何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ   作:ダークバスター

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力に、善悪は無く。
思いに、善悪は無く。
それが、純粋なのか、穢れなのか。
それが、正しいのか、間違いなのか。
世界に住む人々が築き上げた概念が、それを別ける。


第十三話:帰還という名の入り口(前編)

 

 

「…………」

 

 無言のまま、倒れ込んでいる彰浩を見る、藍。

 その藍の後ろで見守るように待機している、ケイル。そして、その周囲には、ガジェットドローンたちが、浮遊しながら待機している。

 抹殺――組織・賢者の石の創造者≪我らが叡智よ≫の命であり、余程の事が無い限り、命は撤回や変更はされない。

 藍は、先ほどまで兄に自分の考えを理解してもらえなかった余り、ケイルが止めるまで蹴り続けていた。だが、ケイルの言葉より本来の命令を思い出し、心が揺らぎ、躊躇している。

 思考する。

 裏切る――それはありえない。帰る場所が、あの場所なのだから。

 連れて帰る――どっちみち、抹殺される。

 誤魔化す――不可能である。≪我らが叡智よ≫を騙す事など、不可能。

 奇跡を待つか――それこそが、奇跡である。

 なら、如何すればいい。方法が無い以上、如何する事もできない。

 そうして、刻々と時間が過ぎていく。結界を維持するにも、魔力を使っている以上、限界はある。

 それに、部下である者も、後方で待機している。多分、藍がやらなくても、部下に当たる存在のケイルがやる。

 藍は、久しぶりに泣きたくなった。

 別に、お兄である彰浩を殺したい訳じゃない。ただ、彰浩に理解してもらえなかっただけである。それなら、時間を掛けてでも、ゆっくりで良いから理解してもらえればいい。

 だけど、それが出来ない。圧倒的に、時間が無さ過ぎる。

 無いからこそ、決断しなければならない。殺すか、殺さないか、を。多分、ケイルは保険なのだろうと行き着く。彰浩は、藍にとっては肉親であり、兄妹なのである。代わりなど、どこにも無い事など、この日まで実感してきている。

 だから、決断しなければならない。

 

「藍様」

 

 不意に、ケイルが声を掛ける。答えは、聞かなくても判る。

 

「変わらなくて良いわ」

 

 藍は、その一言で切り捨てる。

 揺らいだ心を、氷の様に固めていく。徐々に、ゆっくりと。心を決める様に。

 彼女は、昔を捨てて、今を取った。なら、血縁や罪などに捕らわれる必要が、どこにあるのか。

 手に魔力を集中。脳内で、武器をイメージ――生成完了。

 藍の手には、魔力で構成された長柄武器≪岩融(いわとおし)≫――かつて、武蔵坊弁慶が使っていたという薙刀。

 普通の薙刀の刃の部分が75~90センチ、柄の部分は120~150センチであるらしい。だが、岩融は刃だけで三尺五寸(約105センチ)と通常のモノに比べると、大きかったという。常人が容易にこれを使用し得たとは考えにくく、やはり弁慶の剛腕あってこそ、自在に使いこなせた武器であったらしい。

 なを、これはオリジナルではなく、贋作強化版である。実際の物は、今では脆い物だったり、実際に存在しない物だったりする。よって、生成された武器の強度は、藍の魔力の質によって変化する。

 これは、≪叡智の四大代行者≫の≪火に属せし、灯火の者≫の能力である。

 ≪叡智の四大代行者≫とは、≪我らが叡智≫に直に使える4人の存在であり、称号の1つ。あと、ラハブ・ラカムは≪水を友とし、全てを流す者≫である。後の2人は、≪地を纏いし、乾きし者≫と≪風を従えし、地に足着かぬ者≫である。

 属性と呼べるモノは、その称号名を見るだけで判る。そしてそれは、神に近き力、もしくは神その者の力を見せる事がある。

 よって、≪叡智の四大代行者≫とは、≪我らが叡智≫が創造神とし、創造神から作られた神と言っても過言ではない。

 藍は、岩融を構えて刃を一旦、彰浩の首に添える。銃でいうと、標準を合わせる様なモノ。手の片方は岩融をしっかり握り、片方はスライドできるように握っている。

 そして、握っている手を点にして、岩融を振り上げる。

 振り上げると同時に、岩融の刃に炎を纏わせ、凝縮させる。すると、刃はマグマの様な模様を浮かべ、周りの空気を歪ませる。

 地下浅所でのマグマの温度は、おおよそ650~1300度の間である。ただ、藍は2000度まで上げる事が可能である。だが、やはり心に揺らぎがあるのか、800~1000度の間を行ったり来たりしている。

 故に、刃の部分の耐久値が定まっていない事に、藍は気がついていなかった。だが、今は関係が無い事。マグマは、熱気だけで物を燃やすことができる。刃だけを翳すだけでも、相手を殺せる。

 藍は、一瞬で終わらせる事を決めた。マグマの様に赤く染まった刃を、首に叩きつける事を。

 

「……火は……」

 

 その言葉に、周りにある炎は、静かに成り始める。その現状にケイルは驚き、辺りを見回す。そして、重大な事実を知り、藍に進言する。

 

「っ――藍様!」

「……ほっ――何?」

 

 神聖な呪文の詠唱を邪魔される事に怒りを覚えるも、その反面は、彰浩を殺さなくて区かった事に安心とする。

 

「管理局の2人が――2人がいません!!」

「何ですって!?」

 

 ケイルの言葉に目を丸くし、構えを解いて辺りを見回す。確かに、2人はいなくなっている。あれだけ時間が経てば、気絶から目覚めると思うが、体力の消費は激しかったはず。さらに、この業火の中で地面に倒れている最中に、完全に回復できる事など難しい。

 不意に、藍の後方から殺気が貫き、素早く岩融を振り向き様に盾にする。

――高らかに鳴る、金属音。

 柄の部分には、刃が受け止められている。その刃の持ち主は、ウェーブの掛かった首の長さくらいの髪、色は黄緑。目の色は黄色で、何気にナルシストっぽい感じの男である。

 その男の手に持たれている武器は、宮本武蔵のライバルと言われた佐々木小太郎の代名詞の刀≪物干し竿≫に似た武器。備前長船長光の作で、その異名は刃渡り三尺三寸(約1メートル)という長さから由来する。

 似ているという表現を使うのは、鍔(つば)が無く機械的なデザインとなり、柄の先が、デバイスのコアである。極めつけは、刃の長さが2メートルある事。既に、実物の2倍の長さである。

 藍は、柄で刃を払いのけ、後方に下がる。

 

「行けぇ――天照之剣(アマテラスのつるぎ)!!」

 

 藍を追撃するように、男が剣を魔力で20数本生成して、一直線に飛ばしてくる。原理的に言えば、ブラッティ・ダガーと同じである。ただ、色は本人のリンカーコアの色が適応されているのか、白色になっている。

