何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ   作:ダークバスター

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一度は捨てた、この――魔法の力。
振るうは破壊。
振るうは救い。
しかし、それを成しえるには力が必要とする。
俺は、自惚れか自信過剰だったのか、大の親友の妹を殺させてしまった。


第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

 地下道に充満する煙。

 主に鉄が焼けた臭いだが、僅かにドブが蒸発した臭いがする。

 ハッキリ言ってキツイ一言。

 リインと少女――ギンガの盾となったものの、煙と臭いまでは防げなかった。

 

「くぅ……」

 

 爆風と煙の勢いで前に倒れそうになるが、何とか持ちこたえる。

 

「うぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……」

 

 ゴスペルの悲鳴が聞こえるが、煙が視界を遮っているので、何が起きたのか判らない。

 少なくとも、吹き飛んだことは確かである。

 徐々に晴れる煙。

 2人の咳き込む声が聞こえる。

 視界が良くなり、ギンガとリインの体を見える範囲でザッと見る。

 顔や服は泥だらけだが、血らしきモノは見当たらず、外傷も無い。

 内傷については、簡易診察してみないと判らない。

 安心の顔を浮かべ、ゴスペルの吹き飛んだと思しき方向に顔を向ける時覇。

 しかし、煙が晴れてきたとはいえ、15メートル以上は見えていない。

 

「ゴスペル、大丈夫か!」

 

 煙を吸わないように、大声で尋ねる。

 

「ああ、だいじょ――ゴフォ、ゴフォ!」

 

 咳き込むゴスペル。

 肺関係をやられたのか、純粋に煙を吸って咳き込んだのか、時覇に戦慄が走る。

 

「やられたのか!? 今治療に!」

 

 デバイス無しでも、簡易回復魔法は使える。

 これで応急処置を図る事ができるので、意識を集中させながら立ち上がろうとする。

「煙、吸って咳き込んだだけ――ウフッ、ぶぁっくしゅ!」

 

 その言葉に、安心して軽く息を吐き――吸う。

 結果、時覇も咳き込んだ。

 

 

 

 

 

「ふむ――2人は共にケガ無し、と」

 

 リインとギンガの簡易診察を終える時覇。

 

「俺の診断結果は?」

 

 背後からゴスペルの声が聞こえる。

 

「結果は全身打撲。魔力エンプティギリギリによる疲労付きにより、全治5日位かな」

 

 その言葉に、渋い顔をするゴスペル。

 作戦とはいえ、発案者である時覇にも、多少責任はある。

 そして、パイロンの残骸へ足を運ぶ。

 頭が完全に吹き飛んでいて、人間で言う肺の辺りが抉られるように無くなっていた。

 あとは綺麗に残っているのが、何とも不気味であったが。

 

「この先、バイオハザードなら……勘弁だな」

 

 そう呟きながら、先行する様に梯子を登り、イングランド研究所へ入っていく。

 ハンドガンあったら、さらに雰囲気が……と、思ったが自重する。

第一、ハンドガンは質量兵器に属するので、管理局法がダイレクトに適応される。

 ついでに言えば、質量兵器の使用禁止イコール所有、製造禁止にも繋がる。

 しかも、今の時空犯罪者も、質量兵器を活用することは余り無い。

 続いて、怯えつつも勇気を出して進むギンガに、大丈夫と言葉を掛けながら進ませていくリイン。

 最後に、痛い体に鞭を打ちつつも、前へ進むゴスペル。

 パイロンが壊した隔壁を、上手く乗り越えながら進む一同。

 通路を進むが――案の定、所々に戦闘の後がある。

 進めない訳ではないが、一種の障害物となっているので、通るのが大変である。

 ギンガとリインが。

 ゴスペル? どうでもいい。

 

「時覇。お前、今ふざけた事抜かさなかったか?」

 

 訝しげな声で尋ねてきたゴスペルに、内心驚くが、なるべく表面化させないように留める。

 

「いや、何でそうなる?」

 

 内心冷や汗。

 後ろからは見えないが、前から見ると額から一筋の汗が流れる。

 

「ならいいが」

 

 心の中でため息をつく。

 手ぶらの状態での戦闘は、確実に負ける。

 第一、ここで余計な戦いは避けたい。

 今度から気をつけようと、心に決める時覇であった。

 

 

 

 

 

