偽典・女神転生―テメンニグル編―   作:tomoko86355

25 / 26
最上級悪魔(グレーター・デーモン)を召喚し、ダーク・サマナー、シド・デイビスを倒したライドウ。
しかし、スパーダの愛刀『大剣・フォースエッジ』と二つのアミュレットが空間の裂け目に落ちてしまう。


ミッション25 『終焉』

思えば自分に欲しいモノなど無かった。

力さえあれば何でも手に入った。

金も、女も、食べ物も、寝床も、自分の望むモノは何不自由なく転がり込んでくる。

こういう時だけは、悪魔だった親父に感謝している。

しかし、たった一つだけ手に入らないモノがあった。

それは家族の温もりだった。

仕事をして疲れた躰を横たえるのは、誰一人待っていない冷たい寝床だけ。

一度、同業者のグルーに誘われて、彼の家族と食事を共にした事がある。

15歳になったばかりの長女のジェシカが作るドリアは、見てくれはお粗末だったが、味は中々だった。

何故か自分に懐いた末娘のティキ、甘えん坊のネスティ。

騒がしくも暖かい家族の団欒。

幼いあの日に失ってしまった掛け替えのないモノ。

 

17代目・葛葉ライドウとダーク・サマナー、シド・デイビスとの壮絶な死闘。

ライドウの放った『メギドアーク』のせいで、次元が不安定なのか、あちらこちらに裂け目が出来ている。

その一つに、母の形見である二つのアミュレットと父の愛刀―大剣『フォース・エッジ』が落ちて行った。

慌ててその穴へと飛び込むダンテとバージル。

「・・・!!止せ!二人共戻るんだ!!」

ライドウの静止の声が虚しく辺りに響く。

消耗した躰を叱咤し、何とか立ち上がろうとするが脚に全く力が入らない。

万能属性系魔法の最上位であるメギドアークは、術者に多大なる負担を掛ける為、禁忌の秘術とされている。

力の加減を誤れば、行使する術者自体の身体が四散してしまうのだ。

故に現世での使用は禁止とされていた。

「ナナシ、無茶はしないで・・・。」

双子の兄弟を追いかけようとする主の華奢な躰を抱き留める。

いくら番の自分が傍らにいて、魔力が循環されているとはいえ、今は禁忌の大技を使用したばかりなのだ。

「志郎、俺に構わずあの馬鹿二人を連れ戻して来い。流との約束まで後10分もないんだぞ。」

抗重力弾が発射されるまで、残り8分。

その時間内に現世に戻り、魔界の扉を封印しなければならないのだ。

「その命令は・・・・・応諾(おうだく)しかねます!」

魔槍”ゲイ・ボルグ”が旋回、真紅の魔槍の切っ先が背後から斬り掛かろうとした悪魔―アビスの頭部を斬り飛ばす。

先程の戦闘で、漏れ出た魔力の波動に誘われたのか、気が付くと無数のアビスの群れに囲まれていた。

「私は貴方の剣・・・・あの二人の命より貴方を護るのが最優先事項です。」

主の命と野良犬と同じ双子の命。

天秤に掛ければどちらが傾くか、そんなもの見なくても結果は分かり切っている。

 

不浄なる地獄の門。

砂金の大瀑布(だいばくふ)が轟々と流れるその場所に二つのアミュレットと大剣『フォース・エッジ』が落下する。

母の形見のアミュレットをそれぞれ空中でキャッチする双子の兄弟。

しかし、父の愛刀―大剣『フォース・エッジ』は砂金の河の丁度、中央付近に突き立ってしまう。

兄に盗られては堪らないと大剣に向かって走り出すダンテ。

だが、それよりも早く前転した双子の兄―バージルの方が逸早く『フォース・エッジ』を奪い取ってしまう。

「それをコッチに寄越せ。」

ダンテの右手に絡みついた銀のアミュレットを指さす。

「嫌だね・・・アンタ自分のがあるだろ?」

兄の視線から銀のアミュレットを隠す。

コレを渡したらこの兄が何をするのか・・・事態は明白である。

「二つ揃わねば意味が無い。」

大剣をゆっくりと構える。

自分は何としても実父―スパーダの力を手に入れなければならないのだ。

そうでなければ、育ての父―13代目・葛葉キョウジの想いを裏切ってまで此処に来たのか分からなくなる。

「アンタ・・・親父の・・・スパーダの力を受け継いで何がしたいんだ?シドみたいな糞野郎と同じ事がしたいのか?それとも力を手に入れれば母さんが褒めてくれるとか思ってんじゃねぇだろうなぁ?」

