偽典・女神転生―テメンニグル編―   作:tomoko86355

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妖獣・リヴァイアサンから無事脱出したダンテとライドウ。
一方、クー・フーリンとマベルは、テメンニグルを守護する悪魔=ベオウルフに襲われる。


ミッション13『葛葉・キョウジ』

ライドウと別れ、歯車機関室に辿り着いたダンテ。

何気なくコートのポケットに手を入れた指先に何か硬いモノが当たった。

指先の感触から、小さな小瓶らしい。

どうやら、悪魔使いの少年から魔法石だけではなく、余計なものまでくすねてしまった様だ。

「何だこりゃ?」

ポケットから取り出し、改めて確認してみる。

茶色い小瓶の中には緑色に光るジェル状の液体が詰められていた。

「ライドウが持っていたアイテムだからな?悪魔に効く毒か聖水かな?」

当然、魔導の知識などこれっぽっちも無いダンテが、それが一体何なのか?など知る筈も無い。

あの時は只、今までやられた事への一種の意趣返し的な行動だった。

根っからの快楽主義者であるダンテは、当然、性経験もかなり豊富だ。

児童養護施設を脱走後は、売春婦相手にジゴロみたいな事をして生計を立てていた事もある。

かなりやり手な女とも寝たし、同性同士の経験もした事がある。

しかし、どんな相手と寝ても本気で好きになった事等無かった。

半ば己の性欲を解消するだけを目的に性行為を繰り返していただけである。

(こんなにマジで誰かをモノにしたいと思った事なんて無かったぜ。)

すっぽりと両腕に収まる華奢な躰。

人形の様に整った容姿。

長い濡れ羽色の黒髪。

もし、この世に天使と呼ばれる存在がいるとしたら、ライドウこそがソレにピッタリと当てはまると思う。

だが、ダンテが一番惹き付けたのは、容姿ばかりでは無かった。

彼の人となり、そして己を遥かに凌駕したその強さであった。

(欲しい・・・俺だけのモノにしたい・・・。)

腹の底から沸々と溢れ出す欲望。

まるで幼子が欲しい玩具を手に入れたいと駄々をこねる感情に良く似ている。

否、もっとタチが悪い。

誰にも見られず、ガラスケースの中に仕舞って永遠に鑑賞していたいという、一種異様な感情が己を支配していた。

「まぁ、その前に馬鹿兄貴をどうにかしなくちゃいけねぇよな。」

そう言って身を屈める。

すると風を斬る音と共に深紅の妖鳥が通り過ぎて行った。

何時の間にそこに現れたのか、ダンテの周囲を無数の悪魔、ブラッドゴイルの群れが取り囲んでいる。

「ヴァチカンの兵隊共もこのパーティーに参加するらしいからな?奴等が来る前に兄貴を捕まえてやる。」

背中のガンホルダーから双子の巨銃―”エボニー&アイボリー”を取り出す。

鋼の牙を吐き出す銃口が、室内を飛び回るブラッドゴイルの群れに狙いを定めた。

 

破壊され飛び散る木片と破片。

石畳が割れ、石柱が弾け飛ぶ。

「ぐううう、おのれ・・・・。」

壁にめり込んだ己の巨躯を引き抜き、ベオウルフが憎悪に濁る深紅の隻眼を白銀の騎士へと向ける。

白く光る巨体には、所々深く切り裂かれ、血を噴き出し、全身を朱に染めていた。

「ま、まさかこれ程とはな・・・。」

己の攻撃が全て紙一重で躱されるどころか、的確にカウンターを返してくる。

半人半妖だからと言って、手を抜いて戦っていた訳ではない。

ベオウルフ程の悪魔にもなると、相手が放つ鬼気だけでどれだけの力量があるかある程度見定める事は出来る。

白銀の騎士の実力は、自分をこの忌々しい塔に閉じ込めた魔剣士と同クラス・・・否、それ以上かもしれない。

「時間がもう無い、次で決めさせて貰う。」

時間が無いと呟きつつも、凛としたその表情は、一片の焦りすらも感じさせる事は無かった。

深紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”を構え、その鋭い切先を眼前のベオウルフの核―心臓へと狙いを定める。

「ぐうううううう・・・。」

悔しいが己の力量では、到底この騎士には勝てない。

無念の唸り声を上げるベオウルフであったが、その鼻腔に懐かしいある臭いを嗅ぎ取り、その表情が一変する。

(これは・・・この匂いは・・・間違いない!奴だ!)

