何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ   作:ダークバスター

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 力を求める事は、罪なのか。
 力を得る事は、代償を背負う事なのか。
 だが、力とはなんだろう。
 圧倒的な、暴力? 権力? 名声? 名誉?
『力』とは、いったい何だろう。


第十二話:力こそ全て

 

 暗い闇。

 何処までもが闇で、何処までが天井で、何処までが地面で、何処までが壁なのか判らないほど、闇に染まった場所。部屋なのか、世界なのかすらぁ、判別が出来ない。

 

「時は来た」

 

 そんな闇に、1つの声が木霊する。

 

「いや、まだ早い」

 

 2つ目の声。

 

「遅い、の間違いでは?」

 

 3つ目の声。

 次第に、どんどん声が木霊していく。

 

「……静まれ」

 

 たった1つの声で、数十、数百、数千、数万、数億、数兆……無限と言っても過言ではない声が、一斉に止んだのである。

 ただその声は、人間が口で発音できる様な声ではない。

 

「状況は、我々に好ましくない方向に進みつつある」

 

 その言葉に合わせる様に、2つも空間モニターが展開される。1つは、彰浩たちと藍。もう1つは、勇斗たちと襲撃者。

 視線――というべきか、全ての意識が、彰浩たちと藍が映し出されている空間モニターに集まる。

 そして、その空間モニターに、両耳を力無く塞いでいる彰浩が全面的に映し出される。

 

「何故、機動六課に輸送させたはずのデバイスが、ア奴の手に渡っているのか」

 

 老人男性の声。

 

「とある遺跡で発掘された、古代のデバイスと言えた存在であり、伝説として語り継がれた武具でもある」

 

 貫禄のある男性の声。

 

「だが、問題なのは――何故、才も無き者如きが、3つも装備できているのか、という点だな」

 

 少し渋い成人男性の声。

 

「確か、伝説の一説に……3つの武具を纏う事叶わず。成し遂げようとせし者には、その罪によりて身を滅ぼさん……だったっけ?」

 

 かん高い成人女性の声。

 

「そうだ。テストの結果、1000人中1000人が死亡する結果を残している」

 

 堂々とした少年の声。

 

「正確には、第26京3000兆2367億904万90回目の適合検査結果だ」

 

 堅物の様な男性の声。

 

「1回1回の検査人数は区々――全27正(せい)4568潤(かん)2689溝(こう)9957穣(じょう)3001予(じょ)91垓(がい)6587京(きょう)1100兆3968億9875万2341人。うち、管理世界の人間、3正1潤5897溝2698穣157予987垓1112京2690兆1201億59万1050人。管理外世界の人間、8正354潤1212溝9887穣2119垓4589京7895兆6969億6666万7890人。プロジェクトFなどによる様々な技術によって人工的に生み出された人間、16正3212潤5579溝7472穣0724予9104垓885京514兆5798億3149万3401人。内、第1段階成功率、85パーセント。第2段階成功率、35パーセント。最終段階成功率、0パーセント」

 

 無表情な少女の声。

 

「3つの組み合わせはともかく、2つまで同時に装備できる存在はいた。だが、3つ目を発動させる前に死ぬものが殆どで、実際の第2段階成功率は2パーセントも満たなかった」

 

 雑音みたいな、だがハッキリと言葉が判る男性らしき声。

 

「だが、実際に生きていられたのだけでも、奇跡に近い」

 

 モザイクが掛かった女性の声。

 

「人工的に造った人間よりも、天然の人間の方の比率が良いのが、納得できんが」

 

 渋い男性の声。

 

「事実を受け入れよ。それが我らのあり方のはずだが?」

 

 柔らかく、ハッキリとした口調の女性の声。

 

「判っている……あの小僧――彰浩だったな。藍の改名前の兄だったという」

 

 10代の青年らしき声。

 

「藍だけでは、少し荷が重いのでは?」

 

 ほんわかした口調の女性の声。

 

「それは、良心というだけの結論だな。理論的ではないが、念には念を入れておくのが筋と言うもの……ガジェットドローンを送るか?」

 

 ゆったり口調の男性の声。

 

「ガジェットドローン……ラギュナスが破棄した兵器、だったな。予想以上に使えぬ代物を送るのは、逆に足手まといでは?」

 

 裏返った男性の声。

 

「いや、援護はともかく、探索や回収作業には持ってこいの兵器だ」

 

 ハキハキとした成人男性の様な、子どもの声。

 

「……良かろう。至急、ガジェットドローンにコントロール制御を搭載し、藍の援護に」

 

 人間が口で発音できる様な声が、皆の言葉を受け、整理し、明確にかつ正しいと思われる選択を弾き出す。

 

「ア奴はどうする?」

 

 老人女性の声。

 

「グーリ・ド・アイブか……苦戦は必然だ。これくらいの事を乗り越えられんようでは、先が思いやられる」

 

 人間が口で発音できる様な声。

 

「大分買ってぉるのぅ?」

 

 時代口調の掛かった10代前半の少女の声。

 

「奴の潜在能力を見れば、大体の奴は買うと思うぞ?」

 

 人間が口で発音できる様な声は、先の声に対して反論を返す。

 

「今は、この2人が問題であろう」

 

