青年は経験を糧に、強くなる
仲間の為、友の為……
愛すが者を守るために
「記憶喪失、か」
それを聞いた瞬間、実際あるのかと思った。
楽あれば苦あり。
一寸先は闇。
先人が残した言葉は、これからの人生を歩む人間にとっての助言とも言える。
しかし、前途多難と言うべきか。
あー、という感じで、視線を天井に向けた。
人生色々と言うが、こんな漫画の様な経験をすることになるとは。いや、すでに魔法に関わっている時点で、経験済みといえるなどと思う時覇。
“記憶喪失は――”
「いや、上辺程度なら知っているから」
レヴァンティンの説明を、容赦無く叩き落とす。
確かに詳しいことは知らない。
だが、漫画とかでは、よく自分の名前以外忘れる事。
一般常識の知識が覚えているか、いないか。
場合によっては、特定の物、出来事などを見せてり聞いたりすると、良い場合、駄目な場合がある。
しかし、実際は記憶喪失の立証は難しく、疑わしい場合もある。故に、医師に見せても判断しかねるケースもある。
それでも、この場合は――
「担当医でも呼ぶか?」
一応、専門医を呼んで、判断を受けるべきである。
「いやえ、大丈夫です。彼方が来る前に、見てもらいました」
「そうか」
つまり、専門医の診断の結果という訳である。
「……ごめん、俺が知っているのは、アンタがシグナムと呼ばれている事と――」
時覇は、今の時点で知っている事を話した。
「――だけなのだ」
多少チグハグな説明ではあるが、自分の知っていることは全て伝えた。
出会いから、自分が今日まで知った事まで。
「確かに、レヴァンティンから聞いた話とは、食い違いがありますが」
“特に時空管理局の辺りが”
鋭いメスの如く、レヴァンティンから補足が入る。
「見方を変えれば、な」
それをカウンターで返す。
物一つとは言え、見方を変えれば意味も変わる。
たとえばスコップ。
本来は、地面や山を掘るために生み出された道具。
だが、掘るのではなく、殴るのに使ったら鈍器と化す。
打ち所が悪ければ、凶器にもなる。
このように、見方で世界は変わる。
「しかし、彼方はこれからどうしますか?」
シグナムは問いかける。
その言葉に――
『今すぐやってくれとは言わない。だから、少しだけ考えてはくれないか?』
――脳裏にロングイの言葉が過ぎる。
強制ではない言葉。
しかし――桐嶋時覇という存在を、認めてくれた存在、恩師と言っても過言ではない。
だが、苦笑した。
「今、それを悩んでいるのだよ、俺」
そのまま壁際に置いてある椅子を取って、際ほどまで立っていた場所に置いて座る。
それでも、言葉とは裏腹に、心は決まった様だった。
ラギュナスサイド編
第八話:分岐点(後編)
それから二ヵ月後の訓練開始、一時間前。
本局に設けられた、時覇の部屋で装備確認をしている時に、不意に二ヶ月前の出来事を思い出した。
レニアスレルナスと初めて馬鹿をやった日。
ロングイに認められた日。
シグナムとの出会いの日。
自然と笑みが零れる。
“どうした?”
右手袋の甲が光る。
「なんでもない。ただの思い出し笑いだから」
右手袋の甲――デバイスに言う。
“そろそろシグナムが来る頃です。お急ぎを”
左手袋の甲――デバイスが言う。
ロストナックル――通称ロスナと名づけられた、ロストロギアのデバイス。
両手で一組となっている。
愛称、ドゥシン's。
名前の由来は、地球の古い歴史にあった神の名前。
正確には、サポテカ(西暦600年頃まで、現在のメキシコ南部太平洋岸地域に栄えていた文明)神話に出てきた神の名前。
正式名は、ドゥシン。死と正義の神、ダンの使徒とも言われているらしい。
ケド、正義の神。コキ・ベセラオの化身とも言われる。
ドゥジェト、死の神。
そして、ケドとドゥジェトの前に、ドゥシンを付ける。
よって、右手――ドゥシン・ケド。
左手――ドゥシン・ドゥジェト。
右は正義を貫き、左は死を振りまく。
そうして名づけた、デバイス。
そのデバイスに手を通しつつ、再び二ヶ月前のことを思い出す。
それから、シグナムと話し合い、記憶が戻るまで手伝いをして貰う事になる。
それを聞いたロングイは、『一緒にいたほうがいいだろう』との事で、タッグを組むことに。
そして――完治したシグナムと、いつの間にか参加していたレニアスレルナスのおかげで、サイラ式は完成。
ロングイの指導の下、身体能力向上。
レニアスレルナスからは、魔法の制御・得意魔法の模索、開発。
