御陵現美のスカウト日記帳 1日目
スカウト1人目
DF「村雨 涙」編 (夜十喰様より)
「はぁ……はぁ……。」
急いで校舎の階段を駆け上がったおかげで屋上に着く頃にはもう脇腹が悲鳴を上げていた。
やはり最近の引きこもりによる運動不足が響いてきてしまっているのだろうか。
……こんなことならもっと体動かしておくんだった。
そんなことを考えながら私は屋上の扉を開く。
さて、どうして私が屋上まで柄にもなく全力で向かってきたのかと言うと、時は少し遡る。
校門。
「ふぅ、戻ってきちゃった…………はぁ、戻ってきちゃったけど、私にメンバー集めなんて……出来ないよこのはちゃん。」
自分の今の性格を痛いほど理解してしまっているだけあってこちらから誰かに声をかけるなんてそれこそ天地がひっくり返りでもしない限り出来そうになかった。
そう親友に影響されたのか勢いに任せてここまで来てしまった自分に若干後悔しながらため息をついてとぼとぼ校門をくぐる。
とりあえずまだ校内に生徒が残っていることを願いながら校舎内へ入ろうとしてふと足を止めた。
「(……し、視線?…………上!?)」
引きこもりとなってしまったがゆえの能力だろうか、妙に他人の視線に対して敏感になってしまっていた。
「(上……上……っ!屋上!誰かいる!)」
こんな時くらいしか役に立ちそうもない能力に任せてその場所から上を見上げながらその視線の出処を察知する。
屋上。
そこには金網に片手をかけながらこちらを見下ろす生徒が1人。
しかし、私と視線を交わすと直ぐに踵を返してしまった。
「ま、待って!」
そう叫んで、素早く下駄箱で靴を脱ぎ捨てると内履きに一瞬ではきかえて全力で階段を駆け上がった。
ここで冒頭に戻る。
ガチャ!
「はぁっ!はぁっ!」
荒い息を開いた扉に体重を預けながら整える。
そのまま視線を動かして先程の視線の正体に焦点を合わせた。
こちらに背を向ける少女は紺色のセミロングの髪と季節外れの赤いマフラーを風になびかせながら先ほどと同じように金網に手をかけながら景色を眺めていた。
「やっぱり。来ると思ってた。御陵 現美さん。」
「へ?ふぇ?」
不意に名前を呼ばれ、瞬きを1度してしまう。
あれ?
私、自己紹介……したっけ?
「弓鶴学園中等部1年生、相澤このはと共に自称サッカー部として活動中。あなた個人としてはジュニア時代【ペナルティエリアの
へ?
なんかいきなり始まった自分の暴露話。
正直過去のことは掘り返して欲しくない私は強く言いたい気持ちとは裏腹に恥ずかしさで彼女のことを注視出来ずにふわふわと宙を漂わせることしか出来ないでいた。
「わ、私…………ひっ!」
口ごもる私を射抜くように振り向いたその瞳はサラリとした紺色によく馴染んだ鮮やかな青い色をしていた。
とはいえ私はそんなことを気に止めていられるほどの余裕もなく、視線を合わせた瞬間体を僅かに萎縮させてしまった。
そんな私の反応を感じ取ったのか少女は1度ため息をつく。
「はぁ、本当に何があったのか問い詰めたいところだけど。それを聞くのは酷というものよね。それほどまでに怯えてしまうようでは私の方が悪者になりかねない。」
「…………。」
その一言でようやく私は今自分がどんな状態なのかを理解する。
両の肩を自分で抱きしめながら小刻みに体を震わせて屋上に膝をついていた。
「ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったの。」
「あ、うん……こっちこそ、ごめんなさい。」
「あなたが謝る必要は無いって。まぁ、そういう性格になってしまったようだから仕方ないけど。それはそれで今はいい。で、御陵さんは私に用があるからここまで走ってきたんでしょ?」
そう言われて私はやっとここに来た理由を思い出して我に返る。
「そ、そう……実は…………。」
少女説明中…………。
「なるほど。サッカー部に。一応聞くけど私がサッカーをやっているという確証はあって言っているの?」
「あう……。嫌なら、ごめんなさい。」
「嫌ってわけじゃないけど、ただ…………。」
「うぅ……(グス)」
「…………。(参った。これがあのどんなシュートでも無効化してしまうという鉄壁のディフェンス能力を持った御陵 現美なのか?まるで別人。)」
