されど、運命の悪戯は残酷な現実を見せ付ける
しかし、今はその時ではなく
ただ、『安らぎ』という名の嵐の前の静けさ
未観測時空世界・ラーグンドライと呼ばれていた世界は、豊かで広大な自然と廃墟と化した都市が広がる世界だった。
生きた存在といえば、動物や虫、魚などのくらいしかいない。
人間は、既に滅んだ世界。
この世界の人間は、全てデータで構成された存在だった。
都市や街などの中心に存在する巨大データバンクによって管理を受ける。
よは、電子人間と言うべき存在だった。
だが、子を産む。個人個人のデータ量。老化データの削除など、莫大な量に膨れ上がり、世界に点在してあるデータバンクの容量を超え、崩壊が始まった。
人々は混乱した。
だが、その混乱の中で、ある事を思いついた人間が現れ始めた。
『データの量が多いのなら、他を消して少なくすれば良い』
その結果、電子人間の削除――殺し合いが勃発。
これにより、さらにデータ量が増え、たった一ヶ月で滅びを迎えた。
時空管理局の目に留まることは無く。
そんな世界のとある都市で、爆発音と煙が上がる。
砲撃音。
着弾――爆発音。
崩れ行く建物の音。
そして――
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一筋の閃光に、
「マギリング・ノヴァ!」
大量に飛び出る、小さな閃光群。
今現在この世界は、ラギュナスの訓練場所として活用されている。
この都市全体を包囲するように展開された、実戦用自立稼動兵器たち。
そして、そのターゲットは、二人の戦士。
片や魔法歴二ヶ月ちょっとの男。
片やベルカの騎士にしてヴォスケンリッターの将、シグナム。
二人は無意識ながら、互いに背を預けていた。
別に好敵手だからではなく。
愛し合っている訳でもない。
ただ、信じられるから預けている。
それだけの話。
そこで、どこかで崩れる音が鳴り響く。
それが合図となり、実戦用自立稼動兵器たちが再度進行を始める。
二人もアイコンタクトでうなずき合い、二手に分かれた。
そんな二人の様子を見ている者がいた。
正確には、実戦用自立稼動兵器たちの設定と管理、二人のデータを記録しているのだが。
「よっ、順調にやっているか?」
と、ロングイが手を軽く上げながら、部屋に入ってきた。
「順調ですよ」
振り返る事無く、しかし、どこか嬉しそうな声で答えるレニアスレルナス。
その目線は、目の前のモニターの映像に釘付けとなっていた。
「ふう~ん……相方は、大分さまになってきたな」
椅子の背もたれに手を掛けながら言う。
モニター内では、二人の身体データと戦場を映し出している最中である。
「さすがは、ヴォルケンリッターの将・シグナムって所だな」
ちょうどシグナムが、先行試作型対魔導士迎撃用重装甲型・ヘビーブラスターの胴体辺りを叩き斬った所。
「で、もう一人は」
シグナムが映し出されたモニターとは別に、男が映ったモニターに二人の視線は移動した。
中距離砲撃用量産型・ガーマンの口から、砲撃が放たれる。
男はそれに反応し、左に飛ぶ。
次の瞬間――男が居た所が吹き飛ぶ。
現在いる場所は、ある廃墟ビルの15階。
シグナムと二手に別れて、個々に撃破していく作戦を取っている最中である。
男は囮兼かく乱を担当し、シグナムが一体一体確実に撃破。
しかし、情報と予想より数が多く、この作戦は失敗だと舌打ちをする。
「上手く発動してくれよ――展開!」
足元に魔方陣が展開される。
だが、その魔方陣は、ミッド式でもベルカ式でもなかった。
大きな円の中に正方形がピッタリはまっている。
そして、その正方形の角に小さな円が展開される。
次にその小さな円の中にも正方形と、文字が展開される。
各文字もまた、ミッド式でもベルカ式でもなく、大きな円の線に反って書かれている文字も同じである。
サイラ式――先代のラギュナスの長が生み出した、完全オリジナルの魔法式。
一度も表舞台に出ることも無く、風化していった式。
風化した原因は、汎用性に大いに欠け、攻撃、防御、素早さのどれかに重点を置くことに特化した魔法式。
ミッド式及びベルカ式以上に複雑な式で構成されている事。
など、様々な理由が上げられる。