シグナムとは、実戦同様の戦闘訓練を行っていた。
成長は遅いものの、確実に一つ一つこなして行く時覇。
時折、シグナムやレニアスレルナスからアドバイスを貰い、自分なりに解釈した結論をロングイに尋ねる。
そして、実戦。
そんな日々の繰り返しが続いているが、今までに無い充実感があった。
魔法に触れたことなのか、変わりつつある自分自身への自信か。
まだ判らない。
ただ、一つ言えること。
俺の居場所は、ここである。と。
そう考えているうちに、扉が開く。
時覇が顔を向けると、そこにはシグナムが立っていた。
「ああ、シグナム」
マイペースで作業を進めながら、問いかける。
「時覇……そろそろ行かないと、レルナが」
オドオドした声で言いつつ、顔が青いシグナム。
その台詞に、脳裏にフラッシュバックが起こる。
そして、体全体を振るわせる。
「い、いい、いこう! 理不尽な粛清は嫌だ」
震えながら部屋を後にするのであったが、結局、粛清は行われた。
時覇だけ。
そして、現在――
「時覇!」
紅い何かが叫んだ。
時覇は声の方を向く。
紅い――女神と目線が合った。
「シグナム!」
そのままシグナムに受け止められ、崩れ行く建物から脱出する。
ちなみにお姫様抱っこで。
しかし、敵機の砲撃は止む事は無く、二人に降り注ぐ。
が、シグナムは崩れ行く建物の瓦礫の破片を盾に、上手く降下していく。
「…………」
この状況に渋い顔をする時覇。
「どうしたのですか?」
真剣な顔付きでありつつも、心配の声を上げる。
「あとで話す」
「わかりました」
地面に降りた瞬間、時覇はシグナムから降りて、自分の足で離脱する。
シグナムも時覇の後を追いかける様に離脱していく。
土埃が舞い、砲撃は唸り上げていたが、目標をロストしたのか、途中で音と爆発が止んだ。
走り続け、ちょうど良い非難場所――頑丈な壁の後ろに回り込み、体に魔法を掛ける。
使用魔法は、念の為の身体強化と埃が目や口などが入ってこない様にするモノ。
シグナムにも使う。
サイラ式ならではの産物魔法である。
開発過程で、偶然生み出した魔法であり、ミッド式、ベルカ式には無い特有の――変わった魔法が使える事に気がついたのだ。
当初は先代の長の様に、戦闘重視の魔法を開発していたのだが、ここで問題が発生した。
式に異常は無いのだが、極端過ぎる魔法式と判明したのである。
よは、攻撃に特化すると、防御がほとんど出来なくなる。
防御に特化すれば、スピードがほとんど無くなる。
素早さに特化すれば、攻撃、防御が低くなる。
古典的な理論だが、ここまで来ると使い勝手が難しくなる。
そして、大雑把に比較すると、以下のように表せる。
ミッド式――汎用性、あれこれ学び、状況に応じて使う。
ベルカ式――至近戦特化、身体・武器強化が主。
サイラ式――完全特化、完全に一つの分野に特化する。
この結果から、ジャンケンに例えるなら、片方には勝てるが、もう片方には負ける。
チョキを出しっぱなしにすれば、パーには勝てるが、グーには勝てない。
そこで、チョキから違うのに返ればいいと考えるが、それができないのである。
射撃が得意な者でも、対策として嗜み程度の接近戦の技を一つくらいは持っているはず。
だが、サイラ式はそうは行かない。
どれかに特化すると、式が自動的に短縮され、他の式の計算を難しくしてしまうからである。
簡単に言えば、癖になっている。
子供の頃から、じゃんけんでチョキばかり出していれば、大人になってやると、一番目はチョキを出しやすい。又は出してしまう。
それに気がついて直そうとしても、癖を直すのは難しい。
この結果から、使いこなせないのではなく、使いにくいからだと推測だった。
しかし、時覇はサイラ式をあえて選んだ。
使いこなせる自身がある訳ではない。
だが、自分自身が始めて魔法というモノに触れ、手助けがあったものの自分の力で完成させたモノだから。
それから一ヶ月間、訓練とデータ収集を行っている。
話は戻り、煙が次第に晴れてくる。
そこで時覇が、
「さっきの何だが」
「ああ」
「どっちが男なのか判らないな、と」
失言だった。
苦笑しながらシグナムを見ると、目が潤んでいた。
『――いや、ごめんシグナム! 別に男女という意味じゃなくて!』
『別に気にしていませんので』
モニター越しからでも、涙声が良くわかる。
「何をしているのだ、あの馬鹿は……」