 イングランド研究所のある部屋。

 そこにはスチールの棚が並べられており、そこに試験管みたいなビンが並べられてあった。

 中身には、眼球や何かの神経、人や何かの皮膚。

 その他、モロモロとホルマリン漬けとなっている。

 そんな部屋の一角の床が浮き上がり、スライドする。

 そこに穴が生まれ、鏡が生えてくる。

 360度回転し、誰もいない事を確認してから――時覇が飛び出てくる。

 

「よし、いいぞ」

 

 周囲を警戒しつつ、穴に待機していた3人が出てくる。

 順番は、ギンガ、リイン、ゴスペル。

 ちなみに、ゴスペルはリインのスカートの中を見てしまい、顔面に蹴りが入る。

 あと、スカートの中は――紫らしいが、聞こえないフリ。

 仕方なく、再び穴に入り、ゴスペルを背負って戻る。

 

「気持ち悪い」

 

 ボソリとギンガが呟く。

 それもそのはず、ホルマリン漬けが大量に並んだ棚。

 局員とはいえ、普通に見れば年頃の子ども。

 見せるにはまだ早い。

 そう時覇は悟り、素早く扉へ向かう。

 ドアノブに触ろうとして、手が止まる。

 

「どうしたのですか?」

 

 背後から、リインの声が掛かる。

 

「いや、別のところから出よう」

 

 ドアノブから漂っている嫌な感じを一瞥しながら振り返る。

 部屋全体を見渡すが、出口はココしか無く、窓も無い。

 あとは、先ほど出てきた穴に入るしかない。

 行き詰まり、何気なく天井を見上げる。

 

「 あ 」

 

 目線の先に――鉄越しがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガン、ガン――ガタン! と、鉄越しが天井から外れて、床に落ちる。

 いや、正確には吹き飛んだといった方が適切である。

 

「ほぃ!」

 

 天井の穴から、時覇が出てくる。

 そして、着地。

 

「ごふぁ!?」

 

 それから、その背中にリインのヒップアタックが炸裂する。

 昔の宇宙刑事シリーズのどれかに、ヒロインが敵の顔面にヒップアタックをするシーンがある。

 が、敵の顔が少々凹むという威力。

 エロスでなるのか、威力でなるのかは、詳しくかつ真剣に検討しないと判らないかも。

 で、変な四つん這いの体制で、リインを乗せている時覇。

 ついでに、ギンガはリインに抱かれている。

 つまり、リインの体重+ギンガの体重+重力の法則などが適用されているので、軽く100キロは超えている。

 それで、無言のまま時覇の背中から降りるリイン。

 抱っこされたギンガは、オロオロ。

 

「いっ、きま~す」

 

 調子に乗ったゴスペルも、弁上する形で時覇の背中目掛けてヒップアタック。

 だが、女性ならともかく男性は願い下げ。

 問答模様で横にローリング。

 つまり――床に直撃。

 全治5日のゴスペルの体には――それ以前に、ケガ人なので相当のダメージにより、その場で悶える。

 時折、鉄越しに頭やら体をぶつけ、さらに悶えている。

 時覇はその様子を見つつ、背中を擦りながらリインに言う。

 

「いつつ……いきなり何をするのだ? 痛いのですけど」

「もう少し静かに、です」

「……すいませんでした」

 

 最もなお言葉なので謝罪。

 そして、背中を擦りつつ辺りを見回す。

 薄暗く、人の気配すら感じられない。

 それ以前に――埃が舞う量に違和感を覚える。

 すぐに足で軽く床を撫でる。

 埃の積もる量から、1ヵ月以上前から使用されていないことが判った。

 ドアノブといい、埃といい、不安を煽らせる事が多い。

 そして、通路の奥から、何かの金属音が微かに聞こえ、何かが壁と天井と床を使って通過していく感じがあった。

 が、結論がすぐ見えた。

 ハッキリ言って、血の気が引くのを全身で感じ取れた。

 それほど集中できたのだなと、内心感心するがそれ所ではない。

 

「リイン、ゴスペル!」

 

 振り返ることなく、背後にいる2人に声をぶつける。

 

「……れ」

 

 聞き取れなかったので、首を傾げる3人。

 だが、すぐ3人とも顔を青ざめる。

 

「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 振り返りながら叫ぶ時覇。

 彼の後ろ――通路の奥から、天井が崩れだしていた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 4人仲良く全力疾走。