 再び人間が発音する事が出来ない声によって、また沈黙する。

 

「勇斗という個体は置いておく。ただし、彰浩という個体は、我らの下に置いて置くべき存在。よって、藍に増援を送る事とする――ラハブ・ラカム」

 

「ここに」

 

 人間が口で発音できる様な声の主の呼び声と、ほぼ同時に現れる30代の男性――ラハブ・ラカム。

『我らが叡智』の直下の部下に当たる存在であり、『叡智の四大代行者』の1人であり、リーダー各として存在する人物である。

 

「汝に、命を与える……判るな?」

「はぁ! ケイル・ヘートン」

 

 その言葉に従うかのように、ラハブの後ろに魔方陣が展開。そこから、片膝を付いた状態の男性――ケイルが現れる。

 

「ここに」

「デバイス・ヘカトンケイルは?」

 

 ラハブは、振り返る事無く、ケイルに尋ねる。

 

「既に完成、試運転を兼ねた訓練を行いましたが、不具合なのが発生した結果、現状で74パーセント。そして、私自身がまだ扱いきれていないのが上げられます」

「ふむ……現状で、どれ位まで扱える?」

「今の状態を100パーセントとした場合、45パーセントと言った所です」

「……ケイル、実戦データの採取も兼ねて、藍の援護に跳べ」

 

 少しだけ沈黙するラハブだったが、試運転を兼ねた実験テストを行った所で、全ての不具合が解消される訳ではない。だが、未完成にデバイスを実戦で使うのは、自殺行為にも限度がある。が、未完成の状態での実戦データは、開発者側にとってはダイヤモンドよりも価値がある代物である。

 立証されたデータであれば、次の開発に大きな成果を約束させると言っても過言ではない。ただし、そのデータが参考になる兵器ならの話であるが。

 それでも、些細なデータが、他の兵器に大きく貢献する事もある。故に、何事にも絶対など存在しない。

 

「了解しました」

 

 その意図を察したのかは不明であるが、返事を即答で返すケイル。事実、試運転も兼ねた訓練――つまり、開発に関わっていると思われるが、それは間違いである。

 あくまでケイルは、自分が扱う予定のデバイスの感触を確かめる事と、一瞬でも早く扱いこなせる様にする為である。よって、開発に携わっているとは言い辛いのである。

 そして、その即答された返事に、肩を落とすラハブ。彼も、ケイルの行動と情報を照らし出せば、考えなど簡単に行き着いた結果の行いである。

 ケイルは、再び魔方陣が展開され、光と共に消える。それを確認したラハブは、声を出す。

 

「これで良いので?」

「構わん」

 

≪我らが叡智よ≫の言葉を皮切りに、全てが闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人と人の戦いは、次第に人外の戦いとなり、やがて神々の戦いの再来と成すか。

 人の域を超える事無く、技術と言う名の力に溺れ、自滅を歩むか。

 全てが夢だったか。それとも、現実と言う名の物語だったか。

 答えは――『力』が示さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話:力こそ全て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法結界により、外界と――魔力を持たない人間の世界と、遮断された簡易世界。結界が、術者自ら解くか、破壊されない限り続く。

 その結果以内では、住宅街が戦争でも起きたかの様な風景。燃え盛る炎に、瓦礫と化している家々。そこに、人はいない。別に死んでいなくなった訳ではなく、本当に人がいないのである。

 そんな攻撃が少し前まであった、この場所で、4人の男女がいた。

 

「あぁ~あ、だらしない格好で。しかも、外で寝るなんて、女を捨ててるとしか思えないわねぇ」

 

 だらしなく地面に顔から倒れこんでいるティアナに、暴言を吐く藍。言わずとも、原因は藍にあるのだが、それを逆手に取って言っているだけである。が、当のティアナは、先の快楽と苦痛の拷問に耐えかね、気絶している。

 目には、光が宿っていない状態で、口からだらしなく下と唾液が飛びでている。鼻水も出ていて、地面で唾液と混ざり合っている。

 さらに、体中から汗だらけで、股から液体が流れ出ている。その液体は、股周りのバリアジャケットを濡らし、地面に池を作り、ジワジワと染み込んでいく。

 

「で、こちらのスピーカーは……はぁ、もう終わりなの? 残念無念また来週ぅ~」

 

 と、言いながら、拘束したままだったスバルをその場で話す。言わずとも、重力に引かれて、地面に倒れ込む。なを、今まで忘れられていたが、拷問は継続中であり、体中から煙が立っている。

 

「うぅ~ん……何気に香ばしいのが、気に入らないわね」

 

 自分で臭いを嗅いで置きながら、美味そうな臭いだったので、鼻と口を手で覆う藍。さすがの藍も、人肉を食べると言う行いは、生理的に受け付けない。ちなみに、人肉は肉の中では最高に美味いらしいが、食べないで生涯を終える事が当たり前なのだろう。

 

「で、お兄――って、こっちは回復してもらいますか」

 

 体がボロボロで、耳にただ手を置いてあるだけの彰浩。スバルとティアナの絶叫と言う名のBGMを、聞きたくない為の動作。第一、女性の悲鳴を聞く事に快感を覚える特殊な感覚は、彰浩には無いし、無力な自分から背けたい一身で耳を塞いだけ。