コメカミを押さえずにはいられないロングイ。
それに対して、レニアスレルナスは、
「……再教育しないと」
ウキウキと目が輝いている。
完全に自分好み色に染める勢いで。
それはもう子供が、裏が白い広告のチラシを見つけた時の心境の如く。
これには、ロングイもさすがに引いた。
と、言うよりも、トラウマがそうさせる。
「それはそうと――夫婦喧嘩は、そこまでしなさい」
見飽きたのか、いい加減仲裁に入る。
『誰が夫婦だ! まだ結婚はしてないぞ!』
『その通りです! 言葉はきちんと使わないと!』
モニター越しのレニアスレルナスに、顔を同時に向ける二人。
否定の言葉も、打ち合わせしていたのかと言うほど、間が無いほど綺麗に繋がっている。
「…………」
口を尖らせ、頬を膨らませるレニアスレルナス。
「嫉妬か? 焼くな、焼く――」
言っている途中で、その場に倒れこむロングイ。
時折痙攣らしき震えを起こす。
そして、両手は……男の大事な、大事な部分を押さえて。
しかし、レニアスレルナスは座ったままである。
簡単に言えば、魔法である。
威力が弱い射撃系で、非殺傷モードにして打ち込んだのだろう。
正直、威力が弱くても男には、キツイ一撃である。
「いいからとっとと戻ってきなさい!!」
鬼の様な鏡像で、二人に怒鳴りつける。
『はっ、はい、ただいま!』
二人は驚きと恐怖に震えながら、大慌てで敬礼する。
恐怖政治がしっかり根付いたことに、内心喜びを感じた。
暴力による肉体的ではなく、精神面。
しかし、刷り込みとかではなく。
シグナムの場合――色んなコスプレ、着せ替えをさせられる。
時覇の場合――レニアスレルナスの特別授業。
これを語るのは別の話である。
「まったく……起動、停止、っと」
キーパネルを操作しながら言う。
これで、各機体の停止が確認される――はずだった。
警戒音が鳴り、ランプは赤が点滅――それは、第一級緊急警戒である。
自動的にモニターが表示される。
『第一級緊急警戒発令! 第一級緊急警戒発令! 実戦用自立稼動兵器、格納庫第0番より、緊急要請あり! 繰り返す――』
実戦用自立稼動兵器、格納庫第0番。
そこには、今月末にも解体処分が決定された機体――『デストロイ』。
『アギト』と呼ばれたロストロギアのインテリジェントデバイスを元に、開発された試作機動兵器。
大きさは、2メートル50センチ。
ドラゴンを模様した顔に、人間のようなスマートな体。
足は、恐竜の王・ティラノサウルスが元になっている。
AMF――アンチ・マギリング・フィールドを標準装備。
各武装には、新暦に入って以来禁止となっているモノを装備。
完全制圧用に開発された、禁断の兵器。
それが保管されている場所からの、緊急要請。
素早くキーパネルを叩き、通信ラインを繋ぐ。
「聞こえるか! 誰か!」
その問いに、モニターが開かれる。
『こちら、第0番格納庫!』
「状況は!?」
『はい! 解体処分のデストロイが勝手に起動して――』
爆発音。
『うわぁぁぁぁぁぁ――』
その衝撃で、通信していたメンバーが吹き飛び、モニターが砂嵐に変わる。
そして、ブラックアウト数瞬後、回線遮断の字が映る。
「行くぞ、レニアスレルナス」
いつの間にか復活し、バリアジャケットに身を包んだロングイがいた。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「了解!」
今、運命の歯車が動き出す。
絶望へ誘い、新たなる時を動かすために。
「――協議の結果、ラギュナスの完全討伐を決行する」
リーダー格の老人が言った言葉だった。
部屋の中央に円卓のデスク。
そのデスクに13人座っている。
男8人、女5人。
座っている人は、どれも60、いや、70代後半。
管理局の服装、そして、腕章からして提督のしかも一部の者にしか与えられていない階級。
ここは、時空管理局極秘会議室・円卓の間。
本来、ラギュナスは時空管理局の黒の正義と呼ばれた、黙認された非合法集団。
今まで従順に従っていた連中だったが、ここへ来て反逆の狼煙を上げてきた。
確かにソリが合わず、幾度と無くぶつかり合ったが、今回は異常である。
ここまで話し合いで解決できたのだから。
しかし、何の通達も無しに起きた出来事。
当初は混乱を来たしたが、今回の件で良い口実が生まれた事に、全員気がついたのだ。
旧暦の遺産ともいえる非合法黙認組織、ラギュナス。
旧暦の時はともかく、今は新暦。
