Fate/Re:start night 作:無駄高容量ひきさん
「
容姿的女子力53万の男は、名前を綾目 筑紫と名乗った。
どうやら、ランサーのマスターにはその名前に聞き覚えがあるようで、「あやめ……どこかで……う~ん」と、これでもかと言うほど露骨にウンウン唸りながら顎に手を当てている。
「あっ!もしかして!?」
「……あいつを知っているの、マスター?」
「う、うん。前にチラッと聞いたことがあって、なんでも無所属で普通の血筋なのに稀代の天才魔術師だとかどうとか……」
「まぁ否定はしないよ。血筋
人の口に戸は立てられぬ。
逸材の噂は伝わるよ、どこまでも。
口伝えの口伝えでしか聞いたことのない情報だったので半信半疑だったが、あの登場の仕方だ、どうやら噂通りの非凡人のようだ。
現にランサーの朱槍を複製し、こちらに放ってみせた。
まだ真名解放はしていないのに、だ。
起動しただけの宝具を模倣する様は、紛う事なき鬼才。
二流もいいとこな私とは、正に桁違いだ。
「さて、自己紹介はこれまで。質疑応答のある人~?」
「はーい」と左手を掲げ、間抜けた雰囲気で将来的に敵対するかもしれない相手に質問させる。
貼り付けた様な、それこそ仮面の様な笑顔ではなく、心の奥底から生まれた笑顔だ。
才能故の余裕か、はたまた何か考えがあるのか、こちらには知る由もない。
「う~ん、今のところは無いかな」
「……特に」
「では、此方から聞かせてもらおう」
黒男がズイと一歩前に踏み出した。
髑髏の仮面によって表情を窺うことは出来ないが、どこか嘲りを含んだ声のトーンをしている。
恐らく、仮面の下に隠れた口元は歪んでいるだろう。
「どうぞ」
「貴様が仮に件の魔術師だとして、姿を見せた目的はなんだ?我々の視察目的であるのなら、わざわざ姿を見せる必要もあるまい」
「庭で何か楽しそうなことやってるし、面白そうだから見てこよう、っていうのが七割かな~」
「じゃあ、残りの三割は?」
「皆さん折角いらっしゃった訳だし、ゆっくりお茶でもと思って。今からでもいかが?」
「……私たちに拒否権はあるの?」
「勿論あるとも。何なら外までの帰路の無事も約束しよう」
怪しい、怪しすぎる。
理由の七割が野次馬根性というのはこの際置いとくとして、問題は残りの三割だ。
あちらからすれば、私たちは侵入者と言ってもいい。
人の庭に無断で入り込み、あまつさえ争いを起こしている不審者。
しかしそれを排除するどころか、むしろ持て成してさえいる。
信用していない目付きを見た彼は、何を思い違ったのか「なんならタクシー代も出すよ」と言った。
別に私たち、飲み会に来た訳じゃないんだけど……。
うむ、やっぱり怪しい。
「ランサー、どうしよう?」
「アイツの目的がなんであれ、私は反対。お茶会といえば聞こえはいい、けどそれはアイツのテリトリーに誘い込まれているという事でもある。確かにリターンは大きいけど、それ以上にリスクが大きすぎるし、アイツの言葉を信用するだけの根拠が無いのよ」
「成る程……ちなみに、具体的にどんなリターンがあるの?」
「まず1つ、不干渉協定の取りつけ。最後の二組になるまで互いに干渉しないという協定を取りつける」
ランサーの話を要約すると、「天才魔術師であればそうそう負けることはないだろう。あわよくば、アイツにある程度他の参加者を潰してもらおう」とのことだ。
汚い!我がサーヴァントながら、汚い!
この話をしていた時、ランサーの顔はすっごく生き生きとした悪い顔だった。
こいつ、ホントに英霊か?
「もう1つ、共闘関係を築く。最後の二組になるまで互いに協力する」
ランサー曰く、「アレを味方につけることができれば、これ程頼りになる者もいない。更に言えば、最終的にやり合う際にある程度手の内が分かるので、此方としては有利になる」とのこと。
私としては、やっぱり共闘が一番望ましい。
此方は「私がマスター」というマイナスを背負っているので、それを埋めるだけのプラスが欲しい。
ランサーがプラスにならないって訳ではないが、未だに真名が分からないので少なからず不安がある。
ランサーに滅茶苦茶睨み付けられてる気がするけど、知らない。
……知らないったら知らない。
「なら、我は遠慮しておこう。
「まぁ、残念だけど仕方ない、か。じゃあ━━━」
と言ってポケットを漁り、懐中時計の様な形をした古風なコンパスを取り出した。
造りは古めかしいが、まるで新品のように手垢1つ付いてない。
そして、それを黒男に投げ渡した。
「この森には人を惑わせる魔術が仕込んであってね、ちょっとやそっとじゃ出られないようになってるんだ。このコンパスは常に森の出口を示す。危険察知のおまけ付きだ。これを使うといいよ」
「……礼は言っておこう。だが次に合間見える時は、聖杯を狙う敵同士。精々、夜道には気を付けることだな」
「ご忠告感謝するよ。またね~」
「ふっ……」
仮面の下で鼻笑いを1つ残して、針の刺す方角へ姿を消した。
そしてこの場には三人が残され、静かな森に吹き抜ける風の唸り声だけが響く。
影から命を狙う見えない危険は去ったはずなのに、未だに緊張と背筋の冷や汗が止まらないのは、目の前でヘラヘラと笑っている男のせいだろうか。
クソッ、見れば見るほど羨ましい見た目してるなこの野郎!
「さてさて、君たちはどうする?」
「私はあくまでサーヴァント。マスターに従うだけよ」
「……よし、決めた」
ランサーは言った、ハイリスクハイリターンだと。
見返りは大きいが、それ以上に危険すぎると。
リターンはさっき聞いた通り。
リスクとしては、罠に嵌められる可能性。
この辺りはヤツの庭だと言っていた。
対してこちらは、この場所について全く知らない。
自分の陣地に誘い込んで殺す可能性や、お茶に毒を盛られる可能性などが考えられる。
落ちる穴はアリジゴクか、はたまた鼠浄土か。
それなら私は……
「行くよ、私は」
リターンを選ぶ。
相手は不可能を可能にしてきた英雄たち。
肉体で負けようとも、せめて心は負けない努力をしなければ、勝ち抜き生き残ることなど到底不可能だ。
私は未熟だから、その分、危険を犯さなければ。
「……そう」
「ふふふ……歓迎するよ。改めて、ようこそ我が庭へ!」
両手を大きく広げた天才魔術師の顔は子供の様に眩しく、そして無垢だった。
どうも、ひきさんです。
無心で書いてたら長くなりすぎて、切りのいい所で切った始末。
そのせいで今回やたらと短いかも。
許して、長すぎると途中から迷走するタイプなので……。