スバルに魔力弾か、何かを叩き込むことを心に決めた。

 次に、スバルの背筋に怖気が走る。多分、ティアナから制裁が来るのだろうと考える。

 しかし、そんな余裕は――上から来る殺気にかき消され、本能のままに跳ぶ。そして、その辺の物陰に隠れる。

 そこに、2人が数瞬までいた場所に、1つずつ長さ5センチに直径3センチほどの円柱が落ちる。

 地面に落ち、1度だけバウンドすると――爆発。同時に、棘らしきモノが四方に飛び散る。

 パイロンの武装の1つ、グレネード・ニードルボム。

 だが、本来はパイロンの試作型、トライアとトライア・鉄(くろがね)の時に装備されていた武装である。

 この2機の試作機は、トライア・鉄(くろがね)のD.S.Mビームカノン――ダブル・ストライク・マジック・ビームカノン以外の武装が、質量兵器だった。

 最初の試作機であるトライアは、動力が電力で、武装の全てが質量兵器である。電源地点から半径100メートル以上は、ケーブルの関係で行動できない。

 あと、外部電源供給ケーブルが切断、何らかの理由で消滅、使用不能となると、内部電力が作動し、350秒だけ稼動できる。が、それも無くなると動かなくなる。

 という点があり、とてもではないが、余程の事がない限りは実戦に出すことは無い。

 そして、その改良型のトライア・鉄には、外部電源供給ケーブルを廃止、魔力動力で動くように改造された。これにより、遠距離にも態様できるようにした。

 そして、魔力による武装、D.S.Mビームカノンが搭載される。だが、エネルギー量の関係で、魔力による武装はこれだけしかない。

 その2機の完成型が、パイロンである。

 パイロンには、バースト・ビームと、これまで試作型にもあったメタルクロー。

 最後に特殊装備が1つだけあるも、全体的に武装が減るも、エネルギー消費率は格段と減らす事に成功。

 余計な武装を積むよりも、機体性能を優先するべきと、外部武装は取り付いていないはずである。

 その光景を、遠くの空から眺める2人――時覇とクワットロ。

 

「グレネード・ニードルボムだと? パイロンには、装備されていなかったはずだが……した奴がいたのか?」

 

 そう言いながら、首を傾げる時覇。第一、報告は全て聞いているので、耳にしていれば思い出せる。

 クワットロは、鍵盤型空間パネルを操作し、鹵獲、もしくは残骸を回収されたという報告書をピックアップ。1つ1つ確認していく。

 しかし、それらしい報告書は、上がっていなかった。

 

「管理局が、トライア・鉄とパイロンを、間違えて組み立てた可能性があるかもしれませんね」

 

 クワットロの言葉に、時覇は理解した。

 確かに、トライア・鉄からパイロンが出来た訳であり、多少なり互換性はある。

 故に、間違えたのか、それとも足りなかったから代用に使ったのかは、管理局の意思なので、詳しくは判らない。

 ともかく、2人が遠目で見ている場所は、試験というには余りにも異常な光景が目に入る。

 パイロンの攻撃をかわすだけで、精一杯のティアナ。

 ティアナから、自分に標的を変えさせようとするも、全く相手にされないスバル。

 Bランク試験は、混沌を極め――中盤に差し掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話:争いの試練

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃墟区画のとある場所。

 試験区画より、さほど離れていない場所で1人の女性が空間モニターにタッチしながら、試験の様子をモニタリングしている。

 服装は、管理局員の白いブレザーと青いスカート。

 スカートのタイプは、女性スーツ用の少し丈が短めの奴。

 茶色い髪に、片ポニーテールが特徴。

 その左手には、赤い水晶が特徴の杖――レイジングハートが握られている。

 

「大型スフィアを、このパイロンに変更したけど……どう乗り越えるのか、ためさせて貰うよ、2人とも」

 

 白のブレザー、戦技教導隊所属の証を身に纏うは――高町なのは。

 今回の試験プランを考えた教導官である。

 展開されている空間モニターには、攻撃を避けながら、隙を見て反撃をしているティアナ。かく乱、援護を行っているスバルの姿が映し出されている。

 まさに、この戦いの主役であり、華であるスバルとティアナは、命の危機を感じ取りながら、攻撃を回避する。

 だが、完全に劣勢の1歩を辿りつつある。

 

(ティア、このままじゃ!?)

