――決戦日。
俺とマスターは決戦前最後の話し合いをしている。
――ここまできて何を、と言われてしまえばそれまでだが、今回はそれぐらいのことはしないといけないだろう。むしろ、今まで決戦当日は何もしていなかったことのほうがおかしい気がする。――それにも、当日は落ち着いて決戦に集中するという意図があったにしろ、今回はそんなことも言ってられない。今までだって自分たちよりも格上との戦いではあったものの、今回の敵はさらに格が違う。万全の態勢で挑んだところで、勝てるかどうかわからないほどの、強敵だ。『最強』のサーヴァントであるバーサーカー相手なわけだしな……
「――勝てる、かな」
マスターが、そう不安を漏らす。多分、考えてのことじゃない。自然に漏れた言葉だったのだろう。マスターはそれに対する答えを求めているわけではないようだ。――不安が漏れるほどには緊張しているのだろうけれど……マスター、それは今更というものだろうに。存外、不安なんてものは考えないほうが良い結果が出ることもある。――それもその時々であるのだけれど。
「勝てるかどうかは、今考えるべきことではないだろう。考えるべきことは、勝てるかどうかの選択ではなく勝つかどうかの選択であるべきだ」
……なんて言ってみるが、ここで「勝てるかじゃない、勝つんだ!」とはっきり言えないあたりが俺のヘタレなところである。どうにも、不安をもって負ける可能性を考えてしまうのは俺の癖なのかもしれない。――負けを考えない奴と考える奴どちらが強いかなんてのは定かではないし、そういうのは言う人考える人によって答えが違う類のものだから深く考える意味もないか。
「勝つか、どうか」
「ああ、勝てるかどうかよりは前向きだろう?」
「それもそうだね。勝つか、なんだかこっちが格上みたいな感じだけど」
「それは、それでいいんじゃないか?勝負は結果がすべて、勝ったやつが格上だ。その理論で行けば今まで戦ってきたどの敵よりも俺たちは格上ということになる」
――たとえ、それらの真の実力がどうであろうとも。
「……それも、そうだね。今までの敵だって、私たちは倒して来た。なら今回も同じように――」
「ああ、今回も勝ってその上で確信を持って言えばいい」
――俺達の方が、格上であると。
「――なるほど、それは極論ですが正しいでしょうね。勝者が強者、間違いなく正論と言えるでしょう」
「――ハッ、正論なんてのは褒め言葉じゃないな。正論なんてのは極論になれば全部正論だ」
――私たちは今、決戦場への方舟の中にいるのだけれど……
どうにも、この空間は慣れそうにない。ガラスのように外が見えるから自分が下がっているのはわかるのだがこうも揺れがないと外が見えることが逆効果でどうも居心地が悪い。――なんて、現実逃避したところで目の前で行われている討論(といっても、内容は感情的な気がするが)が終わることはないのだけれど。
『――お前は、黙るタイプのマスターか』
なんてこの方舟が動き出した途端にいうものだからそこから二人での会話が続いている。――只挑発し合っているようにしか見えないけれど。
「……その理論は極論ですがそこは気にしない方がいいんでしょうか?」
「ああ、気にしなくてもいいんじゃないのか?なんにせよ勝った方が強いことには変わらず、これから俺たちが強いということが証明されることにも変わりはないからな」
――さっきから、この調子だ。まあ見た感じでいくとセイバーが挑発してラニが冷静に受け答えする感じになってる。どうにもラニは挑発ということをあまりしないらしい。単に、そんなことをするまでもなく勝てるということなのかもしれないけれど。……そこらへんが、凛との違いでもあるのかもしれない。あれは勝てるかどうか以前に、自然な流れで挑発している。癖のようなものだろうか?それを言えばセイバーにもそれは当てはまりそうなものだけど。