 これは、『逃げた』と言われても仕方が無いかもしれない。だが、体はボロボロで、立つ事以前に動く事が不可能の状態。立ち向かっても、120パーセントで返り討ちになる。唯一、動いた腕を引き摺りながらも、手を耳に置く事だけ出来た。

 よって、これは『逃げた』と言うべきだろうか。人によって見方は違えどぉ、大体の人は『逃げた』と言わないだろうと思われる。だが、この場合は『抵抗が出来ない』と言うのが、正しいのかもしれない。

 

「回復ぅ回復ぅ回復ぅ~♪」

 

 藍は、生き生きとしながら、彰浩に回復魔法を掛ける。ただし、全快させず、体が上手く動かせない程度で止める。

 彰浩は、悲しみ、怒り、絶望、困惑と言った、情けない顔で藍を見上げる。

 

「丁度、お2人さんが気絶してくれたので、少し昔話にお付き合いをお願いします。ちなみに強制だから」

 

 と言う唐突的な言葉から、藍の簡単に纏めた昔話が始まった。

 何でも、1番始めは――やはり、交通事故からだった。言わずとも、家族の何かが壊れてしまった出来事でもある。

 藍は、事故に巻き込まれた瞬間、転送魔法によって、どこかに転移させられたらしい。

 そして、意識が戻るまでの間に、蘇生を兼ねた肉体改造を施される。これにより、身体機能の向上、魔力が開眼する。

 ただ、それを扱いこなす為に、地獄の様な訓練と圧縮記憶データの強制移植を受けた。

 圧縮記憶データとは、文字通り圧縮した記憶をデータ化したモノで、それを直接人間の脳に詰め込むという荒業。これにより、短期間で膨大な知識を得る事ができるが、脳内でデータを解凍した瞬間、死にたくなるほどの頭痛が襲う。

 一言で『頭痛』で表すと、時々起こる程度の痛みを思い出すかもしれないが、そんな生易しいものではない。

 先のように、『死にたくなるほど』と表しているように、脳に強い刺激が何度も走り、血管が焼き切れた様な感覚。それは、気絶したくても仕切れない地獄。その間の1時間が、1分が、1秒が、とても長く感じる様になる。しかも、時間が判ると、なお明確と為る。

 それが終わると、休む間も無く訓練に飛ばされた。まさに、文武両道を貫き通した内容であった。

 脳内で構築された膨大な記憶のデータバンク内部から、素早く取り出す事が出来るように。そのデータバンクに、新たな知識を瞬時に書き込む様に。無駄な筋力を付けない様に、かつ洗礼された訓練。

 

「――洗脳の刷り込み英才訓練だったけど、自分でこの道を選んだつもりだよ。でも、それも刷り込みかもしれないけどね」

 

 そして、その言葉で締めくくった。

 彰浩は、事故の日から大体の経由を知った。知ったが、どうしようもなかった。

 何故か。起きてしまった事を、消す事は出来ないから。それこそ、過去へ跳んで行かなければならない。

 だが、ここで疑問にぶつかる。

 

「なら……何で、顔を――」

「出せる訳無いじゃない」

「それは、判るけど」

「判ってない。判ってないよ、お兄は」

 

 彰浩の言葉に、藍の表情から笑みが消える。

 

「来たとしても何? 葬式が終わってぇて、学校にもいけなくなって、友達もいなくなって、欲しかった限定品も買えなくて……」

 

 藍は、そう言いながら顔を背け、手を強く握り始め、肩を徐々に振るわせていく。

 

「家に……家族がいても……部屋があっても……私物が残っていても……」

 

 それ以上、藍は言葉を言わなくなった。その代わり、地面に落ちていく雫が見えた彰浩。

 

「失ったモノは……2度と戻ってこない」

 

 涙を頬に伝わせながら、顔を向けて答える。

 彰浩は、軽率な言葉だと悟る。失ったモノ――それは、時間、絆、何時もと変わらないと思いつつも、ほんの少しずつ変わっていく日々。そして、常識だった筈の知識。日々の中での、衝動買い、些細なケンカ、一時の出会いなどの経験と感情を得る機会まで。

 常識が打ち破られ、非常識が常識へ変わる。

 架空の産物が現実と化し、否定が肯定と成す。

 失ったものは、時間から一時的な、突発的な感情までにいたるまで。

 

「戻ってこないからこそ、今まで歩んできた、歩まされた私を受け入れて……ここにいる」

「…………それでも…………」

 

 彰浩は、何とか体を起こして、藍の顔を見る。

 

「……何で、帰ってこなかった?」

 

 その言葉を聞いた藍は、悲しみの感情が一気に冷め、代わりに怒りの感情が湧き上がった。

 そのまま、藍は彰浩の右横へ行き、右足に魔力を込めて、浮き上がっていた体――鳩尾部分を蹴り込む。ちなみに、電撃のオマケ付き。まぁ、スタンガンの1種と考えた方が早い。

 

「――――!?」

 

 彰浩の視界が白黒に染まり、体が宙を舞う感覚に襲われる。だが、それも一瞬で、地面にぶつかり、跳ねしながら転がる。

 転がると言っても、3、4回転くらいで仰向けの状態になる。それと同時に、腹部に衝撃が走る。

 

