艦これ~extra voyage~   作:瑞穂国

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吹雪編開幕です。いよいよクライマックス。
決着の章となります。


吹雪
吹雪(一)


 ……歩き続けた。

 

 歩いて、歩いて、歩いて……彷徨って。

 

 鉄の水底。死の海。漂う錆の匂い。無数に転がる残骸。誰からも忘れ去られ、取り残された骸。名もなき船の墓場。

 

 鉄底海峡。アイアンボトムサウンド。ソロモン諸島、ガダルカナル島沖に広がるここが、私の居場所。捕らわれの檻。

 

 ああ、もう疲れた。いくら探しても、ここに彼女はいない。ワタシの片割れ。手を伸ばしても届かぬ想い。

 

 待つしかない。誰もいないこの海で。何か――奇跡に近い何かがあれば、あるいは――

 

 ……いいえ、違う。誰もいない、わけじゃない。

 

 確かにいた。声なき魂。無念の巣窟。

 

 声がする。それは恨みでも、妬みでもなかった。

 

 焦がれる声。叶わぬ願い。悲痛な叫び。

 

 やめて。もうやめて。

 

 

 

 ワタシに、どうしろというの。

 

 

 

 

 

 

 ……ようやくだ。

 

 ずっと、この時を待っていた。

 

 誰もいない海で、十年。

 

 鉄の水底で、十年。

 

 ようやく、彼女はここまで、来てくれた。ワタシに、会うために。

 

 拒みはしない。それが私の望み。唯一残った、私自身の願い。

 

 だからアナタも、どうか拒まないで。

 

 

 

 この海に敷き詰められた、絶望の悲願を。

 

 

 

 

 

 

 変色海域から退避中の比叡たちは、絶体絶命のピンチを迎えていた。

 退避艦隊の陣容は十隻。数だけ見れば有力な艦隊だが、その実は損傷艦の寄せ集めだ。まともに戦闘能力を残している艦など一隻もいない。

 その退避行は、相当困難なものになると、十二分に予想されていた。

 

 予想は現実となる。

 推進系に損傷をきたした艦娘たちに速力を合わせた結果、比叡たちは二時間で消化した航程を、二時間弱で半分も進めていなかった。そしてその間に、巡洋艦を主体とした艦隊に捕捉されてしまった。

 

(あと少しだっていうのに……!)

 

 ガタつく左足に鞭を入れながら、比叡は歯噛みする。

 

 巡洋艦四隻、駆逐艦六隻。たかがその程度の戦力など、比叡と霧島が万全の状態であれば、赤子の手を捻るよりも容易く蹴散らすことができる。

 だが、その比叡も霧島も、今はまともに戦闘ができる状態ではなかった。

 

 先の戦艦棲姫との撃ち合いで、比叡は左舷の艤装をすべて叩き潰されている。生き残った右舷の艤装も、主砲用の電路が遮断されたせいで肝心の主砲は撃てない。使えるのは、変色海域の侵食を免れた、副砲が四門と、高角砲が一基。

 霧島の損傷は、比叡ほどひどくはない。しかし、戦艦棲姫の砲撃を正面から受け止めた装甲板は、もはや使い物にはならなかった。しかも、その際の衝撃で旋回盤が曲がり、一、二番主砲塔は旋回不能となっている。

 巡洋艦以下も、皆似たような状況だ。これでは戦いにならない。

 

 それを知ってか知らずか、敵艦隊は横陣を敷き、こちらの進路を阻むように展開している。一隻も通しはしない。この海に立ち入ったものは、すべからくこの海へ帰るのだ。そう言うように、こちらを睥睨している。

 

「……お姉様」

 

 霧島が問うている。どうするのか、と。

 

「……やるしか、ない」

 

 手持ちの戦力は、今ここにいる分しかない。

 覚悟を決める。絶対に帰るという覚悟。

 同時に。

 今回こそはだめかもしれない、という覚悟。

 

「各艦、砲戦用意!敵艦隊に隙を見つけ次第、離脱可能な艦から海域を離脱!他を顧みず、自らの生存を第一に考えよ!」

 

 霧島が、主砲を構える。

 比叡が、副砲を構える。

 古鷹が、加古が、川内、大井、北上、綾波、暁。全艦が、今使える自らの武装を振り立て、その行く先を切り開かんとする。

 

 その覚悟ゆえだろうか。

 その想いゆえだろうか。

 戦神は応えた。使者は現れた。その道筋を、示してやろう、と。

 

 エンジンの音が近づいてきた。あまり聞きなれない音だ。赤城たち空母艦娘に搭載されているもののどれとも違う。

 

(どこから?)

