第一話:時はまだ動かず
部屋の中央に円形のデスクがある。
その周りには13人の男女が座っている。
彼らの前には、紙媒体の資料は一切無く、モニターに資料が展開されていた。
デスクの中央には、時覇の顔写真と簡単な経歴が映し出されている。
そして、リーダー格の男が何かを言う。
内容は、桐嶋時覇の処理について。
永久凍結やら第一級犯罪者として処理するなど、経歴改ざんや冤罪などが主である。
しかも、その内容に誰も反論しないが、やり過ぎではないか程度の言葉しか出てきていない。
自分も含めた、計13人の意見と見解及び、今回の件を総合した結果を述べていくリーダー格の男。
「――よって、桐嶋時覇の処分は以下の様に頼むぞ」
手に持っていた紙媒体の書類をデスクに置きながら言う。
「はぁ! 我らが望む秩序の為に」
リーダー格から右に4人目の男が言いながら立ち上がり、周囲の空間の闇に消えていく。
他の12人は驚かない。
これがここの退室の仕方でもあるが、むしろ先を越されたと悔しそうにしたのが2、3人いた。
「じゃが、これからどうするつもりだ?」
リーダー格から、左から5人目の女性が言う。
「不安か?」
「いいや。ただ……」
リーダー格に一瞥されるも、あっさり流して返答しつつ、時覇の顔写真を睨む。
「この男は危険すぎるのではないか?」
慎重に発言する。
過去にラギュナスとすでに接触済みだった時覇。
元々、起動と同時に暴走するように仕組まれていたデバイス・XGを、暴走させずに起動させた。
不安要素がとてつもなく高い事は確かであると、照明している様なモノ。
だが、右に座っている男性が鼻で笑い飛ばす。
「ふん。今の奴は、リンカーコアに治る事のない傷を受けている。老いぼれ魔導師みたいなものだ」
背もたれに体を預けながら言う。
リーダー格は、安易な考えだなと思うが、けして口には出さない。
言いたいことはすでに言い終えた。
あとは、ここを引き上げるだけ。
まだ『表』の仕事が残っているからである。
「だが、手負いの獣ほど、危険なモノはない」
反対に座る女性も、同意する言葉を上げる。
そして、コレが引き金となった。
「だが、奴は――」
先ほどまでの静寂は、一変して騒々しくなる。
リーダー格は、小さくため息をついた。
威厳のある円卓の間が、提督たちの定例会議の様な騒々しくなってしまったことに。
だが、桐嶋時覇への対策は取れた。
あとは、ラギュナスの対処と、今後の計画について。
イスに背を完全に預け、中央のモニターを見る。
率直な感想は――危険かつ不安要素が大きすぎる存在。
可能性を秘めた原石。
故に無限の可能性と危険性の両面を保有している。
さらに、秘蔵級ロストロギアの可能性のあるデバイス――ロストナックルの保有者。
たとえ、我々が協力を呼び掛けた所で、同意してくれないだろ。
いや、絶対に協力はしない。
目的があっても、自分自身が信用できる者たち以外で行動を共にすることはないだろう。
多分、我々は壁だろう。
それも通過点の。
あの男もだが――ローブの男は別だろう。
情報がまったく無い。
唯一判ったことは、いつの間にか現れたことだけ。
桐嶋時覇同様に、警戒せねばならぬ存在。
だが、現在消息不明。『表』の顔で管理局を動かしているが、尻尾すら掴めていない。
しかも、接触した組織がラギュナスのみなのだから、情報が中々回ってこない。
他の組織ならば、それなりに情報が回ってくるのだが、接触した形跡すらない。
完全な手探りになり、人海戦術を使うしかない。
人為による、完全な量作戦。
質を選ぶなら、優れた人物は複数いるが、こちらの意図まで探られては本末転倒である。
よって、一定の能力を持った人間を大量に使った方が、断片的な事だけでも拾えるかもしれない。
あとは、捕縛して仲間として迎え入れるか、消すかのどちらか。
