この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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魔闘士の生誕

【sideみんちゃす】

 

 地味っ子ペアを散々苛め倒してすっきりした俺は、用事があるからと教室に鞄を取りに戻っためぐみんと別れ、そのまま一人で学校を出た。

 で、その用事というのは……

 

「闇夜に抱かれて眠るがいい! 吹き荒れろ、裁きの疾風よ! 『トルネ-げふぁあっ!?」

「「「「ぶ、ぶっころりー!?」」」」

「修羅滅砕拳……やたら長ったらしい口上が仇になったな」 

 詠唱を終え上級魔法を俺に向けて放つ前に、紅魔族特有の演出を行っている途中のぶっころりーの懐に入り、無防備な腹に渾身のグーを喰らわせて沈めてやった。

 ただ今俺は、カス軍団こと対魔王軍遊撃部隊(レッドアイ・デッドスレイヤー)に喧嘩を吹っ掛けて、五体一の模擬戦をしていた。

 母ちゃんは急遽仕事が入ったとかで今朝から里を飛び出していったため闘えず、森では教師達が立て込んでるらしいので狩りにもいけないため、闘争本能に身を任せ暇をもて余しているニート共とドンパチすることにしたのだ。

「ぶっころりーが瞬殺……だと……!?」

「馬鹿な……いくらなんでも速すぎる!」

「みんちゃすの奴、いつの間に風の精霊と契約を……!?」

 してねーよ。

「皆の者、ぶっころりーの犠牲を無駄にするな! 今こそ我ら強大なアークウィザードが結束するときだ」

「「「おぉっ!」」」

「くっ……!」

 ニートの寄せ集めとはいえ腐っても紅魔族。流石に五対一では、まともに闘えば勝ち目はない。理由の一つとしてこうして一人をボコっている間に、それ以外の奴らは上級魔法を打つ準備を完成させてしまうからだ。

「「「くらえ! カースド・クリスタルプリズン!」」」

 俺に向かって四つの強力な冷気が襲いかかる。

 頑強さで有名なダスティネス家の血を引いているせいか、俺はアークウィザードにあるまじき物理的耐久力を誇っている。その反面魔法耐久力は特にそこまで秀でているわけではなく、上級魔法など一発でも喰らえば敗色濃厚である。それがまともに闘えば勝ち目が無い二つ目の理由だ。

「くそっ……畜生ぉぉおおお! 

 

 

 なんて言うと思ったか?」

「……え? 何みんちゃす、え、ちょっ何する気!?」

 ……だから俺はまともには闘わない。

 悶絶して蹲っているぶっころりーの首根っこを掴んで-

 

「ニートガード!」

「「「「ちょっ!?」」」」

「え、嘘ちょっと待-うぎゃぁぁああ!?」

 

 迫りくる冷気に向かって放り投げた。哀れにも『カースド・クリスタルプリズン』が直撃したぶっころりーは、それはもう見事な氷像に成り果てた。俺の予想外すぎる行動に呆気に取られ、残りのニート共は硬直している。

 甘い、甘いぞド素人共。お前らがぼーっとしている間も戦況は刻一刻と変化する。敵がどれだけ奇抜な戦術を取ろうが仲間がやられようが、アークウィザードはいかなる問題にもクールに対処しなければならない。そんなこともわからないから、お前らはカス軍団なんだよ! 

「悪鬼羅刹掌!」

「ぶべらっ!?」

 動揺していたのか、高速で接近した俺への反応が遅れたニートAに掌底を喰らわせ、そのまま胸ぐらを掴んで、

夜叉乾坤一擲(やしゃけんこんいってき)!」

「ちょ-うわぁあああ!?」

 ニートB目掛けてぶん投げた。

「お、おいこっちくん-」

「「あぐぁあっ!?」」

 ニートAとBは頭と頭が思いきり激突した反動で、そのままその場に昏倒した。よし、残りは2体…………っ! 

