偽典・女神転生―テメンニグル編―   作:tomoko86355

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古の街、地下歌劇場へと足を踏み入れる白銀の騎士―クー・フーリンと仲魔のマベル。
そこには、魔剣士・スパーダによって封印されていた魔女、ネヴァンが待ち構えていた。一方、化け物鯨の腹から脱出する為、一時共闘する事になったライドウとダンテ。
二人の前に様々な悪魔が立ち塞がる。


ミッション11『唇と心臓と』

ネヴァンの唇から大量の血が吐き出される。

胸を貫く深紅の刃は、そのまま背後の壁を穿ち、さながら標本箱の中で針に縫い留められている蝶を連想させた。

「つ・・・・強いのね?貴方・・・・。」

霞む視界の中、目の前に立つ白銀の騎士が映る。

冬の湖面を思わせる、蒼く澄んだ瞳。

しかし、その中には一欠けらの感情すら宿る事は無かった。

「気に入ったわ・・・私の魔力を貴方にあげる・・・。」

漆黒の魔女は、震える手で己を深々と貫いている深紅の魔槍に触れた。

すると魔女の身体を紫電が包み、周囲を眩く照らし出す。

漸く光の放流が収まった時、そこには紫電を帯びた二振りの刃が両手に握られていた。

「成程、魔剣士殿も粋な計らいをしてくれる。」

ネヴァンの正体は、悪魔ではなく魔道具(デウスオブマキーナ)だ。

恐らく大門を守っていた氷の魔獣も魔道具が悪魔の姿に変じたモノだろう。

彼等は、長い年月、この呪われた塔に己を使役してくれる主が再び現れるのを待っていたのだ。

そして、彼等の渇望にも似た思いは遂げられた。

まるで、真新しい玩具を買い与えられた子供の様に口元を綻ばせ、クー・フーリンは、紫電を放つ二振りの刃を手首を使って軽く振る。

「双剣”ネヴァン”か・・・使えそうな玩具だな。」

刀剣に映る己の美貌を見つめ、白銀の騎士は双眸を細めた。

 

リヴァイアサン邪眼房。

悪魔の無残な死骸が、死屍累々と横たわる中、ライドウとダンテは、ヘル=エンヴィーの群れと死闘を繰り広げていた。

大剣の切っ先が閃き、悪魔の胴体と頭を次々と切り飛ばしていく。

銀色に鈍く光るクナイが悪魔の頭蓋をスイカの様に破砕し、『七星・村正』の刀身が怪物達の身体を両断する。

しかし、いくら倒され様とも、異形の怪物達の数が減る事は無かった。

壁や床から次々と這い出し、悪魔使いの少年と銀髪の大男に襲い掛かっていく。

「ちぃ!面倒な!!」

先に痺れを切らしたのは、気が短いダンテではなく悪魔使いの少年であった。

口内で短く呪文を詠唱し、両手を広げる。

「頭を下げてろよ!坊主!!」

「!?」

ライドウの声に咄嗟に身体を屈ませるダンテ。

刹那、周囲に無数の法陣が出現、そこから蒼白い雷電を身に纏った無数の龍が現れ、悪魔達を蹂躙していく。

電撃系最上級魔法『マハジオダイン』だ。

眩い光を放つドラゴン達は、悪魔を分子の値まで分解し、次々と塵に返していく。

時間にして3秒も経たなかっただろうか?

気が付くと辺りは静寂に包まれ、悪魔の存在を全て掻き消していた。

「流石、魔法使いだな。」

塵となって消えていく悪魔の死骸を眺め、ダンテが感嘆の声を漏らす。

そんな便利屋の言葉に反して、ライドウは顔面蒼白であった。

やってしまった・・・・・リヴァイアサンの核を破壊するまで、魔力を出来るだけ温存しておくつもりが、ついつい癖で大技を使ってしまった。

(お、落ち着け・・・まだ魔力には余裕がある。いざとなったら秘蔵のエーテルで補填すれば問題ない・・・でも、エーテル使いたくない。これ純度が高いやつなんだよねぇ・・・だから結構値が張ってるの・・・しかも補填しても、最上位魔法2発分しかならないし・・・うう、どうしよう。)

高速演算で、今回の事件の経費を計算する。

ブフダインストーンはまだ良いが、これでエーテルまで使用したら完全な大赤字だ。

銀子は、あれこれ理由を並べて絶対経費では落とさない様にするだろうし、うちの大蔵省に泣きついても足蹴にされるだけ・・・。

「どうしたんだよ?ライドウ。」

口からエクトプラズムを吐き出しているライドウにダンテが声を掛けた。

「な、何でもねぇよ。それより先に行くぞ。」

コイツにだけは弱味を見せてはならない。

先程、いきなり押し倒された挙句、強引にキスされた事を思い出す。

魔力切れを起こし、弱っている事なんて知られたら、何をされるか分からない。

(な、何とかして志郎と合流しないと・・・。)

