偽典・女神転生―テメンニグル編―   作:tomoko86355

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公園での7人の少女の猟奇殺人事件の犯人を探索中、突如スラム街に現れた謎の塔『テメンニグル』・・・それはかつて魔剣士”スパーダ”が現世と異界の入り口を塞いだ封印の塔であった。
事件との関係を調べるべく、塔内に潜入するライドウ。
そこで出会った深紅のロングコートを纏った銀髪の男―ダンテ。
一方、事件の首謀者であるダンテの双子の兄、バージルと彼に付き従う謎の神父ーアーカムは、魔界の扉を開けるべく様々な謀略を張り巡らせる。


ミッション2『死と再生と』

 

沈黙せし石像の間。

死屍累々と横たわる無数の悪魔達の亡骸。

形を保てず塵へと変わる異形の怪物達の中心にフードを目深に被った華奢な体躯の少年が腰に吊るした銃型ハンドヘルドコンピューター・・・通称GAMPをホルダーから引き抜く。

蝶の羽の如く展開する液晶パネル。

繊細な指先がピアニストの様にキーボードを叩くと、空中にホログラフィーで出来上がった塔内の地図が映し出された。

「この塔は多重構造で出来上がっている。最上階に行くには各階層の鍵を手に入れなきゃならん。」

塔の階層は全部で七つ。

上に行くには最低でも4つの鍵を使用しなければならない。

「彼女達を生贄にした犯人がそこに居るのですか?」

銀色に光る鎧を纏い、手には深紅の槍を握った美貌の騎士が主を見つめる。

濡羽色の長い黒髪、冬の湖面を思わせる澄んだ蒼い瞳、まるで絵本に登場する騎士そのものである。

「かなり強い気と魔力をそこに感じるんだ。恐らく犯人は二人、一人は俺と同業者かもな。」

そう言ってライドウが無造作に鈍く光るクナイを部屋の片隅に投げつける。

それは寸分たがわず石像の悪魔―エニグマの巨大な眼球を貫いていた。

ライドウを狙っていた光の矢が虚しく天井に突き刺さる。

「どうしてそこまで分かるの?」

少年の肩にちょこんと座った妖精―ハイピクシーのマベルが不思議そうに質問する。

「有象無象の悪魔の割には妙に連携が取れていた。術士の指示がなければ考えられない動きだ。」

同じ悪魔使いとして通じる何かがあるのだろう。

ライドウは開いていたパネルを戻すと、腰のガンホルダーにGAMPを収めた。

「マスター、強い気が此方に近づいて来ます。」

秀麗な眉根を寄せ、白銀の騎士がホール入り口に視線を向ける。

「だな、どうやら大人しくお家に帰ってはくれないみたいだ。」

強い気と僅かに感じる悪魔特有の魔力。

この持ち主には心当たりがある。

テメンニグル大門前で、軽く脅しをかけた銀髪の大男だ。

予想通りライドウが入り口に顔を向けるとそこには深紅のロングコートを纏った便利屋=ダンテが両腕を組んで立っていた。

「いよぉ、また会ったな?坊主。」

「俺は会いたくなかった。」

おどけた口調で軽口を叩くダンテに同じ軽口で返す。

この手のタイプの人間は大の苦手だ。

自分が勝つまでしつこく付き纏う。

決して負けを認めない。

自分の腕に絶大な自信を持ってる。

「なぁ?頼むから大人しく帰ってくれないか?ぶっちゃけ仕事の邪魔なんだよ。」

こういうタイプの輩は早々排除するのが得策だが、ライドウ自身それをやる気がない。

いくら半分悪魔の混じり者でも、人間(ヒト)は人間(ヒト)。

出来る事なら殺したくはない。

「俺の兄貴がこの上で待ってるんだ。帰る訳にはいかねぇな。」

腰に吊るしたガンホルスターから、双子の銃”エボニー”&”アイボリー”を引き抜き、ライドウの急所に狙いを定める。

いくら見た目が子供でも、相手は恐ろしい魔法を使う術士だ。

二度と油断はしない。

「兄貴?お前の身内がこの騒動を起こしたのか?」

「そうだ。お陰でコッチも迷惑してる。」

兄―バージルのせいで、やっとの思いで手に入れた自分の城を失ったのだ。

まぁ、そこまでこの少年に教えてやるつもりはないが。

「成程・・・兄弟揃ってろくでなしか。」

「何か言ったか?」

ダンテには分からない言葉・・・恐らく日本語だと思うが・・・で小声で呟くライドウにダンテが怪訝な表情をする。

「・・・お前、数日前に郊外の公園で起こった事件を知っているか?」

「・・・・?何の事だ?」

「7人の少女達が何者かに殺害された・・・人間(ヒト)がやったとは思えない殺し方でな。」

唐突過ぎるライドウの質問に銀髪の大男は大袈裟に肩を竦めてみせる。

「知らねぇな。生憎うちは新聞取ってねぇんだ。」

一体この少年は何が知りたいのだろうか?

