過去があってこそ今があり、今があってこそ未来がある。
希望を胸に抱き、輝かしい未来があると信じて、人は進む。
たとえそれが、ただの謳い文句だとしても。
それを信じて、人は進んでしまい……何かが起きてから、人は後悔する。
ミッドの臨海地区の爆発火災の翌日。
現場の火災はすでに沈下し、航空魔導師が原因を調査している。ニュースでも、航空魔導師が解決したという解釈で話しているので、近隣部隊に調査を任せるわけにはいかないのである。
ここまで来ると、建前というものがある。
近隣部隊などは、通行規制や野次馬の誘導に辺り、少数の部隊が調査の手伝いを行っている。
そして、今回の要となった3人のエースたちは、なのはとフェイトが泊まっているホテルにいた。
15という歳でありながら、発育の良い体つきの3人は制服姿のまま、楽な状態で寝ていた。
余は、ブラウスのボタンは全て外してあるは、スカートは脱ぎ捨ててあるわなどの無防備状態である。
男ならルパンダイブしたくなる状況かもしれないが、後が怖い……いや、死が確定なので誰も行わないだろう。一時の快楽の為に死ねるのは、本物の馬鹿だけだろう。
そんな部屋に、ニュースの報道が流れ、それを聞いていたはやてが呟く。
「あかんなぁ」
「何が駄目なの、はやてちゃん」
そう言って、なのはが少しだけ体を起こす。
「頑張ったのは、近隣部隊と救助隊、それに私たち3人やないか」
はやては、不機嫌な顔で先ほどのニュース内容の不満を口にする。
「にゃははぁ。要救助者が無事なら、私はそれで良いよ」
はのはは、そう言って再びベッドに体を沈める。
「せやけど、遅れてきて美味しい所を持っていく。って、いうスタンスが気にくわないんよ」
「……ふぁん……はやて、どうしたの?」
フェイトは、欠伸をしながら体を完全に起こし、少し眠気がある状態で目を擦りながら言う。
そして、リインフォースⅡも起きる。
「なのはちゃん、フェイトちゃん……私――」
はやては、真面目な顔つきで、なのはとフェイトに自分の夢を話す。そして、今の初動といい、現在の管理局の体制に不満を上げる。
それで、新たな部隊を設立した際、なのはとフェイトにも参加して欲しいと述べる。
なのはとフェイトは、当たり前の様に参加する事を、はやてに伝える。
これにより、4年後――現在の部隊に集結する。
なのはたちが結束を再確認している頃、救助活動を行っていたラギュナスは、近くの首都内にある高層ビル群の屋上にいた。
「ふぅ~」
と、メンバーの1人が、缶コーヒーを口から話す際、洩らした言葉。
「あっ。お前、それいつ買ったんだ?」
バリアジャケットが煤だらけの、スキンヘッドのズラを被った男――ヘッドピカリン、本名は、青木 挂(あおき かける)に声を掛ける、クッダ。
「うんゃ? 空港にあった自動販売機で」
「あの火災の中で買ったのか!?」
「ああ。動いている自動販売機があったから、つい」
あの火災の中でジュースを買うのは、神経が図太過ぎるのか、いかれた神経の持ち主のどちらかだと思われる。
「ついじゃねーよ!? 長! こいつになにか言ってやって――」
と、長の方に振り向くが、似たような光景があった。
「――ふぅ、この茶は?」
水筒の蓋でお茶を味わう時覇。
注ぐ役を明菜が、とても幸せそうに行っている。
「はい。シグナム様が、ご自分でお入れになったお茶です。葉は、華紅埜(かぐや)です」
「華紅埜? たしか産地は……」
「はい、私が凱螺(がいら)の葉国(はこく)から取り寄せたモノです」
時空管理局未確認世界・凱螺。
世界全体が、日本の平安時代と中国の三国時代が交じり合った世界である。
その世界は、2つの大陸があり、『凱』と『螺』と呼ばれている。さらに、凱に2つ――世界一の大国・華国(かこく)と、世界一の諸国・牙国(がこく)がある。
一方、螺に均等に4つに判れ、輝国(てこく)、癒国(ゆこく)、葉国(はこく)、砦国(ぜこく)がある。
華国は、全てにおいて均等の国である事が特徴。牙国は、諸国ながら武力において世界一を誇り、華国すら制圧する力を持つ。輝国は、世界の教団国として認められている。癒国は、文字通り癒しに長けた国で、精神の疲れから欲求の不満まで解消する事ができる。葉国は、茶の生産国であり、もっとも上手い茶を作れる。砦国は、世界の建築物の見本となっていている。
大雑把に表すと、上記の様な説明となる。
