偽典・女神転生―テメンニグル編― 作:tomoko86355
死せる遊戯の冥府でダムド・キング達との戦闘に勝利するも、ライドウは魔力が尽きて倒れてしまう。
終局へと続きし滅の焉道へと繋がる時空への切れ目の中に消えていく銀髪の青年の後ろ姿をぼんやりと眺め、ライドウは一つ溜息を零す。
「ら、ライドウ大丈夫?」
仲魔のハイピクシーのマベルが恐る恐る主の少年に声を掛けた。
「御免・・・心配かけたな?マベル。」
主の顔を覗き込む小さな妖精に笑顔を向ける。
そして口元を汚す血の跡をジャケットの袖で乱暴に拭った。
どうにも、ああいう性根が捩じくれ曲がった糞餓鬼の相手は苦手だ。
ライドウがバージルに言った言葉は、全て彼自身の推察だ。
闇を司どりし暗黒の頂で精神波支配―ブレインジャックを行い、ほんの僅かな時間ではあるが、バージルの心の深層心理を垣間見た。
その時見た映像の中に、泣きながら子供達を平手で殴る母―エヴァの姿があった。
そしてリビングに飾られているベネディクト十字架。
一目で彼女が敬虔なカトリック信者である事が分かった。
そんな神の信徒である彼女が何故、悪魔であるスパーダの子を身籠ったのかは知らない。
ただ、実の子である筈のバージルとダンテを虐待していた事は間違い無かった。
虐待経験のある子供には、ある心理的特徴が出て来る。
虐待された事を突然思い出し、苦痛を感じる侵入性症状群。
人との関りを極度に回避し、記憶が抜け落ちる解離性健忘。
まるで別人の様になって振舞う解離性同一性障害又は回避・麻痺性症状群。
そして些細な出来事で突然激昂し、暴力的衝動や破壊的行動、そして自傷行為に走ってしまう過覚醒症状群だ、
その中で、バージルは解離性健忘と過覚醒症状群を患っていた。
都合の良い記憶だけが残り、周囲の人間を敵と見なし、決して相容れようとしない。
弟のダンテにはそう言った心理的ストレス障害は全く見られないが、何らかの影響は必ず受けている筈だ。
「俺はカウンセラーじゃない・・・専門家でもない門外漢がこれ以上詮索するのは危険だ。」
全て興味本位から本で得た知識だ。
「ライドウ・・・・アイツが怖がっているモノってお母さんだったの?」
アイツとは、恐らくバージルの事だ。
あの銀髪の青年がこんな暴挙に出たのは、まず間違いなく彼の心の中に巣食う恐怖心が原因だ。
そこをシド・デイビスに付け込まれた。
「多分な・・・根本的な問題はスパーダという悪魔から始まった事だ・・・あの悪魔が力を捨て人間になろう何て考えなければ、バージルもダンテも・・・この街に住む住民達もこんな悲劇に会う事は無かった。」
そう、全ての起因は魔剣士・スパーダから始まっている。
否、そもそも彼は人間として生きたかったのだろうか?スパーダに関する文献は驚くほど少ない。
2000年以上前に現世を襲撃した悪魔の軍団にたった一人で立ち向かった・・・ぐらいの荒唐無稽な子供の御伽噺(おとぎばなし)に出て来る実にチープな作り話だけだ。
もっと他に理由があったんじゃ無いのか?否・・・これは捻くれ過ぎた考え方か。
終焉に続きし滅の焉道を抜け、封じられし禁断の冥府へと足を踏み入れたバージルとダンテ。
エリアの中央には円形状の台座があり、そこに漆黒のカソックを纏った男が立っていた。
右手には父の愛刀―フォースエッジが握られている。
「漸く来たか・・・待ちくたびれてしまったぞ。」
後ろを向いていた漆黒の神父がダンテ達、双子の兄弟の方をゆっくりと振り向く。
その顔を見た瞬間、ダンテ達は息を呑んだ。
左蟀谷から頬にかけての火傷の跡が綺麗さっぱりと消えている。
否、初めて対峙した時は、50代半ばぐらいに思えたその容姿が見違える程若返っていた。