全く関係が無い殺人事件の話をされて、毒気を抜かれた様な気分になる。

「そうか・・・本当に何も知らないみたいだな。」

どうやら事を起こしたのは兄貴の方で、弟はただ単に巻き込まれただけらしい。

ライドウはこれ以上、この男から何も情報を得られないと知ると最上階へと向かうべくホールの出口に脚を向けた。

「おい、人を無視するとは良い度胸だな。」

”エボニー”&”アイボリー”の狙いを少年の華奢な背中に定める。

此処までコケにされたのは初めてだ。

した事は星の数ほどあるが、されると此処まで腹が立つものなんだな。

頭に血が上りかけているダンテの眼前に鈍く光る銀の影が現れた。

ライドウの仲魔―クーフーリンである。

「クー?」

「貴方が手を下すまでもない相手ですよ?この場は私に任せて下さい。」

真冬の湖面を思わせる蒼く冷たい双眸でダンテを見据えつつ、白銀の騎士は背後にいる主に向かってそう言った。

「了解、なるべく殺すんじゃないぞ?」

手首に仕込んでいたクナイをホルダーに戻す。

ダンテが銃を発砲する前に眉間に叩き込んでやるつもりだったが、その必要は無いみたいだ。

片手を上げ、去っていく悪魔召喚術士を追い掛けようとしたダンテの前に再び白銀の騎士が立ち塞がる。

騎士から放たれる異様な威圧感に思わず一歩後ずさるダンテ。

「おい、俺が用があるのはあそこにいる糞餓鬼だ。ぶちのめされたく無かったらとっとと失せろ。」

口調は強気だが、内心は騎士から放たれる鬼気に鳥肌が立っていた。

長年荒事で培って来た経験があるから分かる。

この黒髪の騎士は強い。

「それはこちらの台詞だ。大人しく帰ればそれで良し、従わないなら・・・。」

右手に持つ深紅の槍を構える。

「貴様には死んで貰うだけだ。」

「へ!面白れぇ・・・やってみろよ。」

売られた喧嘩は喜んで買うのが荒事師の常識だ。

相手が自分より強かろうが関係ない。

確実にぶちのめし、地面に這いつくばさせてやる。

 

 

「クーの奴、殺すなと言ったのに・・・。」

先程まで感じていた強い気がみるみる弱まっていく。

恐らくあの生意気な若造は、自分の仲魔に痛めつけられているに違いない。

クー・フーリンとダンテの力量の差は歴然で、簡単に例えるならちっぽけな蟻が巨大な象に喧嘩を売るのと一緒だ。

「ライドウ!何か来るよ!」

肩に立っている妖精が前方を指さす。

見ると青白い光を放ちながら、巨大な何かが此方に向かって来ていた。

「あらら、異界化が進んでいるとはいえ、まさかあんなモンまで此方側に来るとはな。」

蒼く光る複眼とムカデを思わせる体躯に無数の脚。

魔界の最下層で生息している巨大生物、ギガ・ピートである。

「いやぁん、蟲嫌い。」

顔を真っ青にしたマベルがライドウの腰に吊るしたウェストポーチに潜り込む。

獲物を発見した巨大ムカデは、青白い雷光をばら撒きながら、ライドウに向かって一直線に突き進んできた。

「まぁ、試し斬りには丁度良いか。」

まるで新しい玩具を買い与えられた子供の様な無邪気な笑顔を浮かべ、ライドウは背負った七星剣を抜き放つ。

高位悪魔が宿った魔剣は、迫りくる獲物に舌なめずりでもしているかのような怪しい輝きを放っていた。

 