パスを通してある番の傍まで行けば、魔力はある程度供給される。

「これは・・・・?」

何気なく周囲を見回した先に光る何かを見つける。

それは室内の中央にある突起物から生え出しており、鈍い光を放っていた。

「成程、ゴールに進むための鍵ってやつか。」

恐らくある程度のマグネタイトを吸収すると出て来る仕組みになっていたのだろう。

悪魔の果肉をたっぷりと吸収したそれは、掌に収まる程の球体であった。

「お前なぁ・・・罠だったらどうするつもりなんだよ。」

警戒心0で、正体不明の球体を手に取るダンテをライドウが呆れた様に溜息を吐く。

「はっ・・・心配性だな?お嬢ちゃん。」

「お嬢ちゃんじゃない、”葛葉ライドウ”だ。」

この男と一緒にいると調子が狂う。

先程まで命のやり取りをしていた敵なのに、今はすっかりと打ち解けていた。

どんな困難な場面でも、決して下を向かず、時折、子供の様な笑顔を浮かべる。

そんな、何故か憎めない人間をライドウは一人だけ知っている。

この男と同じ、目の覚める様な銀色の髪をした男・・・。

「どうしたんだ?ライドウ。」

名を呼ばれ、記憶の海から現実の世界に帰る。

(馬鹿馬鹿しい、何を考えているんだ?俺は・・・。)

志郎・・・クー・フーリンと契約する前のかつての番の姿と目の前に居る深紅のロングコートの男を重ね合わせ、慌てて思考を打ち消す。

力を求め、殺戮に酔い、闇に堕ちた自分を人間へと戻してくれた男。

でも、もういない。

かの愛しき男は、他でもない自分自身が殺してしまったのだから・・・。

 

邪眼房で手に入れたアイテムは、嫉妬の炎と呼ばれていた。

どうやら、リヴァイアサンが守る心臓核の封印を解くことが出来るキーアイテムらしい。

心臓核へと辿り着いたライドウ達は、鍵を設置する台座に嫉妬の炎を設置した。

すると核(コア)を守っている膜が溶ける様に消えていく。

「気合入れろよ?坊主。」

「坊主じゃねぇ、ダンテって名前があるんだ。」

七星村正の鯉口を切り、銀色に光るはばきの部分を出すライドウをダンテがぎろりと睨む。

確かに実力は自分よりも数段上なのは認めてやる。

だが、子供扱いされるのはいい加減うんざりだ。

そんな二人のやり取りを他所に、主の心臓を守らんと、地面から無数のヘル=エンヴィーが姿を現す。

血で錆びついた鎌の切っ先が二人に向けられた。

 

 

潮の香りが鼻腔をくすぐる。

連絡船の甲板の上、ライドウは遠ざかっていく『城塞都市・フォルトゥナ』の港を何気なく見つめている。

波止場には、小さな影とそれに寄り添う大きな影が佇んでいた。

魔剣教団の団員、クレドとその幼い妹のキリエだ。

華奢な腕を千切れんばかりに振り続けている。

「心残りがありそうだな?17代目。」

頭の中に直接響く声。

足元を見ると一匹の大きな黒猫が眼帯の少年を見上げている。

歴代ライドウのお目付け役剣指南役を勤める人語を解する黒猫で、常にライドウと行動を共にしていた。

「別に・・・少しだけ疲れただけだ。」

激しい疲労感が節々を痛めているのは事実だった。

あの『化け物龍』から貰った魔力は既に底を尽いており、早く誰かから補填しなければ、倒れてしまいそうだった。

「いい加減番を作れ・・・何時まで骸の情けを受けているつもりだ?」

「・・・・・面倒なのは嫌なんだよ。」

『魔力の大喰らい』である少年が、何時までも決まったパートナーを作らず、かつての上司であり、四神の長である”骸”から情けを受けている事に業斗童子は大分、否、相当、ご立腹らしい。

「おお、さらば我が愛しき祖国・・・。」

「―!!」

聞き覚えのある男の声。

一人と一匹が背後を振り返ると、そこに目の覚める様な美しい銀髪の美丈夫が立っていた。

「よ、ヨハン・・・?何故、お前が此処にいるんだ?」

城塞都市『フォルトゥナ』の領主であるバルムング・ハインリッヒ・ヒュースリー教皇の第三皇子であり、魔剣教団実力者No.1の男。

神器『レーヴァティン』の正統継承者―ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーだ。

「何って決まっているだろ?お前を追い掛けて来たんだ。」

神器の収まった身の丈程も大きな箱を背に担いだ銀髪の男が、恥ずかしげもなくそんな事を平然とした表情で言った。

「正気か?あのまま国に残っていれば、英雄として・・・否、次期国主として様々な恩恵を受けられたものを・・・。」

まるで無邪気な子供の様に笑う青年を業斗が呆れた表情で見上げる。

「お前は救いようが無い馬鹿だな?ヒュースリー教皇に同情するぜ。」

口では悪態を吐きつつも、内心は激しく動揺していた。

例えようもない歓喜に微かに手が震える。

駄目だ・・・こんな感情は要らない。

「クレドは知っているのか?フォルトゥナの市民は?キリエや孤児院の子供達・・・お前を慕って騎士団に入った少年達はどうなるんだ?」

相手に気取られぬ様、震える手を握りしめ、ライドウは数メートル離れた相手を睨み付ける。

「無責任な糞野郎だってのは自覚してる。親父にも呆れられて一発ぶん殴られたよ。」

困った様に苦笑いを浮かべると、ヨハンは微かに赤く腫れた右頬を人差し指で掻く。

「でも俺は一度決めたら梃子でも動かない頑固者でね。」

フォルトゥナの現領主であり、父親であるバルムング侯爵の期待よりも、先の戦争で親を失い自分を兄貴分として慕ってくれる子供達や、年若い見習い騎士達よりも、自分には守り通さねばならない大切な存在がある。