だが、もっとも主な理由は――完全に扱える者がいなかった。という点にあった。
全時空世界――現在まで確認されている時空世――を見回しても、珍しく習得難易度が高い魔法の部類に入る。
しかし、それを扱う男――桐嶋時覇は、完全にとまでは行かないが、
「発動! グランド――」
右手を天に突き上げ、拳を握り、それを地面に叩きつける。
「――アッパー!」
ガーマンの下から岩の柱が突き出し、胴体に直撃して爆発。
その音を聞いて、時覇は体を起こす。
「 ! 」
殺気を感じ取り、素早く飛び跳ねる。
先ほどまで立っていた場所の地面から、ドリルが飛びてくる。
ミッドチルダの重工業社が土木作業用に開発した物を再設計、開発して生み出した戦闘兵器。
スラドリラドグーン――通称スドラと呼ばれている。
主な運搬は戦闘ではなく、地中に眠る資源の採掘と時空管理局・地上部隊のかく乱。
最大の武器は、ドリルをフル回転させて電撃を生み、ビームとして放つ事である。
そして、ドリルの回転力によっては、魔法を掻き消す事も可能となっている。が、大抵はそこまで出力は上がらず、落とされるのが現状である。
よって、大半は発掘作業に回されている。
「スドラか……ドライブ・ランチャー!」
空中で魔法を放つ。
案の定、吹き飛ぶスドラ。
不意打ち用には使えるが、スドラの存在を知っている人間にとっては、ほとんど効果は無い。
そして、着地し――地面が崩れる。
「くっ!? さすが古い建物がぁあああ!?」
14階に落ちると思いきや床は無く、一階どころか地下まで床が無くなっていた。
どうやらスドラは、時覇を襲う前に14階までの床をそぎ落とし、地下空洞まで作り出していた。
「くそっ! スドラの野郎!」
両腰に装備してある片方――右側のアンカーを射出し、壁に突き刺さる。
そこで確認のために引っ張る――が、壁ごと抜けた。
しかも、今の壁が壊れた事により、建物全体が崩れだした。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
なを、桐嶋時覇は現在時点での飛行魔法を使うことは――できません。
まだ左側のアンカーがあるが、建物自体崩れている最中なので意味は無い。
つまり、結論からして――地下空洞まで一直線。
だがそこへ、崩れ行く壁の合間から、紅い何かが飛んできた。
「時覇!」
紅い何かが叫んだ。
時覇は声の方を向く。
紅い――女神と目線が合った。
ラギュナスサイド編
第七話:分岐点(前編)
時は遡り――二ヶ月前のこと。
キッカケとは、偶然と必然の狭間ではないかと考える。
今回は後者であった。
「ロスナを使う? 俺が?」
行き成りの話だった。
「ああ、そうだ」
デスクに展開されている資料を見ながら告げるロングイ。
「だけど、俺の魔力は……」
自分の魔力値を思い出して暗くなる時覇。
通常は、3万2560。
最大瞬間値は、15万。
結果的には、ランクは下の中から上辺りに位置づけられる。
だが、ここで一番気になるのは、最大瞬間値である。
五倍近い魔力値を叩き出している事実は揺ぎ無く。
「判っている。だからこそ、可能性に掛けるのだ」
故に、賭けに出る。
時覇は、どうやら生まれつきかは不明だが、後天的に発生する場合はそれなりに高い魔力を得る事がある。
だが瞬間的に上がる魔力値を見れば、伸びる可能性はある。
漫画の様に、窮地に追い込まれた主人公は、真の力を発揮する。お約束的展開が待っている。
ロングイは、漫画を読むことは好きだが、そんな夢物語の展開はありえないと確信している。
しかし、時間が無いことは確かである。
奴が提示してきた計画を、実行に移さなければならないのだから。
だから、心のどこかで焦っている。
その焦りを、時覇に押し付けているのではないだろうか。
そう考える。
だが時間が無い。
完全な板ばさみである。
そこで、賭けに出ることにした。
一応、奴の計画内容の一つでもある『桐嶋時覇の実戦への参加』。
魔法を扱える扱えない関係ない。
この結果を元に、交渉材料に計画の延期などが行える。
そう踏まえた上で話を持ちかけた。が、
「悪い……こいつはデバイスで、俺に魔力がある事は判った。使わなければ宝の持ち腐れ、だから……」