 

 比叡が反射的に空を見た、その時。

 遥かな高みから、天使が舞い降りてきた。

 否。より正確に言い表すのであれば。その天使、あるいは戦乙女(ワルキューレ)は、空より真っ逆さまに落ちてきた。

 

「うちの妹に、何してくれるデース!」

「勝手は!榛名が!許しません!」

 

 しかも、その天使は、比叡のよく知る声で、叫んでいた。

 

 艤装を目一杯広げ、空気抵抗で減速しながら、金剛と榛名が降ってくる。真っ逆さまに、敵艦隊の頭上へと。

 その主砲に、砲炎が踊った。反動で二人の落下が一気に減速される。そして砲弾は、そのまま二隻のリ級に突き刺さった。

 三六サンチ砲の超近距離射撃、それも真上からの砲撃に晒されては、たかが巡洋艦になす術はなかった。海上に爆炎が二つ生じる。比叡は確信した。撃沈確実二、だ。

 

 金剛と榛名が着水する。重い艤装を受け止め、海水が主砲弾弾着よりも激しく持ち上げられた。当の二人は、確信犯的に海面にめり込み、その後スタビライザーによって海面に浮上してくる。

 思わぬ刺客に、重巡を二隻も潰された敵艦隊は、軽いパニックに陥っていた。そしてそれを見逃すほど、艦娘たちは甘くない。

 

「今だ、畳みかけろ!」

 

 比叡の号令に合わせ、十隻の艦娘が一斉に砲炎を吐きだした。

 

 

 

「比叡!霧島!無事で何よりデース!」

 

 戦闘を終えると、金剛は比叡たちをきつく抱きしめた。顔が豊満な胸に埋まり、息ができない。その苦しさを、比叡はとても幸福なものとして、捉えていた。

 ようやく抱擁から解放され、霧島と揃って息を吸い込む。太陽のような金剛の薫りが、そこに混じっていた。

 

「あの……お姉様、どうしてここに」

「ンー?」

 

 比叡の質問に、金剛は意味ありげに上空を見た。

 先ほどのエンジン音が、上空から聞こえる。上空を旋回しているのだろうか。星明りと薄い月光で辛うじてその影を捉えられるが、一体どんな機体なのかまでは見えなかった。

 ただ一つ。それは、艦娘から発艦し、妖精が操縦する航空機ではなく、()()が乗り込んで操縦する大きさの航空機だ。絶滅危惧種である。

 

「あの飛行艇に乗せてもらいマシタ」

「……はい?」

 

 何だか今、とんでもない矛盾を聞いた気がする。

 艦が飛行機に乗った?逆ではなく?

 ともかく、金剛と榛名は、あの飛行艇に乗って、ここまでやって来たという。

 

 聞けば、あの飛行艇は長門が手配したのだそうだ。昼間の戦闘で空母棲姫に致命傷を負わせた機動部隊は、金剛たちを肉薄させトドメを刺させた。それからすぐ、飛行艇が現れて、金剛と榛名を乗せたのだという。

 そして二人は、その飛行艇から飛び降りて、ここへやって来た。

 

(何やってるんですかねえ!?)

 

 思わずそんな感想を抱いてしまうほどには、無茶苦茶な救援の仕方だった。

 

「……吹雪たちは、行ったのですね」

 

 一通りの情報共有と確認を終えた金剛が、サーモン海域の中心方向を見つめながらそう漏らした。比叡はそれに、無言で頷く。

 金剛が目を閉じる。祈るように。信じるように。

 数秒の沈黙の後、金剛が再び目を開いた。微笑を湛え、こう宣言する。

 

「皆さんは私が護りマス。必ず無事に、帰りまショウ」

 

 

 

 

 

 

