昔を思い出す――無力だった頃を。非力な子どもだった時を。
だが、今は違う。
あんな思いを作らなくて済む力を持っている。
だから、ふざけた野郎は慈悲も与える事もなく、すべてなぎ払う。
「アリアグライアド、か……1番厄介な場所に来たな」
時覇は、手のひらで否定を押さえながら答える。
それに釣られて、ゴスペルもため息を吐く。
しかし、リインだけは、キョトンとしていた。
「あの、何か問題でも?」
『ある』
リインの言葉に、2人は同時に答える。
「あのな、アリアグライアドって言えば……管理世界の中でも、もっとも治安の悪い世界なんだぞ」
アリアグライアド。
ミッドチルダから、さほど遠くない管理世界であるも、現在管理された世界の中で、1位2位を争うほど治安が悪いとされている。
しかし、時空管理局はこの世界に介入することは無かった。
理由は様々ではあるものの、主なのが他次元世界に干渉及び介入していない事である。
犯罪が起きるとしても、全てアリアグライアド内で行われている。
他次元世界で行う事が出来るにも関わらずに、である。
一応、この世界にもルールは存在するも、97管理外世界地球と法律を照らし合わせるも、呆れて言葉が無いほど酷い内容である。
簡単に言えば、このアリアグライアド以外の世界には不干渉。それさえ守れば、このアリアグライアド内でなら、何でもしても良い。
たったそれだけである。
さすがに奴隷制度は無いものの、犯罪のオンパレード。
力ある者がまかり通り、力なき者は泣き寝入りするしかない。
そんな世界である。
「…………」
その説明に、さすがのリインも絶句した。
「ともかく、リインは本気で気をつけろよ。確実に狙われるから」
時覇の言葉に、ゴスペルがうんうんと頷く。
しかし、首を傾げるリイン。
そして、一言。
「何故、私なのですか?」
2人は地面に倒れ込んだ。
しかも、盛大に砂煙を上げながら。
(自覚して欲しい)
と、念話でぼやく時覇。
(それは酷だろ)
などと、ゴスペルは返した。
第五話:氣孔と魔法
街を目指して、森の中をひたすら歩き続ける3人。
時に、足を取られて倒れる時覇。
時に、足を滑られて、リインと時覇を巻き込んでの大転倒。
時に、リインが枝にスカートを引っ掛けて、破いてしまうなどのアクシデントが続いていた。
段々と疲労が浮き出てきた証拠なのか、普段ならあり得ないことばかりである。
平らな道はあるものの、見晴らしが良く、この世界では襲ってくださいと言っているようなモノ。
体調が完璧ならば、堂々と通って良いのだが、今の状況では負けるのは必然に近い。
仕方無しに、道無き道を進んでいるのである。
それから、一吹きの風。
「――ゴスペル!!」
時覇は、森の奥へ飛び出す。
「時覇様!?」
時覇とゴスペルの行動に、困惑するリイン。
そんな事を気にする事も無く、奥へ進んでいく。
先には、少し空けた場所があり、数人の男が、ボロボロの服を纏った女の子を取り押さえていた。
「――誰――ごふぁ!?」
出るや否や、問答無用で飛び蹴りを咬まして、後方に吹き飛ばす。
他の男共も、声を上げる間も無く、殴り、蹴り飛ばされる。
その時間――僅か10秒。
あり得ない速さで、強姦を行おうとしていた、体格の良い男共を蹴散らした。
「大丈夫か?」
ある程度、距離を離し、しゃがんで目線を合わせる。
ボロボロの服を纏った、10歳くらいの女の子は、体を震わせ涙目を浮かべながら、首を縦に振った。
「名前は?」
普通にかつ、なるべく優しい声で問いかける時覇。
女の子は黙ったままだったが、少し経ってからポツリと呟くように言った。
「……あ、アリサ……アリサ・ローウェン……」
「アリサ・ローウェンか……っと、とにかく、これを羽織れ」
と、未完成かつ試作段階の空間倉庫から、一回り大き目の薄い毛布を取り出す。
アリサの体に合うように、大きさを畳んで調節し、体に巻きつけてあげる。
それから、念話で状況を説明し、こちらに来てもらうことにした。
連れて戻ろうと思ったが、先ほど強姦されそうになったばかりで、見知らぬ男と2人きりは、さすがに酷と言えよう。
