艦これ~extra voyage~   作:瑞穂国

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決断(二)

「サーモン海域中心部への攻撃作戦を実行する」

 

 会議が始まった直後、集まった参謀の面々に、長門はまずそう宣言した。

 

「現状を打破する手段は、サーモン海域中心への強行突入をおいて他にない。我々はこれを、早急に実施する必要がある。これより本日中に確認された最新情報を共有し、その上で明後日より実施予定の攻撃作戦の詳細を詰めていく」

 

 異存はないな。確認の意味を込めて各員の顔を見回す。歴戦の乙女たちは一様に頷き、その表情を引き締めていた。

 

「それではまず、本日の航空偵察によって判明した、敵情を報告させていただきます」

 

 真っ先に立ち上がり、大和が報告を始める。

 

「昨日、二航戦が接敵した機動部隊ですが、全部で五つの集団を形成していることが判明しました。いずれも正規空母二、軽空母一を中心とした、十隻前後の機動部隊です。うち一つは、空母棲姫を含んでいます。おそらくこれが旗艦集団です。しめて空母十五隻。第八艦隊所属空母が全力で当たって、初めて互角に渡り合えるといったところでしょう」

 

 参謀たち、特に空母である赤城と加賀の二人が大きく息を飲んだ。これだけ大規模な空母集団は、今まで出会ったことがない。総艦載機数は一千機になるだろうか。途方もない強敵だ。

 

「これ以外にも、戦艦を中心とした艦隊が二つ、確認されています。こちらは戦艦棲姫二隻を含む、戦艦四隻の砲戦部隊です。また、巡洋艦や駆逐艦を主体とした六隻前後の集団が確認できただけで六つ。サーモン海域全体で、百隻以上の水上艦艇が展開していることになります」

「百隻、以上……」

 

 金剛が冷や汗を浮かべている。大規模、どころの話ではない。深海棲艦は、文字通りその鎧を持ってサーモン海域の周囲に鉄条網を張り巡らせたようなものだ。しかもそれは、二重三重ときた。これを食い破って一太刀を浴びせようなどと、無理難題に思えて仕方がない、といった様子だ。

 

「次に、深海棲艦各艦隊の動きですが、」

 

 ペラリと紙をめくった大和がさらに続ける。

 

「戦艦部隊と巡洋艦部隊は、いずれもサーモン海域内に籠っています。機動部隊は、二手に分かれ、サーモン海域北部から西部にかけてを周遊しています。いずれも、動きとしては、我々から光の柱を守ろうとしているような――光の柱に我々を近づけまいとするような、そのような思考のもとに成り立っていると考えます」

 

 そこまで言い切って、大和がチラリと長門を窺う。長門は頷き、次の発言を加賀に求めた。一礼して大和が着席し、代わりに加賀が立ち上がる。

 

「本日、海域変色を引き起こしているとみられる存在と、接触しました」

 

 ガタッ。何脚かの椅子がずれて音を発する。驚きも無理はない。最初に報告を受けた時は、長門も似たような反応を返したのだから。

 

「どういう手段かはわかりませんが、()()は――いえ、彼女は明石の体を借りて、我々との接触を図ってきました。如月の誤射、あの時演習弾に実弾を混ぜたのも彼女でした。こちらへのメッセージだった、と」

「……デハ、如月の体を放置していたノモ」

「メッセージの一環、だったようね。事実、私たちは真っ先に明石を疑った」

 

 金剛が眉を跳ね上げる。腕を組んだ彼女は明らかに怒っている様子だったが、会議の進行を止めるべきでないとわかっているのだろう。それ以上は何も口に出さなかった。

 

 加賀が話を続ける。

 

「彼女は、艦娘を光の柱へ辿り着かせることが――駆逐艦吹雪をあそこへと導くことが目的だと、語っていました。その対価として、変色海域の根源、光の柱が物理的に破壊可能であることを教えてくれました。あれを破壊すれば、海域の変色を止められる、と」

「……限りなく胡散臭くないですか、それ」

 

 表情を曇らせ、比叡が言う。それももっともだ。これだけお膳立てがされていて、罠ではないと断じる方が無理な話だ。

 それでも、攻撃作戦を実施するのか。全員の眼が長門に集まる。

 