「今すぐやってくれとは言わない。だから、少しだけ考えてはくれないか?」
あくまで強制はせず、遠慮がちに進める。
時覇は迷っている。
そこへ漬け込んでいく。
「……わかった」
それだけ言い残して、部屋を出て行った。
少し経ってからため息をつき、端末を操作して展開された資料を消す。
そして、椅子に背を預けきる。
「いるのだろ、レニアスレルナス」
壁からすり抜けるように現れ、デスクの上に腰を下ろす。
「いつから?」
顔を向けながら言った。
「その前に、机から下りろ。はしたない」
「心境はお父さん?」
からかう様に煽る。
「いいから、時覇の所行って覚悟を決めさせろ」
「いやよ」
即答である。
その言葉に、目を見開くロングイ。
だが、納得した顔つきになる。
「……なるほど、コレか」
親指を立てて言う。
作者の私はよく判らないが『彼氏』という意味があるらしい。
ちなみに小指が『彼女』だそうだ。
「なっ、ななななななななな!」
物凄い動揺に、思わず笑ってしまったロングイ。
「――――!」
部屋全体に肌が叩かれた音が、気持ちよく鳴り響いた。
「いっつぅぅぅぅぅぅぅ……叩く事無いだろ」
顔を背けるレニアスレルナス。
「しっかし、やっぱりお前も女か」
などと、本人の前で呟いてしまう。
「ロングイ。今の発言、どういうことかしら?」
レニアスレルナスが、エガオでロングイを見た。
そう、『笑顔』ではなく、『エガオ』、で。
ロングイに戦慄が走る。
戦士としての本能が叫ぶ。
逃げろ。
逃げろ。逃げろ。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。
脳内のサイレンがレッドゾーンを告げている。
「明確な回答を申請いたします」
いつの間に横に立つレニアスレルナス。
デスクの引き出しを開け、中を漁って紙を一枚取り出す。
その紙には、『申請書』と書かれていた。
項目に黙々と記入されていく。
ロングイは隙を見て逃げようとするが、レニアスレルナスに骨が軋むほど強く肩を掴まれている。
故に、完全に退路は絶たれた証拠である。
振りほどいて逃げても良いが、背中に問答無用で砲撃魔法が飛んでくるので、どうにもならないのである。
自業自得と言うべき状況なのかは、悩むところではあるが。
一つ言えることは、触れてはいけないモノに触れてしまった。事である。
ああだ、こうだと悩んでいる内に、記入が完了してしまう。
あとは、上官であるロングイのサインか、印を記すだけである。
「あー……実は、これから会議が――」
「会議は10日後です」
ロングイの一通りの予定を把握している数少ない人間に取っては、苦し紛れ以外の何者でもない言い訳であった。
腹を括り、仕方なく白状した。
「今日の今日まで、お前を」
一呼吸。
「男女だ――がぁ!」
壁に激突。
どうやら吹き飛ばされたらしい。
体制を立て直しつつ、後ろを振り向いた。
そこには、鬼と化した女が一人。
覇気は最大級。
死亡確定と、脳裏を過ぎった。
「シネ」
その後、色んな音と悲鳴が、建物全体に鳴り響くことになった。
「失礼します」
どこかスッキリしたような顔で出て行くレニアスレルナスに対して、部屋に残っているロングイは――時折痙攣を起こしながら、ボロ雑巾のように床に転がっていた。
「ん? 何だ?」
途方にくれ、さ迷っていた時、後ろ右斜めの上から悲鳴と何やら凄い音が聞こえてきた。
そして、周りを見ると、特に気にした様子も無く、作業を進めているメンバーたち。
どうやら何時もの事らしい。
尋ねるにも、確かあの方角にはロングイの部屋があったはずである。
時覇と同じで、レニアスレルナスをからかったのかもしれない。
一応、軽く殴られ、蹴られる程度で済むが、ロングイの場合は、病院行きクラスもの。
その扱いの差にロングイは、不満の声を上げているが、砲撃魔法で黙殺された。
そんな事を思い出しつつ、歩き回る時覇。
階段を上ったり下りたり、廊下ですれ違うメンバーに挨拶したり、時には手伝いをしたり。
時折、部屋に入って、どんな部屋か確認していった。
ただ、危うく女性更衣室に入る所であったが、ギリギリで気がつき、難を逃れることができた。