悪魔と人間の混血児であるダンテは、幼い頃からすでに人智を超えた膂力と生命力をその身に宿していた。

母を失い、双子の兄バージルと生き別れになったダンテは、自然の成り行きで養護施設に預けられた。

しかし、人が決められたルールに従うのは良しとしない性分のダンテは、12の頃に養護施設を抜け出してしまう。

修道院のシスター達は、とても優しい人達ばかりだった。

美味しい食事と暖かい寝床を幾らでも子供達に与えてくれた。

まぁ、その対価が臓器と赤ちゃんの売り買いなのが頂けないが。

「ぐはっ!」

壁に叩きつけられ、口から鮮血を吐き出す。

今の衝撃で、肋骨が何本か持って行かれたらしい。

「どうした?叩きのめすんじゃないのか?」

数メートル先に佇む白銀の騎士が、つまらなそうに溜息を吐き出す。

ボロボロのダンテと違い、此方は全くの無傷だ。

「ち、クネクネと妙な動きしやがって。」

口内に溜まった血を吐き出し、大剣リベリオンを杖代わりに何とか立ち上がる。

自分の斬撃が一度も当たらない。

否、当たらないどころか逆にカウンターを喰らう始末だ。

「まるで子供が棒切れを振り回している様だな?美しさの破片も無い。」

あらゆる体術、剣術を習得してきたクー・フーリンにとって、ダンテの戦い方は野蛮極まりない行為にしか映らなかった。

剣も大振り、おまけに銃の扱いもお粗末だ。

唯一褒められるのは、その驚異的な膂力とタフさか。

「は?何言ってんだ?お前、頭の中身大丈夫なのかよ。」

「孫子の兵法にこんな言葉がある、正を持って合い、奇を持って勝つ。貴様にはそのどれもが無い。いわば低能な猿共の戯れと同じだ。」

紀元前500年頃に実在した偉人の話をした所で学のないこの野蛮人には通じないだろう。

「小難しい事をベラベラと・・・喧嘩に兵法も糞もねぇ。」

リベリオンを構え、一気に間合いを詰める。

常人よりも遥かに優れた筋力を持つダンテにしか出来ない芸当だ。

裂帛の気合の元、必殺の斬撃は確実に銀の騎士を捕えていた。

しかし・・・。

「何!?」

幻影の如く掻き消える黒髪の騎士。

次の瞬間、ダンテの四肢から鮮血が迸り出た。

深紅の槍『ゲイボルグ』の鋭い切っ先がダンテの鍛え上げられた四肢をいとも簡単に切り裂いたのである。

「跪き、頭を垂れ、命乞いをしろ。」

凄まじい激痛により、持っていたリベリオンを床に落とし両膝を地面に付く。

そのダンテの頭上に、クー・フーリンの冷たい声が掛けられた。

「そうすれば助けてやらない事も無い。」

やはりいくらライドウの仲魔とはいえ、悪魔は悪魔。

その心は、この塔内を徘徊している怪物達と何ら変わる事はない。

「へ・・・そりゃ、あの糞餓鬼の命令か?色男。」

「何?」

いくら驚異的な再生能力を持つダンテでも、両足をズタズタに引き裂かれては、立ち上がる事など不可能だろう。

八方塞がり、四面楚歌、しかしその闘志は何一つ揺らぐ様子は無かった。

「餓鬼のケツを舐めるしか出来ない糞悪魔が随分と生意気な口叩くじゃねぇか。」

全身を襲う苦痛に粗い息を吐き出す。

力量の差は歴然、どう逆立ちしたって叶う相手ではない。

しかし、このままでは終われない。

「傷が再生するまでの時間稼ぎか?愚かしい。」

床に転がっている大剣リベリオンを拾い上げる。

クー・フーリンの口調はあくまでも冷静だった。

だが、その秀麗な眉根は明らかに不快を表しているかの様に歪められている。

「未熟者が持つにしては過ぎたシロモノだな。」

ずっしりと重厚感のある大剣は、鍔に当たる部分の両側の中央に髑髏の彫刻がなされている。

かなり強力な悪魔が宿っているのか、大剣からは微かに魔力が感じられた。

「汚い手でそれに触るんじゃねぇ。」

父親の形見である大剣を奪われ、ダンテの心に怒りの炎が灯る。

彼の父、魔剣士・スパーダが残した唯一の形見。

物心ついた時から父親の存在など知らないダンテにとって、彼の温もりを感じられるただ一つの顕在するものが大剣・リベリオンであった。

血塗れの両手で”エボニー&アイボリー”を抜き放つ。

刹那、ダンテの身体に衝撃が走った。

胸元に暖かい湿り気を感じる。

視線をそこに下すと、胸から鈍く光る大剣の切っ先が突き出ていた。

「返してやったぞ?これで文句はなかろう。」

感情が全て欠如したかの様な美青年の冷たい声。

ダンテが視認するよりも速い速度で背後に回ったクー・フーリンが、大剣を背後から突き刺したのである。

的確に心臓を狙った一突き。

口から大量の血が溢れて来る。

「マスターは、交戦中か・・・早く合流しなければ。」

此処から大分離れた場所で、彼の主が戦っているのが分かる。

白銀の騎士の頭の中には、背後から自分の愛刀で胸を突き刺された銀髪の大男の存在など綺麗さっぱり消え失せていた。

スローモーションの様にうつ伏せに倒れるダンテ。

徐々に光を失いつつある彼の双眸に映った最後の光景は、自分を殺害した白銀の騎士の後ろ姿であった。

 




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