 走る。

 走る。

 走る、走る。

 時折、転がっているダンボールをジャンプ。

 蹴ればいいのだが、もし中身が入っていた場合、とんでもない事になる。

 だから、避けるか走る。

 ただそれだけ。

 そして――お約束の如く、Tの字の分かれ道。

 右へ行くか、左へ行くか。

 人生の別れ道の如し。

 結果――時覇とゴスペルは左へ。リインとギンガは右へ。

 お互い気がついて振り返るが――後の祭り。

 結局はぐれてしまうのであった。

 

「リイン――って、のぅわぁ!?」

「くそぉ、体が!」

 

 床が崩れ、そのまま再び地下へ落ちていく。

 

「時覇様! ――っ」

 

 瓦礫の雑音の中から、時覇の声を拾い上げたリインであったが、声を掛ける間も無く走る。

 今立ち止まれが、抱かかえている少女――ギンガごと瓦礫の下敷きとなる。

 巻き込んだ挙句の果てに、こんな所で死なすなどもってのほか。

 必ず外へ連れ出す事を誓うリインは、今だけギンガの事だけを考えて張り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 瓦礫の破片が、ゴスペルの頭に当たる。

 

「生きているって、ホント素晴らしいな」

 

 頭が下で、足が上の体制になっているゴスペル。

 

「右に――同じ、くぅ!」

 

 目の前の瓦礫を退かしながら答える時覇。

 倒れた瓦礫は、砂煙ではなく水しぶきを上げる。

 

「……水道管もやられたのか?」

 

 その場にしゃがみ込み、水に触れる。

 どうやら、純粋な水だと判った。

 

「地下水か」

「何で……そんな事が判るのだ?」

 

 ゆっくりと体制を立て直しながら、体に響かないように立ち上がるゴスペル。

 

「人工的な水と、天然の水の差って奴だ」

 

 その言葉に首を傾げるゴスペルを見て苦笑する。

 

「よは、天然水か、水道水どちらかって意味だ。使用済みは、また別だが」

 

 補足説明を言いながら立ち上がり、天井を見上げる。

 登れる事は無いのだが、通路が塞がっていたら体力と時間の無駄になる。

 崩壊があった以上、この建物内で長居は無用。

 次の崩壊が起きる前に、外に近づかないといけない。

 

「ん? ――時覇! こっちに通路があるぞ!」

 

 その言葉に、顔を向けると――壁から通路が現れていた。

 どうやら隠し通路の類だろう。

 やはり、この研究所では何かが行われ、何かが起きた時に迅速に逃げられるようにしてあるのだろう。

 その真意を探るにも、崩壊し始めた建物は危険極まりないかつ、今は脱出が最優先。

 リインとも合流しなければならない。

 よって、ここは地元警察か、管理局が調査するだろう。

 出てくるモノは、何もないと思うが。

 この崩壊は、明らかに意図的なモノ。

 出来てから間もない建物が崩壊など、建築法違反にも限度があり過ぎる。

 しかし、何故起動兵器があったのかが気になるが、それは無事脱出してからゴスペルに聞けば良い。

 

「行けるか?」

 

 その言葉に、ゴスペルが見る。

 

「……大丈夫だと思うぞ。こういう奴は、案外丈夫に作るものだからな。ただ使用後は、簡単に崩れやすい構造設計となっているのがセオリーだが」

 

 壁を触りながら述べる。

 手を上げに当てる時覇。

 だが、すぐ答えは出た。

 

「行くぞ」

 

 その言葉に呆れている反面、嬉しそうな顔を浮かべつつ、後頭部を掻く。

 そして、時覇は先行していき、背中を見て――ため息を1つ。

 だが、そのため息は、完全な呆れのモノではなかった。

 少しの間だけ、この男に命を預けて見るか。

 

「了解、とき――いや、隊長さん」

 

 デバイスを抜き、構えながら言った。

 背後くらいは、守らせてもらう為に。

 

 

 

 

 

 一方――リインとギンガは、崩壊から何とか免れた。

 お互い――主にリインだが、肩で息をしながら、ゆっくりと歩いている。

 

「大丈夫、ですか?」

 