なを、この世界は、数年前まで世界戦争を起こしていた。しかも、その原因は第7勢力の存在があったのである。
それに気が付いたのは、偶然補給に立ち寄ったラギュナスであった。
しかも、その時に時覇とシグナムがいて、メンバーと共に戦乱の解決に乗り出したのである。
その際、葉国と砦国の間にある渓谷に忍びの隠れ里を発見するも、里の全てが謎の病に侵されていたのである。
見てみぬフリは、後味が悪いと万一致で、魔法で調査・治療を行った。
その時に、第7勢力の存在・世覇(せは)と名乗る集団がやった事を掴む。
そして、里は恩を返す為に九帖明菜が仲間になり、世覇を追い続けることになる。
で、世覇を壊滅することができ、その功績としてラギュナスは第7の国としての権利を得たのである。
これはこれで、嬉しい誤算であるが、特に進言するつもりも無いので、全ての国に店を構えるだけに留めた。
今では、世界一の商業店舗になっているほどである。
話題休題。
その葉国は、世界で始めてお茶の葉を生産した国ゆえに、500年前に採取し、乾燥させたお茶の葉が存在する。
しかも、モノがモノだけに、年々量も減る一方と年数が重ねられるので、値段が高騰の一途を辿っている。かつ、選ばれた者のみ購入が許されていない。
名を『華紅埜』といい、1グラムを日本円にして、100億は下らない代物と化している。
お茶に必要な最低グラム数は人それぞれだが、基本的に150CCの給水に対して、お茶の葉は8グラムが目安らしい。
つまり、一杯のお茶で800億円という破格の値段。
それが、水筒1本分――2リットルも入るモノになると、約266グラムとなる。つまり、金額は約2兆6600億円となる。
先ほど説明した通り、人により量にバラつきがある。つまり、これより多く入っている可能性もあれば、少ない場合もある。
だが、一度でも水または湯に浸してしまうと量が判別出来ない為、正確な金額を弾き出す事は不可能である。
「……いくらだ?」
大雑把な金額を弾き出した結果、大いに口を引き攣らせながら尋ねる。
「はい、今回は凱螺からの贈り物として頂いた品物です。特に気にする事はありません」
時覇の持つ蓋に、少しだけお茶を継ぎ足しながら答える明菜。
その言葉に、時覇は安心して、再び口を付ける。
「……ふぅ、贈り物か」
蓋を、顔より少し高めに上げて眺める。明菜は、時覇の横顔を眺める。
「何で返そうかな」
何ともほのぼのした雰囲気が漂う。
明菜は、時覇に淡い想いを抱いているが、シグナムという紅の女神が付いている事を踏まえ、お使えするだけに留まっている。彼女にとって、そばにいられるだけで幸せなのである。
が、明菜にとって、空気が読めない存在が現れる。
「長! 暢気に茶なんか飲んでないでください!」
クッダは、怒鳴りつつ長に迫る。だが、その間に明菜が立ち塞がる。
その瞬間、その2人の空気が変わった。
「…………メス豚はどけ」
ドスの利いた声で言うタッグに対して、明菜は無言のまま。言い返す気配すらない。
この2人は、顔を合わせれば睨み合いを行うくらい、犬猿の仲の如く仲が悪い。
一昔は、顔を合わせるなり――
「よう、緩々マ○コ豚」
「あら、御機嫌よう――汚物塗れのち○ぽ野郎」
――という会話が、普通に飛び交っていたくらいである。
管理局に保護を回す訳には行かず、こちらに保護した子どもなどがいるので、衛生上良くないと改善に踏み切ったのである。
結果的に、今の睨み合いまでに収まっているが、時折訓練所を占拠してはバトルしている。しかも、罵声を浴びせ合いながら。
防音設備は万全だが、結界が壊れてしまえば意味も無くなる。
この防音設備だけでも、1000万クラスする代物ながら、この2人の喧嘩で3回も壊している。
このままだと、教育所か、組織全体に影響を及ぼしかねないと、長を筆頭に特別風紀部隊を設立。特別更生プログラムを受けさせたのであった。
現在は、組織ラギュナス第6部隊・内外部調査風紀隊として、名残を残している。
「やめんか、2人とも。茶が不味くなる」
「申し訳ありませんでした」
時覇の言葉に、素直に謝る明菜に対し、タッグは不服そうな顔をする。
「今は待て」
2人を見る事無く、言葉を投げかける。だが、その言葉は重く感じた。
「…………了解」
言葉の重みを感じ取り、渋々下がるタッグ。長には長の考えがあるのだと判っているが、今1つ掴めない苛立ちを覚える。
