【sideめぐみん】
「こめっこ!みんちゃす!あな……、あなた達は、私の最大の見せ場をかっさらうとは、どういう了見ですか!?」
「あやまらない」
「こ、こめっこ!」
「まあ子供のやったことだし、大目に見てやれよ」
「さも自分は無関係ですと言わんばかりに私を宥めてますけど、ことの元凶はあなたですからね!?」
「ちょっとー!二人共、なんでこんな所にいるのよ!?逃げたんじゃなかったの!?しかもなんでみんちゃすまで連れてきたの!?」
「ん?よう、お金で友達を手に入れようとしてたゆんゆんじゃねーか、奇遇だな」
「その言い方やめてよ!?」
その後も次々と舞い降りて来るモンスターから目は離さずに、ゆんゆんがこちらに叫んできた。そんなゆんゆんに、
「この私が、自称ライバルに借りを作ったままで逃げられる訳がないじゃないですか」
「そうそう、いちいち聞かずともそういうのは汲み取ってやるもんだぞ自称ライバル」
「いい加減、その自称ライバルって止めて!?みんちゃすも便乗しない!……それに、私はもう魔法を覚えた本物の魔法使いよ!?なんちゃって魔法使いのめぐみんやみんちゃすとは違うんだから!」
「なんちゃって魔法使い!い、言ってくれますね、中級魔法使いのクセに!」
「中級魔法使いって、紅魔族の出来損ないみたいな呼び名は止めてよ!」
「めぐみんはともかく俺は本物の魔法使いだから。さっき強化系魔法と属性付与魔法をひと通り覚えたし」
「そのスキル構成は後衛職としてどうなのよ……?」
「は?何言ってんのオメー?俺はガッチガチの前衛に決まってるだろ頭大丈夫か?」
「ア・ン・タ・も!アークウィザードでしょうが!」
そんな事を言い争っている間に、先ほどから地上にいた一匹が突如ゆんゆん目掛けて飛び掛かってくる。言い合いながらも視線は逸らさずにいたゆんゆんは、足下のクロを片手で抱くと素早く転がり身をかわす。そして空いた方の手で短剣を抜くと、それを相手に投げつけた。
狙ったのか偶然なのか、ゆんゆんの放った短剣がモンスターの喉に突き刺さる。
「ヒュッ……!」
笛の鳴る様な音を漏らし、短剣を食らったモンスターは、喉を押さえたまま地に崩れ、そのまま黒い煙に変わる。それを見た他のモンスターが、次々とゆんゆん目掛けて滑空してきた。が…
「くりむぞんぱーんち!」
「オラッ」
「くりむぞんきーっく!」
「ウラァッ」
「くりむぞんびーむ!」
「すまんこめっこ司令、ビームは無理」
「えー」
「……今度フェンリルでも狩ってきてやるから」
「わかった、我慢する」
こめっこと合体したみんちゃすが片っ端からブチのめしていく。それを見て空にいる残りのモンスター達も舞い降りてこようとしたが、降りてくるよりも早くみんちゃすが『エア・ウォーク』で飛び上がり、これまた一方的に蹴散らした。 ………みんちゃす&こめっこの超合体ペアが強すぎて、私がでしゃばる暇も無かった。
ここら辺の敵を全て狩り終えると、満足した超合体ペアは悠然と降りてきた、これまでの戦闘で力を使い果たしたらしいゆんゆんはその場で膝をついてうずくまる。
「んー…あらかた片付いたか?」
「そうね、これで……めぐみんが上級魔法を覚える必要はなくなったわね……!」
慌てて駆け寄る私の方を向き、勝ち誇った表情でそんな事を言ってきた。
「……なんて子なのでしょうか。というかゆんゆんは私に、あれほど爆裂魔法を覚えるのは止めろと言っていたのに、一体どういう心変わりなのです?」
言いながら、私はへたり込んでいるゆんゆんに肩を貸す。
「べべ、別に心変わりした訳じゃあ……。今でも爆裂魔法を覚える事には反対だけど、こんな形で夢を諦めるのはどうかと思うし……。そ、それに!せっかく中級魔法を覚えて貸しを作ったのに、アッサリ返されちゃ堪らないから!めぐみんに貸しを作る機会なんてなかったし!」
「その貸しとやらは、魔力を使い果たしてマトモに動けなくなったゆんゆんを、家まで連れて帰る事でチャラになりますがね」
「えっ!?」
ゆんゆんを無理やり立たせ家に運ぼうとする私の前を、こめっこがみんちゃすに指示してクロを保護させた。こめっこが紅い瞳をキラキラさせて、みんちゃすに抱かれたクロをジッと見ているのは、無事で良かったと喜んでいるのだと思いたい。……それにしても、あのみんちゃすをたらしこむとは……やはりこの子は将来大物になりそうな気がする。
