Fate/EXTRA ava   作:後ろに敵が

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四日目

 ――三日目が終わった。

 

 なんて、四日目が始まった段階でいうことではないけれど思うことはやっぱりそういうことだ。

 敵のサーヴァントの攻撃を受けるなんてイベントがあっても、やっぱり時間は過ぎていく。当たり前のことだけど、当たり前が当たり前として機能しないことが多い聖杯戦争においては、それはまた随分と珍しく、逆に驚きにあふれることに思えてしまうのは私だけだろうか?

 当たり前であれなかれ、日はまた昇るのはどこでも変わらない(まぁ、ここに昇る日も沈む日もないのだけれど)ということなのだろう。

 

 閑話休題。今の話に戻ろう。

 

 現在、四日目を迎えた私たちは保健室で桜の診察を受けていた。

 体を診てもらったところで、どうなるかもわからない。それにここでその診察なんて行為や言葉に意味や意義があるのかもわからないけれど、気休め程度とでもいうべきか、そういった効果のためにも診てもらうのはプラスにはなれどマイナスにはならないと思う。

 

「――で桜、私の体の調子はどうなの?」

 

 なんて、軽い気分で聞いているようだけれど、内心は緊張しっぱなしだ。

 

「――イチイの毒。岸波さんの体をむしばんでいたのはたぶんこれだと思います」

 

「イチイ……って植物のイチイ?」

 

「はい。イチイにはもともと毒があって……種子に含まれているんですけど、でも自然でとれるものはこんなに凶悪ではないはずなんですが」

 

 なんでも、イチイの毒は量によっては痙攣をおこし呼吸困難で死に至ってしまうこともあるそうだが、これほどまでに少量でここまでの効果が表れるようなものではないらしい。

 ――しかし、私としては自然のものと聞いて納得した気持ちの方が大きい。単純にサーヴァントが近代的な化学、たとえば青酸カリなんて毒を使うとは思えないなんて印象的な理由なんだけど。

 

「わたしの権限(ちから)でできるかはわかりませんが、できる限りの治療はしようと思います」

 

 そういってベッドから離れた桜を見ながら、考え事を続ける。

 ――そういえば桜の、つまりは運営側の治療を受けられたのは原則として決戦日以外での私闘は禁止されているからなのだろうか?

 一回戦もちょくちょく戦闘があったけど、その時負傷してたとしても治してもらえたのだろうか?まぁ、もしそれが理由だとするならば決戦日で負った負傷は治してもらえないことになるのだが……

 

 なんて、とりとめのない考え事をしていると保健室の扉が突然開かれた。

 

 ――それは予想外の客の来訪を知らせるもので。

 

「……」

 

 私の目の前に立ち、こちらを見据えるのは――

 

「ダン・ブラックモア――!」

 

 予想外の敵マスターの来訪。体を身構えようとするが、体に力が入らない。

 ――まさか、これが狙いか?こちらの動きを封じ、そしてそのあとにとどめを刺す。

 咄嗟にセイバーの方を振り向くと。

 

「――大丈夫だよマスター。殺気はない」

 

 ――大丈夫?敵マスターが目の前にいて大丈夫とはどういう。しかしセイバーがそういうのならそれはたぶん正しいと思うのだけど……

 

「……失態を犯したサーヴァントの言葉は信じられないかもしれないが、これは信じてくれ」

 

 ……失態?セイバーが失態?

 なんだそれは。セイバーが失態を犯したことなんて――もしかして、昨日のことだろうか?だとしたらそれは違う。あれは完全に私の――

 

「――そちらのサーヴァントは気づいているようだが、こちらに争うつもりはない。少し話をしに来ただけだ」

 

「話、ですか?」

 

 セイバーへ声をかけようとした私を遮ったのは、目の前にいるダンだった。話、と言われても、その内容がどんなものかは理解も予想もできやしない。私に不利な提案、という可能性だってある。なにせこちらは動けないのだから。

 ――と、そんな考えをダンは。

 

「イチイの矢の元となった宝具を破棄した。宝具の消失と同時にイチイの毒は消えるだろう。身勝手ではあるが、これを謝罪とさせてほしい」

 

 ――一言で崩す。

 

 ――宝具を、破棄した?