 心配の声を掛けるギンガ。

 しかし、リインは大丈夫と言わんばかりに、作り笑顔を向ける。

 そのまま、優しく手を引きながら前進する。

 リインの息は上がっていたが、徐々に普通に戻りつつある。

 それと同時に余裕が生まれ、注意深く周りを見回す。

 床には埃が目立つ――連中の報告が正しければ、1ヵ月と14日前にここは破棄されている。

 あとは先の崩壊――機密保持か、時覇様の暗殺か。

 どちらにしても、まずはここを出ることが先決。

 結論が出て、慎重にかつ素早く進む。

 ギンガの歩幅に合わせつつ、かつ少しばかり急かす様に進む。

 ギンガもギンガで、雰囲気を読み取り、なるべくリインに合わせる。

 そして、通路を少しばかりさ迷っていたら、大広間みたいな場所に出た。

 辺りを見回したが――どうやら玄関口の大広間だと悟る。

 天井は吹き抜けで、シャンデリアみたいなモノがぶら下がっている。

 地面に敷かれた絨毯(じゅうたん)は、埃で白くなりつつあった。

 埃塗れの絨毯を踏みしめながら、大広間の中央辺りまで出る。

 

「あ、出入り口!」

 

 出入り口が見えた。

 喜ぶ2人であったが、ギンガは肝心な事に気がつく。

 今更だが、誰1人とも会っていない。

 崩壊があったのだ。警報の1つや2つ鳴っていても可笑しくは無い。

 だが、それすら鳴っていない。

 

「誰も……いませんね」

 

 ギンガは率直な感想を言うが、リインは事前に情報を得ていたので何とも思わなかったが。

 2人――リインの指示で壁側により、身を隠すような形で壁際から出入り口に進んでいく。

 そして、真正面か出ようと考えるが、あえて却下。

 別の場所はないかと振り返ると、業務員が使う部屋の入り口があった。

 ドアの前まで歩き、ドアノブを回す。

 案の定というべきか、破棄されたにも関わらず、鍵が掛かっていた。

 最後まで職務を、キチンと全うして行った人間がいたのだろう。

 せめて鍵くらい開けておけと、内心愚痴る。

 仕方ないので拳を握り、構える。

 

「打ち砕け――シュヴァルツェ・ヴィルクング!」

 

 魔力の鉄拳が、容赦なくドアノブに打ち込められる。

 だが、勢い余ってドアと周りの壁を粉砕してしまう。

 さすがのギンガも驚くが、同時に凄いと感じる。

 しかし、それを他所にリインは唖然とし、額に汗を垂らす。

 ドアノブだけを吹き飛ばすつもりだったのだが、ドアと周りの壁を吹き飛ばしてしまった。

 これなら、最初から正面の出入り口のほうが早い。

 と、考えるがやってしまった事には変わりなく。

 少し凹みながら、部屋に入る。

 が、異臭があり、素早く鼻と口を押さえる。

 ギンガも両手で押さえる。

 

(これは……精液の臭い? ……下種どもが)

 

 異臭の原因が判り、内心で吐き捨てる。

 ギンガにも悪影響が出ると考え、問答無用で壁にシュヴァルツェ・ヴィルクングを叩き込む。

 だが、壁は浅いクレータを作るだけ。

 どうやら、対魔法防壁材か何かが使われているのかもしれない。

 そんな事など、どうでもいい。

 今はただ、目の前にある壁を打ち貫くだけ。

 それから2発目が放たれる。

 僅かに深くなったが、精々1、2センチ程度。

 3発目を打ち込むが、結果は同じ。

 一刻も早く部屋から出たいが、出られる場所は無い。

 まさに密室。

 そして、誰もが思うが――だったら、正面出入り口から出ればいい。

 しかし、リイン自身がそれを許さない。

 嫌だった――自分が無力だった事が。

 嫌だった――奴隷のように扱われた事が。

 嫌だった――欲望を吐き捨てるための処理道具だった事に。

 嫌だった――喉や鼻、体に纏わり付くような精液の臭いが。

 何より嫌だった――あの男の思惑通りに、事が運ばれていく事が。

 だから抗う。

 それと同時に、あの男の思想を、計画を崩壊させる。

 それが出来る可能性を秘めた存在――桐嶋時覇を守り抜く事。

 あの男は、時覇に何かを求めているが、知ったことではない。

 今は『戒め』が起こらない――いや、発動させることが出来ない。

 詳しい原理は解明できなかったが、一定条件を満たさない限り、発動不可。

 その1つが、男の側に私がいなくてはならない事。

 そう思考しつつ、壁を殴り続けている。

 溜まっていたモノを、全てを吐き出すように。

 