(判ってる!! でも、こんな――)

 

 ティアナの横に、大きな瓦礫が飛んできて、斜め後ろにあった瓦礫と衝突して、互いに砕きながら吹き飛ぶ。

 その吹き飛んで破片と化した瓦礫の一部が、ティアナの足に突き刺さる。

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げながら、倒れこむティアナを見過ごさなかったパイロン。

 だが、パイロンの後頭部に衝撃が走り、よろけると同時に青い塊が、斜め上を通り過ぎていく。

 止めを刺しに掛かるパイロンを止めるは、相棒のスバル。

 リボルバー・シュートでパイロンの後頭部に当て、一時的にフリーズを起こさせる事に成功。

 そのまま、ティアナを背負って、その場を離脱。

 全速力で、その場から離れる。

 パイロンのフリーズは3秒で回復するも、あとを追わずにある部分を追っていた。

 それは、血の跡である。

 ティアナの足――正確には、左の脛と足首の中間に当たり、破片が刺さっている。

 そこから垂れた血が、パーキングの役割を果たしてしまっていた。

 しかも、ティアナの足の怪我は、回復魔法を使っても完全に治るのは不可能である。

 つまり、完全に機動力を失ったに等しい状態の2人。

 パイロンは、狩人みたいに2人の後をゆっくりと追う。

 その映像を、サーチャーとパイロンのカメラ目線をモニタリングしていた、はやてとフェイト。

 

「生命の危機による回避能力の向上と、魔力の上昇――うん、なかなかええ結果や」

「でも……ティアナって子の怪我、大丈夫かな?」

 

 モニタリングの様子を喜ぶはやてに、ティアナのケガを心配するフェイト。

 2人のバイタルを表示したモニターには、ティアナのバイタルが乱れている表示が出されている。

 

「そんなもん、実戦では当たり前の出来事や。これくらい、乗り越えられへんと、どこ行っても通用せんよ」

 

 あっさりと、切り捨てるような言い方で結論を出すはやて。

 すでに『現場』という言葉は無くなったに等しい言葉――今は『戦場』と言う方が相応しい。

 常に人は死ぬ。

 確かに、出て行った全員が生きて帰る事があるも、ケガ人は確実に出る。

 中には、稀であるが戦力外通知が、渡される事もある。

 生死の境目を、行き交う戦士にとっては、当たり前の事だと心構えしていなければ可笑しい。

 この試験は、その心構えが備わっているかの確認及び、色々な独自もしくは、模範的な対処法を知っているか。

 それを、色々な状況下に合わせて行うことが出来るか。

 最後に、純粋な戦闘能力の把握が、主なポイントである。

 戦術、戦闘能力、状況判断は、成り立てのBランクにするには問題は無い。

 もし、この状況――ティアナは負傷し、それを背負っているスバルが、2人を追うSランクでも撃墜が難しい起動兵器を撃破する。

 これは、才がある人材と言える。たとえ、逃げ切る方針に切り替えても、逃げ切ればそれはそれで才があると認められる。

 元から目を付けていたので、この試験の結果次第で、自分――はやての人を見る目は、良い線を行っている証明となる。

 これから立ち上がる部隊の一員になる予定なのだから、最低でも逃げ切ってもらわないと困る。

 ただ、最終的な判断は、なのはが受け持っているが。

 

「とにかくや」

 

 両手を叩いて、不安な顔を浮かべるフェイトを引き締める。

 

「この程度で根を上げるなら……管理局を辞めるべきや」

 

 と、とんでもない結論を叩き出して、口にするはやて。

 

「は、はやて。いくらなんでも、飛躍しすぎじゃ――」

 

 そこまで言って、口を噤む。

 この前に、また部隊が全滅した話があったばかりであった事を思い出す。

 すでに、今の管理局員――特に、前線メンバーは、使い捨ての道具扱いの雰囲気である。

 しかも、局員を補充する際、魔力のある人間なら、管理外世界からでも連れて来る様になっている傾向がある。

 古株でも、たった3年で仲間入り。それが10年となれば、神様扱いに近い状態になっている。

 前線に出ていたベテランは、上層部にとっては失いたくない人材故に、教導のサポートやバックスに回している。

 今の前線を支えるのは、新人とベテランに成りつつある者たちだけである。

 

「入局して4年。救助隊で3年の経験を持つベテランが、何を今更」

 