腹腔から湧き上がる怒りと憎悪の黒い感情。

死ねない!奴を・・・自分をこの塔に押し込めた憎き裏切り者をこの手でくびり殺すまでは、まだ討たれてやる訳にはいかないのだ。

巨獣は、一声咆哮を上げると、背の4枚の羽根を展開。

光を放つ無数の羽根が、まるでマシンガンの如く、白銀の騎士に襲い掛かる。

凄まじい土煙と瓦解音、深紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”を巧みに操り襲い来る光の弾丸を薙ぎ払う、クー・フーリン。

光の銃弾が止み、土煙が晴れると、そこに隻眼の巨獣の姿は何処にも無かった。

まるで魔法の如く、跡形もなく消えている。

「に、逃げちゃったのかなぁ?」

クー・フーリンの鎧の中に隠れていた小さな妖精が、恐る恐る長い髪の間から姿を現す。

礼拝堂から遠ざかっていく魔獣の気配を感じる。

どうやら、自分達が手に負えないと知ったベオウルフが違う獲物を探しに行ったらしい。

ほっと安堵の溜息を零す妖精に反し、白銀の騎士は口惜しそうに巨獣が消えた穴を鋭く睨み付けていた。

 

平崎市矢来区・・・高層、近代的なビル群の足元には、歴史あるバーやレストラン等が建ち並んでいる。

その一区画、古びた貸しビルの3階にその探偵事務所はあった。

『くずのは探偵事務所』

今時珍しい、樫の木の材質の扉にそんな名前のプレートが掛かっている。

バージルは、そのドアの前まで来ると一つ溜息を零した。

いつもの蒼いロングコートではなく、黒いシックなジャケットとスラックスを身に付けている。

なるべく目立たないように配慮したつもりではあるが、見事な銀髪と端正な容姿がそれを大分ご破算にしていた。

呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばすが、思わず躊躇ってしまう。

きっと『あの人』はこれからするであろう自分の行いを決して許しはしないだろう。

否、もしかしたら全力で止められるかもしれない。

「いよぉ、詩人ちゃぁん。久しぶりだなぁ。」

不意に背後から声を掛けられる。

振り向くと階段の手すり部分に巨大な鷲が1匹留まっていた。

「どーした?遠慮すんなよ?お前の家だろ?親父さんも首を長くして息子の帰りを待ってるぜぇ?」

「グリフォン・・・。」

この大鷲の名前は、グリフォン。

バージルの育ての親、13代目・葛葉キョウジの仲魔だ。

(最初からお見通しという訳か・・・。)