「――ぅっぶぅぁがぁっ!?」

 

 口から血を噴出しながら、咳き込む彰浩。だが、その咳も満足に出来なかった。何故なら、藍が彰浩の腹部を右足で、踏んでいるからである。

 手を足に持って行こうとするも、電撃と地面を転がった上乗せダメージによって、動かす事は出来ない。

 

「何も……判ってない」

 

 足を軽く上げて――再び腹部を踏む藍。

 

「っぐふぁ!?」

 

 腹部を踏まれ、強制的に空気と血を吐き出す彰浩。

 

「何も」

 

 もう1度、足を上げて踏む。

 

「っはがぁ!?」

 

 再び踏まれた瞬間、空気と血を吐き出す。

 

「何も!」

「っばぁっ!?」

「何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! ――」

 

 何度も、何度も藍は、彰浩の腹部を踏み続けた。そして、藍に踏まれた瞬間、何度も空気と血を吐き出す。

 結界によって切り離された世界の中で、打撲音と、何かを吐き出す声と音と、少女の声が響くだけ。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁああああっ!!」

 

 ノーヴェは、襲撃者――グーリ・ド・アイブの懐に飛び込むや否や、移動途中の空中でジェットエッジを強制パージさせる。

 なを、これは緊急用なので、1度パージすると2度と履けなくなる。だが、回収して組み直せば、何度でも履く事は出来る。だが、どちらにしても、スピードが一気に落ちる事には代わりが無い。だが、代わりに得るモノもある。それは、小回りである。

 ジェットエッジを履いていると言う事は、靴に靴を履いている状態。さらに、ローラーという延長部分と、重さが付き纏う。

 スピードは言わずとも、遠心力を利用した攻撃が可能となる。しかし、いくら力があっても、遠心力を完全に制御する事は出来ない。制御が可能――それは、この世の法則を無視した力、或いは現象、またはその倍以上の力が加わる事である。

 ただ、倍以上の力を加えると言う事は、それなりの代償を払う事になる。反動などに従って、徐々に弱めていくなら大丈夫だが、強制的に止めるとなると代償が発生する。徐々に弱めていくのも代償が発生する――つまり、何事にも代償は必要となる。なるが、ケース・バイ・ケース。時と場合により、大雑把な理論で言えば、ゆっくり止めるより、急に止める方が、代償は大きい。

 話は戻り――ジェットエッジを脱いだ状態では、小回りが聞く様になり、懐さえ飛び込めれば勝率が上がる。

 互いに接近戦が出来ると言っても、グーリはデバイスという延長線を持っている。それに対してノーヴェは、拳――ガンナックルという、拳より一回り大きい篭手の装備を片手にしているだけ。小回りが利き易いのは、もはや明確。むしろ、必然と呼べる。

 

「台風の目とは――中々のやり手だぁ、なぁ!」

 

 ノーヴェの至近距離の蹴り上げを、紙一重でかわすグーリ。顎を掠ったが、脳を揺さぶられる程度では無い。

 

「くっ――そぉあ!!」

 

 振り上げた足の踵を、そのままグーリに向けて落とす。

 

「当――たるかぁ!!」

 

 飛行魔法でホバーリングして回避し、そのまま上空へ上がろうとする。が、砲撃魔法が、一斉に襲い掛かる。

 

「上には行かせないッスよ!!」

 

 ウェンディのライディングボードから放たれる砲撃――拡散爆撃弾。

 拡散爆撃弾とは、文字通り拡散するのだが、弾丸1発1発が爆弾になっていて、着弾した瞬間に爆発する。

 グーリは、それを突破することは出来るが、確実に攻撃を貰ってしまう。ノーヴェのシールドを壊す事無く、貫通ダメージを放つ技を持っている。グーリが、シールドを張ろうにも、攻撃が手薄になってしまう。

 魔導師は、基本的に2つの魔法を使うことは無い。いや、正確には、使う事は出来ないと言っても過言ではない。

 魔法の中には、確かに2つ同時に使っても、支障は無いモノもある。だが、魔法はデバイスが制御している為、デバイスの処理能力が追いつかないのである。

 人間の場合、火事場の馬鹿力、死に物狂いなどの精神的な要素により、普段以上の力を発揮する時がある。だが、デバイスは、インテリジョンデバイスになっても、所詮は機械。人間の様に、感情を得ても性能限界を超える事は出来ない。

 

 だが、感情を得た事で限界を超える事があるのならば、それは、デバイスという種族の誕生の瞬間なのかもしれない。理由はある。動物にだって、何らかの感情はある。そして、種類別に分けられている。つまり、デバイスも道具と言う部類の武器でなく、デバイスと言う名の種類が設けられても過言ではないだろうか。

 現に、ユニゾンデバイスの人格プログラム――リインフォース、リインフォースⅡが上げられる。

 今は失われたに等しい技術だが、人の様に喜怒哀楽を表現し、食事を取り、睡眠を取る。姿は、2人とも人間。まさに、種族としてのカテゴリーを生み出している。だが、種族として認められない。それは、祖先を残す事が出来ないからだと考える。