 砲弾の嵐の中を、睦月たち三隻の駆逐艦は縦横無尽に駆けていた。一撃を仕掛けては一航過、一撃を仕掛けては一航過。速力と機動性にものを言わせ、敵艦隊を翻弄する。

 しかし、多勢に無勢。いかに睦月たちが十分に経験を積んだ駆逐艦と言えども、乱戦の中で二倍の差を相手取るのは、並大抵のことではなかった。

 何とか二隻を戦闘不能にしたものの、残った四隻が砲撃を繰り出してきては意味がない。実際、睦月も、如月も、夕立も、被弾の跡が目立ってきた。

 

「キリがないっぽい……!」

 

 先頭に立つ夕立が、苛立たしげに呟く。彼女の言う通りだ。このままじゃいずれ押し切られる。

 

(魚雷さえ、再装填できれば……!)

 

 艤装の格納筒に入れてある、予備の魚雷。何とかそれを再装填できれば、あるいは対抗の芽が出てくるかもしれない。

 だが、あまりにも時間がない。陽炎型のような魚雷の次発装填機能は、睦月には備わっていない。精密機械である魚雷を全て手で再装填する必要がある。圧搾空気の準備まで含めれば、少なくとも六分は必要だ。

 夕立には次発装填装置が備わっているが、それでも全弾の再装填には四分が必要だ。

 そんな猶予を与えてくれるほど、深海棲艦は甘くはない。

 

 どうする。夕立と目を合わせた時だった。

 

「睦月ちゃん、夕立ちゃん。魚雷の再装填を。その間、私が敵艦隊を食い止めるから」

 

 そう言った如月が、主砲を構えなおし、睦月の前に出た。先の魚雷戦で、如月は全ての魚雷を撃ち尽くしていた。

 ダメだ、そんなのは無謀すぎる。誰か一人が向かっていったところで、戦力差が歴然になるだけだ。例え再装填の時間を稼げたとしても、如月が沈んでしまうリスクの方が高い。

 それだけは、何があってもイヤだ。

 

「何言っているの、如月ちゃん!それなら、睦月も、」

「睦月ちゃん」

 

 睦月の言葉を、如月が遮る。唇に人差し指を当て、片目を瞑って微笑みながら。いつもの、実にしなやかで、どこか艶やかな如月の表情を浮かべながら。

 

「必ず、帰るんでしょう?」

 

 言葉に詰まる。出撃前、睦月が如月に宣言したことだ。例えどれほど困難な作戦であろうと、必ず如月のもとへ帰るのだ、と。

 

「睦月ちゃんの約束、嬉しかった。だから、ね。私も、その約束のために、力を貸したいの。睦月ちゃんの力になりたいの」

「如月、ちゃん……」

「大丈夫。絶対に沈まない。()()()()()()()()()()()()()()()。だって、」

 

 如月は、とびっきりの笑顔を浮かべていた。

 

「あなたは私の、大切な姉妹だもの」

 

 

 

 敵艦隊に、如月が突撃していく。脚部艤装が海面を鋭く切り裂き、飛沫を挙げながら駆けていく。それを見送って、睦月と夕立は顔を見合わせ、頷いた。

 

 格納筒のハッチを開く。中には予備の魚雷が、筒一つにつき一本ずつ収められている。

 魚雷発射管を既定の位置へ。ガイドレールを取り出し、それを発射管に取り付ける。そのガイドレールに、取り出した魚雷を乗せ、妖精の補助を受けながらゆっくりと発射管へ装填していく。慎重に、定められた位置へと魚雷を込めていく。

 カチリ。魚雷が既定の位置へ収まったことを示す音が鳴る。これで、ようやく一本の装填が終わったのだ。ここまでおよそ一分。

 これを後五回。時間と根気のいる作業だ。

 

 二本目の魚雷をガイドレールに乗せ、発射管への誘導を妖精に任せて、睦月は如月の様子を窺う。

 如月は、さながら海上を舞う妖精のように、身軽な動きで敵艦隊を相手取っていた。正面から撃ち合いはしない。単純に時間を稼いでいる。弾雨へ切り込み、魚雷をかわし、数度の砲撃を浴びせて離脱。それを繰り返し、敵駆逐艦の意識を自身に留めている。その動きはとても精錬されて、研ぎ澄まされたもののように見受けられた。

 あれならば、上手く時間を稼げるかもしれない。睦月が希望をもって、三本目の装填に取り掛かった時だった。

 

 巡洋艦の一隻が、如月に襲いかかった。

 

(そんな……!)

