結城友奈は勇者である R/Bの章   作:ベンジャー

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第6話 『姉妹と兄弟』

春木達の住む香川県にあるとある山奥にて・・・・・・。

 

オーソドックスな恐竜タイプの黒いボディの怪獣「熔鉄怪獣 デマーガ」が突如として出現し、それを受けて春木が変身した「ウルトラマンロッソ フレイム」と良が変身した「ウルトラマンブル アクア」がデマーガの対応に当たっていた。

 

『シェア!!』

 

ロッソはデマーガに掴みかかって動きを封じると、そこに真横からブルが跳び蹴りを放って攻撃を仕掛けるのだが、デマーガは背中から火炎弾を放つことでそれを周囲に降り注がせ、跳び蹴りを放って来たブルと自分を押さえつけているロッソに直撃させることで2人を引き離すことに成功。

 

『『グアアアア!!!?』』

 

さらに尻尾を振るうことで片膝を突いたロッソを叩き飛ばし、倒れ込んだブルに向かって口から吐く高熱の熔鉄熱線を浴びせる。

 

「グルアアアアアア!!!!」

『ウアアアアア!!!!?』

 

咄嗟に両腕を交差して攻撃を防ぐものの特に意味を成さずブルは身体中から火花を散らして吹き飛ばされ、大ダメージを負ってしまう。

 

『良!! この!!』

 

そこへ立ち上がったロッソがデマーガに向かって駈け出し、デマーガは熔鉄熱線をロッソに向かって放つがロッソは身体をスライディングさせることで回避し、スライディングさせた勢いのままデマーガの腹部に蹴りを叩き込むことに成功。

 

「グウウウ!!?」

『今だ!! セレクト! クリスタル!』

 

デマーガが怯んだ隙を狙い、インナースペース内の良は大天狗クリスタルを取り出すと1本角を立ててルーブジャイロにセット。

 

『大天狗!』

『纏うは翼!! 剣撃の嵐!!』

 

そして良はルーブジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル!! ダイテング!!』

 

するとブルの青かった足の部分と頭部、胸部は白に、腕は黒になり、右肩にはカラスの嘴を模した黒いショルダーが現れ、左には黒い翼のようなショルダーが現れた「ウルトラマンブル ダイテング」へとブルは姿を変える。

 

『クロスブレイカー!!』

 

姿を変えたブルは両手でX字を描くように振るうことでX字の斬撃を飛ばす「クロスブレイカー」をデマーガに向かって放ち、対するデマーガは熔鉄熱線を口から放って相殺を計るが光線はX字に切り裂かれてしまい、クロスブレイカーはデマーガの身体に直撃。

 

「グルアアアア!!!?」

 

さらに両手をブルは光らせ、勢いよく振るうことで光のナイフを放つ「ナイフスラッシュ」を放つが、デマーガは尻尾を地面に力強く叩きつけることで大ジャンプを行って攻撃を回避し、そのままブルにドロップキックを浴びせる。

 

『ダアアア!!?』

『良!』

 

そこでロッソが火の玉をオーバースローのフォームで放つ爆裂光弾「ストライクスフィア」を放ってそれをデマーガに直撃させ、デマーガが大きく怯むとロッソはブルに向かって「今だ!!」と叫ぶ。

 

『分かっている!』

 

ブルは右手を頭上にかざし、自分の刀身と同じくらいの巨大な光の剣を作り出すとそれを相手に向かって振りかざす「大斬撃」を繰り出し、身体を縦一閃に切り裂かされたデマーガは身体から火花を散らし、爆発して倒されるのだった。

 

『大!! 斬!! 撃!!!!』

「ガアアアア!!? グルアアアアアア!!!!!」

 

デマーガを倒し終えるとロッソとブルは頷き合い、拳を上下にお互いに叩き合った後、ハイタッチをすると2人は空へと飛び立ってその場を去るのだった。

 

『今日は友奈達の援護も無しで怪獣を倒せたな!』

『あぁ、変身解除したらもう終わったって連絡しないといけないな・・・・・・』

 

だが、その時2人は気付いていなかったのだ。

 

デマーガが放った火炎弾によって地面に1つだけ不自然に巨大な亀裂が入っているのを・・・・・・。

 

そして、逆にそれに気付いていた人物が1人・・・・・・。

 

そう、ダーリンを使ってロッソとブルの戦いの様子をアイゼンテックの社長室で監視していたアキラである。

 

「あの地面の亀裂の仕方・・・・・・なんだか妙だな。 ダーリン、悪いがもう一仕事頼めるかな?」

『あっ、は~い、お任せあれ~』

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

今日、樹と良のいるクラスでは音楽の授業が行われており、今は1人1人順番に生徒達の前に出て教師のピアノのリズムに合わせて歌を歌うこととなっていた。

 

良はある程度上手く歌えたので特に問題は無かったのだが・・・・・・、問題は順番が廻ってきた樹にあった。

 

彼女は今朝学校に来た時から浮かない顔をしており、良はそんな彼女を体調でも悪いのかと思って気にかけていたのだが・・・・・・樹が言うには特にそういう訳ではないそうで・・・・・・。

 

良も「樹さんがそう言うなら・・・・・・」と納得したものの、音楽の授業が始まると今朝からしていた浮かなかった顔はますます顕著となり、良は一体どうしたのだろうか、本当に体調の方は大丈夫なのだろうかと心配になったが・・・・・・理由は樹が歌う番になったことですぐに理解することができた。

 

「次は、犬吠埼さん」

「は、はい!!」

 

名前を呼ばれ、緊張した様子で席から立ち上がる樹。

 

樹はオドオドとしながらも生徒達の前に立ち、歌の歌詞の載った教科書を開くのだが・・・・・・それが逆さまになっていることに気づき、慌てて普通の位置に戻す。

 

それにクスクスとクラスメイト達から笑われてしまう樹。

 

そのこともあってか先ほどよりもより一層緊張したようで、良もそのことに気づき、先ほどから顔色が優れなかったのはもしかして緊張していたからだったのだろうかと思ったのだが・・・・・・。

 

実は良は以前、樹が誰もいない部室で1人静かに歌を歌っているのを聴いたことがあったのだ。

 

その時の樹の歌声はとても綺麗な音色を奏でており、きっと樹は今日の授業でもその音色を遺憾なく発揮してくれるのだろうなと良は予想し、少し彼女の歌を聴くことを楽しみにしていた。

 

しかし、いざ樹が実際に歌ってみると・・・・・・。

 

「~♪ ~♪」

 

音は外しまくり、声は上擦り、しかも声の音量も小さく・・・・・・。

 

結果、樹は自分の音痴っぷりをクラスメイト達に晒さすだけの結果となってしまうのだった。

 

(私、人前で歌うのは、ちょっと苦手です・・・・・・)

 

しかもこれはまだ次回の音楽テストに向けての歌の練習で、このままの状態では樹は絶対に次の授業の時のテストに合格するできないことを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部活動。

 

そこでは今日も今日とて春木達が勇者部の活動に勤しんでおり、頭に牛鬼を乗せた友奈は「うーん」と怪訝な顔をしながら壁に貼られた「春の勇者部活動」と書かれた自分達の活動が記録された記事と先ほどからずっと睨めっこしていた。

 

「この写真は・・・・・・ここで!!」

 

すると友奈は手に持っていた写真を勢いよく記事に「バン!!」と張り付けると「うん、バッチリだ!!」と彼女は記事の見栄えの出来に「うんうん」と満足げに頷く。

 

また東郷はパソコンで何やら作業中の様子・・・・・・。

 

「わお! 今日も閲覧者数すごーい!!」

 

写真を貼り終えて一旦作業の終了した友奈は後ろから東郷の操作するパソコンの画面を覗き込むと勇者部のホームページのアクセス数の多さに彼女は歓喜の声をあげる。

 

「あとは学校の連絡先と子猫の写真を載せて・・・・・・」

 

東郷はホームページに学校の連絡先と「飼い主募集中」と書かれた子猫の写真を載せることでそのページを完成させる。

 

「野球部の練習の手伝い行って来たぞぉ!! いやぁ!! 良い汗かいた!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・死ぬ、じぬ゛ぅぅ・・・・・・!」

 

そこへ丁度野球部の助っ人に行っていたらしい春木と良が戻って来たのだが・・・・・・春木は物凄くスッキリとした良い笑顔だったのに対し、良の方はまるでゾンビのように顔を青ざめさせ、生気を感じさせないくらいにフラフラしながら部室へと戻って来たのだった。

 

その光景に風は「なにがあった!?」と驚きの声をあげ、取りあえず良を椅子に座らせ、これには友奈も驚いたようで一体何があったのかと友奈が心配げに尋ねると、どうにも今回、野球部の練習の手伝いは春木だけでは手が足りなかったらしく・・・・・・。

 

そこで勇者部の活動で手が空いてて暇そうだった良を半ば春木が無理矢理連れて行ったようで、普段から運動の苦手な良に取っては普通の野球の練習でも相当苦痛だったようだった。

 

「お前、全然運動しないし、休みの日は基本家に閉じこもってるからな。 たまには身体動かした方が良いだろう?」

「余計なお世話だ・・・・・・このバカ兄貴ぃ・・・・・・。 インドア派の体力の無さを舐めるなよ・・・・・・」

 

友奈から渡されたスポーツドリンクを飲みながらインドア派に運動を強要するなと苦言を零すが、体力の無さを訴えるとかそれでも自分達と同じ世界を守る使命を持ったウルトラマンかと2人のやり取りを見ていた夏凜は思わずにはいられなかった。

 

「よしよぉーし、それでも苦手なことから逃げずに、よく頑張ったね良くん!!」

 

また友奈は良の頭を撫でながら運動は苦手と言いながら最後まで野球部の練習に付き合ったことを褒め称え、それに良は顔を赤くしながらバッと彼女から顔を背け、口元を押さえながら必死にニヤケそうになるのを良はなんとか堪える。

 

(これならたまには運動するのもありかもしれないな・・・・・・!)

