Fate/EXTRA ava   作:後ろに敵が

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――人殺しの英雄にできること


四日目

――アリーナの第二層が解放されました。

 

そんな知らせと共に始まった四日目の朝。私は今までと同じように一日を始める。――変化はなく、正常に。

気持ちがどうであれ、前に進まなくてはならないのは、確かなのだ。セイバーがどういう気持ちなのかはさっぱりだけれど、それでも勝ち残りたいと思っていることは確かなのだと思う。で、あるなら。私はそれに答えられるような行動をしていくのみだ。黙っていたところで私の思いが伝わるものじゃないことだって、わかってる。でも、いやだからこそ、私はそれを伝えるつもりはない。

 

――セイバーは、強い。

 

そうだ、セイバーは強いんだ。私のセイバーはステータスに左右されない強さを持った英雄で、本人はかなり弱い方だと言うけれど私からすれば間違いなく最善にして最優のサーヴァントなのだ。なのに、私がほころびになってしまっている。セイバーの、邪魔になってしまっている。――セイバーは、強いはずなのに。凛のサーヴァントにだって負けるはずはないのに。

 

その傍に私がいなかったとしても。

 

「さて、取り敢えず第二層の探索でも始めるか。トリガーの取得はまだ出来ないだろうけど場所ぐらい把握しておくべきだしな」

 

確認をとりつつ前を歩くセイバー。この構図も最初とは違うものだ。最初の頃は私が前を歩いていた気がする。私が先導をとってセイバーが後をついてきて戦闘となれば私の前へ、これが常だったはずだった。普通そうなのだと思う。凛はイメージ通りといえばイメージ通りだが凛が前を歩いてランサーがそのあとを。――信頼の証、なのではないかと私は思っている。強さを知っているがゆえに先導を任せているのではないかと。では、私は――?考えすぎといえばそれまでだ。セイバーはそんなこと思っちゃいないと思うのだって簡単だ。だけど、思うだけでしかない。心の奥底で叫び続けるこの不快な音が止まることも、セイバーの心もそれで変わるはずもない。変化させることができるわけもない。だけど、だからといってどうすればいいというのだ――私にできることなんてものはない。

 

――私には夢がない。覚悟があっても叶えたい望みがない。

 

――だけどきっとセイバーにはあるのだと思う。それを潰したくないと、私は思う。

 

「うん、そうだね――」

 

押し潰せ、押し潰せ。感情を思いを心を、私の今あって欲しいと思う希望も磨り潰せ。そして、ただ静かに肯けばいい。

 

「私も、それがいいと思う」

 

セイバーの願いを叶えるために、ただ笑って肯いていれば――

 

――今は、それをやり通せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不安感。

 

俺の心を襲うのはどうしようもないそれの濁流。戦闘に、戦争に勝てるかという不安感はもちろんあるし、悩んでもいるがどうにもそれに関してはこの戦争を通して慣れたと言える。――できることなら縁のないまま終わりたい悩みではあるものの、イレギュラーにして主人公のマスターのサーヴァントとなってしまった俺としてはおおよそ回避できない悩みであるがゆえに、既にそこに関してもあきらめが入り、考えても無駄というこの思考にも、慣れ始めてしまったのだが。

ともかく、俺を悩ませる最大の悩みは戦争のことではなくマスターのことだ。

 

サーヴァントになって英雄となった『俺』であっても結局悩むことは『俺』の学園生活の時と同じ『人間関係』であるなんていうのはどうにも悲しくもなるが、一応ここも学園であるゆえにそこはそれとして納得しておこう。はてさて、マスターが女性(まだ女子と言ったほうが良い年齢ではあるものの)であることからこの悩みは『女性関係の悩み』ということになるのだろう。言い方ひとつで随分と爛れた問題に聞こえるという新たな悩みは置いておくとしてこの女性関係の問題の解決法はどうにも俺には理解の外にあるようだ。――敵の情報を網羅しつくす『俺』の知識も恐れを知らず戦いに身を置いた『私』の精神もどうやらそっちの方面においてはからっきしのようだ。残念である。

 

どうにも、マスターの様子がおかしいことはわかっているがそれの原因がわからない以上対応のしようがない。

 

チラリ、と従順にも程がある返事をしてマスターを見てみるが一見変わった様子は見られない。これが『恋』の悩みとかなら存外わかりやすくてよかったかもしれないがどうにもそうはいかない気がする。

 

――眼。

 

眼が、ヤバイ。端的にも程があるのかもしれないが今のマスターの眼はそう言うしかない眼をしている。――マスターはわかりやすい。俺が今まで見てきた人間の中で間違いなく最も純粋で正直な人間だ。眼は口ほどにものをいうというがマスターなんてその典型。眼をみればマスターがどういう気持ちでいるのかぐらい簡単にわかるほどに、マスターの感情は現れやすい。――現れやすい、はずだった。

 

見えないのだ、眼の奥がまるで。黒く暗く染め上げられた瞳孔の内側に沈むものが、まるで見えない。輝いていたはずのソレは正しく深海の如く暗く濁っている。

 

――精神面の崩れ、か?