 フェイトの言葉に、はやては目を瞑り、呆れながら首を横に振った。

 

「当たり前なんよ」

 

 言葉の通り、言い切った。

 その言葉に反応する様に、大きな爆発が起きる。

 その衝撃で、はやてとフェイトが乗っていたヘリが揺れ、いくつかのサーチャーが吹き飛んだせいで、モニターできなくなった。

 なのはも、空間モニターを操作するも、反応も無い。

 

「困ったなぁ……でもいいか」

 

 あっさり言うなのは。あのクリスマス前の出来事が起こる前のなのはを知るものが聞けば、驚くであろう。

 しかし、あの出来事を境に、彼女の考えは、病に犯されるようにジワジワと考えを変えていった。

 しかも、本人が気づかないうちに。

 結果的に言えば、高町なのはもまた、世界という名の流れの被害者なのである。

 八神はやて、フェイト・T・ハラオウン。今生きている人々、これから生まれてくる人々も。

 世界という名の大きな流れに、飲み込まれ続ける。

 そして、視点は廃墟に立ち上る、黒煙が上がる付近に戻る。

 爆発の中心は、言わずともクレーターが出来上がっている。その周りの瓦礫も、さらに細かい瓦礫と化している。

 周りの建物も衝撃には耐えて、何とか保っているが、崩れるのも時間の問題かもしれない。

 そんな付近で、瓦礫の山が動く。それから、山の一部が崩れ、そこから2人の少女が顔を出す。

 スバル・ナカジマとティアナ・ランスターである。

 

「げほっ、げほっ――はぁ、はぁ、はぁ……ティア、大丈夫?」

 

 弱弱しくも、パートナーをしっかり支えるスバル。

 

「…………しょ、正直、キッ――……イ、かも」

 

 スバルに支えられ脂汗を多く流すも、痛みを耐え続けるティアナ。

 左の脛と足首の中間に刺さった瓦礫の一部は、そのまま刺しっぱなしである。処置も出来ない状態で抜くと、出血多量で死ぬ可能性がある為である。

 ただ、刺しっぱなしのおかげで、止血できているのが、不幸中の幸いなのかもしれない。

 未だに立ち続ける黒煙の中から、機械の稼動音が聞こえてきた。

 今はまだ僅かしか聞こえないが、ものの数分もしない内に、今2人がいる場所に辿り着く事は明白である。

 スバルは、ティアナをおぶって、急いでその場を離れる。

 ローラーブーツに違和感を覚える。ちらりと見ると、時折ショートしていたのである。

 それを見て、内心舌打ちをするも、まだ持ってくれと思いながら、適当な建物の中に入る。

 ハイウェイと同じ高さの階まで上がり、適当な部屋に入って、背中からティアナを下ろす。

 互いに呼吸を整えてから、互いに何も言わず、手持ちの物を全て出す。

 ただ、ティアナの手当てが先なので、2人分治療道具を使って野応急処置を施す。

 その際、やはりと言うべきか、破片を抜いた瞬間、刺さっていた部分を中心にして体全体に激痛が駆け抜けた。

 抜く前に、手持ちの布を使って傷口から指3、4上にきつく巻きつけた。これは、出血の量を減らすための処置である。

 

「これで……よし、と」

 

 リボルバーナックルを外し、ティアナの手当てを行っていた。それが、先ほど包帯を巻き終えて、全てが完了したのである。

 

「ありがとう。あとは、手持ちね」

「うん」

 

 ティアナの言葉に、スバルは頷きながら、横に退かしていた残りの道具を2人の間に滑らせる。

 まず治療道具は……ティアナで殆ど使ってしまい、1人分も満たない量しか残っていない。

 次に、互いのカードリッジは……ティアナが16発のリロード8回分。スバルは、残り5個。

 持ち込んだ武装――魔力型手榴閃光弾が3個。拡散魔力型手榴閃光弾が2つ。まだ未使用であるデバイス汎用外部取り付け型魔力ブーストが1つ。

 デバイス汎用外部取り付け型魔力ブーストとは――形は様々だが、相当特殊なデバイスで無い限りは取り付けが可能である、外部パーツである。

 能力は、文字通り魔力ブーストであるが、副産物として、使用者の魔力消費率を抑えてくれる。

 だが、デバイス自身に掛かる負担は大きく、パーツ自体が精密すぎるために、使い捨てになっている。

 しかも、使用後の使用者への反動もそれなりにあるので、取り扱っている店舗の現品以外製造されていない。ある意味、レア物でもある。

 