 

「はぁああああああああああああ!!」

 

 しかし、藍は持っている薙刀を手足の様に扱って、男が飛ばしてきた天照之剣(アマテラスのつるぎ)を、全て弾き、粉砕し尽くす。その際、爆発の煙幕が広がる。

 

「――っ!?」

 

 が、その煙幕を利用して、一気にナルシストっぽい男が突っ込んでいく。それに、思わず舌打ちをした藍。

 防御に薙刀を構えようにも、相手との距離が無くなっていた。

 

「――させん!!」

 

 爆煙の中から、一筋の閃光が走る。ナルシストっぽい男は、素早く跳躍し、藍ごと閃光を飛び越える。着地後、そのまま物陰に隠れた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 閃光を放った人物、ケイルが慌てて飛び寄ってくる。あと、閃光の正体は、デバイスのヘカトンケイルの拳である。

 ケイルのデバイス≪ヘカトンケイル≫。

 使用者の両肩に3本ずつ生え、背中に顔が3つ、周囲には宙に浮かぶ腕が97本、顔が47つ展開される。

 術者の詠唱サポートではなく、物理的攻撃と索敵に長けている。しかも、1つ1つが独立した魔力エンジンを搭載しているので、AMF内でも使用可能。

 なお、魔力エンジンは、核エンジンと同様に近い代物であり、半永久的に動く事ができるデバイス。その代わり、制作コストが日本円にして、1つ1340億ほどする代物なので、量産するのは難しい。管理局の訓練生専用デバイスの杖型が、日本円にして500万で考えると、2万8600本製造できる計算となる。

 ただ、デバイス本体と内蔵された魔力エンジン共に、まだ稼動実験段階なので、周囲には宙に浮かぶ腕が29本、顔が10つ。両肩、背中に腕や顔は無い。現状では操りきれていないのである。本来の予定は、今年の新暦75年8月に、最終調整も含めての完成。同年10月までに、いくつかの次元世界で稼動実験を経て、実戦投入予定だった。今回の件がなければ、完成するまで表に立つ事は無かったと言える。

 

「助かったわ……ありがとう」

「いえ、これも全ては……」

 

 と、ケイルはそこまで言って、口を閉ざす。しかし、藍はそれを気にする事は無かった。

 

「では、私は先の男を追います。ケイルは、どこかに消えた、管理局の2人の捜索を。見つけ次第、私の元へ」

「はっ」

 

 その言葉を言って、ケイルは宙に浮いている顔と腕を、周囲に飛ばした。少ししてから、ケイルの周りに10の空間モニターが展開される。

 藍は、それを見てから、ナルシストっぽい男を探す為、宙を舞う。

 

(何故躊躇った? 何故戸惑った? 相手は敵だ。兄ではなく、敵なのだ。上に恩義も忠義も無いけど、私が私である事を示す為に)

 

 内心思いつつも、≪今の自分自身≫を優先すべく、戸惑いを押しつぶした。

 今の自分こそが全てであり、それ以外の自分は無意味である。ただ、それは己を殺し続ける答えだと知らず。ただの、無意味な防衛本能に振り回されて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話

帰還という名の入り口

(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ……ぅんっ、ぬぅ――……ここ、は?」

 

 闇に沈んだ意識が、次第に浮かび上がっていき、重い瞼を開く。そして、少し空を眺めてから、言葉を呟いた。

 

「――彰浩」

 

 視界はぼやけているが、青色の判別が出来た。

 

「すぅ、スバル?」

 

 そう言いながら、何度も瞬きをして、視界を補正・回復させていく。

 そして、彰浩の右側から覗き込む、スバルの姿を確認出来る様になった瞬間に、息が止まった。何せ、影で少し暗くなっていても判るほど、スバルの肌が少し白い肌色ではなく、少し日焼けし過ぎた様な濃い肌色。もしくは、こげ茶に変色していたのである。成った原因は、少し前まで行われていた拷問。ディアナとは別の痛みであるが、恐怖と激痛に襲われたのは、紛れも無い事実。その証拠が、肌の色。

 知らない人間がみれば、元々そう言う色の肌、もしくは、日々の日焼けか、海の日焼けとなる。

 

「……体の、方は? それと……――ティアなはぁ!?」

 

 彰浩は、スバルの状態を見て言うも、ティアナの事を思い出して体を動かそうとした瞬間、全身に激痛が走る。精神、肉体共に疲労満杯状態。むしろ、過剰疲労状態と言った方が、正しいのかもしれない。そんな状態で動こうとしたのだから、激痛が走らない訳が無い。

 

「だっ、駄目だよ! 今は安静にしていないと」

 

 悶絶しながら悶えている彰浩に、スバルが言い聞かせる。それに従い、体を動かすのを止める彰浩。だが、まだ気掛かりがあった。

 

「ティアナは?」

 

 その一言で、スバルは言葉を詰まらせる。だが、言わなければ成らない事なので、重い口を開く。

 

「……大丈夫だけど……今は、今だけは、ソッとしておいてあげて」

 

 その言葉に、彰浩は何も言わずに肯いた。何せ、妹のデバイスに大人にされ、挙句の果てに公開陵辱されたのだ。心身共にボロボロなのは、必然と言える。これで大丈夫な奴は、既に精神が屈強、もしくは訓練された奴。あとは、ヤり成れているくらいだろう。

 

「目が覚めたか」

 

 その言葉に、スバルは顔を上げ、彰浩は顔を左に傾ける。

 

「ラグナスさん」

「レニアスが抜けているぞ」

 

 スバルの言葉に、ラグナスというナルシストっぽい男が、訂正を述べる。そして、視線を彰浩に向け、傍に寄ってしゃがむ。

 

「野山彰浩、だな?」

「そうだけど……アンタは?」

「俺の名は、レニアスラグナス。名前を言う時は、必ずレニアスを付けてくれ」

「レニアス……ラグナス……」

 

 彰浩の言葉に、レニアスラグナスは、首を横に振った。

 

「レニアスラグナス。レニアスは、苗字でないからな。あと、名前だが、一部でしかない」

 

 つまり、≪レニアス・ラグナス≫ではなく、≪レニアスラグナス≫と言う、1つの名前だと言っているのである。確かに、先ほどの彰浩のニアンスでは、≪レニアス・ラグナス≫だと受け取られてしまうのは、仕方が無い事だと言える。

 

「で――ティアナ! いい加減、こっち来い!」

 

 レニアスラグナスは、振り向き様に声を上げる。彰浩からでは、場所とレニアスラグナスが壁となっているので見えない。そして、当人であるティアナは、瓦礫を背にし、体育座りで体を小さく丸まっていた。

 

「!?」

 

 レニアスラグナスの声に反応し、体をビクンと震わせて硬くなる。それを見たレニアスラグナスは、ため息を1つ吐く。

 