 

アリーナを歩く現在もマスターはいつもどおり俺の後ろを歩いてる。俺の後ろを淡々と。今までのような感情の揺れが見られる不規則な歩幅ではなく、揺れもブレも感情も見えない歩みで俺の後ろをついてくる。

 

「――敵も、前より強くなってきたな」

 

俺がそう、敵をほふり一人呟けば。

 

「うん、でもまだまだセイバーの敵じゃないね」

 

と、返ってくる。抑揚がない平らな声で返ってくる。多分、いつだってマスターは敵が強くなってきたと俺が呟けば今のような返しをするとは思う。慰めではなく多分素直に、マスターは俺にそう言うだろう。事実強くなってきたというだけで俺に及ぶまでもないし、そもそもここにいる敵なんていうのは英雄ですらないただの作り物の二進数の集合体だ。だけど、それでも。言葉の勢いは多分今とは違うだろう。

確信じみた思いで俺はそう思う。

 

――もし原因が精神の揺れだというのなら、俺だってここに来てから味わってきたものだ理解はできる。そう、理解できるのだ。心の揺れがどんなもので、どんな感情を生み出すのか、俺はそれを理解できるのだ。

 

だけど俺がここでマスターに声をかけなかったのは、それこそただの過信に過ぎなかった。

 

――ああ、そうだ。ここで俺が『主人公だから』なんていう理由で助けようとすらしなかったのは、ただの俺の失敗で。

 

――俺の、最大の失態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、奇遇ね。こんなところで」

 

私の前を歩くセイバーの更に奥に、遠坂凛の姿が見える。……こんなところとは、目的も同じなんだから白々しいと思う。そう思ったのは私だけではないようで――

 

「……随分と白々しいことだな。目的なんぞ暗号鍵(トリガー)の取得以外ないだろうに」

 

――これもまた、変わったことなのかもしれない。

この、遠坂凛との戦いが始まってから私が話すことが少なくなってる気がする。勿論セイバーと、ではなく遠坂凛、つまりは敵マスターと、である。今までは私が話していた事の方が多い――というよりセイバーが話さないようにしていたという方が正しいだろう。――私への信頼が下がったか、それとも凛とセイバーの相性がいいのか。どちらにせよ私とセイバーの関係が悪化しそうな選択肢しか思い浮かばないあたり、私は相当追い詰められているのかもしれない。なんて、いったところで私のすることが変わるわけでもないのだから考えるだけ無駄なことなのだ。失望されようと私とセイバーの相性が悪かろうとセイバーのマスターは私だ。これを変えることは誰にもできやしない。――たとえ弱くとも、私が、私だけがセイバーの味方なのだから。

 

「……確かにね、だけどもともと目的はそれだけじゃないでしょうに。ここがどこなんだか、忘れたわけじゃないでしょう?」

 

チラリ、と私の顔を視界に入れ顔をしかめた凛はこちらを数秒おかしなものを見た顔をした後に、目的を思い出したのかニヤリと笑いセイバーの顔を確認するように見る。

 

「――闘技場(アリーナ)、か」

 

「そういうこと。ま、そっちのマスターはそれを理解しているんだかしてないんだかわかんないけど」

 

――私、は。

 

「は、いくらなんでも()()()を舐めすぎだ。俺が理解しているように、マスターだって理解できるわけだ。当然だろうに」

 

――理解できている。ああ、そうだ。セイバーが私が理解できたと言っている。ならばきっと、理解は出来ている。

 

――意志の依存は精神の、行動の依存は肉体の。で、あるならば知識の依存は――

 

「で、そう言ったからには戦うんだろう?そっちのサーヴァントさんが何を思ってるかは知らんが、随分とマスターはやる気だしな」

 

「そこらへんは、お前の言うとおり。結局俺はサーヴァントだからな。――マスターの言うことに()()さ」

 

ランサーは凛の後ろから()()出た。

――まるで対極のようだ。

凛の後ろに立ち、主に敵と話すのはマスター。――どうにも、感慨深くはある。

 