「……スバル、行きなさい」

「ティア?」

 

 不意の言葉に、スバルはハテナマークを浮かべる。

 

「アタシを置いて、先に向かいなさい」

「え!? なっ、何言ってるのティ――!?」

 

 悲鳴に近い声を上げるスバルの胸倉を掴み、自分の前に引き付ける。

 

「状況を考えなさい……武装とアタシ達の姿を見なさい」

 

 言葉通りに、置いてある武装と自分とティアナの姿を見る。

 

「判るでしょ? 負傷したバックスを抱えて戦闘が無理なのは、先の戦闘で理解できたでしょ?」

 

 2人の脳裏に、パイロンとの戦闘を思い出させる。

 Sランク魔導師が、1人で片付けるのが難しいと言われる起動兵器の脅威を。

 

「今回の試験で、管理局を辞めさせられる事は無いと思うし、さすがに命までは取らないでしょう……たかが試験如きで」

 

 ティアナの言葉は、もっともである。この試験は、あくまで自分の戦闘能力の証明――検定みたいなモノである。

 検定でも、多少は危険な事もするが、本当にヘマさえしなければ、命に関わる事は無い。

 だがティアナは、極度な疲労で少しばかり朦朧とした意識だったので、重要な事を忘れていた。

 この試験を受ける際、受付である署名を提示された。そして、その証明には、こう書かれていた。『本試験での負傷(体の一部が損失などの重症は除く)は、当管理局が責任を負いますが、先の重症や死亡に関しましては、一切の責任を負うことはいたしておりません。よって、下記の各項目をお読みの上で、サインと印鑑(拇印、もしくは血判でも可)をお願いします』と。

 この時、これを見た2人は困惑の声を出していた。たかが試験を受けるだけなのに、この大げさな処理は何だと。

 だが、これにサインしなければBランク昇格試験を受ける事ができないので、2人は深く考える事無くサインをしてしまった。

 つまり、この試験で死んでも問題は無い、と。

 ティアナの言葉に、スバルは犬の如く食い掛かる。

 

「じゃあ、ティアは次の試験で――」

「1人でやらせてもらうわ。それの方が、多少なり試験内容も落ち着いたモノに成るかもしれな――」

「駄目だよ、ティア!!」

 

 スバルの言葉を途中で割り込むティアナだったが、今度はスバルから言葉を割り込ませる。

 

「私、前にも言ったよね」

 

 その言葉に、訓練校の出来事が、ティアナの脳裏で駆け抜ける。

 

「誰かに助けられっぱなしが嫌で、陸士部隊に入ったって」

 

 俯きながらも、言葉を続けるスバル。

 

「自分の魔力とシューテングアーツを使って、人助けがしたいって」

「知っているわ……聞きたくも無い話、何度も聞かされているから。嫌でも覚えるわ」

「だけど、ティアがどんな夢を見て、それを追って……昇進にどれだけ掛けていることも判るよ」

「だから見捨てられない……あと、ちょっとの時間で、走れないバックスを抱えていくの?」

 

 スバルの気持ちも判りつつも、ティアナはそれを拒否する。

 策があれば、話は変わるけどと思うティアナだったが、次のスバルの言葉で変わる。

 

「1つだけ、方法がある」

 

 その言葉で、朦朧としていた意識が僅かずつであるが、取り戻し始める。

 それから、自ら顔を上げてスバルの目を見る――目の輝きに、偽りは無いという光がある。

 信用できるし、自分の不甲斐無さに呆れる。

 そこで、時間を確認――残り、5分弱。

 

「……プランは?」

 