「随分と、先程から大きく出ますね。自信があるのは良いことですがそれは過信というものでしょう」
あ、それ昨日凛に言われてたやつだ。……意外と気にしてたのかな?ラニってそういうところ根に持ちそうだ。
「……お前でもそういうこと言うんだな。そのセリフはどちらかといえば遠坂あたりが言いそうなものだが」
セイバー鋭い。意外とわかりやすいのかな?まあ二人共個性豊かだし言いそうなこととかわかりやすいよね。
「……そうですか?私が何を言うかなんて、私の勝手でしょう」
「ああ、そりゃそうだな。俺も言ってみただけだからあまり気にするな。そこまで言われると本当に遠坂が言った言葉なんじゃないかと思ってしまうからな」
セイバーは、そう言ってから一泊おいて言葉を続ける。
「それに、自信が過信であろうとも自分を信じなければ何も始まらないだろうに」
――どうにも、セイバーは自分の考えを言いがちな気がする。英雄というのだから自分の意思を貫き通したのだろう、だからだと思うのだが。英雄はやっぱりみんなそんな感じなのだろう。今までの敵もそんな感じだった気がする。
「――なんて、無駄な話をしている時間は終わりのようですね」
と、ラニが呟いた瞬間体に揺れが伝わる。小さな揺れだが全く揺れのない方舟に乗っていたからか随分と大きなものに感じる。
「無駄、ね。確かにそうだな。こんな言葉で語ったところでどうにかなるわけじゃない――」
――うん、そうだ。私たちのことを語るなら。
「――戦いの中で、存分に語ろうじゃないか」
――四回戦が、始まる。
――いつもどおり、俺は武器を構える。
既に癖になっていることだが、それと同時に真名を解放する。俺の宝具は基本的にステータス上昇のためここで開放しない意味もない。――最も、ここで発動したのはステータス上昇の能力を持った宝具ではないのだが。
「――
閃光が走る。
俺の一つのつぶやきと同時に俺の手より放たれた矢は正しく光の速さで敵に向かう――
――とはいえ。
「――なるほど、接近戦は不利だと考えたわけですね。ですが――」
――その程度で、倒せるとでも?
俺の放った矢はそのままバーサーカーの体に突き刺さった。
よけられたわけでもなく、弾かれたわけでもなく、きっちりかっちり狙い通り心臓のある左胸に俺の矢は命中した。――だが。
「■■■■■■■■――ッ!」
バーサーカーの叫びは、未だ止まない。
特別なことは何もしていない、そんなことをすれば俺が気づかないはずもない。だからこの叫びが止まない理由は――
「――耐えやがったのかよ……ッ!」
あれは、アーチャーを一撃で屠った一撃だというのに――やはり、性能で言えば格が違う。しかも今の矢は、今の一撃は。一撃における攻撃力で言えば使ったのも使ってないのも含めて『
なんて、考えている場合でもないか――!
今度はこちらの番だとでも言いたげにバーサーカーが一瞬でこちらまでの距離を詰める。――クソッ、こんなとこまで高ステータスかよッ!このバーサーカーや、本編に登場するヘラクレスに言えることだが、どうも見た目から攻撃力は高いが動きが遅いなんてイメージを抱きがちだが実際はそんなことはない。現実で言ったって筋肉があるやつの方が速いんだ。それがサーヴァントにも当てはまるだけ。速さを決めるのは見た目ではなくステータスなのだから。そして、肝心のこのバーサーカーの敏捷は――
――B+。
この敏捷は遠坂凛がマスターのアルトリアと同等の速さである。そして+付きということはとある条件下においてそのステータスが倍加されるという意味であり――
「――クソッ、強化なしだと追いつかねえなッ!」
――その速さは、かの大英雄クーフーリンすら超える。
敵の持つ武器を、弓矢で防ぐ。――といっても、もともと遠距離武器だ敵の攻撃を受けることなんて想定しているはずもない。