ついでに、なるべくアリサの視界に入らないようにかつ、彼女が見える茂みへ行き、ボロボロの患者服から私服へ着替える。
これも、空間倉庫から取り出したものであるが、少しきつかった。
かれこれ1年前のサイズの服だから、当たり前と言えば、当たり前である。
「来たぜ」
「どうなされましたか?」
と、草むらを掻き分けながら、2人が到着した。
「はぁ!? まさか、ろ――」
「今すぐ死ぬか?」
ゴスペルの発言に、素早く首筋に氣を纏った手刀を突きつける。
これならば、相手の首をナイフの如く、裂くことが出来る。
「スイマセンデシタ」
片言に謝罪するゴスペル。
それを見て呆れるリインだったが、アリサに歩み寄る。
「立てる?」
優しく声を掛ける。
「…………うん」
その言葉に微笑を浮かべながら、アリサの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「家はどこ?」
「無い」
即答された言葉に、リインは固まった。
残り2人――時覇は、納得しつつも困惑した顔を浮かべに、ゴスペルは怒りのオーラが吹き出ている。
こんな事になる子どもは、この世界では普通である。
むしろ、家がある子どもは、この世界の支配者格の人間たちの子どもくらいである。
稀にある家庭もあるが、最終的には手放すのがパターン化されている。
自分たちが生きるには、他者を確実に蹴り落としていかなければ、生き残れない世界。
力ある者が生き、弱き者は死しかなく。
弱き者が生きるには、それより弱い者――女、子ども、ケガ人や病人がターゲットになる。
女は愛玩具として生きるか体を売るか、子ども――男の子は労働力へ。ケガ人や病人は町外れか、廃墟などで野たれ死ぬ。
ある意味、たちの悪い版ともいえる自然の摂理が成り立っているのである。
が、その状況が打破される事無く、今まで続いてきたのも、また歴史であり伝統でもある。
美しき。でなく、悪しきであるが。
「……ゴスペル」
「何だ?」
時覇の問いに、ドスの聞いた声で返すゴスペル。
「この一件のケリがついたら――」
「断る」
即答で切り捨てる。
「お前が養え。俺は、一人身がいい」
「悪かった」
そこで会話は終わるも、それを不思議そうに眺めていたリインとアリサは、首を傾げた。
その後、薬草などを見つけ、ケガの治療を行い、簡単な休息をする。
そして、戻りたくないと言うアリサを説得し、今1つ納得いかない表情を浮かべながら、街へ移動した。
そこで早速歓迎を受ける事になった。
『うらぁあああああああ!!』
街に入った瞬間、息が合ったチンピラが4人ほど、ほぼ同時に襲い掛かってきたのである。
しかも、街の中と外から2人ずつ、挟み撃ちの状態で。
「ゴスペル」
「後ろヨロ」
それだけ言って、前に走り出すゴスペル。
「じゃあ、後ろを片付けます――かぁ!!」
そう言いながら、時覇はバックステップを踏み――回し蹴りで、1人蹴り飛ばす。
「がぁはっ!?」
頬に貰い、横に2回転ほどして、地面に転がる。
そして、そのままステップを踏み、もう1人の顎を蹴り上げる。
蹴り上げた足を素早く戻して、続いて腹に蹴りの一撃。
チンピラは後方に吹き飛び、後ろに何回転し、大の字になって地面に沈む。
ゴスペルも、ある程度魔力も回復し、動けるようになっているも、本格的な戦闘は駄目である。
が、その辺の雑魚のチンピラ程度の相手なら、多少は問題ない。
時覇は振り向くと、拳をバッと払っている姿が目に入る。
血みたいなものが、振り払う拳から吹き飛ぶが、よく見ると容器みたいなモノが握られている。
カッコつけに見えなくないが、遠巻きで見ている奴らには、丁度良い脅しとなる。
そして、僅かに震えるアリサの頭に手を置き、優しく撫でてやる。
「ゴスペル、ちょい来て」
と、言いながら、手招きする。
そして、リインとアリサから少しだけ離れて、ゴスペルの耳元で囁く。
「周りの雑魚はともかく、アリサが怯えてるから」
その言葉に、アリサを見る。