 疲れた表情で言うも、その目の輝きは、諦めではない事を物語っていた。

 そして、2人はプランについて話している最中、管理局製に仕上げて鹵獲兵器・パイロンは、2人がいるビルとは違うビルにいた。

 どうやら、スバルの攻撃が後頭部に衝撃を与えた際、何らかの機能に影響を与えた結果である。

 その影響が出た機能が、パイロンの自己スキャンでも、不明と出る。

 はっきりとは言えないが、トライア・鉄とパイロンの部品を混ぜて組み立てたのが、原因だろう。

 互換性があるも、それはある程度なので、多少の誤差が出る。

 今までは、上手く均衡を保っていたが、後頭部に衝撃が当たる事により、全てにおいて誤差が生まれ始めたのである。

 このまま行けば、点検不良で機能停止が起こるのも時間の問題である。が、それが起こるまでの予想時間は3時間強と出ている。

 問題無く、戦闘を継続できる。

 それと、ティアナを優先的に狙った理由は、最初から2人のデータを保有しており、幻術という厄介な魔法を持っていたからである。

 幻術とは、字の如く『幻』の術である。

 幻とは――面影(おもかげ)・夢・ファンタジー・幻影(げんえい)・幻覚・幻想・幻像・夢幻 妄覚(もうかく)・泡影(ほうえい)・泡景、に含まれて上げられる。

 さらに、それに近いものとして――蜃気楼(しんきろう)・不知火(しらぬい)・鬼火(おにび) 陽炎(かげろう)・逃げ水・ご来迎(らいごう)・後光、が上がる。

 人間の認知情報は、大半が視覚と言われており、目を騙す事は感覚を狂わし、思考を混乱させる効果がある。

 それは、センサーで動く機械も一緒である。

 頭脳といえるプログラムが正常に動かなければ、誤作動を起こして動かなくなる。

 見て判断するモノなら、なおさらである。

 遠くにモノがある――それは、実際に遠い場所にあるのか。

 写真や画家による遠近法を用いた絵の中のモノなら、話は変わってくる。

 なんせ、遠くに見えて、近くにあるのだから。

 幻は、いわゆる『騙し』の1つの手段である。

 一度引っかかれば、あとは芋蔓形式で引っかかっていく。そこから抜け出すには、冷静な判断が必要となる。

 よって、正常な判断を失わせるためには、どうすればいいのか。

 それは、疲れなどの疲労による思考能力の低下か、疑心暗鬼にさせることである。

 他にもあるが、判りやすい状態は、上記の2つである。

 パイロンは、各センサーを駆使して情報を集めるも、このビルにいないと判断する。

 別のビルに行こうとした瞬間、外のハイウェイに胴体反応がある。

 素早く窓際に向かうと、そこにはハイウェイを走るティアナがいた。

 接近して確実に叩くと出たが、別の結果が生まれる。

 ティアナは足をケガしている為、普通に走ることは不可能である。

 仮に、出来たとしても、ケガを治すのが早すぎる。

 結論――幻術の可能性大。

 生態コンピューターが、そう結論して、バーストビームを放つ。

 幻影に直撃し、オレンジ色の光の粒子なって散開した瞬間、爆発。

 さらに、幻影が2体出てくる。

 とにかく、全体が見渡せる遠距離攻撃を放ち続ける。これにより、確実に1つ1つ潰して行く。

 ただ、この幻術は視界を惑わすタイプなので、術者を潰すか、幻影そのモノを確実に潰していくしか、方法は無い。

 パイロンが、バーストビームを乱射いている中、ハイウェイの瓦礫の影にティアナの姿があった。

 そして、その下に魔方陣が展開されている――幻術に、全神経を張らしているのである。

 

「この魔法、結構魔力を消費するのよね……スバル、1発で決めなさい。失敗したら一緒に不合格になってもらうからね!!」

 

 口で言いながら、同時に念話を飛ばす。

 パイロンがいるビルから、少し離れたビルの屋上。そこに、スバルが右腕を構え、拳を握り締めている。

 そして、非力な自分が情けなかった時の事を思い出す。4年前の火災――彼女、スバルにとっての初めての人生の分岐点であった。

 その分岐点を選んだ結果、今ここに立っている。

 

「アタシは……適性が無くて、空は飛べない」

 

 額に巻いているハチマキは、常に風に吹かれてなびいている。

 

「それでも、母さんが残してくれたシューティングアーツと――」

 

 右手に装備されたリボルバーナックルが、太陽の光に反射して輝く。

 

「――この、リボルバーナックルがあるから……」

 

 そこで、一呼吸して。

 

「――いっくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 叫びに近い気合の声を上げ、足元に魔方陣が浮かび上がる。

 三角形で、角の部分に小さな円が付いた魔方陣――古代ベルカ式ではなく、近年開発されて生まれた術式、近代ベルカ式。

 古代ベルカとミッド式を合わせた術式。

 

