偽典・女神転生―テメンニグル編― 作:tomoko86355
グレーター・デーモンによって深手を負わされてしまうライドウ。
そしてバージルもシドの魔法によって躰を切り刻まれ、崖から落ちてしまう。
疾風の上級魔法―ザンマオンで身体を切り裂かれ、血塗れになって落下する蒼いロングコートの青年を眺めながら、シド・デイビスは勝利の余韻に浸っていた。
ファントムソサエティの中でも屈指の実力を誇り、様々な魔導に精通し、組織の中でも盤石な地位を確実に築き上げて来た。
しかし、平崎市で眠りについていたイナルナ姫の事件が、彼の順風満帆な人生に黒い影を落とす。
膨大な怨霊の力を手に入れんと秦氏の末裔、秦野久美子の身体を依り童にイナルナ姫を甦らせようとしたが、それを当時、平崎市一帯の地域を管轄に置いていたバージルの育ての親、13代目・葛葉キョウジに邪魔されたのだ。
幸い、命だけはとりとめたモノの、彼の左蟀谷から頬にかけて醜い火傷の傷跡が残された。
「あの時は、屈辱に押し潰されて死すら望んだが・・・今では良い教訓になったよ。」
任務を失敗したシドは、責任を問われ、今まで苦労して築き上げて来た地位を全て当時駆け出しのサマナーだったフィネガンという若造に奪われた。
組織離反後は、ダーク・サマナーとして裏の仕事を請け負って細々と喰い繋いでいたが、自分に屈辱を与えたキョウジと地位を奪ったフィネガンに対する復讐心だけは失う事は無かった。
「そういえば、フィネガンの小僧は、何処かのハッカーグループの奴等に倒されたんだったな・・・。」
全てがコンピュータで管理された、次世代情報環境モデル都市―天海市。
そこで起きた大地母神・マニトゥの事件にファントム・ソサエティの先鋭サマナーだったフィネガンが参加し、名も知れないハッカーグループに属するサマナーの少年に倒されたのであった。
憎いライバルのフィネガンの最期を見てやれなかったのが非常に残念ではあるが、今のシドは最早どうでも良い出来事であった。
もうすぐ、魔剣士”スパーダ”の力を手に入れ、この地上に神として君臨するのだから。
「ライドウ・・無事か・・・?」
元の人間の姿に戻ったダンテが、抱えていたライドウを床に降ろす。
壁に頭を打ち受けた際に切ったのか、ライドウの額から血が流れ落ちていた。
「な・・・何とか生きてるぜ・・・。」
全身を苛む苦痛に顔を歪ませながらそれだけ応える。
すぐにハイピクシーのマベルが主の傷を癒す為、回復魔法の”ディア”を唱え始める。
「それより、魔界の扉が開いちまった・・・奴を止めないと”スパーダ”の力を奪われちまう。」
「シド・デイビスって奴か・・・でも、どうやって奴を追い掛ける?」
円形の台座は既に遥か上空へと昇っている。
流石に此処からえっちらおっちら登って行くのはしんどそうだ。
「一旦、表に出てスラム街からもう一度”テメンニグル”に入る必要があるな・・・。」
ポーチから魔石とチャクラドロップを取り出し、口の中に放り込む。
マベルの回復魔法とアイテムのお陰で幾らか動ける様になったが、流石に最上級悪魔(グレーター・デーモン)を喚び出すまでには至らない。
「なら、とっとと行こうぜ?」
「待て、地上は既にヴァチカンの殲滅部隊が制圧している。今出て行けば問答無用で蜂の巣にされちまうぞ?」
「じゃぁ、どーすんだよ?」
苛々とした様子のダンテを尻目に、ライドウは腰のガンホルスターから、愛用のGUMPを取り出した。
「一か八か奴等と交渉してみる。こう見えても一応、ヴァチカンの依頼で動いているからな。」
『ドミニオンズ』の総司令官は、コードネーム『鋼の乙女』ことマウア・デネッガーだ。
生粋の軍人(ひとごろし)である彼女が果たして自分の言葉に耳を傾けるかは、甚だ疑問に思うが、やらないよりマシである。
蝶の羽の様な液晶ディスプレイを展開し、トリガーの横に付いているつまみで無線の周波数を合わせる。
