偽典・女神転生―テメンニグル編― 作:tomoko86355
しかし彼の前を死神ヘル=バンガード2体と、下級悪魔の群れが立ち塞がる。
一方、風と炎の門番の間に辿り着いたダンテは、双子の悪魔―アグニ&ルドラと対峙するのであった。
「何で命令に背いた?」
「何の事ですか?」
魔槍『ゲイ・ボルグ』でヘル=ラストの首を跳ね飛ばし、返す刃でヘル=プライドを刺し貫く。
「派手なコートを着た銀髪の餓鬼を殺したろ?俺は適当に痛めつけて追い返せと命令しなかったか?」
ヘル=バンガードの巨大な鎌を紙一重で躱し、峰を足場にして跳躍。
顔面に渾身の回し蹴りをお見舞いする。
思わぬ攻撃によろける漆黒の死神、その巨躯に巨大な氷の刃が突き刺さる。
ライドウの魔法―ブフーラだ。
氷の槍に貫かれ、壁に叩きつけられる死神。
身体の中心に穿たれた氷の槍は、瞬く間にその面積を広げ、ヘル=バンガードを氷の棺に閉じ込めてしまう。
「なるべく殺すなと命令を受けた筈ですが?」
「揚げ足取んなよ?可愛くねぇなぁ。」
しれっと応える白銀の騎士にライドウが舌打ちする。
彼らの周囲には、悪魔の屍が累々と積まれていた。
壮絶な死闘を繰り広げているにも拘わらず、二人共息を切らせる様子など微塵もない。
「質問に応えろ?志郎。」
「その名前では呼ばないで下さい。」
本名を呼ばれ、不愉快そうに秀麗な眉根を寄せるクー・フーリン。
背後から襲って来るヘル=プライドを一刀の元に叩き伏せる。
「あの男は危険と判断しました。そう遠くない未来、貴方の命を脅かすと思ったからです。」
「言ってる意味が分かんねぇな。」
クー・フーリンに向かって、手首に仕込んだクナイを投げつける。
鋼の刃は、クー・フーリンの頬を掠め、背後にいたヘル=レイスの持つ魔獣の心臓に命中、衝撃を受けた心臓は周囲に居た悪魔達を巻き込み、大爆発を起こした。
濛々と立ち込める砂ぼこりと熱風。
次々と塵と化す悪魔の死骸、後に残されたのは、白銀の騎士とパーカーの少年だけだった。
「危険な目は今のうちに潰しておく方が貴方の為です。」
「・・・・・分かった。俺を守る為って事なんだな。」
強い意志の光をその瞳に認め、ライドウは素直に折れる。
先程、掠めたクナイで切ったのか、クー・フーリンの頬から血が一筋流れていた。
「ごめん、痛かったか?」
仲魔の元に近づき、血が流れ出る頬にそっと手を当てる。
そこから感じる暖かい波動に目を閉じる白銀の騎士。
癒しの光は、瞬く間に傷口を治してしまう。
「私が未熟なだけです。貴方が気を病む必要はない。」
頬に触れる主の手をそっと握る。
そして愛おし気に主の手に口付けを落とした。
「あ、あのさぁ、好い加減手を離してくんないかなぁ?」
いつまでも手を握ったまま離そうとしない美貌の騎士に、ライドウが頬を染めて言った。
なまじ造詣が整い過ぎている分、こういう事をされると気恥ずかしくなる。
「すみません、貴方の手が余りにも心地良過ぎて。」
「ばーか。」
子供の様な無邪気な笑顔を浮かべる白銀の騎士。
そこからは、ダンテに見せた冷酷な悪魔の素顔など微塵も感じる事は無かった。
空を舞う二振りの大剣。
激闘を物語る壁に幾つも穿たれた大穴。
室内の柱は壊れ、醜い破壊の後を晒していた。
「ま、待ってくれ!」
戦いは済んだとばかりに、大門を潜ろうとするダンテの背に刀の悪魔―ルドラが慌てた様子で引き留めた。
「お前は、我等を打ち倒し力を示した。」
「そうだ。それ故、我等は貴様に従うのが道理。」
地面に突き立つ二振りの魔剣―アグニ&ルドラ。
彼等は、デビルアーツという性質上、力を持つ輩に従う様造られている。
それが半分人間の血を引いていても関係は無かった。
「ふん、ならコッチにも条件があるぜ・・・お前等、絶対に喋るんじゃねぇぞ。」
地面に突き立つ二振りの大剣の前で腕組みするダンテ。
連れて行くのは一向に構わないが、コイツ等のお喋りを聞かされるのは正直堪らない。