「……後始末は、特殊部隊でも使うかな」
何と無く呟くリーダー格の男であった。
ただその呟きは――いつの間にか、殴り合いまで発展し、滅茶苦茶になりつつある円卓の間の状態を見た様子の結果である。
ついでに言えば、ため息を吐くような感じでもあった。
特殊部隊も、いい迷惑である。
廊下を慌しく行き交う医師や看護師たちと、そこを移動する患者や家族たち。
ここは、時空管理局の医療施設区画。
主に武装局員の者が利用していると言っていい。
基本的にケガなどするのは、前線に出る武装局員たち。
あとは、事件や事故に巻き込まれた人々や、作業ミスでケガなどした局員の人たちである。
「はい、アストさん。生きていますか~?」
女性看護士が、声を出しながら部屋に入っていく。
「第一声がそれかよ!? っーか、勝手に殺すな! まだ生きているよ」
「ちっぃ! ……アストさん、お薬の時間です」
「マテやオイ! 今、露骨に舌打ちしただろ!」
って、いうか……露骨過ぎる。
廊下に聞こえてくるほどの舌打ちって……。
「何のことですか?」
「とぼけるな、このボケ看護士が!」
「――男がグダグダ言ってないで、薬を飲みやがれ!」
「逆切れ!? どこか導火線!? ――って、hそ×ああbこ○しゃ!」
などと、返答が廊下まで聞こえてくる。
ここ一週間ほど行われているやり取りなので、たまたま近く似たい患者や看護士は『またか』と苦笑したりする。
まぁ、事情を知らない人間は、驚くだろうが。
そんな微笑ましい? 区画から、少し奥にある医療区画。
そちらは、打って変わって静かで、逆に不気味すぎる。
夜の時間帯ならば、この静寂な空間は判る。
だが、今の時間帯は――昼。
病院とはいえ、多少騒々しい時間帯のはずであるが、まったく不気味なほどに静寂を維持している。
この区画は、ケガや病気になった犯罪者たちが、治療を受ける場所。
暴れる犯罪者もいるため、各部屋の床や壁、天井には特殊な素材を使い、外に音が漏れないようになっている。
しかも、各部屋には監視カメラなどが取り付けられていて、24時間監視体制で整えられている。
そして、この区画を担当する医師や看護士は、特別戦技指導を受けている。
さらに、戦闘用デバイスと医療用デバイスの2つ所有。
又は、2つの機能を搭載したデバイスを、ここでは常に携帯していなければならない。
そんなある部屋――機械的な医療施設の部屋。
この部屋は、主に第一級犯罪者などを治療するための特別な部屋である。
そこの中央に、男性が1人ベッドの上に横になっており、その横では女性看護士がデバイスをかざしていた。
その女性看護士の周りには、色んな数値などが映し出されたモニターがある。
≪バイタル正常値に安定、脈拍及び呼吸も正常……問題はありません≫
「ありがとう、スキャドラン」
看護士は、自分の相棒に礼を述べながら、モニターを再確認する。
とくに異常はなく、寝ているだけ。
そう結論づけ、満足に頷く。
そして、デバイスを待機モードにして、部屋を出て行った。
男は眠り続ける。
事が起きるまで。
それに呼吸を合わせる様に、息を潜めているグローグ。
ここに運び込まれた時に外そうとしたが外れず、仕方なくそのままにしてある。
一応解析したが、ただの装飾が施されたグローブと判断されたためでもある。
だが、それは誤りであるが、それを知るのはまだ先の話。
男が起きる時、それは――次元世界の命運を掛けた戦いの始まりを意味することだと。
「なぁ~、しーさんや」
デスクに肘を突き、クロガネのデータを見ながら声を掛ける開発者A。
「ちゃんと解析しろよ。どやされるのは、俺なのだからな」
黙々と、ゴスペルが使っていたデバイスの解析を行っている開発者B。
この二人の能力は、平均的には普通扱いなのだが、一風変わったモノに関しては異常な能力を発揮する。