 

 睦月は巡洋艦の来た方向を――先ほどまで、二隻の重巡と鳥海が撃ち合っていた方向を見遣る。

 海面の炎は一つ。波間に漂う影。疲労と苦痛の表情を浮かべるのは、鳥海その人であった。

 

(鳥海さんが、突破された……!)

 

 それ以外に考えられなかった。

 

 この夜だけで、鳥海は四つの深海棲艦艦隊と交戦してきている。ここまでもっていたことが不思議なのだ。二隻の重巡相手に無理を重ねて、結果撃ち負けたのだろうか。

 まずい。非常にまずい。いくら如月が器用に立ち回ろうと、巡洋艦が相手では勝ち目はない。そう長くかからず、撃破されてしまう。

 

「間に合わない……!」

 

 右舷側発射管の装填に入った夕立が、焦った様子で呟いた。夕立の方もまだ二分は必要だ。睦月も三本目が今ようやく終わったところである。

 睦月に迷いはなかった。

 

「夕立ちゃん、装填続けて!私は先に行くね!」

「睦月ちゃん!?」

 

 夕立の呼びとめも気にせず、睦月はすぐさま飛び出した。駆逐艦と巡洋艦に挟まれ、必死の形相で回避と反撃を試みている如月のもとへ急ぐ。

 魚雷は、装填が終わった左舷の三本のみ。しかも睦月単艦で使用しては、まず命中は望めない。

 けれども今飛び出さなければ、如月が沈んでしまう。

 今できること。今やれること。

 私はまだ、如月の側にいることができる。

 

「テーッ!」

 

 構えた主砲を、今しも如月へ発砲せんとする敵駆逐艦に向けて撃つ。火箭が宙空を駆け、敵駆逐艦の至近に水柱を立ち上げる。

 

「如月ちゃん!」

 

 如月が一瞬、睦月の方を見た。

 その瞳に頷く。今行く。一緒に戦おう。

 

「睦月ちゃん!」

 

 敵弾を逃れ、一時離脱した如月が、こちらへ手を伸ばす。

 その手を受け止め、しかと握り返す。

 ああ、そうだ。私たち二人なら、きっとできる。どんな約束だって、願いだって、叶えてみせる。

 

「やろう、如月ちゃん!」

「ええ、睦月ちゃん!」

 

 主砲を打ち鳴らす。約束を。二人で誓う。

 敵は強大。勝利の可能性は限りなく低い。今ここで、二人で話せることすら、奇跡のようなものだ。

 それでもなお、前を見続けよう。二人が共にある限り。

 

 主砲が炎を噴く。駆逐艦へ向け放たれたそれらは、狙い違わずその装甲を撃ち抜いた。撃沈にこそ至らないものの、駆逐艦が悲鳴のように叫び声を上げる。

 重巡ネ級と、駆逐艦四隻が、睦月たちに襲いかかってくる。彼我の距離はもはや二千もない。近接距離、お互いに逃れられない距離。

 敵弾が頬を掠める。逆に睦月たちの砲弾も敵艦を穿つ。お互いの砲弾が考えられないほどの至近距離で交差し、敵を抉ろうとする。

 

(今なら……!)

 

 睦月は魚雷発射管を構えた。なけなしの三本。今ここで使わずして、いつ使うのか。

 砲声に混じり、圧搾空気の音が響く。魚雷が三本、海中に投入され、敵艦隊へと航走していく。

 命中までにほとんど時間はない。一隻の駆逐艦が艦底から突き上げられ、盛大に弾け飛ぶ。

 

 だが、それが逆に、深海棲艦の神経を逆撫でしたようだ。

 残った四隻が、猛進してくる。距離は最早一千もない。お互いの表情がはっきりと見て取れるほどだ。

 

(――っ!)

 

 無数の赤い瞳。それがこちらを睨んでいる。一瞬、怯んでしまうほどに。

 咄嗟に、睦月は魚雷格納筒のハッチを開いた。魚雷を一本取り出す。深度調定も信管感度もでたらめだ。とにかくそれを投擲する。

 海水に突入した途端、魚雷は問題なく作動した。大丈夫だ、いける。針路の調整は睦月の目測になってしまうが、この距離まで接近してしまえばそれで十分だ。

 

(もう一本!)