「主がそう望むならば・・・。」
「我等は黙したまま従おう。」
「OK。」
不敵な笑みを口元に浮かべ、ダンテは二刀の大剣を軽々と引き抜いた。
闇を司どりし漆黒の頂。
呪われた塔の頂上、そこに蒼いロングコートを纏った銀髪の青年が佇んでいた。
合わせ鏡の如く、驚く程ダンテとよく似た容貌。
唯一違うのは、見事な銀髪を後ろに撫で付け、手には大剣の代わりにスリムな東洋の刀を持っている。
「漸く来たか・・・。」
瞑目していたアイスブルーの瞳を開く。
強い気と強大な魔力の波動。
振り向かなくても分かる、アーカムが言っていた『人修羅』こと『17代目、葛葉ライドウ』だろう。
「よぉ、お前がバージルか?」
まるで長い間疎遠になっていた友人に再会したかの様に、気軽にバージルに声をかけるライドウ。
傍らには白銀の騎士を従えている。
此方も相当な魔力の持ち主だ。
「成程、並みの召喚術士とは違うみたいだな。」
今まで、術士と名の付く連中とは何度も対峙してきた。
しかし、このパーカーの少年は、そのどれもと違う。
例えるなら、漂う空気が異質なのだ。
まるで百戦錬磨の剣の達人と相対しているかの様な、一歩踏み込めばズタズタに引き千切られる様な威圧感をこの少年から感じる。
「それ、誉め言葉?なら有難く受け取っとくけど。」
槍を構え、一歩踏み出そうとする白銀の騎士を手で制する。
そんな主に非難の視線を向けるクー・フーリン。
しかし、ライドウは片目を瞑って此処は任せろと無言の指示を仲魔に与える。
一つ溜息を吐き、白銀の騎士は一歩下がった。
「一つ聞く、俺の名前を誰から聞いたんだ?」
「内緒、知りたきゃ俺をぶちのめしてみたら?」
バージルの問いかけにからかう様に軽口で返すライドウ。
「面白い、ならばじっくりとその身体に聞いてやろう。」
バージルの身体から、凄まじい鬼気が放たれる。
切羽に親指を掛け、鯉口を切る。
狙うは、数メートル先で佇むパーカーのフードを目深に被った少年。
姿形が子供だろうが関係は無い。
邪魔する者は、例え親兄弟でも叩き伏せる。
しかし、そんなバージルに対してライドウは、これから起こる事が楽しくて堪らないといった感じで、口元に微笑を浮かべている。
一卵性の双子の兄弟とはいえ、此方はダンテよりも出来が大分違う様だ。
ダンテもそれなりに修羅場を潜ってはいるのだろう。
だが、バージルと比べるとそんなモノ児戯に等しい。
漂う気迫がまるで違うのだ。
「大丈夫だマベル。すぐに終わらせて日本に帰ろう。」
バージルの闘気に当てられ、ウェストポーチの中でガタガタ震える妖精に優しく声をかける。
「ライドウ・・・。」
不思議と震えが止まる。
ライドウの声は、何時だって自分達仲魔に力をくれる。
それ故、彼等は己の主に安心して命を預けられるのだ。
「せぇい!!」
始まりは唐突であった。
一気に間合いを詰めたバージルが、気合一閃、閻魔刀を抜き放つ。
だが、その必殺の一撃は、ライドウの華奢な身体を両断する事は叶わなかった。
流れる様な動きで、バージルの攻撃の軌道から逃れる。
背後に回ったライドウの気配を感じたバージルが、返す刃で追撃を行う。
だが、刀を持つ右腕上腕辺りをライドウの肘がブロック。
舌打ちしたバージルが一歩下がり、第2撃を放とうとするも、同じく右腕を左腕で押さえられ、攻撃の軌道を逸らされてしまう。
「うーん、お前意外と真面目な性格してるだろ?」
絵に描いた様な型通りの抜刀術。
何処で身に付けたかは知らないが、こんな教本通りの戦い方だと、逆に見切り易くて大いに助かる。
「黙れぇ!刀を抜けぇ!」
しかし、そんな事等梅雨とも知らないバージルは、端正な顔を怒りで歪ませる。
今まで彼の変幻自在な抜刀術に叶う悪魔も術者もいなかった。
彼の前に立ち塞がる邪魔者は、全て細切れの肉片と化していったのだ。
なのに・・・なのに何故、己の剣術はこの少年に通用しないのだ?