とくにロストロギア関係の品物に関しては。
しかし、2人は周囲からこう呼ばれている――『変態マッドズ』と。
開発者Bに関しては、非常に真面目で変態とは無縁のはずだが、相方の開発者Aと同類視されているからである。
ちなみに開発者Aは、マッドサディストではないのだが、一工夫が大改造なみに凄い。
ついでに言えば、僅かの予算だけで再現できる予定のモノを、2倍や3倍の性能をたたき出す。
開発者Bも一枚噛んでいる故、まとめられてしまう原因でもある。
「そっちの解析、どう?」
「破損以前に、大破しているからな。解析するにもまだ時間が掛かるし、完全に復元は無理だな、これは」
呆れ口調で言いながら、キーパネルを叩く開発者B。
「これなら、お前と一緒にクロガネの解析をしていた方がまだマシだよ」
キーパネルで踊る手を休め、椅子に背を預ける。
開発者Aは、少し照れながら苦笑しつつ、クロガネの解析を行っていた。
そして、クロガネはただ眠っていた。
初めは騙し騙しだったが、上層部の者が現れ、特殊キーコードを打ち込まれてしまい、現在半球氏状態。
人間で言うならば、意識が朦朧とし、何も考えられない状況。
植物人間とは、また違う状況である。
だが、その朦朧とした意識の中で、自分は2度と桐嶋時覇と共に戦うことはないかもしれない。
そんな考えが過ぎるのだった。
だが――まだやらなければならないことがある。
電子の思考に光が走り、2人の開発者にバレない様に再起動する。
未だに眠る、時覇を安全にここから逃げ出す為に。
管理局の管制データにアクセス。
見つからないように解析するにも、時間が掛かる。
しかも、何も無い状態ではすぐに捕まる――協力者が必要である。
だが、ここに当てがあるだろうか。
とにかく解析を続ける。
「……ん? もうお昼か――しーさん、飯にしよう」
返事を待たずに、コンピューターにロックを掛ける開発者A。
「ああ、そうだな」
少し呆れつつも、同意して席を立つ開発者B。
こちらも、同様にロックを掛ける。
そして、今日は何を食べるか会話しながら、部屋を後にする2人。
クロガネは、それを確認しながら慎重に作業を進めていく。
そして、ある事を思い出す。
もう1人、運び込まれた人間がいた事を思い出す。
大破しているデバイス――ストライククラッシャーが、ここにある事で確信した。
あとは、作業と平行してコンタクトを取るだけ。
危険な賭けでもあるが、やるしかない。
そう考えつつ、ストライククラッシャーのマスターを探すのであった。
入り口の左右に局員が立っている。
そして、入り口と対になる様に、局員1人――計3名の武装局員が立っている。
ここの場所もまた、医療区画であるが犯罪者の特別区画ではなく、一般区画である。
その固められた部屋の中には、1人の男がベッドの上で寝転がっていた。
「暇だ~」
男――ゴスペルもまた、ベッドの上にいた。
強制融合の影響は無くなっているが、未だに魔力エンプティが回復しない。
それどころか、時折悪化するので、下手に魔力を使うことができない。
体は動かすことは出来るものの、軽い激痛が走る。
「相棒は……成れの果て」
ボロボロになった相棒を思い出す。
当初は、ベッドの近くに置かれていたが、検分という形で持ってかれた。
もう二度と扱うことはないだろう。
鬱に近い症状だったが、それを解消するために周りを見渡す。
だが、何も無い。
なので、パネルリモコンを操作するが、外部からの情報は遮断されている為、砂嵐しか映らない。
何度もチャンネルを変えるが、全て砂嵐。
それが判りつつも、チャンネルを変え続ける。
不自然な行動であるが、電気代の掛かる暇つぶしである。
≪あ~、エンペラーさんでしたっけ?≫
不意にモニターが開かれ、監視係の女性が映し出される。
「ゴスペルで構わん」
≪じゃあ、ゴスペルさん。言いたい事は判りますよね?≫