「打ち砕け――シュヴァルツェェェェェェェェェェェェ・ヴィルクングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

 腕の振りと重心軸のシフトし、全体重を前進に。

 かつ自然体で、何も考えずにただ一点を見つけ――魔力の鉄拳を打ち込む。

 

 

 

 

 

 天井から滴る水。

 それが落ちて、水溜りへ。

 水溜りに落ちた時の音が波紋となり、通路全体に響き渡る。

 一応左右の壁の足元の高さ位に、光が放たれている。

 そんな通路を、2人の男が歩いていた。

 

「見事に漏れているな」

 

 天井から落ちた雫を、頭に受けながらゴスペルが呟く。

 その言葉に反応して、壁を触り、軽くノックする。

 

「腐食は始まっている、となると……特定の維持条件が揃わなくなると、崩れるようになっている。そうなる、先の崩壊もこれが原因だな」

 

 これを開発・製造するだけで、どれだけ予算がかかったか想像すると――経理の所がだいぶ荒れると結論図ける。

 実際に、似たようなモノを開発するために、経理部に必要な額に少しだけ上乗せした金額を提示したら――半殺しの目にあった記憶がある。

 それ以来、経理部の人たちの目が、時折痛かった。

 そんな事を思い浮かべるやいなや、半殺しにした相手の顔を思い出す。

 

「ゴスペル、1つ聞いていいか?」

「何だ?」

 

 警戒しつつ、返事を返す。

 

「今の経理部のリーダーは誰だ?」

「経理部…………アラン・ラドラグスァーとかいう野郎だったな」

「……そうか」

「それがどうした?」

「何でも無い」

 

 寂びそうに、時覇は答えた。

 ゴスペルは、その会話で何かを察したのか、何も聞かないことにした。

 

「お、あれは……」

 

 そう言いながら、立ち止まる時覇。

 それに続いてゴスペルも止まりつつ、そのまま奥を見ると――物資搬送用らしきエレベーターがあった。

 顔を見合わせ、互いに頷く。

 そして、そのままエレベーターに乗り込み、パネルを起動させる。

 まだラインが生きていたらしく、起動シークエンスが始まる。

 それから、床が上がる。

 どうやらワイヤーで制御させているのではなく、左右の窪み――凹凸に歯車が噛み合って制御されているらしい。

 不確定なのは、制御が床の下で行われているので、何がどうなっているのか想像するしかない。

 それと、天井――隔壁がどんどん開放されていく。

 こちらは、エレベーターが一定の距離まで行くと、反応する仕組みになっているのだろう。

 最後の隔壁が開閉されると同時に、振動が起こる。

 

「なっ!?」

「ぅおぁ!?」

 

 振動によろける2人。

 同時に安全装置が働いたのか、エレベーターが止まる。

 振動が収まると、2人同時に天井を見る。

 そして、顔を見合わせ、ゴスペルは何か胃痛そうな顔。

 時覇は、諦めろと目を瞑り、首を横に振る。

 それを見て、ため息を吐くゴスペルであるが、仕方がないと腹を括り、横の凹凸を梯子の要領で登り始める。

 同じく時覇も、対にある凹凸を登る。

 で、先にでは地上に出たのは、時覇。

 ゴスペルは、一応3分の2は消化済み。

 それで、地上に出て見たものは――リインとギンガが微笑み合い、指きりをしている姿だった。

 

 

 

 

 

 リインの魔力の鉄拳が――壁を貫く。

 だが、同時にこの一体に小さな振動を生み出した。

 どうやら、魔力を高め、より威力の高い攻撃を行った結果、追加効果あったようだ。

 ともかく、ウップを晴らし、確実に脱出できる穴を作った。

 リインはギンガを見ると、手招きでこちらへ来させる。

 来たら、ギンガを抱えて先に外へ出してから、続いてリインも出る。

 穴からは、精液の異臭が漂うので、ある程度離れる。

 そこで、不意にギンガが声を出す。

 

「あ、あの!」

 

 それに反応し足を止め、しゃがんで向き合うリイン。

 

「どうしたの?」

 

 声が掛かると、押し留まってしまうギンガ。

 しかし、リインは微笑みながら、ギンガの言葉を待った。

 そして、ギンガは恐る恐る口を開ける。

 

「あ、ありがとうございました」

 

