この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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旅立ちの日②

【sideみんちゃす】

 

 何時何時(いつなんどき)誰からの挑戦でも受け付けることをモットーとしている俺は、唐突に申し込まれた(俺がうろ覚えだったせいでもあるが)ゆんゆんからの果たし状を快く受諾した。で、結果はというと……

 

 

「あ、あうぅ……」

「んー、まあこうなるよな……」

 ゆんゆんを地面に組伏せた状態で、俺は思わず溜め息を吐く。

 ご覧の通り俺の圧勝。

 アークウィザードとしてのゆんゆんの実力は、習得したスキルが中級魔法とはいえ本人の魔力量は紅魔族の中でも膨大なため、中級魔法にしては侮れない威力を備えている。さらにめぐみんとは違って体育の授業も欠かさず行っているので、体術も後衛職にしては中々のレベル。総じて、アークウィザードの割にやや火力不足だが能力バランスが良く、低レベルにしては優秀な魔法使いと言える。

 ……が、上級魔法とソードマスター顔負けの剣技を併せ持つそけっとに匹敵する俺と闘うには、どう贔屓目に見ても力不足であると言わざるを得ない。体術も俺からしたらはっきり言って未熟だ。以前こいつはちょむすけを盾にされてめぐみんに負けてたが、あんなもん首を刈るなどちょむすけを避けて仕留めれば良いだけだしな。

「やれやれ、やっぱりこうなりましたか……だからやめておけと言ったのに……」

「あん? ……よーめぐみん、おはよ。髪切った?」

「切ってません」

 ゆんゆんを解放して一息つかせていると、呆れたような表情を浮かべためぐみんが物影からあらわれた。台詞から考えるに今来たばかりではなく、俺達の闘いを影で見物していたらしい。

「め、めぐみん……」

「だから無謀だと言ったでしょうが。みんちゃすは同年代で唯一この私と対等な紅魔族、半人前の中級魔法使いのあなたに勝ち目はありませんよ」

「対等って……ネタ魔法しか使えないめぐみんじゃ私より勝ち目無い……痛い痛い! 髪を引っ張らないで!?」

 んー……残念だがゆんゆん、俺からしたらお前よりかはネタ魔法使い(めぐみん)の方が怖いからな。流石に射程ギリギリの距離から詠唱されたら止められないし、爆裂魔法を見てから避けるのは無理だしな。……ま、易々と間合いを取らせてやるつもりもないがな。

「……つってもゆんゆんよー、めぐみんの言う通り少し無謀だぜ? 前衛と後衛のタイマンなら、明らかに前衛が有利なのは明白だろ?」

「担当ポジションからして、相変わらず魔法使いらしさが欠片もないね……ねぇみんちゃす、どうしてそこまで近接戦に拘るの?」

 これまでに何度も投げ掛けられた質問を、改めてゆんゆんに聞かれた。いつものように理由の言いたくない部分を省いて伝えて煙に巻いてもいいんだが、この二人に隠し事をするのはどうも気が引けるので、俺は家族以外に初めて近接戦に拘る理由を打ち明けることに決めた。

「んー……理由は主に3つかな」

「……3つ? 殴った方が早いからと以前言ってたじゃないですか」

「それはその内の1つだ。チマチマ詠唱唱えたりするより、直接ぶん殴った方が手っ取り早いしスカッとするからなー」

「紅魔族にあるまじきことを言いましたよこの男……」

「発想が脳筋過ぎる……」

 まあ全員がアークウィザードの紅魔の里では、この考えは邪道中の邪道だろうな。

「続いて2つ目だが……せっかく生まれつき固くて強い肉体なんだ、魔法一辺倒なんて勿体な過ぎるだろ」

「そういえばみんちゃすには貴族の血が半分流れているからか、元々身体能力が高いんでしたっけ。……ちなみにレベル1のときは、どれくらいのステータスだったんですか?」

「どの上級前衛職にも問題なくなれたな、うん」

「さ、流石は『白騎士』の子……」 

「あんな突然変異の化け物と一緒にしないでくれ」

 何しろ母ちゃん、物心ついた頃には初心者殺し程度なら狩れてたらしいからな……俺はそこまで人間やめてなかった。

「それで3つ目はなんなんですか?」

「才能の欠如」

「は?」

「……」

 めぐみんは訳がわからないといった表情になり、事情を知っているゆんゆんは気まずそうに目を伏せる。

「このことは家族を除けばゆんゆんしか知らねーが、オメーなら信用できるから教えてやる。……俺は最初からアークウィザードだったわけじゃねーんだよ」

「……え? いやいや、そんな筈はありません。紅魔族は皆初期レベルでもアークウィザードに就け-」

「だから、才能が欠如してるんだよ」 

 めぐみんの台詞を遮り、俺は蒼い方の瞳を指差しながら自嘲気味に呟く。

「冒険者カード作ったのお前らは12歳になってからだが、ちょっとした事情で俺は11歳のときでな……混血だからか知らねーが、知力はともかく俺の魔力量は紅魔族にしてはかなり少なく、最初からアークウィザードにはなれなかったんだよ。幸い必須の数値までもう少しだったからレベルを3まで上げたら転職できたが、アークウィザードとしての資質はお前ら二人には勿論、あるえやねりまき、ふにふらやどどんこにすら劣ってるってことだ。……笑っちまうよな、最強のアークウィザードの血を引いてる奴が、正当派魔法使いとしては紅魔族で誰よりも落ちこぼれなんだからよ」