 所詮、2人は人格プログラムであり、デバイスの管制システムの人間版。性行為を行えても、子を生む事は無い。

 だから、どんなに人の姿を、動物の姿をしていようとも、種族としては認められない。さらに、人間以上の存在に成り得る可能性を秘めた存在。

 難しい事を排除して、一言で表せるならば――人間は、人間以上の存在を認めない。

 人間は、下は認めても、上は認めないという傲慢な種族であり、存在でもある。故に、動物という言葉は、『動く物(うごくもの)』。それを縮めて言い易くしたのが『動物(どうぶつ)』である。

 話が反れたが、限界を超えるには、色々な要素がある。

 感情、信念、想い、願い――そういった概念的なモノが、デバイスにも考えられるのならば、可能かもしれない。

 だが、この場にそれを成し遂げられる関係を持つ者は、1人もいない。よって、グーリは、上空に上がる事ができないまま、地に足を着けて戦うしかない。

 

「リング3!!」

<重力の足枷>

 

 グーリの足に、黄色身が掛かった赤色の球体に覆われる。そして、一気に地面に落ちていく。

 その際、当たる筈だった砲撃は、そのまま空を舞う。

 

「やぁ――」

 

 コンマ0秒で落ちてくるグーリから、距離を取ろうとするノーヴェ。だが、グーリも逃がさないと言わんばかりに、足の自分の力を加える。

 

「――べぇ!!」

 

 だが、グーリの方が早く、地面に落ちてクレーターを生み出す。それと同時に、瓦礫と衝撃波が、至近距離でノーヴェに襲い掛かる。

 

「――――!?」

 

 悲鳴は、衝撃波によって掻き消され、瓦礫と一緒に後方に吹き飛ばされる。

 その際、顔は咄嗟に腕を交差させて防ぐ事が出来たものの、盾代わりに使った腕、体、足に瓦礫がぶつかる。

 

「ノーヴェ!?」

 

 叫ぶウェンディ。しかし、駆けつけたくても衝撃波のせいで近づく事が出来ず、ライディングボードの後ろに隠れる。

 瓦礫が、ライディングボードにぶつかる。金属音を奏でながら、ぶつかっては砕け、その衝撃に持って行かれない様に、ボードを支えるウェンディ。

 そして、勇斗にも、瓦礫と衝撃波が襲い掛かる。だが、瓦礫よりも衝撃波の方が早く、さらに昏睡状態によって体に力が入っていない。これによって、衝撃波に乗って吹き飛ぶ。

 草木に突っ込みながら、木の枝などに皮膚を傷つけ、血を流す。それは、緑1色に染まる大地のキャンパスに、赤い無数の線が描き込まれる。

 そんな中、勇斗は昔の事を思い出していた。

 家族――と言っても、今の高町家ではなく、羽山家にいた時である。

 どこにでもあった普通の家族――とは言いがたかった。何故なら、父親は、表面上は問題なかったものの、家に帰れば酒とギャングル。母親は、夫に見切りをつけて浮気三昧。俺は、2人から腫れ物扱いだったが、孤児院にぶち込まれることはなかった。

 2人とも、周りの評価を気にするタイプだったからである。気にしなければ、既に孤児院に行っている。

 だが、そんな荒れた日々は、日に日に増して行き――ついに、周りの評価を気にしなくなった。余は、馴れと言うべきだろう。

 勇斗は、両親から誕生日を祝ってもらった事が無い。それ故に、自分の誕生日は判らない。年齢は、小学校の子たちの年齢に合わせているだけなので、本当になっているかどうか怪しい。だが、その時はまだ周りの評価を気にしていた時だったので、年齢に間違いは無い。

 そして、中学を卒業した辺りで、孤児院に入れられた。

 どうやら、勇斗が義務教育を、終わるのを待っていたらしい。なを、勇斗を孤児院に入れる時の両親の顔は、とても笑顔だった事を勇斗は覚えている。

 それから、どこにも引き取り手が見つからず、鍛錬に励む日々を送る。

 ある日、孤児院から出る事になった。職員のずさんな管理体制に嫌気が差したからである。が、行く当ても無いので、初日で路頭に迷う嵌めに。

 それから、当ても無くフラフラしている時、海鳴町でとある子どもを助ける。その子どもの名前は、高町なのは。

 

 その後、お礼と桃子に、自分が経営している喫茶店・翠屋に強制連行。そこで、孤児院から抜け出した事を隠したが、天涯孤独を明かした結果、高町家にお世話になる事に。

 迷惑になると何度も言ったが、桃子には聞き入れてもらえず、いつの間にか養子扱いになっていたのである。

 さすがに、学校へ行く事を進められたが、その時既に18歳になっていたので、高校へ行くには抵抗があった。かといって、大学に行く学まで無いので、翠屋の店員として働く事に。まぁ、基本的はバイト扱いで、家の掃除やなのはの迎えが主な仕事となっている。

 そして、高町家の居候として、晶やレン、フィアッセが来る。

 3人とも、それぞれの事情があるが、勇斗は何も聞いていないし、聞こうともしなかった。想いは、人それぞれで、安易に聞くものではない。

 それから色々あり、ノーヴェとウェンディと出逢い――今の勇斗がいる。

 