「……でも、直感……だけど、サッカー好きそうな雰囲気だった、から。」
「雰囲気?」
「あうっ(ビクッ)……ご、ごめんなさ……い。」
ほとんど反射だろう問に対してビクリと体を震わせた私を見ながら少女は再びため息をつくと後ろ頭を軽く掻いた。
「なるほど。ま、正直私に断る理由はないね。気まぐれで入学した無名校で噂の選手から部への勧誘を受けているんだし、断る方が野暮というもの。」
「へ?じ、じゃあ……。」
「私は村雨 涙。よろしくね。ポジジョンはDF。得意なことは…………後で教えてあげる。」
「DF。私と同じ。」
「そうね。あなたと同じ。」
「同じ……ふふ♪」
何となく同じポジションの娘が入ってくれて嬉しさが込み上げてくる。
久々に顔がにやけてしまうのを薄々感じながらとある話を切り出した。
「じゃあ、お姉ちゃんにも……紹介してあげる。」
その一言で何故か涙は目を丸くしていた。
「お姉ちゃん?あなた一人っ子じゃ……。」
「?私は一人っ子、じゃない。お姉ちゃんがいる……。待ってて、今呼ぶから。」
「今!?」
何故か私に姉がいるという事実に対して異様に食いつく涙に疑問を感じながらいつも通り姉を呼び出す。
と言っても、電話や叫んで呼び出すのとは少し違う。
「お姉ちゃん……出てきて……(コツン)」
そう言いながら自分の頭の右側面を軽く拳で叩いた。
「何をして…………!?」
その一瞬で私の意識は暗い闇へ溶け、表にはもう1人の人格が姿を現す。
「…………(フッ)…………フフフフ♪初めまして♪現美の姉、御陵 明夢と申します♪以後、お見知り置きを、赤スカーフの彼女さん♪クククク♪」
一瞬にして雰囲気が文字通り反転し、先程までの自信なさげな表情から一変して瞳は僅かに釣り上がり、同時に口元にも「今の御陵現美」からは想像もできないような笑みを浮かべながら右手を胸に当てると、まるで執事のように優雅にお辞儀をして魅せた。
「なっ!?嘘でしょ?そんなことって…………」
「別に驚くことないだろう?現美に姉がいても、さ。」
「いや、そういう意味じゃ…………」
「ま、それはともかく。これから宜しく。同じポジション同士。仲良くしようよ♪ね♪ま、もっとも…………。」
「……。」
そう言いながら現美…………いや、今は明夢がゆっくりと涙に近づき、その耳元で小さく囁いた。
「私の実力に着いてこれたら、の話だけど♪フフフ♪」
「なっ!?」
「あはは、冗談だよ冗談。こんな冗談でも火がついちゃう君は最っ高に可愛いなぁ。クククク♪」
「かわっ……!?〜〜っ/////」
勢いのいい涙の反論にその場で軽やかにくるんと一回転すると両手を大きく広げた明夢。
「だからこそ、現美と仲良くして欲しいんだ♪どうだい?」
「言われなくてもそのつもりだから安心して。」
「そっか。ならいい。じゃあ私はそろそろお暇するよ。今度はグラウンドの上で会おう!さらば!……(コツン)」
そう言いながら明夢は先ほど現美が行ったように軽く拳で今度は頭の左側面を叩いた。
「(フッ)…………ふぅ……あ、あの、もしかしてなにかお姉ちゃんに変なこと言われましたか?き、気にしないでください。お姉ちゃん、人をからかうのが、好きなだけなんです。」
「えぇ、今のを見て痛いほどわかった。ま、それも含めてこれから宜しく。現美。」
「うん!涙ちゃん。」
そうやり取りを交わして2人はお互いに握手をした。
さて、現美ルート1日目終了です。
1人目の参加者は村雨 涙ちゃん(夜十喰様より)です。
さて、この娘なんですが一つだけストーリーの都合上とある設定を付け加えさせてもらいました。
それは「ジュニア時代の現美を知っている」という設定ですね。
「鋭い観察眼」と「状況判断能力」に上の設定を織り交ぜながら同じディフェンダーとして現美をサポート出来たらいいな〜なんて想いを込めてみました。
明夢との絡みはまだまだこれからですね。
今後どうしようか検討中です←
さて、見所ですが。
現美との絡みと言うより明夢との絡みの方が今後に響いてくるのではないでしょうか。あとは、「現美のジュニア時代を知っている」というのがやっぱりキーになりそうですね。
そんな感じの1日目でした。
2日目もご贔屓に←(笑)
では♪