Fate/EXTRA ava   作:後ろに敵が

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――すれ違う想いと理性。


三日目

――信頼を、しなくちゃいけない。

 

この戦争を生き抜くために、勝ち残るために、願いを叶えるために必要な要素は強さや覚悟を含め数多く当然のようにあるけれど、二人一組で戦う以上それは必要だ。お互いを信頼し信用し信じあうことが勝利への鍵だと、私は言える。いや、言いたい。

そうだ、それにのっとって、というわけではないけれど私はセイバーに対して全幅の信頼を置いている。この戦争を生き延びれたのはセイバーのおかげだと、それも理由だ。だけれどもっと感情的な部分で理屈なき信頼を置いている。――信頼は感情だ。理屈による信頼も、信頼ではあるけれど覆ることのある信頼だ。だけれど私のは違う。理屈も理由も必要ないただ信じているだけ。信頼とはそういうものじゃないだろうか?

 

――では、セイバーは?

 

セイバーは、私にそれほどの信頼を寄せてくれているだろうか?何もしない私を、何も出来ない私を。マスターだからという理由でもなく、理屈なき信頼を。

私はセイバーの名前を知らない。セイバーの過去を知らない。私はセイバーのことを、何も知らない。自分のことすら何も知らない私は一緒にいる人のことをなにも理解しちゃいない。自分もパートナーのことも理解していないというのなら、私は一体何を理解しているというのだろうか?――もしセイバーが私を信じていないというのなら、多分理由はそれだ。自分のことすら理解できない奴が、他人なんか理解できるはずもない。

 

――沈んでいく、感覚がする。

 

正体不明の、真っ黒に塗りつぶされた海の底にゆっくりと沈んでいく感覚。

 

――私の頭を、何かの思考が支配していく気がする。

 

真っ黒な水が、胃を肺を心臓を満たしていく感覚。

 

――セイバーは、理解しているのだろうか。私のこの感覚を。私のこの思いを。

 

セイバーは私の考えを、汲み取ってくれているのだろうか?

間違いは、理解できる。自分でも理解できていない『岸波白野』のことを『他人』であるセイバーに理解してくれというのが無茶だということもわかっているし、知っている。だけど――

 

気づいて。

 

「――よし、そろそろ暗号鍵(トリガー)は回収しとかないとな、明日になれば第二層も解放されるだろうし……」

 

私の目の前を歩くセイバーが、今日の方針を私に向かって話す。うん、と生返事を返す私の様子を訝しげに見たあと、それでも気にしないことにしたのかアリーナに向かって歩を進め始める。

 

――気づいてよ。触れてよ。感じてよ。考えてよ。

 

「OK、んじゃさっさと行くか」

 

――その時のセイバーの声はなんだか、壁の向こうから聞こえたみたいに私の頭に響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

――マスターの様子がおかしい。

 

いや、普段から挙動不審であったような気がしないでもないが(いくらなんでも失礼か)それは天然的な話。どうにも今のマスターはなにかに悩んでいるように見える。

俺の質問に対しての答えもなんだか上の空だったし……いや、あれは上の空というよりも――何かが、狂い出したようだ。

悩みなんていうものがそもそも何がが自分の考えから離れ狂い出したときに感じる感情なわけだし、何ががマスターの中でズレているのは確かだ。何がかはわからないが。それが勝利への渇望だと言うのは簡単だが……どうにも、さっきのマスターの目はそうとは思えなかった。

 

――暗い、深海。

 

澄んでいるはずの茶色の目が、とてつもなく深く見えた。思わず、目を逸らしてしまうぐらいには、暗かった。

 

とはいえ今の俺に、俺達にそれを気にするだけの余裕もない。基本的に暗号鍵(トリガー)は三日で一つだ。明日になれば第二層が開放される。故に今日中に手に入れておきたい。遠坂たちに邪魔される可能性もあるし警戒はしておくべきだろう……

 

「マスター」

 

俺は後ろを歩くマスターに声をかける。

 

「なに?」

 

いつもどおりの、少し抜けた返事が返ってくる。何もなかったかのように、何も感じさせないように。

――気の所為、だったのだろうか?さっき俺が見たマスターの目がなにかの間違いだったのだろうか?

ならいい、それならば。だけれど、そう断じてしまっては何もわからないだろうに。自分のことすら教えていないような奴が他人のことを知りたいなんていうのはただの傲慢に過ぎない。実際のところ、俺の真名なんてものを教えたところで、どうにかなるものでもないと思う。そもそも俺はこの世界には存在しない英雄だからだ。聖杯からの知識を得ているサーヴァントに知られてしまえば、何をしてきたのかは理解されてしまうものの、マスターに教えることに関しては特に問題はない。知られたくないとか言う前に、そもそも俺の名前からそれ以上のことを知ることはできない。――だけれど、俺はなぜかマスターにその名を名乗ることを躊躇って……いや、なぜかなんてのはわかりきっている。

 

――その名前が、『私』の名前だからだ。

 

俺でも『俺』でもない、この肉体を持ち世界を駆けた英雄の名前だから。

 

俺は、英雄じゃない。たとえサーヴァントであろうとも、英雄の肉体を持とうとも、『俺』の意識が入った時点で俺は英雄とは違う存在になったんだと思う。だから、名乗れないのだ。『私』の名前も『俺』の名前も。だって、俺は俺なのだから。

 

そして俺は気づかない。この理由がただの言い訳でしかないことに。

マスターの内心に。

 

俺が、気づくことはなかった。

 

 

 

 

本日の成果。

 

なし




三日目、と言っていますが今回はセイバーとはくのんが今思っていることをただ言うだけの回でした。
はくのんの依存度がだんだん高まってて私が怖くなってきそうですが……

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