「状況が状況だから、容赦なく言わせて貰うぞ……あのな、たかがデバイスに処女を破かれたくらいで、蹲るな」

 

 そう言いながら、レニアスラグナスは立ち上がり、ティアナに歩み寄る。それに対して、スバルは慌てふためくも、彰浩の傍を離れる事はしなかった。スバルの性格上ならば、すぐにレニアスラグナスを止めに入っただろう。だが、それをしなかった理由がある。

 それは、彰浩が気絶している最中に、レニアスラグナスから現在の状況・状態の説明。今の状態で、今後どうするかの簡単な説明を受けているのである。その際、ティアナの事で口論になったが、『死にたいのか』の一言に、スバルは黙るしかなかった。さらに、この状況で良い案があるのかと聞かれたが、下を向くしかなかった。

 

「それとも何か? 処女は、共に添い遂げる男にしか捧げないとつもりだと考えていたのか? だったら、どこかの次元世界で、慰み物に成っている女たちはどうなるんだ?」

 

 言っている事は、とんでもないし、無機物に処女を破かれた女性に対して、掛ける言葉ではない。案の定、その言葉に反応する様に、ティアナの体も僅かずつだが震え始める。

 

「男は獣と言うが、貪欲に塗れた男に捕まり、犯されて狂い死ぬか、飽きて捨てられた女たちは? それに比べれば、今のお前は十分マシじゃないのか? 別に男に犯されて、中出しされた訳じゃないんだからな」

 

 ティアナの前で止まり、しゃがみ込むレニアスラグナス。それを何も言わずに、ただ見守るスバルと彰浩。途中で、彰浩が止める為に声を出そうとしたが、スバルに止められた。

 

「いい加減、顔上げて――までとは言わんから、こっち来い。ここから脱出する作戦説明をするぞ」

 

 しかし、ティアナからの返答は無く、ただ体を振るわせるだけ。レニアスラグナスも、その場でため息を吐きながら、下を向いた。そして、再び顔を上げて、ティアナに問う。

 

「1分……いや、3分だけ待つ。それ以上は待たんからな」

 

 その言葉に、彰浩とスバルは、引き摺ってでもこの場所に連れてくるだろうと、先ほどの暴言から察した。

 

 

 

 

 

「1分……いや、3分だけ待つ。それ以上は待たんからな」

 

 私――ティアナ・ランスターに、レニアスラグナスは、そう言った。

 

『状況が状況だから、容赦なく言わせて貰うぞ……あのな、たかがデバイスに処女を破かれたくらいで、蹲るな』

 

 たかがとは何様かと思った。女性の初めては、本当に初めてである証拠の証。それが無くなると言う事は、既にヤった経験があると言う証拠。

 

『それとも何か? 処女は、共に添い遂げる男にしか捧げないとつもりだと考えていたのか? だったら、どこかの次元世界で、慰み物に成っている女たちはどうなるんだ?』

 

 極論だ。極論だが、言っている事は、間違いではない。

 実際に、事件に巻き込まれての強姦は、さして珍しい事ではないが、頻繁に起きている事でもない。ただ、起きたとしても、余り表沙汰に成らないだけ。表沙汰にしたくないという女性や、犯人の特定が出来ず、泣き寝入りするケースだって存在する。

 表沙汰に成らないのは、世間体から。犯人の特定が出来ないのは、変身魔法による変装。同じ魔導師ならともかく、一般人では話にならない。

 

『男は獣と言うが、貪欲に塗れた男に捕まり、犯されて狂い死ぬか、飽きて捨てられた女たちは? それに比べれば、今のお前は十分マシじゃないのか? 別に男に犯されて、中出しされた訳じゃないんだからな』

 

 確かにそうだ。男に犯されるのと、物に犯されるのでは、度合いが違う。男に犯された場合、穢れた女と決め付けられて、勝手に男が離れていく。しかも、軽い女だと決め付けられ、ヤらせろと言い寄ってくる男もいる。

 では、物では。ただの性に興味があるか、性欲を持て余す女として、見られる場合がある。本当に嫌になる。あの男――レニアスラグナスの言っている事は、余りに極論であるが、否定できない部分もある。全部が全部、正しい訳じゃない。だが、全部が全部、間違いでは事は確かである。

 否定。

 肯定。

 間違い。

 正しい。

 不正解。

 正解。

 ハズレ。

 アタリ。

 その言葉を、頭の中で繰り返し続ける。

 

「時間だ」

 

 結局私は……顔を上げる事は、出来なかった。

 

 

 

 

 

「時間だ」

 

 結局、ティアナは顔を上げる事は無かった。仕方が無いので、レニアスラグナスは立ち上がり、ティアナの左腕を掴んで引っ張る。だが、立ち上がろうとはせず、塞ぎ込むまま。ただ、手を振り払う事も無く、成すがままの状態。軽く引っ張っても立ち上がらないので、引き摺る事にした。

 それを見た彰浩とスバルは、やっぱりやった的な視線を向ける。だが、レニアスラグナスは、そんな視線を気にする事は無かった。無かったが、またため息を1つ。

 

「おい、ティアナ。いい加減にしろよ?」

 

 だが、ティアナから、反応は返ってこなかった。

 

「……そんなに、俺を怒らせたいのか?」

 

 無言。

 

「…………いいだろう。貴様は、俺を怒らせた」

 

 そう言って、レニアスラグナスは、左手を右の懐に入れ、銀色に輝く太い棒を取り出す。太さは直径5センチほどで、長さは15センチ程度。それを、掴んでいたティアナの左腕に付き立てる。

 

「――いっ!?」

「って、何やっているんですか!?」

 

 ティアナの声に、スバルが驚きの声を出す。彰浩も、内心で何やってんだよと、突っ込みを入れる。

 

「何って……ただの媚薬を打ち込んだだけだが? 侵食率は滅茶苦茶遅いが」

 

 その言葉に、完全にフリーズする彰浩とスバル。ついでにティアナも。そして、いち早く解凍完了したのは、当人であるティアナだった。

 

「――って、勝手にとんでもない物を打ち込まないでください!!」

 

 狂犬の如く、速攻で噛み付かん勢いで、怒鳴り声を上げるティアナ。敵の事など、完全に忘れている。むしろ、この場にいる全員が、忘れているのかもしれない。

 

「ちなみに、依存性は高いから」

「淫乱になれと!?」

 

 とんでもない言葉の爆弾を落とすレニアスラグナスに、的確な突っ込みを炸裂させるティアナ。その言葉を聞いた、彰浩とスバルは。

 

「百合でも咲かすのか?」

「私は別にいいけど、彰浩の方が健全で適任かもよ」

「あんた等も何勝手な事ほざぁいてぇる!?」

 

 ウガァー! と、吼えるティアナに、涼しい顔のレニアスラグナス。別に問題無いんじゃない的な顔をするスバルと、ご愁傷様と呟く彰浩。4人が4人、それぞれの表情を浮かべていた。喜怒哀楽とまでは言わないが、それに近い状態である事は、第3者――というか、人数からして第5者でいいのか? から見ても、何と無く判る。