「大佐・・・何者かが此方のチャンネルにコンタクトを取ろうとしてます。」
空中要塞『アイアンメイデン』のコントロールデッキ内。
通信兵が総司令官であり艦長のマウア・デネッガーにそう、報告した。
「ふん、大方17代目辺りだろう・・・下らん。無視してパワード・アーマー部隊を・・・。」
「待ちなよ?マウア。可哀想じゃないか・・・一応話だけ聞いてあげようよ。」
「射場博士・・・。」
隣で呑気にアップルティーを啜っている科学技術総責任者である射場・流を胡乱気に見つめる。
この男は、己が敬愛する異端審問官―13機関(イスカリオテ)の総司令、ジョン・マクスゥエル枢機卿の右腕だ。
流石に無下な扱いをする訳にもいかない。
「ち・・・チャンネルを開いてやれ。」
「了解。」
通信兵がマウアの指示に従ってチャンネルのセキュリティーコードを解放した。
『アイアンメイデン聞こえるか?俺だ・・・17代目・葛葉ライドウだ。』
通信機からノイズ混じりのライドウの声が、メインデッキに流れて来た。
「聞こえている・・・此方は、13機関第8席、コードネーム”鋼の・・・・。」
「いやぁ、ライドウ君。久振りぃ?元気してたかなぁ?」
ライドウの言葉に重苦しい返答を仕様としたマウアの声を流の頓狂な返事が遮る。
この男は何処までも自分の邪魔をしたいらしい。
『射場・流・・・?何でお前がそこにいるんだよ?』
「決まっているだろ?歴史的建造物を見学しに来たんだよぉ。」
まるで遊園地に遊びに来た子供の様にはしゃぐ瓶底眼鏡の優男をマウアは鋭く睨み付けた。
しかし、そんな事どこ吹く風と言った様子で、能天気な科学者は久し振りに会う親友と会話を楽しんでいる。
『お前が居るなら丁度良い、俺の頼みを聞いてくれないか?』
「頼み?君が僕に?・・・うーん、事と次第によっては聞いてあげない事も無いけどなぁ?」
勝手に話を進める瓶底眼鏡の男に『氷の女王』の怒りのボルテージが上がる。
艦内にいる隊員達全員が、内心ハラハラしながら事の一部始終を見守っていた。
『単刀直入に言う・・・少しの間だけでいい、魔界の扉を閉じるのに時間をくれないか?』
「君に?うーん・・・どうしよっかなぁ?確か任務は全て僕達13機関に譲渡する様、指示が出ている筈だよねぇ?それを勝手に変えるのはどーかと思うよぉ?」
猫が鼠を痛ぶる様に、流は口元に酷薄な笑みを浮かべてライドウの様子を伺う。
『お前は、俺に借りがある筈だ・・・一度ぐらいの頼みを聞いてもおつりがわんさか来るぐらいのな・・・。』
「確かに・・・僕達は君に大きな借りがある・・・。」
アップルティーを一口飲むとほうっと溜息を吐いた。
「良いだろう・・・その代わりタイムリミットは今から1時間以内。もし、制限時間以内に魔界の扉を閉じる事が出来なかったら、アイアンメイデンに積んである抗重力弾でレッドグレイブ市一帯を浄化する。」
「博士・・・我々の任務は・・・。」
「マウア、魔界の扉が開いてしまった以上、下手に兵隊を送って鎮圧しても無駄だ。紀元前21世紀のウル・ナンムの作品を台無しにしてしまうのは非常に勿体ないが、我々ヴァチカンの使徒は、数千億の人類を護るという役目がある・・・違うかな?」
「・・・。」
浄化・・・つまりはこの地域一帯を抗重力弾で吹き飛ばすという事だ。
確かに流の言う通り、地獄の門が開いてしまった以上、異界から無限に湧き出る悪魔共を兵を使って鎮圧したところで焼け石に水。
それならば、抗重力弾で空間そのものを消滅させ、日本の天海市の様に幾重もの壁で覆って封印してしまった方が、何倍も効率的である。
『分かった・・・その約束忘れるんじゃねぇぞ。』
ライドウは渋々その条件を承諾すると、さっさと通信を切った。
「浄化だと・・・?アイツ等本気で言ってんのか?」
ライドウと射場・流のやり取りを聞いていたダンテが腹腔から湧き上がる怒りの炎を必死で抑え込む。
ダンテにとってレッドグレイブ市は、第二の故郷だ。