「・・・・・・」

(同時に東郷先輩の怒りも買うけどな・・・・・・)

 

当然、友奈から「頭を撫でられる」なんてことをされれば当然ながら東郷からの怒りも買うこととなり、彼女の目からハイライトが消え、凍てつくような視線を先ほどからずっと良に向け、それを感じながら良は背中を刺されないようにしようとこれから後ろに注意しようと思うのだった。

 

実際さっき小声で「後ろに注意しなさい」とかちょっと聞こえたので尚更。

 

「はぁ、アンタ達のせいで集中力切れたわ。 もう、余計にストーリーが思いつかん!」

 

一方、文化祭の劇に向けて脚本を書いていた風はただでさえ話が中々上手く思いつかず、頭を抱えて悩んでいたのに、春木達が騒ぐものだから余計に思いつかないと苦言を零し、それに春木達は「すいません」と反省し、謝罪する。

 

「んっ? あー、なに食べてるの?」

 

その時、風の視界に先ほどから何かボリボリと食べている夏凜の存在に気付き、気になった風は一体何を食べているのだろうかと気になって尋ねる。

 

「んっ? にぼし」

「学校でにぼしを貪り食う女子中学生って夏凜くらいね」

「健康に良いのよ?」

「って割には食事はコンビニ弁当で済ませてる辺り・・・・・・夏凜って栄養偏ってそうだな・・・・・・」

 

健康に良いものを食べるのは良いことなのかもしれないが、だったら何時もコンビニ弁当で済ますのはどうなのかと考え、春木はもしかしたら夏凜は結構栄養が偏っているのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 

「じゃあこれから夏凜のことは『にぼっしー』って呼ぶ!」

「ゆるキャラにいそうなあだ名つけるなぁ!!」

(ふな〇しー・・・・・・的な?)

 

にぼしを食べているからか、風にそのようにあだ名をつけられる夏凜。

 

当然ながらそんなあだ名をつけるなと夏凜は反発するが・・・・・・。

 

「そう言えば、にぼっしーちゃん!」

「待って、その名前定着させる気!?」

「良いじゃないか、愛嬌があってさ! なぁ、にぼっしー!!」

「いよ、にぼっしー!」

「にぼっしーって言うなぁ!!」

 

友奈に便乗して春木や良まで夏凜のことをにぼっしーと呼び始め、特に良は凄くニヤついた顔で言ってくるため、夏凜は額に青筋を浮かべて今すぐにでも良だけはぶん殴ってやろうかと思うのだった。

 

「それより、飼い主捜しのポスターは?」

「んっ? そんなのもう作ってあるわ!」

 

東郷は夏凜に頼んでおいた猫の飼い主捜しのポスターの完成の有無について尋ね、夏凜は「余裕!」とばかりに既に完成させていることを東郷に伝えると夏凜は彼女に自分の描いたポスターを彼女に渡す・・・・・・のだが・・・・・・。

 

「えっと、妖怪?」

「猫よ!!」

「どっちかと言うと虎っぽいな」

 

そのあまりの下手くそな猫のイラストに、東郷は思わず妖怪か何かかと勘違いしてしまい、春木はイラストの猫モドキの身体の色が背中に縞模様っぽいものが入っていたことから猫というよりかは虎っぽいと感想を漏らすのだった。

 

「ハァ・・・・・・」

「んっ? 樹?」

 

そんな時、タロットカードで占いをやっていた樹が大きな溜息を吐き出していることに春木達は気づき、気になった風が彼女に声をかけるとどうやら無意識に溜め息を吐いていたらしく、樹は不思議そうな顔を浮かべながら「えっ? なに?」と首を傾げる。

 

「どうした? そんなクソデカ溜め息なんか吐いて。 そんなデカい溜め息を吐いてると幸せが逃げてくぞ?」

「春木のクソデカ溜め息とか言う言い方よ」

「あっ、えっと、あのね? もうすぐ音楽の歌のテストで上手く歌えるか占ってたんだけど・・・・・・」

 

春木達から心配され、樹は次の音楽の授業で歌のテストがあることをみんなに教え、今日はその練習だったのだが、散々な結果だったことからテストの結果をタロットカードで占ってみたそうなのだが・・・・・・。

 

「死神の正位置、意味は破滅、終局、うぅ・・・・・・」

「うーん、当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うし気にすることないでしょ!」

「そうだよ! こういうのってもう1度占ったら全く別の結果が出るもんだよ!」

 

タロットカードの占いの結果に落ち込む樹を風と友奈がそう言って励まし、友奈に言われてもう1度試しにもう何回かやってみてはどうだろうかと提案された為、樹は試しにもう3度ほど占ってみることに。

 

しかし・・・・・・。

 

占いの結果は全て「当然正位置ィ!!」とばかりに毎回死神のカードが出てきて最初と同じ結果となってしまい、これには風も頭を抱え、やり直しを提案した友奈は気まずそうな顔をしながら身体を震わせ、それに春木は苦笑いするしかなかった。

 

「だ、大丈夫!! フォーカードだからこれは良い厄だよ!!」

「死神のフォーカード・・・・・・」

「あっ、いや、悪い意味じゃなくて・・・・・・!!」

 

なんとかフォローしようと頑張る友奈だったが、先ほどから言うこと全部が裏目に出る結果となってしまうのだった。

 

「俺は実際に樹さんの歌を聴いたが・・・・・・うん、大丈夫! ジャ〇アンレベルって程じゃないし、あれと比べると全然上手いですよ樹さん!!」

「それ、なんの励ましにもなってないよ、良くん・・・・・・」

 

良は耳がイカれるレベルではない、普通に聴けると言えば聴けると樹に励ましの声をかけるが、それは全く励ましになっておらず、そもそもそれは根本的な解決になってないと樹から指摘されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから風は自分達勇者部は困ってる人を助ける、それは部員も同じということで今日の勇者部の活動はみんなで樹を歌のテストで合格させるというものに決定し、一同は早速みんなで樹がどうすれば歌を上手く歌うことが出来るのか、話し合うことに。

 

「ってか要は気合いだろう!! 破滅だか終局だかなんだか知らねえが、気合いと根性でぶっ飛ばしちまえば良いんだよそんなの!!」

 

早速春木がどうすれば樹は上手く歌うことが出来るのか、意見を出してくるのだがやはりというかなんというか、みんなが予想した通りの根性論。

 

「根性論だけで歌が上手くなるかバカ兄貴!」

「アンタのさっきの励ましよりかは参考になるわよ」

 

それに良は溜め息を吐きながら根性だけでどうにかなる問題ではないと言うのだが、即座に夏凜からお前よりかは参考になる意見だとツッコまれ、「ガーン!」と頭を殴られたレベルのショックを受ける良。

 

「そんな・・・・・・俺よりも兄貴の意見の方が参考になるなんて・・・・・・」

「お前普段どんだけ俺のことバカだと思ってんだ!?」

 

そんな春木に「そりゃ何時も赤点ギリギリなんだからそう思われても仕方ないでしょ」と風から言われ、良からは「なんだったら友奈さんよりもテストの点が悪い時もある」と指摘され、それに何も言い返せず、「ぐぬぬ」と悔しそうに唇を噛み締めながら膝を抱えて落ち込む春木。

 

「というかそこで私を引き合いに出すのやめてくれる良くん!?」

 

自分を引き合いに出されたことに友奈は顔を真っ赤にして「むぅー」と頬を膨らませながら怒り、そんな友奈を「ちょっと可愛い」と不覚に思いつつも良は「す、すいません」とまたニヤけそうになる顔を必死に堪えながら謝るのだった。

 

「それよりも、樹ちゃんのことですよ。 先ず歌声で『アルファ波』を出せるようになれば勝ったも同然ね?」

「アルファ波?」

「良い音楽や歌というものは大抵アルファ波で説明がつくの!」

 

未だに落ち込んで膝を抱えている春木の頭を左手で撫でて励ましながら右手で円を描くようにしてアルファ派について樹に教える東郷。

 

それさえ出すことが出来れば歌のテストも大丈夫と言うが・・・・・・。

 

「んな訳ないでしょ!?」

 

すかさず夏凜が嘘教えんなとでも言いたげにツッコミを入れる。

 

「ちなみにアルファ波っていうのは本来は人・動物の脳が発生する電気的信号のうち、8~13Hz成分のことを指すそうです(作者的w〇ki調べ」

「うーん、樹1人で歌うと上手いんだけどねぇ? 人前で歌うのが緊張するってだけじゃないかな?」

 

流石に樹の姉なだけあり、樹が本当は歌が上手いことを知っている風はきっと緊張して声が上ずってしまっているだけではないかと考え、それには以前樹の鼻歌を聴いたことがある良も納得だった。

 

「俺も以前、樹さんが部室で1人でいる時に歌を口ずさんでるの外から聴いてたことがありますけど、とても上手かったですよね。 だから授業の時急に下手になっててビックリしましたよ」

「えっ、良くん私の歌って・・・・・・き、聴いてたのぉ!?」

 

確かに少し前にみんなが来るよりも前に一足早く部室にやって来て1人だったこともあり、歌を口ずさんでいたことはあった。

 

だが、まさか良に聴かれているとは思わず、樹は顔を真っ赤にして恥ずかしがった彼女は「今すぐ忘れて!!」と必死になって懇願するが、「むしろ下手な歌をみんなに聴かせる方が恥ずかしくないか?」と思わずにいられない夏凜だった。

 

「でも、そっか、それなら・・・・・・習うより慣れろ、だね!」

 