「えっと、その……」

 どうしていいかわからず慌てるめぐみんを、俺は笑いながら手で制す。

「おっと、同情の必要は無いぞ? 確かに当時は塞ぎ込んだり、ゆんゆんに秘密を暴かれたり苛められたりしたけどな」

「私そんなことしてないよね!? 適当なこと言わないで……め、めぐみんもそんな軽蔑したような目で見ないで!? してないから!?」

 実際は堪えきれず泣き出していたところを、たまたま出くわしたゆんゆんに慰めてもらったわけだが……これをめぐみんにカミングアウトするのはちょっとなー……ごめんゆんゆん、この場を誤魔化すために犠牲になってくれ。

「はいはいその辺でストップ、少々脱線したけど話を戻すぞー」

「誰のせいで脱線したと思ってるのよ……」

「都合の悪いことには耳を貸しません。まあそんな訳で、真っ当な方法じゃ最強のアークウィザードなんて到底なれねーことを、大分早くに知ってしまったわけだ。だからこそ俺はこの道を……魔力を用いて近接戦闘をさらに強化する闘い方を選んだ。たとえ邪道と言われても構わん。道無き道を切り開き、最強の座へと邁進する覇道……それこそがフロンティアスピリッツだからな。選んだ道は違えど、同じ志を持つオメーらならわかるだろ?」

「わかりますとも! たとえどこの誰にネタ魔法だなんだと馬鹿にされようが否定されようが、そんなことは微塵も関係ありません! 爆裂魔法こそが究極の魔法であることを、我が生涯を賭けてでも証明する……それこそが私の覇道なのですから!」

「えっと、その……盛り上がってるとこ悪いんだけど、めぐみんはともかく私はフロンティアスピリッツなんて持ってないと思うんだけど……」

 俺の熱気にあてられ双眸を輝かせながら決めポーズをとるめぐみんとは対照的に、何のことだか見当が付かないといったゆんゆん。やれやれ、なんでこいつは自身のフロンティアスピリッツを理解してないんだ? 

「何言ってんだゆんゆん、わざわざ中級魔法から取得する拘りの、どこがフロンティアスピリッツじゃないと言えるんだ?」

「わざとだよね? 知った上でからかってるんだよね? 最初から中級魔法を取得しようとしてたわけじゃないからね!?」

「ゆんゆんの訳のわからない変なセンスも、今思えばフロンティアスピリッツと言えるのかもしれませんね」

「訳のわからない!? というかめぐみん、アンタ絶対フロンティアスピリッツって言いたいだけでしょ!?」

 ふと思ったがこの三人が集まると、高確率でゆんゆんが弄られる流れになるよな。

 

 

 

 散々弄られたことで涙目になって怒るゆんゆんを、二人で協力してどうにか宥めることに成功し、しばし休憩を挟んだのち。

「……んじゃ、そろそろ行ってくる。俺は先に旅立つけど、オメーらも早く追いついてこいよ」

「当然、すぐにでも追い抜いてやりますよ」

「はっ、言ってろ」

 そう簡単に追い抜かれてたまるかよ。

「いや、私は旅立たないからね? 族長になるための勉強とかもしなきゃいけないし……」

「ああ、そうだったな」

 何だかんだ言ってめぐみんと同時期辺りに旅立つ光景が目に浮かぶな。……つーか勉強云々言うなら、こいつはもう少し世間を知った方が良いよな……マジでチョロいし。

「あ、待ってください。まだ私達からの餞別を受け取ってませんよ」

 里の門へと歩き出した俺を、めぐみんがそんなとんちんかんなことを言って引き留めた。

「……あー? ゆんゆんはふにふら達に貰った眼鏡に資金を出したって聞いてるし、俺はクソ貧乏のオメーん家から搾取する程外道じゃねーんだか?」

「いちいち腹の立つ言い方ですね……勿論、高価なものではありませんよ」

「じゃあひょいざぶろーさんの産廃シリーズか? オメーそれ餞別ってか、ガラクタ押し付けてるだけじゃねーか」

「違いますよ!? さっきからなんなんですかあなたは! いちいち喧嘩売らないと会話できないんですか!? 冒険へと旅立つことなく我が魔法へあの世に旅立たせてあげましょうか!?」