「ぐ……あ……ッ」
声にならない悲鳴をあげながら俺の体が後方に吹き飛ぶ。当然だ、敏捷よりも筋力の方が当然高い。筋力A+は伊達ではないということか。
「セイバー!?」
マスターの、叫びが聞こえた。だが、マスターがいる方向とは違う方向に吹き飛ばされたからか、はっきりとソレの言葉は聞こえない。その表情から心配しているということはわかる――のだが、今はそんな心配を受け取る前に、まず俺がマスターの心配をしなければならない――
「
――槍を取り出し真名を解放する。といっても、吹き飛ばされている途中に弓矢をしまっていたのでその動作はスムーズに、そしてそこからの動きも一瞬だった。宝具を開放し上昇した敏捷を活かし一気にバーサーカーに近づく。
「■■■■■■ッ!」
俺が、バーサーカーに向けて放った攻撃をバーサーカーはその武器をもって受け流す。そして出来た隙を突くように放たれるバーサーカーの攻撃を無理やり体をねじって躱す。――かすったとしても、その程度は無視だ。本来なら、接近戦なんてしたくはないのだけれど……だが、そうもいかない。相手はラニだ。俺とバーサーカーの間にマスターを入れてしまえばマスターが攻撃されてしまう。俺ですら一撃でだいぶダメージを受けた。マスターが食らえば一撃で――
「せ、セイバー!?――heal!」
――マスターは俺が一瞬で移動したからか驚きを見せたものの、冷静にそのコードキャストを唱える。俺はバーサーカーの攻撃を避けながら体の痛みが引いていくのを感じる。――といっても、もともと痛みを感じづらい体なのだけれど。ぶっちゃけ、こうやって回復できるのは結構チートっちゃチートだがそれは相手も同じこと。相手だって同じことをするのだから関係はあるまい。
――そして、これが俺がマスターに教えた作戦その二。攻撃をくらったら即回復。
敵を倒せなきゃ勝てないのは当然だが、それと同じく自分が倒れなければ負けはしない。そんな簡単な理論。――作戦その1、開幕宝具ぶっぱで一撃必殺作戦が成功するのが一番良かったんだけど。それは望みすぎってものだろう。
そもそも、相手の耐久はA+だ、一撃で倒せるはずがない。だから、この作戦を取った。一撃で決めるのではなく少しずつ傷を負わせていく作戦である。
この作戦だって相手の攻撃をすべて避けられればもっと良かったのだ。だがそんな芸当は流石にできない。さっきも言ったように相手の敏捷はB+、こちらは宝具の力を借りてBまで敏捷を引き上げてはいるものの、それで同等。同じ速さなのだから攻撃を食らったり当てたりできるのは当然だろう。
最も、これはマスターの魔力が尽きた時点で終わりな作戦だ。どちらにしろ攻撃を多く喰らうわけにはいかない――
「――ぐッ!」
「――heal!」
といってもそれは理想なのだ。かすっただけでも相手の攻撃は俺に大きな傷を残していく。――このまま、だと。
「せ、セイバーッ!」
――勝てない。そのことがマスターにもわかったのだろう。俺に声がかかる。それもそのはずだ。俺の攻撃も敵の攻撃も同じぐらい攻撃が当たった。だが、その威力は段違い。それにこの作戦は俺だけでなく相手も使える。
「――さて、ここまで来たわけですが……」
と、ここでラニが声を、俺たちに声をかける。
「どうしますか?私に言わせれば諦めたほうがいいと思いますが」
――――
――まあ、そうだよな。俺が相手の立場でも多分おんなじことを言った。ここまでの力の差、自力の差を見せつけられて戦意が残っている方がおかしいんだ。普通に考えて勝てるはずがない。ステータスから言ってそうだ、俺はほぼオールD相手は条件さえ揃えばオールA以上。これで勝てるはずもない。――戦闘機の例えも、馬鹿にできない。今の状況はまさにそれだ。
――とはいえ。
「セイバー、聞いたよね。今の」
「ああ、聞いたよ。マスター、答えは……?」