痩身だった体形もすっかりと変わり、がっしりと鍛え上げられた体躯に変貌している。
「何だ?貴様等だけか?人修羅は・・・?17代目・葛葉ライドウは何処に行った?」
スパーダの膨大な魔力によって、全盛期の若さを取り戻したシド・デイビスは、半人半妖の双子の兄弟しかその場に居ない事に大分不満を持っている様子であった。
「てめぇ如き俺達だけで十分だぜ。」
「スパーダの力を返して貰おう。」
背負っている大剣『リベリオン』を引き抜くダンテ。
妖刀『閻魔刀』を鞘から抜くバージル。
激しい怒りの炎が灯ったアイスブルーの双眸が、檀上にいる漆黒のカソックを纏った悪魔使いを鋭く睨み付ける。
「ふん、本当なら”クズノハ”最強と謳われる17代目・葛葉ライドウを相手にこの力を試してみたかったのだが・・・。」
正直言ってこんな半人半妖の不完全な双子を相手にしたところで全く腹の足しにもならない。
悪魔の本能故か、凄まじい程の闘争心が強者を求めている。
思う存分、力を振るえるのは、組織『クズノハ』最強の悪魔召喚術師―17代目・葛葉ライドウ以外存在しないと思っている。
しかし、当のライドウが居ないのであれば仕方が無い。
何秒も持つまいが、それでもスパーダの強大な魔力を試さずにはいられなかった。
右手に持つ、大剣『フォース・エッジ』から莫大な魔素が己の身体の中に流れ込んで来る。
黒い魔力のオーラがシド・デイビスの全身を包み、人から異形の悪魔の騎士へと姿を変えていった。
「マダムから聞いたよ・・・異界送りの儀式を受けるんだってね。」
何時もの魔力供給という名の情交後の気だるい空気。
未だ激しい性行為で火照る肢体をうつ伏せたナナシは、敷居の上に座り開いた障子から闇夜に染まる庭園を眺めている主を見上げる。
主の名は、骸。
八咫烏(やたがらす)総元締めであり、十二夜叉大将の長、薬師如来の名を持つ怪物。
蠟を思わせる病的なまでに白い肌に漆黒の長い黒髪を無造作に後ろで一纏めにしている。
人形の如く整った容姿と繊細な指先。
詳しい年齢も素性も不明。
只、分かっているのは、人間(ヒト)ではない何かというだけ。
「何?もしかしてさっきのだけじゃ足りなかったかな?」
褥の上で自分を見上げる情人に、長い黒髪の美青年は美しい双眸を細める。
「まさか・・・アンタのお陰でスッカラカンだよ。」
こんな化け物と最後まで付き合っていたら、確実に犯り殺される。
何時の頃だろうか?この怪物のこんな不毛な関係を結ぶ様になったのは。
魔力特化型の悪魔召喚術師の癖に、決まった番を作らず、任務の度に魔力切れで倒れる不甲斐ない自分を憐れんでから始まった関係の様にも思う。
否、もしかしたら、そんな自分を弄ぶ為に始めた遊戯の一つか。
「ねぇ?百地君の事まだ気にしてるの?彼は咎人だよ?君は16代目の命令に従って彼を裁き、月子ちゃんを無事助けたんだ。何も責められる必要なんて無いじゃないか。」
「・・・・・っ。」
脳裏に袈裟懸けに斬られ、血塗れて倒れる親友の姿が蘇る。
そのすぐ傍らには、三太夫の返り血を浴びた16代目・葛葉ライドウの一人娘、月子の姿。
「それとも、僕から逃げたいだけなのかな?」
和灰皿に吸い終わった刻み煙草を捨て、煙草盆の上に煙管を置く。
異界送りの儀式を無事終えれば、次の”ライドウ”の名を継ぐ権利を得る。
四家の名を継げば、八咫烏から抜け出せる。
血生臭い暗殺稼業から足を洗え、尚且つ骸の玩具にされる事も無い。
「アンタから逃げる・・・?ははっ・・冗談だろ?」
だが、それは叶う事が出来ない夢だ。
例え、次代の”ライドウ”の名を継いだところで、この化け物が自分を手放すとは思えない。
骸の繊細な指先が、汗に濡れるナナシの前髪をかき上げた。