 そう言って、その場から1歩下がり、頭を下げる。

 それを見て、何と無くだが頭を撫でる。

 

「無事だったか、リイン」

 

 背後から声が掛かり、慌てて振り返ると、守るべき者が立っていた。

 さらに後方には、正方形の穴が開いており、そこからゴスペルが出てきていた。

 

「ご無事だったのですね」

 

 安心した顔を浮かべつつ、そっと立ち上がる。

 手を離す際、2度ほど柔らかくポン、ポンとする。

 

「何とか、な――それより」

 

 リインはそこの言葉を察して、返事を返す。

 

「はい。魔力は温存しておきたかったのですが――」

「いや、これを使う」

 

 時覇は、リインが転移魔法の使用を宣言する前に、ある物を見せた。

 

「札……ですか?」

 

 そう、札である。

 古来より日本の文化の1つで、魔よけともされているモノ。

 ゲームや漫画になれば、式紙と呼ばれる擬似生命体を生み出す媒体として使われることもある。無論、非生命体も、である。

 さらに、それを使った封印など、多数の使用方法が存在する。

 ただ、これを使用するには『魔力』ではなく、『霊力』もしくは『妖力』が必要とされる。

 これらも、魔力と同じ人の潜在能力の1つであるが、性質がまったく違う。

 霊力は――言わば、普段の生活の中で見えない存在を見る為に、必要な力。

 大雑把に言えば、幽霊を見るためである。

 3歳になる前の育児なら、誰でも保有している可能性があるらしい。

 この世に生まれてから、まだ間も無く、故にあの世にまだ近い存在からだと考えられる。

 しかし、その力が衰えていく原因は――この世の知覚である。

 赤は赤、黄は黄、青は青と曖昧な知覚を無くしていく事が、霊力の低下、および使用不可になる。

 だからと言って、完全に使用不可なった訳ではない。ただ単に見る事ができなくなった、だけの話である。

 次に、妖力は――妖怪と呼ばれる存在の力。もしくは、源とされている。

 妖怪は、人には理解できない奇怪で異常な現象を象徴する超自然的存在。あるいは不可思議な能力を発揮する日本の民間伝承上の非日常的存在のこと。妖(あやかし)または物の怪(もののけ)とも呼ばれる力、もしくは源――それが妖力とされている。

 そして、その力――霊力と妖力を最大限に発させることができるとされるモノが、札である。

 ちなみに、『札』にも種類があり、木でできた細長い板、細長い紙、カードなど。

 今回の札は、細長い紙の物である。

 

「こいつはラギュナスにいた時に作ったモノなのだが……どこに飛ばされるのか変わらないシロモノなのだよ」

 

 つまり、欠陥品である。

 

「いますぐ使えるが……どうする?」

 

 手を顎に当てて考えるリイン。

 時覇の横から手が伸びて、札が持ってかれる。

 それに釣られて横を見ると、いつの間にゴスペルがいた。

 どうやら、札が珍しく、興味心身に眺めている。

 

「どこかに……というと、完全なランダムですか?」

「いや、どんなにランダムでも、人が住めて、かつ生命体がいる世界のどこか」

「なら、使いましょう」

 

 即答で結論付けるリイン。

 

「おいおい、待てよ」

 

 そこに、札を持ったままゴスペルが割り込んでくる。

 

「正気か、お前ら? こんな欠陥品を使うなんて」

 

 札を突きつけながら言う。

 そして、その札をリインが取り返す。

 

「正気です。このままでは、管理局に再拘束されます。しかも、脱獄ですので重罪は免れません。さらに、これ以上足止めを喰えば――」

 

 と、そこで言葉を止め、空を見上げる。

 時覇とゴスペルも釣られて見る。

 そして、ギンガがこう言った。

 

「航空魔導師の方々です!」

「どうしますか、ゴスペル・エンペラー?」

 

 そのまま視線を外さずに、問いかけるリイン。

 時覇も、どうするのだ? という、視線を投げかける。

 その視線に耐えられないのか、何処と無く震えている。

 その震えは、徐々にあからさまに成って行き――爆発する。

 

「わぁった! わぁったから! とっととやってくれ!」

 

 背を向けながら、その場に座り込むゴスペル。

 それを見て、時覇に札を差し出すリイン。

 札を受け取り、詠唱を始める。

 

「アス・フォル・リル・レイ・スェリアス・チョ・リムカ……」

 

