目が覚めるとそこは炎に包まれた地獄だった。周りは火の海、空気は淀み人の気配はしない。
「ここが特異点か・・・地獄だな。藤丸は居ないか」
僕一人レイシフトされたかもしれない。当然不安もあるけどこれでいい。僕はAチームに入るまで常に一人だったんだ。
「むしろ一人の方が・・・」
拳に強化魔術を施しベリルに教えてもらった通りの動きで背後に向かって正拳突きを放つ。
「カタカッ・・・!!」
骨で出来た頭部のない化け物がバラバラになって後方へ飛んでいく。
「やりやすいんだ」
とりあえずこんな道の真ん中では今みたいな化け物が襲ってくるかもしれない。少しでも安全な場所を探そうと歩き始める。
途中で骨の化け物・・・前に何かの魔術本で読んだ竜牙兵を倒しすぎたのが間違っていたのかもしれない。
目の前に居るのは今までの雑魚とは違う。白磁の髑髏面を付け黒のローブに体を包んでいる・・・恐らくサーヴァント。
「人間ノ生キ残リカト思エバ漂流者カ」
「漂流者?人に何かを言う時は仮面くらい取ればどう・・・」
その次の言葉が僕の口から発する事は無かった。思いっきり棒のような腕で吹き飛ばされていた。正直に言って早すぎて体が追いつけなかった。
「ククク。他愛モナイ・・・死ネ」
僕の顔の前でその鉄槌のような足が振り下ろされる。そうだ・・・強がっても僕は一人じゃ生きていけない。だからAチームに入った時は嬉しかったし少なからず認められたと思った・・・これが走馬灯か。
「死にたく・・・ないな」
我ながら情けない。最後の言葉が死にたくないとは。いや、人間らしいか。
しかしその足が僕の頭を踏み抜く事は無かった。直径1m位の氷の砲弾が髑髏面のサーヴァントを射抜いた。
「ギッ・・・!!コンナ攻撃ヲスル者ハ居ナカッタハズダ!貴様何者ダ!?」
そんな叫びすら無視してその白髪の少女は氷のように冷たい目で僕を見下ろしこう言った。
「立ちなさい。あなたが私のマスターなんでしょう?ならば無様は許さないわ」
凛とした声で言われると僕にだってプライドがある。
「好き勝手言いやがって・・・あぁ、立ってやる!何度でも立ってやるさ」
「そ、キャスターのサーヴァント。アナスタシアよ。ヴィイ共々よろしくお願いするわ。弱虫なマスターさん?」
「カドック・ゼムルプスだ。僕のサーヴァントなら一撃で倒してもらいたかったね」
あぁ、直感的に分かる。僕と彼女の相性は最悪だ。
右手に浮かんだ赤い令呪。死にたくないと願ったから召喚出来たのか?都合のいい考えか。
「あら?あなたの目は節穴かしら。もう終わってるわ」
「何ダッ!?コレハ!!」
僕が聞き返すよりも先に髑髏面のサーヴァントが叫ぶ。
さっき僕を踏み潰そうとしていた足が凍っていっている。
「あなたはヴィイに睨まれた。それだけよ」
そこから全身が凍り付くまでに1分もかからなかった。
「・・・助けて貰ってありがとう」
「あら、私はあなたのサーヴァントですもの。助けるのは当たり前よ。それよりもここはガッデムホットなので早く帰還するわよ」
「この特異点を修復しない事には帰れない。だからもうひとふんばりしてもらうぞ」
アナスタシアは軽く舌打ちするとその目を細めた。
「私はこれからあなたのことをカドックと呼ぶわ。私が認められるような理想的な男性になったらマスターって呼んであげる」
「そうかい。なら僕もキャスターと呼ぼう。真名で呼ぶほど愚かじゃない」
こんなやり取りをしながらも僕はアナスタシアに傷の手当てをしてもらっていた。竜牙兵にやられた傷は大したことなかったがあの髑髏面に吹き飛ばされた時に左腕を痛めたようだった。
「いやーお熱いね。お二人さん?」
瓦礫の上から声が掛かるとアナスタシアが僕を庇うように相手を睨みつける。
その男は青のローブで顔を隠し木の杖を持っていた。
「やめろやめろ。やり合う気は無い。あんたあの嬢ちゃん達と同じでカルデアの人間だろ?」
「あの嬢ちゃん達?まさか藤丸もこの特異点に来ていたのか!」
「あぁ。盾の嬢ちゃんとヒステリーな嬢ちゃんの三人で大空洞へ向かった。俺もすぐに向かうが着いてくるかい?」
この男が言っていることが真実とは限らない。罠の可能性も高いだろう。今までの僕なら着いて行きはしなかった。
「分かった。案内してくれ。キャスターもそれでいいか?」
「私がいなければ誰があなたを守るというの?」
「・・・そうか」
「そんじゃぁ行くぜ。俺もこの終わらないゲームはいい加減飽きたしな」
今までの僕とは違う。なぜなら隣には態度は大きいしマスターである僕すら見下している。けど強くて誰よりも頼りがいのあるサーヴァントが居るから。
「カドック。そんなに人の顔をジロジロ見るのものでは無いわよ」
「う、うるさい。自意識過剰なんじゃないか?」
訂正。やっぱりこいつ嫌いだ。