 

「……お取り込み中、失礼するわよ」

 

 その声に、4人は一斉に向く。

 そこには、一応原型を保ったコンクリートの壁の上に、九尾みたいな尻尾を装備した、呆れ顔を浮かべる藍が立っていた。刀は、手に持っておらず、既に収納済みだと思われる。

 

「よくここが判ったな」

「本気で言っているのかしら? 本気なら、アナタの頭の中は、さぞ愉快な事でしょうね」

 

 レニアスラグナスの言葉に、呆れ顔から打って変わり、左の袖で口元を隠して、小ばかにした目線を向けて言う藍。

 

「個人的には、本気だったのだが」

 

 その言葉に、彰浩とスバル、ティアナと藍の心は、呆れに染まった。原因はともあれ、ティアナがデカイ声を上げれば、否応無く気づくのは視線の流れ。他にデカイ音、距離がもっと離れていれば、また変わっていたのかもしれない。

 

「ともかく……お前らの相手は、俺1人で十分だ」

 

 レニアスラグナスの宣言に対して、背後の瓦礫に隠れていた、宙に浮く腕――ケイルのデバイスであるヘカトンケイルが、襲い掛かった。飛んで来た腕は、全部で25本。

 レニアスラグナスは、ティアナを突き飛ばし、振り向く事無く、天照之剣を自分の背後に生成・展開。そのまま飛ばし、ヘカトンケイルの腕を相殺していく。

 

「っち――なぁ!?」

 

 目の1つである宙に浮く顔の視界から、レニアスラグナスが消えた。

 

「どこへ行っ――上!?」

 

 慌てて顔を上げるケイルだったが、そので見たのは、両手で物干し竿に似た武器≪MONOHOSHIZAO≫。名前は、物干し竿をローマ字に表記しただけのモノ。だったら、そのままで良いのではないかと、制作した当時にあった。だが、パクリならパクリらしくした方が良いと、レニアスラグナスが押し切ったのである。

 なお、刀身に、しっかり刻み込まれているので、相手からもデバイス名が判るという、いらない仕様になっている。判ったとしても、それがどうしたと言う話だから。ただ、そのデバイスの設計図や特徴が判るのなら、話は別となるが。

 

「――せっ!!」

「アゲルァサッ!!」

 

 レニアスラグナスが、デバイスを振り下ろす。だが、謎の掛け声を放って、左に避ける。

 

「――はぁ!!」

「サリュ!!」

 

 返しの如く、レニアスラグナス側から見て、下から右斜め上に切り上げる。が、ケイルは、さらに地面を蹴って、後方に飛んでかわす。

 さらに追撃を掛けようとするレニアスラグナスだったが、ケイルが遠隔操作で呼び戻した、デバイスの腕たちに襲われる。すかさずその場に留まり、デバイスで防いで弾き、弾いていなす。弾かれた腕たちは、地面に突き刺さるが、少ししてから宙に舞い戻り、ケイルの回りで静止する。顔の方は、四方八方からレニアスラグナスを監視する。

 腕が襲ってこない事を、肌と魔力サーチで確認しながら、デバイスを構え直す――が、一旦構えを説き、少し気の抜けた楽な姿勢になる。その姿にケイルは、警戒の認知度を上げつつも、レニアスラグナスの様に、楽な姿勢となる。いくら戦いの最中とはいえ、一瞬の気の緩みが、死に繋がるのは共通認識と言っても過言ではない。

 レニアスラグナスは、ケイルの足から頭へと目線を動かしてから、口を開く。

 

「お前……アギティの出身だな」

 

 その言葉に、ケイルの顔が歪む。だが、レニアスラグナスは、言葉を続ける。

 

「管理局未確認世界、アギティ。15年前の次元間戦争で、敵国だったケディフが開発した、次元消滅弾を喰らって消滅。開発したケディフも、アギティの開発途中だった次元消滅弾に反応。威力が倍増されて、ケディフも消滅したという、ある意味間抜けな話だったな」

 

 その言葉に、ケイルの拳が、強く握られる。だが、それに気が付く事無く、さらに続く。

 

「会戦の発端は、些細な出来事。とある生命――」

 

 言い掛けた瞬間、レニアスラグナスは言葉を止めて、その場を飛び込み前転して離れる。次の瞬間、藍のデバイスである九の柱の内、4本の柱が地面に突き刺さる。さらに、追尾する2本の柱。全体がVの字に開き、砲身が飛び出る。

 それを見たレニアスラグナスは、右手に持っていたデバイスを、強く握り直す。それを気に、砲身から魔力弾が放たれる。

 魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾――多少隙間らしきモノが見えるが、弾丸の雨か、弾丸の壁と言い表せる量が、レニアスラグナスに襲い掛かる。

 

「詮索屋は、女に嫌われるよ!!」

「そうですね、お陰で彼女に振られた回数――」

 

 魔力弾が、デバイスの刃に叩き斬られていく。

 

「――5!!」

「何かリアル過ぎるからやめてよ!?」

 

 何気にリアルな回数を吐くレニアスレアグナスに、藍は少し引く。引くものの、魔法のよる攻撃は、緩める事はなかった。

 

「い、ろ、は、に、ほ――へぇ!?」

 

 切り裂いていく魔力弾の中に、ケイルのデバイスの腕が混じっていた事に驚く。それが命取りとなり、デバイスの刃を掴まれてしまう。レニアスラグナスは、振り払おうとするが、容赦無く魔力弾が襲い掛かってくる。

 

「エグイぞ!!」

 

 と、愚痴を零しながら、デバイスを振り続ける。だが、デバイスを振るうたびに、手首、腕、肩の負担が大きくなる。理由は、捕まっている腕である。1本とはいえ、デバイスを振る方向を変則的に変え、時に振るタイミングをズラしに掛かる。よって、押さえながら振り続けているのである。精神・肉体共に、掛かる疲労は大きく、辛いとの一言。

 しかし、そんな泣き言を言う暇も無く、Vの字に開き、砲身が出ている柱の攻撃は続く。

 

「――――!?」

 

 デバイスを振るう度に、変な方向に力が加わる事により、掛かってくる負担は徐々に大きくなる。デバイス≪MONOHOSIZAO≫を振るさい、力で振るうのではなく、コテの原理やムチを振るう様な感覚で振っていた。だが今は、力だけで振っている状態ゆえに、手首の筋が軋み、力瘤辺りが膨張し、肩が悲鳴を上げる。さらに、右側よりの背筋と腹筋、踏ん張っている下半身までもが、釣られて痛み出し始める。