「明菜、タッグに」
「…………」
無言で作業を行う明菜。
「盛るなよ。あと、皆にも頼む」
タッグに渡す予定の湯飲みに、白い粉を入れようとしていたが、時覇の言葉に止まる。仕方が無いと言わんばかりに、普通に入れて渡す。
タッグは、明菜の頭に渡されたお茶を掛けようとしていたが、入れるのを辞めた事に免じて素直に飲む。
他のメンバーも、明菜からお茶を渡されて、次々に飲んでいく。
時覇がお茶を飲み終わった瞬間、目の前に空間モニターが展開される。
≪長、時覇様≫
ラ定会で司会を行っていた、時空管理局・提督クラスの女性――リュクナイア・ブリューグザスが映し出される。
近年は時空管理局の方が忙しいので、司会は別の娘にバトンを渡している。
ひと段落が着けば、返還して貰うつもりでいるらしいが、多分無理だろうと自分でも悟っている。
「出たか?」
≪はい。やはり、原因はレリックだと判明しましたが……機械兵器なのですが≫
そこで、リュクナイアは言葉を切るも、そのまま言う。
≪ジェイル・スカルエッティに確認した所、本人が開発した試作型起動兵器の同系機と確認しました≫
その言葉に、時覇は手を顎に当てる。
「AMF……ガジェットドローンだったか?」
≪仮名ですが、その通りです≫
AMF――アンチ・マギリング・フィールドの略で、魔法結合を無効化にする事が出来る代物である。が、発生後の効果――雷や石などの自然、物理を無効化にする事はできない。
新暦71年辺りまでなら、運用できたかもしれないが、今は無意味に等しい兵器。
現在の管理局は、確かに未だ魔力主体であるが、質量兵器が開発・保有が認められている今となっては意味がないからである。
ただ、この時点――新暦71年4月時点では、まだ考案改正2ヶ月前なので、まだ有効性が認められる物だった。
「ったく、2ヵ月後に法案改正で、管理局が質量兵器を保有するようになる事を知らん連中だな」
≪なっ、何で知っているのですか!?≫
時覇の言葉に、リュクナイアは驚愕する。まだ報告はしていないモノであり、今日――正確には、昨日知りえたばかりの情報である。
「あぁ、大分前から、それらしい動きがあると聞いて、な。だから、ジェイルの兵器を採用しなかった理由でもある」
あの時、ジェイルから提案書とプロトタイプを見せられてが、丁度ドゥーエから内偵報告を受けたのである。
お陰で、ジェイルは自ら提案書とプロトタイプを破棄、AMFだけがラギュナスに残ったのである。ちなみに、半泣きで提案書を破り、地面に叩きつけたジェイルの姿は、とても珍しかった。
なを、場所が長の間――代々受け継がれた長の部屋だったので、後片付けは本人にやらせたが。
だが、ここで疑問が残る。
今回の空港火災で戦闘した機械兵器は、ジェイルが開発した代物である。AMFはともかく、プロトタイプは一部の者以外、知らないはずである。
設計図は、ジェイルが提案書と共に破り捨てている。つまり、同系機はこの世に存在しないはずである。
外見は、データや写真さえあれば、いくらでも復元が可能であるが、中の機能までは再現できない。
つまり、どうやって設計図すら存在しない兵器を生み出したのか。
「リュクナイア」
考えれば考えるほど思いつくので、リュクナイア声を掛ける。
≪はい≫
「調査を、頼む」
そう言いながら、右の中指で右頬を2回掻きながら伝える。
≪――早急に≫
そこで空間モニターは消え、通信が終了すると同時に、時覇は立ち上がる。
「さて、撤収しますか」
尻についた埃を払いながら言う。
その言葉に、各メンバーが立ち上がり始める。ゴミはきちんと持ち帰るので、各自で出だしたゴミは、各自で持つ。
少し騒がしくなるが、特に気にしないで、空港火災現場を見る時覇。
そして、一言呟く。
「……荒れるな、確実に」
そう言って、ラギュナスの長を含めたメンバーたちは、本部へ戻っていた。
これが、4年前に起きた空港火災の出来事である。
第五話:強制徴収
話は戻り、新暦75年の現在。
廃墟の試験から近くにある陸士部隊の隊舎のロビーの一角。スバルとテーブルを挟んで、その反対にフェイト、はやて、リインフォースⅡが座いる。
廃墟の試験から近くにある陸士部隊の隊舎のロビーの一角。スバルとテーブルを挟んで、その反対にフェイト、はやて、リインフォースⅡが座いる。
入り口付近に武装した陸戦魔導師が2名。さらに、ロビーの大きなガラス張りの窓の下付近では、多数の武装局員が待機。