そこで両腕を組みながら風の話を聞いた友奈は何かを思いついたようでポンッと手を叩くと一同は彼女の出した提案に乗る形で・・・・・・カラオケボックスへと向かうこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケへとやってきた勇者部一同。

 

先ずは風が1番手として「soda pops」という曲を一曲歌い、それにタンバリンやマラカスなどを使って盛り上げる春木達。

 

「お姉ちゃん上手!」

「意外と歌上手いんだな、風って」

「ありがと!」

 

歌い終わると風は席に戻り、友奈は「ちょっとごめんね?」と断りを入れつつ、樹の前に置いてあった曲を入れる為の機械を手に取り、曲名を入れて検索をかける。

 

「ねえねえ! 夏凜ちゃん? この曲知ってる?」

「一応、知ってるけど・・・・・・」

 

すると友奈はその曲を夏凜に見せ、もしも知っているなら一緒に歌おうと彼女を誘うのだが、それに夏凜は「なな、なんで私が!?」と戸惑いの色を見せる。

 

「馴れ合う為にここにいる訳じゃないわ!!」

「そうだよねぇ? あたしの後じゃ・・・・・・ご・め・ん・ね?」

「本当は緊張してる時の樹さん以上に歌が下手なんだろ! 怖じ気づいてんじゃないぞ完成型勇者さんよぉ!」

 

そのように92点という高得点を叩きだした風と別にまだ歌ってすらもいない良に滅茶苦茶煽られ、それに静かにキレた夏凜は友奈にマイクを渡すように要求。

 

「友奈、マイクを寄越しなさい」

「へっ?」

「早く!!!!」

「は、はいぃ~!!」

 

夏凜は怒鳴るようにそう言うと友奈は慌ててマイクを夏凜に手渡し、「○△□(マルサンカクシカク)」という曲を入力して2人で一緒に歌うことに。

 

2人が歌い終わると画面には「92点」と表示され、風と同じ高得点を叩きだすことに成功。

 

「夏凜ちゃん上手じゃ~ん」

「フン、このくらい当然じゃん!!」

 

尚、この後春木と良の兄弟2人で「Hands」という曲を歌ったのだが、点数は「78点」という微妙な数字を叩きだしたせいで今度は良が夏凜から煽られることに。

 

「あんだけあたしのこと煽ってた癖にアンタは大したことないのねー!! アハハハ!! アーッハッハッハ!!!!」

「ぐうううう・・・・・・!!」

「夏凜と会ってから今までで1番楽しそうにしてるわね、あの娘・・・・・・」

 

風の言う通り、夏凜が良を煽る姿は出会ってから今まで見たことがないレベルで楽しそうであり、それに良は握り拳を作りながら悔しそうに歯ぎしりするのだった。

 

それから春木と良が歌い終わると、次は樹の順番が廻ってきて彼女は音楽のテストで歌う予定の曲、「早春賦」を入力し、歌うことになるのだが・・・・・・。

 

やはりというべきか、彼女は見るからに不安そうな顔を浮かべており、その姿は誰が見ても彼女が緊張しているのが丸分かりだった。

 

それでもなんとか声を絞り出して歌い出す樹だが、やはり緊張のあまり声が上ずってしまう上に音を外しまくり、当然、歌の点数も最低ランクを叩きだしてしまう羽目に。

 

「ハァ・・・・・・」

 

歌い終わると彼女は溜め息を吐きながら席に戻り、「やっぱり硬いかな?」と風はそんな樹に感想を述べる。

 

「誰かに見られてると思うとそれだけで・・・・・・」

「重傷ね・・・・・・」

「見るからに緊張してたし、やっぱり問題はそこかな」

 

とは言うもののその緊張をどうすれば良いのか分からず、樹はまた溜め息を零す。

 

「うーん、まぁ、取りあえず今はただのカラオケなんだし上手かろうと下手だろうと好きな歌を好きに歌えば良いのよ!」

「そうそう、気にしない気にしない!!」

 

そんな風に落ち込む樹に風は今はカラオケなのだから肩に力を入れる必要はないと励まし、友奈もそれに同意して頷きながらお菓子でも食べて少しリラックスしようとお菓子を手に取ろうとするのだが・・・・・・。

 

「さっ、お菓子でも食べてって残ってない!?」

 

先ほどまでそこにあった筈の買って来ていたお菓子は既に1つも残っておらず、お菓子は全て牛鬼に美味しく頂かれてしまっていたのだった。

 

「フフ、牛鬼は本当によく食べますね!」

「食べ過ぎだよ~」

 

友奈は牛鬼に全てお菓子を食べられたことを泣きながら嘆く。

 

するとそんな時、東郷の入れた「古今無双」という曲のやたら力強い感じのイントロが流れ始めると春木、友奈、風、樹の4人が一気に険しい顔となる。

 

「あっ、私が入れた曲」

「なに!? 東郷先輩が歌うなら曲は『夢飛行』ではないのか!!?」

「勝鬨やめろ」

 

そして曲が流れ始めるとそれに思わず友奈、春木、風、樹の4人は勢いよく立ち上がってビシッと敬礼を決め、それに「えっ、なに!?」と突然の出来事に驚く夏凜。

 

その光景+東郷のやたら渋い歌に夏凜を目を丸くするしかなく、歌い終わると友奈達は椅子に再び座り、夏凜は一体何が起こったのかと友奈に問いかける。

 

「東郷さんが歌うと私達何時もあんな感じだよ」

「良はやらないけどな。 ノリの悪い。 そんなんじゃ女の子にモテねーぞ!」

「何時も暑苦しい兄貴だってモテな・・・・・・!!」

 

春木の言葉に良は暑苦しさ全開の春木だって女子にモテないだろと言い返そうとしたのだが、不意に視線が東郷の姿を捉え、春木に好意を寄せていることを知っている良はそこで言葉を途切れさせてしまい、「少なくとも1人にはモテてる」という事実に良は滅茶苦茶悔しそうに・・・・・・恨めしそうに春木のことを睨むのだった。

 

「えっ、なに? そんなに睨んで急にどうしたんだよ良!?」

 

自分は友奈に好意を寄せているが、彼女の方からはなんというか、友奈はあまり自分のことを異性として意識してなさげでどちらかと言うと弟のように扱われている感じだったので、良は自分とは違い東郷から明確に好意を寄せられている春木のことを羨ましく思わずにいられなかった。

 

取りあえずこれで歌う順番は一週し、次は誰がどの順番でどんな曲を歌うか、みんなでワイワイ楽しみながら話していると風のスマホに着信音が鳴り、スマホを取り出すとそこには大赦からのメッセージが表示されていた。

 

「っ・・・・・・!?」

 

そのメッセージを読んだ風は目を見開き、彼女はお手洗いに行ってくると友奈達に伝えてから部屋を出て行くのだが・・・・・・そんな風のおかしな様子に気付いた夏凜は彼女もまたお手洗いに行ってくると友奈達に伝え、風を追いかけるようにして部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

女性用のトイレで風は蛇口から水を流しながら彼女は何やら怪訝な顔を浮かべており、少し遅れてからそこへ夏凜がやってくる。

 

「大赦から連絡?」

 

風の様子から察するに大赦から連絡が来たのだろうと夏凜は思い、確認を兼ねて彼女は風の後を追いかけて彼女は風にそのことを尋ねるとどうやら夏凜の予想は当たっていたらしく、彼女の問いかけに風は「えぇ」とだけ応える。

 

「そう、私には何も言って来ないのに」

「・・・・・・」

「内容は想像つくわよ? バーテックスの出現には周期がある。 今の奴等の現れ方は当初の予測と全く違ってるわ。 オマケに、怪獣なんていうイレギュラーも発生してるしね」

「・・・・・・最悪の事態を想定しろってさ。 しかも、次にまたバーテックスが怪獣を引き連れて来るとしたら、その怪獣はあたし達が今まで遭遇したどの怪獣よりも強力な奴が来る可能性が高いんだって」

 

風達が今まで遭遇したどの怪獣よりも・・・・・・ということはつまり、それは現状自分達が戦ったことのある怪獣の中で恐らく1番強かったあの「化石魔獣 ガーゴルゴン」よりも格上の存在が来ることを意味していた。

 

そのせいかただでさえバーテックスだけでも厄介なのに、その上ガーゴルゴンより上の怪獣が来ることに風は不安を感じているのか、彼女の腕は震えており、そんな風の姿を見て夏凜は「怖いの?」と問いかける。

 

「あなたは統率役には向いてない。 私ならもっと上手くやれるわ!」

 

長年の戦闘訓練を受けていることからか、戦闘指揮などならば自分の方が適役だと夏凜は風に訴えるが、風は蛇口を捻って水を止めると彼女は夏凜の方に振り返りながらその申し出を断った。

 

「これはあたしの役目で、あたしの理由なのよ。 後輩は黙って、先輩の背中を見てなさい」

「・・・・・・フン」

 

風は夏凜にそれだけを言うと、彼女を残してトイレから出て行くのだった。

 

「・・・・・・そんなとこで何突っ立ってんの春木?」

「あっ、いや・・・・・・」

 

扉を開け、トイレから出て行くと壁にもたれ掛かっている春木の姿があり、風は一体そんなところで何してるんだと尋ねるとどうやら春木の方も夏凜と同じく風の様子のおかしさに気付いたようで何かあったのではないかと思い、彼女が出て来るのを待っていたのだ。

 

「まぁ、なんて言うか取りあえず・・・・・・話し声がここまで丸聞こえだったぞお前等。 もうちょっと声のボリューム下げて話せよ」

「えっ、っていうかそれ以上に女子トイレで女子2人の会話盗み聞きしてたの? キモ!」

「うるせえ!! 人聞きの悪いこと言うな!! たまたま聞こえて来ただけだわ!!」

 

