Fate/EXTRA ava   作:後ろに敵が

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――少女対少女


決戦日

――三度目の決戦。

 

俺とマスターの迎える、三度目の戦い。

一回戦二回戦とこの校舎にいる人間は減っているはずなのに、包み込む緊張感と緊迫感は増していた。――ここにいる人間はすべてふたりの人間を殺している。それを背負っているのかいないのか、すれ違うマスターのほぼすべてが、何かを決意したような顔をしている。そしてそれはマスターも同じであり俺もまた――

 

決戦が始まるまで、時間なんてものはない。基本的に考察とかをするこの時間であるものの、今の俺たちにそんな余裕はない。それに、情報は昨日までで十分整理もされている。――相手のサーヴァントがキャスターである以上、こちらが有利であることは確かだ。事実普通に正面から戦えば俺がかつ可能性は高いと思う。しかし、だからといって油断なんてできないし余裕なんて全くない。

そもそも、低いステータスで格上の敵を倒す、なんてことは俺たちがこれまで二回やってきたことだし、俺が勝てるなんてのは所詮相性の話。実際の戦場に出てみれば、相手はおそらくそんなものを覆してくるだろう。弱点を、相性を覆してこその英雄であるのだから。――最も相手がまっとうな英雄であるとは言えないが。それでもサーヴァントであることに変わりはない。一流の魔術師としての実力を持つキャスターが相手――俺も一応対魔力は持っているが、低ランクゆえにキャスター相手には通用しないだろう。staynightのセイバーぐらい対魔力が高ければ話は別だと思うんだけど……なんてないものねだりをしても仕方がない。俺は結局、戦うことしかできないわけだし、それでここまでやってきた。幸いに、勝因がないわけじゃない。俺の要素を、俺のステータスを。

 

――フルに使って、勝ち残ってやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――三度、方舟に。

 

流石に三度目ともなればなれるのか、私は自然な姿勢でこの決戦場への方舟に乗っている。

全く揺れもせず、普段と全く変わらない感覚からは分からないが、この方舟は下へ下へと進んでいる。これは、前回からわかっていたことで全くと言っていいほど移動中は揺れがない。しかし、一回戦に疑問に感じ、二回戦で慣れてきたその全く揺れない感覚は、この三回戦において感じることはなかった。

少し、揺れている。

体が不安定に揺れる。それはまるで今の私の不安な心情を表しているような――いや、事実表しているのだろう。

実際、三回戦だけ揺れる方舟なんてことがあるはずもない。だから、今私がここで感じている揺れは、ただの――震えだ。

体が震え、足が震え、心が震える。今まで、一回戦と二回戦ではなかったこと。一回戦と二回戦も、死ぬかも知れないという驚異はあった。だけどなぜ、なぜ私はそれ以上の恐怖をいま感じているのだろう――?

 

「――また、遊べるね」

 

「――今日は何をして遊ぶ?かくれんぼとかする?」

 

――もちろん、その恐怖の対象は一つ、いや二つというべきか。

 

――白い服の少女で、マスターであるありすと、黒い服の少女で、キャスターであるアリス。

今まで全く感じなかった類の恐怖を煽るかのように、二人は交互に少しずつ話を進めようとする。

 

あたし(ありす)はおままごとやりたいな。おとうさんとおかあさんがいれば楽しいよね」

 

「ならあたし(アリス)がお父さんであたし(ありす)がおかあさんかな」

 

あたし(ありす)がお母さんであたし(アリス)がおとうさん。ならお姉ちゃんはどうしよう?」

 

――寒気がする。

ただただ会話が繰り広げられているだけでも感じる恐怖が私の名前が出た途端に寒気となって私の背筋を走る。

 

「うーん、おねえちゃんはわるもの……かな?」

 

「わるもの?」

 

「そう、わるものでじゃまもの」

 

「……じゃまするの?」

 

「そうあたし(アリス)あたし(ありす)がしあわせになるのを、わりこんで、じゃましてくる」

 

「じゃまものは……やだ。しあわせないの、やだ。……どうしよう?」

 

「わるものは首をちょんぎって!って女王さまは言ってたよ」

 

「……あぶなくない?」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ。だってごっこ遊びだもん」

 

「そっか!ならだいじょうぶだね」

 

ああ、これだ。私が恐れていたのは、この無邪気な殺意。平凡に平穏に平常に殺意を抱くこの姿に、私は恐怖したんだ。

 

「うまくいかなかったらおいしゃさんごっこが出来るもんね!」

 