普段、前髪で隠されている無残に抉れた左目が露わになる。
骸の紅玉の双眸が、ナナシの抉れた左目からその下の左腕に移った。
本来あるべき腕は付け根から失われており、代わりに包帯が巻かれている。
「君は・・・本当に可哀想な子だと思うよ・・・・酷い人間達に囲まれ、良いように利用され、挙句、大事な家族も、仲間も、友達も失った。」
「・・・・・止めろ。」
「”クズノハ”四家の中でも英傑と謳われる16代目も所詮人間だ・・・実の娘とその従者である男が関係している事を知りつつも放置・・・・せめて百地君に召喚士の才能があればもっと話は違ったんだろうけどねぇ。」
細い指先がナナシの身体に刻まれた傷跡を一つ一つ辿っていく。
それは快楽を与える為と言うよりも、寧ろ身体中に散らばる傷の数を数えているかの様に思えた。
「月子ちゃんも生まれつき身体が丈夫な方じゃない・・・いくら優れた霊力を持つからと言って召喚に耐えられない身体じゃ意味が無い・・・・自分の代で”ライドウ”の血を絶やす訳にもいかないし・・・16代目も必死だ。」
「何が言いたいんだ?サド野郎。」
この男は只、自分を嬲りたいだけだ。
師の命令で嫌な役目を押し付けられ、親友をこの手で殺し、密かに心を寄せていた少女を絶望の淵に突き落とした。
心も身体もズタズタの自分を更に痛振り、サディスティックに追い詰めて、楽しみたいだけなんだ。
「君の真意が知りたいね・・・何故、”異界送り”の試練を受けるの?僕から逃げる為?それとも復讐の為?・・・ああ、もしかして・・・。」
紅を引いた様な赤い唇をナナシの耳元に寄せる。
「16代目に懇願されたのかな?・・・・”出来損ないの娘と子供を作ってくれ”ってね・・・。」
怒りで視界が真っ赤に染まる。
無意識にうつ伏せていた躰を仰向けに返し、右腕で黒髪の美青年を殴り飛ばそうとした。
だが、その拳は寸での所で、骸の左掌で受け止められてしまう。
「ふふっ・・・もしかして当たり?君って本当に分かり易いねぇ。」
実に楽しそうに紅玉の瞳を細める。
優れた魔法力に加え、類まれな召喚術師の才能。
その二つを併せ持つナナシは、次の後継者に相応しい人材だ。
しかし、残念な事にナナシは、葛葉一族の血筋の者ではない。
それ故、16代目は苦渋の決断として、ナナシに異界送りの試練を受けさせ、四家に相応しい能力を持つ事を宗家に示し、病弱な娘との間に子を儲けさせる事で、より優秀な血筋を娘の代で残そうと考えたのだ。
「死ねぇ!この糞野郎がぁ!!」
美しい顔を怒りで歪める。
腕を取り戻そうにも、常人離れした怪力で完全に抑え込まれている為、身動きがまるで取れない。
「君程人に依存したがる人間はいないよねぇ?まぁ、利用するより利用されてしまう方が生き方としては一番楽なのかもしれないけど、この世界じゃ人格全てを否定され、人間扱いすらもして貰えないよ?」
右腕をナナシの頭上で固定し、首筋に舌を這わせる。
途端に華奢な肢体がびくりと反応した。
長い性調教で、ナナシの性感帯は全て把握済みである。
反抗する態度も可愛いが、過ぎた快楽ですすり泣く姿はもっと可愛い。
「お、俺は・・・魔界に行ったら必ずあの悪魔を手に入れてやる・・・そして、真っ先にてめぇをぶち殺してやる・・・。」
己の躰を這う蛇の様な指先に、ナナシは喘ぎながら呪いの言葉を吐く。
相手が神だろうが魔王だろうが関係ない。
この男だけは・・・この化け物龍だけは・・・必ず自分の手で・・・・。
「・・・・!!!!?」
何時の間に気を失っていたのだろうか?
17代目・葛葉ライドウは唐突に意識を取り戻した。
「ライドウ?大丈夫??」
悪魔使いの少年の肩に座っていた妖精が顔を覗き込む。
(気を失っていたのか・・・?)