ダンテの口から母親の名前が出て、バージルの秀麗な眉根が不快に歪む。

「下らん事を・・・俺が望むのは唯一つ・・・人修羅を・・・あの化け物を殺す事だけだ。」

最早、母親に認めて貰おうなどと言う考え等、綺麗さっぱり消え失せていた。

彼の・・・バージルの本能がこう訴えかけているのだ。

あの人修羅は危険、どんな手を使ってでも消し去らなければならないと・・・。

「アンタ・・・さっきのを見ただろうが・・・例え親父の力を手に入れてもライドウには敵わない。俺達や親父とは強さの次元が違い過ぎる。」

「黙れ!この世で優れているのは、スパーダの血族だけだ!それ以外は一切認めない!俺達は選ばれた存在なんだ!!」

自分は弟の様に割り切れない。

そう自分達兄弟は、神の理によって選ばれた存在なのだ。

母・エヴァが毎日の様に自分達に言って聞かせた様に、神の加護を受けて生まれた自分達より優れた存在があってはならない。

「・・・バージル・・・・。」

頑なに母の盲信を真に受けている双子の兄をダンテは何とも言えない憐れんだ表情で見つめる。

彼も兄同様、母親にどんなにスパーダの血族が素晴らしいか言い聞かされて育てられてきた。

悪魔の身でありながら、人間に味方した正義の魔剣士。

たった一人で数千の悪魔の軍団を退けた最強の騎士。

幼い子供だった自分は、その御伽噺を目を輝かせながら聞いていた。

何時か自分も大人になったら、父親みたいな素晴らしい剣士になると信じていた。

だが、そんな夢をぶち壊す存在が現れた。

それが、17代目・葛葉ライドウこと人修羅である。

「お前だって俺と同じ筈だ・・・ダンテ・・・人修羅は悪だ。もし母さんが生きていたら俺達兄弟が互いに協力して奴を殺せと言う筈だ。」

初めて双子の兄・バージルから発せられた懇願の言葉。

母親の妄執に囚われた彼の眼から見たら、自分達を必死に救おうとしている悪魔使いが倒さねばならない巨悪に見えて仕方がないのだろう。

「・・・違う・・・ライドウは、俺の・・・俺達兄弟の中にある人間の心を救おうとしてるんだ・・・あんなにボロボロになって・・・他人の為に血を流す・・・アンタだって本当は分かっているだろうが!」

血を吐く様なダンテの叫び。

十数年前に悪魔の襲撃によって生き別れたたった一人の兄弟。

漸く巡り合えた双子の兄は、母親の亡霊に操られ、己以外の優れた存在を一切認めない選民思想に憑りつかれていた。

違う、こんなのは違う・・・これは家族とは呼べない。

「ふん、人修羅に魅入られた哀れな奴め・・・仕方ない、お前を殺してそのアミュレットを奪い取ってやる。」

バージル自身も引き返せない所まで来ていた。

外には、この事件を引き起こした首謀者の一人であるバージルを捕縛せんと、ヴァチカンの虐殺部隊が待ち構えている。

もし、彼等に捕まれば、自分は間違いなく神罰と称して処刑されてしまうだろう。

だが、父・スパーダの強大な力が手に入れば話は別だ。

ヴァチカンの殲滅部隊を蹴散らし、あの忌々しい悪魔使いを殺す事が出来る。

「同じ双子なのにな・・・なんでアンタと俺はこんなにも違うんだ?」

背に収まっている大剣『リベリオン』を引き抜き構える。

「そうだな・・・同じ母親に育てられたのにな・・・。」

弟の言葉に自嘲的な笑みを浮かべるバージル。

本心を言えば、弟に恨みなど一切ない。

しかし、己の信念を貫くには、どうしてもダンテの持つアミュレットが必要なのだ。

 