静かなのは当たり前なのだが、空気が相当重い。
その様子を、大分離れた海の上から見ている時覇と、キーパネルを操作するクワットロ。
合格の雰囲気ではないと悟り、後を付けてきたのである。ただ、ディエチは先に帰ってもらっている。渋っていたが、空を飛べないと足手まといでしかないからと、早めにデータの解析をして貰いたいからである。
「クワットロ、状況は?」
「少々お待ちを――っと、出ました」
空間モニターに表示された報告書を、クワットロは時覇に回す。それを手早く読んだ時覇は、頭を抱えた。
「まさか……最後のアレはマジック・フィンガーだったのか」
マジック・フィンガーとは、時覇のオリジナル魔法でもあり、ドゥシン’sの能力を最大限に引き出すことが出来る魔法である。
先の説明通り、ドゥシン’sの能力を最大限に引く出すことを前提に開発したので、汎用性に欠けている。あと、構築された方法がサイガ式であるので、ミッド式やベルカ式に書き換えるのが面倒なのである。
故に、部隊でも、長であり開発者でもある時覇以外、誰も使っていないのである。
それが、他の人間――ラギュナスを目の敵にしている組織の人間が使ったのである。話がややこしくなるのは、火を見るよりも明らかであった。
「ともかく、ここから監視を続けるぞ、クワットロ」
「了解ですぅ~、愛しの長様♪」
時覇の言葉に、上機嫌で答えるクワットロ。しかし、時覇は突っ込みを入れた。
「今の言葉」
「はい?」
一呼吸。
「シグナムの前では言うなよ? 血の雨は見たくない」
「…………以後、気をつけます」
冷や汗を流す時覇と、滝の様に汗を流しつつも、作業を止めないクワットロの会話であった。
そして、スバルは俯いたまま、その場で固まったまま。フェイトはスバルを見ながら、魔力サーチで周囲を警戒。はやても、念話で定期的に陸戦魔導師たちと、連絡を取り合っている。
(フェイトちゃん、様子は?)
不意に、はやてからフェイトに念話を繋げる。
(うん、今の所は何も。なのはは来るにしても、ティアナって子が来れないかも)
(あ~、確かに。足に穴が開いたからね、できればまとめて聞きたかったんやけど……流石に無理かな)
と、念話で話し合う2人。なを、ここに座ってから1時間近く経とうとしている。
不意に、廊下の方が僅かに騒がしくなる。
「フェイトちゃん、アタシが見てくるよ」
と、はやてが立ち上がろうとすると、斜め後ろから声が上がる。
「いえ、はやてちゃん。私が行ってくるです」
そう言って、廊下の方へ飛び立つリインフォースⅡだったが、男女が現れる。
「スバル!!」
そう言って、長髪の女性がスバルに近づく――が、すぐに足を止める。
理由は、待機状態で宙に浮くプラズマランサーが、向けられていたからである。
男性も、同じく向けられているので、その場から動いていない。
「あれ? ナカジマ三佐じゃないですか、どなんしたのですか?」
はやては、陸士の服を着た男性が、師匠であるゲンヤ・ナカジマだと認識する。
「って、事は……こっちの娘さんは、ギンガ・ナカジマ?」
はやての言葉に、フェイトは陸士の服を着た女性が、4年前に助けた少女である事を思い出す。
面影が、それなりにあったので、すんなりと名前を出すことが出来た。
「はっ、はい! 家の妹がスパイ容疑で逮捕されたと聞いて」
「娘と一緒に、お前さんらがいる場所を締め出して、乗り込んできた訳だ」
ギンガの言葉はともかく、ゲンヤの一部の言葉に突っ込みたくなるも、あえてスルーする。
「あの、フェイト執務官」
「ギンガ陸曹、何か?」
「スバルと話が――」
「それは認められへんよ」
ギンガの言葉を、はやてが断ち切る。
「理由をお答えください」
怒りのオーラが見え隠れするギンガに、はやては答える。
「犯罪組織・ラギュナスの関係者と断定された人物は、たとえどんな権限があっても、無効化されるんや」
なを、新暦72年に改正された新時空管理局法で――ラギュナスと関わりのある存在と判断された場合、無関係と言える証拠か行動が求められる。
しかも、判断されている最中は、第三者とは接触すら許されていないのである。
よって、家族との面会は出来ない。それは、権力や金を持ってしても成しえる事は、叶わない。破れば、有罪無罪関係無く、第特級犯罪者というレッテルを貼られ、処刑が行われる。