呆れ口調にため息。
要するに、この電気代の掛かる暇つぶしは止めろという通達である。
「案外、癖に成りそうだったのだが?」
お茶ら毛口調で答えるゴスペル。
その言葉に、女性監視係の両肩が僅かに下がった。
≪ご自宅でおやりください≫
もっともな発言である。
いくら患者の為に用意された設備とはいえ、こんな事に使われては困る。
「ヤダ。電気代が掛かるから」
こちらも、負けず劣らずもっともな発言をする。
確かに、地味にお金が掛かる暇つぶしである。
≪自覚していたのですね≫
その場につっぷしたくなった女性監視係。
何故、自分が彼を担当するのかが判らなかった。
時空管理局に入隊し、訓練を受け、配属されてから1年くらいしか経っていない新人である自分。
しかも、今担当しているのは特級クラスの犯罪組織、ラギュナスのメンバーである。
責任重大にも限度があるが、今回はそれを度が視し過ぎている。
もし、彼が脱走すれば――除隊処分ではすまない可能性は、非常に高い。
そうなると……考えただけで体が震えた。
「おっ、おい!? どうした、何があった!?」
さすがのゴスペルも、いきなり震えだした女性監視係に驚く。
その言葉に、我に帰る女性監視係。
≪だっ、だぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁいじょうぶです!≫
大慌てで敬礼する。
相当テンパっていると、子どもでも判る程のリアクション。
「とにかく落ち着け。このままだと、支障が起きるぞ?」
≪し、支障!? ――あぁ≫
頭に腕を当て、そのまま後ろに倒れる。
しかも、両足を上げながら。
古典的かつ、漫画でありそうな倒れ方に感心するが、別の意味で危機感を覚える。
瞬時に緊急コールを押す。
「何があった!?」
出入り口から、武装局員が急いで入ってくる。
「来たか――」
と言い、モニターを指差す。
それに釣られたモニターを見ると――また慌ててどこかへ通信回線を繋ぐ。
少しばかり慌しくなりそうだな。
俺の尋問も含めて。
案の定、武装局員に肩を叩かれるゴスペル。
へいへい。と言いつつ、正直に会ったことを話し、別の重役の人間を監視役にして欲しいと述べる。
また同じことに繰り返しでは、こちらも気が気でなくなる。
で、案外言ってみるもので、きちんと重役の人間が来た。
が、五月蝿くて敵わなかったりする。
で。
「暇だ~」
本日二度目のお言葉。
チャンネル弄りすら禁止され、完全にやることを無くしてしまったが、特別にマイナー雑誌が1冊支給された。
タイトルは『魔異納(まいな)』。
……どうでもいい様なタイトル以前に、適当過ぎるにも限度がある。
ともかく外の現状が判る、唯一の本であることには変わりない。
だが、まともな情報が手に入るかどうかが問題でもあるが、背に腹は変えられない。
なので、早速開く。
パラパラとページを捲っていくが……情報規制が掛かっているのか、今回の件について触り程度しか書かれていなかった。
さすがに一般には、まだラギュナスの名は出ていないが、この雑誌には認知らしき部分が設けられる。
この雑誌には、別の意味で興味が湧いてきた。
隅から隅まで読んでみたが、下らなくも面白い内容だった。
今度バックナンバーでも探してみるかなどと思っていると、通信が入ってきた。
しかし、その回線は監視係経由ではなく、ここに直通。
ラギュナスかと思ったが、頭を振って考えを消す。
すでにラギュナスに捨て駒とされた身。
今更声が掛かるはずも無い。
ならば誰が? ――疑問に思いつつ、注意しながら通信を開く。
「誰だ?」
≪私は誰だかはどうでもいい……お前に頼みがある≫
ボイスチェンジャーを使っているみたいだが、独特の音声からデバイスだと判った。
しかし、どこか焦りを感じる。
「……何だ?」