すると、体をビクつかせ、リインのスカートを握り締め、後ろに隠れる。
「フォロー頼む」
「判ってる」
ゴスペルは、アリサから少し下がって距離を取る。
時覇は、リインとアリサの元へ。
さすがに、男1人は近くにいないと拙い。
「で、宿はどこら辺だ?」
おでこ辺りに手を当て、ワザとらしく周囲を見渡す。
「…………あそこ」
と、僅かに怯えつつも呆れ果てた顔で、左斜め前の建物に指を指すアリサ。
その柱に、ベッドのマークが描かれた看板が出ている。
「どこのRPGだよ」
在り来り過ぎる看板に突っ込みを入れつつ、4人は店の中に入っていく。
中は酒場となっており、案の定、柄の悪い連中が屯っている。
階段が見えるので、2階が寝床と判断する。
時覇は気にせず、カウンターにいる親父に声を掛ける。
「寝泊りできるか?」
「――珍しいな……何人だ?」
少し驚いた声で答える親父。
どうやら、宿としての機能は殆どしていなかったのだろうと考える。
「4人だよ」
と、親指で後ろにいる、3人を示す。
「別嬪と未来があるガキだな。売りモ――」
「それ以上言うな。首を跳ねるぞ?」
親父の言葉を静止させるために、氣を纏わせた手刀を首に当てる。
「わ、悪かった。あとは――」
「1泊だけでいい。代金は?」
そう言いつつ、手刀を首から離す。
「通貨は?」
首を撫でながら、言う親父。
「これだが」
入る前に、リインから受け取ったミッドチルダの通貨を見せる。
「それだと、2000だ」
「嘘だろ!?」
ちなみに、ミッドチルダの通貨は、リアルにあるアメリカの通貨と同じような原理と考えた方が早い。
つまり、日本円で100円は、アメリカで言う1ドルと考えられる。
そして、親父が提示した2000に100をかければ、20万という額となる。
その市場は、高級ホテル1人1泊の金額辺りになる。
よってこの額は、あからさまなボッタクリである。
「いくらなんでも高すぎるだろ!?」
「ミッドの通貨は、この世界じゃ偽造がそれなりに出来るからな。仕方が無いのさ」
「ぬぁあぁ~……――!!」
時覇は後頭部を掻くも、自分の国のお金を思い出し、懐から財布を取り出して紙幣を見せる。
「こいつはどうだ? 管理外世界の紙幣だ。5000までなら出せる」
数字だけ言って、単位は言わない。
ココが味噌である。
上手くいけば、5000『円』で済むのだから。
『万円』ではなく、『円』で。
親父の喉から音が聞こえる。
「いいだろう、5000で」
掛かった。
最近のネット(2008年3月現在)で言う、いわゆる釣られクマという奴なのだろう。
「はい、5000『円』」
親父の目の前に、1000円札が扇状に5枚並ぶ。
親父が口元を引き攣らせるが、時覇は涼しい顔で述べる。
「確かに5000と入ったが、5000『万』と言っていないぞ」
親父が無言で手を振る。
すると、柄の悪い連中が、席やら床から立ち上がり、時覇とゴスペルたちに向かう。
「親父」
「何だ、糞ガキ? 今更命乞いか?」
「いや、こいつら全員締めたら、宿代タダな」
その言葉に、柄の悪い連中から、殺気が湧き上がる。
「ふん、やれるものなら――」
次々とデバイスやら、刃物やらを取り出す連中。
時覇は拳に氣を再び纏わせ、ゴスペルは簡易デバイスを展開させる。
「やってみやがれ!!」
それを合図に、柄の悪い連中が襲い掛かるも、時覇とゴスペルは、それに突っ込んで行く。
「氣神――」
時覇は両拳を脇に持っていく。
「バーストモード――」
その言葉に、デバイスが変形する。
「双龍・激!!」
「ドライブ!!」
宿の酒場から、2つの光が迸り――同時に、爆音が鳴り響いた。
後に、宿の親父は、キチンとした料金を設定した事を付け加えておく。
「いやはや、申し訳ありませんでした。お詫びに、宿を全てお貸しします」
親父は、口元を引き攣らせ、手をすり合わせながら言う。
それもその筈――屯っていた柄の悪い連中は、外で体から煙を上げながら気絶している。
その光景は、さすがのリインとアリサも唖然として見る。