「…………――っ」

 

 勇斗の指が、微かに動く。そして、意識も段々とハッキリしていく。

 

「――ぅっぱぁがぁふぁ!?」

 

 変な咳き込み方をしながら、口から黄緑色の液体を吐き出す。

 液体の正体は、グーリが飲ませた何か。これが、勇斗を昏睡状態にした原因である。

 まだ意識は定まっていないが、起き上がるだけなら支障は無いほどに落ち着いた。だが、体を動かそうにも、動く事は無かった。

 勇斗自身は気がついていないが、先の戦いのダメージに、何かによる精神系の疲労。さらに、爆風で吹き飛ばされた際、地面に激突した時のダメージが、全て上乗せとなり、完全にピークを過ぎている。

 痛みなどが、今余り感じられないのは、それが原因である。よって、明日以降に起きた瞬間、全身筋肉痛などによって、ベッドの上から起き上がることは不可能である。

 回復魔法を掛けるのであれば、多少はマシになるかもしれないが、焼け石に水に等しい状態。

 

「…………」

 

 勇斗は、何とか動かす事が出来る口を、強く喰いしばるしかなかった。

 そして、その場所から少し離れた場所では、まだ戦闘は続いていた。が、そろそろ終盤に差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、誰かが笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーヴェは、俯きで地面に倒れ、ウェンディは、仰向けになって気絶している。

 ジェットエッジは、足のローラー部分以外は、どこかへ吹き飛んだ。ライディングボードは、木に寄り掛かった状態にある。だが、装甲は瓦礫の衝撃により、少しだけ凹凸がある。

 その2人の位置から、対角線上に襲撃者が右膝を付いている。言わずとも、3人ともボロボロである。

 

「――ぶぅぱぁ!」

 

 グーリは、慌てて右手で口を押さえ、左手で自分のデバイス、リング・リング・リング――通称リング3の輪の1つを、地面に付き立てる。それと、吐き出された血は、緑と茶色のキャンパスを染める。

 

「――ん、ぅんん……――ぷぅぺぇ!」

 

 口の中の何かと同時に血を吐き出す。地面にぶつかり、跳ねる血の中に、白い塊があった。

 

(歯が、折れたか)

 

 そう思いながら、呼吸を整える。肩で息をしながら、ノーヴェとウェンディを見る。

 年頃の娘でありながら、ここまでの戦闘が出来る。センスか良いとか、才がある、天才などのレベルではない。

 鍛錬。

 日々積み重ねた鍛錬によるモノ。短期間かつもっとも濃い内容の。それも、1歩間違えれば壊れても可笑しくは無いレベルの。

 

(あの2人は、事前調査だと……ラギュナスが受け入れた戦闘機人だと聞く。だが、それだけでは片付かん戦闘スキル。コイツらの師は、秀才か? それとも天才か? どちらにしても、我らの敵には変わり無い。無いのだが、強力すぎる)

 

 そう考えながら呼吸と整えるも、先の戦闘で受けた傷の痛みと、溜まった疲労によって、呼吸が中々整わない。

 だが、抹殺任務は終わってない。

 リング・リング・リングを、松葉杖代わりにしながら、最優先ターゲットである羽山勇斗を探す。

 探査魔法を使いたいところだが、魔力の大半を回復と身体強化に回しているので、使う余裕が無い。

 記憶を手繰り寄せ、勇斗が吹き飛ばされたと考えられる付近を捜す。茂みを払いのけ、奥へ進む。その茂みに、勇斗のモノらしき血痕を見つけたられた。

 その茂みを抜けると――傷だらけの勇斗が、動物の様な爪が指となっている篭手と足当てを、装備して立っていた。

 

「……まだぁ、立てたのか? それと、手と足につけている奴は、何だ?」

 

 だが、勇斗は何も答えない。答えない代わりに、グーリに襲い掛かる。

 

「――――!?」

 

 跳び蹴りを右へ、間一髪でかわす。だが、勇斗の体がグーリと平行になった瞬間、その空中で横に回転して、回し蹴りを放つ。

 咄嗟に反応した右手で防ぐが、足の踏ん張りが利かずに、後方へ吹き飛ばされる。だが、同時に痺れる感覚に襲われる。

 地面にワザと転がってダメージを受け流し、顔を上げて確認すると、手と足に電気が帯びていた。さらに、篭手と足当ての排気口らしき部分――篭手は腕の前腕の肘に近い部分に、対等に2つずつの計4つが、両篭手に付いている。排気口の向きは、腕を伸ばした場合、使用者の方へ向いているが、斜めに向いていて右側は右、左側は左となっている。

 足の部分は、脛の側面に立てに3つ、排気口は下向きに付いている。なを、右足の場合は右側に、左足の場合は左側に付いている。

 ちなみに、前腕とは腕の部分の名称である。肘を中心として、手に近い方の前腕と言い、肩に近い方を上腕と言う。

 それを確認するや否や、グーリの顔色が一瞬で変わる。

 

「D・アーマー!? 馬鹿な、試作品のサブ・デバイスが、何故ココに!? いや、それ以前に、何故この男が装備を!?」

 

