ファンタジー世界で紡ぐ友情   作:波津木 澄

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ファンタジー世界で紡ぐ友情

 さて、早速だが話をしようか。…おや、私が誰か…だって? 今はそんなことを気にする必要はない。ただ、そうだね…。私は『語り手』とだけ言っておこうか。まぁ、意味なんてないけれど。

 では改めて…。今回私が話すのはとある二人の男の友情の物語だ。ただ少し特殊で、いきなりクライマックスなんだけどね…。

 

 一人の男は勇者として、かつて共に過ごした友との約束のため、世界を平和にするためにも現れた魔王を討つことを決め、旅を始めた。

 始めこそ銅の剣や革製の鎧程度しか武装はなかったが、旅の過程で見つけた聖剣に認められ、過去の英雄が身に着けていたとされる装備を見つけ、武装を整えることができていた。

 旅の途中で寄った町や村で腕に覚えのあるものを募り、勇者と僧侶、舞踏家に魔法使いというバランスのいいパーティーを作ることができた。

 各々のレベルも上がり、勇者はついに魔王の根城である魔王城へ挑む。

 様々な過程があり、最終的には魔王と勇者との一騎打ちとなり、魔王の使う魔法によって世界の全員が二人の戦いを見ていた。魔王が勇者に刺され、倒されるところまでしっかりと。

 しかし魔王は心臓を刺されようともまだ力を絞り出し、最後に魔法の最奥である「転生魔法」を使った。最後に「人が醜ければ第二第三の私が貴様らを蹂躙する」と言い残したところからこの話の信憑性は高いとされる。

 

 ―――ここまでが、一般的な童話として子供に語られる世界の物語だ。

 しかし、それを正確に言い表すのならばやはり体験者の視点で語るべきであろう? だから、ここで語られるのは世界の誰もが知っているような煌びやかで美しい物語ではない。

 かの勇者視点での、物語だ。

 

__________________________________

 

 

 俺の名前は…って、そんなことは別に言わなくてもいいか。一応、わかりやすい看板としては、勇者の名を背負っている者だ。

 そして、そんな勇者である俺がいる場所は、魔王城の目の前。今は視界一杯に趣味の悪い門が広がっている。

 不思議なことに結界魔法はなく、誰でもすぐに入れるようになっていた。だからこそ、警戒をしたのだが…甘かった。

 扉を開けて中に入った途端に床に刻まれていた転移魔法陣が作動、仲間とちりじりになってしまったのだ。

 おまけに目の前にいるのは圧倒的な存在感を放つ魔王。どうやら、図らずも一騎打ちの形になってしまったようだ。

 

「……来たか。勇者よ」

 

「ああ、平和を取り戻しに来た!」

 

 地の底から響くような、低い声。ただ声を発しただけだというのに空気が冷え、張り詰めていくのを感じる。

 けれど、不思議だ。なぜかわからないが、どこかで聞いたことのあるような気がする。……勇者は魔王の復活と共に覚醒するというし、もしかしたら脳内に声が響いてきたということもあり得るのかと少しだけ思案する。だが、そんな余裕は次の瞬間には無くなってしまう。

 

「ふっ。貴様が死ぬ瞬間を世界の全員に見せれば、世界は絶望するだろうなぁ…」

 

「……! これは、通信魔法か!?」

 

 魔王が展開したのは映像付きで誰かへと通信することを可能にする通信魔法。

 なるほど、こうすることで一種の公開処刑とするつもりか。それに、これはつまり俺との戦いをする前に魔力を消費するという行動だ。

 通信魔法は一人に対してならば消費は少ないが、魔王の宣言通り全世界の人間に届いているのだとすればその消費量は相当なものになるはずだ。……要するに、これは余裕なのだろう。「貴様の相手をする上では魔法の多重展開をしていても問題ない」という。余裕の表れなのだ。

 

「貴様は、確か剣を使うのだったな」

 