 ちょっとまて、まさかダンは敵への謝罪のために自身の切り札を捨てたとでもいうのか?

 

「そして、失望したぞアーチャー。許可なく校内で攻撃したのみならず毒矢まで用いるとは。これは公正なルールが敷かれているにもかかわらず」

 

 ――公正なルールが敷かれた戦い。そう言い切るダンの言葉からして、昨日のはサーヴァントの独断だったらしい。

 

「そしてそのルールを破ることは、誇りを貶めることと何も変わりはしない。これは国ではなく人の戦い、畜生に落ちる必要は、ない」

 

 その口から語られた独白は、静かでありながら確固とした意志を感じさせるものだった。確固たる信念、覆らない信条。

 言葉のみならず、その双眼もそれを語っている。老兵士というよりも、老騎士といった方がしっくりくる。

 そしてそれは、言葉と眼だけではなく行動でも示される。

 

「――アーチャーよ。汝がマスター、ダンブラックモアが令呪をもって命ずる。学園サイドでの、敵マスターへの祈りの弓(イー・バウ)による攻撃を禁ずる」

 

「はぁ!?ダンナ正気か……!?負けられない戦いなんじゃなかったのか!?」

 

「無論その通りだ。負けられないのは当然だし、この戦いすべて勝つつもりだ。だが――アーチャー。貴君にまでそれを求めるつもりはない。わしにとっては負けられなくても、貴君にとってはそうではないのだからな」

 

「…………」

 

 ――令呪を、使った……!?

 本線参加者に与えられる三つの絶対命令行使権利。それを目の前の男は、ここで使ったというのか?しかも「正々堂々と戦え」という命令に。

 

「こちらの与り知らぬこととは言え、サーヴァントが無礼な真似をした。君とは決戦上で雌雄を決するつもりだ。どうか、無礼を許してほしい」

 

 そう言い切ると、ダンは踵を返し立ち去って行った。

 

「マスター」

 

「……なに、セイバー?」

 

「相手のマスターは令呪を使い、宝具名まで漏らした。相手のサーヴァントはマスターを攻撃したことでペナルティを負っているのにも関わらずな」

 

 ――どういう意味か分かるか?その問の答えは、一つしかない。

 

 それでも、勝つつもりなんだ。

 勝つ自信があるからこそ、あそこまでできるのだろう。

 

「ああ、自信というよりも、勝利への覚悟といったところか」

 

 ――覚悟。

 絶対に勝つという、覚悟。それは生き残ることを覚悟とした私にとっては――

 

「なんにせよ、二回戦の相手には重い相手であることには変わらない。努力を怠るわけにもいかんだろうな」

 

「そう、だね」

 

「――とりあえず、アリーナに向かうことにしよう」

 

 うなずきを返すと、それを確認したセイバーはアリーナに向けて歩き出した。

 慌てて私も追いかける。――そういえば、さっきの話を、昨日の話をしなければ――

 

 そう思って、セイバーに向けて手を差し出す。

 声をかけるために、肩でもたたこうとしたのかはわからないけれど、そんな風に差し出した手は、むなしく空を掴むだけで終わった。

 

 ――なぜか、話しかけられなかったんだ。

 

 この時、私は軽く後ででもいいかなんて考えていて。

 後悔するなんて、思ってはいなかった――

 

 

 

 

 

 ――ああ、俺は何をしているんだ。

 

 原作知識をもって、英雄としての体ももって、智と武両方そろっていたはずなのにいつの間にか何かが抜け落ちていた。

 正直俺は今までずっと、この勝負勝てるかわからないとか、そんなことを言いながら実際考えていたのはそんなことじゃない。

 

 ――俺が負けるはずがない。

 

 原作知識もあるし俺のマスターはゲームにおける主人公だ。勝てるかわからないとか言いながら、結局勝つことができると思ってた。

 それをおかしいとは思わなかったし、実際一回戦は勝てたのだ。もしかしたらそれが俺のこの考えを深くしたのかもしれないけれど、たぶん今以上に苦戦したとしてもこの考えはきっと抜けていなかっただろう。

 それにあげられる理由は一つしかない。

 

 ――生きているという意識、とでも言ったところだろうか?