 

 さらに一本、魚雷を取り出して、放り投げる。丁度その時、一本目の魚雷が到達した。今度も駆逐艦に命中している。爆沈こそしなかったものの、浸水で大きく傾いて、その場に擱座した。

 

 二本目は外れたものの、睦月は三本目を投げ、これをもう一隻の駆逐艦に命中させた。残るは駆逐艦と重巡が一隻ずつ。

 

 だが、もはや睦月にも如月にも、それ以上深海棲艦の接近を拒む術はなかった。

 魚型の駆逐艦が勢いよく跳ね、大きな口をがっぷりと開く。そのまま、睦月へと降り注いでくる。

 反射的に主砲口を構え、睦月は駆逐艦の口めがけて主砲を放つ。隣の如月も、同じように主砲を撃った。二発の一二サンチ砲弾が駆逐艦の口内に飛び込み、脆弱な部分を破って炸裂する。内側から弾け飛んだ駆逐艦は、爆炎と黒煙を引きずってガラクタになり果てる。

 

 その爆炎の中から、ネ級が飛び出してきた。駆逐艦とは違い、とても人間に似た――艦娘に似た姿をしている。人型のネ級がこちらを睨み、白い腕を伸ばした。

 主砲の装填は間に合わない。その手を振り払う術はない。主砲を投げ捨て、睦月はネ級の手を受け止める。

 後ろに倒れ込む。海水に浸かり、冷たさが背中を伝う。

 見上げる形になったネ級の顔が、はっきりと見えた。髪が片目を隠し、禍々しい左目だけが覗く。その目がジッと、こちらを見つめている。

 

「睦月ちゃっ……ぐっ!」

 

 如月がネ級を排除しようと試みた。だが、尻尾のようになっている艤装によって、吹き飛ばされてしまう。横目に、吹き飛んで海面を転がる如月が見えた。

 ガシャン。機械的な音と共に、ネ級が主砲を構えた。三連装砲塔の砲口は、真っ直ぐに睦月を向いている。

 万策は尽きた。避ける術はない。がっぷりと組み伏せられている今、睦月にできることは残されていなかった。

 数秒後には、その砲口から閃光が迸る。砲弾が睦月を貫く。容易に想像の付く未来に思い至り、それでもなお、睦月はネ級を見据える。

 ニヤリ。ネ級が笑ったように見えた。

 

 次の瞬間。ネ級側面で強烈な爆炎が続けざまに生じた。砲撃戦を仕掛けた張本人は、倒れた如月に手を貸しながら、ネ級を睨みつけていた。

 夕立だ。連装砲を構え、ネ級を捉えて離さない。

 夕立が動いた。海面を素早く駆け、一息に肉薄する。ネ級の尻尾が砲を構える隙もない。海面を跳躍した夕立は、そのままネ級に飛び膝蹴りをお見舞いした。睦月の上から、ネ級が吹っ飛ぶ。

 

「っぽい!」

 

 夕立の砲撃がネ級に突き刺さる。さらに、如月も発砲した。ネ級がふらつく。

 

「終わりっぽい!」

 

 夕立の声とともに、魚雷が放たれる。夕立の発射可能な魚雷は八本。しかもこの至近距離で、外すわけがない。

 超至近での魚雷炸裂に、睦月は備えた。

 腹から突き上げるような衝撃。水滴が飛び散り、見上げるほどの海水の塊がすぐ側に現出する。夕立の魚雷がネ級に命中したのだ。

 立ち上る水柱の合間に、ネ級の表情が見えた。感情のない虚ろな瞳が、ただただ静かにこちらを見ていた。

 

 その時。

 

「睦月ちゃん!」

 

 如月が叫んで、ハッとする。今撃沈したネ級の方から、魚雷の航跡が伸びてきている。近い。倒れ込んだ今の状態では、回避運動も取れない。

 

 目を見開く。航跡を見つめる。

 

 衝撃は唐突で、さながらこの身が宙に舞うような、そんな感覚さえした。

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