風は女子トイレの前で真面目な内容だったとはいえ夏凜との会話を聞いていたという春木に気持ち悪さを感じてぞっとして身体を震わせて顔を引き攣らせるが、春木からしたら別に聞きたくて聞いた訳ではない。

 

風の深刻な表情から察するに、あまり友奈達には聞かれたくないことなのかもしれないと思い、風から話を聞くのなら彼女達のいないところで聞いた方が良いのではと思い、春木は彼女がトイレから出て来るのを待っていたのだ。

 

「だとしてもキモいわ。 女子がトイレから出て来るまで待ってるとか」

「しょうがねえだろ! 今じゃ無いとなんかお前と話すタイミング逃しそうだったし!!」

 

取りあえずこのネタを引っ張ると話が進まないと春木は思い、強引に本題に入ることに。

 

「まぁ、なんだ。 次の戦い、結構キツめな感じ・・・・・・らしいな」

「そうね。 今度来るバーテックスは、今までとひと味違う可能性が高いし、今度怪獣が来るとしたら、今までで1番強い奴が来るかもって」

「そうか・・・・・・」

 

そこから春木と風の間でしばらく沈黙が続くが・・・・・・不意に、春木が自分の胸をドンッと叩き、「だとしても、きっと大丈夫!」と笑みを浮かべて、そう言い放つ。

 

「どれだけ強い奴が来ようと、俺達全員の気合いと根性と力を合わせればどんな奴にだって負けはしねえ!!」

「その自信は一体どこから来るのよ・・・・・・」

 

春木はこうは言ってくれるものの、正直それだけでは未だに風自身の不安を拭うことはできず、彼女の表情は暗いまま。

 

「風が不安に感じるのも分かるよ。 俺だって最初の頃は戦うことが怖かったさ。 今でもたまにそう感じる」

「・・・・・・」

「だけどさ、それ以上に大切な家族や友人達が傷つくことの方が俺はよっぽど怖い。 だから、俺も良もまだまだ全然未熟で、頼りないかもしれないけど・・・・・・それでも、俺達『ウルトラマン』が・・・・・・絶対にお前等を死なせたりなんかさせない。 最悪の状況なんかにさせない! どんな奴が来たとしても・・・・・・絶対! 約束する」

 

風に向かってそう力強く言い放つ春木。

 

そんな春木に風は呆れたような溜め息を吐いた後、そんな彼の真っ直ぐさ、暑苦しさに彼女は思わず苦笑してしまい、ほんの僅かではあるものの少しばかり気が紛れるのを感じたのだった。

 

「マジでアンタのその自信はどっから来るのよ。 でも、春木のおかげでちょっと不安が和らいだかも。 まっ、少しは頼りにしてるわ」

「おう! 困難に、打ち勝つぞ」

「・・・・・・えぇ」

 

2人は絶対に最悪の状況なんてものを作り出さないことをお互いに約束し、友奈達の待つカラオケ部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかったー!」

「歩いて帰るの、久しぶりね」

 

既に日は傾き始め、夕暮れ時。

 

存分にカラオケを楽しんだ勇者部一同は今、帰路を歩いているところだった。

 

「けど、カラオケは樹ちゃんの練習にはならなかったかな」

 

楽しんだことには楽しんだのだが、今の1番の目的であった樹の歌の練習はあまり出来なかったのではないかと不安を感じ、友奈は呟くが、樹はそんなことをないと言って特に気にした素振りは見せなかった。

 

「でも楽しかったですよ。 みんなの歌が聴けて」

「・・・・・・」

「お姉ちゃん?」

 

そんな時、樹はどうにも浮かない顔で俯いている風の姿に気付き、彼女に呼びかけると風は「へっ!? なに?」と驚いて顔を上げる。

 

「樹の歌の話よ」

「風先輩、何かあったんですか?」

 

何やら元気のない様子の風の姿を見て友奈は何かあったのだろうかと思ったが、風は首を横に振って「ううん、なんでもない」とだけ応える。

 

「樹は、もう少し練習と対策が必要かな?」

「アルファ波出せるように!」

「アルファ波から離れなさいよ」

 

またもや引っ張ってくる東郷のアルファ波ネタに夏凜がすかさずツッコミを入れ、風の様子がおかしい理由を知っている春木は彼女を心配げに見つめた後、友奈や良、夏凜に樹、そして東郷に視線を向けていくと彼は拳を握りしめ、改めて絶対に誰も犠牲を出さないことを決意をより一層固めるのだった。

 

(誰も死なせやしない。 困難なんて、ぶっ潰してみせる)

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、勇者部の部室では・・・・・・。

 

机の上に夏凜が持って来たと思われる大量の十数種類のサプリやら健康食品やらが置かれており、夏凜曰く「喉に良い食べ物とサプリ」を持って来たらしいのだ。

 

「マグネシウムやリンゴ酢は肺にいいから声が出やすくなる。 ビタミンは血行を良くして喉を健康に保つ。 コエンザイムは喉の筋肉の活動を助けオリーブオイルとハチミツも喉に良い」

 

夏凜が持って来た健康食品やサプリの解説をぺらぺらと早口に説明し、正直早口過ぎて何言っているのかサッパリ分からなかったが夏凜がこれらの物に物凄く詳しいということだけは理解することができた一同。

 

「詳しい」

「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」

「夏凜は健康の為なら死んでも良いって言いそうなタイプね」

「健康に気を使って死んだらそれ本末転倒じゃねえか!」

「ってか言わないわよ、そんなこと! さぁ、樹! これを全種類飲んでみて! グイッと!!」

 

夏凜は持って来た健康食品全てを全部飲むようにと樹に促すが、樹もこれには「全部!?」と驚きの声をあげるしかなく、風からも「流石に多すぎでしょそれは」という指摘が入る。

 

「流石に夏凜でも無理じゃない?」

「ぐっ、無理ですって!? 良いわよ、お手本を見せてあげるわ!!」

 

※以下、危険性を考慮した上でギャグとして行っています。

 

風に挑発されたからか、ムキになった夏凜は健康食やサプリを手にしては次々とそれらを口の中に放り込み、胃の中に納めていく。

 

※特殊な訓練を受けた者が行っております、絶対に真似しないでください。

 

しかもサプリなどは一錠や二錠ではなく、ほぼ全部纏めて口の中に入れ、そこからオリーブオイルで流し込んで飲み込むといった常人なら間違いなく身体を壊しかねないことを彼女はやってのけ、その光景は夏凜とは微妙にウマの合わない良ですら「あんまり無理しない方が良いんじゃ・・・・・・」と心配になるレベルだった。

 

そして最後には自分の持って来た全てのサプリ等を全部飲み干し、彼女は見事完食し「どうよ?」と不敵な笑みを見せながらこれで風ももう自分にあんな口叩けないだろうとでも言いたげな顔を浮かべるが・・・・・・。

 

「うっぷ・・・・・・」

 

直後、彼女の顔が青ざめ始め、夏凜は両手で口を押さえながら部室を飛び出し、トイレへと駆け込んでいくのだった。

 

「んっ、んんっ! 樹はまだビギナーだしサプリは1つか2つで十分よ」

「そりゃそうだろうよ」

 

※あくまで個人の感想であり、効能を保証するものではありません。

 

その後、口元をハンカチで拭いながら吐き出すもの吐いて戻って来た夏凜は取りあえずは先ずはサプリを1つ2つだけ飲めば良いと勧めてくるが・・・・・・普通に考えたらそれはそうだろうと夏凜が先輩であることも思わず忘れてタメ口でツッコミを入れる良。

 

「実は夏凜先輩って阿呆だろ。 テストの点は良いらしいけど」

「お前が言うな」

 

頭の良いバカ・・・・・・という意味では良も人のことを言える立場ではないことを春木に指摘され、良はそれに色々と反論してくるが話が進まないのでスルーし、取りあえずは樹は夏凜に言われた通り戸惑いつつもサプリを2錠ほど飲んでまたみんなの前で歌うことに。

 

しかし、やはりというべきか樹は相変わらず声が上ずってそのせいで音を外しまくってしまい、未だに人前で上手く歌うことが出来なかったのだ。

 

それに春木達は頭を悩ませるが、樹の本来の歌声を知っている風と良としてはやはりここまで緊張しているのが1番の問題なのではないかと思い、そこをどうにか改善するべきではないかという話し合いに発展する。

 

「やっぱり緊張するのがいけないんだから、喉よりもリラックスの問題じゃない?」

「それもそうね。 次は緊張を和らげるサプリメントを持って来るわ」

「やっぱりサプリなんですね・・・・・・」

「今度はちゃんと限度守って持って来てくださいね」

 

相変わらずの夏凜のサプリ推しに一同は苦笑し、取りあえずは緊張をほぐすのが1番なのではないだろうかという結論に至り、今後からはそれをメインにどうにか対策を取っていこうという話になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は特に樹の合唱力の成果が上がるなんてこともなく、解散となり、樹は家に帰って今は浴室で入浴中だった。

 

濡れないように袋に入れたスマホを見つめながら、樹は「ハァ」と全く歌の成果が進展しないことに溜め息を吐き、そんな彼女を心配げな様子で見つめる精霊の木霊。

 

「大丈夫だよ、木霊」

 

そんな木霊に樹はそう声をかけ、彼女は再び視線をスマホの画面に落とし、そこには昨日みんなでカラオケに行った時の写真が映っていた。

 

その写真を見つめながら、彼女は「早春賦」を口ずさむのだが・・・・・・その時の彼女の歌声は今までとは全く違い、声も上ずっておらず、音も全く外さず、しっかりと歌うことが出来ていたのだ。

 

「やっぱり樹、1人で歌うと上手いじゃん!!」

 

そんな時、不意に浴室の扉が開くとそこから風が顔を覗かせ、先ほど自分が歌を口ずさんでいたのを聴かれていたことに樹は恥ずかしくなって頬を赤くしてしまう。

 

「お、お姉ちゃん聴いてたの!? 酷いぃ~!」

「全く、樹はもっと自信持って良いのに。 ちゃんとできる娘なんだから!」

「うぅ・・・・・・」

 

それだけを言い残し、扉を閉めて風は出て行き、残された樹は先ほどかけられた風の言葉を思い返していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学生の頃、知らない大人達が家にやってきたことがあった。

 

私は、お姉ちゃんの背中に隠れてるだけで後でお姉ちゃんがお父さんとお母さん死んじゃったって教えてくれた。

 

あの日から、ずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんでお母さんでもあって・・・・・・。

 

ずっとお姉ちゃんの背中が1番安心できる場所でお姉ちゃんがいれば私・・・・・・なんだってできるよ!