――とはいえ、だ。
「――絶対に勝つよ、セイバー」
俺たちは、その『おかしい』類の人種だ。
「……そうですか。まあ貴女たちはそういうと思ってましたが。では、見せてもらいましょうか貴女たちがここから、どう戦うのかを」
――ああ、そうだ。だけど、勝機がないわけじゃない。
「セイバー――!」
――ああ、見せてやる。作戦その三。
――保有スキル『革命家 EX』発動。
「ぐ……ぎぃぁぁああぁぁぁぁ■■■■■■―――ッ!」
『革命家』
セイバーから、話は聞いていた。
スキルの中でも最高のランク、規格外を意味し
なんでも、セイバーはもう一つ『EX』があるらしく『戦闘可能』というスキルらしいのだが、そちらは詳細を教えてはくれなかった。
――とはいえ、この革命家のスキルの能力を聞いたときに思ったのは「それ、なんで今まで使わなかったの?」ということと「それあれば大体勝てない?」ということだった。もちろん、そんなにうまい話がある訳もなく、ほとんど持ち腐れのようなスキルらしいのだが……理由も聞いて納得できるものとは言え、チート能力と呼べるものであることには変わらないだろう――
――殺気が、膨れ上がる。
先ほどまでこの場所を満たしていたバーサーカーの殺意すらも飲み込み喰らい殺しつくそうとする純粋な殺気。その、源は――
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆――――ッ!」
――セイバー。
その叫びと殺気と共にセイバーの体から黒い霧が吹き荒れる。――まるで、悪魔にでもなっているかのようにその霧はセイバーを包み込み――
――晴れたところにいたのは更に黒く染まった髪と黒くなった服を纏ったセイバー――いや、あの姿はまるで――
「――バー、サーカー?」
ラニのそのつぶやきが今のセイバーの正体を表していた。そう、それはセイバーの今の姿はまさしく。
――
「◆◆◆◆◆――ッ!」
「■■■■■――ッ!」
――狂気と狂気が、ぶつかる。
「ステータス、およびスキルの強化」
セイバーは、そのスキルの説明をそう始めた。セイバーの宝具はステータスの強化が主だったわけだから予想できない能力ではなかった。
目新しさといえば、スキルの強化というところだろうか。スキルでスキルを強化するというのは少し回りくどい気がしないでもない。
「このスキルの圧倒的なところは、その上昇率にあるわけだ」
――『EX』の所以ということか。と、上昇率といわれても今までのがどれくらいなのかもわからないし――
「二段階強化」
……?
「俺の宝具によるステータスの強化は二段階強化する。――これは普通のサーヴァントで考えれば圧倒的ではあるもののオールDの俺からすれば大したものじゃない。何せ、強化してもB普通のサーヴァントなら二つや三つぐらいは持っていてもおかしくない。ましてや相手はバーサーカー、平均Bなんてのはザラにある」
なるほど、確かにセイバーのステータスがもう少し高くて、せめてCでもあれば最高ランクであるAにすることができるし、もともとAランクあればA+ぐらいの出力になるのだろう。そう考えればセイバーの宝具の性能は圧倒的と言ってもいい。
「だが、このスキルはスキルを強化できるだけでなく、その強化の段階も桁違いになる――」
セイバーは、そこで一拍ためて話す。
「――五段階強化」
――ご……!?それって……!?
「ああ、Eランクのステータス、スキルがA+になるといえば、わかりやすいだろう?」
――Eが、A+に……!それは確かに『EX』のランクにふさわしい性能である。
そこまでのものがあるのならなるほど、セイバーの自信もうなずける――
「――だが、これにはある程度の制約がある」
まあ、それはそうだろう。これだけの能力が制約なしで使えるはずもない。――固有結界のような膨大な魔力、とかだろうか?
