偽典・女神転生―テメンニグル編― 作:tomoko86355
一方、クー・フーリンとマベルは、逃げたバージルとその協力者のアーカムを追って古の街に到着する。
光の差さぬ暗闇の街道。
見事な銀色の髪をした少年が一人、泣きながら走っている。
『お母さん、お母さん・・・一体何処に行ったの?』
当て所も無く母を求めて彷徨う幼子。
物心ついた時から、父親の存在など知らなかった。
気が付けば双子の兄、バージルと母親のエヴァの三人家族だった。
『お母さん、お母さん・・・・どうして僕達を置いていなくなったの?僕達が優秀?あの女の子供には負けない?一体何の事なの?』
息が苦しい、胸が爆発する程痛い。
重度の疲労でもうこれ以上走れない。
『お母さん・・・お母さん。ボク達は本当に必要な存在だったの?』
「・・・!!」
鼻を付く生臭い臭いで強制的に目が覚める。
まず一番最初に視界に入ったのがぶよぶよと不気味に蠢く天井であった。
背中に感じる肉の感触。
此処は一体何処だ?何故、自分はこんな所で寝ているんだ?
確か、ライドウとかいう糞餓鬼を追いかけて、塔を飛び降りて、蝙蝠の化け物共をけしかけられて、そいつ等を蹴散らして・・・・。
走馬灯の如く駆け巡る記憶の映像。
最後に映し出されたのは、巨大な顎であった。
「よぉ、漸くお目覚めか?」
聞き覚えのある声に、慌てて飛び起きる。
背後を振り返ると損壊したバスの残骸の上に、一人の少年が立っていた。
濡れ羽色の長い黒髪、新雪の如く白い肌。
そしてビスクドールの様に整い過ぎた容姿。
中性的な美貌の少年は、バスの屋根から飛び降りるとダンテのすぐ傍らに銀色に光る大剣を突き立てた。
「お前の大切な剣だろ?」
鍔に当たる部分の両側の中央に髑髏の彫刻が施されているその大剣は、間違いなく父・スパーダの形見であり、ダンテの相棒『大剣・リベリオン』であった。
「てめぇ・・・。」
起き上がろうとするが、何故か身体に力が入らない。
関節が悲鳴を上げ、疲労感が四肢を重たくさせていた。
「あんな無茶な戦い方をすれば当然だな。」
ライドウは腰に吊るしたウェストポーチから何かを取り出し、ダンテに放り投げる。
反射的にそれを受け取るダンテ。
良く見るとそれは掌ぐらいに収まる石の様に硬い固形物であった。
「ソイツは魔石って言って体力をある程度回復させてくれるアイテムだ。取り敢えず、口の中に入れて飴玉みたいに舐めてみろ。」
「毒入りじゃねぇだろうな?」
さっきまで命のやり取りをしていた相手だ。
そう簡単に信じる程、お人好しじゃない。
「おいおい、お前を殺す気ならとっくのとおにやってるぜ。」
ライドウは大袈裟に肩を竦める。
「俺は、化け物鯨の腹の中から一刻も早く出たいんだ。その為にはお前と協力しなきゃならん。」
「・・・・・??何?」
その時になって漸くダンテは先程までの記憶が鮮明に蘇った。
呪われた塔の頂上付近から、錐揉み状態で落ちていく二人。
覆いかぶさる巨大な黒い影。
そして奈落の底に続いているかの様な暗い顎。
「やっと思い出したか?」
「ああ、塔の周りを泳いでいるデカブツに呑み込まれたってとこまでな。」
ダンテは口の中に魔石を放り込むと、奥歯でガリガリと噛み砕いた。
すると不思議な事に、あれ程悩ませていた倦怠感が嘘の様に無くなる。
心成しか腹も膨れた様な気がした。
「もう少し警戒するかと思ったんだがな。」
傍らに突き刺さった大剣リベリオンを引き抜き立ち上がるダンテに向かって、ライドウが呆れた様子で呟いた。
口では一時休戦みたいな調子の良い事を言ってはいるが、元々は敵同士である。
はいそうですかと敵から貰ったアイテムを簡単に使用するとは思わなかった。
「味は悪くないな。どうせならバケツ一杯喰いたい気分だ。」
大剣を背に納め、皮肉な笑みを口元に浮かべる。
微かな甘みを感じる魔法の石は、瞬く間に口の中で溶けて無くなってしまった。
「バケツ一杯なんて喰ったら腹が壊れちまうぞ?一応、薬なんだからな。」
一応、食べ易い様に甘味を付けているとはいえ、魔力の籠った石である。
大量に摂取すれば、どんな副作用が起こるかは分からない。
「んで?どうやって此処から出るんだ?」
「リヴァイアサン・・・化け物鯨を殺すしかないな。奴の核(コア)を破壊する必要がある。」
「核(コア)?」
聞きなれない言葉に胡乱気に聞き返すダンテ。