「だから言っただろう、ギンガ」
後ろから、ゲンヤの声が掛かる。
「法案改正で駄目だって言ったんだが……まったく聞きやしねぇんだよ」
後頭部掻きながら、ゲンヤが簡単な説明をする。
「妥当な感情、ではあるんやけど……」
ゲンヤの言葉に、はやてが目を瞑りながら考えるも、答えは1つしか用意されていなかった。
「……こればかりは、どうしようもないんよ」
残酷な一言。
どんなに望んでも、ラギュナスとは無関係である事を証明しない限り、蚊帳の外なのである。
「せやけどな、すぐに身の潔白が証明できる方法があるんよ――スバル・ナカジマ二等陸士」
「っ……はい」
はやての問い掛けに、体を一瞬だけビクつかせるも、少し間を置いてから返事をするスバル。
ゲンヤとギンガも、はやての声に耳を済ませる。身の潔白の方法など、おいそれと見つかる訳ではない。なのに、あっさりそれを提示しているのだから、気になる。
「本当は、試験の結果によって、決めるんやったんだけどな。こんなことになってもうたし」
と、スバルの顔を見て言う。
「で、話は簡単や。私が設立する部隊――対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に入る事。これが、今現在考えられる中で、もっとも簡単に身の潔白を開かせる方法や」
はやては、人差し指を立てながら、スバルに言い聞かせる様に言う。
「対ラギュナス迎撃専用」
「特別特殊部隊」
「機動六課、だと?」
順に、スバル、ギンガ、ゲンヤで声が上がる。
「まぁ、一言で表せば、ラギュナスを積極的に捕まえていく部隊やけど、詳しく説明すると――」
対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課。
文字通り、犯罪組織ラギュナスを壊滅させるために設立された組織である。
かの地上本部からの支援を受け――まず始めにミッドチルダに潜伏しているメンバーや、出入り口に使っている場所の確保、または破壊する事である。
時折ではあるが、ロストロギア関係の事件・事故にも出る予定となっている。
それが大体済み次第、別の部隊を設立し、他の次元世界へ配備。ネズミ算の如く、確実に1つ1つ片付けている。
ただこの計画は、試験運用の結果次第での予定なので、まずはミッドチルダでの活躍がどこまで良くかが鍵である。
「――っと、言う訳や」
所々に脚色はあったものの、勧誘説明には問題は無い。あとは、本人の意思次第なのだが、今回はそうは行かない。
身の潔白の証明こそ、今の最大の焦点である。
「な訳で、スバル・ナカジマ二等陸士」
「はっ、はい」
「悪いんやけど、機動六課に強制転属してもらうからな」
強制転属――本人の意思を無視した権限であり、組織特有の権限でもある。
だが、納得できない人物が2人――スバルの家族である、姉のギンガと父親のゲンヤである。
が、はやてが手を出して、ストップを掛ける。
これしか、早期解決の手段と方法が無い。と、その手から感じ取れるほどの圧力を放っていた。
それを感じ取ったのか、ギンガとゲンヤは止まる。そして、ゲンヤが口を開く。
「……命の」
「 ん? 」
はやてが反応する。
「命の保障は……」
「…………正直、低いともらってええ。ラギュナスが相手やから」
はやての言葉に、ゲンヤは肩を落とす。
ラギュナス相手では、旧ベテランです対抗するのが難しかったのである。なを、旧ベテランは現場経験8年以上の者を指し、今のベテランは現場経験3年以上の者を指す。
ちなみに、振り分けられるようになった時期は、新暦73年辺りから自然に生まれた言葉である。
もちろん、ラギュナスとの激戦で、ベテランの再起不能や死亡した事が上げられる。
「どちらにしろ、このままだとスバルは――」
「第特級犯罪者専用の独房入りです」
ゲンヤの予想通り答えが、目を瞑りながら答えたはやて。あまり、嬉しくない当たりである。
「判ったよ――っ……ギンガ」
一瞬だけスバルを見て声を出そうとするも、すぐに口を閉じてギンガに声を掛ける。
「何、父さん?」
「今日は、もう帰るぞ」
「…………判り、ました」
ギンガはそれだけ言って、スバルを少しだけ見て振り返り、ゲンヤと一緒にロビーを出て行った。
スバルは、2人に声を掛けようとしたが、口を噤んだ。はやての言葉を、思い出したからである。