 だが、止まれない。デバイスを振るのを止めれば、魔力弾の餌食となる。さらに、これは実戦であり、殺し合いなのだから。当然、非殺傷では無い。

 蓄積されていく負担は、異常なまでに早く、早々限界が来てしまう。回復魔法による回復を行いたいが、する余裕が無い。魔力弾をデバイスで斬るさい、それなりに計算と予測が、デバイスで行われている。その導き出した結果を元に、デバイスを振り、魔力弾を切り裂いているのである。その状態での回復魔法の使用は、デバイスがオーバーヒートするか、計算と予測の演算が遅くなる。

 

「――ぬぁ!?」

 

 だが、手首の限界を知らせる激痛が生まれ、その拍子に一瞬だけ、体が硬直してしまう。

 

「そこぉ!!」

「くらえ!!」

 

 それを見逃す藍とケイルではない。藍は地面に刺しっぱなしだった4本の柱を、先の2つと同じ形状にして、魔力砲撃≪トーテム・バスター≫を放つ。

 魔力砲撃≪トーテム・バスター≫とは、1種のレーザー砲みたいなモノだと考えてくれた方が早い。砲撃の大きさは、直径20センチ程度。その代わり、速度は通常のバスターより速く、射程も長いのが特徴。具体的な長さは、2キロメートル。

 なお、質量兵器であるスナイパーライフルの射程は、狙撃銃は一般の小銃弾に分類されている物を使用し、概ね100~600メートル程度の射撃に適するらしい。5キロメートル程度まで弾丸は届き、1~2kmくらいまでならば致命傷を与えることができる。だが、この距離だと、重力、風、湿度等、様々な要因に干渉されるので基本的に命中は期待出来ない。

 また、12.7ミリメートルを超える規格の弾丸を使用する対物ライフルも、超長距離の弾道直進性をかわれて狙撃に用いられる。小銃弾より桁違いに重い弾丸重量のおかげで、1000メートルを超えるような狙撃でも、風などの外部干渉要因に左右されにくい。その結果、命中を期待できる。高貫通力、高威力でもあるため採用する軍や警察が増えているそうである。一部にはハーグ陸戦条約の≪不必要な苦痛を与える兵器≫に該当するのではないかという見方があるが、単なる解釈の例にすぎない。

 全くこの物語とは関係無いが、ハーグ条約の条文に大口径銃弾への記述があるわけでもないらしい。よって、具体的に使用を制限する条約や法律は、存在しないらしい。

 閑話休題。

 それにより、スナイパーライフルとは打って変わり、魔法は、風のような外部干渉要因に全く左右されないのである。さらに、魔力と運営、術式によっては、超遠距離砲撃も可能。なのだが、AMF――アンチ・マギリング・フィールドには、相当な使い手かつ相当な魔力を持っていない限り、魔法は無力となる。

 結果、一丁一旦であり、使い所を見極めるべし。である。

 話が大幅にズレるが、クリーンを謳う魔法に、禁忌として謳う質量兵器。しかし、質量兵器がある世界から見れば、非殺傷モードが付いているか、ないか。才能が無ければ扱えないモノか、誰でも扱えるモノか。ただ、それだけの話。

 どんなに安全かつクリーンな事を言っても、それを≪武器≫にした時点で、質量兵器と変わらない事を自覚しなければならない。だが、それをミッドチルダ、時空管理局は、全く理解していない状況。故に、魔法上等主義という偏見も、生み出してしまったのである。

 結局、武器が、質量から魔法に変わっただけの事なのである。

 話は戻り――魔力砲撃≪トーテム・バスター≫が、レニアスラグナスに向かうが、体を無理やり捻り、緊急回避を行った。ただ、その回避の仕方の代償に、腰と下半身に、多大な負荷を掛けた。

 

「――っあ゛!?」

 

 よって、下半身に激痛が走り、そのまま尻餅をついてしまった。

 

「貰った――火炎弾幕!!」

「そこだ――拳、行けぇ!!」

 

 藍のデバイスから放たれた魔力弾が、宣言と同時に火の弾丸に変化――この魔法は、≪火炎の弾丸≫と言う。

 特徴は、見た目は火の玉だが、当たると爆発して球体型に広がり、炎上する。なお、バリアジャケットは、多少温度調整が可能である。だが、その調整可能範囲を超えた熱量なので、バリアジャケット越しからでも火傷を負う。

 ちなみに、温度調整可能範囲は、現在の管理局の技術で+―120度である。なお、温度調整無しでも、+―50度は問題ない。

 ただし、+―50度を超える温度調整は、バリアジャケットの維持魔力の消費率を上がる。よって、+―50度を超えた場合は、大体の人間は諦めている。寒さは、バリアジャケットクラスの固さを誇る防寒具を羽織る。また、暑さは、冷却具を装備する。ただ冷却具の場合、5時間しか持たないので、現在の最大活動時間は2時間半となっている。

 5時間なのに2時間半なのは、往復を考慮してなのである。管理局の保有する冷却具は、小型である。が、エネルギーのバッテリーの交換が出来ないのである。これは、小型化を優先した結果による問題である。現在は、すでにバッテリー交換は可能だが、数が少ないのが現状である。

 閑話休題。

 ケイルのデバイスの腕が、魔力に覆われて、雪崩の様に襲い掛かる魔法――≪コブシノナダレ≫。

 先の通りに説明した魔法だが、魔法と物理を兼ね備えた技故に、防ぐにも魔法だけではなく、物理にも気を使わなければならない。

 防御魔法にも、いくつか種類がある。が、基本的な分類は、4種類。

 バリア――攻撃を防御膜で相殺し、柔らかく受け止める事を旨とする、もっとも汎用性の高い魔法。いわば、基礎魔法と言っても、過言ではないかもしれない。

 シールド――攻撃と相反する魔力で、固く・反らす事を旨とする防御。ベルカの騎士が、基本とする防御魔法とも言える。

 フィールド――範囲内で発生する特定効果(温度変化等)の発生を、阻害する事による防御。 これには、魔導師の天敵と言えるアンチ・マギリング・フィールドが、該当する。なお、通常は複数の種類を重ね、バリアやシールドの補強として使用する。

 その例が、闇の書事件で現れた、闇の書の闇が使った、4層の複合魔法防御。これには、物理・対魔法の2種類ずつが、交互に重なった強固なモノ。ただ、なのはたちには、1人一撃の4人による4回攻撃に、あっさり崩壊した。

 物理装甲――素材強度による、物理的防御。これは、魔力を持たない人間が、誰にでも扱える防御でもある。モノによっては、アンチ・マギリング・フィールドの付加が掛かったモノも存在する。が、その手のモノは、早々手に入らない・存在しないに等しい一品なので、そこは諦めるしかない。

 で、ケイルの攻撃を防ぐには、これらの中から1つだけで防ぐなど、魔力が余程高くない限り不可能である。現に合ったとしても、それなりに戦闘して魔力を消費しているので、賢い選択とは言えない。