 

 俺にはなかったのだ。この世界で生きているのという認識が。

 俺はマスターに、生きるために戦えなんて言ったけど、そんなことを言える立場に俺は本当にいるのだろうか?戦う理由も覚悟もないのは俺の方だというのに。その事実から目を背けてきた俺よりも向かい合って考えたマスターの方が圧倒的に――

 これも、悪いところだ。この世界の人間を所詮ゲームのキャラクターだと見下している。俺よりも優れた人間などたくさんいるというのに――

 

「セイバー?早く行こう?」

 

「ん、ああ、そうだな。第二の暗号鍵(トリガー)も取得できるみたいだし」

 

 ――おかしな話だ。こんな風に、今まで戦ってきたというのに、今もマスターを心から信頼しているといえるのだろうか?そんな考えがもとでマスターを傷つけていないといえるのだろうか?

 俺の手に握られた中剣がとても頼りなく見えてくる。いや、問題はこれにあるわけじゃない。この体にもこの知識にも問題はないし、むしろ上々だ。

 

 ――こんな精神状態でも体は動き、敵を切り刻む。これは俺の持つ()()()のおかげであり俺の介入するところなどまったくない。比喩ではなく体が勝手に動くのだ。

 

 正面に浮かぶ正方形の形をした敵を見据えながら、自分の体をマスターと敵の間に挟む。

 そして、単調だと言わんばかりに突っ込んでくる敵の体を剣の腹で受け止め、少し吹き飛ばされた敵を、一撃で引き裂く。

 

 ――簡単だ。作業のように。単調な行動の繰り返し。

 

 ――そして、体だけじゃない。こんな精神状態でも、原作知識は当然出てくる。

 

 目の前の牛のような敵の名前は「EXE HORN」であり、その攻撃パターンは出の速い攻撃、一撃の重い攻撃、そしてカウンターを使い分けるため、強力な部類である。

 そんな知識が、流れ込んでくる。これは意識ではなく記録。一足す一の式を見たとき、計算せずとも答えが出る、あの感覚。自然に出てくる答え。

 

 そしてその答えをもとに戦いを展開する。相手の攻撃を誘い、そのタメの長さから速さか力かを見極めそれに応じて攻撃を切り替える。

 原作知識と身体能力を合わせる。

 

 ――少しもためずに攻撃を仕掛けてきた相手の攻撃を冷静に防ぎカウンターを叩き込む。

 

 違和感だ。ずっと感じていた違和感。

 

「あ、セイバー!暗号鍵(トリガー)あったよ!」

 

 いつもより大きいマスターの声が響く。――たぶん、俺を元気付けようとしてくれているのだろう。

 さっきからこちらをチラチラ見ていたしすぐわかった。その視線に感ずいたのは俺の体のおかげなのだけれど。

 

「ああ、とりあえず今日はここまでにしておくか」

 

 ――とりとめのないマスターとのやり取りも、なんだか気分が重くなる一因になっているようだ。

 

「あ、うん。そう、だね」

 

 しゅんと縮こまるマスターの後ろを歩きながら、俺は一つの問題を考える。

 

 ――俺は、いったい誰なのだろか?

 

 体は英雄の『私』の物で、知識は平凡だった『俺』の物。なら、それを合わせた今は――

 

 ――『私』の体と『俺』の知識を持った俺は、いったい誰だというのだろうか?

 

 わからないわからないわからないわからないわからない。

 俺の正体も真実も事実も虚像も嘘も誠も理由も帰結も意味も意義も理屈も委細も概略もわからない。

 

 ――これじゃ、覚悟以前の問題だ。

 

 考えたところで答えは出ない。思考を重ねても回答は出ない。

 肉体でも知識でもない、ここにある俺という存在は――

 

 ――いったい、なんだというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日の成果

 

 セイバー お、れ、は。おれは……

 はくのん 暗号鍵(トリガー)げっと……ってセイバー?




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