バージルから幾らか魔力を分けて貰ったとはいえ、蓄積された疲労が全て解消された訳ではない。
極度の緊張と疲れ、そしてダメージから意識を失ってしまったらしい。
「俺は・・・どれぐらい眠っていた・・・?」
背凭れていた柱に手を付いて、よろよろと立ち上がる。
立ち眩みによる頭痛と吐き気で再び蹲ってしまいそうだが、そこは気力で何とか耐えた。
「10分も経ってないよ?それより、無茶しちゃ駄目だよ。バージルから魔力を貰ったからって、まだ全然回復してないんだからね?」
マベルの言う通り、番が居ない今の状態で戦えば、すぐに魔力が枯渇して再び動けなくなってしまう。
しかし、それでも無理をする必要があった。
流から指定された1時間という制限時間が後僅かという事、そして先にシド・デイビスの元に向かった双子の兄弟、バージルとダンテの気が極端に弱まっているという事だ。
やはり、あの二人では、スパーダの膨大な魔力を手にしたシドには勝てない。
早く行かなければ、二人が殺されてしまう。
『ナナシ・・・。』
その時、ライドウの脳内に番のクー・フーリンの声が響いた。
GUMPに収納されている白銀の騎士が念話で主に話し掛けているのだ。
腰に吊るしてあるガンホルダーに収まっているGUMPの液晶画面が微かに明滅を繰り返している。
『私を召喚して下さい。』
「志郎・・・・。」
自分を召喚し、魔力を供給して欲しい。
クー・フーリンが言いたい事は良く分かるが、生贄拷問室での一件が、従者の召喚を躊躇わせる。
「お前・・・自分が何をしたのかちゃんと理解したのか?」
柱に寄りかかり、粗い吐息を吐く。
真っ直ぐ立っていられない。
今にも膝が崩れ落ちてしまいそうだ。
『貴方の命令に二度違反しました・・・悪魔の欲望を抑えきれず・・・人間を殺そうとしました・・・。』
絞り出す様な志郎の声。
頭では理解しつつも、本能では抗えない。
志郎の男としての本能が、主に対して同じ想いを抱いているであろうダンテの存在を否定している。
「志郎・・・俺は・・・お前に俺と同じ枷を強制するつもりはない・・・俺が不殺の信念を貫き通したいのは、詰まらねぇプライドがそうさせているだけだ。」
そう、これは自分自身の取るに足らない矜持がそうさせているのだ。
それに忠実な仲魔であるクー・フーリンを巻き込むのはお門違いだ。
「お前が人間を捨て、純粋な悪魔になったと知った時・・・俺は自分を責めた。お前をもっと分かってやれば、人間としての一生を失う事が無かったと思ったからだ・・・でも、それはお前自身が決めた道・・・・俺がとやかく言う権利はねぇ。」
身体中が熱い。
心臓が激しく脈打ち、激痛が四肢を苛む。
「悪いな・・・こんな酷ぇ主人で・・・でも、俺は・・・お前が悪魔の本能に酔いしれて戦いを楽しんでいる姿だけは見たく無かったんだ・・・。」
本当に馬鹿で無能な主人だと思う。
他の召喚士達は、使役する悪魔を完全な戦いの駒として扱っている。
殺しに人間の道徳心など一切不要だからだ。
故に自分の信条を悪魔である仲魔に押し付けるのは意味が無い行為でしか無かった。
『・・・ナナシ・・・お願い・・・僕を召喚して・・・。』
主人の自分に対する愛情が痛い程伝わって来る。
故に彼の力になってやりたい。
『貴方を護りたいんだ・・・もう間違いは犯さないから・・・・貴方の剣でいさせて・・・。』
「志郎・・・・。」
ライドウは、腰のガンホルダーからGUMPを引き抜く。
「俺の方こそ頼むよ・・・・こんな大馬鹿野郎な主人だが、最後まで付き合ってくれ。」
口元に自嘲の笑みを浮かべた悪魔使いがGUMPのトリガーを引く。
蝶の羽の様に開くディスプレイ。
そこにクー・フーリンの名前が浮かび上がった。
18禁表現難しいです。
自分の考えや理想を他者に押し付けるのは何だかなぁって感じがします。