「……罠である可能性は、最後まで捨てきれない。だが、今攻撃を躊躇すれば、それこそ永遠に取り返しがつかなくなる。変色海域が拡大を続けている以上、その中枢へ進入して作戦を遂行できる期限がある。作戦開始のタイミングとしては、明後日が限界だ。それ以後は、変色海域中枢に進入しても帰ってくることができなくなる。無論、片道攻撃覚悟であれば話は違ってくるが、それでは本末転倒というものだろう」

 

 艦娘を深海棲艦へと変える海域の拡大を防ぐために、艦娘を轟沈させて深海棲艦にしてしまっては、元の木阿弥だ。

 だからこそ、やるなら今しかない。これ以上の引き延ばしはできない。

 皮肉なことではあるが、今は接触してきた()()の言葉を信じる他なかった。

 

「私が接触した彼女の目的はわかりません。ですが今は、攻撃こそが最善の手段であると、考えます」

 

 そう締めくくって、加賀が着席する。報告はこれで終わりだ。

 

「それではこれより、作戦概要の説明に入ります」

 

 進行を受け持つ大淀が口を開く。海図台にはすでに、サーモン海域の全図が用意されていた。

 

「作戦の骨子は二つ。我が機動部隊による、敵機動部隊の北方誘引。そして水上部隊による、変色海域への突入です」

 

 そう言って、大淀は海図上の二か所に置かれた駒を指示棒で指す。赤い駒は、それぞれ敵機動部隊と水上部隊を示すものだ。

 

「まず、第一段階として、第八艦隊機動部隊を敵機動部隊にぶつけます。航空戦を行いつつ、これを次第に北方へと引き寄せ、サーモン海域から引き離す。しかる後に、第二段階として、第八艦隊水上部隊がサーモン海域の突入し、敵戦艦部隊を撃破。変色海域中枢の光の柱破壊が第三段階となります」

 

 海図上に青い駒が追加され、それを大淀が動かす。どちらも第八艦隊を示すものだ。

 金剛が手を挙げ、発言の許可を求める。

 

「この作戦案だと、水上部隊のサーモン海域突入は、日没後になりませんカ?電波妨害の影響で電探が使えない以上、夜戦は極力避けるべきだと考えマスガ」

 

 金剛の質問に、長門はかぶりを振る。

 

「優先順位は、敵機動部隊をサーモン海域から引き剥がすことだ。サーモン海域内は島や浅瀬が多く、航空機に襲われれば満足な回避運動を取ることもできない。敵航空機の排除が、海域突入の絶対条件だ。そうすると、敵機動部隊をサーモン海域から引き離すのに、こちらの機動部隊全力を持って丸一日かかる。となれば、水上部隊は夜間突入とならざるを得ない」

「デハ、作戦発動を、明日にしテハ?」

「それこそできない相談だ。これだけ大掛かりに動くとなれば、準備にはそれ相応の時間がかかる。事を急いてはいけない」

 

 長門の説明に納得したらしく、金剛は沈黙する。

 

「では、各艦隊のより詳細な動きについてご説明します」

 

 そう言って、大淀はその場の全員に一枚ずつ、書類を手渡す。長門が考えた、暫定的な編成案だ。

 

「まず機動部隊ですが。こちらはとにかく、その全力を尽くして敵機動部隊の気を引き、サーモン海域の北方へと誘引していただきます。そこで、大まかに二つ、部隊を分けます。敵を正面から受け止める囮役と、側面から敵を叩く遊撃役です。前者は一、五航戦を中心とし、護衛として金剛、榛名にも加わってもらいます。後者は二航戦、及び軽空母群を主軸とし、少数快速の編成で動いていただきます」

 深海棲艦は、その(さが)と言うべきか、艦娘からの攻撃には敏感に反応し、必ず応じてくる。これだけ大規模な動きを見せれば、いかにサーモン海域を守る機動部隊とはいえ無視はできないだろう。

 

「続いて、水上部隊です。こちらは、変色海域内の活動限界時間が十時間前後と見積もられることから、その時間内に海域中枢を往復できる快速艦のみで編成しています。戦艦での参加は比叡と霧島、残りは巡洋艦と駆逐艦で固めます。艦隊は前衛と後衛に分かれ、前者は巡洋艦主体、後者は戦艦とその護衛駆逐艦で構成します。前衛が航路哨戒と敵巡洋艦部隊の撃破、後衛は敵戦艦部隊の撃破及び光の柱の破壊を任務とします」