「簡単に説明すると心臓だ。悪魔の弱点の一つで、コイツを破壊されると例え上級悪魔でもあっけなく死んじまう。」
だから悪魔は己の弱点である心臓を隠してしまうのだという。
「その他にも致死説を唱えたり、属性魔法で攻撃したり、聖水や法典を刻んだ銀の弾丸で撃ち抜いたりと色々方法はあるが、心臓を破壊する方が一番手っ取り早くて確実だ。」
「成程ね。つまりこの化け物鯨の心臓を破壊すれば外に出られると。」
流石に悪魔召喚術士と言われるだけあり、ライドウはその道に関しては豊富な知識を持っている。
行き当たりばったりで悪魔を狩り捲っているダンテとは大違いだ。
「まぁな、だけどその前に心臓に辿り着く為の道を開けなきゃな。」
眼帯の少年―ライドウは、固く閉ざされた扉の方に視線を向ける。
恐らくあの通路の先に、化け物鯨の心臓がある筈だ。
「最初に断っとくがな、お嬢ちゃん。協力するのは糞ったれな化け物鯨の腹から出るまでだ。此処から出たら俺の好きな様にさせてもらう・・・良いな。」
「分かった・・・善処するよ。」
念を押す様なダンテの鋭い視線をライドウは軽く受け流す。
所詮二人は敵同士なのだ。
下手な馴れ合いなどするつもりは微塵もない。
食糧保存庫を抜け、大地底湖へと辿り着いたクー・フーリン達。
鍾乳洞内に入ると早速悪魔の大群がお出迎えしてくれた。
「マベル、奴等の気配を感じるか?」
深紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”でヘル=グラトニーを薙ぎ倒しつつ、肩にしがみつく妖精に声を掛ける。
「うーん、この先かな?何か術で私の精神波を阻害してるみたい。気配を上手く探れないよ。」
優秀なテレパシストのマベルですら、微かな精神の揺らぎを掴むので精一杯であった。
バージルに従っている黒いキャソックの男は、相当な術者に違いない。
「詳しい位置は探れないのか?」
「駄目、激しいノイズで頭が痛くなりそう・・・?」
そう言いかけたマベルの双眸がハッと見開かれる。
そしてある一点を見つめた。
「あの通路の先に強い魔力を感じる。」
「ああ・・・鍵持ちの悪魔だと良いんだがな。」
マベル同様、クー・フーリンも強大な魔力を感じていた。
暗く閉ざされた通路の先、地下歌劇場。
そこに先に進むための鍵を持つ悪魔がいるかもしれない。
白銀の騎士と妖精は、強大な魔力を持つ悪魔が待つ、地下歌劇場へと向かった。
リヴァイアサン腸洞内を塞いでいる封印を解く為には、その鍵である五つの突起物を破壊しなければならない。
ダンテとライドウはそれぞれ分かれて、胃峡内にある突起物を探す事にした。
『・・・ライドウ。』
胃酸の滝の裏に設置されている突起物をクナイで破壊した悪魔遣いの頭に何者かの声が直接響く。
視線を腰に吊るしてあるガンホルダーに収まっているGUMPに向けた。
するとホルダー内のGUMPが微かに明滅を繰り返している。
「アンタから話し掛けて来るなんて珍しいな。」
念話で自分に語り掛けて要るのは、仲魔の一人であった。
いつも寡黙で滅多に喋りかけて来ない彼女にしては珍しい。
『何故あの男を助けた?お前一人ならどうとでもなった筈だ。』
「別に・・大した理由は無い。ただ事件と無関係な奴を放っておく訳にはいかなかっただけだ。」
いくら半人半妖でおまけに事を起こしたのが双子の兄貴とはいえ、ダンテは何も知らない只、事件に巻き込まれただけの被害者だ。
ソイツを平気で見捨てて、任務を優先出来る程、ライドウは冷酷には徹しきれない。
『甘い奴め・・・それで何回死にかけたのか忘れたのか?』
呆れた様な溜息を吐く彼女にライドウが思わず苦笑を浮かべる。
嫌気が刺す程のお人良しなのは十分理解している。
その甘い判断で、何度死の淵を彷徨ったか数え切れない。
「-!!」
背後から感じる鋭い殺気。
条件反射で真横に避ける。
その刹那、肉の地面に巨大な大鎌が突き刺さる。
リヴァイアサンの体内を住処にしている下級悪魔=ヘル・エンヴィーだ。
気が付くと、無数のヘル・エンヴィーの群れに取り囲まれていた。
「悪いな?師匠。説教なら後で幾らでも聞いてやるよ。」
『馬鹿弟子め・・・・。』
退路を完全に断たれているにも拘わらず、ライドウの声は何処か陽気な様子だ。
腰に吊るしてあるアセイミナイフを取り出す。
炯々と銀色に光る刃は、まるで獲物に喰らいつく野獣の牙を連想させた。
元ネタは、Fateと青の祓魔師からちこっと拝借してます。