 よって、まず物理防御は除外。防御できそうな装備品が無く、体制を崩している最中なので、現実的に不可能に近い。すると、必然と魔法による防御となる。一応、どんな体制からでも展開できる防御方法。しかし、魔力の消費は、ある程度避けたいのが本音。魔力は無限にあるわけではなく、有限である。しかも、個々によってバラつきがあると来ている。ゲームの様に、均等に能力を上げられる訳ではないし、やはりどんなに頑張っても限界は存在してしまう。

 漫画などでは、限界を超える場面があるが、それはある種の才能の1つだと思う。真の努力の果てに、限界を限界以上の力で打ち壊した結果である。人間、どんなに努力しても、無意識に限界を決めているので、必然と能力上昇から維持に変わる。だが、その限界の状態で、限界以上の力を出す事が出来る方法は、存在する。

 それは、経験による、引き出しの量である。経験は、限界を打ち破らずに超える事ができる方法を、導き出す知識でもある。ずば抜けた才が無いのなら、複数の経験を生かして、才を超える。経験が、多ければ多いいほど、可能性が生まれていく。時に必要が無いと思う経験も、他で得た経験を合わせた時に、新たな経験・知識・可能性が生まれる。

 

「――展開!!」

 

 レニアスラグナスは、魔力を放出してデバイスに流し込み、プログラムを起動させる。起動させたプログラム――魔法は、シールド・バリア・フィールドの3種類。

 まず、フィールドを展開して、魔力の拡散率を上げる。次にバリアを張り、自分の周りにフィールドの影響の軽減に専念させる。最後に、宙に浮くシールドを、4枚展開。少し斜めにてある。これは、完全に弾かないで、最初から反らす事を目的とした手法である。100パーセント受けてから反らすより、80パーセント受けて反らす方が、シールドの耐久値、魔力の消費を抑える事が出来るからである。

 簡単に説明をしているが、実際にやってみると難しい。何せ、アンチ・マギリング・フィールドに近い魔法を、自分の周りに発動。まず、この時点で、自爆としか言えない。何せ、低ランク魔導師が今から行う事をやろうとすれば、この時点で終わっているからだ。

 それにも関わらず、バリアを展開している。この時点で、バリアは徐々に分解されているので、魔力の無駄遣いとしか言えない。だが、フィールドは空間干渉の一種みたいなモノなので、それくらいの対価は仕方が無いとも言える。

 最後にシールドは、何故斜めに傾けたのか。防御魔法の大体が、受け止めるという手法――もとい、それが前提で生み出されたモノ。だが、受け流すという行為は、基本的に組み手で行う。それを、シールドで行うのは、ナンセンスでもある。だが、この場合は、受け逃せれば良い。ただし、失敗した場合の切り替えを瞬時に行える為の行動。タイミングが、完全にモノを言う行動、とても簡単に説明できるが、実際行うのは難しすぎる。出来たとしても、相当な訓練・実戦をこなした者の中でも、一握りしかいないかもしれない。

 それ以前に、盾で受け流すより、剣などで流した方が速いかもしれないが。

 だが、結果的は成功。

 飛んできた、ケイルのデバイスの腕は、次々と盾に受け止め、流される。魔力弾も、フィールドによって結合を解かれて、空中散開。それでも、原型を保った魔力弾は、バリアによって弾かれる。

 ノーダメージで、この攻撃を防ぎきった。だが、その代償として、魔力の大半を消費してしまった。その証拠として、

 

「――くぅ」

 

 右膝を地面に付き、持っていたデバイスを杖代わりにする。なお、右膝を曲げた瞬間に、シールド・バリア・フィールドの3種類の魔法は、消滅した。

 

「アレを防ぎきった!?」

「ですが、今のが、限界の様ですが……」

 

 驚きの声を上げる藍に、ケイルは冷静に分析した結果を述べる。が、ケイルの内心で冷や汗を掻いていた。

 何せ、3種類の防御魔法――内1つが、アンチ・マギリング・フィールだったからである。明らかに自爆行為に等しい行動だったが、それを上回る結果を出したのである。一般の時空管理局の局員が見れば、驚愕の表情になっているはずである。

 後の事を考えなかったのは、普通ならば詰めの甘い奴扱い。だが、先に見せた行動は、予想を上回る技量を見せ付けられたのだ。つまり、まだ敵は、この状況を打破する何かを持っている事を示す。

 

「藍様」

「――何かしら?」

 

 ケイルの言葉に、宙に浮く柱を、自分の周りに戻しながら答える藍。ケイルもまた、自分の周りに、飛ばした拳を戻し始める。

 

「生け捕りにしますか?」

「何故か、理由をお願い」

 

 ケイルの進言に、訝しげに問い返す藍。何せ、行き成り現れた挙句、先ほどまで殺し合いと言う名の戦闘を行っていたのだから。行き成り、殺しから捕獲に変えるなど、あからさまに可笑しいと言える。

 

「先の防御方法です。一応、戦闘データは記録されていますが、実際に再現となると……ですので、本人を生け捕りにし、記憶を吸い出す事が最短距離と考えましたので」

 

 その言葉に、顔を僅かに下に向ける藍。だが、すぐに顔を上げる。

 

「――却下」

「なぁ、何故ですか?」

 

 即答で却下された事に驚き、どもりながらも理由を尋ねるケイル。

 

「愚問を口にするのか……ケイル・ヘートン」

「っ――申し訳ありませんでした!」

 

 藍の言葉に、慌てて謝罪したケイル。

 だが、この謝罪は、藍に向けてモノではない。正確には、自分自身が所属する組織の頂点、≪我らが叡智≫に。ひいては、組織≪賢者の意思≫に対してモノ。

 余談であるが、≪賢者の石≫と≪賢者の意思≫は、同一であり、別にどちらでも良い。ただ、正式名所は≪賢者の石≫である。今は、≪賢者の意思≫と呼ばれている。

 話は戻り、≪我らが叡智よ≫の名の下に、与えられた使命を果たす。その過程で発生したイレギュラー・トラブルなどは、基本的に排除する事になっている。例外はあるが、今回は完全に排除しなければならない。

 

 レニアスラグナス――レニアスと付いている時点で、ラギュナスのレニアスシリーズである事は明白。下手に捕獲して連れ戻った際、逆に情報を持っていかれては困る。ラギュナスとは、事を構える予定であるが、まだその時ではない。

 

「ラギュナスには、まだレニアスシリーズ全員が、集結した訳じゃないから……事を構える事は低いわね」

「断言するのは危険かと思われますが。確かに、現状の情報から推測すると、その様な結論に至るのも、また1つの結論の事」

「だから、ここで潰すわよ。いいわね、ケイル?」

「はっ! ――ヘカトンケイル!!」

 

 ケイルが、デバイスの名を叫ぶと、コアが光りだす。同時に、藍もデバイスに指示を出し、コアを光らせる。

 

「…………――ッ」

 