自然と口元に苦笑を浮かべる。

流石は師匠(とうさん)、弟子(むすこ)のする事は、全てお見通しという訳だ。

バージルが諦めてドアノブに手を掛けると不思議と鍵は掛かってはいなかった。

扉を開け、室内に入る。

依頼人の話を聞くソファーとテーブルの奥、ウォールナット材で出来た高価なデスクの前にその人物はいた。

皮張りのソファーに座り、バージルに背を向けている。

重苦しい沈黙。

それを破ったのは、渋みのある師匠(ちちおや)の声であった。

「半年前・・・お前が大学院から姿を消したと聞いた時・・・ある程度覚悟はしていた。」

ズキリと心臓を針で刺されたかの様な痛みがバージルの身体を走る。

そんな弟子(むすこ)の心情を知ってか知らずか、キョウジは、バージルに背を向け、デスクの後ろにある窓から朱に染まる街並みを静かに眺めていた。

「普通に大学出て、普通に就職して、普通に結婚して、普通に家庭を作って、子供と孫に囲まれて余生を送るって人生は、やっぱりお前には合わないか。」

煙草の煙を吐き出し、傍らに置いてあった灰皿でもみ消す。

「過去を忘れろとは言わない・・・だが、何時までも縛られたままでは前には進めない・・・違うか?」

座っていた皮張りのソファーを回転させ、1年振りに会う息子に向き直る。

22世紀を目前としているのに、時代遅れのリーゼント頭に白い背広、紫のYシャツに黄色のネクタイを締めている。

井出たちはまるで昭和時代に流行った探偵そのままであった。

「貴方には感謝していますよ・・・俺に戦う術と生きる糧をくれた・・・そして、家族としての愛情も・・・・。」

バージルの視線が戸棚に飾られている写真とトロフィーに移る。

フォットスタンドの中では、父親に肩車された幼い息子が無邪気な笑顔を浮かべていた。

「まだ飾ってあったんですか。」

写真の脇に同じ様に飾られているクリスタル製のトロフィーを見て、バージルが呆れた様子で溜息を吐いた。

「当たり前な事を聞くな。お前が生まれて初めて勝ち取った勲章だろ?」

それは、少年時代にバージルが全国道場少年剣道大会で優勝した時に貰ったトロフィーであった。

あの時は、実の息子の様にキョウジは喜んでくれた。

「もう一度考え直す選択ってのは・・・・当然無さそうだな。」

「・・・・毎日・・・見るんです・・・悪夢を・・・。」

バージルが心の奥底から閉じ込めている感情をポツリポツリと吐露する。

絞り出す様な告白。

父親は黙って息子の言葉を聞いている。

「俺は・・・この恐怖に打ち勝たなければならない・・・その為には、人間のままでは駄目だ・・・実の父・・スパーダの力を手に入れなければ・・・俺は・・・。」

人間として無償の愛をくれたキョウジの期待を裏切る程に、バージルの中に巣くう悪夢は強大であった。

悪魔の笑い声・・・母親・エヴァの断末魔の叫び・・・そして肉を引き千切る音。

今でも目を閉じるとその時の凄惨な光景が鮮明に蘇る。

「・・・俺の知り合いの召喚術士が飼っている餓鬼が、お前と全く同じ事を言って悪魔になっちまった。まぁ、アッチは、そいつを惚れた末に決断したらしいがな。」

キョウジは、胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火を付ける。

年代物のジッポライター、バージルが幼い頃に使い続けているモノだ。

「・・・・俺はやっぱり駄目な親父だな・・・本当なら全力で止めてやるのが家族ってモンなんだろうが・・・。」

自嘲的な苦笑を浮かべ、デスクの引き出しから何かを取り出す。

机の上に置かれたそれは、陶器で出来た小さな瓶であった。

「それは・・・・?」

「ソーマだ・・・もし・・・もし、自分の身に生死の危険が訪れた時は、迷わずコイツを使え・・・きっとお前の助けになってくれるだろう。」

ソーマ・・・インド神話などに登場する神々の飲料であり、飲めば活力と栄養を与え、寿命を延ばし、優れた霊感を与えると言われている。

「出来る事なら・・・お前がそいつを使わないでいて欲しいんだがな・・・。」

「父さん・・・。」

 

黒曜石通路を抜けた先・・・最深部、礼典室前。

複雑な仕掛けが施された大門の扉を開けるアーカムの背をバージルはぼんやりと眺めていた。

右手には、あの時義理の父親から渡されたソーマの入った陶器の入れ物を握りしめている。

後もう少しで自分は悪魔に生まれ変わる。

不意に脳裏を母親の惨殺遺体と義理の父親の姿がよぎった。

美しい金の髪を己の血でぐっしょりと真っ赤に汚し、力なく横たわる母親。

その傍らで母親の死肉を貪り喰らう六枚の羽根を持った醜悪なる化け物。

実の父―スパーダの唯一の形見である閻魔刀を両手で持つ幼い自分。

その目の前に立つ、時代遅れのスーツにリーゼント頭の壮年の男。

不安と恐怖で震える自分の頭を優しく撫でてくれた。

自分に触れる暖かい手の感触を今でも覚えている。

『事務所の鍵は何時でも開けておく・・・もし気が変わったら、必ず此処に帰って来いよ。』

別れ際に言った義理の父の言葉。

(ごめん・・・父さん。俺は二度と貴方に会う事は出来ないだろう・・・。)