「ウイング――」

 

 右の拳を高らかに振り上げる。

 

「ロォォォォォォォドォッ!!」

 

 声と同時に、右の拳を地面に叩き付ける。

 付いた瞬間、青白い光の道が飛び出す。そして、パイロンがいるビルの階の壁に突き刺さる。

 パイロンの後方の壁に衝撃が走り、ビル全体を僅かに揺する。

 その衝撃と魔力反応で、素早く振り向く。が、幻影が目の前に現れ、メタルクローで引き裂く。

 幻影が消滅したと同時に、新たに後方に2体の幻影が出現。バーストビームでなぎ払う。

 その瞬間、その階全体に砂煙が上がる。

 

「行って!!」

 

 ティアナは、そう叫ぶと同時に魔法を停止させる。疲労万班に魔力がギリギリという所である。

 その言葉を聞いた瞬間、少し前かがみになる。

 

「ごぉ!!」

 

 そう叫ぶと、ほぼ同時に飛び出すように駆け抜けるスバル。

 トップスピードを維持したまま、ウイングロードを駆け抜ける。

 そして、壁に迫った瞬間、リボルバーナックルを叩き付け――壁を突き抜ける。

 パイロンは、それに素早く反応し、バーストビームを放つ。だが、それをしゃがんで、右に、左にと素早く移動して回避する。

 懐に飛び込むことを見越して、パイロンはタイミングを計って、メタルクローを放つ。

 が、スバルは後方に下がって回避。渾身の一撃に近い攻撃をした為に、反応動作が遅れる。

 スバルとパイロンの間の距離は、2メートル半ほど。

 そこで止まって、魔方陣を展開――リボルバーナックルのコッキング音と噴射口の音が、2回ずつ鳴る。

 さらに両手を前に出すと同時に、魔力球が形成される。

 

「ティバイィィィィィィィィン――」

 

 その言葉を言いつつ、両手を前で回して右拳を引く。

 ローラーブーツを履いているも、両足に踏ん張りを利かせる。

 そして、目の前にある魔力球に、右拳をぶつける。

 

「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 拳がぶつかり、魔力球から巨大な砲撃が放たれる。

 その砲撃は、パイロンに襲い掛かり――爆発する。

 周りに黒煙が上がるも、ビルの外に放り出されるパイロン。そのまま、動く事無く地面に落下。その際、右腕が外れた。

 地面とぶつかり、周りにあった瓦礫は衝撃で崩れて、パイロンを埋める。

 戦闘時間、2分9秒。

 色んな要因があったモノの、Sランク魔導師1人で破壊するのに困難な起動兵器を、Cランク魔導師2人だけで撃破したのである。

 この瞬間、試験の合否は関係無く、はやてが立ち上げる部隊に転属させる事が決定された。

 

「倒したか」

 

 澄ました顔で、宙に静止している時覇だったが、内心ハラハラしていた。

 全部監視していたとは言え、緊張の連続だった。

 

「ええ、確かに――ディエチちゃん、そっちのデータはどう?」

≪問題無い。結果から相当伸びるよ、あの2人≫

 

 データを整理しながら、ディエチに通信を開くクアットロ。そのクアットロのデータと自分が採取したデータを照らし合わせ、今後の期待値に驚くディエチ。

 敵になる事は判っていても、誰から上を目指すことに対しては、見習いたいとディアチは思っているからである。

 

「……そろそろ引き上げるか」

「ええ、そろそろ頃合かと」

≪賛成、帰って抱き合う≫

 

 時覇とクアットロの言葉はともかく、ディエチの最後の言葉に、2人は固まった。

 

≪どうしたの?≫

「ディエチ……すまないが、俺にはシグナムがいる」

≪知ってる。あのババアでしょ?≫

 

 さらにヤバイ発言を重ねるディエチに、クアットロは自分だけ離脱できるように、シルバーカーテンの発動を用意しておく。

 しかし、そのバカなやり取りは、先ほどまで監視していた地点からの爆発で終わった。

 そして、少し時間が戻って、ヘリの中。

 

『ふぅ~』

 

 今まで空間モニターを食い入るように見ていたフェイトとはやてであったが、息を吐きながら、背凭れに圧し掛かる。

 ヘリの中で、今までの状況――幻影のティアナが、ハイウェイを走る部分から――を見ていたが、息をつく、瞬きする暇さえなかった。

 