 

でも、私1人じゃ・・・・・・。

 

『ずっと黙っていたんですか』

『やっぱり、怒るよね』

 

お姉ちゃんは勇者部のことをずっと抱え込んでた。

 

もし、もし私がお姉ちゃんの後ろに隠れてる私じゃなくて、隣を一緒に歩いていける私だったら・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・き、いつ・・・・・・き、樹! 起きなさい!」

 

数年前、両親を失いそこから風に今まで育てられてきた時のことを樹は夢に見ていた。

 

だが、風の自分を起こす声によって彼女は目を覚まし、風の「樹、着替えて顔洗ってきなさいよ」という声を最後に彼女は朝食の準備をするために樹の部屋を出て行き、樹は頭が眠気でボーッとしつつもなんとかベッドから起き上がる。

 

「うーん・・・・・・」

 

朝食の準備に戻った風は犬神のドッグフードの餌を与え、自分の作ったスープの味見をしているとそこへ制服に着替え、眠そうに目をこする樹がやってきた。

 

「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう。 もうスープも出来てるから先にトースト食べてて」

「うん」

 

眠そうにしつつも樹は椅子に座り、トーストにバターを塗り食べ始める樹。

 

そんな時、何かに気付いた風が樹の後ろに回り込むと樹に「動かないでね?」と声をかけつつヘアブラシで彼女の髪の毛を整える。

 

「よし、今日も可愛いぞ!」

「っ・・・・・・」

 

風は樹の髪を整え終えると向かい側の席に座り込む。

 

「元気ないね? どうした?」

「・・・・・・あのね。 あのね、お姉ちゃん! ありがとう・・・・・・」

 

突然、樹にそのように言われて風は目を見開き「なに? 急に?」と不思議そうな顔を浮かべる。

 

「なんとなく・・・・・・言いたくなったの。 この家のこととか勇者部のこととかお姉ちゃんにばっかり大変なことさせて・・・・・・」

「そんな、あたしなりに理由があるからね」

「理由・・・・・・って?」

 

風の言葉に疑問を感じた樹はその風の語る「理由」がなんなのか気になり、その理由の意味を問いかけると風は樹に微笑みを向けながら応える。

 

「んっ? ま、まぁ、簡単に言えば世界の平和を守るため~かな? だって勇者だしね」

「でも・・・・・・」

「なんだって良いよ! どんな理由でも、それを頑張れるならさ」

「どんな・・・・・・理由でも?」

「ハァ~イ!! シリアスはここまで! 冷めない内に食べて! 学校行くよ!」

 

そのように風はやや強引ではあるもののそこで話を終わらせるが、樹は風から返ってきた言葉について考え込み、彼女は顔を下に俯かせるのだった。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どんな理由でも頑張れるなら、だったら、私は・・・・・・? 理由なんて、何もない)

 

学校の授業中、樹は今朝風の語った何かを頑張れる理由についてずっと考え込んでおり、彼女は暗い表情を浮かべた。

 

(勇者になったのも部に入ったのも、お姉ちゃんの後ろについて行っただけ。 私、理由なんて何も無い・・・・・・)

 

そうこうと考え込んでいると、学校の授業終了のチャイムが鳴り響き、現在の授業が終了。

 

「ハァ・・・・・・」

「まだ悩んでるんですか樹さん?」

 

そんな時、溜め息を吐く樹の元にまだ歌のテストのことで悩んでいるのかだろうかと良がやってくると、彼女は「それもあるけど・・・・・・」とどうにも歯切れの悪い返事を返す。

 

「んっ? もしかして、なにかそれ以外に悩みでも?」

「えっと・・・・・・」

「あっ、別に無理に言う必要はないですよ。 でも、悩みがあるなら誰かに言った方が少しはスッキリするんじゃないかなって・・・・・・。 だから、俺で良ければ相談に乗ります」

 

無理に言う必要は無いと言ってはくれるものの、ここまで気を遣われてはしまっては逆に断りにくいと感じた樹は少し相談すべきかどうか悩んだものの、良の言う通り誰かと話すことで多少は気が晴れるかもしれない。

 

ただでさえ歌のテストでゴタゴタなのに出来ればこれ以上問題を抱えたくないと考えた樹は最終的に良に相談することを決め、彼女は今朝自分が見た昔の夢、朝食の時にした風との会話のことを良に話すのだった。

 

「成程、ねっ・・・・・・。 樹さんの気持ちも、ちょっと分かるかな。 俺の家もさ、父さんはいるけど・・・・・・母さんが行方不明になったのは知ってますよね?」

「あっ、うん。 それは・・・・・・」

「兄貴がいなくなった母さんの分まで父さんと一緒にずっと俺の面倒見てくれてて・・・・・・。 脳筋兄貴なんて呼んでるけど・・・・・・凄い感謝してるんですよね。 俺も兄貴には。 だから、樹さんの気持ちはなんとなく分かるんですよ」

 

樹からの話を聞き終えた良はその境遇を自分と重ねながら彼女に対してそう語りだし、それには樹も良に対して共感を覚えたようで彼女は「そうなんだ」と呟きながら同意するように頷く。

 

「理由なんて、なんでも良いって風先輩が言ったんでしょ? だったら、なんだって良いじゃないですか。 隣を『一緒に歩いて行きたい』っていうのもまた立派な理由の1つだと、俺は思います」

「・・・・・・本当に、それで良いのかな・・・・・・」

「それで良いのかどうか、最後に決めるのは樹さんですよ。 俺はあくまで参考程度になればと思って自分の考えを言っただけですから」

 

結局のところ、最終的に答えを出すのは樹自身であり、自分はヒントになるかもしれないことを言っただけだと良は語り、それを受けて樹は彼に笑みを向けて「ありがとう」とお礼を述べるのだった。

 

「少し、頭の中のモヤモヤが晴れたかも」

「答え、出ると良いですね」

「うんっ」

 

そんな時、樹と良のスマホに着信音が鳴り、見てみるとNARUKOで風からのメッセージが届いていた。

 

『こちら部長。 本日のミッションは二手に別れて決行する。 飼い主捜しの依頼が来てた猫のうち二匹の買い手がついた。 皆依頼主の家へ行き、子猫を引き取って来るべし』

「なんだこのエージェント気取りの文。 まあいいけど。 とりまこれが今日の勇者部の活動内容ってところか」

「だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の放課後、勇者部一同はそれぞれ友奈、東郷、夏凜、春木の組み合わせ、良、風、樹の組み合わせで子猫を引き取るため依頼主の元へと向かうことに。

 

「なぜ俺は友奈さんのとこ・・・・・・友奈さん達のところじゃないんだ!」

「だってアンタ、これから依頼主に会いに行くってのにアンタまであっち行くと東郷か夏凜と喧嘩しそうなんだもん」

 

良はこの組み合わせを考えた風に対し、なぜ自分は友奈達のところではないのかと文句を垂れ、風は東郷や夏凜と喧嘩しそうだからという理由で引き離したらしいのだが、だったら友奈だけをこっちに呼ぶなりすれば良かったのではないかと意見するが・・・・・・。

 

「えっ? あたしに死ねってか」

 

友奈だけをこっちに呼ぶということは=友奈を東郷から引き離す=東郷の怒りを買う=風の命が危ないということを意味しており、風が言うにはこの編成が1番偏りが無いというのだ。

 

それなら春木は・・・・・・と思うかもしれないが、友奈が春木に変わっただけなのでそもそも論外。

 

だったら夏凜と良が入れ替われば良いのではないかと考えられなくも無いが、夏凜はまだ勇者部に来て日が浅い。

 

そのため勇者部の活動を少しでも彼女に慣れて貰おうと思い、風は物知りな東郷、コミュ力の高い友奈、面倒見の良さそうな春木を夏凜と一緒にさせたのだ。

 

そして風からの説明を受けたことで彼女の言うことにも一理あるし、この編成が1番バランスが良いのは確かだと感じ、流石に風の命を脅かしてまで友奈と一緒にいたいとは思わないのでこれに良は渋々納得するのだった。

 

「ぐっ、分かりました。 東郷先輩の怒りを買いかねないなら、俺も諦めざる得ませんね・・・・・・。 それに、そう聞くとこの組み合わせも納得ですし」

 

 

 

 

 

 

 

一方で、春木、友奈、東郷、夏凜はというと勇者部に子猫の飼い主捜しを依頼してきた2名の内、片方の依頼主の家の元に向かっていたのだが・・・・・・。

 

「えーっと」

 

先頭をスマホの道案内アプリを見ながら歩いていた夏凜は不意に立ち止まると、彼女は東郷にスマホの画面を見せて「ここどこ!?」と焦った顔で尋ねて来る。

 

「この住所なら、あっち!」

 

「かりん」って名前のやつはみんな方向音痴なんだろうか。

 

「わ、わ、分かってたわよ! ちょっとまだこの辺りの地理に慣れないだけよ!」

 

