偽典・女神転生―テメンニグル編―   作:tomoko86355

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漸くリヴァイアサンの心臓部に辿り着いたライドウ達。
しかし、そこは心臓核を守る悪魔達であふれかえっていた。
一方、クーフーリンは、魔女ネヴァンを撃破。
双剣”ネヴァン”を手に入れるのであった。


ミッション12『母の手と父の背』

思えば、父親の記憶など無いに等しかった。

物心ついた時から母親と双子の弟の二人で暮らしていた。

貧しくもささやかな食卓。

食事の恵みを与えてくれた神に対する感謝の祈り。

『父よ、貴方の慈しみに感謝してこの食事を頂きます。此処に用意されたものを祝福し、私達の心と身体を支える糧として下さい。私達の主、イエス・キリストによって・・・アーメン。』

母の澄んだ声が神への感謝の祈りを捧げる。

神などこれっぽっちも信じてはいなかった。

ただ、母が敬虔なカトリック信者であったから、自然とそれに習っただけに過ぎない。

大好きだった。

愛していた。

でも、時折ヒステリックに泣き叫ぶ母は恐ろしかった。

『何故貴方達は覚醒してくれないの?何故、優秀なあの方の遺伝子を受け継いでいるのに何も目覚めないの?このままじゃ、あの女に全て奪われてしまう!そんなのは嫌、絶対に嫌ぁ!!』

そう叫んでは、自分達を平手で叩いた。

狂った様に暴れ回る母。

そんな母親を自分と弟は、部屋の隅で震えながら見ていた。

暫く経つと母は、大人しくなり、一頻りすすり泣く。

そして何度も何度も自分達に謝り、優しく抱きしめてくれる。

日々、そんな行為の繰り返しであった。

 

「・・・・・!!」

自分より数歩先を歩いていた漆黒のカソックを纏った神父が、急に胸を抑えて蹲った。

「アーカム?」

神父の異変にバージルが秀麗な眉根を胡乱気に寄せる。

「ま、まさかリヴァイアサンを倒すとはな・・・。」

まるで心臓を握り潰されたかの様な凄まじい苦痛。

テメンニグルの上空を我が物顔で回遊していた仲魔の妖獣『リヴァイアサン』が突然苦痛の雄叫びを上げ、地面に落下していくヴィジョンが脳裏に鮮明に映し出される。

轟く轟音。

それは大地を揺るがし、バージル達が居る地下回廊にも響き渡る。

 

時刻は数分戻って、リヴァイアサン心臓核の間。

眩い光を放つ光線が、次々と悪魔達を薙ぎ払って行く。

「今だ!走れ!ダンテ!!」

リヴァイアサンの心臓から放たれる光線の光が治まったのを見計らって、眼帯の少年―ライドウが、すぐ傍らの肉の窪みに身を潜ませている赤いロングコートの男に叫んだ。

それを合図に走り出すダンテ。

スクカジャで運動能力が爆発的に上がった今の悪魔狩人は、まるで紅き閃光の様に一直線にリヴァイアサンの心臓目掛けて駆け抜けて行く。

それを阻止せんと、肉の床や化け物鯨の肺から次々と悪魔達が現れる。

しかし、その事如くが四肢を細切れに引き裂かれ、肉体を破砕され、時には氷の矢に蜂の巣にされていく。

ライドウが精霊魔法でダンテの行く手を阻む悪魔共を排除して行っているのだ。

まるでロボットの様な正確さで、気味が悪い程的確に悪魔を次々と肉の塊へと変えていく。

だが、当の守られているダンテはそんな事等気にしている余裕は無かった。

ただ、リベリオンを糞ったれな化け物鯨の馬鹿デカイ心臓にぶち込む。

その一念だけが彼を突き動かしていた。

長年、荒事師として様々な修羅場を潜り抜けて来たが、これ程、神経を研ぎ澄ませて戦った事等、数えるぐらいしかないだろう。

悪魔狩人の常人よりも遥かに凌駕した筋力が、大剣の刃に宿り、深々と化け物鯨の心臓を貫く。

刹那、視界が真っ白い光に包まれた。

 

リヴァイアサンが地上に激突した余波は、仲魔のクーフー・リンとマベルにも影響していた。

礼拝堂へと続く回廊の途中、無数に襲い掛かるブラッドゴイルの群れを始末している時である。

地鳴りと共に回廊全体が揺れ、天井から漆喰が雨の様に降り注ぐ。

「流石ライドウ!化け物鯨を倒したんだね?」

白銀の騎士の肩に座っていた妖精が宙で小躍りする。

しかし、浮かれるマベルと違い、クー・フーリンは複雑な表情をしていた。

何故なら、敬愛する主の傍らに忌々しい気配を感じたからだ。

悪魔独特の魔力と強い意志を持つ人間の闘気が交じり合った特殊な気。

間違いない、あの悪趣味なロングコートを着た銀髪の大男のモノだ。

 