そんな事を繰り返しながら、探索を行っていた。
シグナムは、ベッドの上で自分の手を見ていた。
「……そんなことをしたのだ、私は」
愕然とした言葉だった。
一種の喪失とも言える。
よく病室には、ベッドの横に小さな引き出しが置いてある。
その上に、待機モードのレヴァンティン。
“主……今は”
主を想い、声を掛けるが、
「ごめん、レヴァンティン」
それだけ言ってベッドに倒れこむ。
そこで扉は開いた。
シグナムはそれに反応し、再び起き上がる。
「あれ?」
知らない男が間抜けな声を上げた。
白衣を着ていない事から、定期健診とやらではない事は一目瞭然。
だが、彼を知っている。
でも――
「どちらさまですか?」
「ああ、あの時の」
その言葉に、シグナムは眉を顰める。
「桐嶋時覇です。時覇で構わないので」
と、ベッドから50センチくらいの位置で立ち止まる。
そこで会話が無くなった。
何を話せばいいのか判らない。
何を言えばいいのか判らない。
何とも言えない空気が漂い始める。
大抵はここで第三者の乱入によって話は進むのだが、現実とは厳しいものである。
長引けば長引くほど不利になる。
故に意を決し――
『あの』
同時に言った。
二人とも黙り、さらに気まずくなる。
切り出し口は、更に狭まった。
さらにまた被れば、これこそ第三者の救いが必要になってくる。
そして、自然とシグナムの相棒――レヴァンティンを見る。
シグマムもそれに釣られて、待機モードのデバイスを見る。
レヴァンティンにしてみれば、いい迷惑である。
だが、主のシグナムの視線が痛いので、仕方なく発言することにした。
“はい”
これだけである。
ハッキリ言って、逆効果である。
返事の『はい』の一言で、どう繋げと?
この考えは、二人の脳裏を過ぎる。
時覇とシグナムは、期待外れの出来事に思わず同時にため息をついた。
そこでハッと互いの顔を見て――笑った。
そして、改めて言った。
「時覇だ」
「シグナムと言います」
笑顔で名乗り合う。
「で、何を話すか……」
とにかく話題が無かった。
受け止めたのは彼女で間違いは無い。
だが、あの時の雰囲気とは、どこか違うものがあった。
しかし、その感は当たっていた。
「そうですね……出来たら、私自身の話をして貰えませんか?」
その言葉に、面を食らった。
「へ? シグナム自身の話?」
何故聞く必要がある。
自分自身の事は、だいたい自分が知っている。
確かに知らない人間もいるが、無意識に感じ取っている者もいる。
しかし、時覇は知らない。
いや、名前すらさっき知ったばかりなのだから。
「私は、どうやら記憶喪失というものを患っているらしくて」
それを聞いた途端、時覇は渋い顔をした。
どうやら自分は、厄介ごとに直面してしまった。
だが、これの出逢いが、己の運命を大きく左右する出来事の一つになるとは、まだ先の話である。
ラギュナスサイド編
第七話:分岐点(前編)・END
次回予告
悩み、どうするべきか答えを見つけられずにいた時覇。
だが、紅の女神の事もあり、条件付で訓練を受ける。
そして、才能と可能性を開花させていく。
だが、その頃管理局では……。
ラギュナスサイド編
第八話:分岐点(後編)
に、ドライブ・イグニッション!
あとがき
少し短いけど、第七話完成。
ほのぼの&シリアス。
次回も同じ感じです。
しかし、第九話目からは、激戦となっていきます。
管理局の傲慢な対応。
管理局も管理しきれない部隊。
過剰な正義と大儀同士のぶつかり合い。
無関係な人々は巻き込まれ、ラギュナス壊滅のためには手段を選ばす。
新暦が作り出した秩序の崩壊。
もう、後戻りは出来ない。
ハッキリ言って、もう『魔法少女リリカルなのは』とは、かけ離れた物語。
しかし、この物語を語らずして、日記(2007/4/5)に書いてある第三部は語れない。
ので、とにかく理不尽の容赦ない雨嵐が、なのはたちに降り注いでいくので。
読むときは、お気をつけて。
では。
制作開始:2007/4/2~2007/4/6
打ち込み日:2007/4/6
公開日:2007/4/6
修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24