そんな夏凜の姿を見ながら春木、友奈、東郷の3人は微笑むと不意に友奈が「あっ、そうだ!」と声をあげ、肩にかけていた鞄からノートとペンを取り出す。

 

「春木先輩、東郷さん、夏凜ちゃん、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ!」

「んっ? なんだ? もしかして樹の歌の件か?」

「そう、私に良い考えがあるんだよ!」

「その如何にも失敗しそうな台詞やめなさいよ」

 

春木は自分達に協力して欲しいこと、と言うのはもしかして樹の歌の件のことだろうかと思い問いかけるとどうやらその通りのようで友奈は頷き、その際発した彼女のいかにも作戦失敗しそうな台詞に夏凜はすかさずツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませーん!! 讃州中勇者部でーす!! 子猫引き取りに来ましたー!」

 

一方、風、樹、良の3人は子猫を引き取るためにもう片方の依頼主の家に訪れており、風のインターホンを鳴らし、玄関を開けるとそこには駄々をこねる少女とその母親が何やら言い争いをしている最中のようだった。

 

「絶対やだー!! この子をあげるなんて!! 私が飼うから!」

「でもね? うちでは飼えないのよ」

 

どうやら少女は拾ってきた子猫を他の誰かにあげるのを嫌がっているようでそんな少女の我が儘を母親は困り気味な表情を浮かべながらウチでは飼えない事情があると少女を説得しようとするのだが、少女は全く子猫を手放す気がないようだった。

 

「タイミング悪い時に来てしまったな、俺達」

「もしかして、子猫連れて行かれるの嫌だったのかな?」

「あっちゃー、もっと確認しておけば良かった・・・・・・」

 

このことに風は「やってしまった」と言わんばかりの表情を浮かべ、あらかじめその辺のことをもっとしっかりと調べておくべきだったと彼女は反省し、これには良や樹もこの事態をどうすれば良いのか分からず困惑気味であった。

 

「これじゃ無理に子猫を連れて行く訳にもいかないしな。 風先輩、どうします?」

 

ただでさえ大泣きしている少女から子猫を取り上げるなんて真似を良達が出来る筈もなく、樹も「どうしよう」と困っていると風は顔をあげ、良と樹の2人に「大丈夫!」と声をあげたのだ。

 

「大丈夫。 お姉ちゃんがなんとかする!」

「えっ、なんとかって?」

 

一体何をするつもりなのか、樹の問いかけに風は応えなかったが彼女なりに何か考えがあるようで風は扉を開いて挨拶をしながら未だに言い合っている親子の家の中へと入っていくのだった。

 

「失礼しまーす! 讃州中勇者部の者ですけどー!!」

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後・・・・・・。

 

結果から言えば、あの家は子猫を飼うことになった。

 

というのも風が少女と一緒になって少女の母親と子猫が飼えるように説得したからであり、おかげで風達は少女から子猫を取り上げるような真似をしなくて済み、そのことに樹は無事に問題を解決できたことをとても喜び、満足げな表情を浮かべ、嬉しそうに笑っていた。

 

「あのお母さん、考え直してくれて良かったねー!」

「うん・・・・・・」

「喧嘩にもならなかったし、お姉ちゃんのおかげ!」

 

しかし、問題が無事に何事もなく解決したというのにも関わらず、風は何故か浮かない顔をしており、そのことについて心配になった良は「どうかしたんですか?」と声をかけると、不意に風は「ごめんね」と謝罪の言葉を送って来たのだ。

 

「ごめんね、樹・・・・・・ごめん」

「へっ? なんで、謝るの?」

 

突然の謝罪に樹は戸惑い、なぜ謝るのかと問いかける。

 

「樹を、勇者なんて大変なことに巻き込んじゃったから」

「へっ?」

「さっきの家の子、お母さんに泣いて反対してたでしょ? それでさ、思ったんだ。 樹を勇者部に入れろって大赦に命令された時・・・・・・あたし、『やめて』って言えば良かった。 さっきの子みたいに、泣いてでも・・・・・・」

 

両親を亡くし、親戚などが引き取ってくれた訳でもないのに犬吠埼姉妹が普通に中学校に通え、生活できるのには理由があった。

 

それは両親が亡くなった時から大赦が生活面で援助していたからだ。

 

だから風は友奈や東郷、そして樹を勇者部入れるようにと大赦から命令された時・・・・・・彼女は断ることが出来なかった。

 

だが、あの少女のように泣いてでも必死に頼めばもしかしたら唯一の肉親である樹だけは勇者にならずにすんだかもしれないと、風はそう考えずにいられなかったのだ。

 

「そうしたら、もしかしたら・・・・・・樹は勇者にならないで、普通に・・・・・・「なに言ってるの、お姉ちゃん!!」」

 

そんな風の言葉を遮るように、樹の声を上げ、ハッとなって顔をあげるとそこにはこちらを真剣に、真っ直ぐな瞳で見つめる樹の姿が。

 

「お姉ちゃんは、間違ってないよ!」

「でも・・・・・・」

「それに私、嬉しいんだ! 守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんと、みんなと一緒に戦えることが!」

 

橋の上から見える夕日に顔を向けながら、樹は決して風の行動は間違ったものではないと言い放ち、樹のその言葉を受けて風は気持ちが少し軽くなったのを感じた。

 

「っ、ありがとう」

 

そんな樹に、お礼を述べると樹は顔を風の方へと向けて「どういたしまして!」と笑顔を風に向けるのだった。

 

「樹ったらなんか偉そう」

 

そこから風と樹の2人は思わずお互いに声を出して笑い出し、そんな2人の様子を見ていた良は少しばかり両腕を組んで何か考え事をしているようだった。

 

(大赦からの命令・・・・・・かっ)

 

それは先ほど風の述べた「大赦からの命令」という言葉がどうにも良の頭の中で引っかかっていたからであり、今の風の話を聞くとどうにも大赦に対してきな臭いものを良は感じにいられなかったのだ。

 

犬吠埼姉妹の生活の援助を大赦がしているのは良も知っている。

 

だから良はもしかしたら犬吠埼姉妹の生活を援助しているのを盾に、風に決して自分達の命令に逆らえないようにしているのではないかとつい思ってしまったのだ。

 

元々、胡散臭い組織だとは思ってはいたが、世界を守ってくれている神樹を奉っている組織だし、今の世の中のために色々と動いてくれていることから大赦に対して不信感などを良はあまり抱くことはなかった。

 

しかし、今の風の話を聞くとまるで・・・・・・。

 

(いや、考えすぎか。 大赦も風先輩達を戦場に駆り立てるのは不本意だったのかもしれないし・・・・・・)

 

そこで一度思考をやめ、良は「さて」と声を発すると何故か風と樹から驚いたかのような視線を向けられ、一体どうしたのかと良は首を傾げる。

 

「アンタ、いたんだ・・・・・・」

「良くんいたんだ・・・・・・」

「さっきからずっといましたけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アイゼンテック屋上では以前、デマーガとロッソとブルが戦った影響で出来た地面の亀裂を調べ終えたダーリンが戻って来てティータイムを楽しんでいるアキラに報告をしているところだった。

 

『ただいま戻りました~。 やはり社長の読み通り、あの亀裂の中にはクリスタルと同じ反応が検出していました!』

「うーんむ、ありがとうダーリン!」

 

ウルトラマン達と怪獣との戦闘で先日出来上がった地面の亀裂からは何故か不自然な風が上に向かって吹き出していたそうで・・・・・・そのことが気になったアキラはダーリンに頼んでその亀裂と吹き出す不可思議な風に調べて貰っていたのだ。

 

結果、その地面の中にはルーブクリスタルと酷似した反応が検知されていたことが判明し、アキラは「嵐」と書かれたクリスタルを取り出す。

 

『それは『グエバッサー』のクリスタルですね?』

「その通り! 風のクリスタルなら、この子に風を探知し正確な場所を探って貰い、風のクリスタルを掘り出して貰おう~!!」

 

アキラはそう言いながらAZジャイロを取り出し、中央部分にはめ込む。

 

「出でよぉ~!! グエバッサー!!」

『グエバッサー!』

 

そのまま3回トリガーを引くと、空に向かってジャイロをかざす。

 

「アンドゥ・トロワ~!! アンドゥ・トロワー!! アンドゥ・トロワァ!!」

 

そこから紫の光が放たれると光は巨大な白い鳥の怪獣、「猛禽怪獣 グエバッサー」となって街に出現。

 

「グエエエエエエ!!!!!」

 

グエバッサーの出現に人々は驚き、逃げ惑い、グエバッサーはその巨大な両翼を使って超強力な羽ばたき「バサバッサー」によって風速90メートル以上の暴風を起こし、巨大な竜巻を作り出す「バサバッサストーム」によって人々やビルに車等をまるで紙のように軽く吹き飛ばすと、グエバッサーは風のクリスタルが眠っていると思われる場所を目指し、空中へと飛び立つ。

 

そして学校の部室に向かって歩いていた良達のスマホにもアラート音が鳴り響き、緊急速報としてスマホの画面には緊急速報として怪獣が出現した時の動画が映し出されており、良達はお互いに顔を見合わせる。

 

「また怪獣かよ」

「良!!」

 

怪獣出現に対しどこか呆れたように悪態をつく良だったが、そんな時丁度友奈達を引き連れた春木と合流し、良は風達と顔を見合わせるとお互いに頷き合う。

 

「行って来て。 あたし等も後で行くから」

「了解。 行くぞ、兄貴」

「おう!! 気合い入れて行くぞ!!」

 

春木と良の2人は友奈達以外に周りに人がいないことを確認すると互いに拳を上下に叩き合わせた後にハイタッチし、ルーブジャイロを構える。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