 そう呟くように言って、魔王は腰に差された剣を抜く。

 刀身、刃、鍔、柄。剣を構成するその全ての場所が万物を飲み込むような黒に染められている。剣の発する気配は俺の持つ聖剣とは真逆…つまり魔剣というものなのだろう。

 ザッ…とお互いに硬い床を踏みしめる。間合いを図り、相手の手を探り、己の有効打への道を想像する。

 俺の魔王が飛び出したのは同時だった。一秒にも満たないような時間で剣を打ち合い、互いの勢いに弾かれ、また打ち合わせることを何度も何度も繰り返す。

 目くらましに閃光魔法を唱えようかとも思うが、すぐにその選択肢を廃棄する。この魔王は剣においてもまるで油断できない相手なのだ。

 魔法の詠唱に意識を割いてはその瞬間に斬り捨てられてしまうだろう。

 聖剣には、魔力を込めることで魔を払いのける光を宿すことができる。しかし聖剣が魔を払いのけようとしても魔王の持つ魔剣が奴の魔力を元に魔を収束するせいで払えない。

 良くも悪くも、拮抗した戦いだった。そんな戦いが、何時間にも渡って繰り広げられた。いや、実際はほんの数分だったのかもしれない。お互いに掠り傷をいくつも負い、それでも一切速度を緩めずになお打ち合う。

 そんなことを続けていたのだが、魔王に明確な隙ができた。いつの間にか到着していた俺のパーティーメンバーが攻撃を仕掛けたのだ。

 舞踏家に拳を向けられ、魔法使いから飛んでくる上位魔法の数々を見て、魔王はとっさに距離を取った。そして距離を取った隙に僧侶が俺を癒してくれた。

 魔力は回復していないが、体力面では回復した。対して魔王は上位魔法を避け切れなかったのかさらに傷を負っている。

 

「…クッ」

 

 それでも通信魔法を維持するのは魔王としてのプライドだろうか。

 しかし、今の俺にはもうあまり魔力は残っていない。おそらく、魔王も同じだろう。

 だからこそ、互いに最後の一撃を放つため、剣へ全力を持って魔力を込める。

 聖剣が極光を放ち、魔剣が光を呑む。そんな最後の打ち合いを制したのは、俺だった。最後の最後で魔剣が折れ、俺が奴を貫くことに成功したのだ。

 

「ガ……。ここまで、か。しかし安心するにはまだ早いぞ! 今ここでこの身が朽ちようとも、いずれ第二、第三の…ッ」

 

 話は最後まで続けられることはなかった。おそらく、魔力が尽きたのだろう。

 しかし心臓を貫かれても未だに生きているなんて信じられない。しかし、心臓を刺すために近づいていたからこそ、俺にはその声が聞こえた。

 

「よかったな……、親友」

 

「なっ!?」

 

 思わず目を見開き、距離を取る。可笑しい。俺を親友と呼ぶ奴は随分と前に旅に出たはずだ。

 勇者の心を揺さぶるための策略かを調べるために、俺は魔王の頭に付いた鎧を外す。

 そして、すぐにそうしなければよかったと後悔することになる。なにせその鎧の中にあったのは見間違うはずのない、親友の顔だったのだから。

 

「ッ! …お前たちはこの部屋から出ていろ!!」

 

 しかし冷静さを失い切れなかった俺はすぐ仲間に指示を飛ばす。鬼気迫った、有無を言わさぬ圧を感じたのか仲間は何も言わずに部屋を出る。

 

「お前は…、なんで魔王なんかに…」

 

 俺の知る親友は魔王になるような人間じゃない。あいつは俺の夢を他の大人と違って笑い飛ばしもせず、真剣に考えてくれたはずだ。

 世界を変えてやると言う俺の意思を尊重してくれた人間のはずだ。それなのに、それなのに…。

 

「…僕の、夢でもあるから…」

 

