どうしてこうなった?
……おや。もうすでに私の仕事は終わっていたと思っていたのだけれど。なのにどうして私はこの場所にいるのだろうね…。なんて、そんなことを言っても君たちには届かないのだろうね。
さてさて、それでは改めて。……え? 今が旬のアレでやって欲しい? いやいや、アレの旬はとうの昔に通り過ぎて…ああ、うん。わかった、わかったからそれ以上騒がないでくれよ。こちらにまで声が届いたらどうするつもりなのかな。
はぁ……。心労は絶えないけれど、私にできる限りのことはさせてもらうよ。
祝え! 今宵、世界の過去をこの場で語明かすことが決定した!
私は案内人、しがない語り手だから、あまり気にしないでね。
えっと、前回はどこまで…いや、どこから話したのかな。…ああ、そうだそうだ。確か最初からクライマックスだったんだよね。
―――それでは、語ろう。世界の過去を、魔王の物語を。
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僕の名前は…なんだっただろう。僕はいったい誰なのだろう。
僕とは、一体何を示す言葉なのだろう。
ああ、何もかもがわからない。溶けていく。浮かんでいる、泳いでいる、沈んでいる、落ちている。
先も何も見えないような場所で、体の感覚もなく、ただ佇んでいる。
虚無の海に僕はいる。しかしなぜだろうか。戻らなければいけない気がする。
どこに戻るのかもわからない。けれど僕は戻らなければいけない。
戻って、やらなければいけないことがあったはずだ。
だから僕は……僕は? 何をするんだ? 何ができるんだ? そもそも僕とは一体何なのだ? なんでこの虚無の海に意識を解かされずに保っていられる?
わからない。わからない。わからない。わからない。
何もかも、わからない。
けれどこのすべてがわからない感覚を僕は知っている。
どこでこの感覚を知った? どこでこの暗闇を見た? 思い出せ。思い出さなければいけない。
ただ漂うだけのこの海だ。探せばそこにあるはずだ。
魔物に頭を潰される、違う。
狂った
はるか上方から瓦礫が落ちてくる、違う。
ワインに口をつけたら苦しくなる、違う。
怯えた人間を背に庇う、違う。
平和を願って世界を壊す思想を抱く。―――これだ。
そうだ。僕は××××だ。人類を守るため、世界を平和にするために世界を壊す。
そうだ。僕はそれを願った。
親友には旅をするなんて嘘をついて随分とこの手を赤く染めたものだ。
親友に、僕の噂は届いているのだろうか。万が一に備えて仮面をかぶっていたが、もしかしたら親友には気づかれているのかもしれない。
あの親友は平和の為に内側から、世界への影響を少なくしようとしていた。僕は10の平和の為に5を斬り捨てた。
僕の人生は正しかったのだろうか。間違っていたのだろうか。
いや、考えるまでもない。きっと、間違っていたのだろう。いつだってそうだった。僕がせっかちで先を走って、それで間違えてしまった僕を後から来た親友が正しに来る。
今回、親友は来なかった。来れなかった。親友は僕のことを知らなかったのだから、おってこれるはずがなかった。
もしも魔法通りに転生するということがあり得るのならば。
―――なんて、そんな悠長なことを言っていられるはずがない。
僕は何が何でも戻ってやる。戻って、そして今度こそ世界を平和にするのだ。
僕には立ち止まったり、後悔したりなんてしない。僕はただ前を向いて突っ走るだけだ。
だからこそ、彼方に見える光へと手を伸ばす。今はもう光をほとんど失っている聖剣の光。
歴史の研究家曰く、魔王の誕生と同時に聖剣は光を失い、そして世界にはこれまで以上に魔物が増えるそうだ。
なんでも聖剣を魔王城に刺すのは魔物たちの中心である魔王の死を示すためだとか。
そんなどうでもいいことを思い出しながら、先に進む。
中々先に進むことはできないが、それでも少しずつ進んでいる。
そして、ついにたどり着いた。
その淵へと手をかけ、体を回転させるようにしてどうにか地上へと舞い戻る。
道標となった聖剣を見ればその刀身は輝きを失っている。魔王が誕生したのだろうか…と考えて今戻ってきたのは自分だと理解する。
「…もしかして、僕が魔王?」
僕が生まれた瞬間にこいつが光を失ったのだし、そうかもしれない。
そんなことって…。そう思って力なくへたり込んだ時だった。手に何かを握っている感触があることに気づく。
手元を見やればそれはそれは見事な魔剣が僕の手に乗っていた。
これでもう確定だ。僕が魔王になった。