未だ生き残っている市民達だって大勢いる。
それを分かっていながら、ヴァチカンの狂信者達は爆弾を落としてここら辺一帯を更地にしてしまおうとしているのだ。
「言ったろ?彼等はそれが平気で出来る連中なんだ。」
痛む身体を何とか宥めて、悪魔使いの少年は立ち上がるとGUMPのキーボードに何桁か打ち込む。
すると轟音を轟かせて、真紅の外装をした人型のロボットが黒曜石の壁をぶち破って現れた。
「ルージュ、バイクモードチェンジ。」
「イエス・マスター。」
GUMPを閉じると腰のホルダーに仕舞う。
ライドウの命令に電子音声で答えた深紅のロボットは、瞬時に大型バイクへと姿を変えた。
「ダンテ、お前の兄貴はあの崖の下にいる。見つけたらコイツを呑ませて二人で逃げるんだ。」
呆気にとられる銀髪の大男に1本の試験管を渡す。
硝子の筒には封がされており、中には蜂蜜色の液体が満たされていた。
「有難く思えよ?そいつは宝玉って言って体力を全回復してくれる。アホみたいに値が張るアイテムなんだから、絶対無くすんじゃねぇぞ。」
回復アイテムをダンテに無理矢理持たせ、真紅の大型バイクへと向かう。
それを銀髪の大男が慌てて呼び止めた。
「待てよ!まさか一人で行こう何て考えてる訳じゃねぇよな?」
ライドウはダンテの言葉を無視すると、大型バイクに跨る。
「何とか言えよ!?ライドウ!」
何も応えない悪魔使いの少年に苛立ちを感じた銀髪の魔狩人が、少々乱暴に少年の自分よりも遥かに細い腕を掴む。
「そのつもりだ・・・此処からは俺の仕事だ。」
「無茶言うな!アンタさっき一撃でやられてたの忘れたのかよ?」
シドのグレーター・デーモン―マスター・テリオンに成す術も無く、吹き飛ばされるライドウの姿を思い出す。
万全なコンディションでは無いライドウが、果たしてシド・デイビスに敵うのだろうか?
「頼むから手を離してくれ、お前と問答している暇はねぇ。」
「嫌だね!俺も一緒についていく!」
心底惚れた相手をむざむざ死なせる訳にはいかない。
そんな頑ななダンテの態度に、ライドウは困った様に溜息を吐いた。
「バージルはどうなる?お前のたった一人の家族なんだろ?まさか見殺しにするつもりなのか?」
「・・・・っ!そ、それは・・・。」
痛い所をライドウに突かれ、ダンテが口籠る。
「それに、シドは俺と同じサマナーだ。召喚師の過ちは同じ召喚師が正さなければならない。」
「ライドウ・・・。」
何処までも曲げる事が無い、真っ直ぐな悪魔使いの瞳。
その強い眼差しに負けて、ダンテはライドウの細い腕を離してしまう。
ギアをローに入れ、クラッチレバーを離す。
獣の様な唸り声を上げ猛烈な勢いでエンジンが回転。
一度、馬の嘶きの如く前輪を宙に上げたモンスター・バイクは、車体を元に戻すと、破壊された黒曜石の壁から通路の中へと姿を消した。
「家族・・・役目・・・・今までの俺には無縁な言葉だったぜ・・・。」
ぼそりと力なく呟く。
養護施設を脱走してから十数年、自分は好きな様に生きてきた。
真面目に生きて真面目に仕事するなんて人生真っ平御免だった。
だから多少の危険は覚悟の上で荒事師なんて仕事を選んだ。
刹那的な便利屋の生き方は、驚くほど自分に合っていて、何の不満も無かった。
それが、今回の一件で全て完膚なきまで叩き壊された。
生き別れの兄の存在、スラム街から突如現れた古の塔、地獄から這い出して来た悪魔の群れ、そして、自分等足元にも及ばない程強い、悪魔使いとその仲魔。
特にライドウとその忠実な下僕であるクー・フーリンの存在は、ダンテのそれまで培って来たアイデンティティーを喪失させた。
「ライドウ・・・アンタは俺のモノだ。誰にも渡さねぇよ。」
抑える事が出来ない渇望。
例え矜持を失ったとしても、これだけは絶対に捨てられない。
それだけ、ライドウに対する狂おしいまでの思慕はダンテの心を支配していた。
メカとか武器とか全く分からないのに出て来るとワクワクしますね。