変身を完了させた2人は空を飛んでソニックムーヴを起こしながら街を破壊するグエバッサーを追いかけるのだが・・・・・・グエバッサーの飛行速度は速く、中々追いつくことができなかった。

 

『この野郎!! 逃げんなぁ!!』

 

手先から放つ火球弾「フレイムダーツ」をロッソはグエバッサーに連射して放つが、グエバッサーは身体を捻ることで攻撃を全て回避し、そうしている間に目的地が見えるとグエバッサーは地面に降り立ち、同時にロッソとブルも地面に降り立つ。

 

『なんでこいつ、逃げるの辞めたんだ?』

 

急にグエバッサーが地面に降り立ち、自分達から逃げることを突然辞めたことを疑問に思うブルだったが、ロッソとしては逃げるのを辞めたのなら後は戦うだけだと特に気にすることもなく、相変わらずの脳筋っぷりを見せながらロッソはグエバッサーに向かって行く。

 

『んなことはどうでも良い!! 焼き鳥にしてやるぜ!!』

 

ロッソはグエバッサーに向かって駈け出し、拳を振るうがグエバッサーは翼でロッソの攻撃を受け流すとそのまま背中に回り込んで左手の爪で背中を斬りつけ、ブルの放って来た跳び蹴りも振り返りざまに翼を大きくはためかせることで強烈な突風を起こし、ブルを吹き飛ばしてしまう。

 

『ウアアア!!?』

『あの翼が厄介だな。 2人同時に翼を掴んで動きを封じるぞ!』

『よし!』

 

ロッソの提案にブルが頷くと2人は左右からグエバッサーに飛びかかって2人で翼を掴みあげて動きを押さえ込み、ロッソとブルは拳をそれぞれグエバッサーの胸部に叩きこんだ後、さらに膝蹴りを連続で叩きこむ。

 

「グエエエエエ!!!?」

 

それに怯むグエバッサーだったが、右翼を掴んでいるロッソの肩を嘴で突くことでダメージを与え、ロッソを引き離すことに成功すると今度は左翼を掴んでいるブルを翼を大きく動かすことでどうにか突き放し、そのままグエバッサーはブルの腹部に強烈な蹴りを叩き込む。

 

『グアアッ!!?』

 

そこからさらにグエバッサーは両翼を大きく力強くはためかせると強烈で巨大な竜巻「バサバッサストーム」を巻き起こし、その竜巻はロッソやブルですら立ってるのがやっとな程で、そのせいでロッソもブルもグエバッサーに反撃することが出来ずにいた。

 

『キッツ、これ・・・・・・!』

『マズいぞ兄貴、このままじゃ反撃も禄に出来ずに3分経って変身解除してしまう・・・・・・!』

『そうなったら生身で吹き飛ばされて終わりだな・・・・・・!』

 

しかし、かと言ってこんな状態では一歩も前に踏み出せないどころかまともな光線技も使えない。

 

「援護しに来たってうわああ~!!? なんじゃこりゃああああ!!!!?」

 

またグエバッサーが竜巻を起こす少し前に、そこに勇者に変身した風、友奈、東郷、夏凜、樹の5人も到着したのだが直後にグエバッサーの起こす突風に巻き込まれて吹き飛ばされそうになってしまい、風は大剣、夏凜は刀を地面に突き刺すことでなんとか耐え、樹はワイヤーをなるべく大きめの木に巻き付けることで堪え、東郷はコスチュームの一部である4本のリボンを触腕を上手く起用に使うことで吹き飛ばされないように工夫して立っていた。

 

「うぅ、どうしよう、このままじゃ・・・・・・」

 

そして友奈は東郷に背中を支えて貰いながら踏ん張っていたのだが、風達もこのままでは援護も何も無い、手も足も出ない、どうすればと悩んでいると・・・・・・。

 

「んっ? あれは・・・・・・!」

 

そこで友奈があの例の亀裂の存在に気付き、さらにはその地面の中から紫とオレンジ色の2つの光が溢れており、それに共鳴するかのようにインナースペース内では春木や良の持つルーブジャイロに装着された2つのクリスタルと、クリスタルホルダーに入れたもう2つのクリスタルが2人の目の前で光を放って輝いていたのだ。

 

『兄貴、これってもしかして・・・・・・』

『あの地面の中に、新しいクリスタルがあるってことか!?』

 

その地面の中にあるクリスタルを使えばこの状況を逆転できるかもしれないと春木達は考え、「そういうことなら!」と夏凜は地面に刺していた2本の内の1本を抜き、風の動きを読んで、正確にその亀裂の入った地面に刀を投げ、突き刺す。

 

すると地面にさらに大きな亀裂が入り、夏凜は視線を友奈に映し、「地面をブン殴れ!!」と言いながら手を差し伸べると友奈は夏凜の意図を察したのか「うん!」と頷き、同じように何かを察した東郷は力を込めてドンッと友奈の背中を押すと、夏凜の手を友奈が握りしめる。

 

「いっけぇ!! 友奈ぁ!!」

 

そのまま夏凜は力任せに腕を振るって空中に投げ飛ばすと、勢いをつけた友奈は風に逆らいながら拳に力を込めて亀裂の入った地面に「勇者パンチ」を叩きこむ。

 

「勇者ぁ!! パーンチ!!!!」

 

するとそれによって地面が大きく抉られ、中から2枚のクリスタルが飛び出し、2枚のクリスタルをそれぞれ吸い寄せられるようにロッソとブルの元へと飛んでいき、それを2人が手に掴むとインナースペース内に新たなクリスタルが現れる。

 

『これは、『風』のクリスタルか!』

『こっちは『輪』って書いてあるな』

 

尚、友奈はあの後案の定と言うべきか突風に吹き飛ばされてしまったのだが、東郷がリボンを操って吹き飛ばされそうになった友奈を掴んだ為、大事にならずに済んでいた。

 

一方、その戦いの様子をダーリンの撮影機能を使って見ていたアキラは絶叫し、詳しそうにその場で叫び声を上げて地団駄を踏んでいた。

 

「あああああ!!!! それ私が先に見つけてたのにぃ~!!!! また先に使われたぁ!! それもよりによってティガさんのクリスタルだとぉ!!? っていうかもう1個あったのぉ!!?」

 

そしてロッソとブルはお互いに顔を見合わせ、頷き合う。

 

『セレクト、クリスタル!!』

 

先ずは春木が輪のクリスタルの1本角を立てるとそれをルーブジャイロの中央部分にセット。

 

『輪入道!』

『纏うは『輪』!! 特攻の火車!!』

 

そこから春木はジャイロのトリガーを3回引き、右腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ! ワニュウドウ!!』

 

するとロッソの姿が変わり、ロッソの赤かった部分はオレンジ色へと変わり、左腕には旋刃盤のような武器、「神屋楯比売」が装着された「ウルトラマンロッソ ワニュウドウ」へと姿を変えたのだ。

 

『セレクト、クリスタル!』

 

さらに続けて良は風のクリスタルの1本角を立ててジャイロの中央にセット。

 

『ウルトラマンティガ!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

そこから良はジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル! ウィンド!!』

 

するとブルの姿が変わり、青かった部分は紫色に変化した姿、「ウルトラマンブル ウィンド」へと姿を変えたのだ。

 

『ウルトラマンブル! ウィンド!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンブル ウインド」

 

風のクリスタルを使用した為か、ブルはグエバッサーの起こす強烈な突風に吹き飛ばされなくなると真っ向から突っ込んでいき、頭部に手を添えて1本の剣、「ルーブスラッガーブル」を取り出し、すれ違いざまにグエバッサーを斬りつける。

 

『シェア!!』

「グアアアアア!!!!」

 

それによって腹部から火花を散らすグエバッサーだったが、グエバッサーは右の翼を振るうことでブルを殴りつけ、引き離すとグエバッサーは起爆性のある羽根をミサイルのように飛ばす「バサフェザーシュート」を放つ。

 

『デヤアア!!』

 

しかし、ブルはそれをスラッガーブルで全て切り落とすとグエバッサーは空中へと逃亡。

 

『逃がすかぁ!!』

 

すると今度はロッソは光のワイヤーで繋いだ神屋楯比売を飛ばすことでグエバッサーの背中を斬りつけ、それを受けたグエバッサーは悲鳴を上げて地面に撃墜。

 

すぐに立ち上がるもののブルの目にも止まらぬ素早い高速移動で再びグエバッサーはスラッガーブルによる剣撃を受け、ダメージを受けるグエバッサー。

 

『グエエエエエ!!!!』

 

それに怒ったグエバッサーは突風を起こそうと翼をはためかせるが、そうはさせまいとジャンプして一気に接近し、左腕に装着された神屋楯比売を振るうことでグエバッサーを斬りつけ、グエバッサーは吹き飛ばす。

 

『グアアアアアア!!!!?』

 

続けざまにロッソは神屋楯比売をワイヤーで飛ばしてグエバッサーに攻撃を繰り出すが、グエバッサーは左の翼だけを大きく羽ばたかせると風圧で神屋楯比売を投げ返し、投げ返された神屋楯比売はロッソの身体を斬りつけてしまう。

 

『ウアアアッ!!?』

「グルルルル!!」

 

その隙にグエバッサーはもう1度空中へと飛び立ち、それをブルと立ち上がったロッソも追いかけて空中へと飛行する。

 

だが、その時グエバッサーは素早くロッソとブルの2人を取り囲むように飛行すると漆黒の竜巻を作りだし、彼等をその中に閉じ込めてしまった。

 

『うわあああ!!? バランスが・・・・・・!!』

『どうにか抜け出さないと・・・・・・!!』

 

竜巻の中に閉じ込められたロッソとブルはどうにかここから抜け出す方法は無いかと必死に考えるが・・・・・・そんな時、地上にいる樹が声を張り上げ、大声でロッソとブルに向かって叫んできたのだ。