「轟け閃光! 弾けよ雷鳴! 『カースド……」

 ニートCから強力な上級魔法の気配を感じ取った俺は、咄嗟にニートDの背後に周り-

「うわ、な、何を-」

「ニートガード2!」

「ライトニング』! ってちょ待-」

「あばばばばば!?」

 ニートDで防御して事なきを得た。避雷針代わりにされたニートDは黒焦げになり、プスプスと音を立ててその場に崩れ落ちた。よし、これだ残りラストだ。

「お、おいみんちゃす! さっきから戦法が汚過ぎるぞ!?」

「甘ったれたこと言って言ってんじゃねーよ軟弱者が! ひとたび戦場に立てばその場にあるもの全てが己を守る盾であり、同時に敵を切り裂く剣なんだよ!」

「く、くそぉぉおおお! 明らかに外道なのにそんな格好よさげなフレーズを持ち出されたら納得せざるを得ない……! だが俺は負けん! 『ライト・オブ・セイバー』!」

 ようやく学習したのか、長い口上を省いて上級魔法を発動させるニートC。

『ライト・オブ・セイバー』は魔力によって光の刃を構成し対象を切り開く、俺のような特化型を除けば数少ない近接用の魔法である。この魔法を極めた熟練のアークウィザードなら、強力な結界すら引き裂けるほどのポテンシャルを秘めた魔法であり、とてもじゃないが人に対して使う代物ではない。

 何考えてんだこのニート……それで俺が大怪我でもしたら、間違いなく警察沙汰だってわからねーのか? 

 

 

 

 ……まあ、しねーし当たらねーけどな。

「この未熟者が! 10年早いわ! 鳳凰剛健脚!」

「ゲボァッ!」

 滅茶苦茶に振り回される光の刃を悠然とかわして、無防備な腹に渾身の蹴りを叩き込んでノックアウトした。

 俺は日頃から母ちゃんやそけっとと戦闘を重ねているんだ。日頃暇を持て余して食っちゃ寝しているような奴の剣など、恐るるに足らねーよ。

 まあ、ともかくこれで……

 

「しょ――ーり」 

 

 気の抜けた台詞とともに、死屍累々となったニート共を見下ろしながら、俺は利き手を天に掲げて勝鬨を上げた。紅魔族的にはここで格好良く口上でも述べるべきなんだろうが、倒した相手はやはり所詮ニートの集まりのため、どうもいまいち気分が乗らない。

「やっぱ近距離スタートで、かつ手段を選ばなければ五人でも大して苦戦しねーな。かといってまともに闘えば勝ち目は薄いし、遠距離スタートなんてそれこそ自殺行為だしなー……なんかいい感じに拮抗する方法でも無いもんかね?」

 母ちゃんやそけっとのように相手を傷つけることなく勝ちを計算できるならともかく、対人戦闘経験が足りねーこいつらじゃ、俺が勝たねーと怪我させられそうだしな……。

 ぶっころりーを覆う氷をバキバキと砕いて取り除きながら、あーでもないこーでもないと物思いに耽っていると……

 

 カーン、カーンという甲高い音が、紅魔の里に鳴り響く。確かこの鐘の音は緊急事態の際の鐘の音だったっけ? 一体何事かと音の方へ振り向くと……。目に飛び込んできたのは、薄暗い空へと舞い上がる、何百何千のモンスターの群れ。それらが、まるで何かを探す様に四方八方へと散らばっていく。

「なんだこりゃ!? 明らかに多すぎる!」

 そう言えばここのところぷっちんのやつが、邪神の封印がどうたらだの再封印がなんだの言っていたな。この様子だとどうやら再封印は失敗したみてーだが……あんの野郎、失敗した際に用意しているアレとやらが使いたくて、わざと失敗したんじゃねーだろうな……。もしそうなら後日締め上げるとして……

 まあ他の町ならいざ知らず、ここはアークウィザードの巣窟紅魔族の里なんだ。たかが何百何千じゃそこまで大事には至らねーだろう-

 

 

「-っ!?!?!?」

 

 瞬間、俺の全身を電流のようなものが駆け巡った。もしあのモンスター達の目的が、封印されていた邪神とやらを探すことだとして、なおかつ以前俺が立てた大胆過ぎるほど大胆な仮説……めぐみんの使い魔である、黒猫のクロこそが封印されていた邪神だとしたら……

