偽典・女神転生―テメンニグル編― 作:tomoko86355
ライドウは、同じ召喚術師であるシド・デイビスを止める為、ダンテと別れ一人テメンニグルへと向かう。
幼い頃、自分は良く孤立していた。
余りにも幼過ぎて、悪魔の力をコントロール出来ず、感情を爆発させては、周りを傷つけていた。
そんな自分を育ての親、葛葉キョウジは辛抱強く教育してくれた。
戦う術を・・生き残る知恵を・・・そして何よりも家族の愛情を惜しみなく与えてくれた。
「父さん・・・。」
シド・デイビスの魔法によってズタズタに引き裂かれた身体と矜持。
血を大量に失い、四肢に全く力が入らない。
このまま出血が続けば、確実な死が待っている。
「悔しいよ・・・父さん・・・。」
脳裏に浮かぶのは、困った様な優しい笑顔を浮かべて自宅兼仕事場である『くずのは探偵事務所』の扉を開けてくれる時代遅れのスーツを着た壮年の男の姿。
半人半妖の異質な自分を実の息子として受け入れてくれた優しい父。
時に厳しく、時に優しい、父親であった。
それなのに・・・・自分は、その父親の人間としての生を歩んで欲しいという願いを踏みにじってしまった。
「情けねぇなぁ・・・めそめそ泣くなんてアンタらしくないぜ。」
頭上から双子の弟―ダンテの声がする。
俯いていた顔を上げるとそこには深紅のロングコートを纏った銀髪の男が立っていた。
「何しに来た・・・?俺を笑いに来たのか?」
激痛に呻きつつ、瓦礫に身を預け、バージルは双子の弟を睨み付ける。
「違うよ・・・ライドウの奴にアンタを助けろと命令されたんだ。」
ダンテは、崖を滑り降りるとバージルの傍まで歩み寄る。
そして片膝を突き、ライドウから渡されたガラスの筒をポケットから出した。
「呑めよ、宝玉って言う回復アイテムらしいぜ。」
その名前なら聞いた事がある。
確か体力を全回復してくれる希少なアイテムだった筈だ。
バージルは、蜂蜜色の液体が満たされたフラスコを受け取る。
「それで傷を治したら此処から逃げろだとさ・・・何処までお人好なんだか。」
ダンテは、肩を竦めるとバージルが身を預けている瓦礫の傍に腰を降ろす。
暫く無言でフラスコを眺めていたバージルは、蓋を剥がすと一息に蜂蜜色の液体を飲み干した。
するとあれ程、自分を苛んでいた四肢の激痛が嘘の様に引いていく。
見ると出血が完全に止まり、抉れていた肉が盛り上がって再生していた。
「おい?何処へ行くんだよ?」
傷が完全に完治したバージルは、突然立ち上がり崖を登って行く。
「決まっている・・・アーカム・・否、シド・デイビスに報復する。奴にスパーダの力をむざむざと渡す訳にはいかないからな。」
「おいおい、俺の言った言葉忘れたのかよ?此処から逃げろって言ったろ?」
未だ父親(スパーダ)の力に固執する兄を呆れた様子で眺めた。
「なら貴様は、奴をそのまま野放しにするのか?奴にやられた屈辱を忘れろと?」
「まぁ、そりゃぁ確かにその通りなんだが・・・。」
バージルの言う通り、シドにスパーダの力を渡す訳にはいかない。
いくら自分よりも遥かに強いライドウが、シドの後を追い掛けているとはいえ、彼は未だに万全な状態ではないのだ。
惚れた相手が命を懸けて戦っているのだ。
当然、気持ちは兄と同じであった。
ダンテは、超人的な脚力で一気に兄、バージルが居る崖の上まで跳躍する。
「今更だけどさ、俺達って生き別れの兄弟なのに、それらしい会話一度もしてねぇよな?」
蒼いロングコートの青年を改めて見つめる。
双生児とは、同じ母親の胎内で同時期に発育して生まれた二人の子供であるのが一般常識だ。
多胎児とも呼ばれ、大まかに一卵性双生児と二卵性双生児の二つに分かれる。
ダンテとバージルは双子ではあるが、若干、バージルの方が女性的な顔立ちをしている。
背丈も大柄なダンテより一回り小さく、もしかしたら母親の遺伝情報が多いのかもしれない。
そうなると二人は二卵性双生児という事になる。
ダンテは父方の方に、バージルは母方の方に似たのだ。
「だから何だと言うんだ?それと俺をジロジロ見るんじゃない。」
明らかに嫌悪感を丸出しにして、弟を拒絶する兄に、ダンテは大袈裟に溜息を吐き出す。
「普通、映画なら感動の再会って事になるのになぁ?」
やっと出会えた家族。
それなのに、現実の兄は余りにも冷たく素っ気ない。
まぁ、元々は自分の持つアミュレットを奪い取って魔界の扉を開けるのが目的だったのだから、そこに兄弟の情を求めるのはお門違いだ。
「・・・・お前とは、もっと違う形で会いたかった・・・。」
若干頬を染めた兄がそっぽを向いて小さく呟く。
バージルとて、十数年前に生き別れた弟とこうやって再会出来て感慨の想いを抱かない筈は無かった。
記憶に残っているのは、自分と同じ銀髪の小さな少年の姿。
内向的で思った事を中々表現できない自分と違い、弟のダンテは素直で社交的だった。
当然、友達も多く、彼の周りには親しい仲間が大勢いた。
改めて大人へと成長した弟を見つめる。
彫の深い端正な顔立ち、バージルと違い背が高く、鍛え上げられたがっしりとした体躯は、どことなく育ての親、キョウジに似ていた。
素肌に深紅のロングコートという奇抜な恰好。
そこから覗く鎧の様な腹筋を見た瞬間、不埒な事を考えそうになり、慌てて視線を逸らす。
(馬鹿馬鹿しい、コイツと父さんが似てる筈がないだろ?)