そんな、単純な結論で納得できる精神が、怖い。これがもし、本当になにかの遊戯だとするならよかったものの、これは命を掛けた戦いなのだ。そんな単純な理屈で納得できるはずもない。――いや、そもそもそんな理屈が成立するはずがない。納得以前に、理屈としてなりたっちゃいない。

 

――破綻している。精神が感情が。

 

「――あたし(ありす)あたし(アリス)とだけ話すの」

 

ありすが、私に向かって言葉を紡ぐ。

 

「――せっかく、おなじだとおもったのに。ようやく、おなじひとだとおもったのに。やっと、さみしくなくなるっておもったのに!もういらない、わたしのことをきらうなら――お姉ちゃんなんてもういらない!」

 

「――そうよ、あたし(ありす)あたし(アリス)だけいればいい、だってあたし(アリス)あたし(ありす)だけのあたし(アリス)だから」

 

「――お姉ちゃんはあたし(ありす)だけのあたし(アリス)じゃないから――」

 

「――お姉ちゃんは、もういらないの」

 

――いらない。

最後に揃った声で発したその言葉は、死刑宣告にも等しい宣言。お前を殺すと、そういう言葉。

 

「――だから、あたしたち(ありすとアリス)と最後に一回、遊ぼうよ?」

 

――微かに揺れていた方舟に、大きな揺れが伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――随分と、静かだ。

 

方舟に乗ったところから、俺は随分と落ち着いていた。

いつも揺れない方舟ではあるものの、今日はいつも以上に安定しているように感じた。――心の問題なのだろうけれど。結局、一回戦も二回戦も、ある程度の緊張があった。作戦が成功するかどうかという緊張も。しかしなぜか今回は、落ち着いている。――絶対に、勝つ。

方舟にいるときも、俺は前回までと違い一言も喋らなかった。――これが落ち着きというのなら、いいのか悪いのかよくわからない類のものになってしまうが……

 

――戦闘が、始まる。

 

決戦場の中央で向かい合う俺とキャスター。

 

――そこ、で。三回戦が――

 

「――第七革命の無手(ヴァランクウォース)!」

 

――始まった。

 

「えいッ!」

 

俺が一つ目の宝具の真名を開放するのと同タイミングで、キャスターの魔術が発動する。――あの程度の時間で、通常の魔術師で言うところの大魔術級を出してくるあたりは、さすがキャスターとでもいったところか。

後ろに下がりそれを躱す。先程まで俺のいた場所に相手の魔術が突き刺さる――

 

――ああ、なるほど。戦ってわかった。今までの遠距離攻撃とはやはり、一線を介している。

 

「――まだまだだよ!」

 

そう言って、魔術を連射してくるキャスターの姿には、本編の冬木で行われた第五次聖杯戦争のキャスターを思わせる。最も、あのレベルには届かないだろうが。それでも、魔術による攻撃というだけで、こちらは圧倒的に不利になる。

 

そもそも、魔術とは通常兵器とは完全に違うものだ。

例えば、いまキャスターが撃っている光の玉のようなもの。あれは、見た目はただの光だが、魔術で打ち出されたものだ。当然人に当たれば人を殺すことだって出来うるもの――いや、あれがキャスターというサーヴァントから放たれていることを考えれば、マスターなどに当たればおそらく一撃で絶命する。それほどの威力を、あの魔術は持っているわけだ。

――ここまでなら、今までと一緒だ。ライダーの銃弾も、アーチャーの弓矢も、どちらにせよマスターに当たれば一撃で殺せるぐらいの威力はある。それぞれがサーヴァントの武器であり、サーヴァントの力であるのだから当然のことだ。ならば、キャスターとてその威力を持っているのは当然で、なんだ今までと変わらないじゃないかと。だが、そうは問屋が卸さない。

 

その理由はひとつだけ。防げないという一点。

 

「――ちっ、マスター!後できっちり謝る!」

 

「ふえ!?ちょ!」

 

――俺はマスターを横に抱えながら、相手の魔術を避ける。特にまだ武器は持っていないが、それでもまだよけられるぐらいの魔術しか使ってこない。――それの意図がなにかはわからないけれど。

 

俺がマスターの身を、マスターを俺の後ろに待機させて置くわけにはいかないのも、先の一点が理由だ。

俺がもし、魔術を無効化したり出来る武器を持っていれば別なのだが、基本的に魔術は銃や弓とは違い、剣や槍で弾けるものじゃない。俺の方にまっすぐ向かってくる攻撃を、俺は弾くことができない。そして、もしそこで横に回避でもしてみろ、それは当然俺の後ろにいるマスターに当たる。

 

「ちッ!」

 