「これはもう、合格だね」

 

 フェイトは、笑顔ではやてを見ながら言う。

 

「そやな。けど、なのはちゃんの結果は、どうなんやろうか」

 

 はやても、笑顔でフェイトを見ながら言う。

 だが、そんな和やかな雰囲気も終わる――警戒音である。

 はやては、素早く空間モニターに触り、原因を調べる。

 原因は、機能停止したはずのパイロンの再起動である。

 

「はやて、緊急停止させるね!」

 

 フェイトは、そう言いながら空間パネルを展開。だが、新たに開かれる通信回線によって止められる。

 

≪このままでお願い≫

 

 なのはからの通信である。

 

≪もう少し、もう少しだけ見てみたいの≫

「せやけど、さすがにこれ以上は危険やよ? いくら署名にサインしたとはいえ、これほど良い人材を試験如きで無くす訳には……」

≪判っているよ、はやてちゃん≫

 

 そこでなのはは、軽く目を瞑る。

 

≪だからこそ、見てみたいんだよ……窮地に追い込まれた人間が、どの様な行動に出るのかを≫

 

 はやてもフェイトも、なのはの言いたい事が何と無く判った。

 はやてが立ち上げる部隊は、確実に『死』が隣り合わせの日常を体験する事になる。窮地に追い込まれた人間が起こす行動は2つ。

 1つ、自らを奮い立たせ、何かに立ち向かっていく。

 2つ、自らの身を守るために、自分勝手に行動する。

 大抵が2つ目に該当するも、1つ目に該当する人間は滅多にいない。

 守る守ると言っておきながら、肝心なときには見捨てる。スバルとティアナは訓練校からの付き合い。

 しかも、『死』と隣り合わせであるも、救助隊という人助けの戦い。

 なのはたちがいる戦いは、殺すか殺されるかの戦い。まったく畑が違うのである。

 いきなり舞台を変えるのに、果たして2人が耐え切れるのかが問題視していたのである。

 故に、見たい――2人の絆が、真なのかどうかを。

 そんなやり取りが行われている中、ハイウェイでは疲労で座り込むティアナ。ビルの中ではしゃぐスバルの姿があった。

 

(やったね、ティア!)

 

 念話でスバルの歓声が響く。

 

「うっさい」

 

 と、念話を飛ばしつつ、実際に呟きながら、その場に座り込んだ。

 

「でも……よく落とせたわね、アレを」

 

 荒い呼吸をしながら言うも、その声に嬉しさが混じっている。

 

(でもでも、Sランク魔導師でも大変な奴なんだよ!?)

「はいはい、判ったから、とっととこっちに着て」

(りょうか~ぃ♪)

 

 そう言って、スバルが合流しようとした時、ティアナの下からビームが出てくる。

 ティアナは反射的に避けるも、右肩に当たってしまう。

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げるティアナ。

 爆発――砂煙の中から、右腕を失ったパイロンが姿を現す。

 

「なぁ!?」

 

 窓から見下ろしていたスバルは驚愕する。

 仕留めたと思った矢先の出来事。

 戦いは、まだ続く――だが、終幕を迎えつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第三話

争いの試練

 

END

 

 

 

次回予告

 

再起動するパイロンが、再びティアナに襲い掛かる。

だが、試験は中止される所か、そのまま継続していく。

スバルは、再びウイングロードを展開――パイロンへ、突っ込んでいく。

そこで、使った技が……あらぬ展開を呼び込む。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第四話:魔法の手

 

 

 

その手に掴むのは――誰かを守るための力だと信じていた。だから――覚えただけなのに……。




あとがき
 『幻』の意味は、Yahooの辞書検索からの引用である。
 やっと書き終わりました。
 本作の方とは違い、ティアナのケガは捻挫ではなく、とんでもない所に刺さりました。
 このあとがきを書きながら、自分の足を見ながら創造してみた所――やばぁ!?
 です。冷静に考えると、本気で拙いです。(汗
 ともかく、濃厚な話の3話目をご賞味感謝。
 次は、アニメで言うと2話目に当たる部分ですが、こちらは1話で収まるかも。
 プロットの無い故の遅さ&どう転ぶか作者ですら判らない展開。(爆
 その日の気分と、脳内展開で話は常に変わっていきます。
 ではでは、次の話で。
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