バージルにとって義理の父、葛葉キョウジは神聖な存在だ。
決して、素肌に皮のロングコートを着る様な美的感覚がおかしい恰好などしない。
「どうかしたのかよ?バージル。」
兄の異変に敏感に感じ取ったのか、ダンテが傍によって聞いて来た。
「何でもない!それと俺に近づくな!殺すぞ!!」
まるで威嚇する猫の様に毛を逆立てて怒る双子の兄を見て、ダンテは理由が全く分からず肩を竦めた。
呪われし塔『テメンニグル』に向かってスラム13番通りを疾走する深紅のモンスターバイク。
大型バイクを巧みに操作するのは、女性の様に小柄な体躯をした少年であった。
「ライドウ・・・やっぱり志郎を喚んだ方が良いんじゃない?」
少年が着るパーカーの胸元に入り込んだ小さな妖精が顔色が大分悪い主を見上げて言った。
「アイツの頭が冷えるまで召喚はしない。」
「でも、今のままじゃシドって奴には勝てないよ?」
確かにマベルが言う通り、シドの持つ最上級悪魔―グレーターデーモン、マスター・テリオンに勝つ事は出来ないだろう。
しかも、今のライドウは魔力が枯渇し、ロクな魔法が使えない状態だ。
普通なら、今すぐにでも番を召喚して魔力のパスを通し、補填しなければならない。
「大丈夫、なんとかなるさ。」
そう言って、ライドウは困った様に笑う。
『なんとかなる。』これは、彼の何時もの口癖だ。
事実、彼はその言葉でどんな苦境も乗り越えて来た。
(でも、今は状況が違う・・・。)
あの時は、必ず番のヨハンかクー・フーリンがいた。
彼等の助力があったからこそ、あらゆる修羅場を潜り抜けて来られたのだ。
(私にもっと力があれば良いのに・・・。)
無力なピクシーでしかない己を激しく呪う。
もし、彼女が代理の番が出来れば、状況はもっと違ったかもしれない。
「・・・!!ライドウ、来るよ!!」
危険を察知した妖精が主に注意を促す。
暗闇に飛翔する深紅の怪鳥達の群れ。
テメンニグルを住処にしている妖獣―ブラッド・ゴイルだ。
徒党を組んだ血の色をした蝙蝠達は、ライドウの華奢な躰を切り裂かんと、鋭い爪と牙を剥き出しにして襲い掛かる。
「マベル!しっかり掴まっていろよ!!」
バイクを自動操縦に切り替え、M11A1ガスブローバックサブマシンガンをルージュに備え付けてあるツールバッグから引き抜いた。
両手に持った2丁のサブマシンガンが火を吹く。
無数に放たれた鋼の牙は、次々に深紅の蝙蝠の群れを喰い千切って行った。
元の石の石像へと変わり、粉々に砕けていくブラッドゴイルの群れ。
しかし、数が圧倒的に多過ぎる。
撃ち洩らした数体が、悪魔使いの少年に襲い掛かった。
「ルージュ!手を貸せ!!」
「イエス・マスター。」
主の呼び掛けと共にロボット形態へと変わる深紅のモンスターバイク。
ライドウが空中に大きく跳躍。
それと同じくしてルージュの両腕に設置されている重機関銃から鉛の弾丸がばら撒かれた。
暗闇を眩く照らすマズルフラッシュ。
次々と消し飛ぶブラッドゴイルの大群。
真紅の蝙蝠群が粗方片付けられると、ルージュは再び大型バイクに変形する。
そのシートに、空中で身を捻ったライドウが華麗に跨った。
「大丈夫か?マベル。」
先程の曲芸で大分参っている胸元の妖精に向かって声を掛ける。
「うん・・・何とか生きてるぅ・・・。」
真っ青な顔をしたマベルがブルブルと震える手で親指を立てる。
いわゆるサムズアップというジェスチャーだ。
「よし、そんじゃ次も頑張ってくれ。」
半ば死に体状態の妖精に激励を送り、ライドウはハンドルのグリップを捻りアクセルを全開にさせる。
マフラーから炎が噴き出し更に加速するモンスターバイク。
障害馬術宜しく、その巨体を跳躍させると古の塔の壁面に取り付く。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