断末魔の咆哮を上げ、地面へと落下する巨大な魔獣『リヴァイアサン』。

轟音と砂煙、そして衝撃で何かが崩れる瓦解音。

濛々と立ち込める砂煙の中、血涙を流す化け物鯨の瞳が縦に切り裂かれた。

血飛沫と共に飛び出す二つの影。

地面に華麗に着地したのは、全身血で真っ赤に染まった悪魔使いと銀髪の大男であった。

「ふぅ、酷い目に合ったぜ。」

口内に入った化け物鯨の血の塊を吐き出し、ダンテが忌々しそうに全身の返り血を手で払い落す。

その背に銃口が付きつけられた。

カチリと撃鉄を上げる音。

見なくても分かる、さっきまで共に戦っていた悪魔使いの少年だ。

「悪いな・・・パーティーは此処でお開きだ。」

「おいおい、約束が違うんじゃねぇか?」

背後にいるライドウをジロリと睨み付ける。

「あのなぁ、俺達は元々敵同士だったんだぜ?それと約束ってのは最初から破られるのを前提にしてするもんだ。」

随分と滅茶苦茶な言い分だ。

しかし、軽口を叩くその眼は限りなく真剣であった。

「もう時間が無い。奴等が来る前に、一刻も早くこの街を出るんだ。」

「奴等?」

「ヴァチカンの虐殺部隊さ。彼等に一切の慈悲は無い。相手が人間だろうがお構いなしだ。死にたく無かったら大人しくいう事を聞いてくれ。」

ハンドガンの銃口をダンテの背に向けたまま、ライドウは腰に吊るしたGUMPをホルダーから引き抜く。

トリガーを引き、蝶の羽の様にパネルを展開させると液晶画面にヴァチカンの特殊部隊『ドミニオンズ』が1個師団を引き連れてこの街に移動している事がメールで書かれていた。

そして末尾に任務を強制終了、大人しく事件を13機関に譲渡されたし、と記されている。

「ヴァチカン?アンタ一体何を言っているんだ?」

カトリック教会の総本山であるヴァチカンは、本来軍事力を保持していない。

それぐらいは一般常識だ。

「ヴァチカンには二つ顔があるのさ。悪魔・・・それを崇拝する異教徒達をぶち殺し捲る狂気の顔を持ってる。奴等は悪魔を殺す事に掛けてはプロだ。今から数分前、国連がヴァチカンに悪魔討伐の正式要請を出した。後1時間もかけないうちに奴等が此処に来るだろう。」

「マジかよ・・・。」

その手の裏事情が詳しいライドウの言葉なのだから、嘘偽りの無い本当の事なのだろう。

「バージルは・・・・俺の兄貴はどうなる?」

「・・・・・気の毒だが、奴等に見つかったら確実に殺されるだろうな。最悪、この地域一帯を”浄化”するかもしれない。」

浄化・・・魔界の扉が開く前に核ミサイルで焼き払うという意味だ。

こんな都心の真ん中で核爆弾?

イカレた発想かもしれないが、それを平然と実行するのがヴァチカン第13機関―イスカリオテ、のやり方だ。

「お前はまだ若い・・・幾らでもやり直しがきく。違う地で普通に人間として生きろ。」

展開していたGUMPのパネルを畳み、ガンホルダーに戻す。

「ハッ・・・有難い説教で涙が出るぜ。」

そう言い終わるのと同時にダンテが何かをライドウの足元に投げて寄越した。

黄色に光るマジックストーン。

それを視認した瞬間、ライドウは咄嗟に背後に飛び退る。

眩く光る雷の放流。

視界が一気に真っ白に染まる。

(マハジオストーン?何でアイツがマジックアイテムを持っているんだ!?)