「ねえめぐみん!中級魔法まで覚えて助けたのに、私を家まで連れ帰る事でその貸しがチャラだとか、あんまりだと思う!」
「騒がしいですね。魔力を使い果たしてロクに動けない以上、ここに放置されたら新手のモンスターに食われるかもしれないのですよ?つまり私は、ゆんゆんの命の恩人と言っても過言ではないと思われます。……それにその様子だと、私達がみんちゃすを連れてこなければ、モンスターを全滅させるより早く魔力切れで危なかったでしょうし」
「それは……そうだけど、でも………」
私にしがみつく様にしていたゆんゆんが、突然抗議を中断した。その視線の先を追った私も、ゆんゆんと共に無言になる。
「姉ちゃん、羽の生えてるのがたくさん来た!ねえみんちゃす、食べられる?あれ、食べられる?」
「んー…どうだろうなー?見た感じは不味そうだが、調理次第でなんとかいける…か……?」
私達は暗い夜空を埋め尽くさんばかりのモンスターの群れを見上げ、嬉々としたこめっこの声と、みんちゃすの暢気な声を聞いていた。
なんかもう、今日は走ってばかりな気がする。
「み、みんちゃす痛い!靴の先が削れてなくなっちゃう!」
みんちゃすに背負われたゆんゆんが、泣きそうな声で文句を言っている。ちなみにクロは肩車状態のこめっこに抱かれている。
「あー?俺とオメーじゃ身長差があるから仕方ねーだろ、友達できねーのに体ばっかデカくなりやがって」
「身長と友達できないのは関係ないでしょ!?……それにさっきまで飛んでたけど、私を背負った状態じゃあの魔法は使えないの……?」
「別にゆんゆん一人ぐらい増えたところでどうってことねーが……すまんな、魔法習得したせいでさっきまでテンションが異常に上がっててな、調子に乗って必要もないのに湯水の如く魔法を連発してモンスターを狩ってたせいで、実はもうほとんど魔力が……」
「バカなの!?仮にも魔法使い職が後先考えずに暴れて魔力枯渇させてどうするのよ!?」
「う、うるせーな!?お前やめぐみんと違って魔力少ないんだから仕方ねーだろ!?どうせ俺は半端者紅魔族だよ!眼もこんなんだしな!」
「痛たたたたた!?ごめんなさいみんちゃす!?私そんなつもりじゃ…私の腕を払いのけてエビ反りみたいな体勢にするのやめてえええ!?」
「この非常時に、何をやっているのですか!?みんちゃすもこんなときにコンプレックス拗らせないでください!」
魔力が少ないと言っても紅魔族である以上魔法使いの平均は軽く上回っているはずだし、何よりみんちゃすには前衛顔負けの身体能力があるだろうに。そしてその紅と蒼の格好いい眼の何が不満なのだろうか?みんちゃすはゆんゆんほど感性はズレていない筈だが……。
文句を言っている間にも、空を覆うモンスターの群れが、次々と私達の真上を滑空して行く。……なぜこんなにモンスターが集まって来たのだろう?
そんな疑問に答えるかの様に、私達を囲む様にして、空に向かって次々と魔法が撃ち上げられた。魔法を撃ち上げている里の人達との距離は、いつの間にか縮まってきていた。つまり、このモンスター達は集まって来たのではなく、私達を中心として追い立てられてきたのだろう。
「どうやらこの地を中心にして、モンスター達を追い込んでいるみたいですね」
「邪神の墓に下僕達を集めてるって事!?どうしてそんな……。湧き出したモンスターの数が多いから、ここに追い込んでもう一度封印するとか、そんなところかしら?」
「もしくは一箇所に集めてから、火力にものを言わせて全滅させる気かもな」
……なるほど。二人の言う通り、ひとまとめにしてもう一度封印を使うか、もしくはまとまった所に超火力の魔法を放ち、モンスターを一掃する気だろう。となると、一刻も早くここから逃れた方がいい。いいのだが……。
ハッキリ言ってこれだけの数を相手にしては、私が上級魔法を覚えたところで流石に結果は見えている。みんちゃすもこめっこと魔力が枯渇したゆんゆんを抱え込んだ今の状態では、お得意の近接戦闘は無理であろう。
見つからない様にと祈りながら、街灯の下を避け、闇に紛れ進んでいく。
と、そんな中。
「みゃー」
こめっこの手の中で、クロが一声小さく鳴き。……それはとても小さな声だったのにも拘わらず。空を舞うモンスター達が、一斉にこちらを向いた。
モンスター達のその行動に、ピンと来た!