 どこかの世界の言語を口ずさみ始める。

 それは、どこか虚ろで。

 

「シューオ・ティウ・アステゥノロヲ・カ・ルゼロ・シュクイア・ノミフォ……」

 

 それは、どこか孤高で。

 

「リンクソ・セリオクサ・セミィイ・ウリャ・リマンデォヴ――始動開始」

 

 これは、どこか気高かった。

 不意にギンガの事を思い出し、顔を向ける時覇。

 

「少女Aよ。転移に巻き込まれるから、離れていろ」

「ですから、それはやめてください! 私の名前はギンガ! ギンガ・ナカジマです!」

 

 顔を真っ赤にしながら、子どもらしく叫ぶギンガ。

 最後の最後まで、犯罪者のような名前扱いは、ごめんである。

 例えが悪いが、死んだ人間でもキチンと名前は出る。

 

「やっと名前を聞いたよ……強くなれよ」

 

 そう言って、微笑む時覇。

 体術か何かをやっているのが判っていたので、何と無く言葉を送る。

 それが、あの出来事を生み出す要因になったのは、まだ先の話である。

 

「巻き込んでしまってごめんなさい、ギンガ。縁があったら、どこかで会いましょう」

 

 リインも微笑みながら言う。

 それは、最初で最後の……。

 

「ギンガだったな……そろそろ発動するから、早く下がれよ」

 

 めんどぅくさそうに言うゴスペルだったが、何と無く声が嬉しそうだった。

 

「嬉しそうですね」

「ガキは嫌いじゃない。ああいう反応は、ガキらしくていい」

 

 リインの問いに、すんなり返すゴスペル。

 ロリコン発言とも取れるが、茶化している暇は無い。

 

「……はい!」

 

 返事を返して走り出す。

 航空魔導師の姿も、米粒から10センチくらいの大きさに見える。

 

≪こちらは、時空管理局航空45隊――≫

 

 声の高さを上げる魔法か、何かを使用しているだろうが、そんな事は聞く耳持たず。

 詠唱完了――ギンガは、安全圏までの離脱を確認。

 銃に例えるのならば、カードリッジを装填し、安全ロックを解除した状態。

 あとは、トリガーを引くいいだけである。

 すなわち――その使用術の名前が、発動キーとなる。

 

「リラグロンガ!!」

 

 リラグロンガ――ある次元世界の言語で『次元の渡り鳥』という意味である。

 一種の転移魔法だと考えれば良い。

 しかし、この言語を保有していた世界はすでに滅んでいる。

 滅んだ世界の名は、『コシュテゥヲラ』。

 世界観は、平安時代がベースで、所々東洋のファンタジーが混じっている。

 その世界が滅んだ原因は、質量保有限界という概念。質量保有限界とは、その世界が保有できる限界指数を指す。

 大陸、山の数、霊の数、妖の数、水の総数量、人の数など、様々な存在に当てはまる。

 しかし、質量保有限界は常に変化し、ゆっくりと少しずつ限界指数を増やしたり、減らしたりしていた。

 だが、ある日事件が起きた。他の次元世界からの進入である。

 これにより、質量保有限界に異常が発生する。今までは中で行われていた存在が、外部からの存在介入により、限界指数へ近くなっていった。

 世界は調律を行った。

 自らを破壊しないために。しかし、結局無駄に終わってしまう。

 中の人間が、外部の存在を受け入れてしまったからである。

 外部から来た存在が、次々とモノ入れていったからである。玩具から兵器まで、ありとあらゆるモノが入っては出て行った。

 この世界は、貿易に適した――言わば、市場みたいな存在であった。

 あとは先ほど言ったとおり、質量保有限界があっさり来て滅びを迎えた。

 それは、世界を開港して――僅か、5年の出来事である。

 

 

 

 

 

 3人は光の柱に包まれ、消えていった。

 ギンガは、それをしっかり見ていた。

 

「そこの君! 大丈夫か!」

 

 その声にギンガが振り返ると、航空魔導師がゆっくりと降下してきていた。

 着地地点に駆け寄り、敬礼をする。

 

「はい! ご迷惑お掛けしました!」

 

 その行動に驚くが、自分たちと同じ職だと悟る。

 

「そうか、名前と階級を」

 

 空間モニターを展開し、地上本部にアクセスする。

 