――なんて、今は言ってられないのだろう。

 

何度目かもわからない、聖杯戦争におけるセイバーの戦いが始まった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――さて、ランサーとの戦いが今再び始まったわけだが……

 

ここで、一つの問いかけをしようか。俺は正しく『英雄』であり、そこに間違いは一遍もなく完全に正しいことである。そしてそれは目の前で俺と戦っているランサーにも言えることであり、それこそが聖杯戦争なのだが……(英雄同士が故に、闘争ではなく戦争だという話)はてさて、この場合の英雄の定義とは一体何だろうか?辞書ででも調べれば『普通の人間にはできないことをした人間』とでも出ているのかもしれない。――原作知識は明瞭で衰えを知らなくとも、それ以外の知識は普通の人間と同じようにくすんでいく『俺』の知識内で分かることではないけれど、もしそう書いてあるというのなら、それは正しいだろう。

 

「――それは、俺だけじゃないと思うけどなッ!」

 

「いきなりなんだよ!おいおい、まさか考え事なんてしてないだろうな!」

 

「してるさ!お前をどうやって倒すかって……なッ!」

 

手に持った中剣でランサーを後方へ吹き飛ばす。ランサーは衝撃を和らげるように後ろに自ら飛ぶ。――実際、考え事をしながらでも戦えるのは俺のスキルのおかげにほかならないのだが、それを今言ったところでどうにかなるものでもないゆえに割愛するとしようか。

 

「――皮肉なものだ、という話だよ」

 

「あ?なにがだよ」

 

「俺たちは普通の人間に叶えることができない夢を、叶えられたからこその英雄だろうに。それが聖杯を……なんてな」

 

――『出来ないこと』を『出来る』が故に英雄のはずなのに、『不可能なこと』を『可能』にするために聖杯を争う。これまたおかしな話といえばおかしな話だ。

 

「ま、別に俺は聖杯を求めてるわけじゃねえからそれは関係ない話だ!」

 

――俊敏A。通常時に発揮されるその俊敏は当然のように必然のように俺とランサーの間にあった空間をゼロにする。その動きもまた、普通の人間には出来ないことなんだがな――!

 

最も、おかしな話とは言ったものの、実際そんなことがあるわけもない故にどうでもいい世間話にもならない話だ。マスターは、どうにも信じているような顔をしているが……神様でもなんでもない俺がなんでもできるはずもない――

 

金属音が響き渡る空間は、閉じられていないはずなのにその音を妙に響かせる。面となるランサーの攻撃を当然のように俺は受け止め流し弾く。――攻撃へと転じれば隙が生まれそうなものだが最初から防戦と決めていればそんなことはない。俺の体は……『私』の体の能力はいかんなく発揮される。

 

――と、攻撃に転じることがない俺の姿を見てかランサーが俺から距離をとり構えをとく。

 

「……はあ、なんつーか戦ってるってかんじがしねーな」

 

「だろうさ、俺の方も戦っているつもりはない」

 

一つ、煽りでも入れてみるがランサーはそれに取り合うことなく一笑して背中を見せる。遠坂もそれに異論はないらしく歩いていくランサーの後ろをついていった。……ありゃこっちが不意打ちをしないってわかってる感じだな。

 

「――せいばー」

 

――と、後ろから声がかかる。なんだと後ろを振り返ればマスターがこちらを見つめている。

 

「セイバーが英雄でも、自分の願いは叶えるべきだと思うよ?」

 

――――

 

――ああ、何かと思った。さっきの話か。おかしな話だとしても俺の願いは叶えるべきだと……またまた優しいんだが気を使っているんだかだが、そのセリフだけ聞けばいつもどおりのマスターっぽい。雰囲気読まずそんなことを言うあたりとか、ちょっと的外れなあたりとか。

 

――これが、本日の第二の失態。

 

俺はマスターが俺にできることなんて『人を殺すこと』だけだと言ってやりたい気分にもなったが……それに気づかないのはマスターらしいなんてそんなことを思ったことが、失態。

 

――本当に気づいていないのは、俺の方なのに。

 

 

 

本日の成果

 

はくのん 今後の関係を理解した

せいばー 今後の関係を誤解した




作者の成果

作者の頭はおかしい
日商簿記もおかしい
ネクロスはもっとおかしい

すいません上記三行でまとめたところこんな感じ……本当に申し訳ないです。
せめて最終戦ぐらいまでいきたいなぁ(遠い目)ここで宣言すると実現しない気がしてきたけれど……

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