旧暦の愚かな歴史を繰り返さない。
その為には、今日まで黙認してきたラギュナスという異物を掃除しなければならない。
「で、どこの者に片付けさせるかだが……ハラオウンの所はどうだ?」
「あそこは無理だ、負傷者が出ている」
リンディと関わりのある老人の一人が言った。
「仕方が無い……特殊機動部隊を出そう」
リーダー格の老人は、手早く言った。
その言葉に、一同は強張る。
彼は性格上、こういう事は的確にかつ早く進めるために、妥当な提案を述べる。
が、余りに的確すぎるかつ、個人的意見が強いとの事で保留状態のまま話が進む。
だが、結果的に彼の案になってしまうのが大半である。
「それは危険すぎるのでは? 無差別破壊を行う可能性がある部隊だぞ」
リーダー格の隣に座る老婆が意見する。
「しかも、色々嗅ぎ回る節もある。危険すぎる」
それに上乗せするように、次々と反対意見、結論の急ぎすぎと声が上がる。
それもそのはず、公式の制圧部隊。一種の軍隊とも言える部隊。
しかも、多次元世界からも批判の声が上がっている。
理由は、彼らの行いは無差別破壊に近い制圧行動に、下調べの際、徹底的にやる為、プライバシーもお構いなし。
そして同時に、上層部も手を焼いているほどだが、それでも実績を上げているので、余り強くは言えない。
危険だが、頼もしい。
それが、特殊機動部隊である。
故に、円卓に座る12人は、彼らを動かすことに抵抗がある。だが、
「だが、奴らに対抗できる部隊が、他にあるとでも?」
この一言に、12人は沈黙した。
アースラの面子が動けないのなら、今すぐ動かせる部隊は彼らのみ。
どちらにしても、彼らが動くことには変わりないからである。
「……そう思い」
一人の老人が声を出す。
それに全員が顔を向ける。
「勝手ながら、命令を出しておきました」
その言葉に、円卓の間は騒がしくなった。
「なんて事を……あの部隊の扱いは、慎重に行わなければならないというに」
「そうだぞ。単独で命を放つなど」
一人の単独行動に、非難が殺到する。
しかし、リーダー格の老人は、一声も上げない。
むしろ、何かを考えている。
「場合によっては、調度良いかも知れん」
非難の言葉の中、そんな言葉が出てきたので、ピタリと静まる。
「その命は?」
「極秘命令です。後が付かないよう、命令書も何もありません。ただの口約束みたいなモノです」
「モニターを使ったのか?」
「ええ、自分で作った単位デバイスのモニターを使って。既に粉々に砕き、何分割にして多次元に巻きました。復元ができるロストロギアでも、全ての粉が集まらない限り、不可能です」
「そうか」
リーダー格は微笑んだ。
ラギュナスサイド編
第八話:分岐点(後編)・END
次回予告
ラギュナス本部に戻った、時覇とシグナム。
しかし、そこは既に戦場の後だった。
異臭が全体を多い、生きた人間はいなかった。
だが、ある場所から生命反応があったのだが……
ラギュナスサイド編
第九話:死別
に、ドライブ・イグニッション!
あとがき
シグナムの口調が違うだろ!
と、殴りかかりたい衝動に駆られた方、落ちついてください。
管理局では、偽りの記憶喪失ですが、こちらは完全に本物の記憶喪失です。
故に、口調や性格が違くなるのは必然かと。
そこは暖かく相愛で――ぐばっ!(殴られる)
ごふっ、ごふっ――ごばっ!
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……失礼。
所で、なのはストライカーズ放送開始され、今週で第二話目。
こっち方面は金曜日なので、生殺し。
見たいよ~、見たいよ~、『生まれたての風』のリュウさんのSSも読みたいよ。
で、今回は管理局汚点武装集団部隊、登場。
上層部ですら、動かすのを躊躇う危険な部隊。
前々から言った通り、次回から死人が続出します。
手始めにメンバーから。
そして、10話目で主人公が変わる出来事が……起きないですが。
起こす前に、シグナムを……。
ネタバレなので伏せます。
では次回会いましょう。
っーか、あとがき長くなってきたな。
ネタバレに近いもしくはネタバレ言ってるし。(汗
制作開始:2007/4/6~2004/4/11
打ち込み日:2007/4/11
公開日:2007/4/11
修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24