しかし、これは好都合だ。僕が王として君臨すればそれで世界を平和にすることができる。
世界は魔王を殺すために団結し、世界から戦争が無くなる。魔物との戦闘で命を失う人がいるかもしれないが、それは僕にはどうしようもない。
ともすれば、やることは決まっている。展開するのは誰でも使える通信魔法。それを魔王となってから伸びていた魔力にものを言わせ、全世界の人間につなげる。
「我は魔王。今宵この世へと舞い戻ってきたぞ。さぁ、人間どもよ。我の支配下へと下れ。さすれば命だけは見逃そう」
ただそれだけを言って魔法を終える。…魔王っぽくしたかったから我とか言っちゃったけれど、まぁ気にしてはいけない。
………どう、しようか。聖剣に認められた者が勇者となる以上、ここを魔王城とすることはできない。
土魔法ならば作れるだろう。そう当たりを着けて移動を始める。
一先ずすることは悪としてふるまい、勇者を待つ。その程度だろう。
ああ、そう言えば軍勢も集めなければ。魔王として、やることは多くあるのだ。
たとえ僕がうち滅ぼされるための存在だとしても、僕は僕の望みを叶えよう。
親友の為でも、世界の為でもない。
僕は僕の為に世界を壊し、そして平和にしてみせる。
「だからさ…親友、早く来ないと手遅れになるよ」
ああ、そんなこともあったと振り返る。あの後僕は聖剣に認められた親友と戦い、そして負けた。
だから僕はこうして再びこの海を漂っている。
すがすがしい、なんて言うつもりはない。だって僕がすべきことを全て親友へと押し付けてしまったのだ。
けれど、一度地上へと出て行ってしまった僕はもうこの海から逃れることができない。
いくら前へと進もうとしてもこれまで奪ってきた命に引きずり込まれる。
それが自分の罪の重さだと理解している。けれどやはり押し付けるだけ押し付けて、そして自分はこの海に漂うだけというのは辛いものがある。
だからこそ、せめて親友を見ていようと見上げた時だった。
地上―――僕の最後の場所から光が僕を、この地の底を柔らかく包み込んだ。
僕を引っ張っていた命もその光に包まれ、その手を離した。
「―――ああ、そういうことか」
理解した。魔王城に聖剣が刺さっている理由を。
平和を願い、世界の破壊を成そうとした魔王たる僕たちを引きずり込む彼らを離すため、世界が平和だと示すために勇者は聖剣を刺すのだ。
そして、自分の姿を見せないために聖剣を刺すのだ。
きっと僕は、僕たちは。それぞれの勇者を見ようとするのだろう。そしてどうしても干渉したくなるのだ。
それを防ぐため、僕たちから見えないようにするために
それでも、そうだとしても、そのためにその聖剣を刺したのだとしても、せめて一言だけ言わせてほしい。
この一言が届かないことは知っている。けれど言わずにはいられない。
「さすが、カッコいいぜ。勇者サマ」
これじゃあ二言か。そう自分へ突っ込みを入れて笑う。
ああ、ありがとう親友。おかげで僕はまた笑えた。
本当に、本当にありがとう。僕の理想を成してくれて。
それと、ごめん。魔王は世界の悪だから、地の底からも消されちゃうみたいだ。できれば、もう一度――――――――
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これでこの物語もお終い。
いやぁ、友情ってのはアツいよね。私には、よくわからないんだけどさ。
それでも美しいとは思うよ。
生物って言うものは、散り際が一番美しい。君たちも、そうは思わないかい?
ハハハ、同意なんて求めてないさ。これは私の価値観で、君たちには君たちの価値観がある。
さて、それでは今一度言おう。
君たちは、君たちの価値観に、理想に、理念に、欲望に基づいて、世界を作ることができる。
君たちの見る世界と、私の見る世界は違う。だからこそ、君たちには君たちの世界を表現してほしい。
何、改変する程度なんて簡単なんだよ。少し因果を変えて、君の願うものに変えるだけだ。
大丈夫、君たちならできるよ。
さぁ、書いて書いて。そして読ませてくださいよ。
駄作? 駄文? そんなの書いてたら上達するから書き直せばいいんですよ。
設定的矛盾? それは後付け設定で押し通せばいい。書いてて楽しいから書くんだ。だから楽しい物語を書けばいい。
自分の思う物語を形にするってことはとっても楽しいことなんだ。確かに批判されれば鬱になるし消したくもなる。けどアドバイスをもらって、共感してもらって。そして褒められた時ってのはこの上なくうれしいことなんだよ。
だから、書こうよ