そういえば、化け物鯨の腹の中にいた時、ダンテに押し倒されて無理矢理キスされた事があった。

質の悪いおふざけだとばかり思っていたが、あの時、ライドウのウェストポーチから、何個かマジックストーンを拝借したに違いない。

「アンタはまだこの件を諦める気がないんだろ?」

頭上からするダンテの声にライドウが視線をそちらに移す。

するといつの間に移動したのか、廃墟へと続く大扉の階段の上に深紅のロングコートを着た銀髪の男が立っていた。

「俺も同じさ。それにバージルはたった一人の兄貴なんだ。家族を放っておける筈がねぇだろ?」

「ダンテ!!」

大門に消えていく銀髪の大男を追い掛けようと一歩前に出る。

だが、その前方を銀色の閃光が遮った。

条件反射で背後に避けるライドウ。

つい先程まで自分が立っていた地面に突き立ったのは、歪な光を放つ大鎌であった。

「ちぃ!こんな時に・・・!!」

気が付くとライドウの周囲を無数の悪魔―ヘル=プライド達が取り囲んでいた。

所々ボロボロに刃が欠けた凶器を両手に構え、じりじりと此方に近づいて来る。

 

礼拝堂・・・・人の気配がまるでしない静寂に包まれた室内を白銀の騎士と小さな妖精が訪れた。

先程の轟音がまるで嘘の様な静けさだ。

「まだマスターと連絡が取れないのか?マベル。」

「駄目・・・・リヴァイアサンを倒したって事は分かるけど、その後が全く分かんない。」

蟀谷(こめかみ)の辺りに人差し指を押さえ、必死に精神を集中させてテレパシーを送ってはいるが、うんともすんとも主から返事が返って来ない。

精神波を遮断する障壁のせいなのか、それとも返事の出来ない状況なのかもしれない。

「・・・!!何か来る!」

妖精が強力な魔力の波動を感知するのと、礼拝堂の天井を突き破って何かが室内に乱入して来るのはほぼ同時であった。

雨の様に降り注ぐ瓦礫、轟々と立ち込める砂煙の向こうから巨大な一つ目の巨人が此方を見下ろしている。

炯々と光る深紅の隻眼、鶏冠を思わせる巨大な一本の角。

そして眩く光る4枚の羽根。

テメンニグルの塔を守護する悪魔の一人、ベオウルフだ。

「強い気の波動を感じて来てみれば、力なきピクシーと見た事も無い悪魔ではないか。」

深紅の隻眼が、マベルとクー・フーリンを順番に眺める。

慌てて白銀の騎士の背後に隠れるマベル。

そんな妖精に反し、美貌の剣士は隻眼の鋭い眼光を軽く往なしてみせる。

「ほぅ、これは中々剛気な奴よ。気に入った。貴様、名は何というのだ?」

「これから死に逝く者に、名を語るのは無意味だと思うが?」

クー・フーリンの無遠慮な言葉にベオウルフが喉の奥で低く唸る。

「確かに・・・言葉は不要、我等にあるのは力のみ!!」

礼拝堂一帯の空気を激しく震わせる程の咆哮。

此方に突進する隻眼の巨大な悪魔を白銀の騎士が深紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”を構えて迎え撃つ。

 

「私ね・・・・スタンフォード大学に留学が決まったの・・・。」

豪華客船『ビーシンフル号』の豪奢なラウンジ。

マイセンの中国のザクロを模様としたマグカップを両手に持った瞳がコーヒーを一口啜る。

「そこの生物工学で有名な教授が私の書いた論文に興味を持ってくれたみたいなの。”今進めているプロジェクトに是非参加して欲しい”って・・・。」

「そっか・・・凄いじゃないか・・・。」

かつてのハッカーグループ『スプーキーズ』のメンバー、遠野・瞳は、東京の帝都大学で遺伝子工学の勉強と研究チームに参加している。

遺伝子疾患の難病を患っている彼女の父親の治療をする為、遺伝子治療の研究を行っているのだ。

その治療過程の研究論文が、スタンフォード大学に在籍しているとある人物の目に留まったらしい。

「スタンフォード大学には、此処より機材が揃っている上に国から潤沢な補助金が支給されてるそうよ。あそこなら、私の研究が成し遂げられる筈。」

現在、彼女の父親はバーキンソン病という難病に侵されている。

バーキンソン病とは、大脳の下に位置する中脳の黒質にある神経細胞が減少する事で、運動機能に障害が起こる病気だ。

瞳の父親は、病気がかなり進行し、自立歩行が不可能な状態で車椅子生活を送っているのだという。

「暫く会えなくなっちゃうね・・・・あ、でも・・・貴方とこうして会うのは迷惑なのかな?ランチさんやシックスくん・・・ユーイチくんにも内緒にして会っている訳だし・・・。」