「ギンガ・ナカジマ、訓練生であります」

「ギンガ・ナカジマ……訓練生――ナカジマ? ゲンヤ・ナカジマ三佐の……」

「はい、父であります」

 

 その言葉に、納得の表情を浮かべる。

 そして、転送で消えていった者たちがいた場所を見る。

 他の航空魔導師が、簡易調査を行い、また数名は建物付近へ行く。

 

「あ、大至急建物に入らないように連絡を」

 

 釣られて見ていたギンガが、慌てて伝える。

 

「建物の倒壊が始まっています。下手に入れば死人が出ます」

「わっ、判った――建物にいる奴ら、大至急退避しろ……ああ、詳しくは――」

 

 と、念話であるが、声を出して伝えている。

 塀ごしから、車のエンジン音などが聞こえてくる。

 どうやら、陸戦魔導師が到着したようである。

 案の定、正門から地上本部の局員の服を着た人たちが、なだれ込んでくる。

 その中に――知っている顔が目に入る。

 

「お父さん!」

 

 そう言って、ゲンヤの元へ駆けて行くギンガだった。

 新暦75に起きる事件に、大きく関わることになる1人。

 シューティングアーツを学ぶは、母への憧れだった。それは、今も名を色あせることは無く。

 ただ、憧れる者が増えただけ。

 そう、ただ増えてだけである。

 

 

 

 

 

 荒れ果てた街を覆うように、生い茂る森。

 そこに時覇、リイン、ゴスペルの3人が転移していた。

 

「だから俺は、正気かと聞いたのだ」

「……ココまでとは、想像できていませんでした」

「……街が近くにあるといいな」

 

 三者三通りの答えかつ、無事に乗り越えた証。

 全員が逆さまの宙吊り状態を除いては。

 しかも、蔓に絡まってのオマケ付き。

 

「ゴスペル、ナイフか何か無いか?」

 

 時覇が訪ねる。

 一応持っているが、

 

「あるが……」

 

 手を腰に回そうと頑張るものの、上手く取り出せずにいた。

 

「――くそぉ、絡まって取れん」

「リイン」

 

 最後の希望の名を上げる。

 

「すいません、魔力が上手く結合できないのです。加えて、少々魔力を使いすぎたみたいです」

 

 それもそのはず、蔓が胸や太ももなどに食い込んでいるからである。

 まさにエロティクであるが、時覇は天を煽った。

 完全な手詰まりである。が、ここか、賭けに出るしか方法は無い。

 蔓に氣を通し、根元辺りに膨張させる様に圧力を加える。

 根元辺りにある蔓は、徐々に膨張し――バン! という音を上げながら破裂した。

 が、予想通り爆発が大きく、他の2人を蔓ごと吹き飛ばす。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 ドッシーン! と、音と砂煙を上げる。

 砂煙は徐々に晴れ、時覇に2つの視線が向けられる。

 

『…………』

「…………ごめんなさい」

 

 とりあえず、謝罪した。

 そして、渋々納得したような顔をして立ち上がる2人と、恐縮しきって立ちがある男。

 

「 あ 」

 

 不意にリインが声を上げたので、視線の先に振り返る。

 そこに、街があった。

 その街を見て、ここはどこの次元世界なのは判った時覇。

 いや、判ってしまったと言うべきが、適切だろうか。

 できれば、ここには来たくなった次元世界の1つ――アリアグライアド。

 もっとも治安の悪い次元世界である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

END

 

 

 

次回予告

 

アリアグライアドへ着いた、時覇たち。

そこで、成り行きで助けた少女の伝で宿に止まる。

が、それはリインを愛玩具にする為の罠だった。

さすがの時覇も本気で怒り――。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第五話:氣孔と魔法

 

 

 

愛玩具だと? ……なら、殺されても文句は言えまい――覚悟しろ、下種ども!





あとがき
 ついに完成! いや、長い間お待たせしました。
 次は、さらにお待たせする事になりますが。
 では、次もお楽しみに。

 霊力と妖力を調べ、自分なりに(過大)解釈により結論づけたモノです。
 実際のモノとは違う可能性があるので、鵜呑みにしないでください。
 で、妖怪の説明文は、こちら(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%96%E6%80%AA)から抜粋させて頂きました。






制作開始:2007/10/4~2007/10/31

打ち込み日:2007/10/31
公開日:2007/10/31

修正日:
変更日:2008/10/25
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