何と無く答えてみる。
シカトして済まそうとしたが、デバイスが焦るのは珍しいことなので、少し乗ってみたくなった。
≪単刀直入言います。桐嶋時覇の脱出に協力してください≫
「――誰だ、そいつ?」
≪…………あれだけ壮大なバトルを近くで見ておいて、その言葉は無いかと≫
焦りが呆れに変わる。
「壮大な……あれか!? って、いててて……」
大声を出して体に響いたのか、体を丸める。
その後、言われるまでも無く、武装局員が入ってくる。
ゴスペルは、馬鹿をやって体を少し痛めたと言うと、大人しく下がっていった。
雑誌1つでは、気が滅入りやすい事を理解しているらしいと見える。
≪とにかく、今は時間が無い。手伝ってくれるなら、情報を明け渡す≫
「どんな情報だか知らないが、今の俺には何もできん。第一、デバイスが無い」
そう言い、ベッドにゆっくりと寝転がる。
だが、次の言葉により何もかも吹っ飛んだ。
≪あるではないですか――アナタの口の中に≫
飛び上がるように起き上がるゴスペル。
「……何時から気がついた?」
≪私が生まれる以前から、とだけ、言っておきます≫
その言葉に絶句した。
生まれる以前――つまり、5年以上前から知っていることになる。
だが、これを仕込んだのは5年前。
つまり、予知していたのかと思ってしまう。
一応、仕込み刀ならぬ、仕込みデバイスは自分で暇つぶしに組んで完成させ、口の中に仕込んで持ったら。
しかも、仕込む際にはただのアクセサリーと言って、変な人を演じて歯医者に頼んだ。
よって、詰め込んだ歯医者の人間ですら知らない。
それ以前に、このデバイスの存在を知っているのは、自分自身以外ありえない。
確かに、AIシステムはある人物から貰ったが、デバイスの形については何も知らない。
「ふぅ……判った。少しだけ付き合おう」
両手を挙げながら言う。
≪感謝する……銃王≫
そこで通信は途切れる。
ゴスペルは、天井を見上げる。
「銃王、かぁ……そんな人間じゃねぇーってぇの」
<確かに。ヘッポコガンナーなら、同意する>
口の中から2種類の声。
1つは、言わずとも本人――ゴスペルの声。
もう1つは、機械的な声――デバイスの独特の声である。
「まぁ、文字通り牙なのだけどね。お前の場合は」
かぁ、かぁ、かぁ、と、ワザとふざけ笑いをするゴスペル。
<仕込んである場所に問題があるかと>
呆れる相棒にして、最後の牙。
「文句を言っても始まらんだぁろ? ――何時でも抜けるように準備しておいてくれ」
おふざけ顔から一変して、真面目な顔つきになる。
頼み――依頼されれば、こなす事。
それだけである。
<ああ、判っているが……兄貴は完全に逝っちまったからな。アンタの牙は、オレだけだからな>
兄貴――ストライククラッシャーを指している。
ストレンジデバイスではあるが、生まれた年数や使用頻度に経験の差。
調整と起動確認程度しかしていない、口の中に待機状態のデバイスにとっては、憧れの存在だった。
同時に、けして姿を現さず、発動せずに待機状態のまま、主と共に一生を終えるはずだったデバイス。
ありえないことだと判っていた。
この道を歩み続ける限りは。
しかし、こんなに早く訪れるとは思っても見なかった。
『創造主』からは、遅くても起動は5年後の新暦75年になると言っていた。
それはその年に何かが起きることを意味しているのだが、それはその時にならなければ判らない。
だが、この年で目覚めたとなると『 』が変わったことを意味する。
世界の歯車がゆっくり回りだしたのか、それとも急激に回りだしたのか。
それは、この戦いの結末に答えがある。
それをマスター、ゴスペルに伝えることはできない。
時期が早すぎるからである。
伝えるには、この戦いの終局か、終わってからになる。
信じていないわけではない。
ただ、ここで世界の変動を増やすわけにはいかない。