 D・アーマーとは、賢者の石が開発したサポートデバイス。なを、『D』は、デストロイの略であり、元々開発コンセプトが殲滅用に設計されていたからである。

 なを、D・アーマーは、勇斗が装備しているデバイス名であり、そのデバイスの総称ではない。

 このデバイスは、確かにデバイスの部類である。だが、サブ・デバイスは、普通のデバイスとは訳が違う。

 使い手とデバイスの補強を行う為の特性のデバイス――それこそが、このサブ・デバイスの真髄である。

 単体でも使用可能だが、決め手に掛ける。だが、一旦サポートに回れば、その真価が発揮される。

 ただ問題点なのが何点かある。

 ピンキーしか考えられていないことである。 故に、量産化が難しく、誰にでも扱える訳でもないのが上げられる。

 そして、インテリジェントタイプしかない事――これが、一番の原因に当たる。

 使い手とデバイスの相性がよければ、1+1の答えは、10にも20にもなる。 しかし、相性が悪ければ2にすらなく、場合によってはマイナスとなることもある。

 さらに、インテリジェント同士――俗に言う三角関係(やましい意味ではなく)を築き上げなければならない。

 使い手の相性が良くても、デバイス同士が悪ければ駄目。 デバイス同士が良くても、使い手と合わなければ駄目。 相性があるインテリジェントデバイスを探すよりも難しい。

 ならば、ストレージデバイスにすれば良いと思われるが、それでは使用者とデバイスのサポートと掛け離れてしまう。

 よって、試作されたザブ・デバイスは、現時点で9つ。その1つが、D・アーマー。

 追加で、試作品と言う事で、魔力変換装置というモノが搭載されている。この装置も試作品だが、魔力変換できない人間でも、この装置によって変換する事が出来ると言う装置である。

 種類は、炎・氷・電撃・風・地・物質・闇・光・水。その中で、電撃の装置を搭載したサブ・デバイス――D・アーマーは、現存しているサブ・デバイスの中で、頂点に君臨する。

 君臨とはいっても、あとは土木、開発、治療、調査といった、戦闘系のデバイスで無い為でもある。氷の装置を積んだサブ・デバイスも、戦闘用ではあるが、個人戦用である。殲滅戦用の代物とは、訳が違う。

 確かに、個々の能力を照らし合わせると、Dアーマーは、別のサブ・デバイスに劣っている面もある。あるのだが、電撃は雷。すなわち、自然界の中でも最速が備わっている。

 つまり、速さで勝つ事は、ほぼ不可能であると言っても過言ではない。

 

(くっそぉ、本領発揮される前――)

 

 愚痴を心の中で吐こうとした瞬間、目の前に勇斗の姿が現れる。

 

「なぁ――」

 

 驚きの表情に染まるも、何とか顔をずらそうと思った瞬間。ホントに、瞬間だった。

 

「――がふぁ!?」

 

 打撃音が、僅かに遅れて鳴り響く。

 グーリの顔が、強制的に上を向く。だが、その向く勢いは、首が飛んでも可笑しくは無い勢いである。同時に、体も宙へ上がり、左手に持っていたデバイスを、その場に手放す。

 だが、助かったのは、身体強化魔法というより、体の恩恵と言える。

 

(みっ、見えなかった! どっちで攻撃した!?)

 

 そう思いながら宙を舞うも、今度は内臓辺りに拳を叩き込まれる。

 喉から込み上げて来る液体が、喉に差し掛かった時に、鳩尾にアッパーが叩き込まれる。

 そのままグーリの体は、くの字に曲がり、喉に差し掛かっていた液体は口まで届くも、今度はグーリの左こめかみが殴られる。

 脳が揺さぶられ、意識が飛び掛けるグーリだが、閉じていた口の中に広がっていた液体の苦味で、何とか耐え抜く。閉じた口の隙間から、唾液と混じった液体が流れ出ている。

 だが、勇斗は、そのまま両手で頭を掴み――膝を、顔面に叩きつける。喰らったグーリは、口から唾液が混じった液体を吐き出す。吐き出した液体は、顎から流れ落ちる。

 ヨロヨロと後ろに下がり、数歩で尻餅を付く襲撃者。

 

(何だ、あいつ? 限界で倒れた筈だ。それとも、ハイになってバーサーカーにでも……バーサーカー? ――バーサーカーだと!?)

 

 襲撃者は、自分でバーサーカー――狂戦士の言葉に、あるシステムの事を思い出す。それは、D・アーマーの呪われた由来という2つ名が付いたシステム。

 I do not distinguish it.――区別しない。即ち、無差別。distinguishの『D』とDestroyの『D』。

 Destroyが正式名であり、Distinguishが2つ名となる。

 その2つ名が付いた理由――殲滅とは、相手を完全に根絶やしにする事こそが、全て。ならば、全てを、敵味方、無関係な一般人などの全てを殲滅する。そこにいる『人』を殲滅するのならば、敵味方など必要が無い。つまり、区別する必要性が無い。

 すなわち、使用者すらデバイスの、兵器の一部とするシステム――バーサーク・ドール・システム。通称BDS。

 意識を乗っ取り、思考を凍結させ、目的だけを遂行させる人形と化す。そして、敵味方関係なく、命ある存在と襲い掛かる存在だけを目的のついでに消していく。

 つまり、目的を達成するか、使用者の行動不能か、システムに介入して解除するかの3択しかない。途中破棄は、まずありえない。

 