外にいる雑魚も、時覇とゴスペル、リインにアリサの4人には、絶対に手を出さないと決まった。
力の差が歴然と判る光景なのだから。
「ああ、判った――じゃ、上に行くか」
その言葉に、リインとアリサはただ頷くしかなかった。
で、各自の部屋に分かれる。
一応、男と一緒に寝たほうが、安全面では良いと思うが、アリサの手前があるので三部屋に分かれる事となる。
防犯の都合により、リインとアリサが真ん中の部屋、その左右に時覇とゴスペル。
ちなみに右が時覇、左がゴスペルとなっている。右側が階段、左が窓側なので。
階段からの進入は空を飛べない連中と踏んでいいが、飛ばない可能性もあるも、室内で決着をつければいい。
窓からだと空を飛ぶので、射撃がメインのゴスペルの方が良いと考えた為である。
手っ取り早く言えば、打ち落としが確実に出来る事になるからである。
「調子はどうだ?」
時覇は、カードをシャッフルしながら尋ねる。そして、右手前に置く。
「ぼちぼちだ。寝れば、7、8割回復するはずだ」
ゴスペルもまた、シャッフルして右手前に置いた山札を、上から5枚取る。
そして、互いに宣言する。
『デュエ――』
その瞬間、扉が開け放たれる。
「いい加減に寝ろ!!」
アリサからの一言。
ちなみに今は、深夜0時を回った所。
時覇とゴスペルなら、アリサの言葉を一刀両断できるが、言えない。
小さい鬼は怖くは無いが、後方にいる美しき鬼が怖かった。
『はい』
どうやら、掛け声が五月蝿かったらしい。
覇気に怯えながら、2人は仕方なく部屋に戻った。
で、就寝。
外は満月が淡く光るも、街は不気味なほど静かと為る。
風に吹かれ、少し錆びた缶が、音を奏でながら転がる。
だが、その音は……余りにも聞こえ過ぎる。
魔力反応。
それに感づいて、部屋を飛び出す時覇。
少しだけ遅れて、デバイスを手にしたゴスペルが出てくる。
時覇は、ドアノブに手を掛けるが動かない。
ガチャガチャと鳴るが、開けることが出来ない。
そして、肩に氣を纏わせ、ショルダーアタックを繰り出すが――扉に弾かれる。
何度も繰り替えるが、結果は同じ。
「どけ!!」
その言葉に時覇は退くと同時に、扉に魔力弾が叩き込まれる。
が、打ち抜かれる事無く、相殺されてしまう。
「ゴスペル、外から頼む!」
「判った!」
すぐさまゴスペルは階段を駆け下りる。
時覇も、降りて行くのを少しだけ見て、扉に向かってショルダーアタックをする。
「静か過ぎるな……」
そう呟きながら、テーブルに置かれ、月明かりに照らされたデバイスを眺める。
10年前に貰った、デバイスのAI。
貰った当初は、壊れているのではないかと言うくらい、何も喋らなかった。
AI自体は完成し、デバイスに組み込まなくても、そのまま会話することができる。
が、何も喋らなかったので、倉庫の奥に放置。
それから2年後――裏社会にいた。
夢だった管理局員となり、仕事をこなしていたが、ある事件の失敗を全てゴスペルに背負わせ、管理局を辞めさせられた。
特別なミスをした訳でも、仲間内の評判が悪かった訳でもない。
ただ、上司に疎まれていた。昇進の早さと人望に。
所属していた部隊の上司は、出世命だった。
ある日の任務、その上司に出世チャンスが恵んできた。
任務内容は、ある有力者の護衛。成功すれば、間違えなく昇進だった。
だが、その昇進は、ゴスペルの手に渡ってしまう。
そして、上司には、無能という烙印が押された。
その上司の出世チャンスは、ほぼ来ないと言って良かった。
そして、2年後の管理局を追われることとなる運命の日――ゴスペル以外の武装局員が死亡。
原因は明らかな、上司の判断ミス。
しかし、その現場を知っているのは、上司とゴスペルのみ。
上司はすぐさま、上層部に偽装した報告書やデータを提出。その時、ゴスペルが入れば、状況が変わっていたのだろう。
だが、ゴスペルのデバイスが壊されていた為、無罪を主張する証拠が無い。
よって、上層部はこれまでの功績を差し控え、ゴスペルを解雇処分に留めた。
裏を返せば、功績が無ければ犯罪者扱いとなり、留置所へ送られていた事を意味する。