強制徴収――辞令でも、ある程度は拒否を認められている時空管理局だが、その拒否権を無効にする行い。
スバル自身に断る権限は、もう存在しない。
あるのは――今を受け止める事。ただそれだけ。それだけなのだが、1つなることがあった。
「あの、八神二佐」
「何か?」
「っ……ティアナは……その――」
「フェイトちゃん、はやてちゃん」
その言葉に、フェイト、はやて、スバルが顔を向ける。そこには、バインダーを持ったなのはと、松葉杖を持ったティアナの姿があった。
そこで、少し時間を戻して、医務室から始まる。
「――――――――!!」
医務室から、ティアナの声にならない悲鳴が上がる。
理由は、穴の開いた足の部分に、ゲル状の物体を無理やり詰め込んだからである。しかも、簡易処理を引っぺがしてから行った。
「うむ……あとは、これを巻けば終わりだ」
ここの隊舎の医務長が、文字が刻まれた包帯を巻いていく。
「あの、ゲル状の物体といい、包帯といい……何なのですか?」
治療方法が、大雑把かつ知らない医療法が行われていることに、疑問をぶつけるなのは。
「む? ああ、ゲル状の物体は、人間の細胞――皮膚、肉、骨、血など、必要な物をゲル状にした物だ。これなら、まず腐る事は無い。あと、今巻いている包帯は、治癒能力を高める魔法を詰め込んでいるだけの物だ。作り方さえ判れば、質は悪いが誰でも作れる」
そう言いながら、手早く包帯を巻き終える。だが、ティアナの顔に脂汗が流れ、声を出したくても出せないでいる。
「あっ、あの~、本当に治療なのですか?」
さすがのなのはも、この治療に対して、不安が駆け巡る。
それは、ティアナの心配ではなく、自分も受ける可能性がある事を視野に入れての事。
「うん? 我流だけど治療だよ。まぁ、もの凄い激痛と焼けるような熱さに襲われている事は、確かだな」
ティアナの苦痛に歪む顔を見ながら、うんうんと納得した様な表情で肯くドクター。
ある意味、タチが悪いヤブ医者だと認識する。
「この調子だと、あと数分で完治するが――」
「もう治るのですか!?」
完治速度の速さに、驚くなのは。回復魔法もビックリするほどの早さである。ただ、回復魔法は疲労や軽症程度、重症の応急手当程度にしか使えないが。
今回のケガは、肉体に穴が開く――骨まで貫いているのである。部類は重症である。にも関らず、治療を含めて15分ほどで終わらせてしまったのである。
即ち、一言で表すなら『異常』。
だが、高価な見返りが望める代わりに、それに見合う代価が発生する。
「まぁ、リスクと先ほど言った通りだから、荒治療と変わらんな」
それだけ言って、さっさと片づけを始めるドクター。患者の事など、一切気にしてもいないし、見てもいない。
ヤブ医者、ここに極まる。
「じゃあ、なの助」
「なっ、なの助って、クロ助じゃ無いんですから」
ドクター独自に考えたあだ名で、名前を呼ばれるなのは。昔、リーゼロッテとリーゼアリアが、クロノを『クロ助』呼んでいたのである。
なを、リーゼロッテとリーゼアリアは、グレアム元提督の使い魔であり、クロノの師匠でもあった。
闇の書事件の際、時空管理局を辞めているのだが、ラギュナスの過激派に殺されて亡くなっている。
ちなみに、それを行った過激派は、粛清されて半殺しとリンカーコアの損傷を負わせてから、時空管理局に渡してある。今は、どうなっているのかは、不明である。
ただ、気になる事が1つ――使い魔である、リーゼロッテとリーゼアリアの行方である。
本来は、使い魔を生成した人物が死亡した場合、使い魔は消滅するのである。ので、その辺は何の疑問が持たれてはいない。
当時、時空管理局は、グレアムが殺させる前に殺されたのか、身動きだ取れない為に、連絡が出来なかった。と、いう結論に達していた。
だが、最近になって、リーゼロッテとリーゼアリアに似た人物を見かけたという報告があったのである。
他人の空似かと思えるが、確かめる必要がある。が、その肝心の人物が捕まらないのである。
見かけたという報告はちらほらでるが、部隊を派遣しても見つからない。
悪戯の可能性が大きくなるも、やめることが出来ない理由がある。
魔法を使用した後に残る魔力残滓の解析結果、リーゼロッテとリーゼアリア本人のモノと一致するのである。
いくつモノの憶測が飛び交う中、1つだけ面白い推測があった。使い魔の継承、もしくは受諾である。