(再起不能以前に、抹殺するから問題ないとしても、相手の動きが早い)

 

 そう思考している間にも、勇斗は1歩1歩近づいてくる。

 

(なら、まず拘束して抹殺――いや、BDSのシステムの、Dアーマーの全てを知っている訳じゃない)

 

 さらに1歩。

 

(だが――仕方ない、システム介入して、システムそのモノの削除か、あるいは命令解除か変更――)

 

 さらに1歩。同時に、指を鳴らす為に、右手を軽く握る。

 

(――って方針で)

(判った)

 

 思考と同時に、念話のラインを繋げていたので、リング・リング・リングに指示が行く。

 

(タイミングは、お前に任せる)

 

 インテリジェントデバイスという名の相棒に、命を預ける。

 

(……死なないで頂きたい)

(判っている)

 

 その発動タイミングは――あと3歩。

 

 

 

 

 

「――其処までです、藍様!」

 

 藍の背後から、声が掛かると同時に、腕に押さえ込まれる。

 未だに蹴り続けていた藍を止めたのは、ガジェットドローンを連れて現れたケイル・ヘートン。

 藍は、ケイルとガジェットドローンの大群が、一度に転移してきた事に気がつかないほど、兄を蹴る事に集中していたのである。

 ガジェットドローンの大群――と言っても、10機しかいない。本来ならば、25機ほど整ってから出る予定だったが、藍の行動により、急遽出られるだけで飛んで来たのである。予定の15機は、コントロール制御の搭載に戸惑っていたり、数が用意できなかったりと、時間が掛かるらしい。可能な数だけ搭載次第、纏めて転送させるとの事。一応、遅れた言い訳で、増援と言う形にしてある。何分急だった事であり、仕方が無いアクシデントである。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………――少し落ち着いたから、放しなさい」

 

 荒れた息を整えてから、腕と胴体に回された腕を、外す様に命令する藍。

 その命令に、少し戸惑ったケイルだったが、藍の脈拍が落ち着いている事を確認すると、手を放す。

 

「で、何しに?」

 

 まるで、兄である彰浩を、ゴミを見るかの様な目を向けながら答える、藍。

 

「ラハブ様の命により、藍様の手を増やしに参りました」

 

 ケイルは、特に気にする事無く、淡々と返事を返す。

 

「2本で十分よ」

 

 そう言って、自分の両手を軽く上げて見せる。が、それを気にする事無く、ケイルは答える。

 

「これは、≪我らが叡智よ≫の命でもあります」

 

 その言葉を聞いた瞬間、軽く舌打ちをする藍。≪我らが叡智よ≫は、組織・賢者の石の創造主である。つまり、創造主の命は絶対である。だが、命令を取り消す事も出来るが、余程の事がない限り、不可能と言って良い。

 

「それ以外の命は? 変更有り?」

「特にありませんが……藍様の兄である彰浩氏の抹殺について」

「こいつの?」

 

 そう言って、ケイルに顔を向ける、藍。

 

「はい。もし、無理であれば、私に抹殺を代われとの事です」

 

 その言葉に、藍の心は揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、瓦礫の下敷きとなった槍型のデバイスが、少しずつ輝きだした。

 そして、それに気がついた者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十二話

力こそ全て

 

END

 

 

 

次回予告

 

戦場に、謎の男が乱入。

さらに混沌と化す戦場の中で、蹲るティアナ。

謎の男により、無理やり前を向かされる。

そして、天を突く光の柱。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十三話:帰還という名の入り口(前編)

 

 

 

絶望の物語の中で、奇跡を見る。





あとがき
 日本数字の単位で、無限大数(むげんたいすう)、不可思議(ふかしぎ)、那由多(なゆた)、阿僧祇(あそぎ)、恒河沙(ごうがしゃ)、極(ごく)、載(さい)、以下本内容に続く。
 なので、後残りが気になる方は、検索してみてください。すぐに出てきます。
 つーか、計算がちとしんどかった。合ってるか少し不安だけど。だって、パソの計算機でも穣辺りが限界だった。
 てか、兆を入れ忘れてた結果、正まで行かず。後付なので、数字が微妙になってしまった。(汗
 キャラの賢者の石のメンバー名は、何気に神話の存在から引用。その説明から、こんな力を使うのだと思えば良いかと。(あくまで現時点なので、書いていく内に変更あり)
 で、ジェットエッジのパージ機能は、作者独自の後付設定ですので、あしからず。
 そして、時折自分のプチ論文作品ぽい様な。(汗
 最後に、これ、リリなの本編で言うと、5話目後半なんだよね。(汗
 自分で書いているわけだが、何気に長いんだなと思う。次の13話目で、やっと帰還します。が、どんでん返しでもさろうかな?






≪オリジナル魔法&技≫
・重力の足枷
 文字通り、足の重力を纏わり付かせて、相手を拘束する技。今回は、自分に使って強制回避に使用した。






制作開始:2009/1/28~2009/3/7

打ち込み日:2009/3/8
公開日:2009/3/8
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