それからゴスペルは、金と大切な品以外のモノを全て引き払い、裏社会へ転がり込んだ。
その際、新たにデバイスを購入しようと考えたが、オーダーメイドの良いかと思い、思い切って今のデバイス――銃型デバイスにした。
ちなみに、銃型デバイス――ストライククラッシャーは、前回の戦いでお釈迦となっている。
それから1年後に、組織ラギュナスに入る。
管理局員だった時にも噂はあった。色んな噂が。そして、裏社会でも。
ただ、噂の内容が180度違っていた、と、言うよりも……斜め上を行った。
何らかの技能が特化していなければ入れない組織。ただし、トイレ掃除や修繕作業に特化した特技でも入れる――オタク知識でも入れるほど。
ここ最近は動きが無かったが、パン屋を始めたらしい。首都クラナガンのど真ん中に。
など、訳の判らん噂が飛び交っていたが、いくつか本当だったことが判明。
よくよく思えば、ラギュナスの経営店舗を使っていたことを思い出す。
ともかく、銃型デバイスを使っていると言うことで、スカウトされた。
一度、本当にミスをして、仲間を大怪我させた事があるが、特にお咎めは無かった。
逆に、大怪我された仲間からは、色々要求はされたが。
色んな出来事があったが、管理局員の時よりも、充実した日々だった。
ただ、告白して振られ、ラギュナスから離れる際、5年前に貰ったAIを使った仕込みデバイスを受け取った。
奥歯に紛れ込ませ、緊急時に使用しろと――いわゆる、餞別である。
それから、仕込みデバイスを使うほどの緊急に見舞われる事無く、時は過ぎていった。
そして、半年前――再びラギュナスへ戻る事になった。
<きっと良いことがあるさ>
不意にデバイスから声が上がる。
「だったら、話し相手になってくれ」
沈黙。
「ったく、都合のいい時にしか、喋らないんだよな……お前」
左足を懐に縦に引き寄せ、座っている椅子の上に置く。
そして、その左足の膝に顔を乗せる。
魔力。
「!?」
ゴスペルは、咄嗟にデバイスを掴み、部屋を出る。
そこには、時覇の全体像が写る――あちらの方が、一足早かったようだ。
時覇が、ドアノブに手を掛けも、ガチャガチャとしか鳴らず、開けることが出来ないらしい。
そして、ショルダーアタックを繰り出すが――扉に弾かれる。
何度も繰り替えるが、結果は同じ。
「どけ!!」
その言葉に時覇は退くと同時に、無造作に構えて扉に魔力弾を放つ。
が、打ち抜かれる事無く、相殺されてしまった。
「ゴスペル、外から頼む!」
その言葉の一瞬で理解したゴスペル。
「判った!」
すぐさま階段を駆け下りる。
そして、暗い店内を駆け向け――途中でぶつかった椅子やテーブルは吹き飛ばして――出入り口の扉を蹴破り、外に出る。
上を見上げると、リインとアリサを抱えた魔導師が1人に、それをサポートする魔導師が5人。
計6人だが、やる事は変わり無い。
「ブラストシュート!!」
<ロックオン――ブラストシュート>
ゴスペルのハンドガン型デバイスの銃口から、直径30センチの魔力砲撃が放たれる。
だが、一呼吸置いてからの発射だった為、全員が気づいて回避した。
ただし、1人ほど左腕に直撃して、使い物になら無くなった。回復魔法を掛ければ直るも、神経にもダメージが行く様にしたので、外が直っても内が直らなければ使い物にならない。
「がぁ――!?」
「ちっ――そいつらを!!」
右腕をやられた魔導師を、他の魔導師が支え、リインとアリサを抱えた魔導師に指示を出す。
「…………」
2人を抱えている魔導師は軽く肯き、どこかへ飛び去ろうとする。
それを止めようとデバイスを向けるが、残りの3人の攻撃が飛び、バックステップして回避する。
が、リインとアリサのいた部屋の窓から、扉が飛び出して、偶々いた支え合う魔導師たちに直撃。
そうやら、インテリジェントタイプではなく、ストレージタイプだったので、防御が間に合わなかったのだろう。
ただし、インテリジェントタイプになれば、話はまた変わっていただろうが。ともかく、2名撃破する。
それと同時に、壊れた窓から時覇が飛び出してきた。