 

 大淀の説明がそこで終わると、真っ先に大和がその手を挙げた。

 

「水上部隊の戦艦を、もっと増勢できないでしょうか?比叡さんと霧島さんだけでは、戦艦棲姫二隻を相手取るのに火力不足と考えます。長門さんや陸奥さんが加わってもいいのでは?」

 

 素朴な問いかけに大淀は首を横に振る。

 

「速力が足りないんです。明後日、日没後の状態で、十時間以内に変色海域を往復するには、常時二十五ノットの速力が必要です。ただ、戦闘を行うことを考慮すれば、その必要速力は二十八ノットになります。これを満たせるのは、比叡、霧島の二隻だけです」

「金剛さんと榛名さんは?この二隻も、海域突入の戦力として加えることができるはずです。機動部隊の護衛から、水上部隊へ移しては?」

「そうもいきません。彼女らは対空戦闘の経験が豊富です。敵機動部隊の攻撃を一身に受ける囮役の護衛には必須です」

「……つまり、突入艦隊戦艦部隊のこれ以上の増援は、不可能だと?」

「速力という縛りがある以上、そうなります」

 

 断定するような大淀の言葉に、大和がしばらく思案する。その瞳が次に捉えたのは、長門であった。

 

「意見具申があります、長門さん」

 

 長門は頷いて、その先を促す。

 

「私を突入艦隊に加えていただけませんか?」

 

 唐突な一言に、一瞬場がざわめいた。それには構わず、大和がさらに続ける。

 

「カタログスペックでは二十七ノットですが、負荷をかければ二十八ノット出ます。高負荷状態でも、十時間ぐらいなら航行可能です。突入艦隊には十分追随できるかと」

 

 なおも大和は力説する。彼女なりに考えた末の、最前の解決策なのだろう。実際その提案は、長門にとっても魅力的なものに思えた。手数は多い方がいいうえに、何より大和は、海軍最強の火砲を備えた決戦兵器だ。その参加は万の大砲よりも心強い。

 

「……いいだろう。大和含め、第七艦隊の指揮を第八艦隊下に臨時で組み込む。その上で、大和を突入部隊に加えよう」

 

 それでいいな。確認した長門に、大和は大きく頷いた。

 

「それでは、作戦の骨子は以上で。これから詳しい編成に入りますが、その前に何か質問はありませんか?」

 

 全員を見回して尋ねた大淀に対して、長門は手を挙げる。

 

「一点、訂正だ。突入部隊の目的は光の柱の撃破と同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 サーモン海域への突入作戦実施が全艦娘に対して報されたのは、朝のことであった。作戦参加艦娘とその編成、及び呼称は以下の通り。

 

・機動艦隊一群(一機艦)

 第一部隊〔赤城〕〔加賀〕〔翔鶴〕〔瑞鶴〕〔金剛〕〔榛名〕

 第二部隊〔利根〕〔筑摩〕〔五十鈴〕〔島風〕〔天津風〕〔時津風〕

 

・機動艦隊二群(二機艦)

 第一部隊〔蒼龍〕〔飛龍〕〔龍驤〕〔瑞穂〕〔鈴谷〕〔熊野〕

 第二部隊〔青葉〕〔衣笠〕〔那珂〕〔響〕〔雷〕〔電〕

 

・機動艦隊三群(三機艦)

 第一部隊〔飛鷹〕〔隼鷹〕〔千歳〕〔千代田〕〔高雄〕〔愛宕〕

 第二部隊〔最上〕〔三隈〕〔朝潮〕〔大潮〕〔満潮〕〔荒潮〕

 

・挺身艦隊一群(一挺艦)

 第一部隊〔比叡〕〔霧島〕〔大和〕〔神通〕〔吹雪〕〔睦月〕

 

・挺身艦隊二群(二挺艦)

 第一部隊〔鳥海〕〔古鷹〕〔加古〕

 第二部隊〔川内〕〔北上〕〔大井〕〔綾波〕〔暁〕〔夕立〕

 

 編成は長門より直接、第八艦隊参加各艦に伝えられた。その際、以下のような訓示を述べていた。

 

「過去類を見ない、困難な作戦である。しかし不可能ではない。諸君の、不断の努力と勇気が、必ずや未来を切り開く。硝煙と波濤の先に、諸君らが望む勝利を掴み取ることを期待する」

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