「そんな事ねぇよ・・・お前に会えないとネミッサの奴が煩い。」

「・・・・ごめん・・・変な事言っちゃったね・・・。」

暫しの沈黙。

お互いどんな言葉を掛けて良いのか分からない。

この1年という歳月が、二人の間に大きな溝を作っていた。

天海市の事件から約1年と数か月の月日が経っている。

マニトゥが活動を停止し、後に残されたのは二上門地下遺跡に発生した巨大な地獄門(デビルズゲート)だけであった。

ヴァチカンの専門機関と組織『クズノハ』そして国連の特殊技術チームの協力により、二上門地下遺跡は封鎖。

天海市に住む住民は、全員退去となり、分厚い壁が異界となった市全体を覆っている。

不意に瞳の眼から一筋の涙が頬を伝い、白いテーブルクロスの上に落ちた。

「ごめん・・・ごめんね?ネミッサ・・・私・・・私、お父さんを理由に貴方達から逃げてる・・・・。」

「瞳・・・。」

「一緒に背負わなきゃいけないのに・・・リーダーのこと・・・天海市のこと・・・い、痛みを分け合わないといけないのに・・・なのに・・・ほっとしてる。海外留学が決まって・・・この国から出られる事に安心している私がいる・・・貴方やネミッサに嫌な事全部押し付けて・・・私・・・最低な女だよね。」

「やめてよ・・・ヒトミちゃん。」

テーブルクロスを握りしめる手を誰かがそっと触れた。

俯いていた顔を上げると、悲しそうな蒼い隻眼の瞳とぶつかる。

「泣かないで・・・お願いだから笑ってよ?お父さんの病気を治療する薬が出来るんでしょ?アタシ・・・馬鹿だから分かんないけど、ヒトミちゃんにはいつまでも笑っていて欲しい。泣いてる顔なんて見たくないよ。」

「ネミッサ・・・・?」

かつて自分に憑依していた電霊と呼ばれる女性悪魔。

共に死線を潜り抜け、ファントムソサエティーと戦い、時には他愛もない事で笑い合った大切な大切な友達。

「ご、ごめんね?・・・貴方と一緒にアメリカに行くって約束したのに・・・。」

電霊の少女の小さな手を瞳は強く両手で握り締める。

彼女に憑依されていた時、二人で約束したのだ。

何時かネミッサが生まれ育った土地を探しに行こうと・・・。

「あ・・・?悪い・・・瞳、アイツ戻っちまったよ。」

「え・・・・?」

顔を上げるとそこにはいつもの黒曜石の瞳をした長い黒髪の隻腕の少年が、ばつが悪そうに座っていた。

どうやら、再び少年の中に眠りについてしまったらしい。

「・・・ご、ごめんなさい!!」

慌てて瞳が少年の手を離す。

顔が熟れ過ぎた林檎の様に紅くなっていた。

 

 

「あー・・・これはアレだな・・・俺は何かの精神的な病に侵されてるんだな?しかも滅茶苦茶質の悪い。」

ライドウは大きな溜息を盛大に吐くと、尻ポケットから煙草と古いジッポライターを取り出した。

彼を取り巻く様にして、無数の悪魔の死骸が累々と横たわっている。

先程までの戦闘の名残りなのか、血の生臭い香りが漂っていた。

煙草に火を点け、一口大きく吸い込む。

ニコチンが良い感じに肺の中を充満するのが分かった。

(アレからもう20年以上が経つのか・・・。)

吐き出した煙が宙に昇っていくのをぼんやりと眺める。

あの時、無理にでも彼女を引き留めておくべきだったのだろうか。

父親の治療をする為の留学だった。

それが、まさか今生の別れになるなど当時の自分達は思いもしなかったのだ。

「う・・・やべぇ、魔力使い過ぎちまった。」

足元がぐらりとふらつく。

無理もない。

リヴァイアサン心臓核で大分、魔力をつかったのだ。

早く番の所に行かなければ、魔力が枯渇して最悪動けなくなってしまう。

「と、取り敢えず1本だけ飲んでおくか・・・完全な赤字だが、うちの大蔵省に泣きつけば何とかなる筈・・・。」

ブツブツとぼやきながらウェストポーチの中を探る。

しかし目的の小瓶が見当たらない。

まさか・・・あの糞餓鬼にマジックストーンばかりか、エーテルの入った小瓶まで盗られた?

ざぁっと音を立てて血の気が引く。

改めてポーチの中身を探るが、何処を探しても、エーテルの入った小瓶は見つからなかった。

 




いきなり過去の話とかに飛んでついていけないかもしれません。
ソウルハッカーズのヒロイン、遠野瞳は父親の治療の為アメリカの大学に留学してそこで行方不明になったという設定です。
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