使い魔は本来、使い魔を生成した人物の魔力が元になっている。よって、使い魔を継承、あるいは他の人間に譲る事は、理論上不可能となっている。
故に、謎が謎を呼び、真実が有耶無耶になっていったのである。
話題休題。
ドクターは、片づけが終わると、出入り口を向かう。
そのでなのはは、慌てて呼び止める。
「どっ、どこへ行くのですか!?」
「ん? もう済んだから、適当にぶらついて来る」
と、言って、ドアを開けて廊下に出て行く。なのはも、ドアへ向かおうとするが、閉められてしまい、もう一度開けて廊下を見渡す――が、誰もいなかった。
なのはは肩を落として、医務室に戻る。
で、ティアナはティアナで、声の無い悲鳴を上げながら激痛と戦っている。
なのはは、不意に松葉杖の存在を思い出す。いくら治りが早いとは言え、すぐに歩く事は無理だろう。
思い立ったら、行動あるのみ。医務室を軽く漁ると――薬品や医療道具は当たり前だが、酒、エロスな本、菓子類、武器類などを発見する。
それらは、今回は見なかった事にして松葉杖を探し、ベッドの下から見つける。
箱の中に入っており、中身は折りたたみ式のタイプであった。
組み立ては簡単で、鉄よりも硬く、スチールよりも軽い素材である『リルド』で出来た最新型とも言える松葉杖であった。
ただ、値が張ってしまうので、余り一般には普及していないので、知られていない代物でもある。
なのはは、組み立て説明書を見ながら、あっさりと組み上げる。っと、言っても、折り畳まれて物を伸ばしただけであるが。
それから数分後、やっと落ち着きを取り戻したティアナに、タオルと水を渡す。
「あ、ありがとうございます」
「うん、どう致しまして。で、足の方はもう?」
渡しながら、包帯が巻かれた部分を見て尋ねる。
「はい、動かすと痛いですが、それ以外は何とも無いです。あ、頂きます」
「どうぞ」
ティアナはそれだけ言い、なのはは軽く肯くのを見てから、水に口をつける。
「そうだ、ティアナ」
「ぅん――はっ、はい」
飲んでいる途中だったので、慌てて飲み込んでから返事をするティアナ。
「えっとね……今、はやてちゃんたちが、スバルを見張ってい――」
「スバルはどうなるのですか!?」
ティアナの声に、一瞬驚くなのはだったが、すぐに元に戻る。
「おっ、落ち着いて、ティアナ。今、状況を説明するから」
そう言って、今の状況を説明するなのは。時折、ティアナの顔が険しくなるが、気にせずに説明を続けた。
「――で、今回設立する部隊に、強制徴収される訳なんだけど……」
「待ってください」
「何か?」
話の腰を折ったティアナに、なのはは誠意で聞く体制を作る。内心、話の腰を追った事に注意はしたかったが、する場面ではないと悟る。
「私も、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に入れてください」
まっすぐな瞳で、なのはの目を見ながら答えるティアナ。
その言葉は、後戻りできない合言葉でもあった。
なのはは内心で微笑む。スカウトする予定の人材が、あっさり手に入ったのだから。
多分、この調子だと、スバルも入るはずだから、原石を手に入れ損ねる事は無くなったと言える。
「判った。けど、まずは部隊長になる八神二佐に会わないとね」
「――はい!」
なのはは、ティアナに松葉杖を渡しつつ、サポートをする。
そして、医務室を出て、はやてたちがいるロビーへ向かう途中で、ゲンヤとギンガに出会う。
「ティアさん」
ギンガが先に声を掛ける。
「ギンガさん。もしかして……スバルの事で」
その言葉に、ギンガの顔は暗くなる。
「ええ、先ほど会ってきたわ。会話は出来なかったけど」
「ギンガさん……所で」
ギンガに影が掛かり、心配するティアナだったが、ふと後ろにいる男性に気がつく。
「こちらの方は?」
「あ、私とスバルの父親の――」
「ゲンヤ・ナカジマだ。娘が、いつも世話になっているな。感謝する」
ギンガの言葉を引き継ぎ、ゲンヤが自分で答え、感謝の言葉も述べる。
「いっ、いえ、そんなこ――!?」
ティアナは、足を動かしてしまい痛みが走り、顔が苦痛で僅かに歪む。
「おっ、おい、大丈夫か?」
「だっ、大丈夫です。今はもう、足を捻挫した程度の傷だと思います」
ティアナの言葉に、ゲンヤとギンガの頭に、ハテナマークが浮かび上がる。ケガの状況を知らない為、疑問が浮かぶのは当然といえる。
「ティアナ、そろそろ」