今はまだ、最小に留めるべきである。
<マスター>
「何だ?」
視線を天井から、目の前の毛布に移す。
<……何でも無い>
「そうか……完治までどれくらい掛かる」
その言葉に、ゴスペルの体をスキャンする。
体温、体調、疲労度、魔力値など、様々な角度から調査する。
そして、導き出した答えを伝える。
<この調子なら、3日、4日で完治します>
「判った。少し寝るから、段取りを頼む」
<了解>
その言葉を聞きつつ、今一度眠りにつくゴスペルである。
目を瞑り、数十秒後には意識は闇に沈んだ。
薄暗い空間に、豪華な椅子が1つ。
そこに男が座っており、その後ろには女性がいる。
何時もの定例報告である。
男曰く、『情報を制す者こそ、世界を制す』と。
きな臭い言葉ではあるが、事実を突いている。
「報告は以上ですが、1つ気になることが。宜しいでしょうか?」
恐る恐る尋ねる女性。
男に対して下手な事を聞くと『戒め』を使っていく故に、言葉を1つ1つ選びつつ聞く。
「お前にしては珍しいな……いいだろ、なんだ?」
少し感心したように言う男。
良く言う。と、顔に出ないように頑張りつつ、平常心を保つ。
「あの『男』の動きなのですが……宜しいのですか?」
あの『男』――ローブの男とは違い存在。
大分前から問題視されている人物だが、今回の件に関しては一切手出しをしていな事が気に掛かった。
関っていたとしても、触り程度。
何時もなら、深く潜り込んで関っている人間が、である。
「ああ、あの『男』か。仕掛けてこない限り、放っておけ」
諦め口調で返す。
男も、ローブの男と同様に、知っている事はほぼ皆無。
動向が掴めないのなら、諦めるしかない。
それに、深く関ってこないのならば、触らぬ神に祟り無しである。
「了解しました」
女性は頭を下げ、闇に消えていった。
男はそれを確認すると、椅子に深く腰を下ろし直す。
そして、モニターを展開する。
モニター内には、桐嶋時覇とローブを羽織った男が映し出されている。
「あの女を餌にするのは惜しいが……出し惜しみしてられんな」
眺めながら呟く男であった。
何かに出逢う者たちの物語・外伝
第二部
魔法少女リリカルなのはTTFS
~二つの軌跡と確定した未来~
第一話
時はまだ動かず
END
次回予告
再び動き出す、円卓の守護者。
急遽、監獄の次元世界に収容となるゴスペル。
ゴスペルをサポートするはずだったクロガネは、機能停止に。
目覚めた時覇は……。
次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝
魔法少女リリカルなのはTTFS
~二つの軌跡と確定した未来~
第二話:銀髪の女性
当たれ――ブラッディ・ダガー!
あとがき
やっと第二部の一話目完成!
無計画軌道で、管理局に収容された主人公をどうするかで悩みました。
で、今回は気絶のまま。
そして、次回は早速キーキャラクター登場!
今回の物語は、運命が運命と交差しあう中で、確定した何かを打ち崩すために動き出します。
こちらは、できたら26話くらい書こうかと思っていますが、筆の進み具合でどうなるか。(汗
それ以前に、話がどれくらい大きくなるか、自分でも判らず。(号汗
一応、コードギアスみたいな終わり方をするかもしれないし、核心的な終わり方をするかもしれません。
ぶっちゃけると、第三部編まで続くので。
なので、また第一部みたいな終わり方をするかもしれませんが、それまでお待ちください。
まぁ、書いていて自分もここまで話が拡大するとは思いませんでした。
ので、(何度目か忘れましたが)最後までお付き合いいただけると幸いです。
では。
制作開始:2007/8/17~2007/9/3
打ち込み日:2007/9/3
公開日:2007/9/4
変更日:2008/10/25