「氣神・餓鬼来王(きしん・がきらいおう)!!」
時覇の背後から、ごつい顔と体をした男が現れ、2人を抱えた魔導師に襲い掛かる。
しかし、2人を抱えた魔導師は、慌てる事無く呟く。
「――ゴールド・シェルド」
<スパイラス・シールド>
主の問いに答えるデバイス。
ごつい顔と体をした男――餓鬼来王はそのまま殴り掛かるも、金色の螺旋の盾に阻まれる。
中心に吸い込まれるように巻かれた渦の盾。そのまま、腕は渦に巻き込まれ、吸い込まれるように消滅した。
「ちっ――だが……」
時覇は、そのまま盾に向かって行く。
体勢は受け身や回避ではなく――迎撃。
「2人は置いて行け!!」
しかし、渦は中心から吐き出されるように、逆回転を始める。
時覇は、それを気にも留める事無く、拳を打ち込む。
結果、渦に絡まれ――弾き飛ばされる。
が、追撃と言わんばかりに、無傷だった残り2人の魔導師が、砲撃魔法を放ってくる。
それを、上手く体を捻らせて、僅かに服に掠りつつも、ギリギリのラインで回避を行う。
そして――アクロバティクな動きを決めながら、他の屋根の上に着地する。ただ、着地の際、屋根に足の軌跡を抉ってしまったが。
ともかく、すぐに上を向き、空で静止する3人の魔導師を睨む。
ゴスペルも、デバイスを構えながら、狙いを定める。
「この2人についてだが……」
不意に、2人を抱えた魔導師が声を出す。
「諦めろ」
「理由を言え!!」
ゴスペルが、強い口調で言い放つ。
むしろ、少しでも動けば打つという、明確な気迫が感じ取れる。
時覇も、抉れた部分に埋まっている足を引き抜きつつも、3人に警戒を強める。
「雇い主が欲しがっているからだ」
「雇い主、だと?」
2人を抱えた魔導師の言葉に、仲間の2人が驚き、念話で何か話し合っている。
だが、そんな事は気にせずに、ゴスペルの問いを答える。
「ああ……美しいから、連れて来い――何時もの事さ」
そう言いながら、2人を抱えた魔導師は、仲間の2人にそれぞれ1人ずつ渡す。
「愛玩具になるから、命の保障はされ――」
その言葉に、空気が凍りついた。
時覇も、動きを止めたままの状態から、なるべく動かないようにする。
自分は敵ではない、と主張するように。
「……今」
静寂を通り越し、静止した世界に声が隅々まで響く様な感覚に襲われる。
風すら吹かぬ世界。
「今、何か言ったか?」
さながら、抜刀する様な雰囲気を話しながら、ゴスペルが言う。
リインとアリサを抱える魔導師2人は、現状を維持しつつ、呼吸を行うのがやっとの状態。
「もう一度だけだぞ……愛玩具にな――」
砲撃音。
それを裂き弾く音。
下を見れば、ゴスペルがデバイスを上に向けている。
上を見れば、円錐型のシールドを張る魔導師。
「愛玩具だと?」
ゴスペルの握るデバイスのグリップの音が、ギュっと鳴る。
「……なら、殺されても文句は言えまい」
ゆっくり顔を上げるゴスペル。
「――覚悟しろ、下種ども」
ゴスペルの脳裏に、フラッシュバックが起きる。
非力な子どもの時
押さえつけられ、――されるのを目の当たりにした時。
結果、どこかへ連れて行かれ、自分だけが訳の判らない場所に置いていかれた時。
それと入れ替わるように、一緒に置いてかれた――の姿。
愛玩具――所詮、欲望に駆られた男たちが、作り出した言葉であり、現実でもある。
「お前ら」
その言葉に、リインとアリサを抱える魔導師2人は、体を硬直させる。
しかし、それを気にすることも無く、言葉を続ける。
「先に戻っていろ。邪魔だ」
その言葉に数秒後、思考が動き出し、焦りながら背を向けて飛び立つ。
時覇は、すぐさま後を追うも、魔力で構成された無数の刃に阻まれる。
が、両手に氣を纏い、最小の数だけ叩き落とし、間をすり抜ける。
そして、屋根の上を飛び跳ねながら、そのまま後を追う。
だが、その場に残っていた最後の魔導師が、時覇の背後に目掛けて――放たれる。
が、それは届くことは無かった。
魔力で構築された刃――先ほど時覇の進路妨害となったモノと同じ――が、時覇の背中に迫ると思いきや、一発の砲撃で全て打ち消される。