 それを見ていたレニアスラグナスは、ここまでかと悟り、歯を強くかみ締める。これから来る痛みの衝撃に耐える為に。そして、少しでも意識を繋ぎ止め、3人が逃げる時間を稼ぐ為に。

 しかし、同時に笑いが込み上げて来る。何せ、本来は、その3人とは敵対する予定だったのだから。だが、何の因果か、ふと助けてしまい、挙句の果てに自分を犠牲にして逃がそうとしている。笑うべきなのかもしれない。だが、笑っている暇は無い。今すべき事は、目も前から来る筈の攻撃を、一瞬でも多く耐え切る事。

 その瞬間、大分離れた場所――まだ、残り火が残存する、瓦礫と化した町跡。瓦礫に埋まって、今まで放置されていた槍型のデバイスが、輝きだす。

 その輝きは、瓦礫を吹き飛ばして天に上り、光の柱を生み出す。

 その現象は、離れた場所からでも確認でき、藍とケイルは、光の柱に振り向く。

 

「なぁ!? なんだアレは!?」

 

 レニアスラグナスも、自体を飲みきれずに、思わず叫んでしまった。それが合図となったのか、光の柱が徐々に広がり始めた。

 

 

 

 

 

 少しだけ時間が戻り、レニアスラグナスと藍、ケイルの2人の戦闘が行われている最中に、瓦礫の物陰に隠れながら移動する影。言わずとも、勇斗、スバル、ティアナの3人。

 戦闘開始直後に、レニアスラグナスが計画していた話を、≪圧縮念話≫によって行動していた。

 圧縮念話とは、圧縮データの様に内容を一度に纏めたモノを、相手に送ると言うシンプルなモノ。ただ、受け取り側の人間の脳に負担が掛かる為、それほど多くを一度に送る事ができない。それにより、この圧縮念話は、あっさりと歴史の影に埋もれてしまったのである。数年前に再発見・再利用されていたが、現在は使用禁止となっている。

 埋もれた原因と使用禁止は、受け取る側の負担の問題。及び、送り過ぎによる気絶や、脳内出血の発生が上げられる。ただ、送る量を少なくし、かつ少ないモノを送れば良いだけの話。なのだが、それを守らない人間が多くいた事と、この圧縮念話による傷害事件の発生。制約されたプログラムを作り出しても、それを解除する輩もいる。使用制限を設けても、完全にイタチごっこは明白。それにより、早々使用禁止となったのである。

 

「彰浩、スバル、体の方は?」

 

 無意味かもしれないが、なるべく気配を殺しつつ、周囲を確認しながら、ティアナが2人に声を掛ける。

 

「動くのが、やっと」

「右に同じく」

 

 2人の言葉に、ティアナは肩を落とす。

 今、この瞬間に戦闘する事になれば、絶対に負ける。よく、『この世に≪絶対≫と言う言葉はない』とあるが、完全に時と場合による。やる前から、『絶対に無理』となると、先の言葉は適用される。だが、敵は圧倒的で、戦う力もなければ、仲間を見捨てて逃げても、逃げ切れるほどの体力も無い。

 まさに、≪絶体絶命≫の状態である。ただ、運良く助かったり、救援が来たりする展開は、漫画・小説・アニメ・ドラマなどによる架空の出来事でしかあり得ない。現実にあったとしても、相当な運の高さくらいである。運命と言う名の歯車故に、世界によって生かされるのは、それこそ架空の出来事に入る。

 ティアナは、瓦礫から顔を出しては、辺りを見回し、別の瓦礫に移動して身を隠す。そして、手で合図して、2人が動く。動くのがやっとの2人の事を考えて、移動距離を考えなければならないので、探すのに一苦労する。お陰で、移動距離と範囲が限定され易くなっているが、堂々と平地のど真ん中を歩くよりはマシと言える。よは、壁があるか、無いかの差である。が、相手にはあってない様な状態でも、自分たちの心や思考に余裕が生まれる。切羽詰まっていると、思考が鈍り、判断を誤りやすくなる。

 

「ここで、一旦休みましょう」

 

 ティアナは、周囲を見渡してから、2人に告げた。その言葉に、2人はその場に、尻餅をつく様にその場に座り込む。

 すると、離れた所から、爆発音、地面が抉れる音が、聞こえてきた。

 

「……やっているわね」

 

 ティアナが、呟く様に言う。

 自分に掛けた言葉は、罵声でもあり、励ましである言葉。だが、最後に侵食率は低いが、で依存性の高い媚薬を打ち込んだのは、本当に余計だと思う。いや、100人中100人が、余計だと答えてくれるだろう。ただ、真っ当な価値観を持った、100人の人間だった場合だが。

 彰浩とスバルは、瓦礫に背を預けて、肩で息をしているほどの疲労。それを見るティアナ自身も、限界が近い事を、薄々感じ始めていた。むしろ、疲労は、3人とも既にピークに成っているが、緊張の余り気がついていないだけなのかも知れない。いや、むしろその考えが正しいのかもしれないと、瓦礫に背を預けながら、ティアナは思った。

 ガラッと、瓦礫の一部――小石が、転げ落ちる。

 次の瞬間、瓦礫を超えて風を打ち破る音と共に、ガジェットドローンが出現する。しかも、ティアナの背後の瓦礫から。

 

『――――!?』

 

 3人は、一斉に戦慄し、息を飲む。ティアナの前と左右からならば、座った状態でも攻撃が出来た。だが、ティアナの背後からの出現。背を預けていた瓦礫の高さは、3メートルあり、完全に死角。

 

「――くっ!!」

 

 ティアナは、座った状態からの立ち上がりダッシュ、というよりも前に跳んだと言った方が適切な行動を起こす。

 

(何でデバイスのセンサーに引っかからなかったの!?)

 

 そう、内心に毒を吐きつつ、背を地面に向けてスライドしながら、デバイスを構え――トリガーを引く。

 ガジェットドローンのセンサーレンズが輝き、レーザーみたいな攻撃を放つ。ティアナが放った魔力弾は、全部で3つ。そこで、装備されていたカードリッジ切れとなってしまった。マガジンキャッチを行うが、作動せず。

 魔力弾は、ガジェットドローンに向かうが、3発ともレーザーみたいな攻撃に相殺され、4発目がティアナを狙う。

 

「しまっ!?」

 

 ティアナは、飛んで来た攻撃に、身を固めて両腕で顔と胸を覆う。が、それより早く攻撃が迫る。

 それを見ていた彰浩とスバルは、行動を起こすが、体が動かなかった。やはり、先ほどティアナの考えが、ここで的中してしまったのである。案の定、3人とも――特に、彰浩とスバルは、この休憩で緊張の糸が無意識に切れてしまい、疲労がジワジワ湧き上がり、ここで一気に出てしまった。