ヨハンは、ライドウの目の前まで歩み寄ると、血の通わぬ作り物の右腕を手に取る。

「前にも言ったと思うが、俺は絶対お前を人間に戻してやる。お前に愛を教えてやる。」

恥ずかしげもなく愛という言葉を平然と口にする銀髪の青年。

今時、愛なんて陳腐な言葉誰も使う奴などいないだろう。

最高で最低な口説き文句。

しかし、青年のアクアマリンを連想させる蒼い瞳は、何処までも真剣であった。

「ふん、どうやら番の問題は解消したみたいだな?」

頬を真っ赤に染める眼帯の少年の表情を見て、業斗は呆れた様子で溜息を吐く。

連絡船の汽笛が周囲に木霊した。

 

(何で今のこの状況で、いきなり思い出すんだよ?)

仰向けに寝転がったライドウが、暗闇に閉ざされた天井を見上げ盛大に溜息を吐いた。

悪魔共の切り刻まれ、頭が破砕された死骸が累々と転がる戦場。

肉塊の窪みに身を隠したライドウは、怪光線を放つ心臓に視線を移す。

ビクンビクンと不気味に脈打つ心臓は、再び硬い甲羅の中へと姿を隠してしまった。

「どうする?あれじゃ、手が出せないぜ。」

傍らで同じ様に身を隠したダンテが、忌々しそうに舌打ちをした。

よく見ると銀髪の大男が羽織る深紅のロングコートの端が焼け焦げている。

恐らく、怪光線が発射される前にライドウが無理矢理肉の窪みに引きずり込んだ際に、そこだけ焼けてしまったのだろう。

悪魔に折角手に入れた事務所を破壊され、お気に入りの長外套まで駄目にされた。

疫病神と貧乏神がセットで憑りつかれた気分だ。

「・・・光線が発射されるまでのタイムが1秒弱・・・甲羅に戻るのが大体2秒あるかないか・・・攻撃するなら、一度撃たせた後の方が良いな。」

一瞬の出来事なのに、良くもまぁそこまで分析出来るものだ。

呆れ半分、感心半分ではあるが、よしんば攻略方法が見えたとしても、そこには大きな問題がある。

「心臓を守る悪魔共はどーするんだよ?両方の肺から、ゾンビ映画宜しくどんどん這い出して来てるんだけどな?」

怪光線で一匹残らず薙ぎ払われた筈だが、左右の肺から無尽蔵に悪魔が生み出される為、瞬く間にその数を増やしている。

これでは、心臓を攻撃する前に、エネルギーを再装填されて、ローストビーフ宜しくこんがりと焼かれるのがオチだ。

「大丈夫だ。そんなもん大した問題でもねぇーよ。」

「!!」

ライドウがそう言ったのと同時にダンテの身体に異変が起きた。

身体が異常な程軽い。

よく見ると五体が微かに光っている。

「お前の運動能力を50%上昇させた。今の状態なら、一発撃たせた後にその馬鹿デカイ剣で心臓をぶっ刺すのにおつりが出るぐらい余裕がある筈だ。」

「確かに今なら世界新記録ぐらい軽く超えそうな気はするが、リベリオンを化け物鯨の心臓に叩き込むには、あそこの悪魔共が邪魔だぜ?」

「それも心配ない。俺が道を作ってやるからな。」

この戦法は、大分魔力を消費する。

だが、本来の目的はこの化け物鯨の腹の中から出る事なのだ。

多少のリスクは仕方が無い。

そんな二人のやり取りを他所に、ヘル=エンヴィーの大群が此方に押し寄せて来た。

「俺が囮になる。化け物鯨の心臓がレーザーを撃ち終わったら、走れ・・・良いな。」

そう言い終わるのと肉の窪みから、少年が飛び出すのとほぼ同時であった。

ダンテが止める間もなく、悪魔使いの少年は七星剣を巧みに操り、悪魔の大群を綺麗に解体していく。

「たく・・・勝手な事言いやがって・・・。」

何度も言う様だが、自分達は敵対関係にあるのだ。

いくら一時的に協力関係にあるとはいえ、相手が自分の理想通りに動くとは限らない。

しかし、不思議と嫌な気持ちになる事は無かった。

それどころか、ライドウに信頼されているという事実に、心が歓喜で震えている。

(本気で惚れちまったかもな。)

自然と口元に笑みが浮かんだ。

 




魔導士は色々と制約があるという事で・・・悪魔召喚するにも物凄い魔力を消費するので、多用は出来ないという設定です。
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