魔槍『ゲイ・ボルグ』の深紅の刀身が、高位種族―アビスの頭部を斬り飛ばし、身体を真っ二つに両断する。

血しぶきが周囲に撒き散らされる中、無数の悪魔の群れの間を疾走する白銀の影。

刃が何度も閃き、異形の怪物達を細切れの肉片へと変えていく。

「・・・・くそっ!!」

獅子奮迅の戦いを見せる仲魔を見つめ、ライドウは己の無力さに唇を噛み締めていた。

爆弾投下まで刻一刻と迫っている。

このままでは、バージルとダンテを救うどころか自分の身すらも危うい。

「・・・仕方ねぇ、師父!聞こえてるんだろ!頼む、俺に力を貸してくれ!」

腰のホルスターからGUMPを引き抜く。

トリガーを引くと蝶の羽を連想させるディスプレイが開いた。

「何で返事してくれねぇんだよ!?お袋さん!!?」

画面上に表示されている仲魔に向けてライドウが堪らず怒鳴り声を上げる。

「・・・・聞こえている。」

必死の呼びかけが功を奏したのか、ディスプレイから電子音声の声が返って来た。

「頼む、バージルとダンテを連れ戻してくれ!早くしないとヴァチカンの連中がこの街に抗重力弾を・・・・。」

「断る・・・私はお前の仲魔ではない。」

有無を言わせぬ拒絶の言葉。

「私の役目は、お前が11年前に消滅させた目付け役の業斗童子の代わりをする事だ。それと、勘違いしているから言っておくが、私は先代、16代目・葛葉ライドウの番だ。お前の命令に従う気はない。」

「・・・・お袋さん。」

余りにも冷たいその言葉に、ライドウはそれ以上何も言えなくなってしまった。

確かに彼女の言う通りだ。

代々、ライドウの名を継ぐ者は、お目付け役兼指南役の使い魔を従える決まりになっている。

「業斗童子」と呼ばれ、葛葉一派の禁忌を犯した人物がその役目を担う事になっているのだ。

しかし、ライドウは、11年前のとある事件で長年連れ添った業斗童子を失ってしまった。

その代わりの目付として、先代が自分の番にライドウの目付兼指南役を命じたのである。

「・・・・悪い事は言わない、大人しくクー・フーリンと一緒に現世に戻って地獄門を封印するんだ。これ以上、スパーダの血族に拘わる必要はない。」

「あの二人を見捨てろっていうのか・・・。」

「・・・・・そうだ。」

はっきりとした拒絶。

何処の馬の骨とも知れない半人半妖の餓鬼二人に拘わるな。

お前は、『クズノハ』の使命を全うしろ。

つまりはそういう事なのだ。

「分かったよ・・・。」

ライドウは、GUMPを腰のホルスターに戻すと合体剣―七星村正を杖にして立ち上がる。

クー・フーリンのお陰で魔力は徐々にではあるが、回復しているが、とても戦闘出来る状態では無かった。

「マスター!!?」

「何処へ行くつもりだ?17代目。」

主の異変にアビスの躰を貫いていた白銀の魔槍士が振り返る。

視線の先には、先程、ダンテとバージルが消えた次元の裂け目へと向かう主人の姿が映った。

「そんな身体で何が出来る?殺されに行く様なものだぞ?」

粗い吐息を吐きつつ、覚束ない足取りで立つ少年に向かって声の主は大分呆れ返っていた。

歴代ライドウの中でも類を見ない戯け者である。

「分かってる・・・・自分でも本当に何やってんだろって思うわ・・・でも、でもよ。此処でアイツ等二人を見捨てたら、俺は一生自分を許せねぇ。」

アビスの群れに囲まれる番のクー・フーリンに顔を向ける。

鬼神の如き形相で、真紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”を操り、アビスの大群を薙ぎ払う白銀の騎士。

しかし、いかせん数が多すぎる。

主の元に中々近づけない事に相当な焦りを感じている事が分かった。

「悪いな?志郎・・・お前だけでも生き延びてくれ。」

困った様な笑顔を浮かべ、ライドウは不浄なる地獄の門へと続く次元の裂け目に飛び込む。

「ナナシぃいいいいい!!」

クー・フーリンの悲痛な叫びが封じられし禁断の冥府に響き渡った。

 