 

「竜巻なんだから、逆方向に回転すれば良いんじゃないかな!! 良くん!!!!」

『樹さん・・・・・・そうか!』

 

樹の言葉を受けたブルは自身が高速移動することで大竜巻を生み出す「スパイラルソニック」を発動させ、グエバッサーの起こした竜巻とは逆方向に竜巻を起こしたことでブルはグエバッサーの竜巻を内側から破壊することに成功。

 

「っ!?」

『逆回転の竜巻だ。 力は打ち消し合うってな!!』

 

自身の竜巻が消されたことで驚いた様子を見せるグエバッサー。

 

そんなグエバッサーの隙を突いて、東郷の放った狙撃銃が右目に直撃し、グエバッサーはそれに悲鳴を上げながら地上へと落下。

 

「グエエエエ!!!!?」

『うっわ、えげつな』

 

ブルはグエバッサーの右目を潰して来た東郷にドン引きながらもロッソと共に地上に降りると、それと同時に右目を潰されながらも未だに戦う意志を見せてグエバッサーが立ち上がってくる。

 

「グエエエエエエ!!!!!」

 

雄叫びをあげながらロッソとブルに気迫迫る勢いで突っ込んで来るグエバッサー。

 

だが、そこで風が飛び出し、平らにした大剣をグエバッサーの左膝に叩きつけることでグエバッサーは動きを止め、すぐさま風はそこから飛び退く。

 

「ガアア!!?」

「弁慶の泣き所って怪獣相手でも効くものなのねぇ。 まっ、取りあえず、今よ2人とも!!」

 

風の言葉を受けてロッソとブルは頷くとブルは胸の先で起こした竜巻を、光線として放つ必殺光線「ストームシューティング」を放ち、それと同時にロッソはワイヤーから切り離して神屋楯比売をブーメランのように投げつけ、相手を切り刻む「大輪車旋風刃」をグエバッサーへと放つ。

 

『ストームシューティング!!!!』

『大輪車旋風刃!!!!』

 

2人の技がグエバッサーに直撃すると、グエバッサーは身体中から火花を散らして倒れ、爆発を起こし倒されたのだった。

 

「グエエエエエエエ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グエバッサーのクリスタル、回収致し帰還しました~』

「ありがとう、愛してる!」

『ミートゥー~♪』

 

アイゼンテック屋上ではダーリンがグエバッサーのクリスタルを回収してアキラに届け、テーブルの上に置かれたアタッシュケースを開けるとそこには様々な怪獣達のクリスタルが綺麗に並べられており、グエバッサーのクリスタルをアキラはその中に仕舞う。

 

また、そのアタッシュケースの中央には「剣」と書かれた錆び付いているウルトラマンのクリスタルが存在し、そのクリスタルを囲むように「嵐」「炎」「氷」「岩」と書かれたクリスタルが並べられていた。

 

「ティガさんのクリスタルは回収しこねてしまったなぁ~」

 

アキラはそう呟きながら、ジッと「機」「恨」「造」等と書かれたクリスタルを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、グエバッサーを倒して数日後・・・・・・。

 

樹は遂に、音楽の授業でテストを受けることとなり、今は樹の前の人が歌を歌っている最中だった。

 

(大丈夫、昨日も練習したんだし・・・・・・)

 

頑張ってかなり練習をしたが、しかしそれでもやはり彼女は中々緊張を解くことが出来ず、不安な気持ちが未だに拭えていなかった樹。

 

そして今の歌っている生徒の番が終わると、音楽の先生から名前を呼ばれ、自分の順番が廻ってくると樹は「は、はい!!」と上擦った声をあげながら席を立ち、みんなの前に立とうとするがそんな彼女を良が少しだけ呼び止める。

 

「樹さん」

「・・・・・・良くん?」

「俺達、勇者部がついてます」

「・・・・・・うん」

 

良がそれだけ伝えると、樹は頷いてみんなの前に立つのだが・・・・・・いざ、みんなの前で立つと彼女の中にある緊張が最高潮に達してしまい、半ば諦めモードとなってしまう。

 

(やっぱり、無理・・・・・・!)

 

そこで音楽教師がピアノを弾き始めると、樹は慌てて音楽の教科書を開くのだが、その時、教科書に挟んでいたと思われる紙が樹の足下に落ち、それに気付いた彼女は急いでそれを拾いあげる。

 

「っ・・・・・・!」

 

その紙を拾いあげると、彼女はその紙に勇者部のみんなが自分に宛てたメッセージが書かれていることに気付き、樹はそれを見て目を見開く。

 

『テストが終わったら、打ち上げてでケーキ食べに行こう!』

(友奈さん・・・・・・)

『周りの人はみんなカボチャ』

(東郷さん・・・・・・)

『気合いよ』

(夏凜さん・・・・・・)

『気合いだぁ!! って俺と言ってること夏凜被ってんじゃねーか!』

(春木さん・・・・・・)

『みんなあなたについてます』

(良くん・・・・・・)

『周りの目なんて気にしないで。 お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから』

(お姉ちゃん・・・・・・)

 

勇者部、みんなからのメッセージを受け取った樹は少しずつ、笑顔を取り戻していき、自信をつけていく。

 

「犬吠埼さん、大丈夫ですか?」

「はい!!」

 

教師の問いかけに樹が元気よく返事を返すと、彼女は明るい表情を浮かべ、教科書に載ってある歌詞を見ながら歌い始める。

 

(私はみんなと一緒にいる! 勇者としてだって! この歌だって!)

 

その時の樹の歌声はとても綺麗で、教師はクラスメイト達は以前聴いた時とは全く違う、見違えたその歌声に驚く様子を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部。

 

そこでは樹の歌のテストの報告を作業をしながら待っている春木達の姿があり、友奈はそわそわした様子で樹のことを心配していた。

 

「樹ちゃん、テスト上手く行ったかなぁ?」

「大丈夫よ! だってあの娘は、あたしの妹なんだから!」

 

風がそう言い終わると同時に、部室の扉が開いて樹と良が同時に部室に入ってくると、友奈達は早速樹にテストの結果を尋ねて来る。

 

「樹ちゃん!」

「歌のテストは・・・・・・?」

「バッチリでした!」

 

友奈や東郷の問いかけに対し、樹はVサインを作って見事、テストに合格したことを伝えると一同は自分のことのようにそれを喜び、友奈は「やったやったー!!」とはしゃぎながら樹とハイタッチ。

 

「きっと、みんなカボチャだと思ったのが良かったのね!」

「いや、やっぱ気合いだろ!! 気合いがありゃ、人間なんでも出来るからな!!」

「あはは、ありがとうございます」

 

そんな東郷と春木に苦笑しつつ、この2人とも樹はハイタッチ。

 

「夏凜さんも、ありがとうございます!」

「あっ、う、うん」

 

夏凜は樹がテストに合格したことを凄く喜んでいる様子だったが、即座に彼女はツンッとした態度を示し、戸惑いながらも樹とハイタッチを交わす。

 

「良くんも、色々と気にかけてくれてありがと!」

「んっ」

 

樹のその言葉に、良は小さくサムズアップしながら応える。

 

そして、樹は風と目を合わせると、両手を広げて「やったー!!!!」と歓喜の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、自転車を押しながら自宅へと帰る帰り道で・・・・・・。

 

「あのねお姉ちゃん、私、やりたいことが出来たよ」

「んっ? やりたいこと?」

 

樹はふっと風に自分のやりたいことが出来たということを話すと、風は不思議そうに首を傾げる。

 

「なになに? 将来の夢でも出来たってこと? だったらお姉ちゃんにも教えてよ!」

「うーん、秘密」

「えっ、酷い~。 誰にも言わないから、ねっ?」

「ダーメ。 恥ずかしいもん・・・・・・」

 

結局、樹の「やりたいこと」について風は聞き出すことが出来ず、「ちぇっ、残念」と風は拗ねてしまうが・・・・・・そんな風を見ながら樹は「でも・・・・・・」と言葉を続ける。

 

「いつか、教えるね」

「じゃっ、そのいつかが来るまで気長に待つよ」

 

そんな風に、風と樹の2人はお互いに笑い合いながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、以前にも訪れたカラオケボックスにて。

 

そこでは樹が自分の歌声をノートパソコンを使って録音しているところだった。

 

(まだこれは、夢なんて言えない。 やってみたい事が出来た。ただそれだけ。 けど、どんな理由でも良いんだ。 頑張る理由があれば、私はお姉ちゃんの後ろじゃなくて、一緒に並んで歩いて行ける)

 

すると、樹がマウスを動かした際、机に置いていた鞄に手が当たり、それが落ちた。

 

「あっ、先にこっち」

 

その鞄の中からは彼女の所持しているタロットカードが1枚飛び出すように落ちるのだが、そのカードには死神の絵が描かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、風は自宅のマンションで大赦にメールを送ろうとしていた。

 

『連絡。 今後の戦闘でアタシが戦闘不能になった場合、撤退の・・・・・・』

 

そこまで書き終えたところで、風はメールの内容を削除してしまう。

 

(あたしの理由は、バーテックスのせいで死んだ親の仇。 凄く個人的な事だしね・・・・・・)

 

そう呟きながら、風はテーブルの上に突っ伏していると・・・・・・突如スマホから樹海化警報が鳴り響く。

 

それを受けて、風が慌てて外に出ると既に樹海化が始まっており、それは遂に決戦の時が始まったことを意味していた。

 

「始まったの・・・・・・!? 最悪の事態!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、樹海化した空間で・・・・・・。

 

「行くよ、牛鬼!」

 

友奈がそう牛鬼に声をかけながら、戦う覚悟を決めていた。

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