俺は一旦、少し距離を取ってからマスターを抱えていない方の手――マスターは左で抱えているから右手に――武器を取り出す。

――今回の戦闘、二つ目の宝具はこの月の聖杯戦争において俺が最も愛用している武器。

 

第二革命の中槍(リヴォンツオーネ)ッ!」

 

――素槍。

それを発動したことにより、俺の敏捷が一時的に強化される。マスターを抱えていようとも、余裕で相手の魔術を躱せるほどに――。それを見てなのか、だんだんとキャスターの魔術の早さが上がっていく。今まで手加減していたのかなんなのか、それはかなり上がってきた。――避けれないほどではないのだけれど。

 

「まだまだ、いっけー!」

 

そんな掛け声と共に放たれた魔術は先程までと速さはさほど変わらないものの、威力が段違いに上がっている。

 

――俺は、それを余裕そうに避けているものの、それには一つ秘密がある。

 

それこそが、二つの宝具の真名開放にあるわけだ。今更、第二革命の中槍(リヴォンツオーネ)についての説明はいらないだろうが、重要なのは一つ目に発動した宝具。

 

――第七革命の無手(ヴァランクウォース)

 

『私』の起こした七つの革命のうち、一番最後の革命をなした宝具である。と、言ってもそれはの正体は名前のとおり『無手』であり、つまりは素手。武器などを持っているわけではない。しかし、この宝具は真名開放することで、当然のごとく有益な効果が現れる。

通常、俺の宝具は基本的に一つずつしか使えない。例えば、左手に第一革命の中剣( プロトゥーブ)を持ち右手に第二革命の中槍(リヴォンツオーネ)を持つなんてことは、物理的に無理とか言う前に、そもそもその二つを同時に出すことすら、現界させることすらできないということだ。

しかし、それにも一つ例外があり、それこそが第七革命の無手(ヴァランクウォース)なわけだ。そしてもちろん効果は同時に使えるということだけでなく――

 

「――マスター、ここにいてくれ」

 

俺はキャスターからある程度距離をとった場所にマスターを下ろす。――もちろんこれは自殺行為などではなく。

マスターを下ろしたことで両手が空いたわけだが――

 

「――セイバー、だいじょうぶ?」

 

それは作戦の確認か、それとも心配をしているのかの区別はできなかったが、どちらにせよ問題はないし、異常もない。

俺はこくり、と頷き空いた左手も使い槍を構える。キャスターが、首をかしげながらこちらを見ているのが見えた。そして右手をこちらに向けているのを。――魔術を使うための動作。俺は、それを見て――

 

――一気に、走り出す。

 

「――えっ?」

 

――その声は、誰のものだったのか。キャスターか、ありすか、はたまたマスターが出したものなのか。俺は、次の瞬間。

 

――キャスターの、後ろに立っていた。

 

「――――――ッ!」

 

キャスターは咄嗟にこちらを向き魔術をはなとうとする。俺はそれと同時に、第二革命の中槍(リヴォンツオーネ)を消し、新たな武器を取り出す。

――当然、咄嗟の判断とは言え、武器を持ち替える俺よりもキャスターのほうが早く魔術を打ち出す。通常の魔術師ならいざ知らず、相手はサーヴァント。とてもじゃないが普通の魔術師なんて言えない存在だ。当然その判断の速さは人間とは一線を介している。――しかし、それが問題だったわけだ。俺に向かってくる魔術は、近距離から放たれたゆえに俺の体に一直線に向かい、そして一瞬で俺の体にぶつか――

 

――らなかった。

いや、正確には俺の体に当たる前に霧散した。

 

「――へ?」

 

――キャスターのミス。

キャスターは、考えた。この近距離で、相手に魔術をきっちり当てるためにはどうしたら良いのか。そこでキャスターは答えを出した。出してしまった。こんな近距離に使うならば当然、出の早い魔術だと。そんな風に。それが、キャスターのミスだ。ああ、本当に残念だ。俺には、ランクが低いとは言え――

 

――対魔力のスキルが、あるというのに。

 

「――第一革命の中剣(プロトゥーブ)

 

そして俺は、新たに出した中剣を開放し、強化された筋力のままその剣を――

 

――振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――壁が、降りた。

 

私とありすの間に、絶対的な壁が作られる。それは、その壁は、勝者と敗者を分ける壁であり、そして生者と死者を分けるでもある。この壁が敷かれるのも、三度目だ。だけど、未だにこれにはなれない。いや、多分これからもなれることはないだろう。だって、これになれるってことは殺しなれるのと同義なのだから――

 

「――あれ?からだ、きえてくよ……?」

 