レッドグレイブ市上空。

巨大移動空中戦艦『アイアンメイデン』のコントロールブリッジ内。

「・・・・そろそろ頃合いかな?」

操舵室の奥まった位置にあるシートに座るヴァチカン科学技術開発部、総責任者・射場流は、懐から手巻き式の懐中時計を取り出した。

銀時計の分針は、明け方の4時30分を指している。

17代目・葛葉ライドウと約束した時刻まで後5分弱であった。

「マウア、そろそろ下に降りたいから、君の兵隊を貸してくれないかな?」

懐中時計を再び懐に仕舞うと、流がそう言った。

「?17代目との約束はどうされるつもりなんですか?」

一段高い位置にあるシートに座る『アイアンメイデン』艦長、マウア・デネッガーは、少々驚いた様子で瓶底眼鏡の優男を見つめた。

「約束?ああ、抗重力弾の事?あんなモノ、彼の尻を叩く為の嘘に決まっているじゃないか。」

ヘラヘラと笑って答えるヴァチカン最高の頭脳にマウアは自分の予感が的中して失望の溜息を思わず吐いた。

「しかし、未だヘルズゲートが閉じる様子がありません。よもやとは思いますが、17代目がゲートを閉じるのを失敗したという、可能性も捨てきれません。」

貴様が勝手に下に降りて悪魔共に喰われる分には一向に構わないが、大事な部下を犠牲にする訳にはいかない。

マウアの言葉の端々には、そんなニュアンスが露骨に現れていた。

「それは無いね。さっきも言ったろ?彼はこの世の理を統べる絶対者だ。誰も彼を殺すどころか、傷つける事すらも出来ないよ。」

何処からその自信が出るのか理解出来ないが、流は相当17代目・葛葉ライドウを信用しているのだろう。

マウア自身も、ライドウが持つ『帝王の瞳』の能力(ちから)は知っている。

大分、眉唾モノだが、もしそれが現実にあるとするならば、流の言葉も道理がいく。

「分かりました・・・一小隊を降ろします・・・後、私も同行させて頂きますので、そこはご理解して下さい。」

ヴァチカン最高の頭脳をこんな所で失う訳にはいかない。

それに、この瓶底眼鏡のマッドサイエンティストは、一度言い出したら全くいう事を聞かない事で有名だ。

こうなったら、素直に折れてしまうのが利口というものである。

 

大剣『リベリオン』と同じく大剣『フォース・エッジ』が激しくぶつかり合い、橙色の火花を散らす。

常人では視認出来ない高速の速さで動く二振りの刀身。

剣風で岩が砕け、砂金の河が跳ね上がり、周囲にキラキラと舞い落ちる。

一旦大きく離れる深紅のロングコートを纏った銀髪の青年と対なす蒼いロングコートを纏った銀髪の青年。

互いに息が上がり、身体が鉛の如く重く感じる。

封じられし禁断の冥府でのダークサマナー―シド・デイビスとの壮絶な死闘。

その時の戦いで負ったダメージが、未だに双子の兄弟の肉体に深いダメージを与えていた。

「ダンテ・・・もう一度言うぞ・・・人修羅を倒す為に俺に協力しろ。」

上がる息の中、兄・バージルは双子の弟にそう命令する。

「お断りだね・・・・ライドウは俺達兄弟の恩人なんだ・・・誰が恩を仇で返す真似何か出来るかよ・・・。」

兄の要求を頑なに突っ撥(ぱ)ねる。

何処までも反りが合わない二人。

父と同じ血を引くのに・・・同じ母から育てられたのに・・・何故二人は此処まで違い過ぎるのか?

「母さんよりも、あの化け物が大事なのか?」

「化け物じゃない!俺達と同じ人間だ!」

心底惚れた相手を侮辱され、激しい怒りが腹腔内を暴れ回る。

出会いは確かに最悪であったが、共に行動するうちにライドウの人となりに触れて、ダンテの考えは大分変っていた。

17代目・葛葉ライドウは、他者の為に平気で命を投げ出す大馬鹿野郎だ。

何度も自分達兄弟を見捨てる機会はあった。

でも彼はそうしなかった。

役目よりも立場よりも、彼は何よりも人命を尊ぶ。

その崇高な信念に、ダンテは誰よりも感銘を受け、そしてどうしようもなく惹かれてしまったのだ。

「ダンテ!バージル!!」

お互い間合いを詰め、必殺の一撃を放とうとしたその刹那。

二人の間を割り込むかの様にして、悪魔使いの声が不浄なる地獄の門に響き渡った。

 