 その時のティアナの見ていた世界の全てが、スローモーションになる。

 世界が、映像端末のスロー再生以上に、鮮明なスローモーションを描く。飛んで来る、ガジェットドローンの攻撃。

 何かを叫ぶ、彰浩とスバル。

 力の限り、体を丸めようとするティアナ。

 だが、遅い。余りにも、動きが遅すぎた。彰浩とスバルの2人と同様に、ここに来て、疲労が爆発し始めた。

 迫る攻撃に、身を丸めて致命傷を避けようとする防御行動。

 だが、有らん限りの力を使おうとも、奮闘虚しく、攻撃が迫る。そして、悟る――この攻撃は、即死の直撃コースだと。

 今は、バリアジャケットを装備しているが、露出している部分――顔や腕には、魔力の防御膜が付いているが、今までの戦闘により、その分の魔力が無くなっていた。よって、今は素の状態。露出への直撃は、大怪我か即死のどちらかしか無い。

 そこで、ティアナの脳裏に、一瞬だけ。一瞬だけ、兄が微笑んでいる姿が見えた。ああ、私も兄の元へ向かうのかと悟る。だが、再び兄の姿が見え、首を横に振ってこう言った。

 

『今の相棒が、守ってくれるよ』

 

 そう、ティアナに向かって言った。

 そして、その攻撃は……右手に持っていた相棒――クロスミラージュのカードリッジでもあった、銃身に直撃した。

 

 それにより、ティアナが見たスローモーションを描く世界は、終わりを告げた。

 

「――っくぁ!? がぁ!?」

 

 右腕に持っていたデバイスは、勢い良く掴んでいる手ごと跳び、右手の甲が額に当たって地面に上半身を叩きつける。

 その衝撃で、右手のクロスミラージュは、後方に吹き飛んで地面を1回バウンド。そして、銃身が爆発して砕け、コアとグリップ、接続部分のみを残したカードリッジの状態となる。

 

『ティア!!』

 

 彰浩とスバルの声が、ここでやっとティアナの耳に入った。

 だが、ガジェットドローンは、容赦無く追撃を掛けようとするが、天を突く様な光の柱が出現した。それにより、ガジェットドローンは攻撃を一時中断し、その場を離れていった。

 何がなんだか状況が把握できない3人は、その場で呆然となるが、光の柱が広がり始める。

 

「なぁ!?」

「てぃ、ティア!?」

「アタシに聞かないで!!」

 

 彰浩、スバル、ティアナの順に、声を出す。が、光の柱は目の前に迫っていた。唖然となってから、声を出して5秒も満たない。

 今いる場所から、光の柱の発生地点の距離は不明だが、見た目から最低10キロは離れていても可笑しくはない距離。

 結局、3人は、その場から動く事も無く、それ以上の発言をする暇も無く、光の中に消えていった。

 ただ、藍とケイル、レニアスラグナスは、既に離脱済み。

 何故、レニアスラグナスは3人を助けなかったのか。

 理由は、光の速さである。光の速さは、地球を1秒で7周半する速さらしい。よって、光の速さを超えない限り、3人を救出出来ない。例え、光の速さを超えた場合、何も見えない闇の世界しかない。精々、重力が判るか判らないか程度。

 一応、一回りほど大きくなる時は、本当に遅かった。だが、二周りの大きさになった瞬間、本来の光の速さに化けたのである。飲まれたが、光の中で転移魔法が作動し、別世界に避難して行った。

 よって、レニアスラグナスの行動は、納得しない人間もいるが、少なからず仕方のない事だと言えた。

 

 

 

 

 

 そして、再び時間が戻り……勇斗たちの物語を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

第十三話

帰還という名の入り口

(前編)

 

 

END

 

 

 

 

 

次回予告

無差別攻撃を促すシステムにより、惨劇を作り出す勇斗。

瀕死となったグーリ・ド・アイブのデバイスが、怪しく輝く。

それにより、人ならざる者に変貌する、グーリ。

そして、この世界にも、光の柱が出現する。

 

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

第十四話:帰還という名の入り口(後編)

 

 

 

絶対運命――アカシックレコードと言う名の歯車により、歯車が集い創(はじ)める。





あとがき
 独自解釈のオリジナル設定あり&色々横道(設定的な話)に入りつつ、第一部でご無沙汰だった、レニアスシリーズ、ここに登場! あ、忘れていた訳じゃないからね。(汗
 あとは、表現が直球過ぎたり、緩和したりと、今一微妙な線引きとなっている。加減が判らないんだよね、15禁と推奨の差って奴が。絵だと、胸が露出しても、乳首が隠れていれば推奨、出ていれば15禁。股も同様――だと、自分は考えている。
 え、なら18禁SS書けばいい? 一度書いたけど、難しいんだよ。ゲームや小説みたいに長く書くのが。イメージは出来るんだけど、それを文章に表すのがねぇ。(汗
 ってか、表現を直球に決定。ごちゃごちゃになるので。ただし、エロシーンは簡略化、もしくは曖昧化する方針で。それ以外の言葉などの問題は、伏字に。でも、ネギまの一巻では≪パイパン≫は伏字じゃないのに、後の巻では伏字になっていた。その辺もどうするか決めないと……でも、ここのルートは黒く行くから、直球に決定。でも、自重すべき部分は、キチンと自重しますよ。じゃないと、これ18禁になるから。
 異論がある方は、拍手ボタンか投票まで。
 ……ところで本当に、この物語は、どこに向かうんだろう。いや、終わり方は決まっているよ。決まっているけどさぁ……道中がねぇ。(汗
 っーか、一話で纏める予定だったのに、何だが話が膨らみすぎたよ! お陰で二分割確定。ってか、もう少し伸ばせるけど、いい加減進めないと。(汗
 でも、良くここで、死ぬ瞬間の出来事を、思いついて書いたと思うよ。でも、この奇跡によってどうなるのかは、お楽しみに。お陰で、話がさらに膨らんだよ。あ、次の話じゃなくて、その少し先の話ね。


 最後に、物語中にあったティアナの思考≪犯された女≫については、完全な作者の独自の創作的な考えであります。物語を、何気に重くする為に言葉であり、決して面白半分に書いた物では無い事を宣言します。
 ので、決して間に受けないよう、お願いします。なお、この様な考えに賛同して行動を起こされてしまっても、作者は一切の責任を負う事はできませんので、ご注意を。





使用書物&サイトなど
・見てわかる! 幻想世界の武器&防具案内(コンビニや本屋などで販売。定価:本体552円+税)
・ゲーム・アニメ・映画に登場した[図解]世界のGUNバイブル(コンビニや本屋などで販売。定価:本体552円+税)
・Yahoo百科事典『検索キーワード:マグマ』
・ウィキペディア『検索キーワード:光速、スナイパーライフル』
・魔法少女リリカルなのはStrikerS THE COMICS







制作開始:2009/3/10~2009/9/30

打ち込み日:2009/9/30
公開日:2009/9/30
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