「お前の相手は――」
その言葉に、下を向く魔導師。
その眼下には、顔を上げ、目を合わせる様に見ている。
「この、俺だ」
静止した世界に響くも、その声は怒りや憎しみが僅かに含まれるも、真っ直ぐかつ、堂々とした声である。
その言葉に同意するように、待機状態を保ったデバイスを、ポケットから取り出す。
形は、正方形のプレートの中心に穴が空いている様なモノ。
例えるなら、手裏剣に近いモノなのかもしれない。
「名は?」
「ゴスペル、ゴスペル・エンペラー」
そう答えつつ、デバイスのカードリッジを装填する。
「ガナ・リオ……ガナが家名で、リオが名だ」
デバイスが展開され――大きな手裏剣が出現し、右腕に篭手が構成される。
大きな手裏剣は、正方形が4枚あり、それを支えるのに交差した2本の先端に取り付いて、その中心に輪がある。
右腕の篭手の甲の部分に、コアが取り付けられている。
どうやら、大きな手裏剣と篭手がセットになっているデバイスの様だ。
「忍び、って奴か?」
「……知っているのか?」
ゴスペルの言葉に、リオは少し驚いた様に答える。
「ああ、齧った程度なら、な……」
右腕はデバイスを構え、左腕は腰に回す。
「銃王・ゴスペル!!」
緩み始めた世界の空気を、今一度引き締め直す。
「鉄之忍(くろがねのしのび)・リオ――参る」
再び静止した世界に、銃撃音と、鋼の音が鳴り響く。
「……始まったか――とぉ!?」
咄嗟に右足を無造作に上げると、先ほどまで右足があった場所に、魔力で構築された無数の針が突き刺さる。
続いて、魔力の弾丸が体目掛けて飛んでくる。
それを察し、上半身を回して回避する。
そして、そのまま地面に降りる。
屋根の上の移動は発見されやすく、的になりやすいので、建物の間を通る事を選んだ。
街通りなら、建物が盾となり、目視できなくなる利点を兼ねている。が、逆に空への視界を遮り、移動速度を大幅に削られる不利な点が上げられるのだが。
「魔力の後を追っているが……くそ、直進できないのが痛い」
目的地まで一直線に進みたいが、それをするには建物を飛び越えていかなければならない。
同時に、自分の位置を教える事になるので、それは避けなければならない。
だが、今ゴスペルが相手にしている魔導師の言葉通りなら、目的の場所は簡単に判る。
この街を治める領主の館。
質と見栄えの良い女は、全て領主の館に集められているだろう。
「少しの間だけ待っていろよ、何かされる前に助け出すからな」
そう呟きながら、気配を消しながら静寂した街を駆け抜ける。
何かに出逢う者たちの物語・外伝
第二部
魔法少女リリカルなのはTTFS
~二つの軌跡と確定した未来~
第五話:氣孔と魔法
END
次回予告
連れ去らわれたリインとアリサ。
それを追う時覇。
激突するは――銃王と鉄之忍。
理不尽がまかり通る世界での戦いが吹き荒れる。
次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝
魔法少女リリカルなのはTTFS
~二つの軌跡と確定した未来~
第六話:激突と潜入
闇に抱かれ、血の大地に沈むがいい――闇の公演界。
あとがき
やっと、第六話が完成~。
未公開のSSも書いていたので、進行率が遅いです。
召喚少女のプレイ&自動車学校&就職活動を行っている所です。
遅い更新率ですが、必ず完結させます。
ホームページが閉鎖しても、コミケに出してでも完結させますので。
あとは、当分の間、使い捨てキャラが続出する可能性が高いので、出したいオリキャラの投稿を募集しようかなと思っています。
ただし、発案権はともかく、所有権などの法的な権利は、残念ながらこちらが全て頂くことが前提になりますが。(汗
でないと、あとで色々問題が発生したら、対処が面倒なのが主な理由です。(号汗
ではでは。
制作開始:2008/1/31~2008/3/14
打ち込み日:2008/3/14
公開日:2008/3/14
修正日:
変更日:2008/10/25