「あっ、はい。それでは、ギンガさん、ゲンヤさん、失礼します」
なのはとティアナは、ゲンヤとギンガの横を通り過ぎていく。
ゲンヤとギンガも、特に気にする事無く、その場を後にした。
そして、ある程度進むと、出入り口に武装局員が立っているのが見える。武装局員がこちらに気づき、敬礼を行う。なのはも、軽い敬礼をしながら入っていき、ティアナもその後に続く。
そして、はやてとフェイト、相方のスバルが座っていた。
「フェイトちゃん、はやてちゃん」
と、なのはから声を掛けた。
その言葉に、はやてとフェイトとスバルの3人が、こちらに顔を向ける。
「なのはちゃん、ティアナ・ランスター二等陸士の様子は?」
「はい、もう完治しているらしくて、あとは軽い痛みだけかと」
「そうか。もう完治――って、足に穴が開くケガやったんよ!? それがもう治るって、どんな治療やねん!?」
当たり前の反応を返すはやて、フェイトも声は上げないも、驚いて目を見開いている。スバルも、フェイトと同じ状態である。
「色々突っ込み所満載だけど、今は置いといて――」
バインダーを脇に挟めて、右から左へ物を上げて置くジェスチャーをしながら言うなのは。
そして、バインダーを持ち直す。
「こちら、ティアナ・ランスター二等陸士が、我々の部隊――対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に転属したいとの事で、八神部隊長の指示を仰ぎに、連れて来ました」
はやてに敬礼をしながら、報告をするなのは。
「なんやて!? ホンマかいな!?」
はやてはソファーから立ち上がり、ティアナの元に歩み寄る。
ティアナは、少し体を強張らせる――緊張していると自覚する。
「ティアナ・ランスター二等陸士」
「はい」
重々しく言うはやてに、真剣に答えるティアナ。
「自分の言葉に、二言は無いんやな?」
「はい」
真っ直ぐな瞳で、はやての目を見るティアナ。その瞳は嘘偽りが無い輝きを、久しぶりに見るはやて。
(私も、こんな時期があったんやったな)
はやては目を瞑り、その時の事を思い出し、再び目を開ける。
「ほな、ティアナ・ランスター二等陸士。スバル・ナカジマ二等陸士と共に、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課へ歓迎する――宜しくな、ティアナ」
狂った運命の歯車が動き出す。
そしてそれの歯車の音は、狂気の祝福の音である。
だが、その音は、誰も聞く事はできない。
何かに出逢う者たちの物語・外伝
第二部
魔法少女リリカルなのはTIWB
~二つの意志と狂いきった世界~
第五話
強制徴収
END
次回予告
対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課への転属が決まった、スバルとティアナ。
この展開に、ラギュナスの長・時覇は、眉を顰める。
そして、新部隊に工作員を送り込む事を決め、行動を開始する。
その頃、円卓の守護者は、スバルの事で話し合いが行われていた。
次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝
魔法少女リリカルなのはTIWB
~二つの意志と狂いきった世界~
第六話:試験終了後日談
理想と現実の違いに、戸惑いを覚えた日だった。
あとがき
英語が出来ないから、即席で考えた言葉を適用している。(挨拶
なを、お茶の分量は、実際に調べた結果で、金額は架空のなので真の受けないよう、お願いいたします。
ただ中国に、500年?(100年単位は確か)くらいだかのお茶の葉を乾燥させて固めた物が、実際に存在します。
テレビで見て、売る覚え状態なので、詳しくは覚えていませんが、一杯日本円にして10万円以上したはずです。(それ以上だと思いました)
で、やっと五話目完成。
でも、アニメ二話目の後半です――長!? 一話で三話!?
って、これ以上長い話を書いている人が、フリーでいるだろうぅが。(一人ボケ突っ込み
ともかく、次の話もお楽しみに。
最後に、下品な言葉が出て申し訳ないです。(汗
これ、もう15歳以上推奨作品にしちゃおうかな、もう。
制作開始:2008/5/5~2008/5/31
打ち込み日:2008/5/31
公開日:2008/5/31
修正日:
変更日:2008/10/29