ありすが、そうつぶやく。その言葉に、悲しみはなくただの確認のようだ。冷静に事実を確認しただけだとでも言うような、つぶやき。

 

「……そっか、これで終わり、なんだ」

 

もう一度、再び呟いた言葉には、少しの悲しみと安堵が混ざった言葉だった。

 

「……なん、で?」

 

今度のつぶやきは、ありすではなくアリスのつぶやき。

今にも消えていこうとする主人(ありす)の手を、握り締めながら、そんなつぶやき。それは、悲痛な思いを含んだもので――

 

――悲しみを、含んだ言葉。

 

あたし(ありす)は、ずっと一人。だれも見てくれない、居場所もなかった。さびしかった。ずっと、ずっと」

 

「やっと、見つけたのに、あたし(アリス)だけのあたし(ありす)。居場所も、幸せも。もう、良かったのに。このままなら……ずっと、このままならそれでよかったのに」

 

アリスの悲痛な声が、響き渡る。嗚咽と共に響くそれに、私は、どうすることもできなくて。だけど、ありすは、それに対して小さく笑ってみせる。

 

「いいの……もう」

 

その微笑みは、今までの笑顔とは違う。静かでまるでアリスを包み込もうとしているような笑みで――

 

「わかってたんだ。よく、覚えてはないけどあたし(ありす)はもう死んでるもの……さいしょから、何もなかったんだ。ここにいるあたし(ありす)は、ただのぬけがらだから」

 

「そん、なの……」

 

「だれもあたし(ありす)を見てくれない。だれもあたし(ありす)を人間あつかいしてくれない。それはふしぎなせかい(ワンダーランド)でもおんなじ」

 

――ああ、なんだ、これは。

私は、勝ったんだ。

これまでだって、相手の死を喜んでいたことはない。それを見ていい気分になったことなんてない。だけど、それでも、勝利は嬉しかったはずなのに……なんで、私はこんなに――

――悲しいんだろう。

 

「――お姉ちゃん」

 

「な……に……?」

 

「――あたし(ありす)のこと、ちゃんと見てくれた?」

 

――見て、くれた?

その響きは、悲痛さや悲しみは含まれてはいなかったけれど、寂しさが、多く含まれたもので、ありすの思いが含まれていた声で。

私は――

 

「――うん」

 

と、一つ頷くことしかできなかった。

だけど、そんな私のちっぽけな動作を見て、ありすは幸せそうに笑った。

 

「やっぱり、見てくれるとおもってた。お姉ちゃんは、似てるから。……あたし(ありす)と違って、居場所があるけど」

 

視界が、滲む。目の前が少しぼやけて……わた、しは――

 

「ありがとう()()()。わたしといっしょにいてくれて、友達に、なってくれて」

 

――私は、何をした?私はこの少女に、何かをしてあげたか?

何も、しちゃいない。できちゃいない。なのにありすは、こちらを見て笑顔を見せる。

 

「――ありがとう、お姉ちゃん。わたしといっしょに遊んでくれて……わたしを見てくれて」

 

――本当に、ありがとう。

 

ありすは、そう残して消えていった。

まるで、砂糖菓子が崩れるように、あっけなく最初から何もなかったかのように消えていった。

 

――なにも、なくなった。

 

「……あたし(アリス)あたし(ありす)の見てる夢。かがみの中なのあたし(ありす)だから。もう、あたし(アリス)も消えちゃう。またここに呼ばれても、もうあたし(アリス)あたし(アリス)じゃない」

 

――マスターの鏡写し。

それが、アリスの特徴であり、宝具であり――人生だ。夢は所詮、どこまで行っても夢でしかない。本当のことになんて、なりえない。だから、これはいつもどおり。

アリスにとってはいつもどおり、夢が終わるだけ。目を覚まして夢が終わるだけ。――そういう、力。

――の、はずなのに。

 

「あ、れ?なんで、なんで、こんなの……」

 

――今にも消えようとするアリスの目元から、一粒の雫が落ちる。

 

「なんで……ないてるの?泣いたって本物になんて、なれないはず……なのに」

 

――また、消えた。

 

あっけなく、主人の後を追うようにあっさりと。

 

――わかっていた。これが聖杯戦争。既に二回、体験していたはずなのに。初めてじゃ、ないはずなのに。わかってた、これが摂理。戦争という現象の起こす、必然。なのに、私は――

 

――こんなものを、当然だなんて思いたくない。

 

だって、これが当然のことならばもう完全に戦争ってものは。戦争の起こるこの世界は――

 

――歪で歪んで、壊れきってる。

 

 

 

 

 

――こうして、私たちの三回戦は、終わった。




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