「お前さぁ、居合術を勘違いしてないか?」
「何?」
「居合術ってのは、不意打ちによる護身、暗殺が目的の剣術だ。こういう接近戦のタイマン勝負には全く向いてないんだよ。」
バージルの攻撃の出鼻を悉く潰しつつ、ライドウはレクチャーを続ける。
「アニメや漫画じゃ、斬り付けると同時に瞬時に刀を収め、攻撃する度に抜刀するシーンがあるが、ありゃフィクションだ。本来は、抜いたら抜きっぱなしの状態なんだよ。」
「ちぃ!」
舌打ちし、何とか自分の間合いに持って行こうと離れるも、ライドウは、見透かしたかの様にバージルの懐深くにすぐさま入り込む。
近く離れずの状態。
これでは、バージル得意の抜刀術が放てない。
「お前は人間離れした膂力でそれを可能にしてたみたいだけどな。俺に言わせりゃ無駄な行動だ。現にお前は自分の間合いが取れず苛々している。」
「黙れぇ!人間如きが俺を愚弄するのかぁ!!」
「馬鹿にしてない。逆に羨ましいぐらいだ。」
バージルが放つ斬撃をあっさり躱すと、右腕で彼の顔面を鷲掴む。
「ほれ、チェックメイト。」
脳侵食(ブレインジャック)。
ライドウの放つテレパスが、バージルの大脳皮質に侵入し前頭葉を侵食。
運動機能を支配されたバージルが、まるで糸が切れたマリオネットの如く石畳に両膝を付く。
「ごめんなぁ、本当ならこんな事したくないんだけどさぁ。」
協力者の素性を聞いたところで、この青年は素直には喋らないだろう。
ならば脳味噌に直接聞くより他に方法はない。
「さぁーっすがライドウ♡やるぅ♪」
ポーチから出て来た妖精が、主の端正な顔に抱き付く。
項垂れ、身動き一つ出来ない蒼いロングコートの青年。
今彼の意識は暗い牢獄の中へと閉じ込められている。
幾ら強靭な精神力を持つバージルとはいえ、ライドウの精神感応力に抗う術は無かった。
「やり方が温すぎますよ?マスター。」
顔面に張り付く妖精を引っぺがしている主に向かって、白銀の騎士が咎める様に言った。
「敵に塩を送る様な真似をしてどうするんですか?」
「悪い。自分より才能がある奴を見るとついお節介したくなっちまうんだ。」
ライドウがバージルに対し『羨ましい』と言ったのは、嘘偽りの無い本音だ。
優れた身体能力に加え、剣士としてのずば抜けた才能。
もし彼が優秀な指導者の元で剣の基礎を学べば、ライドウなど足元にも及ばない程の剣人として成長していたかもしれない。
「全く、貴方の悪い癖だ。」
呆れた様子で白銀の騎士は、秀麗な眉根を顰める。
どんなに自分が忠告しても、この主は敵に対して甘い態度を改めようとしない。
「そんでさぁ?これからどーすんの?」
「勿論、コイツの協力者について色々吐いて貰う。」
仲魔の妖精の問いに応えると、ライドウは片膝をつき、項垂れているバージルの額に右手を当てた。
「5分経っても戻らなかったら、引き戻してくれ。」
「アイアイサー!」
主の命令に、妖精が敬礼をする。
精神(マインド)ダイブは、様々な危険が伴う。
相手が自分よりも強いソウルの持ち主だと、逆にダメージを与えられ現実世界に戻って来れない場合があるのだ。
おまけに脳内ハック中は、術者は完全に無防備になってしまう為、外部からの攻撃を受け易い。
それ故、短時間でダイブして、もし戻って来れなかった場合は、精神感応力に優れた仲魔を使って、現実世界に戻して貰う必要があるのだ。
「くっ・・・・・!」
バージルの様々な感情が一気に流れ込んでくる。
痛み、悲しみ、怒り・・・そして歓喜。
精神(マインド)ダイブは、コントロールが非常に難しく、望んだ情報をすぐに引き出す事が出来ない。
しかし、こんな悪魔が跳梁跋扈する危険地帯で悠長に相手の精神に入り込んでいる暇などなかった。
5分間という限られた時間内で、必要な情報を探り出す。
慎重に記憶の本棚を検索していく。
(これは・・・・・?)