「めぐみんが危ない……!」

 所詮仮説は仮説。特に根拠があるわけでもなく、内容も真っ当な紅魔族でも鼻で笑うだろう妄想一歩手前の仮説である。だが……

「どうしてか、嫌な胸騒ぎがまるで収まらねー……」

 一応筋道は通っている。以前俺が瞬殺した邪神の手下らしき悪魔は、俺にやられる寸前クロを抱いためぐみんに襲いかかろうとしていたし、そもそもクロについても不審な点は多々ある。あんな羽の生えた奇妙な黒猫をこれまで里の中で見かけたことは今まで一度だって無い。それにこの里の外はベテラン冒険者でも手を焼く、屈強なモンスターが多数生息している。ただの黒猫がそれらを潜り抜けてやって来れるとも考えにくい。もしもクロが何らかの理由で力を封じられた邪神で、紆余曲折の末めぐみんに飼われることになったとしたら、あのモンスター共に確実に狙われる。

 紅魔族と言えど俺のように肉体の鍛練を積んでいるものはごく一部、魔法を使えなければただの一般人だ。めぐみんはもう上級魔法を覚えられるだけのスキルポイントがあるだろうが、あの頑固娘が自らの覇道の要となる爆裂魔法習得のために、今までこつこつ貯めたポイントをむざむざ消費するとはとても思えない。少なくとも相当な葛藤と躊躇いが生じるだろう……それが命取りになりかねないとわかっていようとも。

「…………仕方ねーな」

 覚悟を決め冒険者カードを取りだす。退屈で気ままな学校生活にもようやく愛着が出てきたが、未来のライバルに危機が迫っているとなれば覚悟を決めるしかない。スタートすらしてないのにリタイヤなんて断じて認めねー。

 ……それにたった今、こういう事態で真っ先に駆り出されるであろうニート達を私闘でぶちのめしてしまったからには、その責任も取らなければならない。……てめーのケツをてめー自身で拭けないようじゃ、『仁義なき貴族達』のサイガ親分みたいな、真の漢にはなれねーからな。

 スキルポイントを10消費し、身体強化系魔法一式を習得した俺は、

 

「今日この日こそが、我が最強への覇道の第一歩となる! 『パワード』! 『プロテクション』! 『マジックガード』! 『ラピッドリィ』!」

 

 これまで持て余していた魔力を惜しげもなく消費し、日頃から鍛え上げている職業詐欺レベルの身体能力をさらに跳ね上げる。

 

「我が名はみんちゃす! 紅魔族随一の武闘派にして、魔法使いの常識を超越する者! そして……やがては最強へと至る者!」

 

 卒業祝いに邪神のパシリ共! まずはオメーらから血祭りに上げてやる! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは、あははは! アーッハッハッハッハッハ! ファハハハハハ!」

 とんでもなく高揚した気分に任せて、全速力でめぐみんを捜しつつ視界に入ったモンスター共を片っ端から虐殺していく。

「み、みんちゃす!? 警報が聞こえなかっ……あ、スイマセン何でもないです……」

「ここは危険だ! 子供は危ないから家で……見てない、俺は何も見なかったんだ……」

 モンスター討伐に駆り出された里の大人達は俺に気づくと、最初は止めようと口を開くもすぐに何も見なかったようにモンスターへと向き直る。いかにも凶暴そうなモンスター達を、まるで虫けらのごとく潰しまくっているような奴に心配は無用だろう。それどころか今の魔法を覚えて半端無く高揚した俺を、下手に刺激するとロクな目に遭わないと察したのだろう。……そしてその勘は正しい! 正しいとも! 

「ふは、フハハハハハハハー! 素晴らしい! これだ! これこそ俺の求めていたものだ! いかなる敵や困難が立ち塞がろうとも、全てを蹂躙し我が覇道を切り開く圧倒的な力! これこそが俺のフロンティアスピリッツじゃないか!」 

 元々俺には一撃熊程度ならワンパンで沈められる程度の強さはあった。だがあれは力のみで為し得たことではない。……種明かしをすれば、アレは頭部に強い刺激を与えることで、動物共通の弱点である脳を揺らして昏倒させるというもの……つまりあの芸当にはどちらかと言えば、勿論力も重要だがだがそれ以上にテクニックこそが重要なのだ。

 別にテクニックを軽んじているわけではない。母ちゃんに教わった技術だし、勿論それの有用性は認めている。……それでもあまり俺の趣味には合わないものであった。

 だが今の俺なら力任せでも、一撃熊の肉体を紙屑のように引き裂けるだろう。その自信を裏付けるように、俺は自身の倍ほどもある体格の下級悪魔の腕を、力に任せて強引に千切った。さらに俺は驚愕と激痛に喚く隙だらけの悪魔の顔を掴み、そのまま握り潰した。