「この馬鹿弟子が!」

高位魔法を使用し、ボロボロになった躰を鞭打って、次元の裂け目へと飛び込んだライドウ。

そんな愚かな弟子に向かって、師であるGUMPの声の主がデジタル化されている肉体を己の意思で血と肉を持つ悪魔の姿へと変える。

銀の毛並みに硬い鱗に覆われた蛇の如く長い尾。

白銀に煌めく雄々しき鬣(たてがみ)と金の瞳。

ギリシア神話に登場する勇猛な巨犬。

冥府の墓守、魔獣・ケルベロスだ。

電子獣、ケルベロスは空中で態勢を崩した悪魔使いの少年をその背に受け止めると、金で出来た巨大な岩に軽やかに着地した。

「ははっ・・・やっぱ優しいよな?お袋さんは・・・・。」

「馬鹿者・・・貴様に死なれては主人の宗一郎に合わせる顔がない。」

力無く己の背に縋る少年を忌々し気に舌打ちする。

因みに宗一郎とは、先代―16代目・葛葉ライドウの本名である。

「ふむ、どうやら例の双子はあそこにいる様だな。」

強い気を二つ感じ、ケルベロスは飛瀑(ひばく)の方向に頭を向ける。

激しい戦闘を繰り広げているのか、剣と剣がぶつかり合う金属音が此処まで聞こえた。

「こんな状況でも兄弟喧嘩か・・・・これだからスパーダの血族は救われないのだ。」

「知ってるのか?」

魔獣から出た意外な言葉に、ライドウは眼を見開く。

「昔・・・ほんの少しだけ拘わった事がある・・・この姿に変えられる前にな・・・。」

まだこの世が紀元前と呼ばれていた時代の時である。

遠い遠い昔、彼女は一人の魔剣士と知り合った。

「で?どうする?あの二人を引き剥がすのは、今のお前では至難の業だと思うが。」

いっその事、自分が塵も残さず焼き殺してやろうかという師の申し出をライドウが慌てて却下する。

「俺が何とかする・・・お袋さんは手を出すな。」

力の入らない躰を叱咤し、白銀の魔獣からヨロヨロと離れる。

辛うじてクー・フーリンとの魔力のパスは繋がってはいるが、回復するのにはまだ相当時間が掛かりそうであった。

「そうはいかん・・・さっきも言ったろ?お前にもしもの事があったら目付け役兼指南役の私の面目が立たん。」

岩を飛び降り、二人の元に走るライドウのすぐ傍らを銀の巨獣が追走する。

「双子の内どちらかがお前に危害を加える素振りを見せたら、私は容赦無く排除するからな。」

「・・・・・。」

ケルベロスの脅しとも取れる言葉にライドウは唇を噛み締めた。

この冷徹な師は、確実に言った事を実行するだろう。

出来るなら最悪な事態だけは回避したい。

 

「ダンテ!バージル!!」

大剣同士をぶつけ合い、最後の力比べとばかりに鍔迫り合いをしている双子の兄弟にライドウが疲労した躰に鞭打って声を振り絞る。

悪魔使いの声に反応して振り返る二人。

二卵性の双子故、その容姿は若干違う。

一人は母親に似て何処となく弟よりも身体が華奢に出来ており、顔立ちも女性的だ。

一方の弟は、父親の血が濃く出ているのか、体格が兄よりも一回り大きく、気骨のある顔立ちをしている。

「一体何やってんだ?早く現世に戻るぞ!」

もう間もなく、ヴァチカンの殲滅部隊がこの街に核に匹敵する威力がある抗重力弾を撃ち込む。

もしそうなれば、二度と現世に戻る事が叶わなくなってしまうのだ。

「人修羅ぁ!!」

予期せぬ想い人の登場に、力が緩んだダンテの隙を突いて、バージルが『リベリオン』の刀身を跳ね上げる。

そして、大剣『フォース・エッジ』の切っ先を悪魔使いの少年へと向けると、地面を蹴り付け、弾丸の如く疾走した。

「バージル!止めろ!!」

兄の凶行を止める弟。

しかし、止まらない・・・否、止められない。

憎き怨敵の心臓にこの刃を突き刺すまでは、止まる事が出来ないのだ。

大剣『フォース・エッジ』の刃が、ライドウの細い躰に突き立つその瞬間、黒い巨大な影がバージルの躰を跳ね飛ばした。

「ぐわぁ!!」

蒼いロングコートの青年の躰を凄まじい衝撃が突き抜ける。

吹き飛ばされる銀髪の青年。

鍛え上げられた四肢に激痛が走り、大剣が手から離れてしまう。

「お袋さん??」

バージルの凶刃からライドウを護ったのは、銀の鬣を持つ巨獣であった。

冷酷に光る金の双眸が、無様に砂金の河の淵まで転がった銀髪の青年へと向けられる。

「言っただろう・・・お前に危害を加える輩は殺すと・・・。」

先程の一撃で既に脚にきているのか、蒼いロングコートの青年は震えながらそれでも気合だけで何とか立ち上がる。

その強靭な精神力だけは、褒めてやるべきか?