言葉にならない悲鳴を上げて、滂沱の如く涙と悲鳴を上げるマベル。
それに構わず、ライドウは頭上から落ちてくる巨大な岩の塊を巧みなハンドル技術で躱していく。
「!!?」
突然、壁面の一部がゴッソリと剥がれ落ち始めた。
轟音と共に落ちてくるテメンニグルの外壁。
それを再び跳躍した深紅の大型バイクが飛び乗り、更に急加速して上へと凄まじい勢いで登って行く。
「ルージュ!!」
登り切った塔入り口付近に悪魔の群れ―ヘル・プライドを視認したライドウは、大型バイクに声を掛ける。
人型形態へと変形するモンスター・バイク。
ライドウも宙に躍り出ると腰に吊るした鞘から七星剣を引き抜く。
ライドウの繰り出す斬撃が悪魔の身体を両断し、重機関銃から吐き出される鉛の牙が、異形の怪物達を引き裂いていく。
地底御苑、上昇部に着地する一人と巨大な機械人形。
刀に切り刻まれ、弾丸に無残な姿に変えられた悪魔達が塵となり、辺りに降り注いだ。
「何とか此処までこれたな?」
約束通り、殲滅部隊は戦線から一時離脱しているのか、一度も邪魔される事は無かった。
あの瓶底眼鏡を本気で信用するつもりは一ミリとてないが、今はあの口約束を頼りにするしかない。
チラッと胸元にいる妖精に視線を落とす。
マベルは完全に白くなって口から魂を吐き出していた。
「ルージュ、お前は此処に残って俺達が帰って来るまで待機な?」
「イエスマスター。」
バイク形態に戻ったルージュを確認すると、塔内に入る為に扉へと向かう。
正直、シドに勝てる勝算など更々ない。
しかし、”クズノハ”の揺るぎなき信念と矜持が今のライドウを突き動かしていた。
巨大空中戦艦『アイアンメイデン』
そのメインデッキの中、高級な皮張りの椅子に座ったヴァチカン科学技術開発部総責任者、射場・流は、背凭れに身を預けてタブレットを弄っていた。
「一体何をお考えですか?博士。」
「何って?」
隣に座る『アイアンメイデン』艦長兼対悪魔殲滅部隊”ドミニオンズ”司令官のマウア・デネッガーの質問に同じく疑問形で返す。
「17代目・葛葉ライドウの事です。何を考えて奴に時間を与えたのですか?」
彼女は未だにライドウと流の勝手に決めた取り決めに納得が出来ないでいた。
この案件は既にヴァチカン側に譲渡されている筈だ。
クズノハにも前もってその事は伝えてある。
これは葛葉・ライドウの独断専行であり、重大な規約違反だ。
正当な権限を持つ自分達が、こんな茶番に付き合う道理は無い。
「彼は優秀な悪魔使い(デビルサマナー)だ。それに、経歴を調べてみると魔界に何年も在留していた記録もあるからね。あちら側の事を知り尽くしてる。当然、妖閉空間を閉じる方法もね。」
「だから猶予を与えたと?もし、失敗したらどうするつもりなんですか?」
それが一番の気掛かりだ。
これ以上最悪な事態を招けば、ヴァチカンの沽券に拘わる。
「失敗なんて絶対しないよ・・・彼は・・・17代目・葛葉ライドウは、因果律を統べる絶対者だ。それは当然、魔界の世界でも同じ事・・・例えどんな強力な悪魔が現れても決して彼を殺す事は出来ない。」
「・・・・・”帝王の瞳”・・・。」
流の口から出た『絶対者』という言葉に、マウアはぼそりとそう呟く。
帝王の瞳・・・・天界・人界・霊界の三界の因果律を支配する王の瞳。
制限や制約などといった事柄に全く縛られぬ究極なる者。
「そう・・・だから僕達はただ待っていれば良い・・・王の帰還をね。」
「・・・・。」
この男は最初から抗重力弾を落とす気など更々ない。
初めから分かっているのだ。
葛葉ライドウが魔界の扉を閉じる事が出来る唯一の存在である事を。
自分設定かなり有り、バージルは自分よりも背が高くてがっしりとした年上の男性に弱いです。