 大般若鬼哭爪……もともとはただのアイアンクローだったものが、随分とまあ血生臭い必殺技になったもんだ。

 そんな風にしみじみと物思いに耽っていると、猛然と突っ込んできたゴブリンに、こん棒で顔をぶん殴られた。

「……あ”? (いて)ーなこの野郎」

 直撃したのにもかかわらずピンピンしている俺に狼狽えるゴブリンを、修羅滅砕拳で殴り殺す。防御も強化している今の俺なら、低級モンスターの攻撃などわざわざ避けるまでもない。

「おっと、そんなことよりめぐみんを探さなきゃな……やられ専門の雑魚共、死にたくなきゃ俺の行く手に立ち塞がるんじゃねーぞフハハハハハー!」

 高笑いをしながら俺は、再び虐殺の片手間にめぐみん捜索の作業に戻る。身の危険を察知したモンスター達は蜘蛛の子を散らすように逃げ回るが、哀れにも逃げ遅れた奴は皆俺の手によって無惨にも命を散らした。

「うわぁ……流石は白騎士の息子」

「台詞といい所業といい、完全に悪役だなアレ……。魔王軍でもドン引き物だ」

「邪神復活の影響で、今までみんちゃすの内で封じ込められていた(よこしま)なる存在が、とうとう目覚めたのか……?」

「「「それだ!」」」

 何やら外野が引いたりゴチャゴチャ言ってるが関係無い。今日の俺は自分の本能の命ずるまま、ただひたすらに暴虐の限りを尽くすのみよ! 

「……む?」

 ひたすらモンスター達を狩りに狩っていると、俺の視界にあるモンスターが映る。そのモンスターにより俺は一旦冷静になった。

 デッドリーポイズンスライム……ただでさえ打撃が効きづらいスライム系な上、そのボディ触れたら猛毒を浴びてしまうという、これでもかと言うぐらい前衛の天敵モンスターだ。

「ふむ……いくら身体能力を大幅に強化しているとはいえ、流石にこいつに素手で殴りかかるのはマズいよなー……仕方ねー、他の紅魔族に任せてここは退くか……

 

 

 なんて言うと思ったかゼリー野郎が!」

 再び気分を高揚させ、俺は冒険者カードを取り出す。

 

 レベルは19。表示されているスキルポイントは……20。

 

「残念、ほんの一足遅かったな! もう少し序盤で出てきていたら打つ手が無かったが、ひたすら狩りまくったお陰で必要なポイントが貯まったようだ! 見せてやろう……この俺の第三形態を!」

 スキルポイントを5消費し属性付与魔法(エンチャント)を……そして15消費して上位属性付与(スペシャルエンチャント)魔法を習得した。

「『フロスト・ウエポン』からの、紅魔撃滅拳・氷河!」

 両手に冷気エネルギーを纏わせ、デッドリーポイズンスライムをタコ殴りにする。直接触れている訳ではないため猛毒は恐るるに足らず、スライムは俺に殴られた箇所が次々と凍結していく。そして完全に凍結し動けなくなったところで-

「『サンダー・エッジ』」

 上位属性付与魔法を発動し、両手の爪それぞれに雷の刃を形成する。

 上位属性付与魔法は習得にまあまあ高いスキルポイントを必要とし、上級魔法ほどではないが結構な魔力を必要とする割に、全体的に射程が短く後衛職であるアークウィザードの役割と恐ろしく噛み合わないという、爆裂魔法ほどではないが実用性の低い魔法に分類されるものであり……

 

「大般若鬼哭爪・雷轟!」

 

 ……まさに俺が使うためだけに存在するかのような魔法だ。

 防御不可の雷の爪は覆われた氷塊ごと、デッドリーポイズンスライムは崩れ去った。『サンダーエッジ』は対象を斬るのではなく抉るガード不能の刃だが、全身カチカチに凍って脆くなった状態だとこうなる。

「さてと、気を取り直してめぐみんを……お、いたいた。めぐみんに……こめっこ?」

 ようやく見つけためぐみんは、何故か涙目でこめっこを連れて、邪神の墓がある方向から逃げるようにこちらへ向かってきた。モンスターに襲われて、それで怯えて……そんなタマじゃねーよなコイツは。それにこれは恐れているというより…………何があったんだ?


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