「やれるもんならやってみろこの一発屋が。一言でも詠唱を唱えた瞬間に地に沈めてやる」

「誰が一発屋ですかこの脳筋が!」

「や、やめなさいや二人とも。しばらくお別れなのに最後にそんな幼稚な喧嘩を-」

「「ぼっちは黙ってろ!」」

「わ、わあああああ――ーっ!」

 第二ラウンド、開始。

 

 

 

「それで、結局何を用意したんだよ?」

 卒業生三人の醜い争いを終え(結果? 勿論俺が勝った。貧弱な後衛職二人が俺に勝とうなど10年早い)、地面に横たわる二人を助け起こしながら再び問いかける。

「この男ホント傍若無人ですね……なんだか餞別を渡すのが嫌になってきました」

「そうだねめぐみん、苦労したけど渡すのやめとこっか?」

「じゃあいいや」

「「えぇっ!?」」

 興味を失い踵を返す俺を、慌てたように二人が引き留める。

「ごめん! 嘘っ、嘘だから! ちゃんと渡すからーっ!」

「これを製作するのに、私達結構苦労したんですよ!? 少しくらい興味を持ってください!」

「オメーらの魂胆なんて見え見えなんだよ。大方渡すのを焦らすことで、さっきの件を謝らせようって考えてたんだろ。残念だが俺は権力にも力にも脅しにも屈しねーからな。渡すつもりがあるならさっさと出せ」

「……そんなんだから横柄が服着て歩いてるとか言われるのよ……」

 ゆんゆんの耳が痛い苦言はまたもスルーして、俺はめぐみんが渋々取り出したブツを受け取る。

「こいつは……紅魔族に古くから伝わる魔術的なお守りか」

「……里全員の髪の毛を集めました」

 ムスッとしためぐみんから、耳を疑う追加情報を受け取る。

 こいつは強い魔力を持つ者の髪の毛が入ったお守りで、持ち主に降りかかる災厄から身を守るとされている。

 ……それにしても、里全員か。個人主義のめぐみんとコミュ障のゆんゆんが、里中の人間から集めて回ることの大変は想像に固くない。

 俺は不機嫌そうな二人へと近寄り、

「めぐみん、ゆんゆん」

「なによ……っっっ!?」

「なんです……っっっ!?」

 

 二人まとめて思いっきり抱き締めた。

 

「な、なななな何を……!?」

「あ、あぅあぅあぅ……!」

 目を含めた顔全体が真っ赤に染まった二人の耳もとに顔近づけ、取り繕わない本心を二人に打ち明ける。

「さっきはごめんな二人とも、湿っぽい別れは苦手だからついからかっちまってさ。それと……ありがとな。オメーらの優しさは十二分に伝わったよ」

 そして二人を解放するも二人はしばらく顔を真っ赤にして硬直したままだった。

 ……いや、いくら思春期間近だからって動揺し過ぎだろ。どんだけウブなんだよこいつら……百歩譲ってチョロいことに定評にあるゆんゆんはまだしも、お前もかめぐみん。

 やがて復活した二人は、何故か俺に向かってジト目を向けてきた。

「……みんちゃすの馬鹿、色魔」

「天然ジゴロも大概にしないと、いつか誰かにさされて死にますよ?」

 加えて面と向かって失礼なことを言われる羽目に。なんだこいつら、喧嘩売ってんのか? 第三ラウンドいっとくか? ……やめだやめ、キリがねー。普段ならシバいてるが、旅立ち前だから今回だけは見逃してやるか。

 

「……じゃあな、二人とも。俺は一足先にこの地を旅立つ。次にオメーらと会うときは…………冒険者の高みだ。そこで俺は待っているぞ」

 

 

 

 

 やがて里の門まで到達し、玄関をくぐるかのごとき気軽さでその門を越える。

 親しい奴らとの別れは全て済ませた。もうこの里に未練は無い……我ながら交遊関係狭いなー……。まあクラスメイトの大半からは避けられてたし、仕方ねーか……。

 そんな風に自虐しながら歩いていると、

 

「みんちゃす!」 

 

 聞き覚えのある声に呼び止められ、ビックリして俺は振り返る。声のした方向の先……里の門には声の主である、いつのまにか帰ってきていた我が母『白騎士』アステリアと、

 

 めぐみん、ゆんゆん、あるえ、ふにふら、どどんこ、ねりまき、かいかい、さきべりー……クラスメイト全員がいた。

 

「「「頑張れ、みんちゃす!」」」

「ひたすら貴様の覇道を突き進め! ……もし挫けそうになったとしても貴様の背には、私達がついていることを忘れるな!」

「! ……。……ははっ」

 俺はあることを堪えながら母ちゃん達に背を向け、利き腕を伸ばし親指を天に突き上げながら再び歩き出す。

 

 

 今日この日こそが、俺が最強のアークウィザードになる第一歩だ。

 

 

 第0章・完

 

 

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