 もしかしたら俺なんかの為に、そう思った俺の思考を読まれてか魔王は…否、親友はうわごとのように言葉を出す。

 声は今にも消え入りそうなものになっている。おそらく、どう足掻こうともこの先を生きることはできない。この傷を負わせたのは俺だ。

 

「世界は、多分…魔王を恐れ、てさ。…平和に…なる、から」

 

 もう誰も俺たちを見ていないことをわかって、親友はいつかの口調で話す。

 ああ、そうだ。俺が剣を取り、騎士となり、内側から変えようとしていたのをこいつは知っている。頭のいいこいつなら、きっと時間がかかりすぎることもわかっていたのだろう。

 だから、魔王という強大な存在になることで国同士が小競り合いなんてしていられないような状況を作った。つまり、そういうことだったのだ。

 平和な世界の為に俺は魔王という存在を知り、勇者(希望)となった。

 親友は平和な世界の為に強大な魔王(絶望)になった。

 根底は同じなはずなのに、正反対の道を俺たちは歩んだ。そしてその道が今重なって、そして親友の道は潰えた。

 

「これからは、もっと…辛い、と思う。……潰れ、るな…よ」

 

 トンッと俺の胸を叩き、その手が力を失って床へと落ちる。

 そして俺の視界が歪み、床へと落ちた手に水滴が二つ三つと作られていく。

 何度か倒れそうになりながら、それでも俺は立ち上がった。近くにあった聖剣を拾い上げ、残っている魔力を込める。

 想像するのは目の前にあるものを倒すことだけを考えた極光ではなく、ありとあらゆるものをやさしく照らしだすような燐光。

 俺の意思を反映して聖剣は柔らかい光を発する。その光が風に乗り、海を渡り、世界の全てに広がっていく。

 掲げたその刃を反転させ、地へと向ける。なんでも、魂というものは地の底にある場所へと行くらしい。しかしその途中で迷い、地上に出てきたものが集まってできるのが魔物なのだとか。

 だったら、この剣の光を持って、道標を作ろうじゃないか。俺の親友の魂が迷わずに安楽の地へ行けるように。

 

 聖剣を床に、地面に突き立てる。地の底まですべて照らし出せるようにするために。

 親友がもう一度地上に立たなくてもいいように、その聖剣の存在を示す。

 この聖剣は最初、昔の魔王が使っていたとされる魔王城跡地に刺さっていた。つまり、前の勇者もこうしたのだろう。なんて考えが浮かぶ。

 これで俺の勇者としての戦いは終わりだ。最終的に親友を手にかけることになった。その後悔は忘れない。その罪を拭おうなんて考えたくもない。

 俺は、この手にかけた親友の信念を背負い、生きていくと今、決めた。

 

__________________________________

 

 

 はい、これでこの物語はお終い。

 この世界では、勇者が魔王を討ち倒して終わる。

 けれど、数多な並行世界ならば、そんなことをせずに、誰であろうとも笑って暮らせるような平和になっている世界があるのかもしれない。けれど、私の知っている世界は御覧の通りだ。

 ()()()()()()、ね。つまり君たちの世界ではこんな世界にはなっていないのかもしれない。君たちの願いを持って運命を変えてしまえば、もしかしたら誰もが幸せになれる世界があるかもしれない。もしかしたらもっと不幸に終わってしまう世界があるのかもしれない。

 私にはそれを確かめるすべはない。だから、君たちが描いて見せてくれ。この世界の可能性を。

 私は、語り手だからね。改変することはできないのさ。けれど、君たちは違う。

 大丈夫、君たちならできるよ。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
最後の方の語り手さんの言葉ですが、まぁ要するにこの作品の世界観とかキャラクターとかは全部自作発言さえなければ勝手に設定盛り込んだりして使っていただいても構いませんよってだけのお話です。
設定が割と語られてないのも色んなものを突っ込むためですし。
疑問点があれば想像している限りではありますがお答えしますので。
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