「この制約と、俺の中途半端なステータスの低さが相まって、このスキルをつかえないなんて状況に陥っているわけだ」
――では、一つずつ説明していこうか。
『一つ目の制約は、強化したいステータス、スキルを相手が保有しそのランクがA以上であること』
――これにより、相手がさほど強くない相手の時に強化するのが封じられた。今回のバーサーカーで言えば筋力耐久敏捷狂化がこれに当てはまる。
『そして、もう一つの条件、これがなかなか厄介でな。ステータスがオールDでEのない俺にだから言えることなんだが――』
『――その、強化したいステータス、スキルのランクが最低値のEであること』
――今回のバーサーカーで当てはまった筋力耐久敏捷がセイバーのステータスでどうなっているかといえば筋力D耐久D敏捷D。すべて、低くはあるが最低ではないランク。ゆえにこれは強化できず、そして唯一強化できたのが――
――狂化のスキル、ということだ。
――それは、戦争と呼ぶにはあまりにも荒々しく雑で、単純な戦い。
「◆◆◆◆ッ!」
「■■■■ッ!」
――もともと、狂化のスキルはステータスの低いサーヴァントが上位のサーヴァントと戦うためにあるスキルらしい。であれば、狂化をしたセイバーのステータスはバーサーカーと同等クラスまで引き上げられているはずだ――
――そして、この勝負の決着は唐突に。
セイバーは槍を使い敵を牽制攻撃しバーサーカーはそれを無視し、ただただ切り込む。
セイバーは右足を踏み出しバーサーカーに近づく。当然ように、まるで鏡のようにバーサーカーもセイバーに向かって足を踏み込む。セイバーの牽制として放った突きから流れるように繰り出した左からの薙ぎ払いとバーサーカーの繰り出す反対側からの薙ぎ払いがぶつかり、両者が一歩後ろに下がる。――そして、セイバーとバーサーカーはもう一度同じタイミングで同じ攻撃を、突きを放つ――!
――速度は同等、出の速さも同時。二人の放った突きはまっすぐに相手の心臓へと向かい――
――両者の武器は互いの肉体を貫き、貫通する。
――だが、タイミング速度威力は同じだが受けた結果は違う。貫いて貫かれ、数秒後バーサーカーの体が地面に落ち、そして――
――セイバーは、倒れなかった。
勝敗は、決した。
――狂化が、解けた。
といっても、このスキルの条件である『同じスキルを持った敵』がいなくなって効果が切れただけなのだけれど。
「――私の負け、ですか」
ラニが、一つそんなつぶやきを漏らす。マスターは俺の傷を治しながらそれを聞き、悲しげに顔をゆがめる。――どうにも、マスターのそういうところは変わらないらしい。マスターらしくは、あるのだけれど。
「どうやら、昨日のあれは本当だったようですね。どうにも私の予想は完全に大外れのようで」
「――ら……に……」
今までも、仲のいい人間を殺したことがあった。尊敬すべき人間を殺したことがあった。守るべきものを殺したこともあった。だけどマスターにとってこれは――
「――なん、で……みんな……」
マスターが、涙声で訴えるそれは戦争の場において最もあり得るはずのない希望を、希望の存在を問う言葉。
『なんでみんな死んでしまうんだ』
戦争、そういうものだ。人の心も体も無慈悲に殺しつくす。――戦争なんてのはそんなもんだ。そう、言いきれてしまうようになった自分に俺に、嫌悪を抱く。
「……どうやら、それほど時間は長くないらしいですね」
「う……えぐっ……やだ、やだよ……っ。なんで……」
ラニの体の、崩壊が始まる。そこに人がいたという痕跡そのものを消し去るソレは無慈悲にも始まる。――いや、ソレのスイッチを押したのは俺なわけだ。戦争は無慈悲だが、それ以上に無慈悲なのは戦争で戦う人間たち、なのだろう――
「……ああ、どうにもそういう風に泣かれるのは慣れていません。どう、対応すればいいのか」
「いい、んだよ……ただ、生きてくれればそれで……っ」
「…………」
「に、開戦のとき……相手のダンが言ってたんだ。誰が、敵で。誰を倒しても……その結果は受け止めろ……って!でも……こんなの……」