「こめっこ!その毛玉を空高く放り投げてやるのです!」
「何言ってるの!?めぐみんっ、いきなり何を言っているの!?」
「やっととりかえしたご飯なのに、これをあげるだなんてとんでもない!」
「こめっこちゃんまで何言ってるの!?」
「マジかお前。確かにこいつの正体を考えれば、この局面を切り抜けられるだろうが……」
……なんて事だろう。私とした事が、今更こんな事に気がつくなんて!あのモンスター達が我が家を襲撃したのは、恐らくクロを狙ってやって来たのだ
というかよくよく思い返してみれば、学校の野外授業の時もそうだった。あのモンスターは他にもたくさんの生徒がいたにも拘わらず、クロに襲いかかろうとしていた気がする……みんちゃすに瞬殺されたから不確定だが。
ここ最近ちょくちょく出掛けていたこめっこは、邪神を封印する欠片で遊んでいた。
そしてこめっこは、ある日突然この毛玉を連れ帰って来た。それと時を同じくして邪神の下僕が目撃される様になり、クロの鳴き声一つに邪神の下僕達が一斉に反応する。
これらを踏まえて導き出される答えは……
「ああっ、頭が痛い!私の脳が、これ以上は考えるなと自己防衛を始めました……!」
「ねえめぐみん、さっきから何を言ってるの!?こんな状況で現実逃避は止めてよね!?」
「……バレたくないみてーだし、今は黙っててやるか……」
どうやらみんちゃすは既に気づいていたらしい。できればずっと心の内に閉まってくれると助かる。
……しかし、改めて現状を思い知る。
空に舞うモンスター達は、全員こちらに気づいた様だ。もうクロを捧げて逃げたいところだが……。
「とりにくが大漁だね!みんちゃす、たくさんつかまえよう!」
「うんわかった。オメーがこの里No.1だ、間違いねー」
小さく震えるクロを抱く、大物臭の漂う我が妹。そんな妹のキラキラした視線を受けて、私は空を見上げて冒険者カードを手に取った。
「め、めぐみん?」
「………」
みんちゃすに背負われたゆんゆんが、不安そうに小さく呟く。みんちゃすは難しい顔をしたまま黙りこんでいる。
そう遠くない場所からは、空に向けて次々と魔法が放たれている。
上級魔法を覚え、私が時間を稼ぐのだ。この距離で空に魔法を放てば、きっとすぐに大人達が駆けつけてくれるだろう。
「姉ちゃんどうした?いつもより目が紅いよ?」
それは紅くもなるだろう。こんなにも気持ちが昂ぶっているのだから。
「みんちゃすは、ゆんゆんとこめっこと一緒にいてください。我が妹とライバルにもしものことがあれば、あなたを許しませんからね」
「……こいつら二人を預かってくれるなら、あの程度の数全滅させられるが?」
「そうなれば私はこめっこと、ついでにゆんゆんを守るために、上級魔法を習得しなければなりませんね。どちらを選んでも同じなら、私はより目立つ方を選びます」
「……オメーらしいな」
空を見上げ、自らの内に秘めた魔力を練り上げていく。一度も魔法を使った事はなくても、体を巡る魔力の扱いは紅魔族の本能で分かっている。
空を舞う邪神の下僕達は、クロを人質にでも取られていると感じているのか、滞空したまま降りて来ない。だがいつまでも見守ってくれている気はない様で、膨れ上がったその群れはたった一つのキッカケがあれば、一斉に襲ってきそうな気配を見せていた。
……たとえば、私が魔法でも放てば、それがキッカケになるだろう。
大丈夫。覚悟は決めた。
「め、めぐみん、なんだかこっちの様子を見てるみたいだし、このまま大人達が来るまで待った方が……!」
後悔もしない。頑張れる。
「姉ちゃん。目が……」
クロを抱いたこめっこが、不安そうな表情を浮かべ私を見上げた。大丈夫、とばかりに頭を撫でる。そして、意を決して上級魔法を覚えようと冒険者カードを手に取ると……。
私はカードを見て一瞬固まり、
そして思わず笑い出していた。
「ど、どうしたの!?めぐみんってば、とうとう本気でおかしくなっちゃったの!?」
「姉ちゃんがこわれた!」
「くっ……!俺達がついていながら……!現実って奴は、どこまで残酷なんだ……!」
「し、失礼な!三人して何を言うのですか!特にみんちゃす、何ですかその大袈裟過ぎる小芝居は!?」
三人に言い返しながらも、私は自分のカードから目が離せなかった。
スキルポイントが貯まっていた。
爆裂魔法を習得するのに必要なポイントが。