気が付くと、ライドウは雷鳴が轟く嵐の中にいた。
稲光に映る一軒の家屋。
ライドウの脚が自然とその家へと向かう。
古びた樫の玄関ドアを開け、屋内へと入る。
すると寝室から女性の声と子供がすすり泣く声が聞こえた。
「良い?二人共。このオリーブの枝が貴方達を守ってくれるわ。絶対に離しては駄目よ。」
「行かないで?マミー。僕を一人にしないで。」
見事な銀髪の少年が母親と思われる女性に抱き着く。
刹那、玄関ドアを誰かがノックする音が聞こえた。
緊張で身を竦める母親と双子の少年達。
「眼を閉じて耳を塞ぐの・・・そうすれば、また必ず朝が来る。」
二人の少年の額にキスを落として、母親が納戸の隠し部屋に無理矢理押し込む。
彼女は分かっていた。
嵐の夜の来訪者は、自分達の命を刈り取りに来た死神である事を。
そして覚悟していた。
これが子供達と交わす今生の別れになる事を。
「ダンテ、バージル・・・愛しているわ。」
揺るぎない決意をその双眸に秘め、女性は玄関へと向かう。
彼女の手には、銀色に光る短剣が握られていた。
『止せ!行けば殺されるぞ!』
思わずライドウが金の髪を結いあげた女性を引き留めようとする。
だが、パーカーの少年の手は、虚しく彼女の身体をすり抜けるばかり。
(ちっ、落ち着け、これはバージルの幼少時代の記憶だ。バージルの感情に呑み込まれては駄目だ。)
やるせない気分で暗闇へと消えていく女性の後ろ姿を眺める。
どうやら自分は相当前の記憶に飛んでしまったらしい。
双眸を閉じ、最近起きた出来事を検索していく。
すると今度は、何処かの書庫らしい場所に立っていた。
整然と並ぶ本棚、古い紙の饐えた臭い。
耳が痛くなる程の静寂。
何気なく室内を歩いていたライドウの脚が不意に止まる。
部屋の片隅、本棚の前に一人の青年の姿を認めたからだ。
目の覚める様な蒼い長外套を纏った白銀の髪を後ろに撫で付けた青年-バージル。
「探し物は見つかりましたか?」
何者かに声を掛けられ、皮の表紙をした分厚い本を棚に戻していた手が止まる。
見ると暗闇よりも濃い漆黒のキャソックを纏った背の高い細身の人物が立っていた。
「そんなに警戒しないで下さい。私は貴方の敵ではありません。」
殺気を幾分か含んだ鋭い視線を向けられ、男は口元に苦笑を浮かべる。
男が一歩前に出る。
薄暗い照明が、ぼんやりと男の姿を照らし出した。
『コイツは確か・・・・ファントムソサエティに所属していた・・・。』
男の容姿を見た刹那、ライドウの脳裏に電撃にも似た衝撃が走った。
禿頭に剃りあげてはいるが、その特徴的な右蟀谷辺りにある大きな星の刺青は見た事があった。
平崎市で戦の女神、イナンナ姫を復活させようと画策し、それを阻止しようとした13代目、葛葉キョウジに敗れたダークサマナーだ。
名前は確か・・・シド・デイビスと名乗っていたか、本名かどうかまでは知らないが。
「ライドウ起きて!敵が来たよ!!」
まるで目覚まし時計のけたたましい音にも似た仲魔の声が耳の中に響き渡る。
意識の海から引き戻される思考。
次に感じたのは、鼻腔に突き刺さるきつい硫黄と木炭の香りであった。
クー・フーリンのモデルは黒執事のセバスチャンです。