呪われた塔―テメンニグル発動時、多くの人命が失われた。

塔から悪魔の群れが溢れ出し、スラム街に住む人々を喰らい尽くしたからだ。

その原因を造ったのは、自分。

そしてテメンニグルの力を使い、魔界と現世が繋がれば、もっと多くの悪魔がこの地に雪崩れ込んで来るだろう。

「大義を成す為には、多くの犠牲を払わなければならない。」

思考の海から引き戻したのは、漆黒のカソックを纏った火傷(フライフェイス)の神父だった。

いつの間にか固く閉ざされていた大門が開かれている。

「君は今、大きな選択を迫られている・・・・悪魔となり母親の復讐を果たすか・・・それとも、義理の父親の願い通り、人間としての生を全うするか・・・。」

「何が言いたい?」

胡乱気に眉根を寄せるバージルをまるで嘲笑うかの如く、アーカムは言葉を続ける。

「君の育ての親・・・13代目・葛葉キョウジとは少しばかり因縁があってね・・・・私のこの顔の火傷は君の父上から受けたモノだ・・・もう、あれから30年以上が経つか・・・。」

アーカム―シド・ディビスは、平崎市で起きたイナルナ姫降臨事件の首謀者である。

後、もう少しでイナルナ姫の膨大な魔力と霊力を手に入れられたのに、それを邪魔したのが平崎市一帯を管轄にして悪魔召喚術士として活動していた葛葉・キョウジであった。

「しかし、運命というのは実に皮肉だ・・・30数年という長い月日を経てその息子が私の前に現れるとはね・・・。」

「貴様・・・。」

閻魔刀の鯉口に親指を掛ける。

最初にこの男に出会った時から嫌な予感はしていた・・・まさか、義理の父―キョウジと敵対関係にあったとは・・・。

「勘違いしては困るな・・・私は君と戦う気は毛頭ない。」

そう言って、シドは胸ポケットからダンテの銀のアミュレットを取り出す。

「まるでメフィスト・フェレスになった気分だよ・・・・さぁ?どうする?バージル。母親の無念を晴らす為に悪魔になるか・・・それとも、尊敬する師の願いを受け入れて人間として生きるか・・・・私個人の意見としては、是非とも前者を選んでくれると嬉しいんだがね・・・。」

シドがバージルに銀のアミュレットを投げて寄越す。

条件反射で受け取るバージル。

漆黒の神父は、口元に嘲りの笑みを浮かべる。

「決断は、早めに決めた方が良いぞ?もうすぐ此処にヴァチカンの虐殺部隊が来るからな。」

「ヴァチカンの虐殺部隊・・・・”ドミニオンズ部隊”の事か・・・。」

ドミニオンズ部隊・・・ヴァチカン第13機関、『イスカリオテ』が持つ最強の特殊部隊である。

ロシアのアルファ部隊出身者が多く、異端審問官8席―鋼の乙女(アイアンメイデン)の指揮下の元、数々の悪魔によるパンデミックを鎮圧して来た。

悪魔どころか、全くの無関係な民間人すらも、異端者と見なし抹殺する事から、『虐殺部隊』と呼ばれ、裏社会で恐れられている。

「彼等の噂は聞いているだろ?いくら君が強くても、ヴァチカンの怪物達には敵わない。まぁ、スパーダの力があれば話は別かもしれないが・・・。」

そう言った神父の姿が黒い霧に覆われ霧散する。

移動魔法で別の場所に転送したのだ。

『魔界の扉を開くには、二つのアミュレットと魔剣士・スパーダの血を祭壇に捧げる事だ・・・さて、君は一体どんな選択をするんだろうね?』

回廊中に響くシドの声。

恐らく塔内の何処かで、事の成り行きを見物するつもりらしい。

後に残されたバージルは、薄い唇を噛み締める。

悔しいが、彼の選ぶ選択は唯一つしか無かった。

 




葛葉キョウジ登場、バージルの育ての親って設定です。
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