「・・・・この・・・下等な魔獣如きが・・・。」

大剣『フォース・エッジ』を失ったバージルは、腰に下げていた愛刀『閻魔刀』を鞘から引き抜く。

屈辱だ。

組織『クズノハ』最強と謳われる17代目・葛葉ライドウにやられたのならいざ知らず。

その使い魔である魔獣に良いようにあしらわれるとは・・・惨憺(さんたん)たる想いで身が焦がれそうだ。

「井の中の蛙大海を知らず・・・・か。初めて会ったお前の父親を思い出すぞ?」

足元に転がっている大剣『フォース・エッジ』の刃の平を前足で踏みつける。

回転しながら宙を舞う大剣。

それを器用に柄の部分を口で咥えた。

「見た目だけで相手の力量を測れん愚か者め・・・あのダーク・サマナーもそうだった。上級悪魔の力を手に入れた程度で舞い上がり、己を神になったと過信した。力の本質を見極める事が出来ぬから馬鹿弟子に簡単に負けたのだ。」

大剣『フォース・エッジ』に魔力を注ぎ込む。

魔力のオーラが立ち上り、真紅の光が大剣『フォース・エッジ』全体を包み込んだ。

「なんだよ・・・?アレ。」

驚天動地(きょうてんどうち)とはこういう場合に使われるのであろうか。

見開かれるダンテの視界の中で、魔獣”ケルベロス”が咥える父の愛刀『フォース・エッジ』がみるみると姿を変えていく。

柄の部分はそのままに、刀身が明らかな変貌を遂げていた。

まるで地獄の亡者を狩る死神の鎌が如く、刀身が更に肥大化し禍々しい鋭角の形へと変わる。

「お前もあのダーク・サマナーと同じだ・・・・目先の事しか考えられん。無知蒙昧な馬鹿者だ。」

「黙れぇ!!」

ケルベロスの言葉に激昂したバージルが必殺の空間斬りを放つ。

しかし、その必殺の一撃は、どれも銀の巨獣を捉える事は出来なかった。

空間斬りの間隙を巧みにすり抜け、蒼いロングコートの青年へと肉迫する。

「・・・!!?」

気が付くと、フォース・エッジの刃先が、己の肩口に深々と突き刺さっていた。

右肩峰(みぎけんぽう)から上腹部を通って左下腹部へと刃がバージルの肉体を通り抜ける。

振り抜かれる大剣。

刹那、間欠泉が如く、血が噴き出す。

「失せろ・・・下郎。」

まるでスローモーションの様に、滝壺へと落ちていく銀髪の青年。

断末魔の叫びも、斬られたという知覚すらも無かった。

「バージル!!!」

左手に金のアミュレットを絡みつかせ、右手に愛刀『閻魔刀』を握ったまま、血を噴き出し背後の大瀑布(だいばくふ)へと消えていく双子の兄。

ダンテの叫びが虚しく辺りに響き渡る。

「このぉ・・・糞犬がぁああああ!!」

唯一の家族を失い、激情に駆られたダンテが腰のガンホルスターから双子の巨銃、”アイボリー”を抜き放つ。

魔獣”ケルベロス”に狙いをつけ、トリガーを引こうとするが、その視界を悪魔使いの少年が遮った。

「駄目だ!!殺されるぞ!!」

意思の強い瞳に射抜かれ、ダンテの躰が固まる。

「頼む・・・・お前まで失いたく無いんだ・・・一緒に現世に帰ろう。」

振り絞る様なライドウの懇願の声。

こんな状況で一体どんな言葉を掛けてやれば良いのか分からない。

でも・・・・それでも・・・この赤いロングコートの青年だけは死なせてはならないと、ライドウの心の声が訴えていた。

一筋の涙を流す悪魔使いの姿を見たダンテは、力無くケルベロスに狙いを定めていたハンドガンを降ろす。

そんな二人の様子を銀の巨獣は黙って見つめていた。

 




次で何とかラストにしたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。