――自己嫌悪。人間の持つ多くの感情の中で最も人の心をむしばむ感情だ。自分自身を貶し貶め卑下することは自身の破滅にしかつながらないというのに。そんなことは考えるまでもなくわかることだというのに。人はそれを感じずにはいられない。――友人を殺して、感じるなというほうが無理な話だ。
「私には、その感情はよくわかりません。自分を貶めることとか理解のかけらもできません――だから私がここで言えることなんていうのは大したことではないでしょう。そのダン・ブラックモアほどのことも言えないと思います」
ラニは、そう一つ前置きを置く。
「でも、それでも。私はあなたの知人として……いいえ、『ともだち』として一つ言わせてください――」
『ともだち』
それは、ラニにできる最高の親愛の言葉であり、そして――
「あなたは、生きて下さい」
「――――――――」
――ただ一つの願いなのかもしれない。
マスターへ向けられた、その言葉は今まで無表情に無感情を貫き通したラニが見せた、最初の感情。
「う……なん、でっ……ラニはそんなこと……」
「……なんとなくですけど、私のこの感情は理解できます。完璧とは言わなくとも、理解ぐらいは。私はあなたが――いえ、
「ら……に……ッ」
――ラニの体はすでに半分以上消えていた。敗者には慈悲なんてものはない。そう告げるように。
「はくの、返事をお願いします。最後に、一つのお願いの返事を」
マスターはそれを聞くと服の袖でごしごしと涙をふき、まっすぐとラニの目を見て答える。
「――生きる。私、この戦争を生き抜いて見せる」
――まだあふれ出る涙を気にせずにはっきりと言ったその言葉にラニはうなずく。
「――なら、よかった」
そして、そう一つ言葉を言って――
――笑った。
「ら゛に゛っ」
それを見ていてもたってもいられなくなったのかマスターはラニに抱き付いた。
「わだし……いぎるからっ!ぜったい、ぜったいっ!」
そういうマスターを安らかな笑みで見つめるラニは、俺から見ても普通の女の子にしか見えなかった。
「――そういえば、セイバーに聞きたいことがありました」
――俺に?
「はい、最後の一撃。同時に心臓を狙った一撃で……どうして、セイバーはあれを避けれたんですか?」
――避けた、なんてものじゃないが……最後の一撃、俺が勝った要因はそこにあり、単純にバーサーカーの攻撃を心臓以外に少しずらしただけなのだが。
「最後のあれは間違いなく狂化、であれば相手の攻撃を避けるなんていう理性は、残っていないはずだと思います。あそこまでのステータス狂化を実現できるのなら、なおさらのこと」
「ああ……あれはな―の―キル―戦闘――――のが――――――――」
「……なるほど、結局私はそれを予想しきれずに負けたということですか」
「そう……なるな……」
それを聞くとラニはもうやり残すことはないとばかりに笑顔をマスターに向け、別れの言葉を告げる――
「――はくの」
「な……に……」
「がんばってください。私の分まで勝って勝って勝って生き残って悔いの残らないように、全力で生きてください」
「うん……うん……」
「ありがとうございます。じゃあ、そろそろお別れです。はくの……」
心配そうにかけられたその言葉は敗者から勝者へのものなんかじゃない。もっとシンプルな友人をともだちを気遣う言葉。それを聞くとマスターは顔を上げ、再びラニを見つめ――
――笑った。
涙まみれの顔で、今にも崩れそうな顔だけど、それでも必死に笑顔を見せた。
「――また、会おうねラニ」
「――ええ、また会いましょう」
――ラニは、消えた。
この世から、また一人の人間が消えた。
それを見届け泣き崩れるマスターの近くには、最後にラニが流した一粒の雫だけが残っていた――
……バーサーカーェと思われたあなたの頭は正常です。ラニさん、だれか忘れてませんか?あなたと一か月時を共にし戦ってきたパートナーを忘れていませんか?
ここにきて私は気づく。あ、私こういうの大好きだ。私、こういう友達殺しちゃう展開大好きだ。
一応この小説のラストは考えているのですがもう今からバッドエンドにしちゃおうかと本気で悩む勢いである。
誤字脱字報告よろしくお願いします!夏休みにも入りますしペースあげていけると思います!たぶん!